紙のみぞ知る ◆5VEHREaaO2



――――――燃えていた。みんな、みんな燃えていた。
とても、とても熱い。だけど炎は消えない。いつまで経っても消えない。
本の山に火が着いた。あっという間に火の山ができた。
耳に誰かの悲鳴が聞える。だがその悲鳴も炎に掻き消される。
目に誰かが倒れている姿が映る。だがその姿も一瞬にして炎へと変わる。
息が息苦しくなり、鼻も使って呼吸する。何か肉の焼ける臭いがした。
皮膚を火が炙る気持ちの悪さから逃げ出した。黒一色の人形がいた。
逃げたかった。どこにでもいいから逃げたかった。こんな地獄からは逃げたかった。
だけどできない。炎に周囲を囲まれ、どこにも道など存在しない。
焼けた紙が行く手を阻み、焼け残った本棚がまるで絶壁の断崖のように聳え立つ。
それでも逃げ道を探す、死にたくなかったから。


――――――なのに、見つけたのは道ではなく炎の中に立つ人影だった。


奇妙なことに、その人影の周囲だけ燃えてはおらず、そこの部分だけ火が恐れるかのように本しかなかった。
そう、まるで炎が人影に消されるのを避けるかのように。
その人影の一番特徴的な部分は目だった。巨大な目だ、とても巨大な目だ。炎よりも強く輝く巨大な目玉だ。


――――――その目玉が、ギロリとこちらの方を向いた。

「いやアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

怖かった。その人影がとてつもなく怖かった。わけが分からないのに、いや、何も分からないこそ怖かった。
タベラレテシマウと思うぐらいに怖かった。

そして、その人影と目が合った数秒の後、人影の周囲が爆発し何かが迫ってきた。

龍が――――炎の龍が唸り声を上げて迫ってくる。
こんどこそ逃げようがない。

「ヒィィィッ!」

炎の龍が、自分を飲み込んだ。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


視界が真っ暗になる。


              ※           ※             ※


「――――――ッ」

アニタ・キングはC-6の民家で、意識を記憶の海から現実へと戻した。
全身が汗にぬれ学校の制服が気持ち悪い、息苦しさまで感じる。
いやなことを思い出していた。一番初めの記憶だ。ここに連れてこられる前の、
ねねねと出会う前の、姉たちと出会う前の、香港で浮浪児になる前の記憶だ。
アニタ・キングは記憶喪失者だ。気が付いたときには服一着だけで香港のど真ん中にいた。
父も母の顔も知らず、名前と服以外は悪夢しか持っていない状態で浮浪児となるしかなかった。
香港では日本と違い浮浪児となる子供の数は多く、子供だけの集落があるにはあったが、
西洋人の血が混じっていると思われるアニタが東洋人の孤児の集落に入れたわけでもなく、たった一人で廃墟となった教会で暮らしていた。
幸いにして、そのころから不思議と紙を使えたのでいやいやながらも泥棒として生計を立ててはいた。
とはいえ、紙を操れる才はあっても泥棒の才はなかったらしく、ひもじく寒い日々を送っていた。
そうして出会った、あの二人に。ミシェール・チャンとマギー・ムイに。

(あのときは、ものすごく感謝したんだけどなぁ)

二人に拾われ、衣食住は確保できたものの、自分が本嫌いであったために当初は大変だった。
いつのまにか慣れてしまったが。いや、慣れなければ生活できなかった。
そうしている内に駄目姉二人としっかり者の妹一人の構図が出来上がってしまった。
最近では腕白姉が一人追加された気もするが。

「……昔のことを思い出している場合じゃないか」

溜息を一つ付きつつ、現状を思い出す。紙を探す、そこまでは良かった。
だがよりにもよって、図書室という紙が大量にある学校を出て行ってしまった。
戻ろうとは思ったものの、あのロイドとかいうむかつくやさ男の下に戻るのは、非常にしゃくだった。
ジャングルの奥地やどこぞの秘境でもないかぎりは、文明の存在するところならば紙の補充は容易である。
手近な民家数件を探せば、簡単に手に入る。
世の中には自分のように滅多に本を読まない人間もいるが、家族一世帯がそうだというわけでもなく、
また紙といっても、トイレットペーパーからレポート用紙、漫画の本から学校の教科書まで身の回りの様々な場所で使われている。
そしてここは日本という紙をよく使う文化を模した舞台だ。
ここで紙ほど見つけやすいものはないのだ。この広い舞台で人を探すよりは簡単すぎる。
故に学校に戻らないことに決め、たまたま目に付いた倉田という表札を掛けた家の蝶番を紙で壊し、忍び込んだのだ。
そうして、この家の人物が所有していたと思われる大量のDVDや漫画の本を見つけ、
最初は紙だけで充分と思いよく確認しなかった荷物の整理整頓をしてから紙を補充しようとした。

その後がいけなかった。

作業中にデイパッグから出てきた白い布が瞬く間に部屋を埋め尽くしてしまった。
そして、アニタはその白い布の中央を見てしまった。
センスの悪そうなサングラスを掛けている真っ赤な巨大な火の玉を。
自分に嫌な記憶を思い出す火の存在を。

「とりあえず、今は紙、紙」

アニタは頭を振りつつ、生意気にも質量保存の法則を無視するかのように入っていた旗を
素足で踏みつけながらいくつかの本をデイパッグへと詰める。
すぐにデイパッグは膨れ上がりいっぱいになる。
どうやら最初に入っていた物以外は、ドラえもんの四次元ポケット構造には当てはまらないようだ。
団旗は置いていくにしても、これ以上は詰められそうにない。

(もうちょっと、もって行くか)

アニタは数冊の本を手に取り、能力を込める。
本は簡単にバラバラとなり、アニタはそれらを服の内側に隠しておく。
準備はこれでいい、あとは出発するだけ。


とある懸案事項を除けばだが。


アニタは床に横たえてある奇妙な形状の剣を見る。
説明書によれば名前は乖離剣・エア。キーワードを言うと空間を切断するほどの衝撃波を放つ宝具というアイテム。
先ほどの戦闘では紙より扱えそうにないため出さなかったが、はたしてこれは自分に使える物なのだろうか?
アニタ・キングは紙を使う異能者である。だがその力の源泉など何かは知らない。
マー姉やミー姉は、自分は昔本が好きだったから紙使いになれたといい、
ねね姉の大切な人も本好きの紙使いだというが、自分は本が嫌いであり、
以前遭遇した読仙社の紙使いであるサニー・ウォンという男はとても本好きだとは思えないし、
地下温泉で遭遇した少年は、地面の中が好きだから地中に潜る能力を持っているとは限らないだろう。
暴論ではあるが、異能を持つ者は大雑把に言えば魔法のような力を持つと言え、
魔法の道具の力を引き出すことができるかもしれない。
その変幻自在の能力から紙使いのことを一部の人間は魔女と呼ぶ、と姉から聞いたこともある。
現代に生きる紙使いが魔女ならば、大昔の魔女はいったい何なのか?
アニタとて自分のことを魔女と思っているわけではない。
だが、大昔にあった魔女狩りで、紙使いが魔女と呼ばれながら追いかけられていても不思議ではなく、
魔道書という紙使いと魔法使いとを結ぶ代物があることを踏まえると、以上の考えは間違ってはいないのかもしれない。

「……やってみるか」

アニタは好奇心に突き動かされつつ、部屋の窓を開け空へと剣を突き出す。
乖離剣・エアから衝撃が空へと上っていく様子をアニタは思い浮かべる。
そして息を吸い込み、叫ぶ。宝具の真名を。敵を滅ぼすための呪文を。



――――――アニタ・キングが乖離剣・エアを使えるかどうかは、神のみぞ知る。






              ※           ※             ※

乖離剣・エアを発動させようとするアニタ・キングは今だ知らない。

ペーパーマスター、紙の奴隷、紙の使徒、神保町の主、東洋の魔女、そしてThe Paperと多数の異名を持つ最強の紙使いを。
大英図書館を焼き払い、アニタ・キングの出発点を作ったビブリオマニアを。
菫川ねねねにとって大切な存在であり、自身に炎と紙に対する恐怖を植えつけた女の存在を。


その名は読子・リードマン。


――――――アニタ・キングが彼女と出会えるかどうかは、紙のみぞ知る。



【C-6/民家の一室/1日目/黎明】
【アニタ・キング@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康
[装備]:大量の紙、乖離剣・エア@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(メモ帳なし)、ハイドの魔本@金色のガッシュベル!!、デイバッグに詰められるだけの本
[思考]
1:乖離剣・エアを使ってみる。
2:ねねねを捜す。
3:できるだけロイドのいる学校には戻りたくない。
[備考]:
※参戦時期は9~11話、ねねねが読仙社に攫われる以前。読子との面識はありません。
※アニタが乖離剣・エアを使用可能かどうかは以降の書き手さんに任せます。
※『大グレン団の旗@天元突破グレンラガン』がC-6にある民家の一室に置いてあります。


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040:紙は舞い降りた アニタ・キング 070:紙の子どもたちはみな踊る





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