炎の日 ◆DNdG5hiFT6



時計の短針が水平に傾く頃、デパートに向かう影が二つあった。
蒼い槍兵・ランサーとそれを追うリザ・ホークアイの姿だ。
だがその差は時間と共に開いていく。
リザも軍人である以上体力のあるほうだが、太古の英雄とは比較するだけ無駄と言うものだ。

それでもリザは急ぐ。
彼が先に大佐と会ってしまえば、そのまま戦闘に突入するだろう。
そして最悪の場合、誤解したまま戦闘に突入し――
最悪の想像が脳裏をよぎるが、頭を振ってその想像を掻き消す。
今は一刻も早くあの男に追いつかないと。
決意を新たに、リザはスピードを上げる。

だが、その願いは早々に叶えられることになる。
暫く進んだ道の中央で、ランサーが待ち構えていたのだ。
『追いつけたら』と言ったのにわざわざ待っていたのはどういうことだろう?
訝しがるリザに対し、ランサーは何かを投げてよこした。
それは手のひらサイズのドラム缶のような何かだった。
だが良く見ると、手を入れられそうな窪みと銃口らしきものが複数ついている。
回転式機関砲(ガトリングガン)……彼女の世界でも研究が始まったばかりのそれをなぜか想起させた。

「俺の荷物に入っていた。貴様にやる。銃の一種らしい。
 ついて早々殺される羽目になったら流石に寝覚めが悪い」
「……これを使って貴方を撃つとは考えなかったのですか?」
「ハッ、そりゃいい。
 ――だったらお前と同じ軍服を着た奴が全員俺の敵になるだけだ」

そう言い残し、青い背中は再び風のように一路デパートを目指していく。

ああ言ってはみたものの、撃つ気はさらさらなかった。
混乱したままの頭でも、銃口を向けた瞬間、容赦なく心臓を貫かれるイメージが明確に浮かんだからだ。
軍人とは違う生粋の戦士――リザが僅かな時間で描いたランサーに対するイメージである。


だが彼の言う事を信じるなら、大佐は殺し合いに乗り、彼の連れに大火傷を負わせたらしい。
しかし、そんなことは到底信じられない。
彼女の知るロイ・マスタングは沈着冷静な様でいて、あまりにも情に流されやすい男だ。
そんな彼が人を襲うなど……悪い冗談にもほどがある。
それにこの場にはヒューズ中佐もいるのだ。
彼と並んだ大佐がこの趣味の悪い戦いに乗る? 
そこまでくると姿を想像することすらできない。

だがそこまで考えて一つの可能性がリザの脳裏に去来する。
もしもヒューズ中佐が大佐の目の前で殺されたら? 
身内に甘いあの人はもしかして……いや、だとしても人体練成を良しとするような男ではない。
だが一方でどれだけ考えてもランサーが嘘をつく理由も思いつかなかった。

「……」

ならば、今は真実を確かめるために急ぐだけだ。
ディパックを背負い直し、手に入れたガトリングガンを右手にはめて蒼い男を追う。
彼方にそびえる炎塔を目指して。


  *   *   *


そして同時刻、未だ炎の燻るデパート前。
そこには現在、巨大な篝火を目印に6人の男女が集まっていた。

1人目、その篝火を焚いた張本人、空賊ドーラ
2人目、酒を捜し求めデパートにやってきた男、神行太保・戴宗。
3人目、愛しい人を蘇らせる為、ゲームに乗った藤乃静留。
4人目、仲間と合流するためデパートに向かったスバル・ナカジマ
5人目、戦いを止めるためにやってきたヴァッシュ・ザ・スタンピード。

その5対の瞳は、今や突如現れた6人目の怪人に向けられていた。
赤い服に上半身を丸々覆う黒い鎧、そして身体の所々に光る銀色の六角形。
一度見れば二度と忘れないであろう異形の姿は、当然ながらこの場にいた面子には見覚えがなかった。

――ただ、一人を除いて。

「アル……君……?」

スバルがそう呟いた瞬間、今にも襲い掛からんとしていた鎧の男の動きが寸前で急停止する。
そして鎧の男が動きを止めたことによって、場には奇妙な均衡状態が生まれていた。
戴宗・ドーラ・ヴァッシュ、静留、そして現れた黒い鎧の怪人――
その異様な三すくみの中心にいるのは間違いなくスバルという少女であった。

全員の視線を受けながら、スバルはその視線を黒い怪人に――いや、より正確に言えばその上半身を覆う漆黒の鎧に向ける。

「……その鎧をどうした」

怪人の身に着けている鎧はかつての仲間のものと酷似している。
だがその仲間は、アルフォンス・エルリックは先ほどの放送で死亡が告げられた。
更に言うならあの鎧の中は空洞であり、そこに人間の肉体が存在するなどありえない。

『アル君が身体を手に入れて、自分を助けるためにデパートにやってきた』
『実はアル君の鎧と同じものが他の人間に支給されていた』
次々と浮かんでくる甘い考えを振り払い、その視線に力をこめる。
だが、男は答えない。

「その鎧を……アル君の鎧をどうして着てるんだ!」

怒号を叩き付けた数秒の沈黙の後、鎧の奥底に光る赤い双眸がスバルのほうを向く。

「……コロして、奪っタ。ソレ以外ニあるというのカ?」

金属を擦り合わせたかのような耳障りな声。
アルの愛嬌のある声とは似ても似つかない不快な声がスバルの神経を逆なでする。

――アル君と同じ鎧(かお)で、その声で喋るな。

一瞬一秒でも早くあの声を黙らせなければ。その姿で喋るのは彼への侮辱に他ならない。
スバルは激情の任せるまま、怪人に向けて一歩踏み出そうとして、
隣にいた戴宗の手によって制された。

「退いてください! あたしは――!」
「……嬢ちゃん、お前さんは戦うな」

その言葉に込められた有無を言わせぬその迫力に、スバルは言葉を飲み込んでしまう。
そこには酒を好む気のいい男はいない。
国際警察機構のエキスパートたる歴戦の戦士の姿だ。

「そんな……どうしてですか!」

自分をこの場に留める男に対し、スバルは正面から疑問をぶつける。
だが返された戴宗の視線に込められた重圧に身体を竦ませる。

「……悪いが、お前さんには覚悟が見えねえ」

端的に突きつけられた言葉にスバルは言葉を失う。

「覚……悟……?」
「そうだ。例えば今ここで俺がいきなりお前に殴りかかったらどうする?」
「え……」
「あくまで例えばの話だ。
 だが、戦えるか? ……いや、お前さんは戦えないだろうよ。
 ついさっき、そこの髪の長い嬢ちゃんと戦ったときみたいにな」

戴宗はもしもこの場でヴァッシュやドーラが襲い掛かってきたならば全力で相手をするだろう。
それはヴァッシュにしてみてもドーラにしてみても同じだ。
ヴァッシュは何としても戦闘を止めようとするだろうし、ドーラは容赦なく殺すだろうという違いはあるだろうが、
どちらも一瞬で頭を切り替え、全力で行動に移すだろう。一片の迷いもなく。

それはスバルにはまだ出来ないこと。
まだ15という若さ故に到達できない覚悟の差であった。

「その迷いはいつかきっと取り返しのつかない事態を引き起こす。
 それが無くなるまで俺の前で戦場に出すわけにはいかねえ。
 ……なぁに、俺に任せとけ! すぐにのして嬢ちゃんの前で土下座させてやるさ」

スバルの肩を軽く叩き、黒い鎧の男に正面から向かう。

「おい、一つ訊いとくぜ。お前さんの名前は?」
「……スでに私ハ死んデイる。死者ニ名前ハ必ヨウない」
「そうかい……だったら大人しく土の下で寝ててもらいたいもんだがな」

ならばもう訊くことはない。戦って、ぶちのめすだけだ。
その頼もしげな背中にヴァッシュが声をかける。

「戴宗さん、約束してください。決して彼を殺さない、と」
「約束はできねえ、が……やってみるよ。嬢ちゃんに土下座させるって言っちまったしな」

それがこの男の最大限の譲歩なのだ。
そう感じ取ったヴァッシュは無言で身を引く。
ヴァッシュは彼の戦う姿を見ていない。
だがそれでも全身から漲る闘気を見れば相当の使い手だと分かる。
それほどの男なら下手に自分が関われば逆に事故を起こしかねない。
ならば彼を信じよう。それに……もう一人、気になる相手がこの戦場(ばしょ)にいる。

「さて……じゃあこっちも始めるとしようかねシズル」

ドーラの言葉に静留は舌打ちを返す。
最初はヴァッシュたちとあの怪人が戦闘に入ったところを見計らい、逃げ出すつもりであった。
だが、それも怪人の予想外の急停止によって目算が狂い始めた。
更には先ほどの会話中も機を見て逃げ出す算段をつけていたが、眼の前の老婆は一瞬たりともこちらから注意を離さなかった。
その様はまさに老獪。
裏を掻き、穴を突く――どちらかと言えば搦め手を得意とする静留にとって、ドーラはやりにくいことこの上ない相手だった。

「容赦はしないよ。アンタは早めに始末しておかないと大変なことになるって言ってるのさ」
「ふぅん、誰がいうてはるん?」
「アタシの中の女の勘だよ! 覚悟おし!」

ドーラがディパックから取り出したのは“じゃがいも潰し(ポテトマッシャー)”と呼ばれる形状の古風な手榴弾。
だが平行世界にて偉人軍団の一人、オットー・リリエンタールが使用したそれは、現在の爆弾と比較しても遜色ない威力を持っている。
勿論それを喰らえば人間など肉片へと早代わりしてしまうだろう。
だがそれを目の前にしても静留の態度は変わらない。
例え相手が何を繰り出そうと生き残り、この場を脱出する――その目的に変わりはないのだから。
むしろそれに大きく反応したのは静留ではなく、ドーラの味方のはずの赤コートの男だった。

「ちょっと待ったぁ! そんなもの使ったらシズルさん死んじゃうじゃないですか!」
「何言ってるんだい! この女はここで見逃せば間違いなく人を殺すよ!
 若いお前さんには分からないだろうがね!」
「――いえ、わかっています。分かっているつもりです……それでも、です」

その琥珀色の瞳に漂ったものをどう感じたのか。
ドーラは大きくため息をつくと爆弾をディパックの中へと戻し、代わりに日本刀を取り出した。

「命拾いしたねシズル。そこの若造に感謝しな」
「それはそっちの都合でっしゃろ? 感謝はしませんえ」

とは言いながらも、静留は内心ヴァッシュに感謝する。
何があろうとなつきを復活させるまで、自分は決して死ぬわけにはいかないからだ。
だが決して油断は出来ない。
赤いコートの男はただの道化ではない。
恐らくは『殺さず無力化する』という戯言を実行するだけの実力を持ち合わせているのだ。
だとしてもここで殺されるわけにも、無力化されるわけにもいかない。
すべてはなつきのために――何としてもこの場を切り抜けてみせる。

そしてスバルを除いた全員が戦闘態勢に移行する。
神行太保・戴宗が拳を構え、空賊ドーラが刀を構える。
ヴァッシュはスタンガンの引き金に指をかけ、静留は薙刀型のエレメントの柄を握り直す。
そして戦闘の開始を告げるかのように、黒い鎧の男が指を掲げる。

「ヨウいはデキたか……? ワたシは……出来テいる!!」

弾かれる指。
それと共に発生した爆発が戦闘開始を告げる鐘となった。


  *   *   *


ビルとビルの間を飛び回る二つの陰。
かたや黒い西洋甲冑を身に着けた男、ロイ・マスタング。
かたやオリエンタルな装いの男、戴宗。
マスタングと戴宗はその戦場を周囲のビル街へと移していた。

(……ちっ、やりにくいぜ)

噴射拳――手足からエネルギー波を放つ神行太保・戴宗のもう一つの特殊能力。
その力を使い加速し、クロスレンジまで詰め、接近戦でカタをつける。
それが戴宗の最も得意とする戦術だった。
だが眼の前の鎧の男は爆炎を巧みに使い、ミドルレンジから先に決して踏み込ませない。
普段相手にしているのが肉弾戦を得意とする敵が多かったせいもあり、どうにもやり難い。

だがそれは対するマスタングも同じだ。
炎とは酸素の燃焼であり、マスタングが操るのは炎そのものというよりもその酸素。
そしてその酸素自体を吹き飛ばす戴宗の噴射拳は、直接的な“盾”となりえる。
故に自分が得意とする中~遠距離戦では致命傷を与えられない。

(ならば……“盾”を使えん状況に追い込むまでだ!)

小規模な爆炎を巧みに繰り出し、戴宗をビルとビルの間に追い詰める。
そして出来た僅かな隙とDG細胞で強化された肉体を使い、瞬時に練成陣を地面に描き、巨大な壁を練成する。

「なんだとぉっ!?」

壁向こうから聞こえる驚愕の声。
袋小路の最後の道を閉ざされ、閉じ込められた戴宗。

――これで準備は整った。
強化された身体能力を駆使し、ビル壁を蹴りあがり、出来た“炉”を上空から見下ろす。
中の戴宗がこちらを見上げるのを確認して、仮面の下で歪な笑みを浮かべる。

「燃え尽キよッ!」

指を鳴らして炎を生む。
それだけで巨大な炎蛇が鎌首をもたげ、作られた人工の洞穴へとその身を躍らせる。
先ほど練成陣で作り出した密閉空間は、言わば巨大な“炉”だ。
例え炎の直撃を逃れたとしても、灼熱の余波が標的を蒸し焼きにする必殺の罠。
本来ならば賢者の石でもなければ出来ないような所業だが、DG細胞によって強化された身体はそれすらも可能にしていた。
しかしロイ・マスタングは知らない。
国際警察機構のエキスパート、そしてそれを統べる九大天王の度胸と力を。

「舐・め・ん・じゃ・ねええええええええええっ!!」

炎蛇を目の前にした戴宗は加速をつけ、その口の中へと身体を投げ込んだのだ。

「何ダと!? 気デモ狂ッたカ!?」

驚愕するマスタング。
だが、次の瞬間炎蛇が内側から爆ぜる。
炎蛇の腹から脱出した戴宗は、殆ど無傷で反対側のビルへと降り立つ。

「ただの化け物かと思いきや色々考えてるじゃねえか」
「そレハこチらの台詞ダよ……舐メてかカッテいタヨウだ」

戴宗のとった行動……あえて内部に突入し、内部で爆発を起こすことで炎自体を掻き消す。
言葉にすればたったのそれだけなのだが、言うほど簡単ではない。
突入と爆発のタイミング、開放するエネルギー量、そのどれかがずれたり足りなかったりすれば、その身体は瞬時に焼き尽くされてしまうだろう。
マスタングは改めて目の前の強敵に注意を払う。

――何にせよ、ここでまた仕切りなおしだ。
タイミングを同じくして再び跳躍し、ビルとビルの間で再びぶつかり合う。
そして先手を取ったのは、

「うおおおおおおおおっ!!」
「「!?」」

二人のどちらでもなく、窓ガラスを突き破り現れた蒼い彗星だった。


  *   *   *


――アルくん、こなたさん、ヒューズさん。

この場所で出会った仲間たち。
3人とも善良で、優しい人たちだった。
ああ言ってくれた戴宗さんには悪いが、彼らを殺したこの男には一撃食らわせてやらないと気がすまない

激情はニトロのごとく、スバルの激情を加速させ戦場へと誘った。
内部から湧き上がる激情は目の前の存在を破壊せよと囁く。
だが自分は時空管理局の局員で、さらにはこの男には訊かなきゃいけないこともある。
男が殺し損ねたであろう人物――ロイ・マスタングの行方を。
窓を突き破ったスバルはそのまま空中へと身を躍らせ、加速を保ったままマスタングへと肉薄する!

「うあああああっ! カートリッジ、ロォォォド!!」

カートリッジを1発消費し、圧縮されていた魔力を開放。
瞬時に魔法陣が展開され、二人の間に蒼白の魔力が収束する。
それは巨星の如く瞬き、周囲の大気の音を咆哮へと変化させた。
そしてスバルは放つ、自身の持つ最大最強の一撃を。

「一・撃・必・倒! ディバィィィィィン……バスタァァァッ!!!」

掛け声と共に零距離から放たれる魔力の彗星が、鎧の男に炸裂した。

ディバインバスター……高町なのはに憧れ、スバルが自己流で習得した必殺技。
しかもゼロ距離で放たれたこれは、自分同様戦闘機人である姉を一撃で無力化した技だ。
無理な体勢で放つためにアレンジを加え左手で放ったが、確かな手ごたえがあった。
故にスバルは勝利を確信する。
プロテクション無しでこの一撃に耐えられるはずもない。

「……興味深イな、そのチから」

だから、光の中から出てきた黒い手にリボルバーナックルを掴まれた瞬間、スバルは対応できなかった。

――非殺傷設定。
物理的ダメージではなく相手の魔力にダメージを与えることで相手を行動不能にする術式。
スバルは鎧の男の爆発を見て一種の魔法であろうと推測した。
だが、マスタングの世界の錬金術とは、スバルの知る魔法とは大きく異なる技術体系に基づいている。
彼らの錬金術は自身の魔力を用いない。
そして彼らの世界の住人は、その身にほとんど魔力を持っていない。
故に非殺傷設定で放たれた魔力弾は、期待された効果をもたらさなかった。

それでも普通の相手ならば、その余波だけで行動不能に陥らせることが出来る。
だが、スバルの目の前にいる男は決して“普通の相手”などではない。
魔術抜きでミッドチルダに比肩する発展を遂げた世界が作り出したオーバーテクノロジー・DG細胞の恩恵によって生まれた“魔力を持たない超戦闘者”。
時空管理局ですら滅多に遭遇しない化け物は、スバルの放つディバインバスターに耐え切った。

しかしそんなことが戦闘経験の浅いスバルにはわかるはずもない。
混乱する頭で理解できたのは、自分の最強の技が破れたという悪夢。
――そして、その悪夢はまだ終わっていない。

黒い手にデバイスを捕まれた瞬間、スバルの全身に怖気が走る。
尊敬する姉のデバイスが、一瞬にして別のものへと変貌してしまったかのような違和感――
いや、まるでのたくる蚯蚓の沢山入った容器に左手を突っ込んだかのような不快感がスバルの本能に恐怖を呼び起こす。
それに従うままに左手を引こうとした次の瞬間、スバルのバリアジャケットは強制的に解除されていた。

「え――」

何が起こったのか理解できない。
バリアジャケットは魔導士の最後の生命線だ。
例え装着者が気絶しようとも、強制解除されることはまずありえない。
だが事実、それは起こってしまった。

続け様に起こった異常事態に呆然とするスバルを前に、仮面の下でマスタングは笑う。
相手が機械であればDG細胞の侵食は容易い。
その能力を使い、マスタングはリボルバーナックルを我が物とし、スバルとのリンクを強制切断させたのだった。
そして同時に同化したデバイス自身から魔術の一端を理解した。
ロイ・マスタングの持つ魔力とは異なる力「錬金術」、
デバイスが内包していた「魔法」、
そして宇宙空間まで進出した機械工学が生み出した「DG細胞」、
本来ならば出会うはずのなかった三つの要素。
それらが合わさることで、マスタングは不可能を可能にした。
マスタングは奪い取ったリボルバーナックルを左手に装着――否、融合させる!

「バリアジャケット……練成ッ!」

カートリッジ排莢と共に彼の想像する強固な鎧、漆黒の大鎧がその全身を包む。
その姿は色の違いを除けばかつての仲間であるアルフォンス・エルリックそのものだった。
驚愕するスバルを前にして、更にもう一発カートリッジを排莢。
デバイスから“読み取った”情報を元に指先まで魔力バイパスを形成。
発生された魔力を収束。人差し指を標的に向ける。
そして未だ呆気にとられた表情をしている少女に向かって、

「イチゲき・ヒッ殺――デモニック・バスター……!」

指先に魔力を収束して、放つ。それはあまりにも単純な技。
だがそれは皮肉にもスバルのものよりも、本来の術者・高町なのはのディバインバスターに酷似していた。

「うあああああああああああっ!!」

カウンター気味に放たれた闇色の魔力光。
スバルは咄嗟に防御障壁を展開するが、放出される魔力の奔流は結界ごと地上へと吹き飛ばした。
自分から離れていく青い髪の少女の姿を見て思う。

――悪くない威力だ。

本来魔力を持たないマスタングが使うにはカートリッジが必要だが、自身の巻き添えを考えずに放てる武器としては悪くない。
“魔法”という新たな力を手に入れたマスタングは、新たな力を手に入れた喜びに酔いしれ、自分の置かれている状況を忘れた。
それは僅かな一瞬――だがその一瞬は、あまりにも大きすぎた。

「てめぇええええええ!」

迫りくる様はまるで彗星――だがそれはスバルの比ではない。
文字通り一筋の流れ星と化した戴宗の拳が腹に叩き込まれる。
腹部に走る鈍い痛みと共に身体が遥か後方に吹き飛ばされるのを感じる。
だがこの程度の打撃、このバリアジャケットさえあれば――

「――おい、これで終わりだと思ってんじゃねえだろうなぁ?」
「!?」

眼前に現れる男の顔。
自分は今、吹き飛ばされているというのに何故!?
その疑問は視線を下にずらすことで氷解した。
この男は足の裏から衝撃波を噴出し、吹き飛ばされる自分に追いついてきたのだ!

「はぁああああああああっ!」

ハンマーのような一撃が顔面に突き刺さり、マスタングの身体の吹き飛ぶ方向が無理やり変えられる。

「まだまだぁ!」

だが戴宗は地面に叩き付けられるより早く先へ回り込み、
更に強烈な一撃をもって、再び上空へと跳ね上げる。

「おらおらおらおらおらおらおらッ!」

悲鳴を上げる暇すら与えられない。
空中をピンボールのように弾き飛ばされながら、胴体に、足に、右腕に、全身に、怒りの篭った戴宗の拳が炸裂する。
カートリッジに圧縮された魔力は決して少ないものではない。
だが怒髪天を突く戴宗の猛攻の前には、一発分の魔力など障子紙にすぎなかった。
そして猛撃を受け続けたバリアジャケットは、ついに修復のための魔力を使い果たし、四散した。

「これで――終いだっ!」

剥き出しになった本体に、トドメとばかりに放たれた右正拳が炸裂する。
最初に練成した黒い鎧も粉々に砕かれ、その勢いのまま水平方向へと吹き飛ばされ、ビル壁に叩き付けられる。

「ガはぁ……っ!!」

肺の空気を無理矢理搾り出させられ、マスタングは理解する。
この戦場には自分たち国家錬金術師よりもよっぽど“人間兵器”という存在に近しいものがいるのだということを。

「……ようやくその面が拝めたな化け物」

ここに勝敗は決した。
その差を分けたのは突如力を手にいれたものと、修練の末に力を手にいれたものの差かもしれなかった。

「ぐっ……」

地面に降り立った戴宗を立ち眩みと疲労が襲う。
螺旋王の設けた“制限”は戴宗の身体能力・能力すべてを低下させた。
その状態で元の世界のような動きをすればどうなるか。
――即ち、オーバーヒートである。
全身に一気に広がる倦怠感と焼け付くような熱――戴宗の身体は限界を訴えていた。
だが、まだ倒れるわけにはいかない。
これからスバルを助けに行かなければいけないし、何より“始末”をつけなければならない。
絶対たる決意を込めて、壁に磔にされた男を睨み付ける。

「……やらせて、もらうぞ」

先ほどスバルの右腕の鎧を“我が物”とした鎧の男。
この男はここでとどめを刺しておかねば、取り返しのつかないことになる。
そんな確信にも似た予感が戴宗の中で膨れ上がっていた。
だからヴァッシュには悪いが、ここでこの男の命を絶つ。その意思と力を右手にこめる。

だがそこで気づく。磔にされた男の口元が、確かに笑みを形作ってることに。

「……お前、何がおかしい」

男は答えない。そしてその視線は自分を決してみていない。
その視線を追った戴宗が目にしたのは未だ燻り続けるデパートの姿。
指を鳴らして炎を発生させる。
『指を鳴らし真空波を発生させる』という類似した能力者がBF団にいる戴宗は、男の異能をそう認識した。
だが男の異能、錬金術は炎自体を操るものではない。
酸素を練成し、着火するというプロセスを経て炎を操るのだ。
そしてこの戦場には最初から、巨大な火種が存在していたのだ。

「スベて――吹キ飛ぶガイイ」

そして、閃光と爆風が全てを埋め尽くした。


   *   *   *


――ギャリギャリギャリッ!

刃同士がぶつかり合い、耳障りな金属音を上げる。
一方のデパート近辺、道路上で戦う藤乃静留は完全に押されていた。
それも当然だろう。
最初から2対1である上、相対するは年季の入った社会の敵に人類初の災害指定されたガンマンだ。
静留も一般的女子高生より戦闘経験があるとはいえ、あまりにも潜ってきた修羅場の数が違い過ぎる。
むしろここまでで倒されてない時点で、彼女は善戦していると言っていい。

「もう諦めて投降するんだ! 悪いようにはしない!」

スタンガンを構えつつ警告するヴァッシュ。
確かにここで投降して後々寝首を掻くという選択肢もある。
だが、それではダメなのだ。
捕らえられれば、自分の荷物は没収されてしまうだろう。
折角手に入れた不死の酒すらも、だ。

――なつきと永遠を生きる。

そのあまりに甘美な誘惑は、静留を駆り立てるに十分な動機だった。
この殺し合いに勝ち残り、なつきを生き返らせた上で共に不死の酒を飲む。
そのためにはここで負けるわけにはいかない。
だがこれ以上の持久戦になれば不利なのはこちらのほうだ。
ここは――賭けに出るしかない。

「……やらせていただきます、よしなに」

自分の持つ薙刀型エレメントに備わる切り札。
刃が蛇腹のように展開、鞭のように変幻自在にしなり、静留の周りを檻のように取り囲む。
触らば切る、寄らば砕く――閉じ込める檻ではなく外界の敵を遮断する茨の檻。

「……」

それを目にしたヴァッシュは無言のまま、スタンガンを放つ。
ヴァッシュから放たれた十字型の物体は一直線に藤乃を目指す。
だが高速で流れる刃はスタンガンの弾を止めるだけに飽き足らず、削り取るように粉砕した。

「ヴァッシュはん、無駄どすえ。
 普通の銃ならともかく、そんなものではこの“結界”は破れまへん」
「……ならお前さんごと吹き飛ばすまでさね」

ドーラの手には先ほどディパックの中にしまったポテトマッシャ―。
狙い通りだ。表情は変えずに内心ほくそえむ。
千日手になれば、あの老婆は一気に決着をつけるために爆弾を取り出す。
その爆発にまぎれて姿を消せれば、とりあえずこの場を凌ぐ事ができる。
だがその行動に異を唱える男がこの戦場にはいた。

「ドーラさん!」
「覚悟を決めな、ヴァッシュ! “紐はいらない”から、5秒で支度しな!」
「!! ……わかりました。お任せします」

その答えに静留は失望した。
静留は愚直な馬鹿は決して嫌いではない。
だからヴァッシュにも多少期待したのだが、所詮は口先だけの男だったと言うことか。

――まあええ、何にしても、今は爆発にまぎれて姿を晦ますのみや。

「行くよっ!」

空中に放たれる棒状の爆弾。
爆発の有効範囲の中に入る前に檻を解除し、後方へ――

「――え」

だが手榴弾は鈍い音を立てて、地面に転がるだけだった。
まさかの不発? 
だが視線を向けたの老婆の顔には勝ち誇った笑みが浮かんできる。

「知らなかったのかい? 爆弾てのはね、紐を抜かなきゃ爆発しないんだよ」

その言葉が意味するのはブラフだということ。
それは人生経験の差か、藤乃静留はまんまと出し抜かれたのだ。
冷静にそのことを認め、体制を立て直そうとする静留。
それは最善の行動で、一瞬で冷静さを取り戻したのは賞賛に値することだろう。
だが、その隙を見逃すヴァッシュではなかった。

「ぐあっ!!」

正確に放たれたスタンガンは静留の細い足を直撃した。
非殺傷兵器とはいえその威力は馬鹿に出来たものではない
×字に身体を捉えられることこそ避けたものの、完全に足をやられてしまった。
――よくて打ち身、下手すれば骨折しているかもしれない。
そしてそれが示すのはもう逃げ切ることは出来ないという、たった一つの事実であった。

「すまない。でも手当てをすれば歩けるぐらいにはなるはずだ」
「やれやれ手間をかけさせる小娘だよ、ほんとに。
 じゃあ捕縛するかね。ドーラ様の縄を抜けるとお思いでないよ」
「彼女を捕らえたら急いで戴宗さんのところに向かいましょう。
 あの鎧の化け物はもしかしたら、あの時の……」

次第に自分に迫る二人組。
だめだ。ここで捕まるわけには……!
ディパックを、ディパックの中からあれを取り出さないと。
二人そろって飲みたかったが、奪われては元も子もない。
だが静留の指がディパックに触れた瞬間、突如としてそれは訪れた。
予想外の方向からの閃光と爆音の波。
光の波に飲み込まれ、3人の意識は光の中へ消えていく。

そしてそれが、三人に共通した最後の記憶となった。


時系列順で読む


投下順で読む


165:召喚 スバル・ナカジマ 189:焔のさだめ
165:召喚 神行太保・戴宗 189:焔のさだめ
165:召喚 ドーラ 189:焔のさだめ
165:召喚 ヴァッシュ・ザ・スタンピード 189:焔のさだめ
165:召喚 藤乃静留 189:焔のさだめ
165:召喚 ロイ・マスタング 189:焔のさだめ
186:蒼き槍兵と青い軍服の狙撃士 ランサー 189:焔のさだめ
186:蒼き槍兵と青い軍服の狙撃士 リザ・ホークアイ 189:焔のさだめ





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