悪意の花 ◆DNdG5hiFT6
地図で言うG-4にあるラーメン屋・倉田屋の中で八神はやてはそわそわしていた。
その視線の先にあるのは読子の忘れていったディパック。
つまりそわそわの原因は『あのディパック、中身何が入ってるんやろ?』ということである。
その視線の先にあるのは読子の忘れていったディパック。
つまりそわそわの原因は『あのディパック、中身何が入ってるんやろ?』ということである。
「……って、あかんあかん」
ちょうど戻ってきた際に誤解されてはかなわない。
他人のディパックを漁っている姿はどう見てもコソ泥にしか見えない。
他人のディパックを漁っている姿はどう見てもコソ泥にしか見えない。
「……それにしても気付くのが遅うないか?」
二人がここを出て行ってからすでに10分は経過している。
『普通ディパックなどという重要アイテムを忘れるなどありえることではないだろう』
という判断をした自分を呪う。
あの時、直に出て二人を追えばよかった……
そう後悔していたその時であった。主催者の忌まわしい放送が聞こえてきたのは。
『普通ディパックなどという重要アイテムを忘れるなどありえることではないだろう』
という判断をした自分を呪う。
あの時、直に出て二人を追えばよかった……
そう後悔していたその時であった。主催者の忌まわしい放送が聞こえてきたのは。
***
――キャロ・ル・ルシエ。
6課の新人の一人だ。
まだ10歳で、辛い過去があるにもかかわらずどこかおっとりした少女。
その陽だまりのような笑顔が永遠に消えてしまったという事実にはやての心は悲鳴を上げる。
自分ですらこうなのだ。関わりの深いスバルたちの衝撃は相当のものだろう。
それに6時間で9つもの命が失われたのだ。
6課の新人の一人だ。
まだ10歳で、辛い過去があるにもかかわらずどこかおっとりした少女。
その陽だまりのような笑顔が永遠に消えてしまったという事実にはやての心は悲鳴を上げる。
自分ですらこうなのだ。関わりの深いスバルたちの衝撃は相当のものだろう。
それに6時間で9つもの命が失われたのだ。
結局、考え事をしても答えは出なかった。
だが主催者に立ち向かうにせよ何にせよそろそろ気持ちを切り替えて、
何か行動を起こさねばならないだろう。
こうしている間にも他の仲間たちの身に危険が迫っているかもしれないのだ。
と、立ち上がった瞬間、扉が開く。
だが主催者に立ち向かうにせよ何にせよそろそろ気持ちを切り替えて、
何か行動を起こさねばならないだろう。
こうしている間にも他の仲間たちの身に危険が迫っているかもしれないのだ。
と、立ち上がった瞬間、扉が開く。
「もう、二人とも忘れ物に気付くのが遅い……」
だが目の前に現れたのは先ほどの二人組ではなく、銃を手にした少年であった。
「お、お前、誰だよ!」
少年は怯え、手にした銃をこちらに向けている。
典型的な疑心暗鬼に怯える少年を前にはやての心は逆に落ち着きを取り戻す。
典型的な疑心暗鬼に怯える少年を前にはやての心は逆に落ち着きを取り戻す。
「あー、えーとあのー……まずは落ち着こうか?」
「う、動くな! お前も僕が死んだとかふざけた事言う気かよ!」
「う、動くな! お前も僕が死んだとかふざけた事言う気かよ!」
最早何を言っているのか支離滅裂だ。
だが同時に納得もする。この状況で冷静になれる一般人などいはしない。
最初に集められた広場には戦いには縁もゆかりもなさそうな少年少女らがいた。
目の前の少年もその一人だろう。
だが同時に納得もする。この状況で冷静になれる一般人などいはしない。
最初に集められた広場には戦いには縁もゆかりもなさそうな少年少女らがいた。
目の前の少年もその一人だろう。
さてどうする。懐のトリモチ銃を撃つか?
いや、この状況下でトリモチ銃を抜いたとしても
すでに構えている少年のほうが引き金を引くのは早いだろう。
とりあえずは何にしても目の前の少年を落ち着かせなければ……
いや、この状況下でトリモチ銃を抜いたとしても
すでに構えている少年のほうが引き金を引くのは早いだろう。
とりあえずは何にしても目の前の少年を落ち着かせなければ……
「いやいや、アンタ生きとるし。それに私は人を騙さへんよ」
「信用できるか! 僕の知り合いの女と似た声してるしな!
魔術師だからって僕をバカにしやがった女と!」
「信用できるか! 僕の知り合いの女と似た声してるしな!
魔術師だからって僕をバカにしやがった女と!」
その発言に驚いたのは他ならないはやてだ。
魔術……つまりは魔法を知っているということは
もしかしてこの少年は時空管理局の干渉下の世界の人間なのか?
はやての認識では時空管理局の魔導師とは警察官のようなものだ。
それならばきっと説得も出来るはず。
魔術……つまりは魔法を知っているということは
もしかしてこの少年は時空管理局の干渉下の世界の人間なのか?
はやての認識では時空管理局の魔導師とは警察官のようなものだ。
それならばきっと説得も出来るはず。
「君は……魔法を知っとるん?」
はやては知らない。
慎二の知る“魔術師”と自身の知る“魔導師”の違いを。
慎二の知る“魔術師”と自身の知る“魔導師”の違いを。
だから慎二の表情が変わったのにも気付かなかった。
「魔法……? もしかしてお前……魔術師なのか?」
「魔術師? 私は時空管理局所属の魔導師や。せやから……」
「魔術師なら尚更信用できるかよ!
その服のどこかに魔術の道具を持ってるかも知れないしな!」
「魔術師? 私は時空管理局所属の魔導師や。せやから……」
「魔術師なら尚更信用できるかよ!
その服のどこかに魔術の道具を持ってるかも知れないしな!」
と、そこまで言ったところで慎二の顔に下卑た表情が浮かぶ。
「お前、服を脱げよ。そしたら信用してやる」
できるかいそんなこと!
そう瞬時にツッコミを入れかけた。
だが、相手は銃を持っている。
銃器に関しては素人のはやてであっても、アレに撃たれたら一たまりもないことぐらいは分かる。
また、取り押さえようにも距離が開きすぎている。
そう瞬時にツッコミを入れかけた。
だが、相手は銃を持っている。
銃器に関しては素人のはやてであっても、アレに撃たれたら一たまりもないことぐらいは分かる。
また、取り押さえようにも距離が開きすぎている。
正直、打つ手がない。
だからはやては意を決しゆっくりと管理局の制服を脱ぎ始める。
小柄ながら出ているところは出ているトランジスタグラマーな肢体が徐々に露になっていく。
だからはやては意を決しゆっくりと管理局の制服を脱ぎ始める。
小柄ながら出ているところは出ているトランジスタグラマーな肢体が徐々に露になっていく。
「こ、これで信じてもらえるんか?」
羞恥心を抑えつけながら純白の下着を腕で隠すように立つ。
そんなはやてに慎二は無言のまま近づき、そして――押し倒した。
そんなはやてに慎二は無言のまま近づき、そして――押し倒した。
「なっ、やっ!? な、何するんや!」
「いいだろ! お前も気持ちよくしてやるからさぁ!」
「いいだろ! お前も気持ちよくしてやるからさぁ!」
はやてはその瞳に映った色に恐怖した。
劣情という名の“悪意”の色に。
劣情という名の“悪意”の色に。
「ひぃっ……いや! いややぁー!」
慎二の手が肌をすべるたびに悪寒が走る。
必死に抵抗するが少年の力は強く、はやての細腕では振り払えない。
必死に抵抗するが少年の力は強く、はやての細腕では振り払えない。
「は、はは! こうしたら魔術師もただの女だな!
そうだ、最初から桜みたいにしてやれば良かったんじゃないか!
そうすればコイツも言うことを聞くさ!」
そうだ、最初から桜みたいにしてやれば良かったんじゃないか!
そうすればコイツも言うことを聞くさ!」
八神はやてはSSランクの魔導師である。
だがしかし元々自身の術法が後方からの攻性支援に特化したものであること、
フェイト、シグナム、ヴィータという格闘戦のエキスパート達が身近にいたこと、
過去下半身が付随であったこと、それらが重なり接近戦についてはあくまで最低限の技量しか持っていない。
だがしかし元々自身の術法が後方からの攻性支援に特化したものであること、
フェイト、シグナム、ヴィータという格闘戦のエキスパート達が身近にいたこと、
過去下半身が付随であったこと、それらが重なり接近戦についてはあくまで最低限の技量しか持っていない。
それでも普段の彼女ならば慎二の拘束から抜け出すぐらいは出来ただろう。
だが何より八神はやては目の前の存在に恐怖していた。
下卑た欲望の色に染まった瞳に見下されるたびに今まで感じたことのない恐怖が理性を奪っていく。
だが何より八神はやては目の前の存在に恐怖していた。
下卑た欲望の色に染まった瞳に見下されるたびに今まで感じたことのない恐怖が理性を奪っていく。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だが偶然にももがくはやての膝が慎二の股間に当たり、
力が緩んだその隙にハヤテは厨房へと逃げこんだ。
力が緩んだその隙にハヤテは厨房へと逃げこんだ。
「くっ、そっ、おまええええええええ!」
股間を押さえながらも憤怒の表情で迫りくる慎二。
過去、様々な凶悪犯にも怯まなかった八神はやてはその姿に恐怖した。
過去、様々な凶悪犯にも怯まなかった八神はやてはその姿に恐怖した。
間桐慎二ははやての周りにいた男とはあまりにもタイプが違いすぎた。
忠臣でもあり家族でもあるザフィーラ、
親友の友達である温厚なユーノ=スクライア、
無愛想ながらも優しい兄貴分のクロノ=ハラオウン、
気さくな青年でありいつも見守ってくれているヴェロッサ=アコース、
ちょっとお調子者だが頼りがいのあるヴァイス=グランセニック、
落ち着いた上司でありお世話になった師匠でもあるゲンヤ=ナカジマ、
生真面目で礼儀正しい副官グリフィス=ロウラン……
親友の友達である温厚なユーノ=スクライア、
無愛想ながらも優しい兄貴分のクロノ=ハラオウン、
気さくな青年でありいつも見守ってくれているヴェロッサ=アコース、
ちょっとお調子者だが頼りがいのあるヴァイス=グランセニック、
落ち着いた上司でありお世話になった師匠でもあるゲンヤ=ナカジマ、
生真面目で礼儀正しい副官グリフィス=ロウラン……
そのどれとも目の前の男は違っていた。
獣じみた劣情に任せて襲ってくるその存在を報告書やメディアを通してしか知らなかった。
そう、八神はやては男の負の面を直接目にしたことはなかったのだ。
獣じみた劣情に任せて襲ってくるその存在を報告書やメディアを通してしか知らなかった。
そう、八神はやては男の負の面を直接目にしたことはなかったのだ。
「いや! いややぁ! 来んといてぇ!」
錯乱したはやてはおたまや鍋など手にしたものを一心不乱に投げつける。
そこには管理局の機動六課の課長の姿はおらず、
ただ恐怖する一人の少女“八神はやて”しかいなかった。
そこには管理局の機動六課の課長の姿はおらず、
ただ恐怖する一人の少女“八神はやて”しかいなかった。
――だからそうなるのは必然だったのかもしれない。
もしもはやてが逃げ込んだ先が厨房でなかったら、
もしも彼女が手にしたものが“それ”でなかったなら、
もしも言峰綺礼と会うことなく、純粋な心のままで冷静に対処できていたなら、結果は違っていただろう。
もしも彼女が手にしたものが“それ”でなかったなら、
もしも言峰綺礼と会うことなく、純粋な心のままで冷静に対処できていたなら、結果は違っていただろう。
だがそうはならなかった。
たからその結果として――はやてが投げた『包丁』は慎二の喉元を捕らえていた。
たからその結果として――はやてが投げた『包丁』は慎二の喉元を捕らえていた。
「「――え」」
少年の首筋に刺さる包丁。
そしてぶしゅりという生々しい音と共にあふれ出す鮮血が床を真っ赤に染めていく。
慎二は首を押さえたまま、はやてに歩み寄る。
そしてぶしゅりという生々しい音と共にあふれ出す鮮血が床を真っ赤に染めていく。
慎二は首を押さえたまま、はやてに歩み寄る。
「お、おまえええええ」
だがその足は力なく崩れ落ち、自分の血溜まりの中に力なく倒れこむ。
その瞳を、はやてのほうに向けたままで。
その瞳を、はやてのほうに向けたままで。
「死にたく……な……えみ……さく……」
そう言い残し、間桐慎二は物言わぬ屍となった。
はやては呆然と目の前の惨状を呆然と見つめる。
――私は今、何をしたん?
――私は今、何をしたん?
目の前のこの少年はこの異常な状況下で錯乱してしまっただけではないのか?
そもそも自分が魔導師と名乗らなければ、
易々と要求に乗らなければこんなことにはならなかったのではないか?
もっと上手な、もっと賢いやり方があったのではないか?
そもそも自分が魔導師と名乗らなければ、
易々と要求に乗らなければこんなことにはならなかったのではないか?
もっと上手な、もっと賢いやり方があったのではないか?
いくら考えても答えは出ない。
あるのは己の保身のために人を殺してしまったという事実のみ。
自分のために他者を踏み台にし、命を奪った。
そう、残ったのは言峰の言うところの『最後の拠り所』をなくしてしまったという事実のみ。
あるのは己の保身のために人を殺してしまったという事実のみ。
自分のために他者を踏み台にし、命を奪った。
そう、残ったのは言峰の言うところの『最後の拠り所』をなくしてしまったという事実のみ。
「いや……いやや……」
何かを手繰り寄せるように宙に向かって手を差し出すはやて。
だがその手は宙を切る。もう、なにもつかめない。
だがその手は宙を切る。もう、なにもつかめない。
「いやぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」
偶然にも言峰綺礼の撒いた悪意の種はここで実を結んだ。
神父の行動によって心を乱した少年の死は
神父の言葉によって迷いが生まれた少女の心を完膚なきまでに踏みにじった。
神父の行動によって心を乱した少年の死は
神父の言葉によって迷いが生まれた少女の心を完膚なきまでに踏みにじった。
悪意の花は今、開いたのだ。
【間桐慎二@Fate/stay night 死亡】
【G-4ラーメン屋店内 一日目・朝】
【八神はやて@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、下着姿、茫然自失
[装備]:トリモチ銃@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式 、レイン・ミカムラ着用のネオドイツのマスク@機動武闘伝Gガンダム 、読子の支給品一式と拡声器
[思考]
0.……
※ムスカを危険人物と認識しました
※シータ、ドーラの容姿を覚えました。
※モノレールに乗るのは危険だと考えています。
※言峰については、量りかねています。
[状態]:健康、下着姿、茫然自失
[装備]:トリモチ銃@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式 、レイン・ミカムラ着用のネオドイツのマスク@機動武闘伝Gガンダム 、読子の支給品一式と拡声器
[思考]
0.……
※ムスカを危険人物と認識しました
※シータ、ドーラの容姿を覚えました。
※モノレールに乗るのは危険だと考えています。
※言峰については、量りかねています。
※慎二の持っていたディパック、およびH&K MP7は倉田屋内部に放置されています。
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095:倉田屋で会いましょう | 八神はやて | 122:賽は投げられた |
092:流血へのシナリオ | 間桐慎二 |