夜に起きてれば偉いのか? ◆XzvibY6nJE



――私はお前の体を『人間に近い状態』に改造しようと思う。
いったいなぜですか!?

――『人間に近い状態』に改造……
獣人であるこの私が、なぜ劣った存在である人間の身体などに!



「……っ!? ガボッ!」
辛い!
……海? そうか、海に落ちたのだったな。
いつの間にか気を失ったようだが、溺れる前に気づいてよかった。
こんなところで溺れ死んでは戦士の恥だ。

どのくらい前かは分からないが……俺は自分で起こした爆発に巻き込まれて海に落ちた。
無様なことだ。大きな事を言っておいて、たった二人の人間を始末できないとはな。
これでは螺旋王に合わせる顔がない。
『クルクル』と『ケンモチ』とか言ったか……必ず決着をつけてやる。

「……それにしてもまずいな、体力の消耗が激しい。早く陸に上がらなくては」
今、どの辺りにいるのかは分からないが、左手に大きな船が見える。
あの船は目立つので危険だが、近くには隠れる場所もあるだろう。
俺は残り少ない力を振り絞って、大きな船へ向かって泳ぐ。
しかし、やけに大きくて派手な船だ。武装している様子はないし、あの派手さは戦艦には見えない。
移動用の船にしてはあの大きさは妙だ。大きすぎる。
「いや、そんなことはどうでもいいな。とにかく今は身体を休めなくては何もできん」
この世界は螺旋王が作り上げた、殺し合いのための舞台だろう。
ならば見慣れないものがあっても驚く必要はない。
今はただ、ひとりでも多くの人間を始末することだけ考えればいい。

 ※

陸に上がった俺は、倉庫のような建物を見つけて中に潜り込んだ。
俺は服を脱いで適当に水気を切ると、再びそれを身につけて腰を下ろす。
まだかなり濡れているが、まさか裸でいるわけにもいかないからな。
しかし荷物がほとんど無くなったのは痛手だった……あるのはこの元ハサミだけだ。
地図や名簿などをどうにかして手に入れなくては。

それにしても、このゲームが始まってから一睡もしていないが、特に体調が悪いということはない。
螺旋王は時間と場所を問わず好きな時に眠れると言っておられた。
つまり、夜に寝なくても構わないということ。さらに、入らなければならない生命維持ユニットにも、
入る必要がないと言っておられたな。それが証明されたことになるのか?
いや、螺旋王のお言葉を疑っていたわけではない。ただ、ようやく実感できたということだ。

「確かに便利な身体ではあるが、よりにもよって『人間に近い身体』などと言われるとは……
 いや、螺旋王のされることだ。俺のような一介の部隊長が口を挟むことではないな」
それは分かっている。分かっているのだが……どうにもやりきれない。
「人間、か」
俺は倉庫内の壁に背中を預けたまま、人間について考える。
そんなことは考えたくもなかったが、今や自分は『人間に近い身体』になった身だ。
自分のことを良く知るためにも、人間について考えるのは無意味なことではないだろう。

人間。
我ら獣人より劣った存在。
地下で惨めな暮らしをしている存在。
地上に出た人間は獣人に殺される運命にある。
貧弱な武器しか持っていない。
「……欠点だけ挙げても仕方ないな。気に食わんが、良いところも挙げてみるか」

地下での暮らしに耐えられる。
叩いても叩いても地上に出てくるそのしぶとさ。
そのしぶとさ故に、なかなか滅ぼせない「村」を築いた人間もいる。
そうだ。驚くべきことに、ある「村」ではガンメンを奪ったヤツがいるらしい。
奪われた方が情けないだけかもしれないが、奪った方は人間にしてはなかなかやるといったところか……
俺は螺旋王に呼ばれてこの『ゲーム』に参加する前は、そのガンメンを奪った人間のいる「村」に向かう予定だった。
一体どんな人間だったのか、興味がないと言えば嘘になる。
人間にガンメンが操縦できるとは思えんし、俺の敵ではないだろうが……いや、油断は禁物か。
『クルクル』の例もある。ヤツに、人間などに剣で負けたあの屈辱は二度と忘れん。

「おっと、人間の良いところを考えていたのだったな」
人間ごときの良いところを考えるのは骨が折れる。つい脱線してしまった。
……そうだ! 人間は夜になっても必ずしも寝る必要はないらしいと聞いたことがあるぞ。
夜行性の獣人から聞いた話だが、信憑性はありそうだったな。
さすがに睡眠が全く不要というわけではないだろうが、獣人よりも活動可能な時間が長いのは確かだ。
「人間の方が獣人より優れている点、ひとつだけだが見つかったか」


我ら獣人は、基本的に夜は眠らなければならない(少数だが夜行性の獣人もいる)。
そうしなければ細胞が壊死してしまう。
もし俺が元の身体のままこの『ゲーム』に参加していたら。
夜は動けず、それどころか生命維持ユニットもない状況で、どうやって生き延びるか。
……まず、無理だろう。

「そうか、螺旋王が言われた『人間に近い身体』とはそういう意味なのかもしれないぞ。
 螺旋王はこれを実験だと言われた。だが多くの人間が夜でも不自由なく活動できる中で、
 俺だけ動けないのではさすがに俺の方が不利すぎて実験にならない。
 だから、俺を人間と同じように夜でも動けるよう改造してくださったということなのかもしれん」
螺旋王の実験のためと思えば、この屈辱も我慢できる。
それに考えようによっては、獣人の欠点を克服できたのだから、今までより優れた存在になれたわけだ。
そう考えれば何も問題はないし、むしろ喜ばしいことだ。
劣っている人間に近づいたと考えるなど……間違ってはいないが、気持ちのいいものではない。

ここまで考えて、ふと恐ろしいことが頭に浮かんだ。
『本当は人間の方が優れているのではないか?』
人間は夜でも活動できる。
獣人は夜は動けないどころか、完全に眠らなければならない。
制約のない人間の方が、種として優れていることにならないか?
「…………バカな。夜に起きてれば偉いのか? そんなことで獣人と人間の優劣が決まるわけがない。
 大体、人間の方が優れているとしたら、なぜ我ら獣人が世界を支配できているのだ?」
我ながら馬鹿な考えが思い浮かんだものだ。
頭を振って下らない考えを振り払う。

少しすると、睡魔が襲ってきた。
ここへ来たのは身体を休めるためだから、眠るのは別に構わない。
しかし朝になれば放送がある。眠ると言ってもせいぜい2~3時間だな。
熟睡してしまって放送を聞き逃すような失態を晒すのはゴメンだ。
俺はいつでも起きられるように、倉庫の床に座ったまま目を閉じる。

放送の後は食料を調達しなくてはな……あとは、燃えてしまった地図などの代わりだ。
やはり人間を殺して奪うのが手っ取り早い。
その後はあの二人を探して決着を……あぁ、眠る時間さえ惜しい。
どうせ改造してくださるなら、『眠らなくてもいい身体』が良かったのだが。
まぁ、それでは俺が有利すぎて逆に実験にならんか。
そう言えば、この実験はどんな目的があってのことだろうか?
螺旋王は『優秀な螺旋遺伝子を集める』と言っておられた。
……螺旋遺伝子とは人間が持つものだ。
ということは、螺旋王は人間を求めている?
なぜだ……なぜ人間など…………にんげん……zzz


【E-3/船着場近くの小さな倉庫/一日目 黎明】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:体力消耗、睡眠 衣服が濡れている
[装備]:巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING
[道具]:なし
[思考]
基本:ゲームに乗る。人間は全員殺す。
1:zzz……(何かあったら目を覚ますつもり)。
2:放送後になったら地図や食料などの基本支給品を手に入れる。
3:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
4:螺旋王の目的とは? 
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
…人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。
 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。


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027:魔人 が 生まれた 日 ヴィラル 105:蛇姫は泣き虫の懇願に黙って首を縦に振る





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