倉田屋で会いましょう ◆hsja2sb1KY



 うらぶれた、いかにも下町風情といった感じの場末のラーメン屋、『倉田屋』。古今東西あらゆる人たちから愛される場所、それがラーメン屋のはずである。
 だがここは今や、殺し合いの舞台にあまりにもそぐわなさ過ぎる、なぜここにあるのかもよく分らない意味不明な場所と化している。
 ささくれ立った参加者達の心を慰めようと存在しているのかも知れないし、特に深い意味を考えてしまうことこそきっと無意味なのかも知れないが。

 その店の玄関口に一人の女性が立ちはだかっていた。その女性は銃を片手に構え、もう片方の手は玄関にかすかに触れ、今にもラーメン屋に踏み込まんとする姿勢でいる。
 だが動けない。動かない。ぴくりとも身動きひとつとれないでいる。
  それはラーメンを食べたいのに我慢している女性公務員というわけでは決してない。
 怪しげな男が若い女性を人気のないラーメン屋に強引に引きずり込む現場に居合わせた、機動六課課長・八神はやて。
 これは犯罪現場に間違いないと彼女は確信し、普段の彼女ならすかさず止めに入っていたに違いない。
 もじゃもじゃ髪の怪しげ極まりない神父の説教に惑わされ、すでに彼女の正義感は完全に揺るがされていた。困惑と切迫感がはやての心を支配する。
 手に持った銃がじっとりと汗に滲み、硬直と膠着状態に陥っている。

(どうする、どうするんや、はやて!?)

 焦りが混乱を助長し、判断を鈍らせようとしている。いまだかつて冷静な頭でこれほど混乱したことはあったろうか。なかったろうか。
 例えば仲間達を助けるために。例えば大きな惨劇を食い止めるために。目の前で起きているであろう事件を見過ごして先を急ぐのか。
 そんなことができるはずがない。そんなことができるはずがないというのに、まだ彼女の心には先ほどの神父の言葉が毒蜘蛛の様に執拗に絡みついてくる。
 自分の信念が正しいのかという迷いが生じ始めている。
 むしろ正義がどうのと御託を並べず、この玄関を開けて中に踏み込みさえすればいい。けれど中に踏み込んでしまうと、見てはならないものを見てしまいそうな気がする。
 あの神父の言句のように、覗き込んではいけない禁じられたエデンの園の甘美な果実の様な。

(もの凄い取り返しのつかんことになってたらどないしよう?)
 硬直しているにも関わらず、ぼっと顔を赤らめる。妄想が加速を始めようとする。あまりに過激な内容すぎて思考がほんの一瞬だけ一時停止する。
 なぜか穏やかなBGM付きでお花畑の風景が脳裏に映像として浮かびあがる。『しばらくお待ちください』とのテロップ付きで。

(そないなことになってたら、私にはもうどうしたらええのかわからへん……)
 彼女には、それ、がどれぐらい時間が掛かるものなのかわからない。万が一取り返しのつかない事態になっていたとしたら。
 下手をしたらとんでもなく厄介な事態に巻き込まれてしまうかも知れないし、その遅滞した分、もっと取り返しのつかない事態が起きてしまうかも知れない。
 実際には数分程度しかたっていないのだが、迷い混乱しきり、妄想が暴走気味の彼女には数時間のように感じられた。
 ふと我に返る。

(そ、そや!迷ってても時間のムダムダ!早くどうするか決めんと!)
 無理矢理気を取り直す。銃身でこんこん、と頭を叩く。少し冷静さを取り戻す。

(落ち着いて考えるんや、はやて!余計な言葉にも他の状況にも!気を惑わされずシンプルに考えるべきや!)
 胸に手を当てる。すう、と小さく深呼吸をする。COOLになれ。何も迷うことはない。必死で自分に言い聞かせる。

(この店の中で女性が助けを求めてるかも知れへんのや……)
 銃を握っていない方の手に青スジをたてながらギュッと拳を握る。心の奥底で覚悟を決める。

(そうや、女の敵は倒さなあかん!)
 くわり、とはやての目が見開かれた。微妙に明後日の方向にではあったのかも知れないが。


  □ □ □


 玄関を開ける。
 薄暗く人気のない店内に踏み込んだ。

(あれ……?)
 はやては少し拍子抜けする。そこそこ広めの店の中には誰もいない。
 周囲を見渡す。テーブルもイスも整然と並べられており、荒れた形跡もない。

(どこ行ったんやろか……まさか……もう全部終わって裏口から出て行ってしもたんやろか……)
 不安がよぎる。だが、まだカウンターの奥の厨房を見ていない。二階もまだだ。
 とりあえずカウンターに向かってゆっくりと歩を進める。
 その時、厨房の方から大きく金属音が鳴り響いた。

(あかん、急がんと!)
 はやては厨房に向かって走りだしていった。


  □  □  □


「クソ、やっぱりロクなもんがありゃしねぇ」
 冷蔵庫の中を漁りながらスパイクはぼやく。
 食べ物がある、と勇んでラーメン屋にはいったものの、スパイク・読子双方共に料理権を押し付け合い、痛み分けに落ち着いていた。
 料理できればまともな食事にありつけただろうが、生憎スパイクも読子も料理はほとんどしない。
 二人とも、これまで衣食住はロクにかまわずに生きてきた。ならばと手分けして、それぞれの場所でなんとか食べられそうな物の調達を行っていた。

 スパイクは厨房を探索中。ぼやきながらも、実は結構食べられそうな食べ物は見つけてある。
 スパイク基準で二日分ぐらいは持ちそうな量をデイパックに放り込んである。
  読子の分は大して残されていない。その姿はまるで欠食児童の如きであった。

「さて、そろそろアイツの様子も見てくるか……と、うおっと」
 立ち上がろうとしたとき、台の上に乗っていた中華鍋にぶつかってしまう。そのまま中華鍋は床に落ち、ぐわんぐわん、と大きな金属音をたてる。

「びっくりさせんな、よ」
 スパイクは中華鍋に文句を言いながら拾い、元の場所に戻した、が。
「う、動かへんといてや!!」 
 厨房に駆け込んできた女性の声に動きが止まった。
 スパイクは駆け込んできた女性が銃を構えているのを見た。

「クソ!」
 スパイクは、毒づきながら自分の拳銃をとろうと腰に手を伸ばす。
 しかし、はやては声を掛けながらすでに銃の引き金を引き終えていた。

(クソ……)
 スパイクの目の前が真っ暗になる。
(……やられた……スマン、ジェット。後を頼……む……)
 相棒の顔を思い出す。
 そのまま一言も発することも出来ず、彼は……。


  □  □  □


(やってしもうた……)
 男の見るも無惨な姿を見て呆然とする。

 はやては周囲を見渡す。他に誰の姿も見えない。犯行の最中ならば女性も一緒にいる筈だ。
(もう手遅れやった……)
 はっと気づく。
(まさか殺されてしもうたんか……?)
 彼女の脳裏に婦女暴行殺人事件をうつす大阪の報道番組の一シーンがぐるぐると浮かぶ。
――私が!私がもっと早くに踏み込んでいたら彼女は!
 泣き叫びながらインタビューに答えるモザイクをかけられた、なぜか自分自身の姿が目に浮かぶ。

 その時。
 店の方からとんとん、と階段を二階から降りてくる足音がした。
 読子が厨房に顔を出して朗らかに言う。
「あの~スパイクさ~ん、上で食パン見つけましたよ~」


 その時読子は見る。



「―――――!!」「―――――!!」「―――――!!」
 銃を握りしめながらあっけにとられて自分を見るはやての姿。
 顔にへばりついたトリモチを取ろうと見苦しく悶絶する窒息寸前のスパイクの姿を。


――その後、スパイクが三途の河原を渡りかけたのと、はやてと読子が必死でスパイクの顔からトリモチを剥がして奇跡の生還を果たしたのは、ささやかな美談に違いない。


  □  □  □


「これ、ほんのおわびや」
「悪いな」
「ごちそうさまです~!」

 二人に簡単なサンドイッチをつくって出す。自分の分も用意してある。たいしてロクな食材は残ってなかったので、少し不満だったが手軽な食べ物にした。
 ほとんどスパイクが採り尽くしてしまったのだと知る由もない。スパイク本人もそれを自己申告してわざわざ提供するつもりは毛頭ない。

 三人で並んでカウンターに座る。

「本当なら、窃盗罪と不法侵入罪で警察に突き出すところなんやけどなー」
 自分を棚に上げて言う。
「しょーがねーだろ。どこもかしこも誰もいやしねえんだから」
「食べ物も食べる人がいたほうが喜びますよ」

 軽く会話をしながら三人で軽食をとる。

「お二人はとりあえずどちらさんまで行こうとしとるん?」
「俺たちは温泉観光の途中だ」
「スパイクさんが連れて行ってくれるって言ったんですよ~」
 やる気なさそうに頬杖をついて言うスパイクと、それに合わせて満面の笑顔を見せる読子。

「……そーかいな……」
 苦笑いをして、はやては思わずツッコミを入れそうになる。

 が、その選択は悪くないと思う。この二人は殺し合いに乗らないつもりのようだ。温泉は地図の端にある。
 あまり寄りつく人間はいないだろう。病院や警察署ならともかく、殺し合いを望む者にとっても無意味な場所でもある。
 考えれば考えるほど、身を隠すには最高の場所に思えてくる。
 実際はこの二人、現状を深く考えていないどころか全く把握していない。

「私も東回りやけど人との約束で北のほうへ行くんで、別々やね」
「そか」
「残念ですね~」
 片隅の方に行って動かないでいてくれるのなら、お互いの情報交換は必要あるまい、とはやては早計に判断を下す。

 殺し合いに参加するつもりも毛頭なさそうやしと。それに今は積極的に活動を行える気分ではない。お互いの名前のみを確認した。


  □  □  □


「ほんじゃ、俺たちもう行くわ。ごちそーさん」
「あの、ごちそうさまでした~!」
 スパイクが全部きれいに食べ終わって言った。それに合わせたように読子も食べ終わる。二人は立ち上がる。

「はい、お粗末さんでしたー」
 はやては座ったまま、ひらひらと手を振る。
「あ、そうだ。あんたも途中までだったら同じ道だろ?そこまで行かないか?」
「あ、そやね。……あ……でも……私は少し休んでから行くんで、先に行っててくれるか?ごめんな」
「ん、そか」
「わかりました。でも、できれば後から来てくださいね~」
 スパイクと読子はかすかに残念そうな顔を見せる。
 ちなみにスパイクには、読子のようなビブリオマニアよりは、気の利きそうなはやての方を伴ったほうがはるかにマシ。
 あわよくば温泉まで同伴を、という魂胆があった。……どうでもいいが。


 ガラガラと戸を開けて二人は出て行く。はやてはボンヤリと座って戸が閉められるのを見ていた。
 人気のなくなったカウンターにもたれかかる。
(ごめんな。少し考え事したかったんや)
 心の中で二人に謝る。正直今だけはあのマイペースな二人と積極的に一緒に行動する気になれなかった。

 あの神父の言葉。少し考えてみたかった。



―――――自分の願いを叶えるということは、誰かの願いを妨げるということだろう?―――――



 認めてはならないと思う。自分は大切な人達を守るために今まで努力を重ねてきた。人を選ぶつもりはない。それが誰であろうと変わりはないはずだ。
 認めたら、今まで自分が努力して掴んできた願いを否定してしまう。だとしたら何故こんなに心が揺らぐのか。何故こんなに心が騒ぐのか。
 それがあの神父の言葉が持つ魔力なのか。もう少しここで考えていたら何か答えが分るかも知れない。そう思った。
 ふうっと溜息をつく。



(あれ……?)


 ふと、カウンターの下に何か置いてあるのに気づいた。ひっそりとデイパックが置かれていた。
 そういえば読子は出て行くとき、手に一冊の本しか持っていなかったと思い至る。
(うっかりさんやなあ。私も気がつかへんかったわ。まあ、すぐに気づいて慌てて取りに戻って来るやろな)
 取りに戻ってこなくても、さっきスパイクが言っていた通り、途中まで同じ道なのだから急いで渡しにいけば充分間に合うだろうかと考える。

 はやてはデイパックを見る。

(どないしようかコレ……)


     □



――やがて放送が始まる。



 第一回放送開始。



 それが彼女にとって何を意味するものなのか、まだ誰にもわからない。




【G-4ラーメン屋店内 一日目・早朝】
【八神はやて@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
 [状態]:健康、迷い・困惑
 [装備]:トリモチ銃@サイボーグクロちゃん
 [道具]:支給品一式 、レイン・ミカムラ着用のネオドイツのマスク@機動武闘伝Gガンダム 、読子の支給品一式と拡声器
 [思考]
1.読子の支給品をどうしようか迷う。
2.自分の信念が正しいのかという迷い。困惑。
3.東回りに観覧車へ。クロと合流する。
4.主催者を逮捕するのは、果たして正しいのだろうか?
※ムスカを危険人物と認識しました
※シータ、ドーラの容姿を覚えました。
※モノレールに乗るのは危険だと考えています。
※言峰については、量りかねています。



【G-4ラーメン屋の東側。少し離れたところの路上 一日目・早朝】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
 [状態]:健康
 [装備]:デザートイーグル(残弾8/8、予備マガジン×2)
 [道具]:支給品一式
 [思考]
1.とりあえずオンセンに行ってから帰る。
2.読子と一緒に行動してやる。



【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ)】
 [状態]:健康
 [装備]:○極○彦の小説、飛行石@天空の城ラピュタ
 [道具]:なし
 [思考]
1.○極○彦先生の本を読破する。
2.スパイクと一緒に温泉に行ってから帰る。
※荷物を置き忘れたことに気づいていません。


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087:肉はない。が、監視はある スパイク・スピーゲル 130:賽は投げられた・side b
087:肉はない。が、監視はある 読子・リードマン 130:賽は投げられた・side b
087:肉はない。が、監視はある 八神はやて 112:悪意の花





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