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 舞衣はC-5の東南にある橋の、東側の端で座り込んでいた。
 手には地図とペンが握られており、禁止エリアと放送された死亡者の欄にはバッテンが書かれていた。
 死亡者の数は九人。そのうち、三分の一が舞衣の近くで死んでいた。
 一人はシモンで、一人は道に転がっていた死体で、一人は舞衣が絞め殺した帽子の少年だ。
 実の所最後の一人は違うのだが、舞衣には知りようはなかった。

「私、周りを不幸にする力でも持っているのかしら?」

 舞衣は、ポツリと呟いた。
 飛躍した考えだった。でもなんだが正解のような気がして、段々と笑いがこみ上げてくる。

 「くく、そっか。私、ぷっ……はは、不幸を呼んでたんだ……あはは」

 次第に、舞衣は口を大きく開けて笑っていた。大爆笑だ。

 「あはははははははははっ、あはははははははははははははは!」

 そっか、私がいたからお母さんが死んで、巧海が難病にかかって結局死んで、シモンも死んだ。
 そうかそうか、なのほど――冗談じゃない!!
 笑い顔から一転して、舞衣の顔は憤怒に染まった。

 「私はもう、これ以上苦しまないから!誰の思い通りにもなんないからね!」

 誰に聞かれようと構わず、舞衣は何かに対して叫んでいた。
 よほど興奮したのか、呼吸は荒く、鼓動は早鐘のようだった。

 ■

 呼吸が落ち着いてきた所で、舞衣は移動することにした。
 つい先ほど馬鹿みたいに声を張り上げたというのに、人が近づいてくる気配はない。
 つまり周囲に人がいないのか、それともこちらの様子を窺っているのかだ。
 空を飛べば人影が確認できるかもしれないし、何者かが潜んでいた場合は何らかの反応が期待できる。
 そう思って舞衣は地図とペンをデイパックに戻し、立ち上がった。
 そして、エレメントを発動させようとして――

 「……あれ?」

 ――エレメントが、現れることはなかった。

 思わず、舞衣は自分の手首を見つめる。そこに彼女のエレメントは存在せず、細い腕があるだけだ。
 再度試して見たが、結果は同じだった。指を動かすように自然に行えていた行為が、急に出来なくなっていた。

 「嘘!どうして!」

 舞衣は身震いした。
 カグツチに加え、エレメントまで呼び出せなくなった。舞衣はただの一介の女子高生に戻ってしまったのだ。
 この異常な、殺し合いの最中でだ。
 舞衣は恐怖した。このままでは自分は何も奪えず、また何かを奪われて終わってしまう。
 必死になって、考える。前兆はあった、カグツチが呼び出せなかったことだ。
 そして、エレメントすら呼び出せなくなった。
 HiMEの力が消えた。そういうことだ。でもなぜ、しかもこんなタイミングで?

 「もう、訳が分かんないわよぉ」

 頭を振って、一度考えを整理する。
 そもそも、HiMEの力とはいったい――そこまで考えて、舞衣は一つの答えを見つけた。

 「……あ、そうか。なんだ簡単なことじゃない」

 HiMEの力には、大切な人への思慕の思いが関係している。
 舞衣は詳しいことを知らない。しかし、これだけは分かる。
 大切な人がいなければ、HiMEの力は使えない。
 つまりは、舞衣に大切な人がいないということが証明されたのだ。

 「あはは、なんだ。そういうことなら、むしろ大歓迎じゃない。ははははは」

 ――きっと帽子の少年を殺した時だ。私が、大切なものを奪う側に回ると決めた時からだ!
 ――その時から、私はHiMEの宿命なんてものから解放されたんだ!
 舞衣は再び笑い出した。笑いながら、喜びに打ち震える。
 殺し合いの最中だろうと関係無い。忌むべきものから解放されたのだ。
 もう二度と、戦うための操り人形になって踊ることなんてない!

 ――ああ、でも、この寂しさはいったい何なんだろう?



 舞衣の考えた通り、転機は帽子の少年を殺した時だ。
 その時から、舞衣は人を信じることが出来なくなった。そう決意してしまったのだ。
 人への思いが無かれば、HiMEの力は現れない。そういうことだ。

 しかし、舞衣はまだHiMEだ。

 チャイルドが倒されるか、本当に大切な人が死ぬまで、HiMEの宿命は付きまとう。
 そのことが舞衣にとって吉と出るのか凶と出るのか、答えはまだ分からない。

 ■

 舞衣は、周囲に誰もいないと判断した。馬鹿みたいに騒いだのに何の反応もないのだから、当然とも言える。
 舞衣は、まず武器を調達することにした。
 HiMEの力を失っても、舞衣のやることに変わりはない。そしてエレメントが使えない以上、代わりになるものが必要だった。

 「近くだと、病院と学校かな……」

 舞衣は、地図を眺めながら呟いた。
 映画館も近くであったが、舞衣は意図的に外した。できるなら、思い出したくもなかったことだ。

 「……学校かな」

 病院より、学校の方がよく知っている。
 舞衣は短絡的にそう考え、B-6の学校に向かうことにした。
 普段の舞衣なら、もっと考えて行動を決めていただろう。もちろん、これには理由がある。

 舞衣は、思考を単純化することで心を保たせていたのだ。
 大切なものを奪う側になったから、殺す。
 大切なものを作らないために、殺す。
 そうしなければ、舞衣はきっとシモンが死んだ時に廃人のようになっていただろう。
 憎しみでも何でもいい、この状況から生き残るためには強い感情が必要だったのだ。

 「……?あれ、なんで?」

 そしてHiMEの力を使えなくなったことで、それはさらにひどくなった。
 余計なことは考えず、思考はできるだけシンプルに。
 これ以上苦しむことのないように、過剰に排他的に。


 だから、舞衣には自分が泣いている理由が分からなかった。


 「おかしいな、目にゴミでも入ったかな?あれ?」

 目をゴシゴシと擦りながら、舞衣は頭を捻る。
 なかなか涙が止まらないので、舞衣はしかたなく泣きながら歩くことにした。


 誰かに、気が付いて欲しくて。


【C-5・南東部/一日目/朝】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷、全身が血塗れ
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
3:B-6の学校に行って、武器を手に入れる。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※クラールヴィントの正体に気づいておらず、ただの指輪だと思っています。HIMEの能力と魔力に近い物があるかどうかは不明。
※参戦時期の影響で、静留がHIMEである事は知りませんでしたが、ゲームに呼ばれている事から「もしかしたら…」と思っています。
※帽子の少年(チェス)を殺したものと思っています。


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088:阿修羅姫(後編) 鴇羽舞衣





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