螺旋博物館Ⅱ ◆j3Nf.sG1lk



 はげ頭でひげ面の大男と育ちの良さそうな雰囲気を纏った少年。
 その二人が奇妙な螺旋型にモチーフされた扉の前で立ち尽くしている。
 二人を足止めしているのは、何てことは無い、ただの張り紙だ。

 『特別展示準備中』

 改めて言う事でもないが、この一枚の紙切れその物に何ら力は無い。
 紙が扉に硬い鍵をしているわけでも、紙その物が人間を押し返すような障壁を作り出しているわけでもない。
 なのに、人間はたかが紙一枚に行動を制限されてしまう。それはなぜか。
 簡単な話しだ。人間には知能があり、必然的に与えらた情報から物事を推察してしまう生き物だからである。
 紙と、そこの書かれている文字、その二つが扉の前に立ちはだかっている以上、人間は情報から事実を推察しようとし、必然的に動きを止めてしまうのだ。

(準備中?なら今は準備している人の邪魔になってはいけない、後でまた来よう)

 その張り紙を見た人間は自然とそう考える。
 これは人間社会で培われた当然の考えであり、言い換えればモラルというものである。
 現代社会程度の文明で相応の年月を社会で過ごした者ならば、この程度のモラルは当たり前、そういう次元の話なのだ。
 当然、その扉の前に立つ二人も……。

「……フンッ」

 大男が躊躇いも無く扉に手をかけ、力を入れて扉を押し開こうとする。
 モラル云々の話しが一気に霧散した瞬間だった。
 しかし、それも仕方の無い事とご理解いただきたい。
 時と場合によっては間違いなく警備員や関係者に注意を受けるであろうこの行為も、
 今この瞬間だけで言えば、そう責め立てる様な行動ではなくなってしまっているのである。
 なぜなら、今大男と少年を取り巻く環境が『殺し合い』という常軌を逸した状況であり、生き残る為にモラルさえも捨てなければいけない環境だからだ。
 張り紙一枚で行動を制限され、その隙に殺されたのでは死んでも死に切れない。
 ゆえに、切迫している状況で張り紙に掛ける配慮などあって無いようなものであり、大男の行動は至極当然というべきものなのである。

「ヌッ……」

 大男、つまりジェットの額に僅かばかりの汗が浮かぶ。
 喰らい付いたら離さない「ブラックドッグ」と言う異名を警察官時代に持っていた男は、現在は賞金首を追いかける賞金稼ぎとしてその豪腕を振るっている。
 荒仕事から情報戦に至るまで何でもこなす彼にしてみれば、単純な力作業でさえ手を抜くような事はしない。
 その為、この瞬間も本気になって目の前の障害をぶち破らんばかりの勢いで力を込めているようだ。
 しかし、ジェットの太い腕には、残念ながらピクリとも反応が返ってこなかった。

「……フゥー、なんて硬い扉だ、びくともしないとは」

 疲労の溜まった息を吐き出し、ジェットが感心したように呟く。
 すると、今度は隣にいた少年が扉に触れた。

「ただ鍵が掛けられてるから、とかじゃないみたい……。
 ほら、見た目金属質で作られた扉みたいだけど、こうやって触ると、なんだか押し返されるような感触がするよ。それに、なんだか少し暖かいような……」

 ドモンと名乗った少年の言葉にジェットが同じく扉に手を触れながら答える。

「ああ、どうやら、下の入り口と同じ自動ドアのようだが、こっちは何か不思議な力で守られてるようだな」

 ジェットの指先は確かに扉に触れていた。
 しかし、指先の皮膚には、集中しないと分らない程度に押し返されるような不思議な感触が伝わってきており、少年の言葉が真実だと告げていた。

「不思議な力?」

 少年の顔に疑問の色が浮かぶ。
 その顔を見下ろし、ジェットはゆっくりと説明するように語りだした。

「爆弾やら危険な物が参加者に支給されてるこの殺し合いじゃ、鍵を掛けた部屋なんて何の障害にもならないはずだ。それこそ紙切れと大差ない。
 それなのに、こうやって時間制限付で立ち入りを禁止している部屋を無理やりにでも作らなきゃいけないって事は、
 この部屋は参加者が持ち出すどんな兵器より強くなきゃいけないって事になるだろう。
 それこそ、一番最初にあの螺旋王とやらに向かっていた男が放った、あの光の攻撃にも耐えられるぐらい頑丈なのは絶対だ」

 そこで一呼吸置き、ジェットは扉から手を離し、その周囲の壁を見つめる。

「となるとだ、話はこの扉ばかりというわけじゃなくなってくるんだよ。
 荒っぽくなるが、扉が開かないなら、今度は周りの壁を壊せばいい、てな事を考える奴が必ず出てくる。
 そうなると、もう鍵だの何だのは意味が無い。その考えが出た時点で、扉だけを頑丈にすれば済む話じゃなくなっちまうのさ。
 だから、俺が思うに……」

「部屋一つ丸ごと、最初に螺旋王が使ったバリアーってので守られてるって事?」

「ま、そう考えるのが妥当だろうな。
 見たところ、扉は金属性でも、周りの壁は明らかにコンクリートだ。
 入り口が玄関の自動ドアと同じと見る限り、厚さも大して無い。ダイナマイト一つで穴ぐらいは簡単に開くだろう。
 て事はだ、本気で侵入者を拒みたいのなら、何か特殊な力で覆っちまうしか手が無いってわけだ。
 そして俺達は、一番最初にその特殊な力を見ている……」

 そこまで言って、ジェットは大きく息を吐き出した。
 そして、ただ漠然とこれからの事を考え始める。



(やはり、俺の予想通り各施設に何かがあるのは間違い無い。
 映画館、そしてこの螺旋博物館。
 訪れた二つが二つとも、こうやって参加者を足止めするような小細工が施されているって事は、他の施設も回れば何かしら出てくるって事だ。
 そしておそらく、その何らかは、確実に今の俺達のような殺し合いに乗っていない人間の為に用意されたものに違いない。
 なぜなら、本当に殺し合いで選び出されたたった一人を求めるのなら、こんな無駄とも取れる施設を用意する必要何て全く無いからだ。それもわざわざ地図に載せてまで……。
 俺が思うに、螺旋王が求めているのは、あからさまな力だけではない。
 この状況を打破する程の何か、そう、それが螺旋力と言う奴なのだろう。
 各施設の役目は、この状況の打破の為に用意された、いわばヒントだ。
 何故俺達は選ばれた?
 何故俺達はここにいる?
 俺達の役割は?
 そして、螺旋力とは何なのか、それをどうやって手に入れるのか?
 それらの疑問に答えを出す為のヒントが、点在する施設にあると、俺は考えている)



「クソッ!せめて中に何があるのかだけでも分ればな……」

 張り紙の上にはタイマーのような物があり、その予想される時刻から明日の正午まで扉は開かないと指している。
 現実に開かない以上、それを受け止め、出直してくるのが筋と言うものなのだろうが、
 ジェットは目の前にぶら下がったヒントを見過ごし、次の場所に向かうような余裕を持ち合わせているような男ではなかった。
 その為、何か無いかと漠然と周囲を見渡してしまう。
 何か、この閉ざされた部屋に関する、何でもいい、何かの痕跡を――

 すると、都合よくジェットの瞳が一つの物体を天井近くに捉えた。

「……まさか、もしかしたら!」
「え?なに?どうかしたの?」

 突然のジェットの行動に隣にいた少年が同じように視線を泳がす。
 そして、少年の目もそれを捉えた。

「あれ何?」

 少年の疑問の声を聞き、ジェットは嬉々とした表情で答える。
 ジェットが見つけたもの、それは、天井にぶら下がっている一台のカメラだった。

「防犯カメラだ」
「カメラって……、あの写真を取る奴でしょ、何であんなところに……」

 その一言でジェットが思い出す。
 自分とこの少年には、丁度140年もの時間の差があるということを。
 全く信じられないような話だが、少年は1930年代からこの場所に呼ばれたらしい。
 対してジェットは、2071年から召喚されていた。
 つまり、少年の頭の中には、20世紀後半に誕生した監視カメラという当たり前の知識その物がないのである。

「そうか、君の居た時代ではまだ監視カメラの類は発明されていなかったっけな。
 えーっと、映画は知ってるよな?確か1930年頃には既にあったはずだし……。
 あれは映画のように映像を記録することが出来る装置だ。
 ああやって、大事なものがある部屋の映像を常時撮り続ける事で、人の出入りを監視するんだ」

 流石に映画と言う言葉には思い当たる節があるのだろう。
 少年は納得したように頷いた。

 余談だが、少年にしてみれば10年程前の1920年頃に、映像だけのサイレント映画から音声と映像を合わせたトーキー映画に移り変わると言う時代の流れをリアルに見ているため、
 それを考えれば、目の前の物体が小型化された映像を記録する装置だと説明されても、何ら疑いようも無く頷けるのは当然と言えよう。
 そこまで発明が進めば、いずれ防犯の為に一般的にカメラが使われる日もそう遠くは無い。
 少年ことドモン、いやチェスという名の錬金術師は瞬時に考えていた。

「え、じゃあ、つまり……」
「あれを調べれば何か分かるかもしれないって事だ」

 ジェットはそう言うと、チェスの腕を取って歩き出した。
 目の前のカメラには目もくれず。

「って、あのカメラ調べるんじゃなかったの?」
「君の知ってる映画と違って、防犯カメラの類はカメラ自身に映像は記録されない。大抵はまとめて別の記録媒体に映像が放り込まれるんだ。そいつを見つける」

 そう言いながら、ジェットはどんどんと進んでいった。
 その迫力に押され、少年は再び生まれた疑問を喉の奥に押しやり、ジェットの後についていく。
 その瞳は、知的好奇心に絆された少年特有の輝きをもっていたのだが、ジェットも少年自身もまるで気づかなかった。 



 ◆ ◆ ◆



 結論だけ言えば、防犯カメラが記録した映像を保存する為の記録媒体が見つかる事は無かった。
 建物の隅々、それこそ通風孔から天井裏を覗くほど探したが何処にも無かったのである。

「……はぁ、疲労が溜まっただけってわけか」

 博物館の入り口の隣に据え付けられた受付まで戻り、ジェットの呟きが溜息と共にむなしく響かせた。
 その溜息には言葉以上にジェットの残念な想いが込められているようだった。

(ま、考えればそうだよな。
 マジックで横から覗いたら種が見えたなんて話しはマジシャンとして最低の失態だ。
 あれほど厳重に閉じられている事を考えると、防犯カメラぐらい手を回してるのは当然と言える。
 俺は何を焦っていたんだか――)

「ねェ、ジェットおじさん、大丈夫?」
「あ、ああ…」

 少年の呼びかけにより幾分心が落ち着き、ジェットは今一度活力を取り戻す為、再び大きく息を吐いた。

「すまない、ちょっと当てが外れたからって落ち込み過ぎだな。
 まだやれる事は沢山ある。次に行こう」

 ジェットはそう言いながら、支給されているディパックを背負いなおす。
 厳密に言えばこの施設は空振りだったわけじゃない。
 開かずの間という明らかに何かある部屋を見つけることが出来たのだ。
 それを考えれば、防犯カメラでの失敗の一つや二つ――。

(って、待てよ。
 何で防犯カメラが設置されているんだ?
 最初から施設内に記録媒体を置いて無いんだったら、わざわざ防犯カメラその物を設置する必要が無いだろう)

 瞬間的に頭を過ぎった防犯カメラと言う存在。
 それがジェットの思考に引っかかった。

(博物館という建物の雰囲気作りの為に設置してるなら、防犯カメラがあるのは確かに必然だ。
 しかし、それならただのイミテーションでいいはずだ。本当に稼動させる必要は無い。
 カメラが稼動している理由、それは――)

「うん、そうだね、わかったよ。
 それにしても、文明って発達するんだね。
 僕、あんな機械が未来に誕生するかと思うとわくわくするよ」

 少年の声を左から右へと聞き流しながら、ジェットはハッとなって頭上に煌めく入り口と受付を撮影してるであろう防犯カメラを見据える。
 その眼差しは、一瞬にして鋭く険しいものへと変わった。

「ドモン君、直ぐにここを離れるぞ」
「え?」

 突然の一言に少年の表情が固まる。
 何を言われたのか分らないような表情だ。

「俺は馬鹿だ。
 螺旋王がこのサバイバルゲームを実験と言っている以上、何らかの方法で俺達は監視されているって事は直ぐに気づけたはずなのに、その事を単純に失念していた」

「それって、もしかして……」

「ああ、俺達は常に監視されてる可能性がある。
 建物の監視カメラがそのまま俺達を監視する為の道具だとは思わないが、利用されている可能性は十分にあるんだ。
 外に出れば監視から外れるとは到底思えないが、こうあからさまに見られてるのは気分のいいものじゃない。
 姿だけじゃなく、もしかしたら音声だって盗聴されている可能性もあるからな」

 その言葉に、少年の瞳も頭上のカメラを捉えた。
 その眼差しは、カメラの向こう側でこちらを見ているかもしれない者に対して怯えているようだった。

「本当ならカメラを回収して調べたいところだが、調べようとした瞬間首輪を爆発させられたら堪らん。まだ情報が少なすぎる。
 今は当初の予定通り他の施設を回りながら、参加者と接触し、情報集めに専念しようと思う」

 そう言いながら、ジェットは外に向かって歩き出した。
 その後を追いながら、少年が聞く。

「う、うん、わかったよ。それで、次は何処へ?」

 後ろから聞こえた震えるような声に反応し、ジェットは振り返りながら答える。

「本当なら図書館や警察署に向かいたいところだが、その道は今朝の爆発を引き起こした危険な奴がまだ居る可能性もある。
 だから、次はここから一番近い地図に書かれた施設に向かう。つまりゴミ処分場だ」



 そうして、大男と少年は博物館を出て歩き出した。
 これから自分達を待っているであろう現実なんて、勿論知るよし無く……。




【D-4/博物館前/1日目-午前】

【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:デイバック、支給品一式、アゾット剣@Fate/stay night
     薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
 [思考]
  基本:最後の一人になる。または、何らかの方法で脱出する
  1:ジェットと同行し、彼に守ってもらう
  2:ゲームのクリア、または脱出に役立ちそうな人間と接触し利用する
  3:不死者かもしれない人物を警戒(アイザック、ミリア、ジャグジー)
  4:未知の不死者がいないか警戒(初対面の相手には偽名を名乗る)
  5:ゲームに乗った人間はなるだけ放っておく

 [備考]
  ※なつき、ジェットにはドモン・カッシュと名乗っています
  ※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
  ※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません
  ※ジェットと情報交換をし、カウボーイビバップの世界の知識をある程度得ました
  ※監視、盗聴されている可能性を教えられました。
  ※無意識の内に急激に進化する文明の利器に惹かれつつあります。



【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ】
 [状態]:健康
 [装備]:コルトガバメント(残弾:6/7発)
 [道具]:デイバック、支給品一式(ランダムアイテム0~1つ 本人確認済み)
     テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
     アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
 [思考]
  基本:情報を集め、この場から脱出する
  1:情報を集めるために各施設を訪れる。とりあえず次はゴミ処分場。
  2:ドモン(チェス)を保護
  3:出会えればティアナを保護
  4:謎の爆弾魔(ニコラス)を警戒
  5:仲間(スパイク、エド)が心配
  6:明日の正午以降に博物館に戻ってくる

 [備考]
  ※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます
  ※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません
  ※チェスと情報交換をしました
  ※監視、盗聴されている可能性に気づきました。しかし、それは何処にでもその可能性があると考えているだけで、首輪に盗聴器があるという考えには至っていません。



【螺旋博物館】
 その名の通り螺旋に関するものを展示している博物館。
 常設展示用の部屋は3つあり、それぞれ、
 「どうぐにもなる螺旋!~おとこのロマンだ~」「きみのなかの螺旋!~じんたいのふしぎ~」「うちゅうのなかの螺旋!~すごくでかいぞ~」
 と題して展示物が並んでいる。
 二階には特別展示用の部屋があり、そこは二日目の正午まで開かず、中に何があるのかも不明。(螺旋力によるバリアーで完全防護されている模様)
 入るには螺旋に関するものが必要らしいが……?
 館内には監視カメラが設置され稼動しているが、それが、防犯の為なのか参加者を監視する為なのかは、今のところ不明。


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116:まだ静かな朝 チェスワフ・メイエル 161:ランチタイムの時間だよ
116:まだ静かな朝 ジェット・ブラック 161:ランチタイムの時間だよ





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