戦闘機人は電気椅子の夢を見るか ◆ZJTBOvEGT.


クアットロは早足で進む。
回りをきょろきょろと見回し、警戒をおこたらず、きびきびと歩く。
少なくとも、こうしている間は震えも止まる。
恐怖に支配されぬよう、頭脳も同時に働かせるにはこれが最善だろう。
ヴァッシュと合流しなければ。
あのお人好しに、自分を守らせなければ。
そのためにも、先にいた民家を目指して歩いてきたはずなのに。
今見ているこの景色に覚えがないのは何故か…?
気がついたら大きな道路に出ていた。
やや向こうに見えるのは、川と、橋。
少し待て、ここはどこだ?
デイパックから地図を取り出し、回りの地形と合わせて確認してみる。
もちろん、周囲への警戒もおこたらない。荷物を広げるのも、電柱の影に身を隠しつつ、だ。
広げた地図と付近を照合…おかしい、似た地形がどこにもない。
というよりも、地図自体が全然別のものに変わってしまったとしか思えないのだが…
そう首をかしげた二秒後、クアットロは愕然とし、同時に泣きたくなった。
なんのことはない。単に地図が逆さだったのである。
気づいてみれば単純なことだが、この程度のことにすらパニックを起こしそうになるほど
今の自分は精神的平衡を欠いている。それを認めざるを得ないのだ。

(KOOLに…KOOLになりなさい、クアットロ…)

自分の最たる武器は頭脳である。
頭脳が働かなくなったとき、自分の死命は決すると言ってもいい。
DG細胞を植え付けたあの男や、最初に自分を撃ってきた黒服の男を例に挙げるまでもなく、
この殺し合いに参加している人間の大半が、おそらくは戦闘力偏重タイプなのだ。
そんな馬鹿どもを相手に、真正面から戦えるわけがない。
馬鹿を制するのはいつだって頭脳なのだ、謀略なのだ。
だからこそドクターは自分に『聖王のゆりかご』を任せたのだ。
大丈夫、最後に勝つのは自分だ。
失敗をしたならしたで、それを挽回するのもこの頭脳ではないか。
このゲームの舞台には、だまくらかせる人間が、まだ六十人弱も残っている。
さっきのようなバケモノに遭遇しても、駒さえいれば戦える。
だって、自分は戦闘力馬鹿とは違うのだから…
自分で自分を激励しながら、地図の向きを直すクアットロ。
まずはヴァッシュとの合流なのだ。そのために、今の自分がどこにいるのかを把握しなければ。
なんとか気を取り直して、周囲をふたたび見回し始め…
少し高いところで、なにか、光ったものに気がついた。
視線を戻す。
誰かいる、二人…

「が」

次の瞬間、持っていた地図がぶっ飛んだ。
それと一緒に、左肩が丸ごともげて落っこちた。



*******************************



「ライフルを貸して」

川を渡る橋の直前に位置する歩道橋の上にて。
ヴィラルが察知した何者かの接近を、双眼鏡で明確に確認したシャマルの第一声である。
唐突な台詞にヴィラルは少々たじろいだようだったが、そんなことに構ってはいられない。

「あれを知っているのか。人間ではないようだが」

肩からばちばち、少量の火花を発しているのをヴィラルも見逃してはいなかったらしく、素直に疑問を表明してくる。
その通り、あれは人間ではない。というよりも、やはり人間ではなかったと言うべきか。
最近になって機動六課と戦闘した敵の姿を、シャマルもまたよく覚えていた。
あの一味が発揮したポテンシャルは人間のそれではなく、人工的に作られた戦闘用機械人間…戦闘機人のそれとしか思えないものであることも。
そして、あの顔だ。知っている。
ヴィータが言っていたのだ。
あいつのせいで、あたしは冷静さを奪われたんだ、と。
レリックと一緒に保護した子供…ヴィヴィオが乗ったヘリを狙撃することをあえて予告し、
ヴィータの精神に揺さぶりをかけた卑劣女が、今ここにいる!

「あれは裏切り者よ」

声のトーンをつとめて落とし、シャマルは言った。

「魔法の力を賜りながら、螺旋王に仇をなす裏切り者よ。
 私の仲間も、何人もやられたわ」

ひとつ言葉を続けるごとに、シャマルの怒りは累乗的に倍加しつつあった。
どうして、あんな奴が生き延びているのだ。
キャロとエリオがすぐに殺されてしまっているのに、
どうしてあんな奴が一分一秒も長く生き延びているのだ。
…そうだ、お前のような奴がいるから、キャロとエリオは死んだのだ。
死ななければならないのはお前なのだ。
すぐ死ね、ただちに死ね。
主はやてのために死ね。六課のみんなのために死ね。
死にたくないのなら、私が殺してやる。
気づいても殺してやる。気づかなくても殺してやる。
向かってきても殺してやる。おびえて逃げても殺してやる。
東西南北どこに行こうが、お前の終着点は地獄の業火の中だけだ。
その中に、私が今すぐ、放り込んでやる。
はい上がってきたら、叩き落としてやる。

「ライフルを貸して」

再度の要請に、ヴィラルは足元にワルサーWA2000とその予備弾倉を置いて応え、

「怒りで手元を狂わせるなよ。
 俺は前に出ておく。他にも敵がいるかもしれん」

それだけ言って、歩道橋から飛び降りていった。
片手に大鉈を携えた彼を見送ってから、
シャマルは言われた通り慎重に、重い銃身を操って狙いを定める。
標的が全身を使って回りを見回し始めたのは、今まさに撃つ瞬間だった。
引かれた引き金は止まらない。
心臓を撃ち貫くはずだった弾丸は標的の左肩に吸い込まれ、
もとから損傷していた部分を完全破壊し脱落させた。



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「か、かた、た、かた、が…」

なぐられるような衝撃で横倒しにされたクアットロが路上に見たものは、
ついさっきまで腕がつながっていた部分の、そのまた根本の部位だった。
肉屋で売られる塊のように、ぼとりと丸ごと落っこちている左肩だった。

幸か不幸か、気絶はしなかった。
一瞬、持って行かれた意識は、頭を塀にぶつけたことで戻ってきたから。
この後も生き延びるという自由を偶然にも奪われずに済んだことは幸運と言えようが、
今見ている光景もまた幸運だとは、誰が言えようか。
自分の妙に細く不安定になった肩幅と、路上に転がるそれを交互に見て。

「か、肩がぁぁぁぁ―――ッ?」

流血が噴出するかのように、喉からほとばしり出る声。
恐怖でも絶望でも、痛みからくるものですらもない。
それは単に、状況が理解できぬというエラーメッセージだった。
ただひたすら『衝撃』とでも称すべきものが彼女の頭脳を真っ白に変色させていく。

「やだ、こんなのやだ、あんまりよ、あんまりだわぁ…」

落とした左肩をせめて取り戻そうと前に身を乗り出す。
普段の彼女が、常に愚行をあざけ笑う側にいたにもかかわらず。
果たして、結果は。

「っひぃぃ!」

ロングヘアーが半ばから、ばっさりと落ちた。
後頭部の至近をなにかが通過していったのだ。
それはおそらく、さっき自分の肩をもぎ取ったものだと
クアットロは今度ばかりは感づく。
ごきぶりのように這いつくばって、塀の影にすっ飛んで戻る。
その間に飛んできたもう一撃が、はるか手前の道路を砕き、
もう一撃が、今までクアットロのものだった左肩をばらばらに撒き散らかした。

「わたしの…」

口からだだ漏れになる悲鳴はともかく、
ようやくクアットロは飛んでくる何かの正体を理解した。
そうだ、あれは…ライフルだ!
最初は自分も持っていたではないか。
狙撃して仕留める側だったではないか。
そして、今、狙撃してきた相手を、自分はちらりと確かに見たのだ。
知っている…あれは、シャマルだ。機動六課のシャマルだ。
遠すぎて見えづらかったが、外見的特徴は合致していた。
それにもう一人の連れがいるとなると。

(私のことは知られてる、騙せない…)

絶望した。
あまりの巡り合わせの悪さに絶望した。
逃げる以外にありえない。
どこかに隠れてやり過ごさなければならない。
走っている時間も惜しい。一刻も早く、安全なところへ抜け出るには。
そうだ、飛べばいい。自分には飛行能力があるではないか。
あの黒服の男からもさえ逃げ切った、飛行能力が。
クアットロはすぐさま思案を実行に移し、
宙に飛び上がった直後…右耳がちぎれた。

「っ? ぎぃぃぃっ」

また、彼女の頭脳は真っ白と化した。
自分を明確に狙った一撃が、空へ飛び上がった直後に飛んできた。
それを辛うじて理解しただけだった。
狙いやすい場所にわざわざ姿をさらして、そのまま直線的な移動を行ったのが原因である。
彼女が冷静な傍観者であるのなら、そんな真相にもあっさり気づくことができたであろうが。

予想外を通り越した事態にパニックを起こし、あわてて高度を落とした先は民家の二階。
顔面からガラスを破って盛大に突っ込むと、彼女はあっという間に血まみれになった。
その真正面にあった鏡が、その様を余すことなく彼女自身に伝えていた。

「? ? ? な、なんで、どうして?
 撃たれた? 血? どうして耳がないのぉ?
 わたしの耳どこなのぉ、どこなのよぉ―――っ」

確かに、彼女クアットロは策士であろう。
自らの優位を最大限に生かし、敵につけ込む術を知っている。
だが、悲しいかな。
彼女は、自身が追い詰められる経験に、これ以上なく乏しかったのだ。
ために他人の失敗をあざけ笑うことを趣味にしていられた。
明日は我が身という発想が、根本的に存在しなかった。
ために他人はすべからく、陰険な嘲笑を向ける対象でしかなかった。
彼女は自身が凋落する姿を想像できないのだから。
希代の天才、『無限の欲望』(アンリミテッド・デザイア)ことジェイル・スカリエッティに付与された
巨大なスペックに基づいた無敵の全能感から来る自信が彼女の超強力な基盤であり…
逆を言うと、それしか彼女にはなかった。

「に、逃げなきゃ、逃げ…撤退しないと、戦略的撤退しないと。
 ここは戦略的撤退して、ヴァッシュさんを連れてきて、あいつらを」

なんと滑稽で哀しい姿なのだろう。
この後に及んで、彼女は負けを認めていない。
先ほどのバケモノから受けた襲撃の際に理解したのではなかったのか?
自分はこの場において絶対的強者たりえないと、学習したばかりではなかったのか?
もぎ取ったカーテンと近くにあったティッシュで左肩があった部分の止血を試みながら、
理想的な未来図に思いを馳せて、クアットロは笑う…弱々しくも。

「まさか、建物の中まで、ライフルで狙えるわけないですものぉ。
 それが、それが私の狙い…うふ、ふっふっふっふ」

どうか彼女を笑わないでいただきたい。
そうとでも思わなければ、彼女は闘志を支えていられないのだ。
彼女には、それしかないのだから。
壊れた嘘でも、抱きしめているより他にないのだから。
だが、そのようにして奮い立たせたなけなしの闘志も。

「私には銃もある。この入り組んだ住宅地で逃げ切るには充分…」

背後のドアが破砕される大音響と同時にへし折れた。

「けええああああああああっ?」

怪鳥音のような甲高い悲鳴を響かせたクアットロが振り向いた先には、
一撃のもとに粉砕されたドアが破片となって降り注ぎ…
その犯人とおぼしき何者かが、巨大な鉈を手元に引いて、わずかに残ったドアの外枠を蹴り倒した。
全身のいたる所に包帯が巻かれ、その手足は人間のものではなく、なにか獣を合成でもしたかのようにいびつに節くれ立っている。
その顔が人間のものであったなら…すぐにそうだと確認できたなら、多少は安心できたかもしれない。
残念ながら、クアットロが見たものは、そうではなかった。
なぜなら男の顔面は、可愛らしいハート柄の布地が厳重に巻き付けられていたのだから。
わずかに見えるのはその下より覗く、ぎらりと光る獣の眼だけ。
その眼でクアットロをぎろりとにらむと、底冷えのするような声で、男は言った。

「…ちょこまか動くな、貴様のような輩には、死あるのみだ」
「き、きいいい―――――っ」

きゃー、とも、ひー、ともつかない悲鳴が響く。
あまりに猟奇的な光景に、クアットロは一瞬にして恐慌のど真ん中に連行されたのだ。

直後、続いて振り下ろされた大鉈の一撃を転がるように回避。
持っていた銃…エンフィールドNO2をめくら撃ちで全弾ぶっ放してから窓の外へ飛び出す。
ライフルで狙われる、などと、そのようなことは考えの端にも上らなかった。
ただ、ただ、恐怖から逃れたい一心が行動に直結したに過ぎない。
玄関先に落下し、くじいた足の痛みも無視しながら立ち上がり、走る。
痛い。痛くてたまらない。けど、走らなかったら死んでしまう。
どこを目指しているかなど知るものか。
あの変質者もすぐには追って来られまい。
それまでにどこかへ逃げ込んで、やり過ごしてしまえばいい。
このあたりは入り組んでいる。誰か一人が隠れた家を特定するのも容易ではないのだ。
走って、走って、そろそろ敵を捲いただろうと思ったところで、川沿いの古びた一軒家を隠れ場所に選ぶ。
かつて左肩だった部分から垂れた血は、逃げた際に辛うじて持ってこられたカーテンが吸い取っている。
道に点々と落ちて道標になっている、というような間抜けな事態だけは避けられたはず。
一軒家の中へ滑り込んだクアットロは、まず風呂場に向かってバスタオル多数を確保。
左肩の傷口にそれら全てを当てて、脱衣場にへたり込んだ。

(…頭が、くらくらしますわぁ)

すでに全身が限界を訴えていた。
気力でここまで持たせてきたが、最早一歩も動けはしない。
ここまで来たなら安心だ。傷の手当てをしつつ休息をとり、動けるようになってからヴァッシュを探そう。
他の人間と自発的に接触するのは避けるべきか。二人死んだとはいえ、機動六課はこの会場に六人もいるのだ。
考えてみれば、あの連中が自分のことを警戒するよう触れ回らないわけもない。
そう考えれば…この会場で味方といえる人間は、すでにヴァッシュしかいない可能性すらもある。
あのお人好しだったら、自分クアットロの悪評を耳にしたところで、そう簡単には信じるまい。
そこにつけ込んで利用しよう。あとのことは…ヴァッシュに会ってからだ。
今もきっと、あのお人好しは待っている。突然いなくなってしまった少女の身をマヌケにも案じているはずなのだ。
騙されているとも知らずに。利用されているとも知らずに。
自分の見立てでは、それほど強力な手駒だとも思えないが…
それでも、これ以上一人で居続けるよりは、はるかにマシだ。
とにかく、今は一歩も動けない。ここで休み続けるしかないだろう。
寝息などが漏れないように、タオルをしっかりかぶって寝ればいい。
機動六課のシャマルと、その連れ…今さっきの変質者がここに気づくとも思えないし、
他の参加者にしたって、こんなところにわざわざ寄る意味自体があまりない。
駅が近いのが気がかりではあるが、今はこれ以上、どうにもできまい。
では、体力を回復させようか…
わずかばかりの安心を表情に浮かべた途端だった。

ザリ…ザリ…

足音らしきものが、接近する何かの存在をクアットロに伝えた。
隣の小さな駐車場に敷き詰められた、砂利を踏む音であろう。

(お、落ち着くのよ、クアットロ…
 ここが私の正念場。ここで奴に見つからなければ、勝利!)

むしろ、見つかれば敗北…死ぬ、と言った方がはるかに正確なのだが、
そんな単語を頭脳の端に上らせることさえも呪わしいのだから仕方ない。
不安を増大させて、敵に感づかれたらおしまいなのである。
だから、ひたすらに息をひそめる。
うずくまって亀のようにタオルをかぶり、上目遣いで脱衣場の窓から外の様子を伺う。
そんな見方をしているものだから、外の様子などほとんどわかりはしない。
事実上、足音だけで判断し、足音が去るのだけをひたすら待ち続けるクアットロである。

ザリ…ザリ…

足音が近づく。
うずくまったクアットロの背が、小刻みにふるえ始める。
本人はまったく、それに気づいてはいない。
ただ、耐えて待ち続けるだけだった。

(やり過ごすの、やり過ごすのよ。
 黙ってさえいれば、気づかれるわけがないんだから)

脂汗が、びっしりと浮く。
ひたすら、足音は近づいてくるのだ。
わかるわけがないのに、まるでわかっているかのように。
踏みならされる砂利の音は、重量感を増していた。

(ばれるわけがない、ばれるわけがない)

破裂しそうな心臓と、暴走しそうな両足を必死で説得しながら、
クアットロは足音が通り過ぎるのを待つ。
安心の言葉を呪文のように脳裏に思い浮かべ続け、そして。

ザリ…

足音が離れ、やがて消えた。
クアットロはそれでも警戒を続け、数十秒間、耳をよく澄ませた。
…行ったか。どうやら、行ったようだ。

(やった、勝ったわぁ)

タオルの山から這い出して、窓からそっと外の様子を確認する。
人影らしきものは、確かにどこにも見当たらない。
脅威は去った。クアットロは自らの勝利を確信した。
あとはここで隠れていれば、とくに誰も寄ってくることはないだろう。
体力を回復して体勢を立て直し、しかるのちにヴァッシュと合流。
あの連中への復讐は、その後でできる。
待つのも策士の領分なのだ。
次、相まみえる時には最高の舞台を用意しよう。
むろん、自分が一人勝ちする舞台を、だ。

「うふふ、さようなら、おマヌケさ」

しかし、勝利宣言は途中で遮られた。
突如として響き始めた崩落音が、彼女の言葉を悲鳴に換えた。

「さわああああああぁぁぁぁ――――っ!?」

風呂場が突然爆発した。
細かい破片がクアットロの身体を叩く。
それは爆発というよりも、どちらかというと暴風によってなぎ倒されたと言った方が近いのではないか。
クアットロがそのように思った瞬間、
暴風が彼女の方へと向き始めたのだ!

「ひわわわわ、わひっ…」

脱衣場から瞬時に脱出。その後を追いかけてくる謎の暴風から必死で逃げる。
彼女を捉えようとする暴風は一軒家の壁や天井を一瞬にして粉微塵に解体しながら追ってくる。
無我夢中で走るクアットロの背中に、もうほとんどかすめているような距離で大破壊が発生し続け、
それが彼女に二度目の顔面ガラス割りを強いることとなった。
体当たりでガラスを割って飛び出すなり、一軒家は最後の一部屋まで跡形もなく消し飛んだ。
瓦礫から、盛大な土埃が立ちのぼる。しばらく視界は通らないだろう。
…もう認めるしかない。敵は何らかの方法でこちらを探知して攻撃してきた。
それをどうにかしてごまかさなければ、どこまで逃げても同じ事になる。
ならどうする? このままでは、ここで瓦礫の一部にされてしまう!
今こそ、落ち着かねばならない時。
最後の賭けに出なければならない時なのだ。
今、手持ちのカードでどうにかするのなら。

(そ、そうだわ…)

クアットロは、冷汗混じりの笑みを浮かべた。

(これならいけるわぁ。
 私は優秀で、頭のデキは他のくだらない連中とは数段違う。
 やっぱり最後に笑うのは私なのよぉーっ)

早速、思案は行動に移される。
土煙が晴れるのは、まもなくのこと。



*******************************



(外すな、シャマルは)

そう直感したからこそ、ヴィラルは彼女一人を置いて
敵の追撃にかかったのだ。
あれは裏切り者だという。
裏切り者というからには、キドウロッカの裏切り者なのだろう。
すなわち、螺旋王の裏切り者であり、獣人の裏切り者ということだ。
ならば、この手で処刑する理由としては充分すぎる。
しかし、走る足に力が籠もったわけは、それだけではなく。

(あのような顔は見るに堪えん…)

憎しみに冷たく燃え上がったシャマルの瞳を前に、
いたたまれない気分になってしまったのも確かではあった。
討ち取られた同志の仇を討つのは当然のことだ。
ましてやそれが、裏切り者の仕業ともなれば。
友を、仲間を失った彼女の無念も、十二分に理解できるつもりだ。
つまり、彼女があの敵を討つのに反対する理由などひとつもないのだが…
それでも、料理を差し出した際に見せてくれた健気さ、優しさと、
宿敵を発見した際の怨嗟に歪む表情とを脳内で見比べる羽目になるのはきつかった。
そしてそのやりきれない気分はそのまま、逃げる敵への殺意へと変わった。

(手早くカタをつけさせてもらうぞ)

敵が落下した民家の一階から適当な布地を拾い上げて顔に巻き付けたのは、
目つぶしなどの小細工を一応は警戒してのこと。
確実に仕留めなければ、自分にとってもシャマルにとっても、この先不愉快なことになる。
そう思って一撃で決めるべく室内に突入するも、あえなく逃がしたのは痛恨であった。
狙いも何もつけていない銃とはいえ、至近距離でやたらめったら撃ちまくられては近づけなかったのだ。
だがそれも、ヴィラルにとっては致命的な事態とはなりえない。

(血のにおいと、焼けた機械のにおいだ…
 貴様のにおいは、どこまで行っても目立つなぁ、裏切り者)

人間並みまで機能を落とされたとはいえ、獣人として培った嗅覚は伊達ではない。
シャマルが人間と微妙に違うことをそこから感じ取れたように、
追っている敵の奇妙なにおいの組み合わせも、あっさり探知できてしまうのだった。
やがて、敵の隠れる一軒家に到達した彼は、内部への突入を試みようとして…

(待て…突入は二度目だ。
 裏切り者であるからには卑劣なはず。
 何か罠をしかけているかもしれんな…?)

そこで彼は思いついたのだ。
敵が中でどんな準備をしていようが、まったく関係のない処刑方法を。
彼はおもむろに一軒家を離れ、向かいの家の屋根へと登り、そこに座り込んでからデイパックを開封。
取り出したるは、バルカン砲。
シャマルから聞くに、威力は折り紙付きとのこと。
予備弾は無いから大事に使えとも言われてはいたが、
一刻も早く消滅させたい輩が目の前にいるのならば、否やもないというものだ。
とはいえ、引き金を引いた瞬間から発生する大威力に、さしものヴィラルも少々唖然とした。
これほどのものならば、ガンメン相手にも対抗できよう。シャマルが大事に使えと言うわけだ。
ぼんやりして弾を無駄遣いするわけにはいかないので、引き金を引いたままヴィラルは銃身を横に振った。
撃っていたのはせいぜい二秒ほどであろうか。
たったのそれだけで、今まで立派に建っていた一軒家は、まるで竜巻の直撃を受けたかのように爆散していた。
土煙がひどくて様子が全然見えないが、敵はバラバラに撃ち砕かれただろうか…
バルカン砲は構えたまま、眼をこらし、耳を澄ます。

「悪運の強い奴だ!」

駆け出す足音を逃さず捉えた。
砲身をそちらに向けて、土煙が収まった頃合いに再発射、今度は確実に仕留めるつもりだった。
…が。

「なにっ?」

走って去っていく後ろ姿は、敵のそれではなかった。
それは、なんと。

「シャマルだと? なぜ、ここに…」

いるわけがない。
こんなに早く、シャマルが追いついてきているわけがない。
では、あれは一体、何だ?
何故、自分から逃げていくのだ?
理解できない状況下で思考停止に陥ったヴィラルは、
走っていくシャマルの後ろ姿をただ見送るだけになってしまった。
そして、その直後に見せられた光景に。

「…シャマル―――ッ!?」

ヴィラルは、何も考えずに駆け出した。



*******************************




「か、は…」

絶頂からの転落であった。
せっかく、あの変質者を出し抜いたのに。
IS、シルバーカーテンでシャマルの姿に化けてしまえば撃てないだろうと見抜き、
実際その通りになったのに。
走って逃げたその先には、本物のシャマルがしゃがみ込んでいて。
携えたライフルが火を吹く瞬間が、クアットロにもよく見えた。
右太ももを撃ち抜かれて、なすすべもなく、転ぶ。
もう、走ることもままならない。
それでも、地面の上を這って進む。
すぐそばに川がある。落ちて流されれば、逃れられる。

それだけを頼りに、彼女は芋虫と化すのだ。
狙撃の二発目、三発目が何故飛んでこないのか、何故止めを刺されないのか。
そんなことを考えていられる余裕は、彼女にはない。
だが、背中を捕まえられて抱き起こされれば、さすがに話も違ってくる。
クアットロを腕の中に抱えるのは、さっきの変質者!

「大丈夫か、シャマル、大丈夫か!」
「ひっ、ひいいっ」

思わずその手を全身で振り払ってしまったそのタイミングで、
IS、シルバーカーテンはその効果をみるみるうちに失った。
クアットロ自身の集中力が完全に途切れてしまったためだった。

「うおっ?」

変質者の男も、さすがに驚いたらしい。
クアットロを突き飛ばすと同時に、顔に巻き付けてあったハート柄の布地がはらりとほどけた。
その後ろから、落ち着いた歩調でやってきたのは。

「見ての通りよ、ヴィラル」
「シャマル、お前…」
「こいつはこうやって、私達を騙すのよ」
「…そうか」

再び地面に転がって、自らの身を芋虫としていたクアットロは、
変質者…ヴィラルのその頑健な右足で思い切り踏みつけられた。

「げえええっ」

吐き出される胃液。それに準じた内容物。
これらが奉仕してきた身体の運命も、たった今、終わろうとしている。
クアットロの見上げる瞳を、ヴィラルは命乞いだと受け取ったらしく、
侮蔑を込めた宣告を下してきた。

「貴様に対する哀れみは、一切無い。
 この場で切り刻まれて川に流され、海の藻屑となるがいい」

大鉈が、振り上げられる。
これから解体にかかるということなのか…生きたまま。

「いや、いやよぉ、こんなの嫌ぁぁ――」
「あがくな」
「死にたくない、死にたくないわぁ、お願い、たすけて、見逃してよぉ」

みっともなくもじたばたと暴れ回るクアットロに、
ヴィラルもシャマルも憤怒を隠そうともしなかった。

「裏切り続けた挙げ句の台詞がそのザマか。いい面の皮だな」
「死なずに済むと思っていたの?
 あなただけがいいように他人を殺して行けるとでも?
 死になさい。あなたのようなモノの行く先は、それしかないのよ」
「許して、許してよぉ、死にたくないの、死ぬの怖いのよぉ」

身に覚えのないことを言われている気もするクアットロだったが、
今はただ死にたくない一心である。
死というものが至近距離に迫ってくるにつけ、恐怖は底抜けに増大し続けている。
もう、他に何も考えられない。ただ生き延びたいだけだった。
そして、そんな懇願が相手に通るかどうか…それを一番よく知っているのもまた、彼女自身だった。

「げぐっ、ぎぃやああああ、やめ、やめてぇ、ああああ――」

二人の返事は、クアットロの下腹部に突き刺さるヴィラルの踵に代弁させられた。

「女をいたぶるのは胸糞悪いが、貴様だけは話が別だ。
 苦しみ抜いて死んでいけ。無念のうちに死んでいった同胞達の分までな」

太陽光を反射して煌めく大鉈が、クアットロの脳裏に写真のように焼きつく。
目玉が裏までひっくり返りそうな痛覚の中、たったひとつのイメージを彼女は得た。
降り注ぐナイフに串刺しにされていくイメージ…
死にたくない、の一心から、それはほとんど無意識に発動された。
先のバケモノとの一戦と同じように、バビロンの門は開かれた。

「な…」
「き、貴様アアアアアアッ?」

降り注ぐナイフ、暗視スコープ、マント、首輪、水鉄砲、肉片、銀玉。
高速で飛来するそれらは姿勢の低いクアットロには当たらない。
二人がいくつもの物体の直撃を受けて倒れた隙を見て、クアットロは自らの身を川の中へと投げた。
冷たい水は、たちまち彼女の意識を奪う。
戦闘機人の見る夢は、果たして…




【F-4/川の中/1日目/午後】
【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:左肩喪失 右耳喪失 背部に裂傷(小) 全身に細かい切り傷(小) 右太ももに銃創(貫通、重傷)
疲労(極度) 死への恐怖(極度) 自信喪失(極度) 魔力消費(中)  髪がうなじあたりで切れてショートヘアー化している
眼鏡喪失(視覚は問題なし) 左肩だった部分から機械部分露出 気絶中
[装備]:ゲート・オブ・バビロン@Fate/stay night
[道具]:なし(空のデイパックのみ所持)

[思考]
基本:???
1:???

[備考]
※川に落ちてどこまで流されるかは、次の書き手さんにお任せします。
※精神的に壊滅的な打撃を被りました。
※身体的なダメージも大きすぎます。早いうちに手当を受けられなければ、遠からず死にます。
※支給品はすべて把握しています。
※首輪及び螺旋に関する考察は以下のとおり。
 ・首輪はネジを回すことで解除できる。ネジを回すには、螺旋力が必要。
 ・死者から採取した首輪でも、上記の条件は適用される(未検証)。
 ・シルバーカーテンで首輪の爆弾としての機能を停止できるかもしれない(不安材料が多すぎるため未検証)。
 ・螺旋力とは、殺し合いのような極限の環境下において、誰にでも目覚める可能性があるもの。
 ・螺旋王の目的は、あくまでも『実験』。殺し合いはそのための手段でしかない。

【首輪について】
銀色のリング。首の後部に二つの小さな溝があり、その間に所有者の名前が刻まれている。
これは実はシールになっており、見ただけではわかりにくいが、よく触ってみると裏に隠れたネジの窪みがわかる。
シールを剥がすとプラスのネジが隠れており、これを回そうとすると螺旋王の音声が響き、所有者に謎の苦痛を与え気絶させる。
クアットロの推理どおり、このネジを回す方法に螺旋力が関係あるかどうかは不明。
また解除に失敗した場合、どういった方法で所有者を気絶させたのかも不明。その後の影響も一切不明。


※支給品一式(地図喪失)、暗視スコープ、ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、首輪(クロ)
S&W M38(弾数1/5)、S&W M38の予備弾数20発、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、短剣×12本
単眼鏡、水鉄砲、銀玉鉄砲(銀玉×60発)、マース・ヒューズの肉片サンプル
以上の物品が、【F-4/住宅地・川沿い】にぶちまけられました。


【F-4/住宅地・川沿い/1日目/午後】

【チーム:Joker&Fake Joker】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:脇腹に傷跡(ほぼ完治・微かな痛み)、胸焼け
[装備]:大鉈@現実、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと7秒連射可能、ロケット弾は一発)
[道具]:支給品一式、鉄の手枷@現実
[思考]
基本:ゲームに乗る。人間は全員殺す。
0:おのれえええええええええ!
1:中央部近辺に向かい、激戦区を観察。そしてそこから逃げてきたものを殺す。
2:シャマルに礼を尽くす。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
3:発見次第、裏切り者(クアットロ)を始末する。
4:蛇女(静留)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
5:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
…人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。
 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
※二アが参加している事に気づきました。
※機動六課メンバーをニンゲン型の獣人だと認識しました。
※なのは世界の魔法について簡単に理解しましたが、それは螺旋王の持つ技術の一つだと思っています。
 また、その事から参加者の中で魔法が使えるのは機動六課メンバーだけであるとも思っています。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。

【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:魔力消費 中
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×2、ワルサーWA2000用箱型弾倉x3、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:八神はやてを守る為に、六課メンバー以外の全員を殺す。けれど、なるべく苦しめたくは無い。
0:きゃあああああああああっ?
1:中央部近辺に向かい、激戦区を観察。そしてそこから逃げてきたものを殺す。
2:しばらくの間はヴィラルと行動する。
3:発見次第、戦闘機人(クアットロ)を殺害する。
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
※宝具という名称を知りません。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
 どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。

※両者ともゲート・オブ・バビロンによって攻撃を受けました。
 どの程度のダメージを受けたかは、次の書き手さんにお任せします。


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176:邪魔する虫 ヴィラル 205:爆心地のすぐ傍で
176:邪魔する虫 シャマル 205:爆心地のすぐ傍で
164:好奇心は猫をも殺す クアットロ 188:喜劇踊る人形は閉幕の音を聞く





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