黒き鳥は空を舞う ◆j3Nf.sG1lk



 鳥は舞う。
 自身の姿を誇示するように黒い羽をはためかせ、その絶対的な闇で日の光さえも多い尽くす。
 そこに見えるのは、ただただ暗く、深いだけの闇であり、悪意の塊。
 見る者の希望を蝕み、心を食いつくし、狂気を運ぶ。
 言うなれば、出会うもの全てに絶望を届ける不幸の鳥だ。

 覚えておけ。
 鳥は決して微笑まない。
 自身の目的を果たすまでは決して悪意を薄めたりはしない。

 忘れるな。
 鳥とは決して目を合わせてはならない。
 命が惜しいなら決してその瞳を見てはならない。
 その暗く漆黒の闇と呼ぶべき瞳は、何もかも飲み込む絶望の沼だ。
 己が大事なら、決して目を合わせず、黒き姿にも視線を走らせるな。

 心に刻め。
 黒き鳥は悪意の塊、絶望を届ける不幸の鳥だという事を……。



 ◆ ◆ ◆



 空を歩く黒い塊。
 ゆっくりと、ゆっくりと歩く黒い塊。
 黒い体で太陽を遮り、空を横切る異質な塊。
 それは、一人の人間だった。
 ビシャス。
 チャイニーズ・マフィア「レッドドラゴン」の幹部にして、いずれその組織を自身の悪意で塗りつぶし、その頂点に立とうと目論む闇を背負う男。
 そして、今この場では、目に映る全て者に死を届けるための黒き死神だ。
 見るものに恐怖を叩き込み、圧倒的な絶望を味あわせる、最凶最悪の生き物である。

 ビシャスは空を歩いている。
 空を飛ぶ大きな鳥のように大地に大きな影を落としているその様は、遠目から見たら誰もが自身の目を疑う事だろう。
 だが、しっかりと目を凝らせば、それが本当に空を飛んでいるわけでは無い事は直ぐに分かるはずだ。 
 厳密に言えばビシャスは空を歩いているわけではない。
 ビシャスが立っている場所、それは、一本の太いレールの上だった。
 モノレール、レール上。
 本来は人間が歩く場所ではなく、別の鉄の塊が通過する為に存在する鉄のレールの上を、ビシャスは平然とした表情で歩いているのである。



 金髪の男を殴り殺した後、ビシャスは離れていくモノレールを見送った。
 そして、その鉄の塊を見送りながら、ビシャスは小さく息を吐き、自身の置かれている状況を今一度考え始める。
 端的に言えば、『効率が悪い』という一言に尽きる、という悩みである。

 10時間以上見知らぬ土地で殺し合いを続け、遭遇した人間は僅かに6人。
 その内、死に追いやれた相手は僅か2人。
 そして残りはおそらく70人前後。
 歩いたエリアは僅か端の数エリア。
 未踏エリアは数えたくも無い。

 いくら見つけた端から殺していくとしても、これでは全ての人間を殺しきるまで何日掛かる事になるか……、考えるまでもなく気が遠くなる思いだった。
 人殺しを生業の一部にはしているが、それはビシャスにとってはあくまで一部である。
 ビシャス自身は別に、殺人狂と呼べるほど人の死に狂気的な喜びを感じるをわけではない。
 勿論、絶対的な絶望を押し付けるための闘争に優越感を覚える事もあるが、こうも殺しに体力と手間を取られては溜息の一つも出るというものだろう。
 ゆえに、ビシャスはこれからの事を考える。
 さて、どうするか……、と。


 真っ先に考えたのが、移動手段の確保だった。
 自身が居た場所が角隅だった事もあり、他の人間と効率よく遭遇するには、やはり中央部に向かうのが手っ取り早いと考えるのは当然の成り行きである。
 だが、その為の移動方法が徒歩しかないというのは、マフィアの幹部たるビシャスにはいささか受け入れがたいのである。
 手近に車でも落ちてないかと周囲を見渡したが何も無い。
 地図を見る限り、水族館やドーム球場、果ては観覧車など、明らかに観光をメインにしているエリアのはずなのに、そのどれにも車の陰さえ見つけられなかったのだ。
 これには流石のビシャスも殺戮を楽しむという気概が空回りするというものである。
 仕方ない為、既にモノレールの立ち去った駅へと足を進める。
 そして、そこで更なる溜息を漏らす事となった。



 モノレールのダイヤグラムを見る限り、再びこの駅にモノレールが戻ってくるのが今から2時間も先の話しらしい。
 別に今すぐ動かなければならないわけじゃないが、ここで何もせず2時間過ごすという事に言い知れない落胆を覚えてしまうのも事実だった。

 獲物はまだ腐るほど居る。
 武器も手に入れたい。
 そして、因縁のスパイクとの決着を……。

 ビシャスの中に渦巻く、闘争への微かな欲求。
 それが今のビシャスを僅かながらに焦らせるのである。
 だが、現状は完全な手詰まり。
 先程、一通りレーダーを使って探索をし終え、この付近に誰も居ない事は確認済み。
 本当にやる事が無い。
 なら、モノレールが戻ってくるまでの空いた時間、休憩に回すかとも思うが、別に休憩するほど疲れても居なく、
 むしろ殺し合いという場で何も出来ず立ち止まってる事に苛立ちが募るというぐらいである。
 ビシャスは今一度考える。
 さて、どうするか……、と。



 そして、結論として出た答えが今の現状である。
 地上から軽く見積もって10メートルといったところをビシャスが歩く。
 本来鉄の塊が通るべきレールをビシャスは進む、ただ、中央へ行きたいがために。
 まぁ、言ってしまえば、遠回りしてまで中央へ向かうのは面倒であり、それなら、手っ取り早く最短コースを進む。つまりはそういう事である。

 当たり前の事だが、モノレールが走るためだけにあるレールには、風除けどころか人が歩く為の手摺りなんて物は無い。
 いくら太いレールの上とはいえ、足幅はおよそ50センチほど。
 したがって、足を滑らせればいくらビシャスでも自身が死神の餌食になるのは逃れられない事だろう。
 並の人間なら足を震えさせ、心を折って歩くのを止める。それが普通の人間の神経というものだ。
 だが、ビシャスは違う。
 横殴りの強い風がビシャスの体を撫でようと、踏み出す足が震える事は無い。
 人の感じるべき恐怖など当然なく、その男には、ただただ深い闇しか見えない。
 足取りも一定に、歩く、歩く、歩く……。
 獲物を求め、ただ、歩く……。

 ビシャスという悪意の塊は、つまりはそういう男だった。

 そして、ある地点、丁度『C-3』に入ろうかという地点で放送が流れ始めた。



 ◆ ◆ ◆



 地図に禁止エリアを書き込み、ビシャスは再び歩き始める。
 放送で考える事は特に無い。
 しいて言えば、やはり自分は遅れを取っていると言うことぐらいだろうか。
 この6時間の間に死んだ人間の数は16人、その内自分が殺したのはたったの1人だ。
 別にゲーム気分というわけではないが、自分以外の人間が殺人を強行し、自分以上の戦果を上げている事には、流石のビシャスも僅かながらに焦りを覚えてしまう。
 獲物、武器、スパイク……。
 目的は単純なれど、その場所に至るまでにどれだけの時間と労力を有するのかビシャスは考え、苦虫を噛み潰す様な表情を作った。
 しかし、立ち止まってはいられない。いや、立ち止まるつもりは無い。
 ビシャスにとっては、今置かれた状況も、このゲームも、所詮は自身が今までやってきた事の延長線上でしかないのだ。
 レッドドラゴンに巣食う害虫を一掃し、いずれその頂点に立つ為に、ビシャスは手段を選ばない。
 なら話しは簡単だ。
 今まで通り、自身の野望の為、目的の為、ビシャスは前へと進む。一切の迷いを捨てて。
 そして、再び自身の標的を見定めるように、闇のように黒く染まった心に刻み込むのだ。
 獲物を狩り、武器を手に入れ、スパイクを殺す、と。

 そして、その目的が指し示すように、ビシャスの体は高速道路に降り立った。
 黒く、絶望を生み出す深い闇が、日の光を背に受けてモノレールのレール上から交差する高速道路へと舞い降りるその姿は、
 まさに死神の鎌を持った黒き鳥と呼ぶの相応しく、美しい。
 だが、それも、次の瞬間には本物の死神へと姿を変えた。

 ビシャスの暗く底の見えない暗黒の瞳が、レーダーが指し示す5つの光点を捉える。
 死神たるビシャスがこの反応を見逃す筈が無かった。
 南に固まった4人、そして、東に1人……。
 名前はどれも知らない。
 いや、この際、スパイク以外の名前など限りなくどうでもよく、ビシャスにとって重要なのは、そこに獲物が居るということである。
 冷たく暗い瞳が選んだ標的は、勿論……。



 ◆ ◆ ◆



 アレンビーとキールはミリアから教えられた金田一一という少年と出会うため、ミリアが来たという高速道路の上を歩いていた。
 金田一に遇ったら、高遠の伝言を伝える。
 そして出来るなら、金田一と共にミリア達の待つ豪華客船『希望の船』に戻る。
 その二つの目的を果たす為に、一人と一羽は前へと進むのだ。

 隣を飛んでいる喋る鳥、キールの口説き文句を右から左へと流しつつ、心地よい風をその身に受ける。
 海風が高速道路の中で不規則に方向を変え、アレンビーの頬を撫でているの気が緩むほどに気持ちが良い。
 うーん、と大きく背伸びをし、アレンビーはその心地よさに身を任せたくなる。
 本当にこの場所で殺し合いなんて行なわれているのだろうか?
 そんな事を今更疑いたくなってしまう程に、アレンビーは、ただ目の前にある綺麗な海の姿を横目に見ながら歩いているのである。

 しかし、そんな幸せな時間はそう長くは続かない。
 それは唐突に浮かび上がった。
 ゆらゆらとまるで亡者のように体を揺らし、こちらに向かってくる一人の人間。
 明らかに生気の通った元気な人間の姿ではない。それが遠めから見てもはっきりとわかってしまう。
 一瞬だけ足を止め、向かってくるその男を見つめる。
 相手は気づかない。いや、気づこうとする気配すらない。
 一体なにが……。
 そう思った瞬間、その人間の身体的特徴に心当たりが生まれた。
 近づいてくるその姿、それは少年の姿だ。
 髪を後ろで束ね、あまり身奇麗にしていると思えないボサボサな髪。
 そして、その髪の隙間から覗く表情は、明らかに生気の抜かれた死人のように暗く淀んでいたが、その淀んだ瞳の上に飾られた太い眉毛がある人物を連想させる。
 それは、ミリアから聞かされた金田一一の身体的特徴と酷似していたのである。

「あんたが……、金田一、一?」

 5メートルの距離まで近づいて居るというのに、一向に顔を上げようとしないその少年に向かって、アレンビーが声を掛ける。
 すると、その名前に反応するように、僅かに表情が変わった。

「一で、いいんだよね?ミリアからこっちに居るって聞かされて探してたんだけど……なにかあった?」

 金田一と一緒に行動していた風浦可符香が既に放送で呼ばれていた事は知っていたが、
 それが金田一に一体どういう影響を及ぼしたのかはアレンビーには想像できない。
 ゆえに、ついそんな無神経とも言える質問をしてしまった。

「あ、あ、あ、ああああああ、あああ、あああああああああああああああああ……」

 次の瞬間、目の前の少年が膝から崩れ落ち、盛大に声を上げて涙を流し始める。
 一人と一羽は、それを何も出来ずに見送った。



 ◆ ◆ ◆



 マオは最後に聞こえた金田一の心の声を頼りに南に向かい、途切れていた金田一の声を再び捉えた。
 風浦可符香に与えられた衝撃から未だ頭痛は鳴り止まないが、それでも僅かなノイズだけで金田一の声を聞き取れた事に安堵する。

「アハハ、なんだい名探偵君、君は本当に情け無いねぇ……」

 金田一から漏れる悲痛にまみれた声を聞き、心の底から笑みを零す。

(そう、これだ。
 この悲しみに震える絶望の声は何時聞いてもたまらない……)

 風浦可符香に砕かれかけた精神を悲痛の叫びで潤し、マオは漸くと言った具合に一息つける程度に余裕を取り戻す。
 そして、これからの事をじっくり考え始めた。
 哀れな少年の止めを間違いなくさすために……。

 しかし、その時、マオは取り戻した余裕を再び掻き乱す要因の気配を感じた。
 どうやら、金田一が誰かと接触したらしい。いつの間にか声が三つに増えていた。

(……アレンビー?キール?)

 二人の名前と思わしき単語をギアスで思考の中に受けつつ、他に何か情報が得られないギアスの効果範囲を広げる。
 その瞬間、突然頭痛が酷くなってマオの思考を襲った。

(クッ!)

 浮かび上がったのは言うまでもなく風浦可符香の声である。
 それが、聞こえてくる三人の声と交じり合い、マオの頭をガンガンと叩くのである。
 どうやら、効果範囲の100メートルは変わらないようだが、それを維持しようとすると集中力が乱れ、あの声が聞こえてくるらしい。
 マオは一旦ギアスの効果範囲を狭め、心を落ち着けるために何も考えないようにした。
 そして幾分落ち着いた後、再びギアスを広げる。今度は慎重に。

(クソ、ホント厄介な置き土産を残して行きやがって、あの女!)

 心の中で愚痴を零しつつ、マオは声の聞こえてくる方に足を勧めつつ、声の分析を始めた。
 どうやら、金田一が突然泣き出したらしい。
 アレンビーとキールというヤツ等からは、その対応に苦慮している声が聞こえてくる。
 その関係から、どうやら二人は殺し合いには乗っていないらしいことが分り、そして、無防備な少年に優しい声を掛ける程度には冷静な精神を有している事が分った。

「ふ~ん、どうやら、良い人に拾われたみたいだねぇ、金田一君。
 でもま、その幸運もここまでかな?」

 気が付けば、金田一、アレンビー、キールの3人とマオの距離は20メートル程までに縮まっていた。
 入り口から高速道路に上がり、3人がいる道路の中央からは死角になっている壁際にソッと身を潜める。
 そして、マオは三人の姿を肉眼で確認した。

「やれやれ、君はやっぱり女の子に守られるのかい?どれだけ僕を笑わせれば気が済むのさ」

 アレンビーに慰められている金田一を見つめながら、ゆっくりとその右手に持ったスッテキを持ち上げる。
 そして、ステッキの先にポッカリと開けられた暗い銃口を金田一へと向けた。

「でもまぁ、とりあえず十分楽しんだし、君もう死んでいいよ」

 マオに一部の迷いは無い。
 引き金は、何の躊躇いもなく引かれた。



 ◆ ◆ ◆



 ダンッ!ダンッ!ダンッッ!



 突然響き渡った銃撃音。
 その凶弾は雨となり、標的に向かって突き進む。
 しかし、その銃弾は空を切ることになった。

「ふ~、危ないなぁ~。もう誰さ!」

 見た目は活発そうな青い髪の女の子。
 しかし、その実はガンダムと呼ばれる巨大ロボットを駆るガンダムファイターであり、自身も相当な武道家である。
 当然、銃撃による突然の奇襲への対応は常人より遥かに優れており、遠方から海風に乗せて聞こえてきた微かな引き金の引かれる音に反応するのはある意味必然だった。
 その為、弾丸が着弾する前に、標的となった少年諸共退避することはそう難しくはなかったのである。

「な、なに!」

 驚いたのはマオの方だった。
 思わずそう呟き、つい自身の姿を三人の前へと晒してしまう。

「もう~、危ないじゃない」

 中央分離帯の縁石の影に金田一を隠し、アレンビーは襲撃者の前に立ち、言った。
 その口調はまるで子供の悪戯をたしなめるかのようだった。
 殺されかけたという様子がまるで見えない。

「ク、クソ!」

 当然のようにマオはアレンビーへと再び銃口を向け、引き金を引く。
 しかし、その弾丸が一発たりとも当たる事はなかった。
 速い、速すぎるのだ。
 マオの放つ弾丸はアレンビーの超人的な身体能力の前には無力も等しいのである。
 そうでなくとも、マオは射撃のプロと言う訳でもない。
 ゆえに、一流の武道家からすれば、引き金を引く瞬間も、銃口から弾道を予測する事も容易い事であり、弾丸を食らう理由は何一つ無いというわけである。

「ヤル気なんだね?いいよ、相手してあげる」

 アレンビーの瞳に微かにファイターとしての炎が灯った。
 しかし、それは本当に僅かな火だった。
 アレンビー自身、目の前の男が大した使い手じゃないことは動きを見れば直ぐにわかる事であり、別段本気になるまでも無いと思ったのである。

 ほんの少し力を抑えつつ、マオに向かって駆け出す。
 自分に向かってくる弾丸を尽く避けながら、フェイントを混ぜて跳躍。
 マオの目には、突然姿が消えたように映った事だろう。
 それほどアレンビーの動きには無駄がなく、素人の目には到底追えるものじゃなかった。
 そして、マオに向かって蹴りを叩き込む為に、マオの上空を取る。

「ノーベル!!ストライク!!!」

 気合を乗せた声と共に、蹴りの姿勢を作って急降下。
 足先がマオの体を捉え、確実に意識を刈り取る。
 本来ならそれで終わりのはずだ。
 しかし、結果はアレンビーの予想した当然の結果を裏切った……。

「なっ!?」

 その目にありえない光景を見る。
 アレンビーの瞳が捉えたもの、それは、自分の姿を見失っていると思っていた目の前の男が、笑みを浮かべてこちらに銃口を向けている姿だった。

 ダンッ!

 発射された弾丸は一発、しかし、今の状況をひっくり返すにはそれで十分だった。
 マオの放った凶弾が、空中で突然の方向転換の出来ないアレンビーの左肩に吸い込まれる。

「ッッッッ!」

 ありえない銃撃を受け、蹴りの体制を崩し、そのまま落下し、背中を地面に叩きつけた。
 そして、理解できない事態に困惑し、左肩を貫いた痛みと共に悶絶する。
 幸い、弾丸は体を貫いていたが、それでも明らかに行動に支障をきたす怪我だった。
 直ぐに立ち上がり、戦闘態勢を取れないないのは当然とし、一時的に声すらも失う。
 だが、そこは落ちてもガンダムファイター。
 瞳だけは、鬼のように目の前の男を睨み付けていた。

(そんな、ありえない!)

 アレンビーは目の前の男を睨み付けながら、今起きた出来事を考えていた。
 そもそも、目の前の男は大した相手じゃない、そう思ったからこそ、単純なフェイントで十分だと思った。
 それは確かにアレンビーの驕りといえるかもしれない。
 しかし、今でも確信を持って言える。やはり、目の前の男は大した相手では無い。
 それは、男の立ち居振る舞いや、動きの一つ取っても無駄だらけであり、見る物が見れば一発でわかる物だったからだ。
 では、何故超一流の武道家の繰り出した、単純とはいえ、精密なフェイントを見極める事が出来たのだろうか。
 やはり、それが一番の問題であり、今のアレンビーには理解できない事態だった。



「ハ、ハハハハハっ、ヒ、ヒヤヒヤしたよ、全く、女の子のくせにとんでもない子だねぇ」

 バイザーの男、マオがアレンビーを見下ろし、その手に持ったステッキ型の銃を突きつける。

「おや?僕が何で君の動きを読めたのか不思議って顔だね。教えて欲しい?教えて欲しいかい?欲しいんだろ?」

 アレンビーに追い詰められた事が相当なプレッシャーとなったのであろう。
 嘲る声にも僅かな焦りが含まれ、若干早口にも感じられる。
 しかし、その狂気は本物であり、今直ぐにでもアレンビーを撃ち殺す事に何の躊躇いも無いことは誰の目にも明らかだった。

「良い機会だから教えようかな~。
 僕はね、人の心の声が聞こえるんだよ。
 君が僕に突っ込んでくる前に、『フェイントを入れて跳躍、そのまま蹴りを叩き込む』って声が事前に聞こえてたからね、
 姿を消した瞬間直ぐに対応できたってわけさ。
 どうだい?凄いだろ?凄いよね~、アッハッハッハハハ」

 フラメンコダンサーのように両手の平を自身の耳の傍でパンパンと打ち鳴らし、マオは興奮に任せるままに饒舌になっていた。
 それは明らかにいつものマオの姿ではないが、その事にマオは気づかない。
 ただ、もう完全に勝ったと言わんばかりに笑い声を上げるだけだった。

 そのせいか、今のマオは突然発展した戦闘によりある一つの事を失念していた。
 それは、さっきまで三つだったはずの声が、今は、蹲って震えている金田一と目の前のアレンビーと呼ばれる少女の二つしかなくなっているという事だった。

「テ!メ!ェ!
 なにオレのお姫様を傷物にしてくてんだよ!!!」

 それは、銃撃と同時に上空へ飛び上がり、マオのギアスの効果範囲から逃れていた一羽のカラスの雄たけびだった。
 上空10メートル程からマオに向かって急降下、そして、その鋭い爪先をマオの顔面に叩きつけたのである。

「ぎゃああああああ!」

 突然の一撃にマオは絶叫を上げる。
 しかし、バイザーを掛けていたせいか目は無事であり、それほど深いダメージは無い事が分ると、すぐに襲撃者であるカラスへと銃口を向け、撃った。

「コ、コノッ!」

 何発かの銃声、しかし、宙を駆けるキールはその弾丸を危なげなく避けていく。
 その間、マオの足元から青い髪をした少女がゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「やってくれたね……」

 左肩を撃たれた為、左手はだらりと垂れ下がってはいたが、アレンビーは微かに笑みを浮かべて立ち上がった。
 その瞳は相変わらず力強く目の前の男を睨み付けている。

「……も、もう、諦めな。アンタの負けだよ」

 僅かに息の上がった声でアレンビーが告げる。
 勝負が終わったと思ったマオが不用意にアレンビーに近づいてくれたお陰で、アレンビーにとっては最高の間合いと言うべき距離がマオとの間に出来ていた。
 心を読めると言うのが本当だとしても、常人をも遥かに凌駕する圧倒的な速さで打ち出されるアレンビーの拳を狭いスペースで回避するなど到底不可能だ。
 たとえ、銃撃により何時もより調子が出ないとしても、目の前の素人を打ち倒すのに何ら問題は無い。
 足はしっかりと地面に根付いているし、全身の力も十分みなぎっている。
 フゥと、一呼吸起き、右拳を握り締め、今度こそ目の前の敵の意識を刈り取る為に力を込めた。

「おやすみ!どっかの誰かさん!」
「ク、クソォォォ!!!」

 アレンビーの右拳が下から上へ突き上げるようにマオの腹に飛ぶ。
 それと同時に、マオがアレンビーに向けて再び銃口を向けようとした。
 しかし、それが完了し、引き金を引く前には間違いなくマオの意識は肉体から飛び出しているはずだ。
 今度こそ、当然と言うべき勝利をアレンビーは確信した。



 パン!



 偶然か奇跡か、どっちでも良い、結果だけ言えば、アレンビーの予想は再び裏切られる事となった。



 それは先程まで聞いていた銃声ではなかった。
 当然だ。
 目の前のバイザーの男は撃ってはいない。
 それどころか、未だ銃口はあさっての方向だ。
 この状態で引き金を引いたとしても、何の意味もなくアレンビーに意識を刈り取られる事だろう。
 というより、男は既に意識を失くしていた。失くしている筈だった。
 なぜなら、アレンビーの拳は何の障害も無く男の腹部にめり込んでいたからである。

 では、今聞こえた銃声は何なのか?
 簡単だ、別の襲撃者だ。

 その答えに行き着いた瞬間、アレンビーは慌てて目の前の男の体にめり込んだ拳を引き戻し、自身の体に異変が無いかを調べようとした。
 と、その瞬間、おかしな違和感を覚える。

(あれ?アタシの拳、何で血なんか……)

 目に映ったのは自身の拳を真っ赤に染め上げる見知らぬ血液。
 自分は男の腹を殴ったはずだ、それも気絶させるために威力をある程度抑えて。
 吐血するほど強く殴ったわけじゃない。血なんかで汚れるはずは無い。
 なら、この血は一体?
 その考えに答えを与える為に、アレンビーの視線がゆっくりと持ち上がり、僅かに自分より背の高い男の顔を見る。
 すると、その脳天に綺麗な穴が開いているのを見つける事が出来た。

(え?なに?撃たれたのって、まさかコイツ?)

 次の瞬間、目の前の男がゆっくりと崩れ落ちた。
 気が付けば、男はもう、完全に息をしていなかった……。



 ◆ ◆ ◆



 マオの敗因。
 それは、風浦可符香からもたらされた影響により、ギアスの制御が僅かに不安定になっていた事。
 そして、それを軽視してしまった事。
 加えて、目の前の人間を倒す事に集中するあまり、いつもの冷静さを失ったという事の三点である。

 それゆえに、マオはキールの奇襲を許し、背後から迫っている脅威に気づけなかった。
 それが、マオが二度目の人生を閉じた理由である。



【マオ@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】



 ◆ ◆ ◆



 男が倒れた先、そのずっと向こうに一人の人間が立っているのが見えた。
 それは、言うなれば黒い塊。
 人の姿をした暗黒の象徴である。

「なに、あれ……」

 遠めに見つけた瞬間、何故だかアレンビーの中に理解できない戦慄が走る。
 これまで幾人ものファイター達と激戦を繰り広げたアレンビーだったが、これ程離れて居るというのに銃弾のように殺意を飛ばしてくる相手は初めてだった。
 言うなれば、それは他者に与える純粋なる死のイメージ。
 それを与える為に圧倒的とも言うべき悪意を携えた殺人者。
 それこそ、死を与える為の漆黒の死神とも言うべき存在。
 一瞬にして、そのような冗談めいた形容が浮かんだ程だ。

 男の右手に銃を持ってるのが分る。
 銃口は確実に自分を見つめている。
 “くる!”と思ったときには引き金を引かれていた。
 さっきまで戦っていたバイザーの男とは殺意も技術も桁が違う。
 それは間違いなく、どんな相手をも殺すために放たれた確かな殺意だった。

「ッ!」

 距離もあったた為、その一撃は辛うじて避ける事が出来た。
 だが、先程とは違い、小手先のフェイントだけではあの相手は倒せないと瞬時に理解する。
 銃撃を防ぐような遮蔽物が少ない高速道路上での戦闘な上に、マオから受けた左肩の傷が絶妙な加減でアレンビーの足を引っ張り始めた。
 これでは、避け続けるだけでも何時まで持つかわかった物ではない。
 ゆえに、アレンビーはゆっくりと覚悟を決める。
 目の前の黒い男を倒したいなら、一発や二発の被弾を覚悟してでも飛び出さないと勝てないと言う事を……。




 ◆ ◆ ◆



 キールは正直焦っていた。
 突然襲われた事もそうだが、その襲撃者と平然と戦うアレンビーにどう加勢した物かと考えるだけ考え、行動に移せなかったからだ。
 しかし、バイザーの男の放った弾丸がアレンビーを傷つけた瞬間、キールは何も考えずに飛び出していた。
 理由は分らない。
 可愛い子を傷つけた男に腹が立っただけなのかもしれない。
 だが、それにしても、ここまで自分が短絡的な行動に出るとは予想もしなかった。
 何故自分はあんな考え無しの行動を取ったのだろうか?
 もしかしたら、いつも隣にいる相棒が居ないせいで、どこか調子が狂ってるのだろうか?
 なんでだ?どうしてだ?
 キールの頭の中で答えの出ない疑問符が浮かび続ける。

 だがまぁ、幸いにも奇襲は成功し、アレンビーがバイザーの男を倒す切欠にはなった事を素直に喜ぶべきだろう。
 とりあえずそう考え、キールは勝利者となった我らが愛しのお姫様へと笑顔で近づく為に黒い羽をはためかせた。

 しかし、その瞬間、去ったはずの一難が再びやってきている事に愕然とするしかなかった。
 黒い姿の男がアレンビーに向かって再び銃弾を撃ち放つ。
 それを唖然とした表情で見送るキール。
 一瞬アレンビーに近づくのを躊躇ったが、ここまで来たらアレンビーを見殺しにする気はさらさら無い。
 キールはアレンビーの傍に降り立った。

 しかし、その瞬間、黒い男とは別に、キールの視界はある物を捉えた。捉えてしまった。
 正直、見つけなきゃ良かったとさえ思った。



「あー、もう!!だから言ったってのに!!!」



 そして突然、そんな叫び声が戦場に響き渡った……。



 ◆ ◆ ◆



 小さな黒い影が戦場を奔る。
 一羽のカラス?いや、それは、勇敢なる者の姿だった。

「キール!!!」

 何が起きたか全く分らなかった。
 突然何かを見たキールが絶叫にも近い雄たけびを上げたと思ったら、疾風の如く飛び出し、そして何かを拾い上げると、そのまま天に向かって飛翔を始める。
 その姿を無意識の内に追いかけ、アレンビーはキールの行動の一部始終を見た。

 キールは、その足の爪に可愛らしいぬいぐるみの様な物を掴み、そしてそのまま上空へと飛翔していくのだ。
 それは、見間違い出なければ、さっきまで自分のディパックの中に居たはずの爆弾生物と呼ばれる生き物だった。

(ポル、ヴォーラ……?)

 キールからその危険性を散々聞かされていたアレンビー。
 しかし、アレンビーにはその外見の可愛さから、それがそんな危険な物だとは到底思えなかった。
 ゆえに、戦闘になっても特に気にせず、ディパックと共に放置してしまったのだ。
 ディパックの口が微かに開いていることも気づかず、また、それがどれほど危険な行為かも知らずに……。

 爆弾生物ポルヴォーラ。
 可愛い外見とは裏腹に、岩山を破壊する為に利用できるほど危険な火力をその身に内在させ、
 驚きなどの簡単な衝撃で、その内在エネルギーを破裂させるという、危険極まりない生き物である。
 当然、銃撃戦の真っ只中にあったポルヴォーラが爆発するのは必然というべき帰結である。
 そして、それをいち早く察知出来たのは、唯一危険を知るキールしか居なかったのも、必然といえた。

 加えて言えば、導火線に火をつけたのはアレンビーなのだが、爆発する引き金となったのは、間違いなく黒ずくめの男、ビシャスだった。
 つまり、ポルヴォーラは見ていたのだ、全てを。
 マオの襲撃から始まり、アレンビーが負傷し、また形勢が逆転したところで、襲撃者マオの死体がビシャスによって生み出される。
 その一部始終のうち、ポルヴォーラの爆発へのカウントダウンを速めたのは、間違いなくマオの死体とビシャスの登場である。

 元来、ポルヴォーラは危険などでも何でもない、大人しく優しい生き物である。
 だが、人間達が採掘などでポルヴォーラを利用し始めた為、彼らへの見方が変わってしまい、危険な爆弾生物として認知されてしまっていた。
 心を通わせれば、十分爆発の危険は薄まると言うのに……。
 つまり、事前に明確な対処が間に合っていれば、今回の爆発は防げた可能性も高いのである。
 しかし、何の因果か様々な偶然の流れにより、このような事態になった。
 一人ぼっちで支給品としてこの世界に放り込まれたポルヴォーラの心中はさぞ動揺した事だろう。
 それでも、アレンビーに優しくされて少しは心が落ち着いたが、キールの進言により、ディパックの中で押し込められてしまった。
 そして、戦闘が始まり、優しくしてくれる人間は誰も居ない中、銃声と、死体、そして鋭い殺気を放つ黒ずくめの男。
 これら現実の積み重ねの結果が、今の事態なのである。



 キールは飛んだ。
 その場で爆発されれば、飛べる自分はまだしも、目の前のアレンビーは爆発のエネルギーを体に受け確実に死んでしまう。
 それを十分に理解しているから、キールはアレンビーを守る為に飛んだのだ。
 勿論、付き合いは決して長くは無い。
 命を駆けてまで助ける程、大切な人なのかと問われれば、「イエス」と即答は出来ても心の何処かで本気じゃない自分が居るのも事実である。
 加えて、いつものキールなら、ジンという相棒が傍に居てくれるお陰でそんな無茶な行動も何とかなったのだろうが、今はその相棒も居ない。
 それらは十分キールも理解していたはずだ。
 しかし、頭では分っていながらも体は本能に従ってしまった。
 ナイトがか弱い女の子を助けるのに理由なんて無い、と言うキールの信念の示すままに……。

 もう、キールに冷静な判断をする思考は残されてはいなかった。
 ただ、目の前で自分の惚れた相手に死なれ、自分がみすみす生き残るという構図がどうにも許せ無いと瞬時に考え、飛び出してしまったのである。
 勿論、それが、どういう結果をもたらすかを頭の隅で理解しながらである。



 ポルヴォーラをその爪でしっかりと掴み、出来るだけアレンビーを爆発に巻き込まない為に、出せる限りの最高速度で天に向かって飛び上がる。
 それは、キール自身も信じられないほど速い速度だった。



(あれ?何で、オレ、こんな無茶してんだ?
 ……あー、でも、可愛い子を守って、てのは、やっぱ英雄たるオレらしい――)



 爆発したのはその直後。
 一瞬とはいえ、太陽が二つに増え、けたたましい轟音が響き渡る。

 英雄となった黒き鳥は、そのまま虚空へと消え去ったまま、もう帰ってはこなかった……。



【キール@王ドロボウJING 死亡】



【C-3南端/高速道路上/1日目-午後】

【アレンビー・ビアズリー@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(小)左肩に被弾
[装備]:
[道具]:デイバック、支給品一式、ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:生きてる)
    注射器と各種薬剤、拡声器
[思考]
1:キール……
2:豪華客船に向かいミリアたちと合流する。
3:仲間を集め、螺旋王からアイザックを救い出す。そして目指せ結婚式!
4:豪華客船へとゲームに乗っていない人間を集める(高遠の伝言)
5:悪いヤツは倒す!(悪くなくとも強い人ならばファイトもしてみたい……)

[備考]
※キールロワイアルのアレンビーver.「ノーベルロワイアル」を習得
※参加者名簿はまだ確認していない
※シュバルツ、東方不敗はすでに亡くなっている人として認識している
※ガッシュ、キール、剣持、アイザック&ミリア、ジェットと情報交換をしました
※高遠を信用できそうな人物と認識しています
※チェスの証言を全面的に信用しています。



【金田一一@金田一少年の事件簿】
[状態]:疲労、精神的疲労(中)、自信崩壊、茫然自失、肩に浅い銃創
[装備]:ドーラの大砲@天空の城ラピュタ、リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ6/6)
[道具]:支給品一式、大砲の弾2発、予備カートリッジ数12発
[思考]
1:???
2:俺は無力なのか……
3:誰か助けてくれ……

[備考]
※高速道路の入り口は、最低でも1エリアに一つはあると推理しています。
※アイザックの不死については信用していません。もちろん、ポロロッカ星人であるとも思っていません。



【ビシャス@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:鉄パイプ、ジェリコ941改(残弾14/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実
[道具]:支給品一式、レーダー@アニロワオリジナル、マガジン(9mmパラベラム弾16/16)×1
UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、防弾チョッキ@現実
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し。元の世界に戻ってレッドドラゴンの頂点を目指す。
1:何だ?何が起きた?
2:皆殺し。
3:武器の補充、刀剣類の獲得。

[備考]
※地図の外に出ればワープするかもしれないと考えています



マオとキールの持っていた物は、C-3南端の高速道路上に落ちています。


『ポルヴォーラの爆発』
 C-3とD-3の間のエリア上空に爆発による眩い閃光が走り、周囲にポルヴォーラの爆発音が響き渡りました。
 威力そのものは次の書き手様にお任せします。


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151:鉄の、無敵の、 ビシャス 191:新たなる輝き! 怒れアレンビー
174:Nightmare of Mao マオ
170:さよなら少年探偵 金田一一 191:新たなる輝き! 怒れアレンビー
166:これより先怪物領域 アレンビー・ビアズリー 191:新たなる輝き! 怒れアレンビー
166:これより先怪物領域 キール





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