光を求めて影は ◆ZJTBOvEGT.



「どうしろってのよ」
前方に広がる昏い川を見下ろしながら、鴇羽舞衣は嘆息した。
どんな望みも叶えてやる…あの男はそう言っていたが、だからなんだというのか。
そんなものは、すでに失ったというのに。
腕の中から巧海が消えてなくなった瞬間に、たったひとつ抱き続けた願いは消え失せたのだ。
母に託された分まで、弟に幸せを。
欲しいものはそれだけだった。
だからもう、なにもないのだ。
自分には、なにもない…

(お姉ちゃんの、本当に欲しいものは、なに?)

「なんにもない、なんにも、ないよ」
望むもの、欲しいもののために殺し合え。
今更、そんなことを言われたって。
戦う理由も、生き抜く理由も、今の舞衣にはなかった。
歩き出す。どこに行く気か、自分でもわかりはしない。
なにをしていいのか全然わからないし、考えることも億劫だった。
とにかく今は歩きたい。雨の中、ついさっきまでそうやっていたように。
その途中いきなり意識が途切れたと思ったら、こんな所に飛ばされて、
濡れた制服もそのままに舞衣は今ここに立っている。
そういえば、殺し合いの説明を受けたときにも、たくさんの人がいたっけか。
あの人達は一体どうするのだろうか…殺し合いに、乗る? 乗らない?
乗っている人間が近くにいたら、自分はきっと殺される。
わかっていても、それをどうこうする意志がこれっぽちも湧いてこない現実。
もしかしたら、死んでしまうのもそれはそれでいいかも知れないとすら思ってしまっているのだ。
巧海は死んだ。命も、殺した。
自分だけ生きているのは、おかしい。
この思考に脈絡はない。ただ、そう思ってしまうだけだ。
鴇羽舞衣は致命的な空っぽに侵されつつあった。
だから、出会い頭にナイフを突きつけられたとて、大して驚きもしなかった。

「う、うわぁぁぁっ」
路地裏の曲がり角で出くわした少年はひきつった悲鳴を上げ、
持っていたナイフを突き出してきたのだ。
上半身裸の上に薄汚いジャンパーを羽織った少年。

「う、う、動くなよ、本気だぞ」
年下か。背は舞衣よりわずかに低い。
がちがちと奥歯を鳴らしながら目玉をひんむき、上目づかいで見上げていた。
まったく、ひどい顔である。
従わない理由も思いつかないので、舞衣は素直に動きを止め、
少年の次の言葉を待つことにする。

「き、きみは、殺し合いに、乗っているのか?」
「…乗ってないわよ」
正直な答えである。
もう、乗る意味がないのだから。
というか、どうでもいい。

「そ、それじゃあ、見せてよ」
「なにをよ」
「乗ってない証拠だよっ。
 カバン遠くに捨てろよ、武器入ってんだろぉ」
言われてみれば、そんなものもあったか。
いつの間にか持たされていたデイバッグの存在を思い出し、
やたらめったら怒鳴り声を上げる少年の指示に従い、脇に放り捨てる。

「これでいい?」
「ああ」
少年はうなずいた、が、ナイフを下ろさない。
突きつけた姿勢のまま、一分ほど経過してしまう。

「用がないなら、あたしは」
「ま、待て」
威嚇するように、ナイフで刺すような仕草を見せる少年。
だがその腕もがたがたと震え、いまにも舞衣を制するそれを取り落としてしまいそうな有様。
見ているうちに頬から、鼻から汗が垂れ、呼吸の乱れも始まった。

「まだ武器を隠してたら…隠し…隠してるだろ。
 出せよ、武器…出してくれよ」
冷めた頭で舞衣は思う。
ああ、こいつは同じだ。
HiME同士の戦いに追い込まれ始めた頃のあたし達と同じだと。
誰かが誰かを狙ってると思ったら安心できなくなる。
そう、こいつの場合、たとえるなら…菊川雪乃と同じ。
考えてみれば当然も当然。
今ここがまさに、最後の一人になるまで戦わされる殺し合いの舞台なのだから。
ここにいるということは、イコール、例外なく自分達と似たような境遇にあるということ。

「あんた、この殺し合いを、どうしたいの」
ふとした興味で聞いてみる。
いきなりこんなところに放り込まれて、
どういう答えを出して、何をしようとしているのか。
答えることなく、少年は激昂した。

「武器を出せって言ってるだろぉ!」
「もう、ないわよ」
カグツチとエレメントのことは、説明したところで仕方あるまい。
どうせ手渡すこともできないし、使って抵抗する気もとくにないのだ。
もう、いろんな意味でつかれきっているのである。

「どうして出さないんだよ。
 武器、出せよ…おれ、本気だぞ。
 出さなかったら、おれ、あんたを」
「殺せばいいじゃない」
そこでついつい言ってしまった舞衣のなにげない一言は、少年を滑稽なほどにうろたえさせた。
目玉などは、ほとんど飛び出していたと言っていい。
勢いがつきすぎたしゃっくりのあまり、一人で呼吸困難におちいって死んでしまうかと思われた。
それでもナイフは放さない。放せないのか。

「うっ、ぐっ、ひぐっ…」
「あたしを殺せば、それっきりじゃない。
 それで安心じゃない」
早く死ぬか、後で死ぬか。
今の舞衣にとっては、所詮その程度の差でしかないこと。
戦わないなら死ぬだけで、そして、今の自分に戦う意志はないのだ。
ただ、武器を出せだの、隠してないかだの…
聞きたいのは、そんな言葉じゃない。
だから、重ねて同じ問いを投げかけた。

「あんた、この殺し合いを、どうしたいの」
「…ぶっつぶすんだよ。
 こんな、こんなくそったれた戦いなんか。
 あ、あに…兄貴なら、絶対そうする」
やっと、答える気になってくれたらしい。
呼吸を少しずつ整えて、一言一言、確かめるように言葉をつむいでいく少年。

(あたしが聞きたいのは、あんたの答えよ)

そう思った舞衣ではあったが、
ひとつの単語に反応せざるをえなかった。
彼女の今日までの人生がそうさせたのだ。

「あにき?」
「そうだ、兄貴だ。
 螺旋王に殺された、おれの兄貴だ」
「ラセンオウ…あいつに? じゃあ、最初に殺された、あの変な白い…」
「違う、あんなのと一緒にするな!」
「…ごめん」
少年が目の色を変えた。
舞衣も思わず謝ってしまう。

「兄貴は、おれに空を見せてくれたんだ。
 ひとりじゃなんにもできないおれを、いつも笑ってはげましてくれたんだ。
 だから、おれ、兄貴のぶんまで兄貴にならなきゃ」
怒りの余韻のままに吐き出されていく想いの羅列は、
舞衣の脳裏に否応なく一人の少年の姿を描き出させていく。

(いつだってあたしは、あの子のために笑顔でいた)

「兄貴は絶対、願い事なんかにつられて誰かを殺したりしない。
 願い事は自分でつかむ、兄貴なら。
 みんな助けて、みんな仲間にして、みんな大グレン団に引き入れて、
 螺旋王をぶん殴りに行くに決まってるんだ…なのに」
想いはそのまま、少年にとっては涙となった。
くやしい涙か。かなしい涙か。

「おれ、こわいんだよ。
 戦わなきゃ、戦いを止めなきゃ、仲間を作らなきゃ…
 あんたを信じなきゃいけないのに、おれ、こわいんだ」
いまだナイフは突きつけたまま、うつむいてぽろぽろとアスファルトを濡らす、
弟と同じくらいの年頃の少年の姿は、舞衣に。

(お姉ちゃんが、重いんだ)

巧海の姿を、重ね見させた。
守りきれず、目の前で天に散っていった弟、巧海の姿を。
…それでいいのか?
自分は今、この少年を弟の代用品にでもしようとしているのではないか?
巧海とすごしてきた日々は、そんなにも安っぽいものだったのか?
今見たものは、巧海にとっても、少年にとっても、侮辱そのものではないか?
多数の否定的見解が頭の中を右から左へ去来する。
これ以上、関わらないで去ってしまえ。
思考の世界では最終的にそれが支配的となったが、
わずかな少数派の掲げた主張が、舞衣の動きを決定づけた。

「鴇羽、舞衣」
「え?」
「あたしの名前。あなたは?」
「…………」
「信じてもいいよ、あたしのこと」
少年が自分に対してやったようなことを何度も繰り返し続ければ、
彼は間違いなく死ぬ。殺される。それも遠からずだ。
今の自分になら、それを止めてやることができる。
彼自身も明らかに誰かの助けを求めていて…
なにより、自分自身、少しでも弟の姿を重ねてしまった相手が死ぬのは絶対、嫌だ。
だから、舞衣は。

「…シモン」
シモンの決意に乗ることにした。


【A-6 警察署付近 一日目 深夜】
【シモン@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康
[装備]:フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
[道具]:デイバッグ、支給品一式(ランダムアイテム0~2つ)
[思考]
 基本:兄貴のように大グレン団を結成し、螺旋王を倒す
 1:まず舞衣と話し合う

[備考]
※カミナの死後から、それを乗り越える直前までの時期のどこかから参戦しています。
※かなり疑心暗鬼気味ですが、舞衣はある程度信用したようです。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。


【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神的消耗、ずぶ濡れ
[装備]:
[道具]:デイバッグ、支給品一式(ランダムアイテム1~3つ)
[思考]
 基本:シモンを手伝う
 1:まずはシモンと話し合い

[備考]
※巧海が死に、自分が命を殺したと思い込んだ直後(黎人に会う前)からの参戦です。
※「巧海を生き返す」ためゲームに乗るという手には、まだ思考が及んでいません。
※カグツチが出せないことに気づいていません。


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シモン 043:失ったもの/失いたくないもの
鴇羽舞衣 043:失ったもの/失いたくないもの





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