「プレゼントするのはパルコ・フォルゴレさ!」 ◆LXe12sNRSs



 突然だが、水族館とは、海や河川、湖沼などの水中や水辺で生活する生き物を収集、展示している施設である。
 魚介類や無脊椎動物、両生類、海産獣類、爬虫類といった動物や、水草などが主な展示物であり、
 水族館を訪れる客は、多くがその生体の観察を目的として来るものである。
 しかし近年、旧世紀から受け継がれてきた水族館の様式美も、様変わりをするようになってきた。
 それは、エンターテイメント性の追求である。
 ただ『魚が観れる』だけのアミューズメントではパンチが弱いのか、集客数は年々減る一方。
 水族館側の人間はそんな状況をなんとか打開すべく、イルカやアシカといった人気の動物によるショーを開いたり、
 水族館にちなんだオリジナルグッズを開発したり、動物に特殊な芸を仕込ませマスコットキャラとしてアピールしたりなど、
 試行錯誤を繰り返す内に、昨今の水族館は、ただ魚と水槽を置きそれを見せるだけの施設ではなくなった。

 そこで疑問に思うのが、『このE-1に位置する水族館は、いったいどの年代をベースにして作られたのか』ということである。
 疑問の観点は水族館のみならず、会場全域にも言える。ドーム球場に観覧車などのアミューズメント施設から、
 灯台や空港といった産業の基盤になる公共施設まで、各施設の充実ぶりは目を見張るものがある。
 住まう分には不自由なく暮らせる快適な街……というのは客観的な論。では、殺し合いの舞台としてはどうか。
 そもそも、殺し合いに相応しい会場とは如何なる場所が言えるのだろうか。
 安易に脱出できない環境は当然として、敷地面積は広すぎず、隠れ家となるような施設は最大限排除したほうが効率的なような気もする。
 つまり、この『暮らすには快適すぎる街』は、殺し合いをするに相応しい場所とは到底言えない。
 だが、この殺し合いはただ人と人が殺し合うだけでなく、『優秀な螺旋遺伝子を選出させるための実験』という意味も孕んでいる。
 むしろ、本来の目的こそがこの実験であり、殺し合いはそのための方法でしかない。
 話は戻るが、この、『現代日本のそれと非常に酷似した水族館』は、どういった意味が込められこの場に配置されたのか。
 主催者である螺旋王ロージェノムは、話していた言語こそ日本語だが、とても日本人と思える外見ではなかった。
 いや、日本人どころか、外国人ですらない。そもそも人間なのかも謎。そんな人物がなぜ、実験の会場を日本に模したりなどしたのか。
 なぜ、多種多様な施設を配置したのか。この水族館に、どこまでの狙いが潜められているのか。

「とまぁ、水族館一つでここまで考察できるわけだ、が」

 ――重苦しい印象を放つ男性モノの眼鏡を光らせ、菫川ねねねが言う。

「あいつら見てると、なんか馬鹿らしくなってくるな」

 客席に腰掛けながら、ねねねは遠方ではしゃぐ二人組をみて思う。
 実験、殺し合い、表現の仕方は色々あれど、このような危機的状況でなぜあの二人は、ああも楽しそうにしていられるのだろう……と。

「ハハハ、よーしイリヤ、次はイルカさんと遊ぶぞー!」
「遊ぶぞー!」

 水族館内、直径約20メートルはあるかと思われる円形の巨大プールに、ねねねとイリヤとフォルゴレの三人組はいた。
 ここは水族館内のパンフレットによると、「イルカのプール」と呼ばれる当館の看板スポットらしく、
 バンドウイルカのダイナミックなジャンプや、カマイルカのスピード感あふれる泳ぎなどが、
 音楽と照明に合わせたオリジナルな演出で華麗に繰り広げられ、さらに客席数は1350席でプールを囲むように配置されているので
 どの席からでもイルカたちの迫力あるパフォーマンスは見逃すことなく堪能できる……らしい。本来ならば。
 当然ながら、上記のようなパフォーマンスは、客が目の前にいるからといってイルカが勝手にやってくれるものではない。
 スタッフが指示をして、初めてイルカは芸をする。いかに知能が高くとも、イルカはそこまで万能ではない。
 そして根本的な問題として、このプールにはイルカはいれど、彼らに芸を指示する係員はいない。
 それどころか、この水族館はまったくと言っていいほどの無人。飼育係も清掃員もいない、いるのは動物たちだけだった。
 世話をする者もいなければ、訪れる者もいない廃れた水族館。ゆくゆくはどうなってしまうのか、考えると鬱になる。
 しかし、今は自分たちのことで手一杯な状況だ。いくら愛らしく鳴かれても、ここにいる動物たちの面倒まで見る気にはなれない。
 生きるか死ぬか、それが今の最重要問題だ。

「なのに、目の前の男とちびっ子ときたら」

 プール内を悠々自適に泳ぐラセンちゃん(♀、推定4~6才)を追いかけ回し、黄色い声を上げている。
 心の底から楽しそうだ。まるで危機感が感じられない。バカか、バカなのか。ねねねは自問し、勝手に自答した。

 ――イリヤの先導で水族館を探索し、衛宮士郎他それぞれの知人を捜してみたが、収獲は当然のごとくゼロ。
 理論的に考えて、こんな端っこの施設にそれほど人が集まるはずもない。三人いるだけでも不思議なくらいだ。
 ならさっさとここを離れて他の場所に移ろうとしたのだが、イリヤの好奇心がそれを阻む。
 子供の扱いに慣れているらしいフォルゴレもそれに同調し、結果、ねねねを放って水族館内を遊び回る始末だ。
 付き合いきれん。一人で勝手に出て行こうとも考えたが、これも何かの縁。
 二人に他意はないという考えが先行して、今一歩薄情になりきれない。
 詳細名簿を確かめるまでもなく、あの二人は人畜無害なお人好しだ。一応、信頼はできる、と判断した。
 その確固たる証拠として、ねねねの座る座席の両横には、フォルゴレとイリヤ、二人分の荷物が鎮座している。
 ライフラインとも言える荷物を預けたということはつまり、相手もねねねを信頼している証拠だろう。
 単に危機感が足りてないだけかもしれないが。

「他の連中も、あの二人くらい平和ボケしててくれたら話は早いんだけどねぇ」

 そんなにうまい話があるはずない、とねねねは心中で打ち消す。
 空想の物語を綴る小説家という職業に就く彼女だが、その性格は健全なリアリストだ。
 これが実験という名目の殺し合いであり、それに賛同している輩が既に何人か行動を起こしており、その被害にあった人間も少なからずいる。
 そう、当たり前のように考えていた。実験が開始して数時間、まだ窮地らしい窮地に対面していない自分たちは、運がいいだけなのだ、と。
 もうすぐ流れるだろう放送とて、何人の参加者の名前が、何人の知人の名前が呼ばれるか分かったものじゃない。
 紙使いだから、天才中学生だから、魔物だから、シロウだから――などといった根拠は、まるで意味を成さない。
 覚悟は万全にしておかなければならない。心を打ちのめされたままでは、いざというときに対処が追いつかなくなるからだ。

「というわけで、私はあの二人に目をやりつつ、当てになるかどうかも分からない考察を練ることしかできない」

 ぼやくように吐き捨て、ねねねは自分のデイパックを探った。
 取り出したるは、全19冊の文庫小説セット。表題はそれぞれ違うがどうやら連作モノらしく、シリーズ名は――『フルメタル・パニック!』。
 イラスト付きの表紙から察するに、どうやら中高生をターゲットにした小説らしく、
 アニメ化決定!などと書かれた帯で括られているところを見ると、それなりの人気作であることが窺える。
 ちなみにこれは、元はフォルゴレの支給品だ。荷物を預かる際、ねねねが支給品を見せてくれ、と申し出ると、

『おいおい、私の支給品が欲しいって!? ホラ、受け取りな! プレゼントするのはパルコ・フォルゴレさ!』

 などと言って、頼んでもいないのにわざわざサインを添えて謙譲してくれた。なんというありがた迷惑。
 フォルゴレの温厚は置いておくとして、気になったのはこの本の発行所だ。
 富士見書房。ちなみに作者は賀東招二、イラストは四季童子、単行本は富士見ファンタジア文庫からの刊行。
 ……どれもこれも、聞いたことすらない名称ばかりだった。
 著作者の賀東、イラストの四季の名は置いておくとしても、富士見書房などという出版社はまったくの初耳だ。
 自らの知識を過信するわけではないが、ねねねはこれでも現役の小説家だ。日本の出版業界にはある程度精通している。
 そのねねねが、名前も知らないのだ。これはただ事ではない。

(考えられるとしたら……まぁ、マッハキャリバーが言うような異世界の産物なんだろうけど、これは明らかに日本語だ。
 出版社の名前も、作者や発行人の名前も、物語の舞台も。……つまり、考えられるとしたら。
 マッハキャリバーの言う異世界の概念をさらに超越したパラレルワールド、私の知らない別の日本、この本はそこで生まれた)

 世界が複数存在するのではなく、日本が複数存在する。そしてこの会場には、その異なる日本からの参加者が集められている。
 ねねねが『フルメタル・パニック!』から導き出した推理は、現実味がなく、だからといって否定もできない。
 この推理が真実だと考えるならば、この名簿に名を連ねている読子・リードマンやアニタ・キングは、まったくの別人である可能性すらある。
 パラレルワールド説……世界の構造はまったく同じだが、そこに存在する人や物は、もう一方の世界とはまるで違う。
 この『フルメタル・パニック!』が存在する日本に菫川ねねねなどという作家はいないかもしれないし、彼女の本を発行している読仙社も存在していないかもしれない。
 この会場内にいる読子やアニタも、ひょっとしたら、ねねねとは面識を持たぬ『パラレルワールドの住人』かも知れないのだ。

「ま、そこは実際相手と会ってみないとなんとも。次いこ、次」

 文庫小説のセットをデイパックにしまったねねねは、次いでイリヤの荷物への手をつける。

「念のために言っとくが、一応本人の了解は得てるからな」

 誰にともなく呟いて、ねねねはイリヤに支給された物資を確認する。
 中から出てきたのは、二等辺三角形の刀身に柄を付けただけのやたら不恰好な剣。用途不明の鏡の破片。そして、

「なんじゃこりゃ? ショッピングカタログか?」

 と思えるような、小冊子の三つ。
 ねねねは一番興味を引かれた小冊子をパラパラと捲り、流し読みしていく。
 目に入ったのは、銃火器や刀剣、車やバイク、さらにはぬいぐるみやメロンといった、実に多種多様な写真とその注釈。
 それが全ページに渡って綴られているのを確認して、ねねねは冊子を閉じる。
 どこからどう見ても、通販のカタログだった。

「……って、どこに本物の拳銃売る通販会社があるんだ。だいたい値段も電話番号も書いてないし。つーとあれか、これ……支給品のリストか」

 推理するまでもなく、冊子の表紙には『支給品リスト』と書いてあった。盲点。
 今一度じっくり中を覗いてみると、殺し合いの道具足りえる物品の数々が、写真と説明書き、本来の所有者の名前付きで載っている
 その数百点以上。イリヤのバッグに一緒に入っていた『ヴァルセーレの剣』、『魔境の欠片』なども、事細かく掲載されていた。
 これさえあれば、相手の持つ武器の性質を瞬時に把握でき、対処もしやすくなるだろう。
 しかし融通が利かないことに、これらの支給品のどれが誰の手に渡ったのかまでは、書かれていなかった。

「軍が開発したパワードスーツだとか、小型の高性能爆弾だとか、やたらと物騒なもの多いな。ま、殺し合いなんだからあたりまえか。
 お、マッハキャリバーのお仲間もいるじゃん。他には……マタタビとかブリとか、なんに使えって言うんだ。食うのか」

 ねねねの知識では図れない未知の技術を用いた兵器から、ただの食い物まで、この支給品の山々だけでマーケットが開けるほどだった。
 ザーッと冊子を読み進めていくと、先ほどフォルゴレから譲り受けた『フルメタル・パニック!』の項目も発見する。
 付属の説明書よりも詳細に書かれている説明文を読んでみるが、やはり単なる文庫小説のようだった。
 そして文末には、『柊かがみからの提供。』とある。どうやら、柊かがみというのがあの本の本来の所有者らしい。

「柊かがみ……たしか、名簿にもあったわね」

 詳細名簿を取り出し、柊かがみの項目をチェックしてみる。
 柊かがみ。7月7日生まれ。血液型はB型。身長は159cm。左利き。埼玉県在住。陵桜学園高等部の三年生。
 家族構成は両親に姉が二人、双子の妹が一人。この実験にも参加している柊つかさはその双子の妹であり、泉こなたは親友。
 読書が趣味で、特にライトノベルを愛読。主な愛読書は、フルメタル・パニック!シリーズ、涼宮ハルヒシリーズ等……

(なるほど。あの文庫小説は、このかがみって子の愛読書なわけだ)

 再び支給品リストのほうへ目をやると、『フルメタル・パニック!』の次の項に、ねねねに支給された『ボン太くんのぬいぐるみ』があった。
 これはどうやら、フルメタル・パニック!シリーズに登場するボン太くんというキャラクターのぬいぐるみらしく、こちらの文末にも『柊かがみからの提供。』との一文が。
 これらから推察できることはただ一つ。この、柊かがみという女子高生は――『フルメタル・パニック!』の大ファンだということだ。
 まったくの偶然によるものだが、ねねねの手元には今、柊かがみの所有品が二つも並んでいることになる。
 他意はないとはいえ、ねねねは少し居た堪れない気持ちになる。もしこの地で巡り会いでもしたら、ぜひ二点ともお返ししたい。
 それに、今どき珍しい読書家の女子高生(と勝手に想定)というのも、少し興味がある。
 ビブリオマニアというほどではないだろうが、ひょっとしたら、読子とも話が合うかも……などと思いつつ。

「マッハキャリバーに詳細名簿に支給品リスト、ぬいぐるみに文庫小説に鏡の欠片……武器になりそうなのは今のところこの剣だけか」

 ねねねとイリヤとフォルゴレ、三人はこれからチームとして動く、いわば運命共同体だ。
 できることなら自分たちの身を守れる武器らしい武器が欲しい。正直、あの振りにくそうな剣だけでは心許ない。
 ねねねは望みを託してフォルゴレのデイパックを物色するが、出てきたのは見たこともない文字で綴られた黄色い本のみ。

「本づくしか、あいつの支給品は」

 使えない、もとい、運が悪い男だとぼやきながら、デイパックに突っ込んだ右手が何かを探り当てた。
 指が捉える、武骨でひんやりとした感触。ねねねは若干の緊張感を覚えつつも、一気にそれを引き抜く。
 手が掴んでいたのは、一丁の拳銃だった。

「……なんか、一気に現実に引き戻された感じだな」

 グリップのサイズは、やや手に余る。子供の頃握っていた水鉄砲などとは重量の桁が違う。
 異能を持たぬ者でも、簡単に相手を死に至らしめることができる、お手軽殺傷兵器。
 あればあったで安心できる物ではあるが、いざ握ってみると、引き金に触れることすら恐ろしく思えてくる。
 遠くない未来、この引き金を引くことが、黒光りする銃口を誰かに向けるときが、必ずやってくるのだろう。
 大切なのは、そのとき臆さないことだ。敵を敵と割り切り、早々に安全を確保するために、相手を撃つ。
 それさえできればいいのだが、それが難しい。

「ま、こりゃそもそもあいつのモンだし、私が覚悟したところでどうしようもないか」

 溜め息とともに吐き捨て、ねねねは拳銃をフォルゴレのデイパックに戻した。
 銃などは自分の柄じゃない。いや、フォルゴレの柄でもないだろうが、少なくともねねねが持っていて重宝するような代物ではない。
 銃を向けるくらいなら、とりあえず殴る。相手がマシンガンがだろうが戦車だろうが、とりあえずぶん殴って鎮圧する。これが一番。
 彼女は、そういう人間だ。

「……手持ちの武器は、とりあえずこんなところか。あとはまぁ、あのちびっ子に危ない行動は控えるよう注意しとけば――」

 チーム全体の支給品確認を終え、ねねねはプールのほうへ視線を移し――ギョッとした。
 数分前までそこでイルカと戯れていたはずのイリヤとフォルゴレ、その二人に、思わぬ異変が訪れていたのだ。
 客席から腰を上げ、大慌てでプールに駆け寄る。まさか、のんきに考察を練っている間にこんなことになっていようとは。
 子供たちやイルカの楽園だったはずのプール、そこで起こっていた異常事態とは――!?


 ◇ ◇ ◇


(休み話)

 作家性、という言葉の意味を知っているだろうか?
 読んで字のごとく、作家の持つ性質……培ってきた経験ではなく、元々秘めていた才能やら、人間性やらを指す。
 バラエティに富んだ展開を生み出すアイディア、キャラクターに芝居をさせる上での役の分配、これらは才能の賜物であるように思われがちである。
 しかし、ある作家は言った。作家性など、どれほど大事にしたところでそのうち消えてしまう、いわば消耗品だ、と。
 作家性よりも大事なものは経験の蓄積であり、重視すべきはそれを育む環境の有無である。
 一例として、13歳でデビューし、以降6年間天才作家としてヒット作を飛ばすも、19歳以降まったく小説を書かなくなったある女流作家を挙げよう。
 彼女が執筆をやめてしまったのはなぜか。評論家の目から見れば、作家性の衰退、経験不足、といった酷評で捉えられることだろう。
 しかし、人の人生など何が起こるか分からないものだ。彼女の事情を知らない第三者の論などでは、正解が搾り出せるはずもないのだ。
 実際は何者かに拉致監禁されて母国を離れていただけかもしれないし、腱鞘炎などで筆を握れない事態に陥っただけなのかもしれない。
 あるいは家族関係、交友関係でトラブルが起きただとか、女性ならば結婚を機に引退することだってあり得る。
 作家が筆を手放す理由など、それこそ実際にあったケースで考えても、山のような数だ。ひとえに、作家性の衰退などという結論は下せない。
 だが、一つ致命的ケースがある。それは、なんらかの理由により、作家から創作意欲が失われてしまうことだ。
 小説の執筆に限らず、意欲――やる気という概念は、物事をやり遂げる上で最も必要とされる、前提的な要素だ。
 これがなければ話にならず、書き始めることも、最後まで書ききることも、全てはこの創作意欲によって左右される。
 これは、作家性も経験も関係ない。作家の意識の問題である。
 前述した生活上のトラブルにより削がれることもあれば、原因不明のスランプによって失われることもままあるのが、創作意欲だ。
 あるいは、そういったしがらみを全てかなぐり捨てでも書こうとする者もいるかもしれないが、それは恐らく作家性の範疇だろう。
 この創作意欲を復活させる方法だが、実生活で起こった刺激的な体験、それに対して抱いた感情を、創作意欲に転化させるというやり方がある。
 世に名を連ねる文豪の中には、波乱万丈な人生を送り、その実体験を小説として綴り大成した者がいる。夏目漱石や太宰治がそうと言えるだろう。
 彼らは何も、小説のネタにするために意図的に波乱万丈な人生を歩んできたわけではない。実体験を文に起こす技能に恵まれていただけの話だ。
 彼らの創作意欲がどれほどのものだったのかは知るよしもないが、史実を見ても、これらは彼らだからこそ持ちえた作家性の賜物であると解釈できるだろう。
 だがそれは同時に、人生を振り返り、それを文章に転換できる、経験の賜物であるようにも思える。
 結論など、解釈をする人間の数だ。ただ、一番大切なことは、書くという意志。これは揺ぎないものだと思う。

 余談の、さらに余談になるが――13歳でデビューした天才女流作家は、4年間活動を停止するが、それ以後再び作家として躍進する。
 失われた創作意欲を取り戻したのか、それとも小説よりも比重を置いていた物事が片付いたのか、それは誰にも分からない。
 しかし――今、その彼女の書くという意思が、再び失われようとしている。

(休み話 中断)


 ◇ ◇ ◇


「……で、今度はなんの遊びだ?」
「アレが遊んでるように見える!? むしろ遊ばれてるのよ! フォルゴレが……ラセンちゃんに!」

 現場、もといプールに駆け寄り事情を把握したねねねは、思わず脱力した。
 目の前に聳える円形のプール、その水面は荒々しい波濤によって飛沫を上げており、俄かには近寄りがたい。
 飛び跳ねた水飛沫がねねねの眼鏡を濡らし、若干不快になりながら、頭を抱えた。
 プールの中で、金髪の男がイルカと戯れている。否、訂正。金髪の男が、イルカに戯れられている。

「おぐっ!? ま、待つんだラセンちゃん! バンビーナである君がファッ!? 絶景の美男子である私に……ノォ!
 好意を抱くのは分か……ゴボッ!? ……るが、これはスキンシップとしては些か激し、アーッ! すぎて……
 あ、あ、あ……ダメ、ダメ、股間は……股間は弱いのよォォォォォッ!?」

 奇声を発しながら、フォルゴレが宙を回転しながら舞ったり、落ちてプールに沈んだり、イルカから逃げ惑って鼻血を吹いたり。
 まるで曲芸に用いられるビニールボールのように、イルカの鼻先で、尻尾で、フォルゴレはボコボコになるまで振り回されていた。

「最初はフォルゴレがラセンちゃんの背中に乗るって言い出したの。でもラセンちゃん、臆病なのかフォルゴレを攻撃しちゃって。
 それでも諦めずに再チャレンジしたんだけど、やっぱりダメで。フォルゴレがあんまりにも頑丈だから、それが何回か続いて。
 次第にラセンちゃんもフォルゴレが気に入ったのか、ああやって体全体でスキンシップを取るように……!」
「説明ありがとう。そして私からのコメントはたった一つだ。バカめ」

 呆れを超越した蔑むような目で、ねねねはフォルゴレを見やり、すぐに目を背けたくなった。
 イルカは知性が高い動物として有名だが、その裏で、実はなかなかに獰猛な一面も秘めている。
 フォルゴレを襲っているラセンちゃんはマレー湾などでよく見られるバンドウイルカという種で、
 彼らはよく、自分たちよりもサイズの小さいネズミイルカを群れ単位で襲撃し、噛み殺したりする。
 その愛らしい外見的特長に騙され、イルカに噛み付かれる観光客もしばしば。
 こういった水族館に属するイルカも例外ではなく、飼育係やトレーナーが襲われるという件数は多い。
 同じ水族館の仲間から突き放され、こんな場にたった一頭だけ拉致されたともなれば、気も立っていることだろう。
 それを面白おかしく背中に乗ろうなどと考えれば、当然襲われる。

「よし、もう一度言ってやろう。バカめ」

 呆れて怒鳴る気にもなれず、ねねねは小言のように繰り返す。
 やがてイルカも飽きたのか、フォルゴレを宙高く飛ばすと、自らも同様にジャンプ。
 そこから尻尾を翻し、フォルゴレに叩き付けてプールの外へとぶっ飛ばした。
 ねねねとイリヤは思わず「おお~」と感嘆し、ラセンちゃんに拍手を送る。
 トレーナー抜きでこれほどの芸ができるなら大したものだ。この殺し合いの場でも、きっとたくましく生きていけることだろう。

「強いね、ラセンちゃん。イルカってこんなに強いんだ」
「イルカは頭もいいしね。可愛いからって喧嘩売っちゃいけないよ。返り討ちにあうのが関の山だ」
「あら、わたしならあんなバカな真似はしないわ。イルカはこうやって、遠くから眺めて愛でるものよ」
「なんだ、分かってるじゃないかちびっ子」

 部外者のいなくなったプールをスイスイ泳ぎ回るラセンちゃんを見て、ねねねとイリヤがハハハッと笑い合う。
 イルカは本当にたくましい。たくましい上に、見ていると癒される。すごい動物だ。本当にすごい動物だ。すごい動物だ。

「ってコラー! 二人とも、少しは私の心配をしたらどうなんだー!」

 ねねねとイリヤの二人がプールのほうに意識を奪われていると、ふと後ろの客席から、ズタボロになった男の憤慨が聞こえた。
 ラセンちゃんによってぶっ飛ばされたフォルゴレである。さすがは無敵を名乗る男、再起も早い。

「あれ、あんたあの歌がないと立ち上がれないんじゃなかったっけ?」
「え? いや、たしかにそういう設定ではあるが……こ、細かいことはいいじゃないかー! 今からでも遅くはない、イリヤ、あの歌を――」
「イヤ」
「どうしてぇー!? さっきはあんなに楽しそうに歌ってくれたのにぃぃぃ!?」

 割れ目の入った顎先まで鼻血と涙を垂れ流し、所々破けた服を纏うフォルゴレの姿は、もはや絶景の美男子などとは呼べなかった。
 見ている分には笑えるが、これから先この男に銃を預け、チーム唯一の男手として頼ることになるかと思うと……正直、げんなりする。
 イルカに襲われてまだバカやれるほど頑丈なら、あるいはこの先の死線も突破できるだろうが、逆に容易く散りそうな気もする。

(ま、不安要素が多いのは今に始まったことじゃないし……言ってもしょうがないか)

 ねねねは未来に対する不安を飲み込み、現在の時刻を確認する。
 水族館内を遊び回っているうちに、夜は去った。そろそろ朝食の傍ら、脱落者と禁止区域が発表される定時放送を聞く時間だ。
 結局、実験開始から現在に至るまでの六時間、殺し合いらしい緊迫感とは無縁な環境にいたが……それも、いつまで続くかは分からない。

「よーしおまえら、もう十分遊んだでしょ? 放送聴き終わったら、そろそろこの水族館から退散するわよ。今のうちにラセンちゃんともお別れ言っておきな」


 ◇ ◇ ◇


 場所を移し、水族館玄関口。
 荷物を整理し朝食を取る傍ら、三人の手元には会場の地図と参加者名簿、そしてペンが置かれている。

「朝食は一日を乗り切るエネルギーになるからね。ちゃんと取っておくこと」
「ネネネ、これ美味しくなーい。シロウの作ったご飯が食べたい~」
「わがまま言うなちびっ子。世の中には、朝飯さえ満足に食べられない子供だっているんだぞ」

 支給食料のお粗末さに不満を漏らすイリヤを、ねねねが宥める。すっかり引率者気分だった。

「いい? もう一度確認するわよ。まずこれから流れる放送を聴いて、脱落者と禁止エリアをチェック。
 聞き漏らしがないよう、ちゃんとメモしておくこと。って言ってもまだ六時間しか経ってないし、そんなに心配することはないかもしれないけど……
 ひょっとしたら、私たちの知る誰かの名前が呼ばれるかもしれない。酷なこと言うけど、いざというとき取り乱さないよう、覚悟だけはしておくんだよ」
「大丈夫よ、シロウは強いもの!」
「ハハハッ、ガッシュと清麿がそんな簡単に死ぬはずないじゃないか~」
「いや、だからそういう思い込みが危険なんだって……」

 詳細名簿をチェックした限りでは、逡巡する間もなく殺し合いに乗りそうな人間は少なからずいる。
 そういった人間がこの六時間のうちに誰かを殺め、その被害がねねねたちの知人に及ぶ可能性も、否定できない。
 そう、読子・リードマンにアニタ・キング……紙使いという異能者であるあの二人とて、無敵ではない。
 魔術師である衛宮士郎、魔物であるガッシュ・ベル、IQ190を誇る高嶺清麿、六課メンバーもまた同じく。
 これより数分後、この中にいる誰かが失意に溺れ、涙を流しているかもしれない。
 それがこの先の道を進む足枷にならないよう、せめて意志だけは強く持つ必要があった。

「放送聴き終えた後は、道路を道なりに歩いて図書館まで行く。もし途中でトラブルが起きたとしても、各々で図書館を目指すこと」
「図書館には、ネネネの仲間がいるかもしれないのよね。シロウはどこにいるのかなぁ……」
「ガッシュと清麿はどこにいるのだろうか……ああ、二人とも早く私を見つけてくれないかなぁ」

 そうこうしているうちに、食事は終了。あと数分足らずで、第一回目となる放送が流れる。
 そこで誰の名が呼ばれるかは――このときの三人には、知り得もしないことだった。



【E-1・水族館玄関口/1日目/早朝(放送直前)】

【ねねね先生と愉快な仲間たち】
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康
[装備]:マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:支給品一式(一食分消費)、詳細名簿+@アニロワオリジナル、支給品リスト@アニロワオリジナル
   :ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
[思考]:
1:この場で放送を聴く。
2:イリヤ、フォルゴレとともに歩いて図書館に行く。誰も見つけられなければ本がある場所へ。
3:アニタ、読子、スバル、ティアナ、キャロ、エリオ、はやて、シャマル、清麿、ガッシュ、士郎を探す。
4:とりあえず、クアットロや詳細名簿に載っていた危険人物と思しき面子には気をつける。
5:柊かがみに出会ったら、ボン太くんのぬいぐるみと『フルメタル・パニック!』全巻セットを返却する。
6:読子ら知人が、本当に自分の知る人物なのか確かめる。※
最終行動方針:打倒タコハゲ、そしてハッピーエンド。
[備考]:
※詳細名簿+はアニタと読子のページだけ破り取られています。
※思考6、パラレルワールド説について。
 富士見書房という自分が知り得ない日本の出版社の存在から、単純な異世界だけではなく、パラレルワールドの概念を考慮しています。
 例えば、柊かがみは同じ日本人だとしても、ねねねの世界には存在しない富士見書房の存在する日本に住んでいるようなので、
 ねねねの住む日本とは別の日本、即ちパラレルワールドの住人である可能性が高い、と考えています。
 この理論の延長で、会場内にいる読子やアニタも、ひょっとしたらねねねとは面識のないパラレルワールドの住人ではないかと考えています。

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
[思考]:
基本行動方針:シロウに会うまで絶対生き残る
1:この場で放送を聴く。
2:ネネネ、フォルゴレとともに歩いて図書館に行く。誰も見つけられなければ本がある場所へ。
3:アニタ、読子、スバル、ティアナ、キャロ、エリオ、はやて、シャマル、清麿、ガッシュ、士郎を探す。
[備考]:
※フォルゴレの歌(イリヤばーじょん)を教えてもらいました(イリヤ向けに簡単にしてあります)。

【パルコ・フォルゴレ@金色のガッシュベル!!】
[状態]:全身ズタボロ
[装備]:ジェリコ941改(残弾16/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(一食分消費)、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!、マガジン(9mmパラベラム弾16/16)×1
[思考]:
基本行動方針:殺し合いは恐いがイリヤとねねねを守る
1:この場で放送を聴く。
2:イリヤ、ねねねとともに歩いて図書館に行く。誰も見つけられなければ本がある場所へ。
3:アニタ、読子、スバル、ティアナ、キャロ、エリオ、はやて、シャマル、清麿、ガッシュ、士郎を探す。
[備考]
※その姿は見るも無残ですが、本人の耐久力もあって、割りと元気です。



【支給品リスト@アニロワオリジナル】
参加者に配られた全支給品が、写真と詳細な説明、本来の所有者の名前付きで掲載されている冊子。
どのアイテムが誰に支給されたかまでは書かれていない。

【『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた】
柊かがみの愛読書の一つ。
『戦うボーイ・ミーツ・ガール』『疾るワン・ナイト・スタンド』『揺れるイントゥ・ザ・ブルー』『終わるデイ・バイ・デイ(上・下)』
『踊るベリー・メリー・クリスマス』『つづくオン・マイ・オウン』『燃えるワン・マン・フォース』『つどうメイク・マイ・デイ』
『放っておけない一匹狼?』『本気になれない二死満塁?』『自慢にならない三冠王?』『同情できない四面楚歌?』『どうにもならない五里霧中?』
『あてにならない六法全書?』『安心できない七つ道具?』『悩んでられない八方塞がり?』『音程は哀しく、射程は遠く ―サイドアームズ―』
『極北からの声 ―サイドアームズ2―』の全19冊セット。

【ジェリコ941改@カウボーイビバップ】
IWI社によって開発された自動拳銃、そのカスタム。スパイク・スピーゲルの愛銃。
基本となる9mmパラベラム弾だけではなく、.41Action Express弾や.40S&W弾も使用可能。



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046:響け!フォルゴレの歌! 菫川ねねね 113:一人ではないということ
046:響け!フォルゴレの歌! イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 113:一人ではないということ
046:響け!フォルゴレの歌! パルコ・フォルゴレ 113:一人ではないということ





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