螺旋博物館 ◆10fcvoEbko



「螺旋博物館……ですか」
D‐4の中心に位置する博物館の入り口で、明智健悟はそう呟いた。
建物は名前の通り綺麗に捩れた螺旋形をしており、見たところ2階建て程度の高さである。
清潔に保たれた玄関にはたったいま明智が呟いた、館の名を示す看板が掲げられていた。
それも、近代的な館の外装には不釣り合いな木版画風の、妙に迫力のあるデザインの看板である。
「やれやれ、螺旋王という方は妙なところで凝り性のようだ」
周囲には誰もいないにも関わらず、明智は再び声に出して呟いた。
一度ずぶ濡れになった衣服は大分乾いてはきたが、肌に張り付く不快感が完全に消えた訳ではない。
「何か、面白い展示を行っているといいのですが。金田一君や剣持警部はこのような場所を訪れようともしないでしょうし」
螺旋、それは自らも螺旋王と名乗ったあの男の言葉の中に、度々含まれていた単語だ。
その言葉を冠した博物館ともなれば、螺旋王の意図、引いては事件解決の手がかりとなるような情報を見つけられるかもしれない。
たとえ、それが全て螺旋王の用意したものであったとしても、自分ならそこから何らかの情報を掴み取ることができる。
明智はそう判断し、博物館へと足を踏み入れた。
入り口は自動で、螺旋形に開いた。

博物館に入るとすぐに案内所らしきところに出た。しかし、人の気配はない。
無人の受付け所がどことなく不気味な雰囲気を演出している。
明智は案内用に置かれていたパンフレットを一枚取ると、近場の椅子に腰を下ろし読み始めた。
「『いがいとしらないみぢかな螺旋!~じんたいからうちゅうまで~』……名前の通り螺旋をキーワードにした博物館ですか。それにしても螺旋形に開くパンフレットとは読みづらい」
ぼやきつつも、どんなささいな情報も見落とすまいと明智はパンフレットを読み進める。
その目付きは、事件現場で犯人逮捕のための証拠を探す名探偵そのものだ。
パンフレットには館内地図と展示の概要が、子供向けの分かりやすい表現で記されていた。
ちなみに、文字の配列も螺旋形である。


来館者は入り口を起点に、時計周りに展示物を見て回ることになっているようだ。
螺旋形に延びた廊下を歩き、途中設けられた部屋でテーマ毎の展示を見て、また廊下に戻り次の展示室へ向かうという順路である。
最後に廊下は館の中心へと至り、来館者は螺旋階段で2階へ移動するようになっている。
1階部分が常設展示なのに対し、2階部分は期間限定の特別展示に割り当てられていた。
「なるほど。しかし対象年令の低いテーマ名だ。
詳細名簿を見た限り、参加者の平均年齢はここまで幼くはないように見えましたが。
螺旋王の趣味と考えていいのでしょうか?」
無人の博物館に明智の独り言が空しく響きわたる。

1階の、常設展示用の部屋は3つ設けられていた。
展示テーマはそれぞれ「どうぐにもなる螺旋!~おとこのロマンだ~」
「きみのなかの螺旋!~じんたいのふしぎ~」
「うちゅうのなかの螺旋!~すごくでかいぞ~」
と書かれていた。
それぞれ概要も記されているのだが字が大きく内容も幼稚なため、得られる情報は少ない。
どういう訳か2階部分の展示に関する記述はなかった。
「とりあえず見て回りましょうか。螺旋王のセンスを拝見するためにもね」
明智はそう言って、螺旋形に配置された椅子の一つから立ち上がった。
言葉を返すものはこの場におらず、明智の靴音だけが博物館の壁に吸い込まれていった。

一つ目の部屋に展示されていたのは、要するにドリルだった。
さんさんと輝く照明の下、手動の穴堀り機やら電動ドリルやら重機の模型やら、そういったものが説明用のキャプションとともに展示されている。
多少なりとも期待していたような、明智にとって未知の情報は何も記されていない。
変わったことと言えば、部屋の床全てに段差があり、降りから途中で登りに変わり入り口へと戻るそれを、来館者が螺旋を描くような形で移動しなければならないことぐらいである。
明智は一瞬展示品を武器にできるのでは、と思ったが「ここにあるものはレプリカです。よいこはさわらないでね」と書かれた説明書きを見てそれを諦めた。
「特にこれといったものは無いですね。螺旋形に書かれたキャプションもまた、大変に読みづらいですが」
明智はそれだけ言うと、示された順路通り時計周りに部屋を一周して、次の展示室へと向かった。



結果から言えば後の2つの部屋でもたいした発見は無かった。
2つ目の部屋は結局人間のDNAの構造について淡々と説明してあるだけであり、3つ目の部屋は星や銀河の運動を螺旋と絡めて述べただけのつまらないものだった。
少なくとも、そこには明智から見て目新しく思える物は何もなかった。

「展示の一貫性もありませんね。後は2階部分ですが」
館の中心部に至り、2階へと続く螺旋階段の前で明智は立ち止まった。
明智の目の前には館の入り口と同じような扉があり、明智の侵入を拒むかのように固く締め切られていた。
そして扉には『特別展示準備中』と螺旋形に書かれた紙と、螺旋状に目盛りを減らしていくタイマーのようなものが取り付けられていた。
「一定時間生き残った者にしか見せたくない物、という訳ですか」
明智は顎に手をやりふむ、と考え込むように息をもらした。
確か螺旋王は、最初の説明のときに『優秀な螺旋遺伝子を求めている』と言っていた。
「螺旋遺伝子がどういうものかは分かりませんが『優秀』とはまた曖昧な表現だ。
最初に見せしめとなったあの男のように単体での破壊力に優れた物を指すのか。
それとも単にどんな状況でも生き残ってしまうような運の強い者を言うのか。
あるいは私のように推理力に優れた者を指すのか。
甚だ分かりにくい。
これを見る限りでは、この場で長く生きた者はその分だけ他より『優秀』である、という解釈はできますね」
この場にいない螺旋王へのイヤミをぶつぶつ呟きながら、明智はじっくり扉とそこに貼られた物を観察する。

よく見ると『特別展示準備中』と書かれた紙には小さな文字で続きが書かれていた。
「『特別展示に入場される方は螺旋に類する物を持参ください。開封、未開封は問いません』
……入場制限付きですか。『螺旋に類する物』というのも良く分かりませんが」
この博物館の展示を見る限り、どうとでもこじつけられるような気がする。
明智はため息をついた。どうもこの先に進まないとこの博物館の核心には触れられないようだ。
強度を確かめてみたが、手持ちの道具で強行突破できるようなやわな作りでもないようである。
明智はこれ以上の捜査を一旦諦め『目盛りの減り具合からして入場可能になるのは明日の正午ちょうど』であることを確認すると、もときた廊下を引き返した。

誰もいなくなった廊下で、螺旋の扉は沈黙を保ち続けていた。
螺旋のタイマーは、今はただ静かに時を刻んでいる。
その先にある物を守るかのように、ただ静かに。
それが何を齎すかは、まだ、誰も知らない。




「さて、今のところ妙な扉の他にこれといった収穫は無かった訳ですが」
受付けまで戻った明智は、最初に座ったのと同じ椅子に再び腰を下ろしていた。
相も変わらず無人の受付所は、明智が立てる音を除けば、しんと静まりかえっている。
「それにしても、この博物館はひどい」
明智はそう言うと、なっていないと言わんばかりに目を閉じ指を組んだ。
そして、誰もいない博物館で滔滔と説教を始めた。

「まず展示の流れが分かりにくい。
螺旋を共通項にしたつもりでしょうが括りがあまりに広すぎる。展示内容の変化に見る者がついていけなくなってしまいます。
展示自体も単調なものです。目を引く配置をしている訳でもない。ただ物を置き文字で説明するだけでは見る者が飽きてしまう。
意図は分かりませんが、パンフレットの書き方を見たところターゲットには子供を想定しているのでしょう。それならば一層音声なり映像なりで工夫をこらすべきです。
照明の強さも問題です。
物によっては貴重な展示物を傷つけかねない。その辺りについて考慮しているかどうか非常に疑わしい。
それに、2階への移動手段が階段しかない、というのは論外です。
そもそも、博物館というものは『訪れた全ての人が快適に利用できる施設である』ことが大前提です。
床に段差を設けていることもそうですが、バリアフリーの概念が欠如していると言わざるを得ない。
その意味では順路の最初と最後が接続されていないことも、利用者に余計な手間をかけさせるという点では同様の欠点です。
まぁ、2階部分への入場制限については何らかの意図があるものとして大目に見ましょう。
ですが、総合的に見て螺旋王は、博物館の管理人としては最低であると言わざるを得ない」

次々と自らが感じた不満点を皮肉げに並べ立てる。
その姿は成績の悪い生徒を諭す教師のようである。
それを聞く者は館内にはいないが。



明智は一通り語り終えると満足したのか、煙草を一本取出し火を付けた。
深く煙を吸い、味わうようにゆるゆると吐き出す。
立ち上る紫煙が、無人の博物館に溶けていった。
明智は再び口を開いた。
「……少しは燗に触りましたか、螺旋王?」
ゆっくりと、視線を上に向ける。
ゲーム脱出のための手がかり探しと知り合いの捜索。
それらの他に、ゴミ処分場から博物館に至るまでの道程で、明智は一つの問題について思考を巡らしていた。
参加者達の監視方法についてである。
監視カメラを張り巡らしているのか、それとも監視衛星でも飛ばしているのか、それは分からない。
だが、螺旋王が何らかの方法で自分達の言動を監視していることは間違いないと、明智は考えていた。
(何か仕込むとしたら、この首輪などは打ってつけですね)
そうは思ったが確証もないため、何か監視のヒントを掴めないかと、館に入ってからはわざわざ口に出すまでも無いようなことまで声に出し、監視者の反応を見ることにした。
相手の感情を刺激した方が反応を得られる可能性が高まるだろうと、口にする言葉はわざとイヤミな内容にしていた。
さすがに悪口程度で首輪を爆破されることもあるまい、という計算を働かせた上でのことである。
軽い腹いせ程度のリアクションを期待していたのだが、たとえ何も反応が得られなかったとしても、明智には何の損失もない。



そして、明智が煙草を一本吸い終えるだけの時間が過ぎても、博物館は依然として静寂に包まれたままだった。
「無視、ですか。まぁ、私の皮肉程度に反応するような小物には、このような舞台の主催者はつとまらない、ということですね」
思惑が外れはしたが、明智の声に落胆の色はない。そればかりか明智の思考は既に次に何をするべきか、というところに移っていた。
(代わりに気になる物も見つけましたし)
最早口に出して言う必要もなく、明智は先ほどの扉を思い浮かべた。
あの螺旋形の扉の先は、必ず調査しなくてはならない。
(さて、ここへは明日の正午以降にまた戻ってくるとして、それまでどうしますか)
他の施設にもここの2階部分のような要素が隠されている可能性は高い。
それらの情報を集めて回り、明智の推理力と掛け合わせれば、このゲームからの脱出に大きな助けとなるだろう。
引き続きマスタングや高遠のような要注意人物の確保と、脱出の助けとなる人物の捜索も続けたい。
問題は歩いて移動するかモノレールを経由するか。
施設が点在し、選ぶ指針も無い以上決め手に欠ける。
(とりあえずは、放送を聞いてから決めるとしますか)
明智は椅子に深々と身を沈めると、螺旋形の窓から差し込む朝日を浴びながら、新しい煙草に火を付けた。


【D-4  一日目 早朝 放送前】
【明智健悟@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康、服は生乾き
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/4) x2
[道具]:支給品一式、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、参加者詳細名簿、予備カートリッジ8
[思考]
基本思考:犯罪芸術家「高遠遙一」の確保。ゲームからの脱出。
1:ゲームに乗っていない人間を探しつつ施設を回る。
2:金田一、剣持を探す。
3:明日の正午以降に博物館の先に進む。信頼できる人物にはこのことを伝える。

[備考]
※参戦時期は未定(高遠を最低でも知っている段階)


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034:明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――開幕 明智健悟 100:何が彼女を壊したか?





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