車上の戦い ◆/eRp96XsK.



【B-7】エリアをほぼ垂直に走っている一本の道路は、等間隔に並んだ街路樹と街灯、
更にその奥に並んだ商店に挟まれるかのような形で存在していた。
様々な人々が往来する、いつもの日常を営む上での当たり前の場所も、
深夜の、しかも人っ子一人どころか猫の子一匹見当たらぬこの状況では何やら恐ろしげな場所であるかのように思えてしまう。
更に、今は殺し合いのゲーム等というフザケたものの真っ最中。気の弱い者ならば街路樹の影が殺人鬼にでも見えてしまうに違いない。
もっとも……今、立ち並ぶ商店の屋根の上を飛ぶ様に駆け抜けている青年――シンヤには何の関係も無い話なのだが。
やがて、シンヤは足を動かすのを止め、静かに自らの向かっていた方角を眺めた。
そしてシンヤはその双眸を細め、こう呟く。

「フフ、中々幸先がいいじゃないか……こうも簡単に、他の人間を見付ける事が出来るなんて」


 学校を出た後、シンヤは東へと進路を取っていた。そして、やがて見えた川を現在の身体能力では一飛びとはいかないと判断し、
北周りに迂回しこの道路へと至った。
そして、そこで進路を東から南へと変更し、ひたすらに南下を続けていた。
元々、このフィールドを移動する上で分かり易い道標になるだろうと思い、地図に描かれているこの道路に合流した後、
それに沿って体の調子を確かめつつ移動し、参加者を探していくつもりだった。
だというのに、こうも早く発見する事が出来ようとは。
自らの視線の先、常人ならば微かにライトの光が見える程度の地点を走る消防車の姿をみとめ、彼は静かに笑みを浮かべた。


 ■


 「……信じられない」
緩やかな速度で進む消防車の車内でジンの行った現状の説明、そしてジン自身の履歴を聞いたヨーコの感想は、その一言だった。
「信じられない……って言われてもなぁ」
「だって……何というか、私の常識とかけ離れすぎているんだもの」
常識とかけ離れすぎている、というのは現在置かれている状況も勿論だが、それ以上にジンの語る履歴は信じられなかった。

曰く、ジンはおたからを求め世界中を旅してきたが、
これまでに尋ねたどの土地でも一部の例外を除く多くの人々はその一生を地上で過ごすのだという。
しかも、ジンは勿論そのような人々も一度としてヨーコの言う「ガンメン」を操る「獣人」の襲撃を受けてはいないというのだ。

「私からすれば、あんたの話は現実味が無さ過ぎるのよ」
「現実味、ね」
「そう、それに……これだってそうよ」
そう言うと、ヨーコは自らのデイパックに手を突っ込み、そこから1mを優に超える巨大なブーメランを取り出した。
もっとも、車内でこのブーメランを完全にデイパックから抜き出すと邪魔ッ苦しい事この上ないので、半分程抜き出したところで手を止める。
ブーメランの中央付近に描かれたアイパッチを付けたトラ猫の絵を確認すると、それを早々にバッグの中にしまい込む。
次いでヨーコは、デイパックの中から次々に食料品や地図、金属糸の束等を取り出してはすぐにしまい込む。
このデイパックは、子供でも気楽に肩にかける事のできるような比較的小さなものだ。
あの巨大なブーメランは勿論、食料品等様々な品物も入るかどうか怪しいというのに、何でもかんでもひょいひょい入っていく。
しかも、中に何が入っていようと全く重さは変わらない。非常識にも程があるだろう。
「こんなもの渡されて、しかも今は”殺し合い”の真っ最中。……信じられるわけないでしょ?
 正直、夢なんじゃないか……って割と本気で思ってるわ」
そう、本当に夢だとしか思えない。獣人達の長である螺旋王が実験と称して殺し合いのゲームを開いており、
そのゲームの参加者の一人として自分が放り込まれている。自分の横ではとても信じられぬ世界を語る自称『王ドロボウ』の少年が、
消防車と言うらしい機械を動かし、見た事も無いような石造りの街を静かに走っている。
極めつけは手元にあるこの奇怪なデイパック。有り得ないような事ばかり、どころか有り得ないような事しかないこの状況、
正直な話、夢だと考えるのが辻褄を合わせるのには一番都合がいい。
カミナの弔いの最中、自分はショックで倒れてしまったのかも知れない、そしてこんな馬鹿げた夢を……。
いや、むしろあの出来事が……カミナの死、それ自体が夢なのかもしれない。
そうだ。あの男が、無理を押し通し、道理を蹴っ飛ばし、不可能と思われる事ですら意地と気合で成し遂げてしまう、
あの男がそう簡単にくたばるわけがない。となると、こんな不愉快な夢からは早々n…………って。

「あひだだだだだだッ!?」

ヨーコの思考がそこまで飛躍したとき、その右の頬が思いっきりつねられた。下手人は勿論、隣に座る少年だ。
「遅ればせながら切符を拝見、なんてね。
 まぁ、少なくとも夢なら今ので目が覚めるんじゃない? これで足りないんなら、もっと盛大な目覚ましを用意するけd」


  ごすっ


「……ゲンコツ一発で許すわ」
「暴力は美しくないなあ……」


 ……しかし、なんというか、この少年にはペースを乱され続けている気がする。
出会ってからこの方、ずっとジンのターン! とでも言った感じか。すっかり相手のペースに引き込まれているのだ。
自分が案外他者の話に乗せられやすいのか、それともジンがそのような話術に長けているのか。
どちらであったとしても、その体に操り人形のように糸を付けられた自分と、いかにも『裏で糸をひく』
といった感じの笑顔でその糸を操るジン少年の姿が喚起されるので、あんまり良い気分にはなれないのだが。
そんな事を考えながら、意外と硬かった頭を殴った右手を摩りつつ、ヨーコはフロントガラス越しの風景を眺める。
そしてそんな時、突如として、ただ足元に等間隔に引かれた白い線と、
同じく等間隔に植えられた樹木や建物がガラスの淵に飲み込まれるだけだった風景に変化が訪れる。
消防車が前方へと放つ光が道に引かれた白線とも、道の端に植えられた植物とも、その奥に見える建物とも違うものを映し出したのだ。
道の中央に立つそれが何なのか理解するのに一瞬も必要なかった。
二本の足があり、頭があり、体があり、その体には二つの腕が付いている。そして、右の腕には何やら剣と思しきものが握られている。
それは、どう見ても。
「ひ、人!?」
危ない――、そう叫ぼうとした瞬間、その人影は掻き消えた。
!? と感嘆符と疑問符を同時に浮かべ、驚くヨーコ。しかし、一拍置いて今起こった出来事を理解する。
彼は自らの体が消防車のライトの光の中に収められたその時、一気に跳躍したのだ。
消防車のライトはあくまで、消防車の走る先の道を照らす為のものだ。故に光は地面の方へと集中している。
そして彼が高速で跳び、よく照らされた地面からあまり光の届かぬ空中へ一瞬で移動した為、掻き消えたかのように錯覚したのだろう。
そう理解すると同時に、ヨーコはその身体能力に驚嘆する。事前のモーションなど一切なしで、
いきなりあのような跳躍を行ったのだ。相当な身体能力の持ち主であることは疑いようがない。
そう考えたその瞬間、頭上でガダン、と金属の板の上に重いものを乗せたような音が響いた。そして、その次の瞬間。


ヨーコは後頭部を押さえ込んだ何者かの手によって、盛大にダッシュボードに額を叩きつけられた。


 ちなみに、下手人は先ほどと同じく傍らで姿勢を低くしている盗賊気取りの少年である。
しかし、今度はその無礼な行いに拳で返礼する事は出来ない。
何故ならば、今しがたヨーコやジンの頭があったその場所を、『何か』が高速で横切ったのだから。
そして、その『何か』が完全に車内を横切った次の瞬間、周囲のガラスが一瞬にしてヒビ割れで白く染め上げられる。
「!?」
次いでピシ、ビキキキ、といった何やら危なげな音も左右のドアや頭上から響いてきたが、ヨーコはそれに構っていられない。
「な、何……!?」
「どうやらお客さんみたいだ。
 もっとも、マナーの方が全くなってない迷惑客のようだけどね」
「お客って…………!?」
ヨーコが思わず漏らした呟きに律儀に答えてくれたジンの方をふと見ると、座席の中で身を屈める様にしながら、両手を突っ込んでいた。
……ヨーコのデイパックに。
「あ、あんたっ」
「悪いけど、ちょーっと使わせてもらえるかな? 乗車料代わりって事で」
言うと同時にジンは右腕をその手に掴んだブーメランとともに抜き出す。
その勢いのままに右腕を振るい、左右のドアや天井を一気に斬りつけた。
それによって白一色に染まっていた周囲のガラスは、悲鳴をあげながら完全に砕け散る。
そして、ジンはそのガラスの悲鳴の中に混じる一際甲高い金属音を耳ざとく聞きつけた。
金属音の響いた場所、天井の一角をブーメランで斬りつける。しかし今度は特に何も響かず、天井が引き裂かれるだけに留まった。
それを確認すると、ジンは左手もヨーコのデイバックから抜き出し、自分のデイバッグへ必要な物を一気に詰め込んだ。
「じゃ、おねーさん。
 オレちょっとお客さんにお帰り願うから、その間の運転は任せるよ」
「へ? え、ちょ、ちょっと!?」
それだけ言ってとっとと窓から外へ出ようとするジンへ、ヨーコは「私運転出来ないんだけど!?」と声をあげようとする。が、
「あ、走る時には右の方のペダルを軽く踏んで、目の前のそのハンドルで進む方向を調整して」
とだけ言い残し、ジンはとっとと車外へと出て行ってしまった為「あ、ウン……」と、生返事をするだけに止まらざるをえなかった。


 「成る程、少なくとも並大抵の人間ではないようだね」
右の手に黄金の剣を構え、走り続ける消防車の屋根の上でシンヤは静かに呟いた。
最初に運転席の真上へと飛び乗り、奇襲を行ったまでは良かった。
しかし、まさか次の手を繰り出すよりも早くあちらが反撃へと転じてくるとは。しかも最初の運転席から伸びた一撃、
あれはあくまで大まかにあたりを付けての攻撃だったのだろう。だが、それがシンヤの持つ剣とぶつかり合った次の瞬間には、
シンヤの居た地点へ正確な斬撃が見舞われていた。咄嗟に消防車の後方へと飛び移らなければ、そのまま足を切断されていた可能性もある。
(先程の紙の少女といい、ここにはある程度以上の能力を有する人間が数多く呼び出されている、と考えるべきか)
そうであるとするならば、矢張り一刻も早くテッククリスタルを回収しなくてはならない。
テックセットも出来ぬ状態、しかも身体能力にも制限がかかっているとあっては、何時何処で誰に足元を掬われるか分からない。
「その為にも、まずは……」
今しがた自分と同じく車上へと上ってきた黄色いコートの少年へ向け、手に持つ剣の切っ先を突きつけ、宣告する。
「早々に君たちを片付けさせてもらうおうか」
そして、剣を振り上げ一瞬のうちに少年へと肉薄する。この速度ならば目の前の少年は何の抵抗もできず、真っ二つに引き裂かれる筈だった。
しかし、少年は自らのデイパックより抜き出した巨大なブーメランで、シンヤの侵攻を食い止める。
剣とブーメランの刃を介し力比べを行いながら、二人は視線をぶつけあう。
シンヤの瞳には少年の余裕が、少年の瞳にはシンヤの狂気が映し出される。少年の瞳に浮かぶ自らを見つめ、シンヤは思う。
矢張り、この少年は只者ではない。シンヤのスピードやパワーに付いてくる身体能力もさることながら、
シンヤの発する圧倒的な威圧感に気圧される様子を微塵も見せず、それどころか余裕の笑みを浮かべるというこの精神。
(面白い、俺の現在の限界を調べるのにはうってつけの人材だ……!)
そう判断するとシンヤは剣を払い、後方へと跳躍し、距離をとる。
しかし、それを見た少年はそのまま追撃をかけるようとはせず、口を開いた。
「片付け、ね。でもオレって型にはまらないから、仕舞い込むのに必要な入れ物探すだけで一生が終わっちまうと思うぜ?」
「ならこの剣で君の体を切り刻んで、手頃な大きさに整えてあげよう」
攻め入る好機にあえてこのような冗談を飛ばす少年に、シンヤは剣を突きつけそう告げる。
しかし、それで尚少年はスタンスを崩そうとしない。
「成る程それはいい考えだ。
 実は最近服のサイズが小さくなってきて困っててさ、小さくまとめるときには服は斬らないようにしてくれよ?」
「フフ……それなら、今すぐに綺麗に整えてあげようッ!」
そのシンヤの言葉を合図に二人は駆け出し、ぶつかり合う。シンヤは再び剣を振り下ろし、少年はそれをブーメランの反りの部分で受け止める。
ブーメランを構え、剣を受け止める少年の髪の一部がはらりと落ち、黄色いコートの立て襟に小さな切れ込みが入る。
今回の斬撃は、僅かながら少年を掠めていたらしい。シンヤは薄笑いを浮かべ「こういう風にカットしていけばいいかな?」と尋ねる。
「成る程、結構な腕前だ……でも、お客のオーダーに応えられないようじゃまだまだ駄目だね」
「こんな状況でここまで無駄口を叩けるとは、随分と余裕じゃないか」
「今なら憎まれ口もセットで付いてくるけど、お一ついかが?」
「……減らず口をッ!!」


 シンヤは腕に力を込め、少年の構えるブーメランを押し切ろうとする。が、次の瞬間ブーメランは突如として剣を押し上げる役目を放棄した。
そしてそれにより、シンヤは右の手に引っ張られるような形でバランスを崩す。それと同時に少年はブーメランを回転させ、シンヤの手から剣を絡めとる。
少年の一瞬の早業にシンヤが驚愕した刹那、隙の生まれた腹部に少年の蹴りが叩き込まれる。それは予想以上に重く、速い。
だが、この程度で悶絶する程ヤワではない。自らの腹部にめり込む足の首根を掴み、そのまま少年を力任せに振り回す。
「グチグチぐちぐちと……その滑らか過ぎる舌だけは千切りにしてやろう!」
そのまま少年を消防車の屋根へ叩きつける。少年は一度小さく跳ね、淵へと転がって行き車上から転落する。
が、走行する消防車の後方へ無様に転がっていく少年の姿を確認する事は出来ない。と、なれば。
シンヤは少年に弾かれた剣を拾い上げると、少年が転がり落ちたその場へと向かう。すると……矢張り少年はいた。
消防車の側面に備え付けられた外回りを左の手で掴み、辛うじて落下を免れている。だが、この状態ではシンヤの剣を避け切れはしまい。
シンヤは少年の左手を斬り落とそうと剣を構える。が、その時眼下の少年が大声を張り上げた。
「車に乗っているって時に、前方への注意が散漫なのはいただけないぜ!」
この状況で、命乞いでもなく、ハッタリにもなりそうにない事を叫ぶ少年にシンヤは半ば呆れる。
一体この少年は何を考えているのか。ひょっとすると自分を前に怯まなかったのも、頭の中身が可哀想なものだったからなのだろうか。
兎も角、この少年の妄言に付き合う必要はない。この手を斬りおとし、少年を地面へと叩きつけ、
今消防車を運転している女を始末した後、地面で惨めにのたうっているであろう少年の元へ戻り、こちらも改めて始末する。
それで完了だ。そう考え、シンヤは剣を振り下ろそうとする。……だが、その時シンヤの脳裏にある可能性が浮かび上がった。
「!!」
それが事実であるか確認するべく、首を消防車の進行方向へと向ける。すると、そこには予想通りにそれがあった。
消防車の頭上を越え、こちらへと迫っている――正確には、こちらが迫っている――ものが。それは……。
「標識か……!」
舌打ちとともに憎々しげに呟くと、シンヤは素早くその場に伏せる。
この消防車の車高は、当然ながら普通乗用車などと比べ、ずっと高い。
故にその上で突っ立っていれば、道路上に突き出ている標識に叩きつけられる可能性はきわめて高くなる。
ギリギリのところでそれに思い当たり、屋根の上で伏せることによって、シンヤは車上より叩き落されるという事態を免れた。
が、シンヤに生まれたこの隙を見逃すほど、消防車の側面に噛り付いている少年は甘くなかった。
右手に持つブーメランを側面に叩き付け、それを支点に体を回転させ、一気に車上へと舞い戻る。
そして車上に復帰すると同時に、起き上がり体勢を立て直していたシンヤへ向かって、その手に持つブーメランを投げ付ける。
そのブーメランを、シンヤは再びその地に伏せる事によって回避する。そしてその姿勢のまま右手の剣を横薙ぎに振るう。
すると、ただ風を切るだけだった筈の刀身がきん、きぃん、と甲高い音を発した。一拍おいて、消防車の屋根に十字の鉄塊が突き刺さる。
「!」
眼前の少年の目が、僅かながら驚きで見開かれる。
「フフ、こんな単純な手に引っかかるとでも思ったのかい?
 あのブーメランを目くらましとして投げ、間髪を入れずに左の手に隠した本命の手裏剣を叩き込む。
 悪くはないが、そんな手が俺に通用すると思ったのが運のツキだッ!!」
叫ぶとともに、最早武器を失い無力化した少年を引き裂くべく、シンヤは剣を振り上げ突進する。…………が、しかし。
突如空中でぴたりと硬直した右腕に引っ張られるかのような形で、突進は阻止される。
「何ッ!?」
その様子を見た少年は会心の笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。
「えー、お客様。この車両は現在走行中につき、途中下車は大変危険です。だから、足元には…………」
そしてシンヤは右腕を拘束した見えない何かによって勢い良く後方へと引きずられる。
そのまま消防車の屋根の上から身体が投げ出され、
「気をつけてね(はぁと」
盛大に道路に叩き付けられた。


 ■


 あの青年に弾かれた夜刀神(やとのかみ)二本を回収、展開されていた刃を一本にまとめた後デイパックに放り込み、ジンは一息ついた。
この夜刀神という暗器、かつてザザという街で開かれていた仮面武闘会(マスコリーダ)にジンが出場した際、
その第一回戦の相手が使用してきた、伝説の死芸と謳われる武器だ。事実、仮面武闘会においてジンに唯一手傷を負わせた代物でもある。
もっとも、ジンに傷を負わせた数秒後にはその使い手は何とも惨めなケツ……もとい、姿を晒す事になったが。
それはともかく、初めからオトリのつもりだったとはいえ、あの青年に夜刀神を放った事を瞬時に見破られた事には少々驚いた。
まぁ、結果として青年はその後本命に引っかかってくれたのだから、特に問題は無いだろう。
……勝手に持ち出したヨーコのブーメランその他を失った事に関しては、まぁ、ドロボウに物を貸す人が悪いという事で。
兎に角、少しの間は大丈夫だろうが、あの青年はまた直ぐに追いかけてくるだろう。今のうちに少しでも距離を離しておいたほうがいい。
常日頃からそういう手合いに追い回され慣れているジンはそう考え、車上を歩き、
ヨーコが必死になってハンドルを切り、ペダルを踏み込んでいる運転席の真上へと移動した。
「やぁ、お疲れ様。おねーさん」
「あ、ジ、ジン!?」
幾分蒼白になった顔でヨーコは真上を見上げる。ジンと青年の斬撃の押収により、運転席の周囲は見るも無残な姿になっていた。
天井に刻まれた二つのラインのせいで屋根はその半分ほどが削られ、周囲のガラスは全て砕け、ドアも辛うじて付いている、といった様子だ。
もっとも、そのおかげで車上のジンと運転席のヨーコが普通に会話を行えるのだが。
「お客さんには出来る限り穏便にお帰り願ったよ。そっちはどう? なかなか快適そうだけど」
「か、快適っていうか……ジン、一つ聞きたい事があるんだけど」
ジンが話しかけるが、ヨーコは青い顔で正面へ向き直り、質問しても良いかと聞いてきた。
ヨーコの様子が変である事に気づいたジンは、『また”夢心地”になったのか?』と思い、何? とヨーコを促す。
そして帰ってきた答えは、ある意味ジンの予想を超えていた。

「こ、これ…………どうやって止めるの?」

…………? ああ、そういえば運転の方法を聞かれた際、ブレーキのかけ方までは教えていなかった。とジンは納得する。
そして視線を前方へと移してみた。ほんの百メートル程先には急なカーブが見える。
ちなみに、今現在消防車の速度は少々ゆっくりとではあるが上昇している。
ヨーコが力んでしまって、それでアクセルを踏み込みすぎているのかもしれない。
このままいけばカーブを曲がり切れずに横転するか、カーブを無視してその奥にある衣装店のショーウィンドゥに突っ込むかの二択だろう。
――そのまま、僅かな時が流れた(ちなみに、無論その間も速度は上昇している)。
そして、時は動き出す。

「左! 左のペダルを思いっきり踏むんだ!」
「ひ、左ッ!?」
「茶碗やフォークを持つ方ッ!!」
「よ、余計にわからないわよッ!」

叫ぶと同時に、ヨーコはそれと思しきペダルを思いっきり踏んずける。
それによって消防車にブレーキがかかり、歩道に乗り上げそうになりながらも、何とか停止した。そしてその結果…………。


「「あ」」


慣性の法則に忠実に従った黄色いボールが運転席の真上から放たれ、衣装店のショーウィンドゥへ華麗なストライクを叩き込んだ。


 ■


 道路へ落下した際、右腕を拘束されていたのは痛かった。
脱臼し、だらりと垂れる右の肩をはめ直しながら、シンヤはそう思う。
おかげでまともに受身を取ることが出来ずにモロに路面に叩き付けられてしまい、このように不愉快な状態に陥ってしまった。
右肩への簡単な処置を済ませると、左手に剣を持ち、右腕に絡みつく非常に細い金属の糸を切り払った。
先程は気付けなかったが、おそらく車上での不可解な現象の原因はこれだろう。相当に細く、長いものらしい。
切り離された糸の一片を掴み、それが一体何処へ続いているのかと目を凝らし探っていく。
やがて……シンヤの視線は標識に突き刺さった巨大なブーメランに注がれる。
「……そういう事か」
体中より凄まじい怒気と殺気を撒き散らしながら、シンヤは低く唸った。
あの時の少年の攻撃、あれはブーメランを目くらましに利用した、簡単なだまし討ちだとシンヤは判断した。
しかし実際は違っていた。あの時、ブーメランの影に隠すようにして投げ付けられた二つの手裏剣。あれこそがオトリだったのだ。
少年はシンヤがブーメランを回避し、更に手裏剣を弾くことを見込んで、そこに第三の罠を仕掛けていたのだ。
おそらく、ブーメランに金属糸の一部を巻きつけ、残りの糸を特定のラインへと入った物を絡め取ることが出来るように、
輪の様な形にして垂らし、シンヤへ向かって放ったのだろう。そして、そのラインへとシンヤを誘い込む為にあの手裏剣を放った。
結果としてシンヤはその誘いにまんまと引っかかり、気付かぬうちに腕に金属糸を絡められた。
そしてブーメランが突き刺さった標識から、シンヤを乗せた消防車が遠ざかり、金属糸がそれ以上伸びなくなったその時、
シンヤはそれ以上消防車の上に乗り、先に進む事は不可能となり、まるで引き摺られるかのように消防車から落下したという訳だ。
つまり、シンヤは完全にあの少年の術中に嵌ってしまっていたのだ。
何という屈辱だろうか。この相羽シンヤ、否、ラダムのテッカマンエビルがあの虫ケラのような小僧にいいように踊らされたのだ!
とても許せはしない! 今すぐに北上し、あの消防車に乗った二人組みを八つ裂きにしなければ気が済まない!!

……しかし、とシンヤの理性が加熱する感情に異議を唱える。
ここから北上するという事は、マップ端の袋小路へと自ら飛び込んでいくという事と同義だ。
もし、北へと進みあの二人を発見出来なかった場合、他の人間と出くわす可能性は限りなく低いと考えていい。
既に消防車から振り落とされて結構な時間も経過している。もし、北へと向かいあの二人を発見することが出来なければ、
それは即ち貴重な時間を大きく浪費したこととなる。そうなれば、首輪や支給品の入手もより不可能となり、
ブレードとの全身全霊をかけた戦いをするという、シンヤの願いが遠ざかっていってしまう。
そう考えると、ここは感情を押し殺し南へと進路を取り、新たな獲物を求めた方がずっと良いのではないだろうか。
どの道、あまり時間はかけられない。火急速やかにどちらへ向かうのか決めなくてはならないのだ。
シンヤは手に剣を持ったまま、夜空を仰ぎ見る。その中に光るほんの僅かな星を見つめ……そして、結論を出した。


彼の行くべき先は――――……。


【A-6/南東の道路のカーブ付近/1日目/黎明】
【ジン@王ドロボウJING】
 [状態]:小程度の疲労。全身に小程度のダメージ。マネキンと衣類の海の中で犬神家状態(それによる目立った外傷は無し)。
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック、支給品一式、予告状のメモ、夜刀神@王ドロボウJING×2
     めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん
 [思考]
  基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
  1:とりあえずここから抜け出す。
  2: 無礼なお客さん(シンヤ)が追ってくる前に、可能な限り距離を離す。

 ※ジンの参戦時期はアニメ本編終了後です。

【ヨーコ@天元突破グレンラガン】
 [状態]:鈴木めぐみの消防車の運転席に座っている。健康。しかし精神が不安定
 [装備]:無し(隠し武器のかんざし、超伝導ライフルは没収されました)。
 [道具]:デイパック、支給品一式、鈴木めぐみの消防車の鍵
 [思考]
  基本:この状況が本当に現実か判断しかねている。が、ひとまずはジンに同行する。
  1:な、何とか止まっ……ってジイイィィィン!?
 ※ヨーコの参戦時期はアニメ第8話のラストから。(つまりカミナ死亡後)です。
 ※ヨーコは最初の螺旋王の説明をまるで聞いていません。カミナがいたことすら気づいてません。
 ※めぐみの消防車@サイボーグクロちゃんの機能説明の情報等はマニュアルに書いてある模様。
  貯水量は現在(100/100)。ちなみにゲル○グには変身出来ません。
  運転席を初めとして全体がボロボロになっていますが、走行や放水は問題なく行えます。




【B-7/道路上/一日目/黎明】
【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:右頬に掠り傷。全身に小程度のダメージ。右肩を脱臼(簡単な処置済み)
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2個(本人は確認済み)
[思考]
1:消防車の二人組を追い、北上する。orより確実に獲物を見付けるため、南下する。
2:適当な参加者を殺し、首輪を手に入れる。
3:制限の解除。入手した首輪をロイドに解析させ、とりあえず首輪を外してみる。
4:テッククリスタルの入手。
5:Dボゥイの捜索、及び殺害。
 ※シンヤが南北どちらへと進路をとるかは、次の書き手さんにお任せします。



[備考]
 ※B-7エリアの道路に立っている標識に、
  レガートの金属糸@トライガン の巻きついた、すてるすブーメラン@サイボーグクロちゃん が突き刺さっています。

【すてるすブーメラン@サイボーグクロちゃん】
ヨーコの支給品その1。
マタタビの愛用する武器。その威力は凄まじく、カラスだろうが家だろうが飛行機だろうが問答無用でぶった切る。
「すてるす」と名前が付いてはいるが、本当にステルス機能があるのかどうかは不明。

【レガートの金属糸@トライガン】
ヨーコの支給品その2。
GUNG-HO-GUNSの首魁、レガートの使用する武器。レガートはこれを介して他の生物の神経に電気信号を送り、意のままに操る。
が、今回のロワではレガートは参加していないので、ただの細い金属糸に過ぎない。

【夜刀神@王ドロボウJING】
ジンの支給品。
ザザ編(アニメ11話~13話・原作5巻)にて登場。死の芸術家と呼ばれる現役闘牛士No.1の実力を持つ伊達男、ダンダーの武器。
通常時はクナイのような形をしているが、中央の円のスイッチを押すと刃が展開し、手裏剣のようになる。


時系列順で読む


投下順で読む


001:JING in ROYAL『E』 ジン 071:誰かが死ぬのが怖いのか?
001:JING in ROYAL『E』 ヨーコ 071:誰かが死ぬのが怖いのか?
040:紙は舞い降りた 相羽シンヤ 071:誰かが死ぬのが怖いのか?





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