明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――開幕 ◆tu4bghlMIw



E-4、ヨットハーバー。一通り名簿と支給品を確認した私は、その見慣れぬ施設に足を踏み入れた。
左手に液体燃料式のランタンを持ち、用心深く歩を進める。


周囲は見渡す限り、輝く水で覆われている。塩の臭い、一瞬で嗅覚がそこが海に面した場所である事を察知する。
中々不思議な光景だった。
桟橋にロープで括り付けられているいくつもの小型の船舶。
風力で動く酷く原始的なものが大半、奥の方にはおそらく何らかの原動機を積んでいると思われる大型のものが並んでいる。

いっそ船で沖に……などという考えも浮かんだが切り捨てる。
私にはこの銀色の首輪の束縛がある。
主催者が何を考えているかは不明だが、不用意な行動は命取りになる。


そう首輪だ。
触って確かめた限り、金属である事は分かるが詳しい材質や内部の構造にはまるで見当が付かない。
錬金術の基本原理は【理解】【分解】【再構築】の三要素。
特に最も重要となるのが対象物の構成元素や特性を"理解"する事である。
つまり明らかに未知の物質を錬金術の対象にする事は出来ない。
そもそも鋼のならともかく、私個人はこのような金属の錬成はそれほど得意では無かった。

しかし今優先すべきは目下に迫る危険への対処。つまり――


「そこにいる事は分かっている。出て来い」
「……おや。中々無用心な背中かと思えばそうでもない、という訳ですか」


多数の船舶の影、丁度私の背後から一人の若い男が姿を現した。
透き通るような銀髪、冷たい印象を与える眼鏡、そして知性と閃きに満ちた瞳。
男は身にまとったスーツは遠目にもその質の高さが伺えたし、ネクタイからワイシャツに至るまで本人の几帳面な性格が滲み出ているような整然さに溢れていた。

醸し出す雰囲気は達人のソレではない。
だが、明らかに只者ではないと感じさせる特徴的な"何か"を持っている。
それは心技体で表すならば、"心"の煌き。大都市に設置された国家図書館の書庫にも匹敵するような抜群の知の匂いだ。
そして不屈の精神力。明らかに気の抜けない相手である事は確かだ。

男は見る限り丸腰、加えて自らの肉体を駆使して戦うアームストロング少佐のようなタイプにも見えない。
とはいえ無用心に近付くのは問題外。慎重に事は進めるべきだ。
ランタンを構えたまま、体勢は崩さず。
どのような攻撃が来ようとも対応出来るように細心の注意を払う。
だが、次に男が発した言葉は思わず拍子抜けしてしまうほど意外なものだった。


「――失礼、何か火種になるようなものをお持ちでしょうか?」


眼鏡の男はそう問い掛けると質の良さそうなスーツの胸ポケットから長方形の紙箱を取り出してこちらに見せる。
私はそれに見覚えがあった。もちろん煙草という概念に、という意味ではない。
それは"アイツ"がいつも吸っていた煙草と同じ銘柄のものだった。


「……煙草を吸うのか」
「いえ、普段はほとんど。ただ……こういう特別な状況で"コレ"が支給されたのも何かの縁かと思いまして」


答える男の表情は不自然な程余裕に満ち溢れていた。涼しげな佇まい。
思わず私は若干の苛立ちを覚える。
こんな危機的な状況にも関わらず、何一つ焦りや戸惑いを感じていないような男の態度に対してだ。


正直、どう対応すべきか決め兼ねる。
この男は怪しい。胡散臭いというよりも、"腹の探り合いで数歩先を行かれている"ようなイメージ。
錬金術師は高い戦闘能力を誇る兵士であると同時に、優れた研究者でもある。
肉体派の国家錬金術師として通ってはいるものの、政治家としての手腕や話術にはそれなりの自信は持っていたものだ。
故に初対面の相手にここまで流れを持って行かれるのは中々久しい体験だった。
そう、"安易な行動"を取る事は出来ないと感じさせるだけの高い能力を男は有している。

微妙な沈黙。私が特別なリアクションを取らない事に痺れを切らしたのか、男は胸ポケットに再度煙草を仕舞った。


「自己紹介がまだでしたね。私は警視庁刑事部捜査一課の明智と申します。
 本来ならここで警察手帳をお見せしたい所なのですが……生憎とソレも没収されてしまったようで」
「――私がゲームに乗っているとは考えないのかね。
 それに少なくとも君は、身体を使って戦うのは得意では無いように見える。
 "煙草の火"を求めると言う事は、私にそれなりの距離まで接近するのを許しているように思えるのだが?」


男、明智健悟は口元に微笑を浮かべると楽しそうに数回喜びの声を漏らした。
こちらを試しているのだろうか、中々嫌味な男だ。

「……順を追って解説致しましょう。そうですね、まず一つ目の質問について。
 あなたがゲームに乗っている可能性は……私見ですが一割以下でしょうね」
「ほう、そこまで断言するか。まさか理由が無いわけでもあるまい?」

随分と言い切ったものだ。
一割以下、と言ってはいるものの、彼は"私がほぼ確実にゲームには乗っていない"と判断しているに違いない。
初対面の人間にここまで言えるのは余程の馬鹿か天才のどちらか。

「ヒントは3つあります。まず私の姿を確認した後、すぐさま襲い掛かって来なかった事。
 次に姿を見せた私に対して"何一つ"牽制を行わなかった事。
 そして何よりあなたが軍服を着ている事……そう、軍属の人間が上二つの行動を取らない。
 すなわちゲームに乗っていない証拠に他なりません」
「……それだけか? 確かに芯は通っているが、一割以下とまで絞り込めるようには思えんが」

確かにゲームに乗った好戦的な人物であれば、最低でも牽制は欠かさないだろう。
しかし、それなりの理由があってソレを行わないパターンも十分に考えられる。
頭上に輝く黄金の月がゆらりと輝いた気がした。
私は明智の更なる"推理"の続きを待った。


「そうですね……この三つでは精々三割以下が限界でしょう。
 ですが私には決定的な武器が一つあるのですよ、『ロイ・マスタング大佐』」
「ッ!?」


あまりにも聞きなれた名前、加えて階級。
明智の言葉を聴いた瞬間、私、ロイ・マスタングは思わず胸元から支給された武器を取り出し、ソレを突き付けていた。
コレは最後の最後まで取っておきたかった切り札だったのだが仕方がない。

銃。黒光りする、か弱い女や子供老人であろうと人間を殺す事が出来る魔の兵器。
そしてソレを模したレプリカを。
普通の人間にとっては完全にハズレ支給品だっただろう。
――だが私にとってコレは最高の武器となる。


「おや、そんなものを持っていましたか。銃器の類は所持していないと思ったんですが……」
「どういう、ことだ?」
「……錬金術、古代から中世にかけて行われた"金"や"賢者の石"に関する学問。
 現代における化学の根本を成す――例えば、かのアイザック・ニュートンも高名な錬金術師であったと言われています。
 ですが……あなた方の言う錬金術とはまたソレとは別の技術なのでしょう、<<焔>>の錬金術師よ」


明智は相変わらず嫌味な笑顔のまま、次は私にとって最も聞きなれた呼称を口にした。
その態度は明らかに不遜。
そしてそれは私と相容れる事がないと確信させるには十分過ぎる程だった。
光を受けて軽く反射する眼鏡。逆行に遮られ上手く見る事が出来ない男の瞳がやけに不気味だった。


不可解だ。
【錬金術】【焔】【ロイ・マスタング】この三つの単語は全参加者に等しく支給された名簿には記されていなかったはず。
だが明智はまるで長年見知った事のように、錬金術について語る。
しかしいくつか引っ掛かる部分も覆い。例えば、錬金術は私達の国において現行、事物の中心を成す学問であると言う事だ。
古代、中世と言う過去の具象ではない。加えて【金】と【賢者の石】などという伝説上の代物を同一視している点にも違和感を感じる。

つまり考えられるのは【錬金術】という言葉に関する齟齬。
奴にとっての錬金術と私にとっての錬金術は違う何か別のもの、という考え。
国か? いや、国が違っても原理は変わらない。
世界を覆う根本の原則に乱れが存在するはずが無いのだ。

思い出せ。最初に螺旋王ロージェノムとやらの下に集められた時の事を。
明らかに違う文化体系の格好をした人間が数多く存在したではないか。
あの光線の正体はいったい何だ? アレを錬金術で説明できるのか?
――いや。


「本、か」
「……なかなか見事な考察で」
「参加者の名前を記した名簿を用意する周到さだ。"詳細"を記した本を作成するぐらい造作もない事だろうに」


何故私達が集められたのか。何故私達なのか。
螺旋王の言葉の真意など分からない。そして興味も無い。
だが選ばれたからには理由がある。そして下調べも相当念入りに行われているはず。
まさかランダムに索引し、名前だけ知らべてこの地に放り出した訳もあるまい。
カルテ、調査票、そんな類の品物が支給品として紛れ込んでいても不思議ではない。


「貴様が読んだのは私の個人データか。少なくとも世界の原則やルールについては少々の違いがあるようだが」
「――そう、ですね。とりあえず肯定しておきますよ」
「ふん、詳しく語るつもりは無いか。それも結構」


明智の微笑は崩れない。
私を追い詰めるための最後の矛を見抜かれたというのに何だこの余裕は。
生来のものなのか、それとも姿を偽っているのかは不明。
とはいえ、このまま舐められているのも癪に障る。


「……明智よ、ハボックの煙草を出せ」
「ハボック……? この煙草の持ち主の名前ですか?」
「そうだ、構えろ。餞別だ――見せてやる」


左手に持ったランタンに意識を集中。液体燃料式のソレの火力を調節し、シャッターを全開にする。
加えて瞬時に有効射程までの空間を認識。
そして、燃焼の三要素である【燃焼物】【酸素】【点火源】を準備する。

燃焼物は明智が億劫げに構えた部下であるハボックの物と同じ銘柄の煙草。
点火源は手に持ったランタン。
そして酸素だ。空気中の酸素濃度を錬金術を用いてコントロールする。
私と男の距離は約数メートル、だがこの程度の調節児戯に等しい。


イシュヴァールの殲滅戦を思い出せ。
私は何を焼いた?
女だ、老人だ、罪の無い無邪気な子供だ。
軍人としては部下を守るため、最後まで前線に出て戦った勇敢な上司なのかもしれない。
だがそれは所詮"勝った側"の理論。
イシュヴァールの民にとって私は殺人鬼、ただの悪鬼に過ぎない。

断末魔をあげ、消し炭になっていく人間をどれだけ見たのだ。
真っ黒い炭に向けて、あらゆる元素が消失し完全な『C』になって行く、その光景の担い手は誰だ。
……ああ、それも私だ。

私は人の皮一枚レベルの火力調整すら可能なのだから。
それがアメストリス軍中央司令部所属ロイ・マスタング、通称<<焔>>の錬金術師。



――燃えろ。



両手の掌に予め書いておいた錬成陣に力を込める。
円。錬金の流れを作り出す、循環の象徴に向けて。

「!? これは……まさか、こんな事が……ッ!!」

明智の憎たらしい笑顔が"消失"する。
続けざまに、ヨット場に苦い煙草の匂いが出現。懐かしい、国を思い出させる匂いだ。

その顔面に刻まれたのは驚き、そして在り得ない物を視認した者が見せる恐怖の感情。
明智は手に持った煙草を忌々しいものでも見るように投げ捨てた。
ソレは奴の隣、何も無い海面に落ちて見えなくなった。


私は完全な火力調整の下、火種になって見せた。
もちろん、奴ごと燃やし尽くしてしまうようなヘマをやらかす訳がない。
完璧に"煙草の先端部分だけ"を燃やした。
その際少々大きな爆炎を発生させたが、それはただの威嚇。
奴は煙草を持つ指先にすら火傷を負ってはいない。


「お前は一つ勘違いをしていたようだな。どうやって知ったか知らんが、錬金術を手品か何かだと思っていたか?」
「ええ、正直予測はしていましたがここまでとは。……ですが、もはや確定的なようで」


若干乱れた髪を気にもせず、明智は少し下がっていた眼鏡を元の位置まで戻す。
そして自信満々に言い放った。



「ロイ・マスタング大佐、あなたはゲームに乗っていらっしゃいますね?」


 ■


「これは……中々面白い事を言ってくれる」
「誤魔化せませんよ、私は」


私がゲームに乗っているだと?
ほう、言ってくれる。

だが残念な事に正直な話『私はまだゲームに乗っているつもりは無い』のだがね。


「理由は?」
「そうですね――参加者の中にあなたの知人が多く含まれているから、というのはどうでしょう」
「……何を馬鹿な事を。
 自らの親しい者を守るため、戦意の無い人間の命を奪える人間は稀少だ。
 余程ここをヤラれてしまっているか、もしくは異常なほどの妄執者でもなければそんな判断は下せん」


頭の、丁度こめかみの部分をコンコンと叩きながら明智の推理を一蹴する。
確かに私が軍属の人間と見て、殺しに許容があると見たその論理展開は評価に値する。
とはいえこんな胡散臭いゲームに自ら進んで乗る人間はおそらくそれほど多くは無い。精々二割かそこら、と言う所だろう。
だが。


「おや……意外ですね。リザ・ホークアイやマース・ヒューズ、と言った人間は大事ではない、と」
「――ッ!!! お……い、明智。今、ヒューズと……マース・ヒューズと言ったか」
「? ええ、言いましたがソレが何か?」
「どうしてここでアイツの名前が出てくるッ!!!」


何故だ。
このゲームに参加しているマース・ヒューズは『同姓同名の別人』では無いのか?


「どうしてって……同じ軍服を着ていらっしゃったと記憶していますが? 眼鏡と顎髭の……豪快そうな人物です。
 所属している部署も同じでしたし」
「!!!!!」


明智が訝しげな眼でこちらを眺める。
本当に不思議そうな、自分の中の100%を否定された者の眼だ。

ああ……そういう事か。
そういえば螺旋王とやらも言っていたな。
自らには優勝者を不老不死だろうが、億万長者にでもする力がある、と。

死と再生。
永遠と一瞬。それらは隣り合わせ、真逆の力。だが同じくらい、近い原則で動いている。
つまりは別の能力体系における人体錬成に近い技法を会得している訳だ。
なるほど、死人すらこの遊戯板の中では駒の一つ、そういう事か。


「ククク……明智よ。先ほどの答え、まだだったな」
「解答ですか? いえ、別に答えて貰わなくても……」




「すまんな――"今"乗った」
「なッ!?」




爆炎。人一人十分に殺傷させうる炎の渦を発生させる。
私は笑っていた。
これは歓喜か、それとも哀しみか。
正直判断が付かない。

だがなんと明智は予想外なまでに俊敏な身のこなしで炎を回避した。
相手の対応に私は思わず感嘆せざるを得なかった。


どうして中々。
今回は完全に、"焼失"させるつもりでやったのだが。



 ■


「くッ!!!」


巨大な炎の塊が私の足元に発生した。
だがこのような展開もある意味予定通り。
彼がいつ攻撃してきても構わないように、全身の神経を張り巡らせていたのだから。

横に思いっきり身体を飛び退かせ、その炎から身を守る。


「中々いい動きだな、明智。だが次は外さんぞ? そもそも何もかもブラフだったのだろう?」
「ッ、ええ。元々、相当高い確率でゲームに乗った人間である事は予想していましたから。
 ――さすがに今乗った、という解答は考えていませんでしたが」
「……参考までに聞いておこうか」


完全に、力関係の構図は逆転した。
私の表情に先ほどまでの余裕は無い。
地面に膝を付きロイ・マスタングを睨み付ける私と、こちらを見て口元をにや付かせる彼。
既に支給品の『参加者詳細名簿』によって彼の情報を知り得ていたアドバンテージなど、この圧倒的な力の前には無力。

推理のタネ明かしをこんなに追い詰められた状態でやった事は無かったな。
思わず無様な私自身を笑い飛ばしてやりたくなった。


「簡単な推理です。私があなたを警戒していた理由とその"焔"を回避出来た理由。
 鍵はあなたが持っているそのランタンですよ。
 このヨットハーバーにおいて、そんな物を使う必要は全く無いんです。
 なぜなら、ここには既に"十分な程の照明"が焚かれているのですから」
「ほう」


私は辺り一面に設置された球場のライトにも匹敵する照明具を指差しながら告げた。
そう、このヨットハーバーは十分過ぎる程明るいのだ。
その証拠に――私はランタンを持っていない。


「しかし、あなたはランタンの灯を消そうとはしなかった。
 加えて武器を一切持っていないにも関わらず、全く動揺が見られなかった。いかに軍属の人間であるとは言え、ね。
 そして、最後に元々私が知り得ていた<<焔>>の錬金術師という異名。
 ソレはつまり、ランタンの火こそがあなたの武器である証拠」
「……なるほど、だが信じられたのか? その話素振り、貴様一切錬金術を知らない国の出身だろう?」


ロイ・マスタングは「その発想は無かった」という表情を一瞬だけ顔に浮かべたが、すぐさま厳しい顔付きを取り戻す。
ゆらゆらと揺れる真っ青な海面を背に、私は更に推理を続ける。


「そう。正直半信半疑でした。ですが私が火種を要求した時におかしいと思いませんでしたか?
 "どうしてお前は自分のランタンを使わないんだ?"ってね」
「!!」
「おそらくあなた自身も知らず知らずの内に、自らを炎と結びつけて考えていたのでしょう。
 だから、自分が火種を要求された事になんの疑問も持たなかった。
 ……まぁ、明らかに怪しい人物なのでカマを掛けてみたに過ぎないんですがね」


これは偽りの無い証拠。
人気の無いヨットハーバーに灯りも消さずに進入して来る男。
ゲームに乗っていないと判断する為には材料が足らな過ぎた。
名簿の力で相手の簡単な情報自体は入手していた故、様子を見ていたのだ。


「ですが決め手は最後の一瞬。
 あの時、あなたの眼の色が変わったんですよ――職業柄、"殺し"を決意した人間には少々見慣れていますので」


男の眼――それは、爛々と燃え盛る太陽のような瞳をしていた。
野望、野心、そして遙かなる向上心。
天を、高みを目指す強欲なまでの彩りに満ちた視線。

だが私は見逃さなかった。
その輝きが、一瞬にして黒点にも似た曇りが浮かんだその時を
そしてソレは犯罪芸術家「高遠遙一」にも似た、殺意を押し殺す人間の眼だった。


「ふふふ……面白いな、明智よ。こんな状況でなければ私の部下にしてやってもいいくらいだ」
「……どうですかね、あなたで私を容易く御せるとは思えませんが」


私達は共に低い笑い声をあげた。
皮肉、牽制、冗談、短い会話であったが相手は相当に出来る男であると理解し合っている故の行動。


「本当に残念だよ。君のそのキャリアもここまでだと思うと」
「――マスタングさん、一つだけあなた方の錬金術について聞いてもよろしいでしょうか」
「……言ってみろ」


最後、そんな言葉を意識する。
いや……ここで命を投げ出す気は毛頭無い。


「昔、世界とはエネルギー・液体・固体・気体の四大元素から成ると考察した研究者がいましてね……。
 そして、それぞれが火・水・土・風に対応する訳なんですが……。
 あなた方の世界における"火"と相反する元素とは何ですかね?」
「ッ!? 燃え――」
「勝負は預けておきますよ!! "無能"大佐!!」


今日二度目のダイブ。
今度は硬いコンクリートの上ではなく海の上へ。
丁度彼の視界からは死角に当たる部分。そう、唯一ヨットが無い場所へ。

追撃の炎が上がる。
私が先程まで居た場所で凄まじい爆音が響くが、さすがの火炎も海の中では無力だ。
買い換えたばかりのスーツが台無しになってしまう、がそんな事を考えている場合ではない。


学生時代のサークル活動で時々泳ぎに行っていた経験がココで役に立った。
息継ぎをせず相当な距離を、素潜りのままマスタングの射程範囲から逃れなければならない。
なにしろ頭の上、数十センチ上はまさに"火の海"なのだから。


 ■


「ちっ……見失ったか」


火上するヨットの群れを前にして私は立ち尽くしていた。
手応えは正直、無い。
奴が海に飛び込んだ瞬間、確かに炎を練り上げたものの、またしても回避されたのだ。

ランタンの火を消し、デイパックの中に戻す。
正直意外だった。
まさか"ランタンを付けたまま行動している"というだけで、あそこまでの推理を働かせる人物がこのゲームに参加しているとは思わなかったのだ。
他の着火装置として、私に支給された道具の中に『拳銃型ライター』という絶好の道具が入ってはいた。
しかし、コレはある種諸刃の剣である。
なにしろサイズが大き過ぎることに加え、『銃であること』が露骨に警戒心を与えてしまう。


「……もっと中尉とヒューズの情報を聞き出すべきだったか」



――何故、あいつが居る?

『マース・ヒューズ』

それは既にこの世にいるはずの無い人間の名前。
他に『リザ・ホークアイ』やエルリック兄弟の名前もあった。
ほんの数日前、確かにこの眼で死を見届けた筈の男が、私の親友がこのゲームに参加していると言うのだ。

考えろ。まず参加している人間が私の知っているマース・ヒューズその人とは全くの別人であるという場合。
だがコレはそもそも名簿の意味を完全に破棄する思考。
全ての人間が知り合いの同姓同名に過ぎない、という考えでは論理にならない。
だが、そう考えるしか無かった。明智に会うまでは。


明智がヒューズの特徴をピタリと言い当てた時、全てが変わった。

――このゲームに参加しているのは、私が知っているマース・ヒューズ本人だと言う事が確定したのだ。

そんな事実を知った以上、私は行動しない訳にはいかなかった。



「二度も……お前を殺させる訳にいかんぞ、ヒューズよ」



私は足元に一つ落ちていたハボックの煙草を拾うと、錬金術を使わずライターで火を付ける。
久しぶりに味わう煙草は正直さほど美味くは無かった。
だが、この一服が私の決意を更に固める事となったのもまた確かだ。

ヒューズを守る。
そのためには殲滅戦の時のような修羅になる、これが最も簡単な道ではないだろうか。
そして、奴らと共に生きて必ず帰還する。



……そんな手段しか私は取る事が出来無い。
そして、火の海を背に私は歩き出した――次の獲物を求めて。




【F-4 ヨットハーバー周辺 一日目 黎明】

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師】
[状態]:健康、両方の掌に錬成陣
[装備]:ランタン、拳銃型ライター
[道具]:支給品一式、ランダム不明支給品x2
[思考]
基本思考:知り合い以外の全参加者を殺害、脱出の道を探る。
1:リザ・ホークアイ、マース・ヒューズを探して守る。
2:エルリック兄弟を守る。
3:それ以外の参加者の殺害。
4:発火布の手袋を探す。

[備考]
※ロイは原作のヒューズ死亡直後から参戦。



 ■


「私とした事が……少しばかり泳ぎ過ぎてしまったようです」

泳ぎに泳いで私が辿り着いたのは先ほどまで居たヨットハーバーの対岸にあるゴミ処理場――その対岸だった。
普通にまっすぐ泳いでいれば簡単に陸地に付けたものを、まさかこんな遠回りをしてしまう羽目になるとは。
金田一君のボケが私にも僅かながら伝染しているのかもしれない。


私は服を脱ぎ、海水を絞りながら考える。
何とか無傷でやり過ごす事は出来たものの、今の状況は相当に思わしくない。
まず支給品。
この『参加者詳細名簿』と言う物は全体を見渡してもかなりの当たりに違いない。
参加者の簡単な人間関係や、通称。能力などが大雑把ながら記述されている。しかも顔写真付きである。
だが――

「能力よりも、あだ名や通称の方が充実していても大して役に立たないのですがね……」


例えば先ほどのロイ・マスタングならば彼が炎を使う錬金術師である事など一文字も書いていなかった。
確かに【通称】の欄に『<<焔>>の錬金術師』と書いてはあるものの、ソレぐらいのものである。
女性関係にだらしないだとか、無能大佐と呼ばれる事もある、といった余分な情報は全く持って役に立たないのだ。

他の人物に関しても、ワカメだのミジンコチビだのオレンジだのヘタレだのV様だの童貞だの慢心王だの、どうしてここまで意味の無い情報ばかりが書かれているのだろうか。
『詳細名簿』と言うよりも『噂帳』とでも名づけた方が良いに違いない。
確かに顔写真が付いている、と言うのは大きなアドバンテージにはなるのだが。


他の支給品として例の煙草と訳の分からない双銃。
銃……なのだが、実弾を装填するための機構が何処にも見当たらないのだ。
加えてマガジンもデイパックの中には入っていなかった。

レーザー銃かと思い、壁に向かって引き金を引いて見たのだが当然何も起こらない。
故に扱うために何か特別な資格が必要なのかもしれないと判断した。
せいぜい威嚇程度にしかならないため、先ほどは相手を刺激しないためにしまっておいたのだが。


水を絞り終えたスーツに袖を通す。
染み込んだ塩分が最悪の感触をプレゼントしてくれる。
特注のお気に入りなのだが、どこか他の服に着替える必要も出てくるだろう。

先ほどの青色の軍服と身に纏った短髪の男、ロイ・マスタングと言ったか。
彼のようにゲームに乗った人間が多数出現するのはおそらく必然。
しかも私は彼らに比べれば力自体も乏しく、特別な能力などは何も無い。
だが、同じくらい主催者に向けて反旗を翻す人間が存在する可能性も高い。

その為にすべき事は――つまり、そんな人間を団結させる事だ。
幸いにも私にはこれから役に立つのかイマイチ不安ではあるが、詳細名簿という武器がある。
高遠遙一の存在も気になるし、金田一君や剣持君ともコンタクトを取っておきたい。
やらなければならない事は山済みだ。


「今回の私は完全な探偵役……では無くて、一人の剣闘士という訳ですか。それもまた面白い」


ここでは解決する役目、ではなく私は盤上の駒の一つに過ぎない。
人々のやり取りを外部から眺めている立場では無いのだ。

ですが……解き明かして見せましょう。
このバトルロワイアルという一つの大事件を。
ソレが私、明智健悟に課せられた使命なのですから。



【E-4 ゴミ処分場・対岸(マップ右上) 一日目 黎明】

【明智健悟@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康、ずぶ濡れ
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/4) x2
[道具]:支給品一式、ジャン・ハボックの煙草(残り18本)@鋼の錬金術師、参加者詳細名簿、予備カートリッジ8
[思考]
基本思考:犯罪芸術家「高遠遙一」の確保。ゲームからの脱出。
1:ゲームからの脱出。ゲームに乗っていない人間を探す。
2:金田一、剣持を探す。
3:高遠遙一を確保する。

[備考]
※ジャン・ハボックの煙草@鋼の錬金術師、二本消費
※参戦時期は未定(高遠を最低でも知っている段階)

【参加者詳細名簿】
参加者のプロフィールや能力が簡易的に記された名簿……の筈なのだが、その実態は単なる噂帳に近い。
間違いは一切書かれていないのだが、裏情報やTIPSのような項目が中心で例えばロイの項目であっても、炎の錬金術とはどのようなものなのか、という解説は皆無。
しかしあだ名や通称などの項目は充実しており、相手を罵倒する際には役に立つ事間違いなし。
ちなみに参加者の顔写真付き。どんなアングルかは人物によって異なる。


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明智健悟 075:螺旋博物館
ロイ・マスタング 068:覚悟はいいか?





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