「主催者打倒宣言!」(2022/09/05 (月) 22:35:39) の最新版変更点
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**主催者打倒宣言! ◆s1y9vYGV9k
脳裏に焼きついたまま消えることのない記憶。全てを失いかけたあの日のこと。
邸内に侵入した何者かの襲撃によって母を目の前で亡くし、足の自由と光さえも奪われた妹ナナリー。
父に求めた救いの手は容赦なく払われ、代わりにこの手が掴んだのは日本へと向かう切符。
当時地下資源を巡って関係が緊張化していた日本に、俺とナナリーは人質として送り込まれたのだ。
だから、母に一つの誓いを立てた。
俺がナナリーの目となり足となって傍で支え護り抜くと。
一年後。
俺とナナリー、そして俺たちが日本で出会い友情を培った少年の三人は揃って廃墟の中にいた。
かつて都市だったものは瓦礫の山となり、昨日生きていた者はゴミのように辺りを埋め尽くしている。
ブリタニアは。父は。俺達のことなど最初からいなかったかのように日本に戦争を仕掛け、勝利した。
日本はブリタニアの属領エリア11として再生され、俺達兄妹は死んだことになった。
俺は、俺自身に誓いを立てた。
弱者が生きていくことを認められない、そんな世界を是とするならば。
ブリタニアをぶっ壊す、と。
それから7年の月日が流れ……俺は今、ここにいる。
真に弱者が生きることを許されない世界。
殺し合いの舞台に。
クソッ、どういうことだこれは。
耳障りな音のない月夜の静寂にあって、俺はひとり愚直にも怒りで身を震わせていた。
光力を最小に設定したランタンを利用し目を通した名簿に、意外な名前が記載されていたためだ。
何故スザクまでもがこんなろくでもないバカ騒ぎに巻き込まれなければいけない。
優しすぎて戦いには、ましてや殺し合いなど全く不向きな男だぞ、スザクは。
苛立ったところで俺にはどうすることも出来はしない。
出来るのは、名簿の先を読み進めることだけだ。
俺にとって数少ない幸運は、名がランペルージ姓で記載されていたこと。
そして何より、ナナリーを巻き込まずに済んだことだ。
広間で見渡した限り俺の知人など一人も見当たらなかったが、その際に女子供の姿をいくつか視認している。
あの中にはゲームを遂行するための潤滑油として呼ばれた者もいるかもしれない。
生贄としてはもちろんのこと、参加者が戦う理由を作ることすら含めた役回りとして。
それに、ナナリーが選ばれる。考えただけで不可視の手に心臓を掴まれたような気分だ。
実現していたならば首輪の影響力などまるで比較にならない恐怖が全身を支配しただろう。
気に入らないが、それだけでもマシだ。まだ俺は平静を取り戻すことが可能なのだから。
あの広間のことを思い出すと、今でも悔いが残る。
俺はこの首輪とやらを爆破されぬギリギリのラインまであの男、ロージェノムを問い詰め、出来うる限りの情報を引き出すべきだった。
慎重に場の観察を行った。そう言い換えれば聞こえはいいだろうが、結果的には流されるまま座していたに過ぎない。
一人になればどうとでもなると慢心した時点で俺は負けていたのだろう。
確かに自信を持つだけの切り札はあった。
俺の左眼に宿る能力。下した命令を強制的に従わせる“絶対遵守の力 ―ギアス―”。
同じ相手には二度と通じないため機会は只一度。命令のやり直しは効かず、撤回も不可。
そして能力の発動時に対象が俺の左眼を覗き込む必要がある。つまり基本的には向き合っていなければ効果を得られない。
これらの制限もあるが、適切に行使する限り絶大な効力を発揮する力。
――故にあの場では使えない切り札が。
ギアスを使うにはありとあらゆる情報が不足していた。
集められた人員の出自。選考基準。手段。
螺旋王ロージェノムとは。その背景とは。目的である螺旋遺伝子とは。
ロージェノムを制せばこの茶番は本当に終わるのか。
そもそもギアスは通用するのか。
通用しなければ、俺のギアスはタネが割れている手品に成り下がる恐れがある。
それでなくとも余計な注目を全員から集めてしまうことになるのだ。それではまずい。
推測になるが、おそらくギアスはロージェノムに対して効力を発揮することはないだろう。
少なくともあの場ではギアスを無効化する何らかの手段を施している筈だ。
ロージェノムに渡されたクリスタルを用い全身を鎧で包んだあの男。
原理はともかく強さは本物だった。サザーランドを凌駕する性能を持つナイトメアフレーム、あの白兜を以ってしても奴には敵うまい。
それ程の相手をロージェノムは平然と利用した。
己の力を十二分に誇示した上で、首輪という強制力まで見せ付ける。
実に効果的なオープニングだ。
それだけにギアス一つで潰せるほど甘い計画ではないという証左となる。
情報整理だ。
まずは『名簿』から名を知っている者だけを抜き出す。
枢木スザク。
俺の仮面の一つであり、反ブリタニア組織である黒の騎士団を率いるリーダー“ゼロ”。
ブリタニア軍に所属するスザクは、ゼロの立場であったならば俺の敵となる。
だがルルーシュとしてならば、全幅の信頼を寄せられる唯一無二の友だ。
偽りのランペルージ姓ではなく、ブリタニア皇族ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという
素性を知る数少ない人間でもある。
その事実に若干の懸念が無い訳でもないが、まず心配はいらないだろう。
スザクが秘密を漏らすとしたら状況はかなり限定される。
俺が死に瀕していて、ブリタニア皇族の名前を出せば助かるといった類のな。
フン、まず有り得ないことだ。
ジェレミア・ゴットバルト。ああ、あのオレンジ君も居たか。
以前この男に仕掛けたギアスが有効ならば文字通り取るに足らない男だが……どうだろうな。
ロージェノムがギアスに干渉可能であれば、決して崩れることのない優位性を保たせたままというのも疑わしい。
仮に持続していたとして、それがゼロに適応されてもルルーシュ・ランペルージに適応されるかは不明瞭だ。
実例がないのが残念だが、こればかりは軽々しく実験する訳にもいかないしな。
まあ放っておいても簡単に自滅するタイプだ。コイツのことは気にする必要はないだろう。
出会うことは無いと思うが、立ち塞がるならばギアスの力に頼らずとも再び踊らせてやるだけだ。
ロイド・アスプルンド。直接の面識はないな。
ブリタニアの有能な科学者であるというデータ上で得た知識があるだけだ。
それだけにこの男の扱いについては慎重を期するべきだろう。
敵対さえしなければ、最低限クリアするべき障害の一つを片付ける上で重要な存在と成り得る。
首に宛がった手の甲に伝わる冷ややかな感触の原因。
生殺与奪を握る忌々しい枷。これを除去しない限り俺達にはロージェノムの走狗となる道しか残されていない。
カレン・シュタットフェルト。
彼女は表向きは病弱な貴族の令嬢。裏では黒の騎士団の一員という俺に似た事情を抱えている。
黒の騎士団にとってカレンの価値は高い。
卓越したナイトメア乗りという点でもそうだが、黒の騎士団の前身となった旧レジスタンス初代リーダーの妹。
ゼロが組織のトップとして君臨していられるのは、俺の手腕だけでなく彼女の協力によるところも大きい。
何も知らない彼女が忠実で優秀な駒となるのは、俺がゼロである場合のみ。
ルルーシュ・ランペルージは同じ学園に通うクラスメイトでしかない。
ギアス、又は類似する精神支配による影響を受けていない限り、正体を明かし信じさせることは容易い。
それだけの状況証拠はいくらでも用意できる。
しかし秘密は内に秘めてこそ秘密となる。徒に綻びを生むような真似は愚者のやることだ。
決定的な理由が生まれない限り、彼女とはルルーシュの立場で接することが望ましいだろう。
以上4名を除けば残るは未知の相手のみ。その数、総勢77名。
途方もない数だが、一人に付き一人の情報しか得られない訳ではない。
他の参加者とて情報交換の必要性は感じているはず。
上手くいけば直接の接触者が10人に満たなくともほぼ全員の情報を得られる。
その分、不確かな情報の取捨には迫られるだろうが。
この名簿の内訳には奇妙な特徴がある。
氏名から日本人と思しき者の割合がおよそ三割を占めている。これは世界中から集められたにしては異常な数だ。
これだけの舞台を整えた者が特定民族に意味もなく偏りを持たせたとは考えにくい。
日本全土から租界・ゲットーを問わず特定の条件を満たす者を掻き集めた、とするならば辻褄合わせにはなるか。
まあいい。同じ憶測ならばそれよりも参加者についてだ。
俄かには信じ難いが、異星生命体とやらに関連がある人物が少なくとも二名。螺旋生命体だったか。
ロージェノムの口振りから、両名ともモロトフと呼ばれていた鎧の男に匹敵する存在と見ていいだろう。
紛れもない化け物達だ。勝者を決める戦いなど無意味に思える程に圧倒的。
鎧を纏うには特殊な結晶体を必要とするらしいことだけが付け入る隙か。フン、運任せな話を。
早期に条件を満たされたならば一方的な虐殺が待つだけだ。
それではゲームにすらなりはしない。ロージェノムもそのような結果は求めていないだろう。
ならば、必ず対抗し得る力を持つ者も参加者に含まれている筈。
そのような力の強い者達の中で話の分かる者を見極め、一人でも多く味方に付けるのが得策だろう。
ブレードと呼ばれていた赤いジャケットを着た黒髪の男もそういった候補の一人だ。
名簿にはブレードという名は記載されていなかった。
どうやらブレードとは奴らの間だけで伝わるコードネームみたいなものらしい。
残念だ。ブレードさえ載っていれば、ランサーが残りの一人であると確定したようなものだったのだがな。
しかし衝撃のアルベルトに素晴らしきヒィッツカラルド。
クロ、ミー、マタタビ、ねねね……か。
まるでマジックショーでも行いそうな面々だな。まず偽名だろうが。
螺旋王ロージェノム。
奴にブリタニアの息がかかっている可能性については類推するしかないが……
あの広間での出来事から判断するならば、これは著しく低い。
弱者に生存権が認められない世界。まるでブリタニアの思想を体現したかのようだが、これだけで結びつけるには飛躍が過ぎる。
ならば残るEU、中華連邦が関与しているというのか? 論外だ。
これだけの技術力が一国にあればブリタニアを筆頭とした三大国のパワーバランスなど形骸化している。
人材と資源、時間が有限であるが故に成り立っている現在の情勢など砂上の楼閣に等しい筈だ。
現時点で最も高い可能性を類推する上で、鍵となる存在に心当たりがないわけでもないが。
内に秘める思惑を何一つ晒さず常に不敵な笑みを浮かべ、俺を困惑させることを楽しんでいるようにしか見えない変人。
日常と引き換えに、俺に世界を変革する超常の力を与えた謎の女。
C.C.。彼女が関与しているならば或いは……ないな。
ロージェノムと彼女では同じ異能者であっても、色が違い過ぎる。
やはり答えに至るピースがまるで足りていない。思考を進めるには時が必要だ。
俺は確かにあの広間で聞いた。未知の者に対するそれではなく、明確な意思を持ってロージェノムと叫ぶ声を。
この舞台の背景を探るには声の主と接触する必要がある。検証はその後でいい。
ただ、このゲームについての仕組みならば現時点ではっきりしている。
ロージェノムの望むがままに戦い続け、念願の“最後に立っていた者”になったとしよう。
約束通り勝者は願いを叶えて貰い、何事もなく解放される。めでたしめでたし、か。
フン、馬鹿な。そんな訳がない。
俺達をモルモットと言い放った者に期待できることではないな。
良くて文字通り飼い殺し、悪ければ同じような舞台に再び投げ込まれるのが見え透いている。
ならばロージェノムを排除する以外に選択はない。
そのためには、三つの条件を満たすことが最低限必要となってくる。
1.首輪を解除する。
2.ロージェノムを打倒するだけの戦力を集める。
3.ロージェノムの元へ辿り着く方法を見付ける。
2は最悪ギアスで賄えるかもしれないが、残りは糸口すら掴めていない。
絶望的なスタートラインからの出発となるが、それも当然のこと。
肝心なのは、覚悟して一歩を踏み出せるかどうかだ。
今は前に進む意思。ただそれだけがあればいい。
事態の推移が早すぎてはロージェノムの手によって参加者が“追加”されないとも限らない。
そしてそれがナナリーでないとは言い切れない以上、計画は極秘裏に進める必要がある。
地図、コンパス、筆記用具、水と食料、名簿、時計。
基本支給品は全て確認を終え、ランタン以外はデイパックの横に並べてある。
残るは戦力差を埋めるべく無作為に支給されるという道具のみ。
意を決して腕をデイパックへと伸ばす。
現れたのは全身を網目状の線で張り巡らしているフレッシュグリーンの球状物体。
見落としていた食料の一部と判断し、デイパックの横へと移す。
その途中ひらひらと何かが舞い落ちた。紙だ。
拾い上げて確かめると、視界に到底受け入れ難い一文が飛び込んできた。
『お口にとろけるベリーメロン! 一口食べればあなたも踊りだすおいしさ!』
なんだこれは。ふざけているのか。しかも全11個だと?
確認してみたが、説明に偽りなく本当に11個も入っている。
……頭が痛くなる話だ。
今の事態を酷く悪辣な冗談だと一笑に付すことが出来るほど俺は強くも愚かでもないが、
これでは悪い夢だと思い込みたくもなる。
どの程度の品物が出回っているかは知らないが、紛れもなくこれはハズレの部類だ。
非常食としては有益である事実は認めよう。だが、それが何になる。メロンで命が護れるものか。
大体ナイフの一つも付けないというのはどういうことだ。割って食べろというのか。
――待て。
あまりの馬鹿馬鹿しさに見落としてしまったが、説明には重要な単語が混入していた。
試しに一欠片でも口に含ませてみれば真偽を確かめることは出来る。出来るが……
やはり止めておくのが懸命だろう。
さて、どうする。
立ち止まることに意味はないが、だからといって闇雲に移動するというのも思慮に欠けた話だ。
漠然としたものではない、確固とした当面の目標を立てる必要がある。
そうだな。ここはスザクとの合流を優先させるか。
あのお人好しのことだ。放っておけば誰を疑うこともなく、どんな危険にも平然と首を突っ込みかねない。
一刻も早く見つけ出して保護してやる必要があるだろう。まったく、手のかかる奴だ。
スザクの立場――俺をルルーシュ・ランペルージという一生徒としか認識していないならばどう動く。
刑務所、古墳等は真っ先に除外できる。赴く理由も留まる理由もない。
デパートやモール、及びこれに類する人が集まる条件が整った場所。目に留まるのはまずこの辺りか。
しかしこれでは候補となる施設の数が多く、一つずつ虱潰しする他はない。
当然ながら擦れ違う危険性も高くなる。
ではどうするか?
指標となる拠点を選び抜けばいいだけのことだ。
地図上の北東部と南西部に位置し、俺が身に着けている服装とも間接的な関わりのある施設。
そう、学校が適している。
スザクが俺を最優先で探すことは間違いないが、学友であり生徒会の仲間でもあるカレンも対象の一人だろう。
ならば、二人に共通して関連している場所である学校に目が行くのは当然のこと。
加えて地理的な面に於いても学校は最適な立地条件にある。
二つの学校は下水処理場近くを走るモノレールを利用することでほぼ一本道と見做すことが可能なためだ。
モノレールが使えない、ということはないだろう。
俺が主催者であるならばそういった手段は必ず用意しておく。
交通手段を設置する利点は大きく分類して二つ。
一つは従来の製造目的と同様に移動時間の短縮を図るためだ。
もう一つは参加者同士による接触の機会を増やすことにある。
メリットとデメリットを内包する後者は差し詰め運命の分かれ道といったところか。
俺はスザクと共にこのゲームをぶっ壊す。
絶対に。
ああそうだ。絶対にだ。
だから心配せず待っていてくれナナリー。
【H-5/1日目/深夜】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式、メロン×11@金色のガッシュベル!!
[思考]
1:スザクとの合流を果たすべくまずは学校(H-2地点)へ向かう。
2:このゲームをぶっ壊すための駒と情報を集める。
※ルルーシュの参戦時期は第13話「シャーリーと銃口」以前。
スザクがランスロットの搭乗者であることは判明しておらず、マオについては存在すら知りません。
【メロン@金色のガッシュ】
※普通のメロンです。
本当に踊りだす人も二名ぐらいはいるかもしれませんが、基本的にはただのメロン。
*時系列順で読む
Back:[[Cat Blues]] Next:[[熱血ハートのサイボーグ]]
*投下順で読む
Back:[[Cat Blues]] Next:[[熱血ハートのサイボーグ]]
|ルルーシュ・ランペルージ|060:[[その名は絶望]]|
**主催者打倒宣言! ◆s1y9vYGV9k
脳裏に焼きついたまま消えることのない記憶。全てを失いかけたあの日のこと。
邸内に侵入した何者かの襲撃によって母を目の前で亡くし、足の自由と光さえも奪われた妹ナナリー。
父に求めた救いの手は容赦なく払われ、代わりにこの手が掴んだのは日本へと向かう切符。
当時地下資源を巡って関係が緊張化していた日本に、俺とナナリーは人質として送り込まれたのだ。
だから、母に一つの誓いを立てた。
俺がナナリーの目となり足となって傍で支え護り抜くと。
一年後。
俺とナナリー、そして俺たちが日本で出会い友情を培った少年の三人は揃って廃墟の中にいた。
かつて都市だったものは瓦礫の山となり、昨日生きていた者はゴミのように辺りを埋め尽くしている。
ブリタニアは。父は。俺達のことなど最初からいなかったかのように日本に戦争を仕掛け、勝利した。
日本はブリタニアの属領エリア11として再生され、俺達兄妹は死んだことになった。
俺は、俺自身に誓いを立てた。
弱者が生きていくことを認められない、そんな世界を是とするならば。
ブリタニアをぶっ壊す、と。
それから7年の月日が流れ……俺は今、ここにいる。
真に弱者が生きることを許されない世界。
殺し合いの舞台に。
クソッ、どういうことだこれは。
耳障りな音のない月夜の静寂にあって、俺はひとり愚直にも怒りで身を震わせていた。
光力を最小に設定したランタンを利用し目を通した名簿に、意外な名前が記載されていたためだ。
何故スザクまでもがこんなろくでもないバカ騒ぎに巻き込まれなければいけない。
優しすぎて戦いには、ましてや殺し合いなど全く不向きな男だぞ、スザクは。
苛立ったところで俺にはどうすることも出来はしない。
出来るのは、名簿の先を読み進めることだけだ。
俺にとって数少ない幸運は、名がランペルージ姓で記載されていたこと。
そして何より、ナナリーを巻き込まずに済んだことだ。
広間で見渡した限り俺の知人など一人も見当たらなかったが、その際に女子供の姿をいくつか視認している。
あの中にはゲームを遂行するための潤滑油として呼ばれた者もいるかもしれない。
生贄としてはもちろんのこと、参加者が戦う理由を作ることすら含めた役回りとして。
それに、ナナリーが選ばれる。考えただけで不可視の手に心臓を掴まれたような気分だ。
実現していたならば首輪の影響力などまるで比較にならない恐怖が全身を支配しただろう。
気に入らないが、それだけでもマシだ。まだ俺は平静を取り戻すことが可能なのだから。
あの広間のことを思い出すと、今でも悔いが残る。
俺はこの首輪とやらを爆破されぬギリギリのラインまであの男、ロージェノムを問い詰め、出来うる限りの情報を引き出すべきだった。
慎重に場の観察を行った。そう言い換えれば聞こえはいいだろうが、結果的には流されるまま座していたに過ぎない。
一人になればどうとでもなると慢心した時点で俺は負けていたのだろう。
確かに自信を持つだけの切り札はあった。
俺の左眼に宿る能力。下した命令を強制的に従わせる“絶対遵守の力 ―ギアス―”。
同じ相手には二度と通じないため機会は只一度。命令のやり直しは効かず、撤回も不可。
そして能力の発動時に対象が俺の左眼を覗き込む必要がある。つまり基本的には向き合っていなければ効果を得られない。
これらの制限もあるが、適切に行使する限り絶大な効力を発揮する力。
――故にあの場では使えない切り札が。
ギアスを使うにはありとあらゆる情報が不足していた。
集められた人員の出自。選考基準。手段。
螺旋王ロージェノムとは。その背景とは。目的である螺旋遺伝子とは。
ロージェノムを制せばこの茶番は本当に終わるのか。
そもそもギアスは通用するのか。
通用しなければ、俺のギアスはタネが割れている手品に成り下がる恐れがある。
それでなくとも余計な注目を全員から集めてしまうことになるのだ。それではまずい。
推測になるが、おそらくギアスはロージェノムに対して効力を発揮することはないだろう。
少なくともあの場ではギアスを無効化する何らかの手段を施している筈だ。
ロージェノムに渡されたクリスタルを用い全身を鎧で包んだあの男。
原理はともかく強さは本物だった。サザーランドを凌駕する性能を持つナイトメアフレーム、あの白兜を以ってしても奴には敵うまい。
それ程の相手をロージェノムは平然と利用した。
己の力を十二分に誇示した上で、首輪という強制力まで見せ付ける。
実に効果的なオープニングだ。
それだけにギアス一つで潰せるほど甘い計画ではないという証左となる。
情報整理だ。
まずは『名簿』から名を知っている者だけを抜き出す。
枢木スザク。
俺の仮面の一つであり、反ブリタニア組織である黒の騎士団を率いるリーダー“ゼロ”。
ブリタニア軍に所属するスザクは、ゼロの立場であったならば俺の敵となる。
だがルルーシュとしてならば、全幅の信頼を寄せられる唯一無二の友だ。
偽りのランペルージ姓ではなく、ブリタニア皇族ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという
素性を知る数少ない人間でもある。
その事実に若干の懸念が無い訳でもないが、まず心配はいらないだろう。
スザクが秘密を漏らすとしたら状況はかなり限定される。
俺が死に瀕していて、ブリタニア皇族の名前を出せば助かるといった類のな。
フン、まず有り得ないことだ。
ジェレミア・ゴットバルト。ああ、あのオレンジ君も居たか。
以前この男に仕掛けたギアスが有効ならば文字通り取るに足らない男だが……どうだろうな。
ロージェノムがギアスに干渉可能であれば、決して崩れることのない優位性を保たせたままというのも疑わしい。
仮に持続していたとして、それがゼロに適応されてもルルーシュ・ランペルージに適応されるかは不明瞭だ。
実例がないのが残念だが、こればかりは軽々しく実験する訳にもいかないしな。
まあ放っておいても簡単に自滅するタイプだ。コイツのことは気にする必要はないだろう。
出会うことは無いと思うが、立ち塞がるならばギアスの力に頼らずとも再び踊らせてやるだけだ。
ロイド・アスプルンド。直接の面識はないな。
ブリタニアの有能な科学者であるというデータ上で得た知識があるだけだ。
それだけにこの男の扱いについては慎重を期するべきだろう。
敵対さえしなければ、最低限クリアするべき障害の一つを片付ける上で重要な存在と成り得る。
首に宛がった手の甲に伝わる冷ややかな感触の原因。
生殺与奪を握る忌々しい枷。これを除去しない限り俺達にはロージェノムの走狗となる道しか残されていない。
カレン・シュタットフェルト。
彼女は表向きは病弱な貴族の令嬢。裏では黒の騎士団の一員という俺に似た事情を抱えている。
黒の騎士団にとってカレンの価値は高い。
卓越したナイトメア乗りという点でもそうだが、黒の騎士団の前身となった旧レジスタンス初代リーダーの妹。
ゼロが組織のトップとして君臨していられるのは、俺の手腕だけでなく彼女の協力によるところも大きい。
何も知らない彼女が忠実で優秀な駒となるのは、俺がゼロである場合のみ。
ルルーシュ・ランペルージは同じ学園に通うクラスメイトでしかない。
ギアス、又は類似する精神支配による影響を受けていない限り、正体を明かし信じさせることは容易い。
それだけの状況証拠はいくらでも用意できる。
しかし秘密は内に秘めてこそ秘密となる。徒に綻びを生むような真似は愚者のやることだ。
決定的な理由が生まれない限り、彼女とはルルーシュの立場で接することが望ましいだろう。
以上4名を除けば残るは未知の相手のみ。その数、総勢77名。
途方もない数だが、一人に付き一人の情報しか得られない訳ではない。
他の参加者とて情報交換の必要性は感じているはず。
上手くいけば直接の接触者が10人に満たなくともほぼ全員の情報を得られる。
その分、不確かな情報の取捨には迫られるだろうが。
この名簿の内訳には奇妙な特徴がある。
氏名から日本人と思しき者の割合がおよそ三割を占めている。これは世界中から集められたにしては異常な数だ。
これだけの舞台を整えた者が特定民族に意味もなく偏りを持たせたとは考えにくい。
日本全土から租界・ゲットーを問わず特定の条件を満たす者を掻き集めた、とするならば辻褄合わせにはなるか。
まあいい。同じ憶測ならばそれよりも参加者についてだ。
俄かには信じ難いが、異星生命体とやらに関連がある人物が少なくとも二名。螺旋生命体だったか。
ロージェノムの口振りから、両名ともモロトフと呼ばれていた鎧の男に匹敵する存在と見ていいだろう。
紛れもない化け物達だ。勝者を決める戦いなど無意味に思える程に圧倒的。
鎧を纏うには特殊な結晶体を必要とするらしいことだけが付け入る隙か。フン、運任せな話を。
早期に条件を満たされたならば一方的な虐殺が待つだけだ。
それではゲームにすらなりはしない。ロージェノムもそのような結果は求めていないだろう。
ならば、必ず対抗し得る力を持つ者も参加者に含まれている筈。
そのような力の強い者達の中で話の分かる者を見極め、一人でも多く味方に付けるのが得策だろう。
ブレードと呼ばれていた赤いジャケットを着た黒髪の男もそういった候補の一人だ。
名簿にはブレードという名は記載されていなかった。
どうやらブレードとは奴らの間だけで伝わるコードネームみたいなものらしい。
残念だ。ブレードさえ載っていれば、ランサーが残りの一人であると確定したようなものだったのだがな。
しかし衝撃のアルベルトに素晴らしきヒィッツカラルド。
クロ、ミー、マタタビ、ねねね……か。
まるでマジックショーでも行いそうな面々だな。まず偽名だろうが。
螺旋王ロージェノム。
奴にブリタニアの息がかかっている可能性については類推するしかないが……
あの広間での出来事から判断するならば、これは著しく低い。
弱者に生存権が認められない世界。まるでブリタニアの思想を体現したかのようだが、これだけで結びつけるには飛躍が過ぎる。
ならば残るEU、中華連邦が関与しているというのか? 論外だ。
これだけの技術力が一国にあればブリタニアを筆頭とした三大国のパワーバランスなど形骸化している。
人材と資源、時間が有限であるが故に成り立っている現在の情勢など砂上の楼閣に等しい筈だ。
現時点で最も高い可能性を類推する上で、鍵となる存在に心当たりがないわけでもないが。
内に秘める思惑を何一つ晒さず常に不敵な笑みを浮かべ、俺を困惑させることを楽しんでいるようにしか見えない変人。
日常と引き換えに、俺に世界を変革する超常の力を与えた謎の女。
C.C.。彼女が関与しているならば或いは……ないな。
ロージェノムと彼女では同じ異能者であっても、色が違い過ぎる。
やはり答えに至るピースがまるで足りていない。思考を進めるには時が必要だ。
俺は確かにあの広間で聞いた。未知の者に対するそれではなく、明確な意思を持ってロージェノムと叫ぶ声を。
この舞台の背景を探るには声の主と接触する必要がある。検証はその後でいい。
ただ、このゲームについての仕組みならば現時点ではっきりしている。
ロージェノムの望むがままに戦い続け、念願の“最後に立っていた者”になったとしよう。
約束通り勝者は願いを叶えて貰い、何事もなく解放される。めでたしめでたし、か。
フン、馬鹿な。そんな訳がない。
俺達をモルモットと言い放った者に期待できることではないな。
良くて文字通り飼い殺し、悪ければ同じような舞台に再び投げ込まれるのが見え透いている。
ならばロージェノムを排除する以外に選択はない。
そのためには、三つの条件を満たすことが最低限必要となってくる。
1.首輪を解除する。
2.ロージェノムを打倒するだけの戦力を集める。
3.ロージェノムの元へ辿り着く方法を見付ける。
2は最悪ギアスで賄えるかもしれないが、残りは糸口すら掴めていない。
絶望的なスタートラインからの出発となるが、それも当然のこと。
肝心なのは、覚悟して一歩を踏み出せるかどうかだ。
今は前に進む意思。ただそれだけがあればいい。
事態の推移が早すぎてはロージェノムの手によって参加者が“追加”されないとも限らない。
そしてそれがナナリーでないとは言い切れない以上、計画は極秘裏に進める必要がある。
地図、コンパス、筆記用具、水と食料、名簿、時計。
基本支給品は全て確認を終え、ランタン以外はデイパックの横に並べてある。
残るは戦力差を埋めるべく無作為に支給されるという道具のみ。
意を決して腕をデイパックへと伸ばす。
現れたのは全身を網目状の線で張り巡らしているフレッシュグリーンの球状物体。
見落としていた食料の一部と判断し、デイパックの横へと移す。
その途中ひらひらと何かが舞い落ちた。紙だ。
拾い上げて確かめると、視界に到底受け入れ難い一文が飛び込んできた。
『お口にとろけるベリーメロン! 一口食べればあなたも踊りだすおいしさ!』
なんだこれは。ふざけているのか。しかも全11個だと?
確認してみたが、説明に偽りなく本当に11個も入っている。
……頭が痛くなる話だ。
今の事態を酷く悪辣な冗談だと一笑に付すことが出来るほど俺は強くも愚かでもないが、
これでは悪い夢だと思い込みたくもなる。
どの程度の品物が出回っているかは知らないが、紛れもなくこれはハズレの部類だ。
非常食としては有益である事実は認めよう。だが、それが何になる。メロンで命が護れるものか。
大体ナイフの一つも付けないというのはどういうことだ。割って食べろというのか。
――待て。
あまりの馬鹿馬鹿しさに見落としてしまったが、説明には重要な単語が混入していた。
試しに一欠片でも口に含ませてみれば真偽を確かめることは出来る。出来るが……
やはり止めておくのが懸命だろう。
さて、どうする。
立ち止まることに意味はないが、だからといって闇雲に移動するというのも思慮に欠けた話だ。
漠然としたものではない、確固とした当面の目標を立てる必要がある。
そうだな。ここはスザクとの合流を優先させるか。
あのお人好しのことだ。放っておけば誰を疑うこともなく、どんな危険にも平然と首を突っ込みかねない。
一刻も早く見つけ出して保護してやる必要があるだろう。まったく、手のかかる奴だ。
スザクの立場――俺をルルーシュ・ランペルージという一生徒としか認識していないならばどう動く。
刑務所、古墳等は真っ先に除外できる。赴く理由も留まる理由もない。
デパートやモール、及びこれに類する人が集まる条件が整った場所。目に留まるのはまずこの辺りか。
しかしこれでは候補となる施設の数が多く、一つずつ虱潰しする他はない。
当然ながら擦れ違う危険性も高くなる。
ではどうするか?
指標となる拠点を選び抜けばいいだけのことだ。
地図上の北東部と南西部に位置し、俺が身に着けている服装とも間接的な関わりのある施設。
そう、学校が適している。
スザクが俺を最優先で探すことは間違いないが、学友であり生徒会の仲間でもあるカレンも対象の一人だろう。
ならば、二人に共通して関連している場所である学校に目が行くのは当然のこと。
加えて地理的な面に於いても学校は最適な立地条件にある。
二つの学校は下水処理場近くを走るモノレールを利用することでほぼ一本道と見做すことが可能なためだ。
モノレールが使えない、ということはないだろう。
俺が主催者であるならばそういった手段は必ず用意しておく。
交通手段を設置する利点は大きく分類して二つ。
一つは従来の製造目的と同様に移動時間の短縮を図るためだ。
もう一つは参加者同士による接触の機会を増やすことにある。
メリットとデメリットを内包する後者は差し詰め運命の分かれ道といったところか。
俺はスザクと共にこのゲームをぶっ壊す。
絶対に。
ああそうだ。絶対にだ。
だから心配せず待っていてくれナナリー。
【H-5/1日目/深夜】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式、メロン×11
[思考]
1:スザクとの合流を果たすべくまずは学校(H-2地点)へ向かう。
2:このゲームをぶっ壊すための駒と情報を集める。
※ルルーシュの参戦時期は第13話「シャーリーと銃口」以前。
スザクがランスロットの搭乗者であることは判明しておらず、マオについては存在すら知りません。
【メロン】
※普通のメロンです。
本当に踊りだす人も二名ぐらいはいるかもしれませんが、基本的にはただのメロン。
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|ルルーシュ・ランペルージ|060:[[その名は絶望]]|
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