君らしく 愛らしく 笑ってよ(後編) ◆tu4bghlMIw





「十六人か……前より増えてるじゃねぇか……」


二回目の放送を脳内で反復しつつ、剣持は呟いた。
剣持は埠頭から再度、豪華客船に戻り甲板で一服していた。
ガッシュは今、辺りにいない。
何度も危険だと忠告したのだが「後々のためなのだ!」と言い残し、船内を探索しに向かった。
自分が最初に眼を覚ました場所だけに色々気になるらしい。

アイツを一人にしても大丈夫か不安だったが、この船にいるのが高遠一人な以上その心配は薄いと思った。
いくら頭が切れるとはいえ、高遠は普通の人間だ。
魔界の子であるガッシュはおそらく船内の誰よりも強い。
自分に関しても、高遠が接触して来た時に油断をする気は毛頭ない。


剣持は今もこの船の船長室にいるであろう高遠について考える。
自分の中の高遠は何人もの人間をその手で殺し、また殺させている殺人鬼である。ソレも生粋の。
故に奴が完全に心を入れ替えて脱出のために動く……とは想像しにくかった。

だが、同時に奴が異常なまでに『殺人という名の芸術』そして『金田一一』に拘りを持っている人間だということも知っていた。
この二つの観点から考察を進めれば、高遠の言葉を信じても良い気持ちになって来る。
血で血を洗う無粋で凄惨なだけの殺し合いは確実に奴の美学に反するだろうからだ。

「金田一……俺は一体どうすりゃあいいんだろうなぁ」

一本目の煙草を吸い終え、目の前の大海へ向けて放り捨てる。
そしてすぐさま二本目――こんな自体にも関わらず、煙草を吸うペースは変わらない。
いや、いつもよりも本数が増えているくらいだ。


「ったく。一人じゃどうにも頭が回らん……」
「――あの」


突然掛けられた声に驚き、剣持は振り返る。
いつのまにか、剣持の背後二、三メートルの位置にオレンジ色の髪をツインテイルにした少女が立っていた。

――ここまで近付かれたことに全く気付かなかった。

剣持は煙草を咥えたまま、少女を観察する。新たに船にやって来た人間だろうか。
だが、デイパックを背負っていないのが引っ掛かる。
一見手ぶら……に見える。少なくとも銃器は持っていないようだ。
だがそれ以上に気になるのは、やはり少女が身に纏っている不可解な洋服。
そして今にも壊れてしまいそうな程、おぼろげな瞳。


「あなたが――剣持さんかしら?」


少女が満面の笑みを浮かべながら尋ねる。
にっこり、という擬音が本当に聞えてきそうなくらい眩しい笑顔だ。
しかし、どこか妙だ。心臓の鼓動が早くなる。妖精の囀りにも似た声が剣持をくすぐった。

「そうだが……お前さん、いつのまに……というか、なんだその格好は……」
「ああ、やっぱり! 明智さんからの伝言があるの」
「明智警視?」

剣持は怪訝な顔で答えた。
まるで知らない少女からいきなり名前を呼ばれれば、誰でもそう感じる。
白と黒のあまりにも殺し合いとは関連性を持たない衣装に身を包んだ少女はパッと瞳を輝かせた。
そして何かを伝えるべく、こちらへ近付いてくる。

剣持はニコニコしながら近付いてくる少女の全身をもう一度眺めた。
少なくとも、自分が出会った人間の知り合いではない。
だが「明智」という名前を出している以上は彼と出会っているのだろう。


「あーその"コスプレ"って奴か? いや、それにしてもどこでそんな服……」
「ゴメンなさい。私、」
「――ッ!?」
「あなたを、殺しに来たの」


少女がナイフを剣持の胸に突き刺さした。


 ■


「な……に……!?」

ナイフが抉り込む。
剣持の背広を突き破る。内ポケットの中に収められた警察手帳に穴を空け、その奥深く皮と肉と血管と神経をズタズタにする。

剣持の口からまるで蛙を靴の裏で叩き潰したような声が漏れた。
母音も子音もない、ただの空気の流れに過ぎないソレは歯と唇の隙間からヒューと間抜けな音を響かせる。
喉の管を血液が駆け上る。


ティアナは生来の殺人癖も鬱蒼の気もなく、至って真面目で冷静な性格をしていた。

だが、ティアナは見てしまった。
自らの親友が無残に殺され肉と血の欠片となり飛び散り、脳漿を撒き散らし、少し焦げた屍体になる光景を。
血の赤と骨の白と炭の黒と脂肪の黄、そして桃の少女――キャロ・ル・ルシエの頭髪。
蛋白質が炎と結び付き人体が燃焼する際、それは特殊な臭いとなって人の鼻腔をくすぐる。

牛や豚や鶏や羊が焼き殺される時と似ているようで、それでいて、最高に吐き気がする臭いだ。
死臭は人を狂わせ、脳に幻想を見せる。
頭は覚えていたのだ。殺しの場の空気を。だから少女がこんなことになってしまったのは、多分ある意味正しいのだ。
残酷な結末を突きつけられて、ただ正常に狂っていっただけ。

そして残すは仕上げだけ、そんな状態だった。
人を殺すための武器だけ、そんな状態だった。

背中を押し、殺人を正当化し、救いを差し伸べてくれる人間さえいれば、何もかもが終わりそして始まる、その寸前だった。


だからティアナが彼と出会った時にその運命は回り始めたのだ。
砕けそうな精神と狂気とそして、悪意。
高遠遙一が凍り付くような微笑と共にティアナ・ランスターの掌に小さなナイフを渡した時、彼女は何もかもを理解した。

スペツナズナイフ――少女の相棒であるクロスミラージュとは比べ物にならないくらい、ひ弱な武器だ。
しかし、一つだけ勝っていることがある。
このナイフで全力で戦えば相手は死ぬのだ。殺すことしか出来ないのだ。
切れば死ぬ。当たれば死ぬ。
そんな世界の常識から乖離した<<非殺傷>>という領域において生きて来た少女にとって、それは破滅への第一歩だった。

本来ならば<<武器>>とは、人を殺める覚悟を持った者が持つべき神聖なる血塗れの道具なのだ。
資格も訓練も必要ない。
必要なものはただ「相手を殺そうと思う強い歪んだ意志」だけ。
それさえあれば、人殺しの壁なんてすぐさま越えることが出来るのだから。


 ■


ティアナは両の手で握り締めたその小さな凶器に更なる力を込める。
脇を締め、柄の部分をドライバーのように捻る。
ギジッと何か奇妙な音が聞えたような気がした。何かが切断される音。血が滴り落ちる。

刃は剣持の胸に深々と突き刺さる。少女は手を離さない。
まるで夢に囚われた夢遊病者のように虚ろな――だが嬉々とした瞳でただひたすら、その<<殺人>>を実行する。
剣持の筋骨隆々な肉体も鋭利な刃にはさすがに敵わない。
人の身体とはそもそも金属に蹂躙される弱い存在なのだから。

「がっ……!!」

剣持が口から血液を吐き出した。
ティアナはその液体が躯に掛かる前にタッと甲板を蹴って後ろに退避する。


「お前さん……何を…………」


剣持を激しい痛みが襲う。
彼にはこの突然現れた少女が何を考えているのか、これっぽちも分からなかった。
自分は刑事だ。当然刃物を持った人間の対処も心得ている。
油断した――確かに、そうだ。
まさか、こんな格好をした年頃の女の子が自分に襲い掛かってくるとは思いもしなかった。

そう、今思えば明らかに異様だった。それは少女の放つ雰囲気についてだ。
普通、どんな人間であろうと人を殺そう傷付けようと思えば何らかの敵意を発する。
ソレは熟練した殺人犯においても同様で、どれだけ場数をこなそうとも完全に消し切ることなど不可能なのだ。

しかし、この少女からは――そんな気配を微塵も感じなかった。
自分の感覚が鈍ったとは思わない。
ただ少女の動作はあまりにも普通で、流暢で、何一つの歪みもなかった。
それこそ息をするくらい自然に剣持の胸へとナイフを突き刺したのだ。


「どうしてっ……お前みたいな奴がこんな真似を……ッ! がッ……」
「……何故って、そんなの簡単じゃない」


剣持の問い掛けにオレンジ色の髪の少女は心底不思議そうな表情を浮かべ、小さく首を傾けた。
まるで幼さと無邪気さを同封した人形のようだ、剣持はそんなことを思った。
血が流れる。

「悪い人間を殺すこと――それが、私の償いだから」

ティアナは疑問に満ちた眼で剣持を見た。蒼い瞳が怪しく煌く。

「俺が……悪い人間、だと? お前さん、まさか……高遠に騙されて――」
「何を、言っているの? 彼は立派な人間、善人よ。だってこの船に人間を集めて、弱者を守ろうとしているんだもの。
 そして、私はここに紛れ込んだ危険人物を排除するの。彼の……代わりに」
「ぐ――あの……野郎ッ!!!」

剣持は唇を強く噛み締めた。
やられた――高遠は自分を排除するために先手を打って来たのだ。
自身が接近するのではなく、人を使う……まさに地獄の傀儡師・高遠遙一の十八番だ。

つまり目の前の血に濡れたナイフを握り締める少女は奴の操り人形と言うことになる。
奴の行動を監視する――そう誓った筈なのに。なんだ……このザマは。


「うん。それじゃあ、さようなら――クロスファイアー……」


ティアナは剣持に興味をなくしたのか、淡々とした口調で別れの挨拶と共に呪文を口にした。
一瞬視線を下げ、予めチャージしておいた魔法弾を展開。色彩豊かな魔力スフィアがティアナの周囲に数個現れる。
<<非殺傷設定>>など、とっくの昔に解除されている。
ソレは、手負いの相手にトドメを刺すための一切の慈悲を含まない純粋な殺戮行為だった。

剣持は次の瞬間、己の身に何が起こるかを察知した。
逃げる? いや、違う。
この重傷ではまともな回避などそもそも不可能だ――彼女に刺された時点で既に詰んでいるに等しい。

何が出来る?
何をすればいい?

――考えるまでもなかった。
気付けば躯は動いていた。
燃え盛る恒星のような魔力珠を剣持に向けて今に発射しようとしているティアナへと一心に駆けた。

それは無謀な突撃だった。
明らかに足りない戦力で堅牢な城を攻めるようなもの。勝機などこれっぽちもない。
逆に正気を疑われてもおかしくないような愚行だ。

一つだけ確かなことは、剣持の心にある強い正義感が「目の前の少女に救いの手を差し伸べたい」と叫んでいたこと。


「うぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」


胸元から広がる激しい痛みを抑え付け、剣持は雄たけびと共に少女へ突進する。
この突撃が何の意味を持つかなど分からない。剣持は心の底から少女を救いたかったのだ。
しかし、

「――シュート」

少女の壊れた心に彼の想いは届かなかった。

呪文が完成し、魔力の塊が真っ直ぐ剣持に向けて打ち出された。激しい閃光が剣持の身体を走る。
手加減なし、フルバーストの魔法弾だ。
剣持の巨漢がボールのように大きく吹き飛ばされた。

宙を舞う。全身に走る裂傷、激しい出血。
剣持の声は届かなかったのだ。後はただ堕ちていくだけだった。



剣持は身体ごと吹き飛ばされ、甲板から投げ出される。
自分が凄まじい勢いで落下していく感覚を覚えた。

終わり。死の予感だ。
剣持は金田一と明智に向けて心の中で謝罪した。高遠の策に躍らされてスマン、と。
空へ手を伸ばす。気がつくと、その掌には黒いリボンが握られていた。
最後、少女に向かっていた時に掴んだのだろう。

つまり、これは――


「……ダイイング……メッセージって奴か」


とはいえ自分を殺した黒幕は高遠なのだが。
それでも剣持は小さく笑うと甲板の上から自分を見下ろしている少女を、霞む視界に捉えながら小さく呟いた。


「ガッシュ……すまん。あとは任せたぜ……金田一、明智警視――じゃあな」





【剣持勇@金田一少年の事件簿 死亡】


 □


「……勇?」


ガッシュの躯に不思議な感覚が走った。
コレは……一体何なのだろう。魔力の流れだろうか。
誰かが、自分の名前を呼んだ気がしたのだが。

ガッシュは船内を一人歩き回っていた。
アレンビー達と出会った時はほとんど中の捜索をせずにここから出てしまったため、様々な発見があった。
まず船内に蓄えられた様々な食料品だ。
基本的にレトルトものが主だが、とにかくヴァリエーションが豊富である。
他にもワインセラーやプレイルームなど本当に財を尽くした施設であると実感出来た。

特に船内の中央に位置する大広間は劇場のような舞台と照明装置、シャンデリアなど豪華絢爛な装飾が施されていた。
まるで城の中にいるような、そんな気分を少しだけ味わった。
しかし、今ガッシュにはやるべきことがあった。
それはつまり、剣持を捜索することである。
埠頭から帰って来て一度別行動を取ることを決定した時、剣持はずっと甲板に居ると言っていた。
しかしそこに彼の姿はなかった。
ただポツンと吸い終った煙草が一本落ちていただけだったのだ。

剣持が使っていた部屋にも行ってみたが、デイパックは放置されていた。自分の魔本も置いたままだった。
どこかに行くとすれば、その両方を残していくとは考え難い。
いや、そもそもガッシュに黙って船外へ出て行くとは思えない。一体何処に……。

ガッシュは首を傾げながら、既にある程度全体図が頭の中に入っている船内を歩き回る。
剣持を探し始めてから数十分後、とある部屋を訪れた。
つまり高遠が居ると思われる船長室だ。


「高遠!」
「どうかしましたか、ガッシュ君」
「ウム、それがな。勇の姿が先ほどから――む?」

ガッシュの眼に見知らぬ女の姿を捉えた。女、とはいえまだ若い。十代半ば程だろう。
妙な格好をした少女が高遠の座っているソファの向かいでお茶を飲んでいる。


「ああ、彼女はティアナ君です。先程、海を漂っている所を救助しまして。
 今は大分怪我の調子も良くなったので、話し相手になって貰っているんですよ」
「ええと、ガッシュ……君、でいいのかしら。私は時空管理局機動六課スターズ分隊所属、ティアナ・ランスター二等陸士です」


ティアナと名乗った少女は、穏やかな表情でガッシュに微笑みかけた。
ガッシュは困惑した。
まさか自分達が少し席を離している間に、この豪華客船へとやって来た人物がいるとは思いもしなかったからだ。
しかも出会った経緯があまりにも特殊である。
剣持が言うに高遠は「連続殺人犯」らしい。つまり元の世界では悪人だった訳だ。
しかし、この状況下において彼は自ら率先して、脱出を考える人間の指揮を取ろうとしている。
つまり今は善人だと言っても可笑しくない。

表と裏、白と黒。高遠の本心はいったいどちらなのだろうか。
付き合いの長い剣持ですら高遠を完全に危険な人間であると断定することは出来なかった。
ソレならば出会って数時間しか経過していないガッシュが彼を信頼していいものか決め兼ねているのも当然だと言える。


そんな高遠を通して紹介された少女――ティアナ・ランスター。
疑惑の種が当たり前のように芽生える。
とはいえ、何を疑えばいいのかさえ現状では不明な訳だが。

とりあえず。この空間におけるもっとも分かりやすい定義に沿って判断を下す。
つまり殺し合いに乗っているか否か。

……白だろう、おそらく。
正直、この橙色の少女がゲームに乗っているとは考え難い。
例えば、彼女の殺し合いの場にあまりにも不釣合いなくらい落ち着いた顔付き。
デイパックも背負わず、高遠とチェスに興じる彼女をどう扱っていいものか分からなかった。

加えて彼女が自己紹介の際に口にした「二等陸士」という階級もガッシュの思考を強化する。
おそらく、ティアナは軍人なのではないだろうか、ガッシュはそう判断した。
ならば、それは信用に値する職業だ。そう、剣持の「警官」と同じくらいに。
そしてもう一つ、彼女の――服装について。

「ウム、私はガッシュ・ベルだ。ティアナ、話の前に一つだけ――聞いてもいいか?」
「ん、何か気になることでもあるの?」
「いや、大したことではないのだ。だがおぬしはその、軍人のようなものだろう?」
「……そう、ね。厳密には違うんだけど、そう思って貰っても問題ないかな」
「では何故……そのような不思議な格好をしているのだ?」
「――ああ、コレ。結構可愛いでしょう」

ティアナは右手に持っていた高級そうなカップを机の上に置くと、すっと立ち上がりくるりとその場で一回転した。
ふわりと黒色のロングスカートが空を舞う。
レースをたっぷりとあしらった純白のエプロンドレスが照明を浴びてキラキラと光っているようにさえ見える。
オレンジ色の髪の毛と清潔感に溢れるホワイトブリムの一体感も極上だ。

ガッシュは再度、彼女の異常を確認した。
言葉にはし難い。ただし、その雰囲気が明らかに妙なことだけは確信出来る。
台詞や仕草は確かにその年頃の少女となんら変わりはない。
服装も非常に美麗で、長い髪を下ろしたその姿は思わず見惚れてしまう程だ。

しかし彼女が何故か"メイド服"を着ていることもそうだが、身に纏うそのオーラがどこか――気味が悪い。

「ティアナ君、その服が気に入ったのは分かりましたから……ガッシュ君、剣持君がどうかしたのですか?」
「ウム……それがだな。先程から勇の姿が見えないのだ」
「それは……妙ですね。私を見張ると豪語していたのにまさかいなくなるとも……。
 私はずっとここでティアナ君の看護をしていましたし。ようやく落ち着いて来た所なんですよ」

ちらりと高遠がティアナを一瞥した。少女もそれに合わせて機械的に頷く。
その動作はまるで油を差していない機械人形のようで、どこかギクシャクしていた。
両者の意志の疎通がまだ完全に取れているとは到底思えない。

高遠は……知らないのか。しかし、剣持が高遠に何かをされたとは思えない。
何しろ自分以上に彼は高遠を警戒していた。
もしも二人きり、という状況になっても遅れを取ることはない筈なのだ。


「ティアナ君、剣持君を――ああ、体格の良い四十代くらいの男性なんですが。どこかで見掛けましたかね?」


高遠がガッシュと同じように眉に皺を寄せる。
そして、剣持の行方をティアナに尋ねた。
ティアナは意外そうな表情を一瞬見せ、つまらなさそうに答えた。


「――いいえ、見てないわ。誰だか知らないけれど、じっとしていられなくなって海に泳ぎにでも出掛けたんじゃないかしら」
「……ムゥ、いくら勇でもそこまで元気ではないと思うが……」


ティアナは軽い冗談を交えながら高遠の問いに答える。
「自分は剣持などという男は見てもいないし、全く知らない」という訳だ。
ガッシュは小さく唸りながら、頭を抱えた。

「ガッシュ君、ひとまずもう少し待ってから行動するとしましょう。
 案外しばらくしたら、ひょっこりと顔を覗かせるかもしれませんよ」

中々理にかなった提案だった。
まだ自分が剣持を見失ってから一時間も経っていない。
自分が帰って来るのが遅かったため、彼が痺れを切らして一人で見回りに行ってしまった可能性もある。
それどころか、未だ自分が知らない部屋で眠りこけているかもしれないのだ。

「……分かった。おぬし達はここにいるのか?」
「ええ。とりあえず、今のゲームが終わるまでは。これが終わったら、私の方でも少し探しておきましょう」
「ウム、では私は船内をもう一回りして来る。頼んだぞ、高遠」




【E-3/豪華客船・廊下/1日目/午後】

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料:アンパン×8、ミネラルウォーター)
    ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、ビシャスの日本刀@カウボーイビバップ、水上オートバイ
[思考]
基本:螺旋王を見つけ出してバオウ・ザケルガ!!
1:船内にいる筈の剣持を探す。
2:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
3:ジンとドモンと金田一と明智を捜す。
[備考]
※高遠を信用すべきか疑うべきか、計りかねています。
※剣持、アレンビー、キールと情報交換済み
※聞き逃した第一放送の内容を剣持から聞きました。


 □


「……高遠さん」
「何ですか、ティアナ君」

ガッシュの足音が聞えなくなった少し後、そのやり取りは始まった。


「あの子を、殺す必要はないの?」


数時間前のティアナからは考えられないような物騒な台詞を少しの言い淀みもなく吐き出した。
高遠は彼女のその変貌に心を奮わせる。


「まだ時期ではありません。彼は役者の一人です、もう少しだけ生きていて貰いましょう。
 それに彼は強い。剣持君のようにあっさりやられると思えない」
「……分かったわ」


しぶしぶティアナは頷く。
そして再度ソファに腰を降ろし、若干冷たくなったカップに再度口をつける。

その瞳は完全に制止した水面の輝きと似ていた。
鏡のようなその煌きを反射する絶対なる蒼。
あらゆる生物の反応を感じない非情なまでの冷たさに満ち溢れて。

それは崩壊の危機に晒されたティアナの防衛本能が紡ぎ出した一つの結論を示していた。

(ようやく……面白くなって来ましたね)

高遠は目の前の<<人形>>と成り果てた少女を眺めながら心の中で愉悦を噛み締める。



そもそも高遠の行動には全て理由があった。

ティアナの服を脱がし全裸にしたのも、彼女が危険な人物だった場合行動を抑制するためだ。
彼女に語った通り、一切みだらな意志がそこに入る余地などない。
それ所か相手が服を着ていて逆に自分は裸であるという異様なシチューションは両者の立場を明確にする。
加えて暖かい部屋と甘い飲み物。これは思考をぼやけさせ、意志を低下させる。

そしてその結果、少女の精神は壊れた。
それはもう無残なまでに。
死してなおその身体を弄ばれたキャロ・ル・ルシエのように木っ端微塵になった。
高遠はそこに付け込み、少女を傀儡に変えることに成功した。

ティアナ・ランスターが本当にキャロ・ル・ルシエを殺害したのかは分からない。
本当に彼女が殺した可能性も高いが他の要因も十分に考えられる。
彼女の錯乱具合では「狙撃」という大前提すら間違っているかもしれない。

が、最も残酷な結末が「自らの仲間を自分の手で殺害する」ということなのは間違いない。
どうやら彼女は以前誰かを誤射した経験があるようなのだ。昨日今日の段階ではなく、心の中に根付いたトラウマのようなものか。
まさに運命の悪戯という奴だろう。外の世界はどうやら中々愉快なことになっているらしい。

しかし傀儡と言っても完全に従順な人形へと仕立てあげた訳ではない。ほとんどソレに近い状態ではあるが。
簡単に言えば条件付けのようなものだ。
キャロ・ル・ルシエを殺害したと思い込み、彼女の殺意は外ではなく中へと向かった。
おそらくこのまま放置すれば自傷行為の末、命を絶ってしまうことは明らかだったのだ。

故に私は救いの手を差し伸べた――つまり、贖罪の道だ。


「……ティアナ君、剣持君の死体は?」
「海に落ちて沈んだ後、すぐに動かなくなって西の方へと流れて行ったわ。確実に死んでる」


ティアナはさらりと答えた。その表情に人を殺したという罪の意識はない。
いや、もはや心の奥底まで染み込んでしまっているのだろう。
もしや一人殺してしまったのだから二人殺そうが三人殺そうが全て同じ、そう考えているのかもしれない。

しかも彼女には人を、いや「悪人」を殺す理由がある。
彼女の歪んだ正義感は悪を処断し、罰を下す。
ゲームに乗った殺人鬼を殺す。
自分達に害を成す人間を殺す。
そして、彼女にとって「善人」である高遠自身が指示した相手を殺す。

もちろん出来るだけ痕跡を残さないように、姿を見せないように――という点は徹底させている。
……まさか本当に姿が消せるとは思わなかったが。
これは予想以上に有効な拾い物だ。彼女の持つ魔法の力は殺人に容易く転用出来る。


「しかし、その服を気に入って下さったのは幸いでした。
 生憎そんなコスプレ紛いの衣装しか見つけることが出来なかったので……」
「……ええ。さすがにもう、今六課の制服に袖を通すのは難しいかな。そもそも血だらけで変な誤解されそうだわ」


ティアナは自嘲交じりに「ま、この服だって十分に変だけど」と答えた。

ちなみに、このヴィクトリア朝式メイド服を調達して来たのは当然の如く高遠である。
もちろん趣味やフェチズムのような要素はそこには存在しない。
船内でコレぐらいしか服を見つけることが出来なかった故の緊急措置なのだ。
彼女が身に着けていた下着はすぐに乾いたのだが、さすがにあの制服を再度着させる訳にはいかなかった。
べっとりと赤黒い血液がこびり付いた衣服など言語道断だ。
「私は誰かを殺しました」と看板を背負って歩いているようなものである。


「でも、これ……メイドよね」
「そうですね、メイドですね」
「――ご主人様、とでも呼んだ方がいいかしら、高遠さん?」
「……さすがにソレは勘弁していただきたい所です」


高遠の答えにティアナは小さく笑った。
心が壊れた――とはいえ少女は理知的であり、妙に明るく無邪気だ。
素面の状態の彼女とは数分しか言葉を交わしていない高遠でさえ、この変貌には驚いている。

普通あそこまで精神的に陵辱されれば、本当に人形のようになってしまってもおかしくはない筈なのだが。
元々強い精神を持っていたということなのだろうか。
そんな人間でさえ、殺人を犯してしまう。

もしかしたら、アレが彼女にとって『初めての殺人だった』かもしれないのに。
そう考えると非情に滑稽で、彼女が哀れに思えて来る。
……これだから心に傷を負っていた者を自分達の世界へ引き込むの堪らない。


(まぁ……いいでしょう。さてと、次なる来訪者は一体……?)






【E-3/豪華客船・船長室/1日目/午後】

【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:精神崩壊、全身打撲、肋骨にひび、体力消耗(小)、精神力消耗(小)、髪を下ろした状態 
[装備]:メイド服
[道具]:なし
[思考]
基本思考:キャロを殺した贖罪のため、悪人を殺す
1:高遠に指示された人間を殺す
2:ゲームに乗っている人間を殺す
3:危険だと判断した人間を殺す
4:弱者は保護する

[備考]
※高遠を盲目的までに信頼。
※キャロ殺害の真犯人は自分であると思っています。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っています、無理に銃を撃とうとすると眩暈・吐き気・偏頭痛が襲います。

※剣持のデイパック【ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
 ドミノのバック×2@カウボーイビバップ 】は豪華客船・客室内に放置。
※剣持の死体はスパイクの煙草(マルボロの赤)(16/20)@カウボーイビバップ と、
 ティアナのリボン@魔法少女リリカルなのはStrikerSを握り締めたまま西に流されました。

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ@現実x5
[道具]:デイバッグ、支給品一式、バルカン300@金色のガッシュベル!!、豪華客船のメインキーと船に関する資料
[思考]
基本行動方針:心の弱いものを殺人者に仕立て上げる。
1:善良な高遠遙一を装う。
2:しばらくは客船に近寄ってくる人間に"希望の船"の情報を流し、船へ誘う。状況によって事件を起こす。
3:殺人教唆。自らの手による殺人は足がつかない事を前提。
4:明智には優先的に死んでもらう。
5:ただし4に拘泥する気はなく、もっと面白そうなことを思いついたらそちらを優先
[備考]
※ガッシュから魔本、および魔物たちの戦いに関する知識を得ました
※ティアナからなのは世界の魔法、出会った人間の情報を得ました
※ティアナを駒として信用しています





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178:君らしく 愛らしく 笑ってよ(前編) 高遠遙一 195:刑事と婦人と不死の少年は三人の奇人を前に沈黙する(前編)
178:君らしく 愛らしく 笑ってよ(前編) ティアナ・ランスター 195:刑事と婦人と不死の少年は三人の奇人を前に沈黙する(前編)
157:疑う剣持 剣持勇
157:疑う剣持 ガッシュ・ベル 195:刑事と婦人と不死の少年は三人の奇人を前に沈黙する(前編)





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