蘇れ、ラピュタの神よ ◆WcYky2B84U



ガリッ、ガッ、ガガッ、ガリガリッ、ガッ――――――――――

夜明けを間近に迎え、薄ぼんやりと日の光が差し込む病院の廊下に、奇妙な音が響く。

ガガガッ、ガガガッ、ガッ、ガッガッ――――――――――――

極めて不規則に、そして極めて不愉快なその音色が奏でられているのは…廊下の片隅にポツンと位置している、物置部屋の扉。
その扉の極僅かの隙間から伸びる銀色の物体から、この気の滅入るメロディは流れていた。

ハァ、ハァ、ハァッ…クソッ…もう少しだというのに―――――

よくよく耳を澄ましてみれば、不協和音の中に、もう一つの音が混じっているのが聞き取れる。
それは、その部屋の中に潜んでいる……正確には、その部屋の中に『閉じ込められている』何者かの声。

ガガガッ、ガガガガッ、ガリッ、ガリッ、ガッ――――――――
クッ…あ…と…少し……あと少しだっ――――――――――――

そして………その時はやって来た。



ガガガガガガガガガガガガガガガガッ――――――――――――パリン。



今まで鳴っていた騒音とは対照的な、爽やかな音が病院内を反響する。
その音が意味するものは、この扉に掛けられていた戒め……すなわち、鍵の破壊。
そして、忌々しい束縛が解かれた今こそ―――そこに封じられていた、『神』を名乗る男が復活する!




「ハァッ!ハァッ!ハァッ………!!で、出れたッ……出れたぞぉッ……やっと、やっと出れたッ……!!」




………倒れるように扉を押し開け、そのままの勢いで地面に這い蹲りながら、汗だくの顔で腑抜けた笑みを浮かべるという情けない姿で。

 ◆ ◆ ◆



この病院前にて、突然現れた東洋風の男………戴宋に敗北したムスカがこの物置部屋に閉じ込められてから、
最早三時間強の時間が経っていた。

「クッ……クソッ……あの男…ッ…わざわざ、鍵をかけるなど姑息な真似を………よくも……」

体力と気力の限界を向かえ、立つ事もままならぬ状態でムスカが毒づく。
ムスカが気絶した『フリ』をしていた事に気づいていたのか、はたまた用心深い性格だったのか…
戴宋がその手で物置部屋の扉に仕掛けた、物置の中に存在したナンバー式のチェーンロックはスペック以上の働きを見せていた。

息苦しい密閉された空間。手の中に有るのは頼りない一本のアサシンナイフのみ。
いつあの男が帰ってくるともわからない状況の中で、扉をこじ開けて出来た隙間からナイフを差込みチェーンの切断を試みる。
焦燥、絶望、恐怖……嫌と言うほどに味わった忌まわしい感情を思い出し、ムスカの表情がさらに歪む。

だが………その表情は徐々に和らぎ、厭らしい笑みへと変わっていく。


もう、自分を縛っていた物は無いのだ……後は、そう……あの男に復讐するのみ!!
『ラピュタの王』すら超え、『ラピュタの神』となった自分を散々コケにしてくれたあの男を許すわけには行かぬ!!


「ククク……ハハハハハ…そうだ……ラピュタの神たる、この私の恐ろしさ…それを奴に身を持って教えてやろうじゃないか…!」

狂ったように笑いながら、体に力を込めてゆっくりと立ち上がる。
恐れる物など何も無い!!あるはずも無い!!私はラピュタの神なのだから!!!



……………………………………………………………………………………………だが。


パリン。


「……………………………………………………………………………………………は」


その驕りは、ムスカの右手から発せられた小さな……非常に小さな音によってあっさりと崩される。


「…………………………………………………………………………………………………」

ゆっくりと、右手を開き中を見る。
その中には、棒状の物体が『二つ』。


ムスカを救出するという役目を終えただけのアサシンナイフは、折れていた。完膚なきまでに。


無理も無い事である。三時間強もの間、鎖との摩擦による不可に耐え抜いていたのだ。
しかも、ただでさえ不安定な体勢での摩擦。鎖ではなく扉や壁に衝突したのも、一度や二度では無い。
たった一本のアサシンナイフにしては、むしろ大健闘だったと言えるだろう。


しかし、今のムスカにそれだけの事実を受け止めるだけの余裕があるはずも無く。


「…………………ふ……………………ふざ……ふざ……」

まるでおこりの様に、ムスカの体がブルブルと震え始め。


「…………ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


溢れ出す感情のまま、ナイフだった物を地面へと叩き付けた。
そのまま軽い音を立てて、二本の金属ゴミはどこかへと消えていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………!!」
ナイフを叩き付けたポーズのまま、ムスカは荒い息をつく。
そして徐々にその息が収まり始めるのと比例して、彼の表情は青く染まり始めた。


無い。
もう…自分には武器が、ない。
ディパックの中にあるのは、ただの葡萄酒の空き瓶のみ。それは武器と呼ぶには余りにも貧弱。
自分は今、丸腰だ……もし、この状態で誰かに襲われたら?
…………死ぬ?ラピュタを継ぐ者である自分が、神と崇められるべき自分が………死ぬ?


「ふっ、ふっ、ふっ……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

先ほどと同じ言葉を叫びながら、今度は手に持っていたディパックを壁に叩きつける。
だが、どれだけ周りの物体に怒りをぶつけようとも、ムスカの中の恐怖は消えない。

武器だ。何でもいい、武器が必要だ。
血走った目で辺りを見回す。もう二度と入るまいと誓った物置部屋の中すら覗き込み、武器を探す。
だが……何も無い。まともな武器として使えそうな物は、存在しない。
「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソォッ!!」
口汚い罵りの言葉を吐きながら、部屋の中に積まれていた道具をそこら中にぶちまける。
最早ムスカの顔に、先ほどまでの高揚感や余裕など見て取る事は出来ない。
あるのはただ、いつ自分の命が狙われるのかと怯え続ける小心者の表情だけ。
「どこだッ!?私の武器はどこにある!?かの雷のような、神たる私に相応しい武器が無いというのか!?
 そんな筈は………ッ!?そう、だっ………!!」
ヒステリックな叫びが中断され、ハッとした表情でムスカが呟く。
ムスカの脳裏に、天啓のようにある事実が浮かんだのだ。
「あそこ、あそこだ……!!あそこに、武器が……!!」
熱病にでも浮かされたかのように、ムスカがフラフラと歩き出す。
目指す場所は、病院の入り口。壁に手を着き、半分以上体をもたらせながら引きずるように移動する。
自分の記憶通りならば、あそこに武器が……だが、もしも?
反語と共に、ムスカは最悪のパターンを想像する。
もしも、あの忌々しい東洋風の男が、自分を閉じ込めた大罪を抱えたあの男が、『アレ』に気づいていたら?

息が荒い。心音がうっとおしい。汗が目に入る。

そうなったら、自分はもうどうしようも………?
ああ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。何もかもが腹立だしい。もしもこの手に飛行石があれば、ラピュタの雷があれば全てを焼き払って…!
しかし何も無いぞ?今の自分には何も無い。何故だ?何故こんな事に!?ああ、頼む、気づかないでいてくれ……!!

精神と肉体、両方の多大な疲労を抱えながら、『神』を名乗った男は哀れにも『神』に祈る。


そしてようやく男は………病院の入り口に到着した。



「そう、ここだ……!この辺りに………!!」
体当たりするように扉を押し開け、必死の形相で付近に視線を巡らす。
「どこだ……どこにある!?」
駄目だ、見るだけでは見つからない!
最早なりふり構わずに、地面に這い蹲りながら目当ての物を探す、探す、探す、探す………………





「見つけた………!!見つけた、見つけたぞぉお!!!」





四つん這いの状態で、頭だけを植え込みの中に突っ込んだ状態で、ムスカは歓喜の声をあげた。
そのまま、その中から引っ張り出したのは、やや焦げ目の付いたディパック。
このディパックは、彼が最初に殺した少年…エドワード・エルリックに支給されていた物。
先の二連続戦闘の衝撃の為か、植え込みの中へと放り込まれていたそれは、
ここを立ち去った戴宋に気づかれる事も無く今まで隠れていた。
「武器、武器、武器、武器、武器だ!!」
人目も憚らず大声を上げながら、ディパックの中身を漁り支給品を探す。
そして………ついにムスカの手が硬い何かに触れる。
「……………ッ!!」
ごくり。生唾を飲み込んだ音が、妙に大きく聞こえた。
ゆっくりと、中の物を握り締め、取り出す。

「……………………ハッ………ハハハッ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

笑う。哂う。嗤う。手の中にある支給品を見て、ムスカは愉しげに笑う。

「素晴らしい………!神たる私に相応しい武器だ………!!」

ムスカの手に握られている物は………二つの銃口を持つ奇妙なキャノン砲。
片手に嵌め込んで撃つタイプのそれは、異世界へと飛ばされたとある科学者が、親友の為に死に物狂いで作りだした武器。
ここでは無い、また別の世界…砂漠に包まれたその世界にのみ存在する特殊な金属で作成されたこのキャノン砲は、
見た目に反して片腕で軽々と扱えるほどに軽く……その威力は、その世界最強の存在を二撃で絶命に至らせる程絶大。

無論、『神』ならぬムスカがそこまで詳しい事情を知るわけも無い。
だが、それでもムスカはこの武器の有用性を感じ取り……ただただ歓喜のままに笑い続けた。


その姿はまるで…ようやく目当ての玩具を見つけて喜んでいる、無知な幼子のようであった。


 ◆ ◆ ◆



武器は手に入った。ならばもう、恐れるものは何も無い。
そう考えながら、ふと手元の時計を見る。
「………放送までは、後1時間弱と言った所か……」
何となしにそう呟いた所で、ムスカの体から力が抜ける。
「…流石の私も、いささか疲れたな……」
精神的な疲労。肉体的な疲労。二つの疲労は今も容赦なくムスカの体を襲い続けている。
ようやく武器を入手し、気が抜けた今となっては、それに抗うのは難しい。
ならば、休息を取るか……幸いにも目の前には病院がある。適当な病室を借りて休むとしよう。
「だが、放送を聞き逃すのは避けたい所だな……」
エドのディパックから水と食料のみを自分のディパックに詰め込みながら考える。
放送によって流されるのは死亡者の情報に、禁止エリアの情報…どちらも聞き逃すのは大きなデメリットとなる。
「ふん、一時間ほど疲労に耐える程度、どうと言う事も無い…」
そんな事を喋りながらゆっくりと立ち上がるも、その顔に浮かぶ疲労の色は濃い。

彼が放送の時までその意識を保つ事が出来るのか……『神』ならぬ『神』を名乗る男には、それを知る由も無い。


【D-6/総合病院・入り口付近/1日目/早朝・放送1時間前】
【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐)@天空の城ラピュタ】
[状態]:精神・肉体共に激しく疲労、背中に打撲、強い眠気
[装備]:ダブルキャノン@サイボーグクロちゃん (残弾30/30)
[道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のチョコレート][紅茶][エドの食料(詳細不明)])、葡萄酒の空き瓶
[思考]基本:すべての生きとし生ける者に、ラピュタ神の力を見せつける。
1.病院内の適当な病室に入り、休息する。ただし放送までは起きていたい。
2.東洋人(戴宗)に復讐する。
3.パズーらに復讐する。
4.出来れば『平賀源内のエレキテル』のような派手な攻撃が出来る武器も欲しい。
  最終:最後まで生き残り、ロージェノムに神の怒りを与える。
※ムスカが第一回放送まで眠らずに居られるかどうかは、次の書き手さんにお任せします。
※エドに支給されたランダムアイテムは、ダブルキャノン@サイボーグクロちゃんのみでした。
※病院内の物置部屋(1F隅に存在)は扉が開け放った状態のまま酷く荒らされています。
また、その付近に切れたチェーンと『折れたアサシンナイフ@さよなら絶望先生』が転がっています。
※病院入り口に、水と食料だけが抜かれたエドのディパックが放置されています。

【アイテム補足】

【ダブルキャノン@サイボーグクロちゃん】
異世界サバイバル編にてゴーくんが作り上げた武器。異世界独自の素材で出来ている為、非常に軽い。
四角い形状で、その名の通り二つの銃口が並んで存在している。
ガトリングガンと同じく片手にはめ込むタイプで、引き金を引く毎に上と下のそれぞれの銃口から弾丸が発射される。
その威力は強力無比で、異世界編のラスボス、バイスの体に一撃で風穴を開けるほど。
(ただしこれは原作のみ描写で、アニメ版には放送コードに引っかかった為か穴が開く事は無かった。
 それでも原作と同じくバイスへのトドメとして使われている為、威力は同程度だと思われる)
ちなみに残弾表示の30発とは、上の弾倉に15発、下の弾倉に15発の、合計30発という意味。


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039:嗚呼。それにしても酒が欲しい…… ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐) 104:不屈の心は、この胸に





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