汝は~なりや? ◆FbVNUaeKtI



(何故、私はこんな所に居る?)
それが最初に浮かんだ疑問だった。
彼は大陸横断特急フライング・プッシーフットに乗り、ニューヨークへと向かっていたはずだった。
しかし、食堂車に黒い服の男達や白い服の男等が銃を手に表れ、近くに居たカップルに床に伏せさせられた直後。
彼――チェスワフ・メイエルは自分が大きな広間に立っている事に気がついたのだった。
最初は汽車を占拠した黒服、もしくは白服の男達によって乗客全員がこの場所に拉致されたのだと考えた。
だが、その後に大広間で起こった出来事を見て、彼は少し考えを改める事になる。
ロージェノムと名乗る男の登場と殺し合いを行うという宣言。
更にはそれに反抗しようと瞬時に鎧を纏った男が行った攻撃と彼の末路。
そして、その後の大広間から今現在彼が居る場所への一瞬にしての移動。
それ等は明らかに200年以上を生きる錬金術師であるチェスの持ち得る、あらゆる知識の外にあるものだった。
もちろん、彼は自分が全知全能だとは思っていないし、あれらの能力者をありえないと否定する気も無い。
そもそも彼自身が世界の絶対たる摂理から“悪魔”の助力により逃れた存在なのだ、
あのような特異な力を持つ者が複数存在していても、なんら不思議な事は無かった。

(しかし、殺し合いとは……私が不死者だと知りながら言っているのか?)
薄暗い部屋の中、冷たい床に座り込み立ち並ぶ棚に背を預けながらチェスはそう考える。
不死者。悪魔のもたらした未知の薬によって世界の理から外れた者達。
それらはその名が表すとおり、老いる事を知らず死という終焉を迎える事はない。
例えば、おそらくは薬屋の店舗なのであろうこの部屋の中には、無数の薬品が詰まった棚が所狭しと並べられている。
だがしかし、殺し合いの場では貴重なそれらは彼には必要の無い物なのだ。
何故ならば彼は撃たれようが、焼かれようが、切り刻まれようが死を迎えることが出来ないのだから。
それどころか、その身が例え灰になろうとも元の姿を取り戻すのに、そう時間は掛からないだろう。
ある特定の方法を取らない限り、不死者を滅ぼす事は不可能なのだ。
その様な殺し合いという目的を根底から覆しかねない存在を、あの男は問題ないとばかりに参加させている。
(考えられる事は三つ)
一つはロージェノムが不死者という存在を知らないという可能性。
ただし、あの時殺された鎧の男の素性を知っているような口振りからして確立はかなり低い。
次は不死者としての能力自体に何かの工作が施されている可能性。
こればかりは試してみないと解らないので、
支給されたでナイフ(というには大きすぎる刃物)で掌を深く傷つけてみたが、結果は常時と余り変わらなかった。
無論もっと大きな傷、例えば死に瀕するような重傷の場合は結果が変わる可能性もあるが、今のところは保留で構わないだろう。
そして最後は自分以外の不死者がこの場に存在するという可能性である。
確かに不死者を通常の方法で殺す事は出来ない。
だが、不死者同士ならば『喰う』という行為で相手をこの世から消滅させる事が可能なのだ。
方法は簡単だ。対象の頭に右手を乗せ『喰いたい』と願う。
ただそれだけで不死者が一人消え、そいつの記憶を受け継いだ不死者一人だけが残る。
それこそが彼等、錬金術師達が不死になった際に悪魔に授けられた唯一の死の方法だった。

(この中で可能性が高いとすれば三つ目か)
そう思案しながら、チェスはデイバッグの中に入っていた参加者名簿を見つめる。
彼にとっては幸運な事に、名簿の中には彼の知る200年前の錬金術師達の名は無い。
だが、ここに来る直前まで彼が耳にしていた名前が三つ、まるで代わりの様に記されていた。
アイザック・ディアン、ジャグジー・スプロット、ミリア・ハーヴァント。
この殺し合いが始まるまで、フライング・プッシーフットの食堂車で一緒だった三人。
そして、あの三人を含む乗客達数十人のいた食堂車内で、彼は偽名を名乗る事に失敗していた。
不死者同士では偽名を名乗ることが出来ない。それが悪魔の定めた不死者間でのルールだ。
つまり、あの乗客の中の誰かが不死者である事はほぼ確定している。
(この三人の内の誰か……もしかすると三人全員が、不死者かも知れないという事か)
もちろん、三人とも一般人の可能性もあるし、彼等以外の誰かが不死者の可能性もある。
だが注意するに越した事が無いだろう。
他の不死者に喰われて自らの記憶を覗かれるのは、チェスにとって、とても耐えられるものではなかった。



「さて……そろそろ行くとするか」
やがて、小さく呟きながら立ち上がると、チェスは手早く支給品等をデイバッグに仕舞った。
そして、おもむろに近場の棚へと目を向けると、そこに並ぶ多数の薬品を物色し始める。
確かに彼にとってこれらの薬品は必要の無い物だが、それでも何かに使える物は回収しておこうと考えたのだ。
そして、数種類の薬品を鞄に詰め終えたチェスが店の入り口へ目を向けるのと同時、そこにあったドアが店内へと向けて押し開けられる。
そこには一人の少女が立っていた。年の頃は十代後半といった所だろうか?
橙を基調とした服を身に着けたその少女は、こちらを見て驚いたような表情をしながらも、すぐに右腕をチェスへと向けてくる。
彼女の右手に握られた小形の拳銃は、真っ直ぐにチェスの体を狙っていた。
「動くな。お前の名前とこの殺し合いに乗る気なのかどうか……それから、お前の持っている力についてを教えてもらおうか?」
「お、お願いだから殺さないで!」
内心の動揺を押し隠し、チェスは怯えた表情で懇願する。
(こいつ、まさか私の事について何か知っているのか!?)
一瞬浮かんだその考えを即座に否定する。
彼女の口から出たのはあくまでも力という単語であり、チェス自身の能力に直結する固有名詞などではない。
おそらくは支給された武器の事を言っているか、単なるハッタリなのだろうと思いながらも、
チェスは念の為本名ではなく、名簿で自身の近くにあった名前を名乗っておく事にした。
「ぼ、僕はドモン・カッシュ。人を殺したり、なんてしないし……持っている武器も、変なナイフが一本だけだよ……」
そう言いながら、手にしていたデイバッグをゆっくりと下ろす。
少女は床へと完全に下ろされた黒い鞄をチラリと一瞥した後、チェスへと向けて再び口を開いた。
「支給された武器の話じゃない。お前自身、何か特殊な能力を持っていたりするんじゃないのか?」
(どういう事だ? この女、不死者ではないようだが。
 鎧の男の力を見て警戒しているのかとも思ったが、それにしては何らかの確信を持っているような……)
素早く思考を巡らせながらもチェスはおずおずと首を横に振り、少女の言葉に返答する。
しばらくの沈黙の後。「そうか」と呟くように言いながら、少女はゆっくりと銃を下ろした。
「手荒な真似をしてすまなかったな。私は玖我なつきだ」
軽く頭を下げながら、少女は自身の名を名乗る。
彼女が手にしていた銃は、いつの間にか姿を消していた。


【A-6 通りに面した薬局 一日目 深夜】

【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
 [状態]:健康、なつきに不信感
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式、アゾット剣@Fate/stay night
     薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)

 [思考]
   1:なつきと情報交換
   2:アイザック、ミリア、ジャグジーに警戒
   3:自分以外に不死者が存在するなら、喰われないよう警戒する

 [備考]
 ※なつきにはドモン・カッシュと名乗っています
 ※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
 ※参戦時期は食堂車に黒服集団(レムレース)と白服の男(ラッド一味)が現れた直後です
  よって、ラッドの事やレイルトレーサー(クレア)の事を知りません


                      ◇◇◆◇◇


(何故、私はこんな所に居る?)
それが最初に浮かんだ疑問だった。
媛星の脅威が去り、黒曜の君が倒れた事によって、彼女達は平穏を手に入れたはずだった。
だが、彼女――玖我なつきは何時の間にか、殺し合いという馬鹿げた状況の中に居た。
大広間から飛ばされた先――薄暗い路地裏で、なつきは自身がエレメントやチャイルドが出せるか否かを確認する。
幾人もの人間を集め、枷を負わせ、命を奪い合えと扇動する。
こんな地獄のような状況で、彼女がある程度冷静で居られたのは、やはり似た様な経験をした事があるからであろう。
一番地によって風華学園へと集められたHiME達による、蝕の祭と呼ばれる戦い。
賭ける物は自分では無く、大切に思っている人物の命だという違いはあるものの、根本的な部分では似ているように思えた。
(いや……むしろ、この殺し合いとやらはあの祭を模した物なのかも知れないな)
チャイルドであるデュランが出てこずエレメントのみが出せる事を確認して、なつきは漆黒色の空を見上げる。
もちろん、空の上にあの赤い星の姿は見えなかった。
続けて手元にあった鞄を開けて、なつきは支給品や名簿を確認する。
名簿には見知った名前が自分以外に三つ記されていた。
鴇羽舞衣と藤乃静留、結城奈緒の三人だ。
(はやく、三人と合流しなければな)
名簿に続けて支給品を確認しながら彼女は思う。
舞衣はおそらく蝕の祭の時と同じように、この殺し合いを止めようとしているはずだ。
静留もあの時なつきの説得を受け入れてくれたのだ、殺し合いには乗らないと信じたい。
結城だって蝕の祭の時とは違い、率先して人を殺したりなどはしないだろう。
この三人と協力すれば、きっとここからの脱出も容易になるだろう。
「しかし、ここに居る私の知り合いは全員HiMEという事か……」
そして、あの大広間でロージェノムに逆らい首輪を爆破された男。
瞬時に鎧のような物を装着し、大火力の武器を放つというまるでTVの変身ヒーローか何かのようなその力。
(だが、HiMEの能力と似たような物と考えればあるいは……)
そんな事を考えながら、なつきは確認し終えた支給品を手早く鞄に仕舞い込む。
それから、周囲を見渡して人影が無い事を確認しながら、路地裏から抜け出すべく歩き始めた。

路地の出口を目指しながら、彼女は再び思案する。
突如出現する鎧はエレメントと同じような物と考えれば理解できるし、大火力自体も舞衣のチャイルドであるカグツチという前例がある。
もちろん、あの男が鎧を着用するためには何らかの道具が必要な様だったり、そもそもHiME能力者は女性のみなどの違いはあるが、
HiMEの力と鎧の男の力は似ている部分が多々存在していると考えてもいい。
ロージェノムの言葉を信じるならば、ここには鎧の男と同じような能力を持った者があと二人は存在する事になる。
つまり、この殺し合いには高次物質化能力とそれに順ずる能力を持った参加者が7人は存在しているという事だ。
そしてロージェノムの口にした耳慣れない言葉、螺旋力。
あの男は優秀な個体、優秀な螺旋遺伝子を求めていると言った。この殺し合いがその選別のための実験だと……
おそらく、螺旋遺伝子とは螺旋力とやらを持った遺伝子といったような感じの意味合いだろう。
(だとすると、ここに居る人間の全員がその螺旋力という力を持っているという事になるのか……?)
そして自身の力を省みると、行き当たる心当たりは一つしかない。
「つまり、ここに集められた連中は全員、HiMEの能力のようなものを持っているという事か」
そう考えると、この殺し合いがHiME同士の戦いをモデルにした物だという仮説にもリアリティーが出てくる。
おそらくロージェノムは、特殊能力を持つ者たちを互いに争い合わせる事で蝕の祭のような状況を生み出そうとしているのだろう。
なつきが心中でそう結論付ける頃には、すでに路地の出口は目前へと迫っていた。


路地裏から顔を出したなつきが見たものは、道沿いにいくつかの店舗が並ぶ比較的大きな通りだった。
周囲を素早く見渡して犬の子一匹居ない事を確認した後、なつきはすぐ正面にある店舗へと目を向ける。
「薬局か」
それはドラッグストアのような大きな物ではなく、個人経営なのであろう小さな物だった。
包帯やその他の薬等使える物があるかもしれないと考えながら、なつきは店内へと続く小さな扉を押し開ける。
そこにはすでに先客が居た。年の頃は十代前半か、それ以下だろうか?
黒いデイバッグを持った少年が、少し驚いたような表情でこちらを見つめている。
なつきは自らのエレメントを具現化させると、目の目の少年へと銃口を向けながら素早く店内を観察した。
(棚がいくつか空になっているな……それなりに冷静な上に、少し頭が回るようだな)
「動くな。お前の名前とこの殺し合いに乗る気なのかどうか……それから、お前の持っている力についてを教えてもらおうか?」
「お、お願いだから殺さないで!」
怯えた表情を見せる少年に銃を突きつけながら、彼に質問をする。
銃に恐怖を覚え懇願する彼の様子は、その姿の通り年端もいかない子供そのままだったが、なつきは銃を下ろそうとはしなかった。
(私の推論が正しいなら、こいつも何かしらの能力を持っているはずだ……
 それに、アリッサ・シアーズや凪、理事長の例もある。子供という見た目だけで判断するのは早計か)
「ぼ、僕はドモン・カッシュ。人を殺したり、なんてしないし……持っている武器も、変なナイフが一本だけだよ……」
そう言いながら少年は手にしていた鞄をゆっくりと下ろす。
なつきはその鞄を一瞥しながら、ドモンと名乗った少年に再び同じ質問を投げかけた。
「支給された武器の話じゃない。お前自身、何か特殊な能力を持っていたりするんじゃないのか?」
繰り返された質問に、ドモンはおずおずと首を横に振る。
(やはり、本当の事は言わないか……それとも本当に?)
とりあえず、今は保留しておくかと考えながら、小さく「そうか」と返答し銃を下ろす。
そしてエレメントを消しながら、なつきは軽く頭を下げ謝罪と自己紹介の言葉を口にした。
「手荒な真似をしてすまなかったな。私は玖我なつきだ」


【A-6 通りに面した薬局 一日目 深夜】

【玖我なつき@舞-HiME】
 [状態]:健康、チェスに軽度の不信感
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式、不明支給品1~3(本人確認済み)
 [思考]
   1:ドモン(チェス)と情報交換
   2:舞衣、静留、奈緒と合流する
   3:この殺し合いから脱出する

 [備考]
 ※チェスの名前をドモン・カッシュだと思っています
 ※なつきは以下の仮説をたてました
  ・今回の殺し合いは蝕の祭をモデルにした物
  ・テッカマンとHiMEは似たような存在
  ・螺旋力=高次物質化能力に近い特殊な力
  ・螺旋遺伝子を持った者=特殊能力者
  ・この殺し合いの参加者は皆、何かしらの特殊能力を持っている
 ※参戦時期は蝕の祭が終了した後です



[アゾット剣@Fate/stay night]
最終話直前、凜が士郎に渡した物。
儀式用の短剣で魔方陣の形成に使用したりするが、武器としても充分使える。
元々は言峰が凜に贈った物。


時系列順で読む


投下順で読む


チェスワフ・メイエル 048:風のイ・タ・ズ・ラ
玖我なつき 048:風のイ・タ・ズ・ラ





| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー