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「始まりは終わりの始まり(前編)」(2023/07/07 (金) 05:44:20) の最新版変更点
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**始まりは終わりの始まり(前編) ◆EA1tgeYbP.
テッペリンの廊下。螺旋状に螺旋くれた廊下をニコラス=D=ウルフウッドは進む。目指すは玉座、つい先ほどルルーシュに呼び出された場所だ。
東方不敗、チミルフの二人と別れてしばらく後、することもなくぶらつきを再開したウルフウッドは突然ルルーシュから大至急玉座へと来るように指示されたのだ。
(――今度は何の用やねん、あのもやしっ子)
歩くウルフウッドの顔には不満げな表情がありありと浮かんでいた。何せつい先ほど呼び出されたときの用事は放送のリハーサルの観客役というものだ。
仮に今度の用事もまたふざけたものだったら苛立ちのあまり、あの細っこいボディに一発ぐらい喰らわせかねない。
まあ、ルルーシュもそこまでバカでもないだろう。実際のところ考えられる用件としては「試練」のメンバーに関してあたりだろうか。
「今度は何の用や、もやしっ子」
そう言いつつ玉座の間へと入ったウルフウッドを六対の視線が迎え入れる。
「……何かあったんか?」
空気の違いを感じ取り、瞬時に意識を切り替えたウルフウッドは真正面にいる人物、玉座に座るルルーシュへと問い掛ける。
「シトマンドラ、頼む」
だが、ルルーシュはその問いには答えず、自らの傍に立つシトマンドラへと何か指示を出す。
……ここでようやくウルフウッドは今、この玉座の間にいる同志のメンバーが大きく二種類に別れたことに気がついた。
努めて表情を出さないシトマンドラ、何か苦虫を噛み潰したかのように不機嫌な気配が見え隠れするルルーシュとグアーム。彼ら三人はおそらく何かを知っている。
そうして、待つことしばし。玉座の間にいる事情を把握していない残り4人。東方不敗、アディーネ、チミルフ、そしてウルフウッド、彼らの前にモニターの映像が映し出される。
「――これは今から少し前の『箱庭』の出来事だ」
補足するルルーシュの言葉と共に、モニターの中では真っ赤なガンメンと対主催を志すメンバー達との間で戦いが繰り広げられていた。
ウルフウッドも一度やりあったことがあるスカー。
王ドロボウ、ジン。
彼らがガンメンの気をひく間にガッシュ・ベルが放つ光球が2つ、3つとガンメンへと着弾していく。
―――そして。
「バオウ・ザケルガァアアアアアアアアアア!!」
ねねねの叫びと共にガッシュが放つ黄金色の雷竜がガンメンを蹂躙する。
「――終わったな」
東方不敗が短く呟く。
あの一撃はこの東方不敗をして避けるも防ぐもあたわず、と感じ取った一撃だ。たとえ機械に守られていようともあのような未熟者達に防ぎきれるようなものではない。
これで実験場内の殺人者達は一掃された。とはいってもまあ、あの甘い者達のことだ。殺すとまではいかずにせいぜいが行動不能にする程度ではあろう。
さておき、マーダー達が動けないとなれば次はようやく自分達の出番となる。
東方不敗やウルフウッドはモニターから視線を外すとルルーシュへと向ける、……が。
「……ある意味、終わってくれていればよかったんだがな」
試練役として、まず誰が行くのだ? そう尋ねようとした東方不敗の機先を制するかのようなタイミングで告げられる、やや疲れた感じのルルーシュの言葉。
「……?」
その言葉に東方不敗達は再びモニターへと視線を移す。
するとそこには。
「「 愛 情 合 体 ッ ! 天元突破グレンラガン!! 」」
『勇気だの誇りだの、そんなものはちっぽけだ。愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!』
ヴィラルの叫び声と共に人型の機体の全身から碧色の――いや、碧混じりの〝桃色〟の輝きが、天に向かって迸る。
天壌を埋め尽くす螺旋の奔流。大気を巻き込み捻れを成すほどの、逆流。
螺旋力の渦巻き、それ自体が巨大なドリルとなって、空間を穿つ。
空を、天を、大気圏を、月まで届く勢いで、宇宙を制す。
……そのような光景が繰り広げられていた。
「王よ、これは一体?」
「見てもらった通りだ。つい先ほど『箱庭』の中において、計算よりもはるかに早いタイミングで我々が……その、待ち望んでいた天元突破の覚醒が果たされた」
チミルフの問いにルルーシュは答える。
そんなやり取りの合間にもモニターの中では事態は進んでいき、
『ギィイイイイイガァアアアアアアアア!!』
『ラァアアアアアブラブゥウウウウウ!!』
機体、グレンラガンの右腕が高く突き上がり、先端が巨大なドリルと化す。
ドリルは瞬く間に高速回転を始め、唸りを上げ。
「「ドリル――ブレイクゥウウウウウ!!」」
そして、唐突に静止する。
「とりあえず、ここまでが今の状況だ。現在シトマンドラによって会場内の空間は凍結をかけられているが、天元突破者が出てきた以上、凍結それ自体が破られるのも時間の問題だろう」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そう、ルルーシュが言い切ると玉座の間には微妙な沈黙が落ちた。
何せ待ち望んだ結果というのがあんなモノ、だったのだ。皆どう反応していいのかわからなかった。
「……アホらしい」
そんな中、ウルフウッドはポツリと呟く。
当事者達がどれほど真剣であろうとも、彼らがやっていることは愛の告白をしてパワーアップという三文芝居に他ならない。傍から見ている限りは馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
(……まったくだ)
表には出さないもののルルーシュも内心ウルフウッドに同意する。
さらにルルーシュにはもう一つ、この状況を馬鹿らしく思う理由があった。
それは他でもない、天元突破を成したのがヴィラルであるというこの事態そのものだ。
確かに可能性の上だけではヴィラルが天元突破を果たすという事態をルルーシュも考慮していなかったわけではない。
しかし、同時にその可能性は極めて低い ――それこそ未だに螺旋力の覚醒を果たしていないギルガメッシュやスパイク、ジンといった参加者より――筈だった。
何故ならばヴィラルは改造を受けたとはいえ元々は獣人だ。それが天元突破を果たせるというのなら、ロージェノムの配下に候補はいくらでもいたはずだ。
そう、シャマルという追加要因があったことが天元突破の一因となったのだと仮定しても、配下の獣人全てを使い潰すつもりで試しておけばこのような殺し合いにこのルルーシュや、
スザクが巻き込まなければならない必然性があったのかどうか。
(愚かにも程があるぞ、ロージェノム!)
改めてルルーシュはのうのうと逃げ出したロージェノムに対して怒りを燃やす。
「……それでどうするのじゃ?」
あらかじめ何が起きたのかをある程度知っていたが故に立ち直るのも早かったのか、場の沈黙をグアームが破る。
その問いかけの言葉にルルーシュも我に返った。
そう、今はまだ優先すべきことが他にある。
「おぬしがわしらに聞かせた話によると、この場合は逐一対応するとのことじゃったが」
「そうだな……その前にまず、アンチ=スパイラルの動きはどうなっている?」
「前と変わらず、だ。今のところ動きはないね」
「……そうか」
アディーネからの返答を聞きルルーシュは少し考える。
天元突破が成された以上すぐにでもアンチ=スパイラルは動いてもおかしくはないというのが、彼の予想の一つだったのだが……。
(……そうなると、だ)
「ふむ、当てが外れたか?」
「いや、そうでもない。確かに予想していた中の一つは外れたが、ただそれだけだ」
東方不敗からの問いにルルーシュはかぶりを振る。
(ならば次の一手は……)
「アンチ=スパイラルが動かないというのであれば、こちらが動こう」
ややあって、ルルーシュは六人の同志に告げる。
「その前にこの状況下、もっとも困る事態というのはなんだかわかるか?」
「そりゃあ、敵さんが突然気を変えてあたし達に襲いかかって来る事じゃないか」
ルルーシュの突然の問いかけにややあって、戸惑いながらもアディーネが答えを返す。
その答えにルルーシュは苦笑を浮かべた。
「確かにその通りと言えばそうだが、それならばもっと前か、天元突破の時点で動くだろう。
この問いの正解はせっかく覚醒した天元突破者が倒されてしまうこと、だ。
アンチ=スパイラルが危険視するような存在さえをも滅ぼすようなものがこの会場内にいるという確証を与えてしまえば会場後と俺達主催陣が消し去られることになったとしても何の不思議もない」
「はっ! なんだいそりゃあ。あのロージェノムさえ恐れるアンチ=スパイラル。それさえも倒しうる奴が一体どこのどいつに負けるって?」
アディーネの失笑を無視してルルーシュはモニターを操作する。
画像が変わり映されたのは黄金の青年が螺旋状の剣を振りかざすシーン。
彼の相手を馬鹿にしたような余裕に満ちた表情からはとても彼が戦いの場に身を置いていると考えるのは難しい。
だが、彼が剣を振り下ろすや否や、剣から膨大なエネルギーが解き放たれ、アディーネもよく知るダイガンザン、
もっとも正確にはダイグレンという名の戦艦型ガンメンが無残に破壊されていく。
「……英雄王か」
東方不敗が呟いた。この場においては彼とチミルフのみがかの英霊の強さを己が身で感じ取っている。
続いてルルーシュはモニターを操作する。
次にモニターに移ったのは全身に傷を負ったショートカットの少女だ。
彼女は赤と銀に彩られ逆立つ髪をもつ、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい相手と対峙する。
一見、先の映像との共通点は見当たらない。ただ一つ少女がその手に握る螺旋状の剣を除いては。
そして、彼女の手の中で剣の円柱が回転し、暴風を引き起こす。
「天地乖離す(エヌマ)――――」
「――――開闢の星(エリシュ)!!」
螺旋を帯びた暴風が全てを消し飛ばしていく。
「…………」
「英雄王ギルガメッシュと、彼の武器たる乖離剣エア。特にエアの威力はあの会場に影響をも及ぼすことはデータ上ほぼ間違いないだろう。
しかもそのときのエアの使用者は別人だ。あの武器の本来の使用者、言い換えればあの武器を最も使い慣れているものが全力でその力を振るった時は一体どれほどの威力になるのかは予想もつかん。
ならば、万が一の事態というのは当然想定せねばならん」
今度はルルーシュの言葉に反論するものはいなかった。
「そこでだ。チミルフ、グアーム、東方不敗の三人には会場内に行って天元突破覚醒者たるヴィラルとシャマルの両名。ならびに彼らが騎乗しているガンメン、グレンとラガンを回収してきてもらいたい。」
「……構わんが、いいのか?」
東方不敗は問い掛ける。
何せつい先ほどわざわざ自分達が死んだと見せかけるために一芝居うったばかりだ。それを台無しにしていいのかと。
「ああ、だから東方不敗、あなたに関してはあくまでもバックアップということで。チミルフ・グアームのみで対処しきれん事態。
……そうだな、例えばヴィラル達が抵抗して回収が困難、あるいは回収前にギルガメッシュがやってきてその対処に手間取るなどといった事になるまでは表には出ないでいて欲しい。
それから、チミルフに関しては問題ないだろう。なにせ『偉大なる螺旋王』様は死者を蘇らせる事さえ容易いことらしいからな。」
「なるほどな」
ルルーシュの言葉に東方不敗は嗤う。
「もっとも、ヴィラル、シャマルの両名に関しては問題はないだろう。
確実に理解しているかどうかまでは知らんが、一応ヴィラルは高嶺清麿の考察を聞いている。
殺し合いの途中であれ、真の螺旋覚醒を果たしたものをわざわざ回収しにくるといった事態にも納得するだろう。
そうだな、真なる螺旋覚醒を果たした戦士ヴィラル、褒美としてその伴侶シャマルと共にこの舞台より脱出する権利を与える、とでもチミルフより伝えてやればのこのこ従うことだろう。
まあ、そうした細かい交渉はチミルフ、グアーム二人に任せる」
「ふむ、請け負おう」
「はっ、了解いたしました」
グアームはあっさりと、チミルフは恭しくルルーシュの言葉に同意する。
「東方不敗もかまわんな?」
「無論」
「シトマンドラ、アディーネ、二人は引き続き会場内とアンチ=スパイラル、この二つの監視を続けてくれ。
さすがに大きな動きはないとは思うが念のためだ。万が一、新たな動きがあればどんな小さなものでも構わん。大至急知らせてくれ」
「……異論はない」
「わかったよ」
シトマンドラ、アディーネの両者もまたあっさりと首肯する。
「今のところはこのぐらいだな。新しい動きがあれば、それに応じて指示は出す。では、頼んだ通り動いてくれ」
「……おい」
「なんだ?」
ただ一人、指示を与えられなかったウルフウッドが不機嫌な声を出す。
「なんだ? じゃないわボケ。わいはどないしたらええんや?」
「今はまだやってもらうことはないな」
「……は?」
ルルーシュの返答に一瞬呆けたような表情を見せるウルフウッドだったが、それは一瞬の内に怒りに取って代わられる。
先のリハーサルの一件も相まってその怒りは強くなる。
「ふざけんのも大概にせえよ、このもやしっ子! だったらワイは何のために呼ばれたんじゃこのボケ!」
「今はまだ、そう言っただろう? 貴様の出番はこの後、正確に言うと会場内からヴィラルとシャマルを回収してからだ」
「……おどれはワイにないをしろっていうんや?」
ウルフウッド、いやその場の全員が疑問の表情を浮かべる中ルルーシュは言葉を続ける。
「交渉においては圧力も立派な手札のひとつということだ」
「……?」
疑問を浮かべる一同に対し彼はさらに言葉をつむぐ。
「つまりだ、我々の目的はアンチ=スパイラルとの交渉。
だが、向こうからしてみれば今のところ我々に協力するだけのメリットが少ないのも事実だ。今現在、我々の手札は天元突破覚醒者ヴィラルという一枚しかない。
交渉が目的であるこちらからしてみれば、例え相手が攻撃に出てきたからといって天元突破覚醒者という札は簡単に切れる札ではないのだ。
故にだ、切れる札が一枚しかないというのであれば札の枚数を増やせば良い」
「つまり……」
「そう、ウルフウッドにはもう少し後になってから試練として会場にいってもらう。
天元突破者が二人、三人と出てくるとあっては、そしてこちらの主たる目的が交渉にあるということ……そのためならば覚醒者を排除するだけの意思もあるということを見せれば向こうもこちらと交渉しようとするだろう。
むやみに争うだけのメリットはおたがいにないのだからな。そしてわざわざ天元突破覚醒の場を見せたのはそういうことだ。
まあ、あそこまで馬鹿らしい覚醒を果たすものはもう現れはせんだろうが、アレに近い感情の高ぶりは覚醒のきっかけ、その一つになるかもしれないということだけは頭に入れておいてくれ」
ルルーシュの言葉に今度こそ全員納得した表情を見せる。
「では、全員頼んだぞ」
玉座の間から6つの影が去っていった。
◇
**時系列順に読む
Back:[[愛に時間をⅣ]] Next:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]
**投下順に読む
Back:[[獣人と人(状態表)]] Next:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]
|283:[[獣人と人(状態表)]]|ルルーシュ・ランペルージ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|ニコラス・D・ウルフウッド|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|東方不敗|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|チミルフ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|不動のグアーム|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|流麗のアディーネ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|神速のシトマンドラ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
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**始まりは終わりの始まり(前編) ◆EA1tgeYbP.
テッペリンの廊下。螺旋状に螺旋くれた廊下をニコラス=D=ウルフウッドは進む。目指すは玉座、つい先ほどルルーシュに呼び出された場所だ。
東方不敗、チミルフの二人と別れてしばらく後、することもなくぶらつきを再開したウルフウッドは突然ルルーシュから大至急玉座へと来るように指示されたのだ。
(――今度は何の用やねん、あのもやしっ子)
歩くウルフウッドの顔には不満げな表情がありありと浮かんでいた。何せつい先ほど呼び出されたときの用事は放送のリハーサルの観客役というものだ。
仮に今度の用事もまたふざけたものだったら苛立ちのあまり、あの細っこいボディに一発ぐらい喰らわせかねない。
まあ、ルルーシュもそこまでバカでもないだろう。実際のところ考えられる用件としては「試練」のメンバーに関してあたりだろうか。
「今度は何の用や、もやしっ子」
そう言いつつ玉座の間へと入ったウルフウッドを六対の視線が迎え入れる。
「……何かあったんか?」
空気の違いを感じ取り、瞬時に意識を切り替えたウルフウッドは真正面にいる人物、玉座に座るルルーシュへと問い掛ける。
「シトマンドラ、頼む」
だが、ルルーシュはその問いには答えず、自らの傍に立つシトマンドラへと何か指示を出す。
……ここでようやくウルフウッドは今、この玉座の間にいる同志のメンバーが大きく二種類に別れたことに気がついた。
努めて表情を出さないシトマンドラ、何か苦虫を噛み潰したかのように不機嫌な気配が見え隠れするルルーシュとグアーム。彼ら三人はおそらく何かを知っている。
そうして、待つことしばし。玉座の間にいる事情を把握していない残り4人。東方不敗、アディーネ、チミルフ、そしてウルフウッド、彼らの前にモニターの映像が映し出される。
「――これは今から少し前の『箱庭』の出来事だ」
補足するルルーシュの言葉と共に、モニターの中では真っ赤なガンメンと対主催を志すメンバー達との間で戦いが繰り広げられていた。
ウルフウッドも一度やりあったことがあるスカー。
王ドロボウ、ジン。
彼らがガンメンの気をひく間にガッシュ・ベルが放つ光球が2つ、3つとガンメンへと着弾していく。
―――そして。
「バオウ・ザケルガァアアアアアアアアアア!!」
ねねねの叫びと共にガッシュが放つ黄金色の雷竜がガンメンを蹂躙する。
「――終わったな」
東方不敗が短く呟く。
あの一撃はこの東方不敗をして避けるも防ぐもあたわず、と感じ取った一撃だ。たとえ機械に守られていようともあのような未熟者達に防ぎきれるようなものではない。
これで実験場内の殺人者達は一掃された。とはいってもまあ、あの甘い者達のことだ。殺すとまではいかずにせいぜいが行動不能にする程度ではあろう。
さておき、マーダー達が動けないとなれば次はようやく自分達の出番となる。
東方不敗やウルフウッドはモニターから視線を外すとルルーシュへと向ける……が。
「……ある意味、終わってくれていればよかったんだがな」
試練役として、まず誰が行くのだ? そう尋ねようとした東方不敗の機先を制するかのようなタイミングで告げられる、やや疲れた感じのルルーシュの言葉。
「……?」
その言葉に東方不敗達は再びモニターへと視線を移す。
するとそこには。
「「 愛 情 合 体 ッ ! 天元突破グレンラガン!! 」」
『勇気だの誇りだの、そんなものはちっぽけだ。愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!』
ヴィラルの叫び声と共に人型の機体の全身から碧色の――いや、碧混じりの〝桃色〟の輝きが、天に向かって迸る。
天壌を埋め尽くす螺旋の奔流。大気を巻き込み捻れを成すほどの、逆流。
螺旋力の渦巻き、それ自体が巨大なドリルとなって、空間を穿つ。
空を、天を、大気圏を、月まで届く勢いで、宇宙を制す。
……そのような光景が繰り広げられていた。
「王よ、これは一体?」
「見てもらった通りだ。つい先ほど『箱庭』の中において、計算よりもはるかに早いタイミングで我々が……その、待ち望んでいた天元突破の覚醒が果たされた」
チミルフの問いにルルーシュは答える。
そんなやり取りの合間にもモニターの中で事態は進んでいき、
『ギィイイイイイガァアアアアアアアア!!』
『ラァアアアアアブラブゥウウウウウ!!』
機体、グレンラガンの右腕が高く突き上がり、先端が巨大なドリルと化す。
ドリルは瞬く間に高速回転を始め、唸りを上げ。
「「ドリル――ブレイクゥウウウウウ!!」」
そして、唐突に静止する。
「とりあえず、ここまでが今の状況だ。
現在シトマンドラによって会場内の空間は凍結をかけられているが、天元突破者が出てきた以上、凍結それ自体が破られるのも時間の問題だろう」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そう、ルルーシュが言い切ると玉座の間には微妙な沈黙が落ちた。
何せ待ち望んだ結果というのがあんなモノ、だったのだ。皆どう反応していいのかわからなかった。
「……アホらしい」
そんな中、ウルフウッドはポツリと呟く。
当事者達がどれほど真剣であろうとも、彼らがやっていることは愛の告白をしてパワーアップという三文芝居に他ならない。
傍から見ている限りは馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
(……まったくだ)
表には出さないもののルルーシュも内心ウルフウッドに同意する。
さらにルルーシュにはもう一つ、この状況を馬鹿らしく思う理由があった。
それは他でもない、天元突破を成したのがヴィラルであるというこの事態そのものだ。
確かに可能性の上だけではヴィラルが天元突破を果たすという事態をルルーシュも考慮していなかったわけではない。
しかし、同時にその可能性は極めて――それこそ未だに螺旋力の覚醒を果たしていないギルガメッシュやスパイク、ジンといった参加者より――低い筈だった。
何故ならばヴィラルは改造を受けたとはいえ元々は獣人だ。それが天元突破を果たせるというのなら、ロージェノムの配下に候補はいくらでもいたはずだ。
そう、シャマルという追加要因があったことが天元突破の一因となったのだと仮定しても、
配下の獣人全てを使い潰すつもりで試しておけば、このような殺し合いにこのルルーシュやスザクを巻き込まなければならない必然性があったかどうか。
(愚かにも程があるぞ、ロージェノム!)
改めてルルーシュはのうのうと逃げ出したロージェノムに対して怒りを燃やす。
「……それでどうするのじゃ?」
あらかじめ何が起きたのかをある程度知っていたが故に立ち直るのも早かったのか、場の沈黙をグアームが破る。
その問いかけの言葉にルルーシュも我に返った。
そう、今はまだ優先すべきことが他にある。
「おぬしがわしらに聞かせた話によると、この場合は逐一対応するとのことじゃったが」
「そうだな……その前にまず、アンチ=スパイラルの動きはどうなっている?」
「前と変わらず、だ。今のところ動きはないね」
「……そうか」
アディーネからの返答を聞きルルーシュは少し考える。
天元突破が成された以上すぐにでもアンチ=スパイラルは動いてもおかしくはないというのが、彼の予想の一つだったのだが……
(……そうなると、だ)
「ふむ、当てが外れたか?」
「いや、そうでもない。確かに予想していた中の一つは外れたが、ただそれだけだ」
東方不敗からの問いにルルーシュはかぶりを振る。
(ならば次の一手は……)
「アンチ=スパイラルが動かないというのであれば、こちらが動こう」
ややあって、ルルーシュは六人の同志に告げる。
「その前にこの状況下、もっとも困る事態というのはなんだかわかるか?」
「そりゃあ、敵さんが突然気を変えてあたし達に襲いかかって来る事じゃないか」
ルルーシュの突然の問いかけにややあって、戸惑いながらもアディーネが答えを返す。
その答えにルルーシュは苦笑を浮かべた。
「確かにその通りと言えばそうだが、それならばもっと前か、天元突破の時点で動くだろう。
この問いの正解はせっかく覚醒した天元突破者が倒されてしまうこと、だ。
アンチ=スパイラルが危険視するような存在さえをも滅ぼすようなものがこの会場内にいるという確証を与えてしまえば、
会場ごと俺達主催陣が消し去られることになったとしても何の不思議もない」
「はっ! なんだいそりゃあ。あのロージェノムさえ恐れるアンチ=スパイラル。それさえも倒しうる奴が一体どこのどいつに負けるって?」
アディーネの失笑を無視してルルーシュはモニターを操作する。
画像が変わり映されたのは黒猫姿の青年が螺旋状の剣を振りかざすシーン。
彼の相手を馬鹿にしたような余裕に満ちた表情からは、とても彼が戦いの場に身を置いていると考えるのは難しい。
だが、彼が剣を振り下ろすや否や、剣から膨大なエネルギーが解き放たれ、アディーネもよく知るダイガンザン、
もっとも正確にはダイグレンという名の戦艦型ガンメンが無残に破壊されていく。
「……英雄王か」
東方不敗が呟いた。この場においては彼とチミルフのみがかの英霊の強さを己が身で感じ取っている。
続いてルルーシュはモニターを操作する。
次にモニターに移ったのは全身に傷を負ったショートカットの少女だ。
彼女は赤と銀に彩られ逆立つ髪をもつ、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい相手と対峙する。
一見、先の映像との共通点は見当たらない。ただ一つ少女がその手に握る螺旋状の剣を除いては。
そして、彼女の手の中で剣の円柱が回転し、暴風を引き起こす。
「天地乖離す(エヌマ)――――」
「――――開闢の星(エリシュ)!!」
螺旋を帯びた暴風が全てを消し飛ばしていく。
「…………」
「英雄王ギルガメッシュと、彼の武器たる乖離剣エア。特にエアの威力はあの会場に影響をも及ぼすことはデータ上ほぼ間違いないだろう。
しかもそのときのエアの使用者は別人だ。
あの武器の本来の使用者、言い換えればあの武器を最も使い慣れているものが全力でその力を振るった時は、一体どれほどの威力になるのかは予想もつかん。
ならば、万が一の事態というのは当然想定せねばならん」
今度はルルーシュの言葉に反論するものはいなかった。
「そこでだ。チミルフ、グアーム、東方不敗の三人には会場内に行って天元突破覚醒者たるヴィラルとシャマルの両名。
ならびに彼らが騎乗しているガンメン、グレンとラガンを回収してきてもらいたい。」
「……構わんが、いいのか?」
東方不敗は問い掛ける。
何せつい先ほどわざわざ自分達が死んだと見せかけるために一芝居打ったばかりだ。それを台無しにしていいのかと。
「ああ、だから東方不敗、あなたに関してはあくまでもバックアップということで。チミルフ、グアームのみで対処しきれん事態……
そうだな、例えばヴィラル達が抵抗して回収が困難、あるいは回収前にギルガメッシュがやってきてその対処に手間取るなどといった事になるまでは表には出ないでいて欲しい。
それから、チミルフに関しては問題ないだろう。なにせ『偉大なる螺旋王』様は死者を蘇らせる事さえ容易いらしいからな。」
「なるほどな」
ルルーシュの言葉に東方不敗は嗤う。
「もっとも、ヴィラル、シャマルの両名に関しても問題はないだろう。
確実に理解しているかどうかまでは知らんが、一応ヴィラルは高嶺清麿の考察を聞いている。
殺し合いの途中であれ、真の螺旋覚醒を果たしたものをわざわざ回収しにくるといった事態にも納得するだろう。
そうだな、真なる螺旋覚醒を果たした戦士ヴィラル、褒美としてその伴侶シャマルと共にこの舞台より脱出する権利を与える、とでもチミルフより伝えてやればのこのこ従うことだろう。
まあ、そうした細かい交渉はチミルフ、グアーム二人に任せる」
「ふむ、請け負おう」
「はっ、了解いたしました」
グアームはあっさりと、チミルフは恭しくルルーシュの言葉に同意する。
「東方不敗もかまわんな?」
「無論」
「シトマンドラ、アディーネ、二人は引き続き会場内とアンチ=スパイラル、この二つの監視を続けてくれ。
さすがに大きな動きはないとは思うが念のためだ。万が一、新たな動きがあればどんな小さなものでも構わん。大至急知らせてくれ」
「……異論はない」
「わかったよ」
シトマンドラ、アディーネの両者もまたあっさりと首肯する。
「今のところはこのぐらいだな。新しい動きがあれば、それに応じて指示は出す。では、頼んだ通り動いてくれ」
「……おい」
「なんだ?」
ただ一人、指示を与えられなかったウルフウッドが不機嫌な声を出す。
「なんだ? じゃないわボケ。ワイはどないしたらええんや?」
「今はまだやってもらうことはないな」
「……は?」
ルルーシュの返答に一瞬呆けたような表情を見せるウルフウッドだったが、それは一瞬の内に怒りに取って代わられる。
先のリハーサルの一件も相まってその怒りは強くなる。
「ふざけんのも大概にせえよ、このもやしっ子! だったらワイは何のために呼ばれたんじゃこのボケ!」
「今はまだ、そう言っただろう? 貴様の出番はこの後、正確に言うと会場内からヴィラルとシャマルを回収してからだ」
「……おどれはワイに何をしろっていうんや?」
ウルフウッド、いやその場の全員が疑問の表情を浮かべる中ルルーシュは言葉を続ける。
「交渉においては圧力も立派な手札の一つということだ」
「……?」
疑問を浮かべる一同に対し彼はさらに言葉を紡ぐ。
「つまりだ、我々の目的はアンチ=スパイラルとの交渉。
だが、向こうからしてみれば今のところ我々に協力するだけのメリットが少ないのも事実だ。今現在、我々の手札は天元突破覚醒者ヴィラルという一枚しかない。
交渉が目的であるこちらからしてみれば、例え相手が攻撃に出てきたからといって天元突破覚醒者という札は簡単に切れる札ではないのだ。
故にだ、切れる札が一枚しかないというのであれば札の枚数を増やせば良い」
「つまり……」
「そう、ウルフウッドにはもう少し後になってから試練として会場にいってもらう。
天元突破者が二人、三人と出てくるとあっては、こちらの主たる目的が交渉にあるということ……
そのためならば覚醒者を排除するだけの意志もあるということを見せれば向こうもこちらと交渉しようとするだろう。
むやみに争うだけのメリットはお互いに無いのだからな。そしてわざわざ天元突破覚醒の場を見せたのはそういうことだ。
まあ、あそこまで馬鹿らしい覚醒を果たすものはもう現れはせんだろうが、
アレに近い感情の高ぶりは覚醒のきっかけ、その一つになるかもしれないということだけは頭に入れておいてくれ」
ルルーシュの言葉に今度こそ全員納得した表情を見せる。
「では、全員頼んだぞ」
玉座の間から6つの影が去っていった。
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|283:[[獣人と人(状態表)]]|ルルーシュ・ランペルージ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|ニコラス・D・ウルフウッド|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|東方不敗|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|チミルフ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|不動のグアーム|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|流麗のアディーネ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
|283:[[獣人と人(状態表)]]|神速のシトマンドラ|284:[[始まりは終わりの始まり(後編)]]|
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