何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE



放送は6時丁度、支給された時計の長身と秒針がぴったり頂点で重なり合ったその時に始まった。
時計を片手に放送を待っていた明智は、螺旋王が時間に極めて正確に放送を開始したことに感心しながら、それを聞く。

放送にて、螺旋王が告げた情報の中で重要な事項は2つ。
一つは、立ち入りが禁止されるエリア3箇所。
そしてもう一つは、この6時間の間に命を散らした死者の名前。

「海上、市街地、山間部……なるほど。バランスよくってところですか」
禁止エリアに関して言えば、施設を含まないエリアが指定されていた。
殺し合いもまだ序盤であり、早々に参加者に爆死されても興ざめということで、人が集まりにくいであろう場所を意図的に選んだのだろう。
――明智は、そう推理する。
「しかし、注意に越したことはありませんね。うっかり禁止エリアに足を入れてズガンなんてことになったら、金田一君や剣持警部に腹を抱えて笑われてしまいますし」
明智はそう呟くと、彼ら二人が抱腹絶倒している姿を思い浮かべ、苦笑する。
幸いなことに、放送で告げられた名前の中に、彼ら二人の名前は無かった。
まだ、あの下品な笑いを見る機会は残っているようだ。
……しかし。
「9人……か」
それでも、この6時間の間に9人の人間が死んだ、と放送は告げた。
9人全員が自殺や事故死をしている可能性は極めて低く、かといって同じ人間が全員を殺したともいえない。
つまり、この舞台にはロイ・マスタングのように殺し合いに乗った参加者が確実に複数存在しているという事だ。
死亡者一人につき、殺害者がそれぞれ一人いるとするならば最低でも9人。
そして殺し合いに乗っているもののまだ誰も殺せていない参加者が同じ数だけ存在すると仮定すると倍の18人。
18人……それが、現状から明智が考えた、6時までの段階で殺人を犯した、犯そうと目論む者の人数だった。
しかし、これだけでは終らない。
この放送によって、心変わりする人物も出てくるだろう、と明智は考える。
主催者は言った。優勝すれば、その者が望むことを何でも叶えてやることにする。と
ならば、こう考えるものも出てくるだろう。

――優勝して、死者を蘇生してもらうしかない。

非常に短絡的で非現実的な考えだが、親しい人物を失い精神が不安定な状態にある者ならば、それにすがる可能性は大いにある。
詳細名簿を見れば、今回兄妹や友人を失った事を知ることになる参加者が複数いることが分かる。
そんな彼らのうちの何割かが先述のような理由で殺し合いに改めて乗ったのだとしたら――――
「20人強……全体の4分の1は殺し合いに乗ってると考えるべき、といったところですか」
その中にはあの焔の錬金術師ロイ・マスタングも当然含まれている。
彼もまた、友人であるというエドワード・エルリックの死を知って、残った仲間を守るべく改めて殺し合いに乗ったことだろう。
「やはり護身の為の道具が欲しいところですね……」
マスタングの錬金術のように、参加者の中には自分のいた世界での科学技術からは考えられないような能力を持った人間が多くいるようだ。
この前のヨットハーバーの時のように毎度都合のいい場所で彼らと出会えるわけではない。
もし今、丸腰の自分にそんな殺し合いに乗った能力者が襲い掛かってきたとしたら……。
そう考えれば考えるほど、明智は手元が寂しく感じてきた。
そして、その寂しさを紛らわすように彼は腰に差していた白い銃を手にする。
「せめて、これが使えれば、どれだけ良かったことか……」
『申し訳ありません』
愚痴を垂れていても仕方ない、そう思い明智は銃を腰に差しなおし、立ち上がろうとした。
……が、その時彼は耳にしたのだ。男性の明瞭な声を、それも極めて近距離で。
「…………………………え? 今、どこから……」
『こちらです。あなたの手にしている銃からです』
声に言われるままに明智は腰に差そうとしていた銃を目にする。
「まさか……音声機能がついているとでも?」
『そうです。私はクロスミラージュ。インテリジェントデバイスとして生み出された存在です』
明智は質問に答える手元の銃に呆然とするしかなかった。

(……銃が喋る? これも錬金術の力なのだろうか?)


放送は午前6時丁度に行われた。
だが、そのようなことは時計をはじめとした支給品を一切合財手放したティアナが知る由も無かった。
彼女は放送が始まってもなお、無我夢中で走り続けた。
しかし……

――キャロ・ル・ルシエ

死亡者を読み上げる中で呼ばれたその名前を聞いた瞬間、彼女はぴたりと立ち止まった。
そして、その場に膝を突いて崩れる。
「キャロ…………キャロ…………!」
キャロの死。
それは、彼女の目の前で起きた出来事であり、目を背けたかったことだった。
だが、それは放送が告げるように事実であり、決して逃れようの無いことであった。
「ごめんね…………守れなくってごめんね…………」
地に手をつき、ティアナは涙を零しながら項垂れる。
彼女の脳裏に浮かぶのは、元気だった頃の彼女。
ともに訓練をして汗をかき、ともにシャワーを浴びながら歓談し、ともに食事をしながら笑いあい――――
しかし、もうキャロはいない。
彼女は頭を撃ち抜かれ、その後原形を止めないほどに頭部を破壊されたのだ。
それも自分の目の前で。
楽しかった頃の記憶を上書きするように、その時の記憶が彼女の脳をどす黒く塗りつぶしてゆく。
「……うっ! ぐ……ぐ……げ、げえぇぇぇ!!!」
そして、そんな記憶の上書きに拒絶反応を起したのか、彼女は反射的に嘔吐した。
最初の嘔吐で胃の中の物をあらかた吐き出した彼女の口から零れるのは、今や透明な胃液のみ。
その胃液の酸っぱさに反応すると、ティアナは起き上がる。
そうだ、いつまでも下を向いている場合ではない。
キャロのような犠牲者を六課から出さないためにはどうしたらいいのか?
つい先ほど決めたではないか。
六課の仲間以外は“敵”なのだ。
例えどんな善人面していようと、どんな小さい子供であろうと。赤の他人の腹の底など理解できないものなのだ。
殺し合いの場において、仲間を殺そうとする敵がいたら、殺さなければならない。
そう、知らない参加者はみんな殺していけばいいのだ。
“敵”を殺し尽くしたら、その後は、どうしたらいいかは分からない。
だが、今彼女に出来るのはそれだけなのだ。やるしかなかった。
「待っててね、スバル、エリオ、八神部隊長、シャマルさん……私が……私が全部片付けるから!」
虚ろな瞳に歪んだ決意を浮かべ、彼女は走り出す。

そうして、彼女が走っていった先にあったもの。
それが、モノレールの駅であり――――


クロスミラージュは考えていた。
主の元を離れた自分を手にした見ず知らずの男が殺し合いに乗らない、信用に足る人物であるのかどうかを。
信用に足る人物ならば、自分もこの状況を打破するべく知恵を貸すなりして協力したいが、もしそうでなかった場合は、自分を人殺しの道具として悪用されてしまう可能性がある。
だから沈黙を守り、ただの撃てない拳銃のふりをしていた。
こうして沈黙している間に、男が信用にたるかどうか調べる為に。
そうして沈黙すること6時間。
今までの男の様子を観察した結果、彼が殺し合いに乗らないことを確認したクロスミラージュは、ついに言葉を発した。

――これが、あの時の博物館での出来事の顛末だった。

「つまり、私はあなたに認められたと」
『そういうことになります』
「それは実に光栄なことです。ありがとうございます」
そんな会話をしながら、彼……もとい彼“ら”は歩いていた。
目指すはモノレールの駅。
乗るにしろ、乗らないにしろ、一度運行状況を把握しておいたほうが後々の為になる。
そう考え、彼らは駅に向かっていたのだ。
「ところで、クロスミラージュ君。君に質問があるのですが」
『何ですか。Mr.明智』
「君は先ほど、自分を魔法を補助する為の道具だといっていましたが……その魔法というのはどういったものか説明できますか?」
『はい。少し長くなるとは思いますが――』
錬金術といい魔法といい、自分からすれば、それこそフィクションの産物のような力を持つ人間が沢山いる。
そして、自分はそういった力にもいずれ対抗しなければならないかもしれない。
対抗するには、その力がどのような原理の元に働いているのか。
それを知る必要があり、明智はそのような意図の下クロスミラージュから説明を受けることにしたのだ。
『――と、いうことなのですが……分かりましたか?』
「ふむ……つまり、自身というコンピュータの中で詠唱というコマンド入力をすることによって、魔法というプログラムを起動させる……といった形態なんですよね。
 そして、あなたはその詠唱を簡略化する、いわばショートカットコマンドを持った道具である、と」
『理解が早くて嬉しい限りです』
元々プログラミングにも精通していた明智は、それを理解するように魔法という存在を理解した。
どうやら、クロスミラージュの知る“魔法”は、自分の知る物理や数学の世界の延長線上にあり、随分と体系化された技術のようだ。
……が、それは同時に、その魔法という技術が、ある日突然使えるようになるものではなく、魔力という媒介と一定の修練がなければ使えないということも意味している。
「どうやら、私には使いこなせないようですね」
『申し訳ありません……』
「いえ、あなたが謝る様な事ではありませんよ。魔法について理解できただけでも収穫が――と、喋っている間に到着したようですね」
クロスミラージュとの会話の途中。
彼らはようやく目的地であるモノレール駅にたどり着いたのだった。

明智達がたどり着いた『出石(でいし)駅』は、地上部から伸びる階段の先にある中二階部分に駅舎が、さらにそこから階段を昇った2階部分にホームがあるという様式だった。
モノレールを通す軌道は一本、単線であり、待機線はない。
全ての駅を同じ構造と仮定するなら、ここでは一編成のモノレールを終点に着くたびに折り返させながら運行しているものと考えられる。
「実に効率の悪い運行をするのですね、螺旋王。これでは赤字確定ですよ?」
ホームに立ち、軌道を観察する明智は、盗聴しているだろう螺旋王に向かって愚痴をこぼしてみる。
それに意味が無いと分かっていながらも。
そして、次に彼はホームの看板にあった時刻表を眺める。
「ふむ……7時丁度到着の20分出発ですか」
『直に到着するという事ですね』
モノレールの到着はそう遠くないらしい。
ちなみにモノレールが進む方向は、D-1方面。
水族館やらドーム球場といったアミューズメント施設が近くにはあるようだ。
『市街の中心から離れた場所に向かうようですが、どうするのですか? Mr.明智』
「確かに中心街から離れた場所に向かうことになりそうですが……あの博物館に興味深い事実があったように、あちらの施設にも何か隠されている可能性があります。行ってみる価値はあるかもしれませんよ?」
『そう言われて見ると、その判断にも一理あります』
「どちらにせよ、まだ到着までいくらか時間があります。それまでに駅舎の内部をもう少し調べてみるとしましょう」
時計を見れば、まだ10分強の猶予がある。
その間、ただ何もせずに待っているというのも時間の無駄だと明智は判断し、階段を下っていった。

中二階にある駅舎フロアは電灯が灯っていない為に薄暗く、そして極めて簡素な作りになっていた。
ホームへ続く階段、地上へ下りるための階段、自動券売機、自動改札、トイレ、そして駅員の詰所。
そこにあるのは大まかに分けて、6つの設備、フロアしかなかった。
そして、その6つのうち、券売機と自動改札はホームに上がる前に電源が入っていないのか、作動していないことを確認してある。
よって、明智が次に調べたとしたのは……
「……ふむ。さすがに武器らしい武器が置いてあるわけありません、か」
明智は詰所のドアを開き、中を調べていった。
しかし、そこには事務用品や帳簿のようなものしかなく、有益そうなものといえばモノレールの運行状況を示した表、ダイヤグラムがあったくらいだった。
それを見るに、モノレールは明智の予想通り、一編成の折り返し運転によって運行されているようだ。
明智はいつか役に立つかもしれないと考え、それを詰所の隅にあったコピー機で複写してデイパックにしまうと、部屋を出ようとする。
するとその時、彼は物音を耳にすることになる。
それはドアの向こう、地上部に繋がる階段の方向から聞こえてくる声で……


ティアナがモノレールの駅の階段を上っていったのはただの気紛れだった。
あえて理由をつけるならば、「そこに駅があったから」と言うべきだろうか。
とにかく、そんなわけで彼女は今、駅舎のフロアにたどり着いたのだ。
「…………」
だが、先述の通り彼女は当てもなくここにやってきたわけで、駅に来て何かをしようと思っていたわけでもない。
故に彼女はただ、何もせずにただ立ち尽くすだけだった。
しかし、そんな時だった。
「おはようございます」
突如、左前方にあったドアが開いたかと思うと、眼鏡を掛けた長身の男性が姿を現した。
男は、ティアナと同じフロアに立つと、ドアを閉め、こちらに微笑みかけてきた。
「あなたはティアナ・ランスターさんですね?」
「……!?」
「あぁ、すみません。まだ自己紹介してませんでしたね。私は日本の警視庁刑事部捜査第一課の明智という者で――」
男は自己紹介を続けるが、それはティアナの耳には届いていなかった。
彼女の脳裏では、何故この男が自分の名前を知っているのかという疑問が渦巻いていた。
自分はこの男に会ったことも無ければ、雑誌やテレビで見かけたこともない。
正真正銘の初対面のはず。

なのに、何故知っているのか?
誰かから伝え聞いた?
その“誰か”とは?
……決まってるじゃないか。自分を知っている“誰か”とは“六課の仲間”だ。
そして、この場にその仲間がいないということは、つまりこの男は六課の仲間から情報を聞きだした後、卑劣にも殺害したに決まっているわけで……。

「――というわけで、あなたに戦意がないのであれば、是非協力して……」
「うっさい……」
「……え?」
「うっさいって言ってるでしょ!!!」
叫ぶと同時にティアナはチャージしていた魔力を解放、複数の光弾を男目掛けて放った。
だが、それは男が間一髪で回避したために、男の代わりに駅舎の壁に直撃する。
すると、壁は轟音を立てて崩れてゆく。――非殺傷設定など、遠の昔に解除していたのだ。
「突然どうしたのですか? 私にあなたを攻撃する意志は――」
「うるさいうるさい! うるさいうるさいうるさい!! そんな言葉に騙されるものか! お前達は……全員敵なんだ!!」
男目掛けて、再度光弾を発射するも、それはまたしても壁を抉るだけに終わる。
「――だったら!」
ティアナは光弾を生み出すと、今度は軌道を大きく上方に変更して発射する。
すると、弾は男の真上にあった案内板を支えるポールを直撃、天井との接点を失った案内板は真下の男を襲うことになり――
「くっ――」
回避運動を行う隙を彼女は見逃していなかった。
「シュート!!!」
今度こそ当たれ! そんな意志を乗せて光弾は男へとまっすぐに突き進む。
しかし、男は今度は屈むことでその直撃を免れた。
ただし、彼の肩を弾のひとつが掠めたようだったが。
「チィッ!」
精製した魔力弾は、今ので弾切れだ。
ティアナは目の前の男に角の影へと隠れるチャンスを与えてしまった。

……だが、これで終ったわけではない。
駅の唯一の出口である階段前は自分が押さえている。
ホームに逃げるにしても、上り階段へ向かうには自分の前へと一度姿を見せなくてはならない。
ならば、ティアナはそこを突くまで。
彼女は冷静にそのような考えに落ち着くと、再度魔力弾を精製し始めた。


ティアナが階段前で待ち構えている頃。

「やれやれ……参りましたね」
弾が掠め、血が流れる左肩を押さえながら明智は、その端正な顔に焦りの表情を見せる。
「あなたの言う魔法というものが、我々の知る銃火器に近い存在であることを身をもって痛感しましたよ」
『一体どういうことなのでしょうか……。何故マスターが……』
クロスミラージュは動揺しているような声を発する。
無理もない。
いくつもの作戦で行動をともにしてきた彼にとって、今のティアナの様子は信じられないほど変わっていたのだから。

――詰所で物音を聞いた時。
誰かが近づいてくることを察知した明智は、改札横の窓からティアナが近づいてきたのを確認した。
そしてその事実をクロスミラージュが知ると、彼は「ティアナと合流してみてはどうか?」と提案してきた。
クロスミラージュは知っていたのだ。
彼女が決して殺し合いに乗るような人間ではなく、生真面目で明智と同じような正義感を持ったパートナーである、と。

だが、行動の結果からすると、そのクロスミラージュの思惑は見事に外れたことになる。
彼女は、明智の話を遮って突如として攻撃してきたのだ。それも非殺傷設定を解除した状態で。
『何故このようなことに……』
「元から殺人狂や疑心暗鬼に駆られやすい性格でなかったとするなら、原因は恐らく……キャロ・ル・ルシエの死でしょうね」
放送で呼ばれた中にいた一人、キャロ・ル・ルシエ。
詳細名簿によれば、ティアナと彼女は、同じ職場の仲間らしい。
互いにまだ子供、しかも同性とくれば、恐らくはそれなりに親しかったのだろう。
そのような人物が死亡したとなれば、彼が博物館で危惧していたような“心変わり”を起しても何ら違和感は無い。
「よくよく見てみれば、彼女の衣服には血痕が多数付着していましたし……私としたことが油断していましたね」
『いいえ、私がマスターの様子を十分に観察する前に、顔を出そうと言ったのがそもそもの原因で……』
「クロスミラージュ君、今はそのようなことを延々と言っている場合ではなさそうですよ」
隠れた影から、ティアナのいるほうを覗く明智。
すると、そこには無数の魔力弾を空中に浮かせ、階段前に陣取る彼女の姿がありありと見えた。
「まずは、この状況をどうにかしないと……」
下に逃げるにも上に逃げるにも、ティアナの前へと飛び出なくてはいけない状況下。
あの魔力弾の弾幕を単純に掻い潜るのは困難だろう。
――といって、いつまでもここに留まっているわけにもいかない。
ならばどうすればいいのか。

……明智はその脳をフルに回転させながら考えていた。


隠れる明智と、構えるティアナ。
二人の間で続いた膠着状態を最初に破ったのは、明智の方だった。
「ティアナさん、聞こえますか?」
壁に身を隠したまま、明智はティアナに聞こえるような声で尋ねる。
だが、彼女はそんな彼の問いには反応しない。
いや、聞こえてはいるのだが、無視しているのであった。
敵の言葉に耳を貸す必要などないのだから。
「もう一度言いますが、私にはあなたを殺そうとする意志はありません」
ティアナはそれでも返事をしない。
「出来れば、あなたもその物騒な弾丸を収めてくれると嬉しいのですが……無理ですかね――と、おっと!」
問いかけながら角から顔を出した明智目掛けて、ティアナは魔力弾を数発撃ちこむ。
だが、結果は相変わらず壁を抉るだけ。
すると、壁の向こうに隠れた明智は再度ティアナに質問をぶつけてきた。
「では、一つだけ質問を。……何故あなたはこのようなことを? このようなこと、あなたの友達や上司は望んでいるのですか?」
「――!!」
「聞き及んだところによると、あなた達は向こうの世界では治安維持の為に働いていたとのこと。そんなあなたが何故このような殺し合いに乗ってしまったのですか?」
その言葉を聞いて、ティアナの頭には血が上ってゆく。
何故こんなことにしているかだと?
決まってるではないか。
自分達六課の仲間を、見ず知らずの“敵”から守るためだ。
キャロのような悲劇はもう繰り返してはいけない。
だから、自分が人を殺したり出来ないであろうスバルやエリオに成り代わって、参加者を殺そうと決意したのだ。
それだというのに、あの男は……!
「それと、私はあなたの相棒であるクロスm――」
「何も分かってないくせに……私達のこと何も知らないくせに……そんな言葉に誰が乗せられるものかっっ!!!」
明智の言葉を遮りティアナは、魔力弾を一気に明智の隠れている場所に撃ち込む。
今度は今までのような直線軌道の弾丸ではない。
自分の遺志である程度のコントロールが出来る誘導弾だ。
誘導する先は勿論、男の来ていたスーツが見え隠れする角の向こう。すると――
「ぐあぁぁぁぁ!!!!」
弾がその向こうに消えて間もなく、男の叫び声が聞こえてきた。
先ほどまで、余裕を持ったいけすかない喋り方をしていた男の声だ。
今まで真っ直ぐにしか飛んでいなかった弾が突然曲がって、しかも大量にやってきたのだから、ひとたまりも無いだろう。
「やった……のよね?」
ティアナは、男の被弾を確認するために奥へと進んでゆく。
すると、そこには確かに穴が空き、焼き爛れたスーツの上着があったのだが…………
「――!?」
ティアナの目の前にはスーツの残骸はあれども、それを着ていた人間の方がいなかった。
あるのは、黒焦げの上着と横倒しになった同じく黒焦げの背の高い観葉植物のみ。
このとき、ティアナがもし六課の普段の教導の時のように冷静であれば、これが囮であり、すぐ傍にこれを仕掛けた張本人がいることに気付いていたであろう。
だが、今の興奮した状態のティアナにそのような判断は下せなかったようで……背後の存在に気付くのも一歩遅かった。
「……な、は、離して!!」
「ここで離してしまうほど私も愚かではないのでね」
気付けばティアナはうつ伏せに押し倒され、両腕を後ろに捻りあげられていた。
「こ、殺してやる!! あんたなんかにあんたなんかに殺されてる場合じゃないのよ!!」
「うぉっと……やはり訓練を受けているだけありますね……。しかし、私も今のあなたを野放しになど出来ません。……少し頭を冷やしてもらいましょうか!」
「――ぐぁっ!」
首筋に鈍い痛みを感じると同時に、ティアナの意識は深い闇に包まれていった。
そして、彼女は意識を完全に失う直前、懐かしい声を耳にすることになる。
『申……あ……せん、……ター……』

――あ……れ? この声……って……クロ……スミラー………………


「とりあえず……今はこれでいいでしょう」
何とかティアナを取り押さえることに成功した明智は、少女が完全に意識を失ったことを確認して、大きく息を吐いた。
「次に目を覚ました時は少しは冷静になってくれているといいのですが……」
『マスター……』
「今はそっとしておきましょう。それよりも……」
明智は立ち上がると、焼き爛れた上着の元まで歩き、それを拾い上げる。
「直撃なら今頃、私がこのスーツの穴のある場所に穴をあけていたわけですか……。事前に貴方に誘導弾の事を聞いておいて本当に良かった」
『マスターなら、あの状況で誘導弾を使わないはずがなかったですから……』
ティアナを説得しようとしていたあの時。
彼はクロスミラージュから、ティアナの砲撃魔法について簡単に説明を受けていた。
もし、彼女が本気ならば、そろそろ誘導弾が発射されてもおかしくない、と。
そのような忠告を受けていたからこそ、彼は観葉植物の木をスーツを組み合わせる事でダミー人形を作ることを思いついた。
角から見え隠れする位置にそのようなダミーがあれば、誘導弾の目標もそちらに定めるだろういう見込みだったのだが、どうやらそれは的中したようだった。
「せっかくの上着が台無しになったのは切ないですが、今回はまぁ仕方のなかったということで――」
明智は焼けた布切れと化した上着をその場に置くと、再びティアナの元に。
そして彼は、彼女を抱きかかえた。
『マスターをどうするつもりで?』
「このまま放置しておくのも男として恥ずべきことですしね、詰所で寝かせてあげようかと」

詰所には丁度いい具合に、人を寝かせられるサイズのソファがあった。
明智はそこに彼女を寝かせると、今度はどこからか荷造り用のナイロンロープを持ってくる。
『Mr.明智。まさかあなた、特殊な趣味が……』
「違います。あのような出来事がありましたから、一応の処置ですよ。起きてすぐに私の顔を見て暴れだされたら、それはそれで困りますし」
『ということはつまり、あなたはマスターが起きるまで、付き添うと?』
「そういうことになりますね。女性を放置しておけるほど私も腐ってはいません」
目の前で眠る少女は、ふとした衝撃で心にひびが入り、そのひびが大きくなることで暴走を始めたに過ぎたに違いない。
犯罪を芸術と見る高遠や、最初から仲間を守ると決意してゲームに乗ったロイとは違う。
だからこそ、まだ救えるかもしれない。まだ正気に戻ってくれるかもしれない。
警察とは、犯罪者を取り締まるだけの組織ではない。
犯罪を犯した者に更生させるための機会を与える組織なのだ。
そんな組織に属する明智だったからこそ、ティアナには立ち直ってほしいと思っていた。
だが、ここには明智と思いを同じにする――いや、明智以上にそれを願うものがいた。
『Mr.明智。ここは私に任せてもらえないでしょうか?』
クロスミラージュは、ティアナの両手を拘束しようとしていた明智を呼びとめ、そんな提案をしてきた。
当然、明智は驚いたようにクロスミラージュの方を振り返る。
「いえ、任せるとは言っても、あなたには手がないですからロープを縛るという行為が――」
『そうではありません。私に任せてもらいたいのは――マスターの説得です』
作業を続けようとしていた明智の手が止まる。
『あなたは非常に聡明だ。ここで時間を潰しているよりも、他の施設を回ったり、あなたと同じ意志を持つ仲間を探したほうが有益なはずです』
「しかし、私があなたを放置してこの場を離れてしまっては、もしもの時に……」
『私を信じてください。私がマスターを……絶対に説得してみせます』
語気を強くしてクロスミラージュは主張する。
今まで常に冷静であった彼がそこまで言うのであれば……と、明智は考える。
確かに、彼女が目を覚ました時、自分を気絶させた張本人が目の前にいては錯乱状態を再度陥るかもしれない。
説得をするなら、彼女が信じているパートナーの方が適しているはずだ。
ただし、もし説得に失敗した場合は、ティアナは得物を手に入れた状態で殺戮の舞台に舞い戻ることになる。

クロスミラージュに任せるか、それともやはり自分が残留するか。

明智が考えた末に出した結論は――――

「ほぅ、車両自体は立派なものですね」
ホームに待機しているモノレールを眺めながら、明智は呟く。
単線かつ一両編成の折り返し運転という環境から、質素な車両を想像していた彼にとって、目の前にあった車両は外観も内装も意外なほどに綺麗に見えたのだ。
ただし、「らせん号」と書かれたネームプレートだけはいただけなかったが。
「――と、こうして眺めている場合ではありませんでしたね」
時計を見れば、時間は7時20分になろうとしている。
明智は車内に足を踏み入れ、出発を待つ。
そして、それから間もなく発車ベルがホームに鳴り響き、ドアが閉まるとモノレールはゆっくりと北上を始めた。
窓を覗けば出石駅がどんどん遠ざかっていく。
明智は、その駅を見ながら、そこに残していった仲間の無事を祈った

(……後は任せましたよ、クロスミラージュ君)




明智がモノレールに乗り北上を始めた頃。
クロスミラージュは詰所のデスクの上にいた。
そしてそのデスクの傍では、ティアナがソファに眠っている。
そう、結論から言えば、彼は明智に説得を任されたのだ。

――「では、ティアナさんの説得は任せます。私はひとまずモノレールでD-1へと向かってみようと思います」
――「しかし、特に何もなければ、10時50分発の便でこちらに戻ってくるつもりです。彼女のことも気がかりですし」
――「ではまた後ほど。それまでの間、彼女をお願いしますよ、クロスミラージュ君」

人ではない、道具に過ぎない自分を彼は信用してくれた。
ならば、クロスミラージュもそんな明智の信頼に応えなくてはならない。
自分はティアナのパートナーだ。
壊れた彼女を元の少し厳しいところもあるが根は優しい彼女に戻すのは、当然の義務だ。
「う、うぅん…………」
依然、深い眠りについたままのティアナ。
彼女の壊れた心は、本当に直せるのだろうか?

それは、誰にも分からない。


【C-4・モノレール車内/一日目・朝】
【明智健悟@金田一少年の事件簿】
[状態]:若干疲労、右肩に裂傷、服も乾いてきた頃(上着喪失)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、参加者詳細名簿、予備カートリッジ8
    ダイヤグラムのコピー
[思考]
基本思考:犯罪芸術家「高遠遙一」の確保。ゲームからの脱出。
1:ゲームに乗っていない人間を探しつつ施設を回る。
2:D-1駅に到着次第、付近を調査(水族館かドーム球場を回りたい)
3:D-1駅から10:50発のモノレールに乗ってD-4駅へと戻り、クロスミラージュと合流。
4:金田一、剣持を探す。
5:明日の正午以降に博物館の先に進む。信頼できる人物にはこのことを伝える。

[備考]
※参戦時期はアニメ最終回(怪奇サーカスの殺人)後
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。

【D-4・D-4駅駅員詰所/一日目・朝】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:精神崩壊、血塗れ、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
1:…………
2:スバル、エリオ、はやてが危険に晒される前に他の参加者を皆殺しにする。
3:映画館近辺には戻りたくない。が、あの二人(ジェットとチェス)はいつか殺す。
[備考]
※キャロ殺害の真犯人はジェット、帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。
 これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。
 この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っていますが、相手に対する殺意が強ければなんとか握れるものと思われます。
※冷静さを多少欠けていますが、戦闘を行うことは十分可能なようです。
※説得をクロスミラージュに一任している為に、手足は拘束されずに済みました。


[全体備考]
※D-4駅には戦闘の痕跡が残っており、明智の上着が放置されています。
※「クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/4) x2」が詰所のテーブルに置かれています。


時系列順で読む


投下順で読む


075:螺旋博物館 明智健悟 138:明智健悟の耽美なるバトルロワイヤル――幕間
088:阿修羅姫(後編) ティアナ・ランスター 128:迷走Mind





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