藤乃静留が修羅にならなかった理由(ワケ) ◆1sC7CjNPu2



 「ほぇ?」

 藤乃静留は踏みしめる大地がないことに戸惑って思わず疑問の声をあげて落っこちた。

 「うわぁあぁご、ごめんなさい!」

 ジャグジー・スプロットはいきなり目の前であがった水柱にいつものよう泣いて怯えて謝った。

 ■

 落ちた高さがそれほどではなかったためだろう。会場に飛ばされた直後に水面に叩きつけられるという手荒い歓迎を受けるはめになった静留は、不幸中の幸いというか全身ずぶ濡れになっただけで済んだ。

 「いやほんまにありがとうございます。」
 「い、いえその、ええと・・・・・・たいしたことはしてませんし。」

 ジャグジーの言ったことは謙遜でもなんでもなく事実である。静留は自力で泳いで岸に渡ってきたし、ジャグジーがしたことはせいぜい海から上がる時に手を貸したぐらいだ。
 それから軽い自己紹介をして今に至る。

 「ところで、スプロットはんはこのゲームに乗るつもりで?」
 「ぼ、僕ですか?」

 ジャグジーは静留の質問で自分が殺し合いに強制的に参加させられていることを思い出した。
 現実感がなかったし、バトルロワイヤル開始直後に水難事故未満に遭遇したこともあってすっかり忘れていたのだ。
 ひょっとしたら、忘れようとしていたのかもしれないとジャグジーは思った。そこで思考が別の方向へ行きそうだったので、頭を振って改めて考えてみる。
 自分は螺旋王だとか名乗った主催者の言われた通りに殺し合いをするか。
 当然、答えはNOだ。ジャグジーはフライング・プッシーフット号に戻って『線路の影をなぞる者』と黒服の連中を撃退しなければならない。
 あそこには大切な仲間たちが、友人と呼べるほど親しくなった人たちがいる。ジャグジーはその人たちを守るため戦うと誓ったのだ。

 「僕は血を見るのが嫌いだし、骨が折れる音を聞くのも本当に怖いから、その、だから、殺し合いなんてしたくないです。あの、ごめんなさいすいません。」

 そこでなぜか泣いて謝るのがジャグジーがジャグジーたる所なのだろう。
 静留は頭を下げるジャグジーをじっと観察する。
 なんというかあまりにも情けない。顔に刺青をしていることからギャングか何かかと思ったが、そういった裏社会で生きていける人間にはどうしても思えなかった。
 だから、少し意地悪な質問をすることにした。

 「もし、ゲームに乗った人が襲い掛かってきたらどうなさいはるん?」
 「えと、その、説得します。」
 「説得に応じなかったらどうしますえ?」
 「そ、その、に逃げます。」
 「逃げても追いかけて来たらどうしますえ?」

 ジャグジーは考えた。説得しても逃げても追いかけてくる追跡者を。
 その場合はきっと追跡者は凶暴か凶悪なやつだ。そいつはきっと僕や、僕以外の人たちも殺そうとするだろう。
 ジャグジーは一回深呼吸をして、なけなしの勇気を振り絞る。次の自分の言葉が怖くて目からまた涙があふれてきた。

 「どうしても駄目だっていうなら、殺します。藤乃さんや、他の戦えない人とか、そんな人たちのために。」

 ジャグジーは人殺しをしたことがある。間接的ではあったが、自分は殺人者なのだ。
 だから人殺しは自分がする。できるだけしたくないが、犯罪者でもなんでもない一般人を、特に静留のような普通の人を殺人者にはしたくなかった。
 ジャグジーはそんな自分の偽善者っぷりに嫌悪しながら言葉を重ねる。

 「こんなことを仕組んだ螺旋王って人にも、抗います。殺し合いなんて間違ってると思うから。」

 ジャグジーは嫌われたと思った。自分は最悪の場合、人殺しをすると告白したのだ。
 静留がいったい今どんな顔をしているのかが怖くて、ジャグジーは顔を上げることができなかった。

 そして、そんなジャグジーの目の前に急に刃物が『出現』した。
 ビビッて驚いて顔を上げると、その刃物を持っていたのは静留だった。

 「ふ、ふふふふふっ、藤乃さん!?」
 「う~ん、なんでか清姫は呼び出せへんなぁ」

 何時の間にか静留の手には薙刀に似た武器―――エレメントが握られていた。
 静留は調子を確かめるように数回エレメントを振ると、『出現』させたのと同様にエレメントを『消失』させた。

 「え、ええええええええ!?ななななななななななな、なんですかソレェェェェェェ!」
 「ただの手品どすぇ♪」
 「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 つい先ほどまでの決意は何だったのか。ジャグジーは腰を抜かしてまた泣いていた。
 静留はオホホホホと口を手で隠しながら笑っている。予想した通りのリアクションにご満悦のようだ。

 「まぁ詳しい話は道すがらでどうどすか?正直この格好のまんまだと風邪を引いてしまいそうなんどす。」
 「え、ええその、そ、そうですね。」

 返事をしてから、ジャグジーは静留が水浸しのままだったということを思い出した。
 静留が近づいてジャグジーに手を差し出す。ジャグジーは戸惑ったものの手を取って立ち上がった。
 綺麗な手だと、ジャグジーは思った。

 「そんなに見つめられると照れますなぁ。」
 「あ!いえそのごめんなさいすいません!」

 空いているほうの手を頬に当て、静留はいかにも私は照れてますといったポーズを取る。
 一方のジャグジーは顔を真っ赤にしながら顔を横に振っている。泣きながらすごい勢いで顔を右へ左へと振る姿は実に健全で微笑ましい。

 「さて、そろそろ出発しますえ。ホンマに風邪引いてしまいそうやわ。」
 「出発って、どこに。」
 「そこ。」

 ジャグジーの疑問に対し、気軽に静留が指さした先はジャグジーにとって予想した通りのものだった。
 気がついてはいたが、あえて無視していたものである。

 「あの、すごい怪しいですよ」
 「でも他にめぼしい所は見当たりまへんし、行くだけ行ってみましょっか。スプロットはん。」

 それだけ言って静留は歩き始めた。
 ジャグジーも遅れないように慌てて歩を進める。

 「絶対怪しいよなぁ、あれ。」

 再度呟いたジャグジーの目には見事にライトアップされた豪華客船が写っていた。
 平時ならば歓声を上げて喜んだだろうが、今の状況を考えると怪しくて近づきたくないのがジャグジーの本音である。
 しかし静留の着替えのことを考えると、確かに豪華客船以外めぼしい所は見当たらない。
 と、そこでジャグジーはある事に気づき静留に声をかけた。

 「あの、藤乃さん。」
 「はい、なんどすか?」
 「僕のことはジャグジーで結構です。その、呼び捨てでいいですよ。」

 ジャグジーの友人たちはジャグジーのことを呼び捨てにするし、ジャグジー自身そちらの方が気が楽だった。
 静留に限らず、スプロットさんとか呼ばれるのはなんとなく小恥ずかしいのだ。

 「分かりましたえ。でも呼び捨てやと恥ずかしいんで、ジャグジーはんで堪忍なぁ。」
 「あ、はい。分かりました。」

 ジャグジーは少し嬉しそうにうなずくと、静留の後について豪華客船へ向かった。
 その刺青の入った顔にはまだ涙の痕が残っていたが、悲痛な決意を告白した時の危うさは消え去っていた。


【E-3/豪華客船付近/1日目/深夜】
【ジャグジー・スプロット@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康。
[装備]:支給品一式(ランダム支給品は後続の書き手さんにお任せ)
[道具]:なし
[思考]:
基本思考:主催者に抗う。
1:静留と一緒に行動する。
2:できるだけ殺したくない。
3:2が無理の場合、自分が戦う。
[備考]:
※ 参戦時期はフライング・プッシーフット号事件の最中、ラッド・ルッソと出会った直後あたりで
※ 参加者名簿、地図、支給品にはまだ目を通していません



 蝕の祭とはルールが違う。
 主催者を倒し、首輪を外せばこのゲームから脱出することは可能なのだ。

 だから、今はまだこのゲームには乗らない。
 一刻も早くなつきと合流して、なつきを守る。なつきの姿は、螺旋王とやらが広間でルールを説明した時に見つけた。
 余談だが、静留にはなつきが包帯でグルグル巻きのミイラ姿になっても見つけることができる。

 そしてなつきを守れなかったら、その時こそこのゲームに乗る。
 螺旋王は億万長者にでも不老不死にでもすると言った。ならば死者の蘇生も可能かもしれない。
 しかし死者の蘇生については確信がない。可能かもしれないだけで、事実可能かどうかなど確かめようがないのだ。
 だから、今はなつきを探す。

 それが藤乃静留が修羅にならなかった理由である。

 「くしゅん。」 
 「だ、大丈夫ですか!」 
 「おおきに、少し急ぎますえ。」 

 何はともあれ着替えは必要であった。


【E-3/豪華客船付近/1日目/深夜】
【藤乃静留@舞-HiME】
[状態]:健康。(ただしずぶ濡れ)
[装備]:支給品一式(ランダム支給品は後続の書き手さんにお任せ)
[道具]:なし
[思考]:
基本思考:なつきを守る。
1:なつきを探す
2:なつきを傷つけるのは許しまへんえ
3:着替える
[備考]:
※参戦時期は奈緒に合わせて蝕の祭の結果がナシになった所ぐらいを意識しましたが、他のタイミングにも対応できるようにした(つもり)なので後続の書き手さんにお任せします。
※参加者名簿、地図、支給品にはまだ目を通していません


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ジャグジー・スプロット 062:睡蓮-あまねく花
藤乃静留 062:睡蓮-あまねく花





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