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「アイが呼ぶほうへ(後編)」(2023/06/11 (日) 13:03:28) の最新版変更点
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**アイが呼ぶほうへ(後編) ◆2PGjCBHFlk
四人が自分達の団結を新たにしたところで、放置されていた扉の部屋はようやく日の目を見ることができた。
光の差し込まない暗い部屋の中に足を踏み入れ、カミナは僅かに息を呑む。
真夜中さながらの暗室ぶりは、故郷の夜を思い出させる。
ジーハ村では電力の消費を抑えろと、躍起になって怒鳴りつけた村長の存在も今では少し懐かしい。
(へっ。過ぎた昨日に気を向けるなんて、らしくねぇことしちまった。
一度故郷を飛び出したからには、退かねぇ媚びねぇ顧みねぇ――ちょっと違うか?)
首を傾げるカミナの左右、挟むように立つ二人が不安にしているのを肌で感じる。
暗闇を恐れるのは人の本能で、そのことで怒鳴りつけるなんて狭量さは持ち合わせていない。
故にここでカミナが取るべき行動は、誰よりも先に暗闇の中で前に進むことだった。
何故なら、リーダーが動かなければ後ろはついてこれないのだから。
「しみったれた場所じゃねぇか。薄暗くって何も見えやしねぇ!」
大声を上げて堂々と踏み出すカミナに、ガッシュとニアの足音が続く。
そのことに小さな感謝をした眼前――暗闇は唐突にもたらされた輝きに消し飛ばされる。
「――何であるか!?」
「ニア、ガッシュ! 下がってろ!」
咄嗟の事態に悲鳴を上げる二人を背後に庇い、白光に覆われた瞳を無理にこじ開ける。
その目の前に何が出現していようと、最初の壁となるのは自分でなければならないのだから。
もっとも、その心意気も杞憂に終わった。
光の灯った室内、三人の目が光度の変化に対応し始めると、そこに危険がないことが知れる。
そう、その一室には敵対者は一人もおらず、あるのは広大な空間だけ。
カミナにとっては見たこともないような機械だらけの一室。
ど真ん中にででんと縦長の筒が伸びているのと、壁際に配置されているのが椅子によく似ている程度しか認識できない。
駆け回ってなお手に余る空間の出現に、カミナ達三人は声も出ない。
機械だらけの空間というのは、この三人にとってあまりにも馴染みのない空間なのだ。
だからこそ、この場の重要性について理解の呟きが漏れたことを誰も聞き逃さなかった。
『この場所は……』
「わかんのか、クロミラ」
『はっきりとはわかりません。ただ……この高度な文明は飛躍的に私のいた世界のものに似通っています。
細部に至っては違いますが、文明レベルにおいて』
「俺にはさっぱりわからねぇ。噛み砕いてくれ」
『……つまり、この場所がどういう目的に使われる場所なのか、私にはわかるかもしれないということです』
「すごいです! クロスミラージュさん!」
賛辞の言葉もそこそこに辞したクロスミラージュに従い、カミナは空間の中央にある腰ほどの高さのパネルを見る。
これだけならばグレンのコックピット内にも似たようなものがあったような気もするが、如何せん規模が違う。
握れば動かせるだろうという操縦桿を見つからず、カミナは手をこまねく他にない。
『やはり、この機械の文明の設計思想はかなり私の文明のレベルに近いものです。
次元間移動に即した私達の世界のものに比べ、こちらの場合はあくまで単一世界の理に従ったもののようですが……』
淡々と自身の考察を述べるクロスミラージュの背後、聞いている三人が煙を上げている。
カミナは真っ赤になった顔、耳や鼻から蒸気が漏れる。
ガッシュは理解しようと頭を抱え、その場で唸りながらぐるぐる回っている状態だ。
ニアに至っては指折り数えていることから、いつもの調子で質問する数をストックしている様子が窺えた。
これ以上の説明は無駄になる、とクロスミラージュが諦めたかは定かではない。
だが事実として彼は説明の口を止めると、
『とにかく、起動させることは可能だということです。カミナ、そちらにある赤いボタンを押していただけますか?』
「ぷすー。――っと、おぉ? わかった。この情熱的に赤ぇイカしたボタンだな?」
煙の噴出を止めたカミナが、促されるままに席上のボタンをゆっくり押す。
それだけで、光がかすかに灯るだけだった室内に機械の駆動音が満ち溢れた。
四方八方から鳴り響く音にガッシュとニアが驚くが、カミナはこの鼓膜を撫ぜる無数の音に聞き覚えがあるのに気づいていた。
この音は、そう――ガンメンが、グレンが起動する時に鳴り響く目覚めの音。
手足に活力が漲り、大きな顔で前を見据えるために、エネルギーが満ち満ちていく音だ。
「なんてこった……つまりこいつぁ、ガンメンだったのか!?」
『いえ、違うようです。機動兵器というわけではないようですが……』
「違うのかよ!」
意気込みを塞き止められて唾を飛ばすカミナ。
その懐でクロスミラージュが起動し始めた周囲の機械の検分を進める――その時だ。
『――螺旋界認識転移システム起動』
その電子音声を聞くのは二度目だが、その言葉の意味する内容は理解不能だった。
螺旋の冠がつく名前にカミナは振り向くが、ニアもガッシュもわからないと首を振る。
改めて何を言われたのか思い出そうにも、難しい名前すぎて螺旋何ちゃらとしか思い出せない。
「一体、どういう意味なのだ」
「待ってください。まだ、さっきの方のお話は途中のようです」
『――螺旋力保持者の存在を確認。システム起動。システムはこれより、対象者を望むものの場所へと転送します』
それきり静まり返る室内、相変わらず周囲の機械は騒がしいが、聞こえた声以上の変化は訪れる気配がない。
三人は互いに顔を見合わせると、同時に肩を竦めて無理解をアピール。
「クロミラ」
『はい。どうやらこの装置の名称は螺旋界認識転移システム。
おそらくはその名称の通り、認識した物体の場所へ転移させるという装置のようです。
認識したものを呼び出すのではなく、こちらから移動するという形式のもののようですが』
クロスミラージュは説明を述べながら、自身の考察が正しかったことを悟る。
機動六課などの存在のある本来の彼の次元に対し、こちらの装置は単一世界の移動を目的としたものだ。
流石に多次元間を移動するまでの技術はないらしいが、目的意識の違いがあるだけでその差異はかなり小規模なものだろう。
多数の世界から参加者を集った手口や、このような施設を用意するだけの技術力。
圧倒的な螺旋王の持つ力に、クロスミラージュは分の悪さを意識する他ない。
もっとも、そのクロスミラージュの抱く懸念の領域に、今の説明でカミナ達三人が至ることができるわけもなく――、
「ぷすー」
「ほわーん」
「きらきらー」
三人の意識が現実からかなり距離が開いている。
クロスミラージュが必死に呼びかけて三人を呼び戻し、その機能の全てを説明し終えたのは五分後のことだった。
「まったく、凄いものがあるものなのだな」
「あ、これがアニキさんの仰っていた凄いモンなのですか?」
「違ぇ違ぇ! 俺の言う凄ぇもんはもっともぉっと凄ぇもんだ。こんな意味もわからねぇ役立たずな代物のことじゃねぇよ」
『まだ意味がわかっていないのですか!?』
クロスミラージュの絶叫にカミナは「仕方ねぇだろ」とパネルを思い切り叩く。その固さに思わず叩いた手を抑えながら、
「小難しい理屈はわからねぇんだよ。というか、俺の生き様には必要ねぇんだ」
『ええっと、つまり、こういう言い方はあまり得意ではないのですが……』
「想った場所、想った相手、そこに飛ぶことができる――ですよね?」
クロスミラージュの言葉を引き取り、微笑むニアがそう繋ぐ。
クロスミラージュが『感謝します』と返答すると、ようやくカミナも理解に行き届いた。
「なるほど、そりゃ便利じゃねぇか。つまり、欲しいもんとか」
『あるいは捜し人の下へ移動することが――』
そう、二人が納得の言葉を交換した瞬間だった。
先ほどのカミナの一撃が理由か、または別の要因が作用したのかはわからない。
かなりの確率で前者を起因とするだろう中、再び電子音声が告げる。
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
『しまった、これは――!?』
同時に重なる二つの機械音声、その片方が紛れもなく焦燥感に彩られていたのを三人は聞いていた。
その瞬間に三人が何を思っていたのか、クロスミラージュにはわからない。ただ、その結果だけはすぐにわかった。
――誰もいなくなった一室で、機械の作動音だけが虚しく響き続けている。
**時系列順に読む
Back:[[アイが呼ぶほうへ(前編)]] Next:[[愛を取り戻せ!]]
**投下順に読む
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|262:[[アイが呼ぶほうへ(前編)]]|カミナ|262:[[アイが呼ぶほうへ side-A]]|
|262:[[アイが呼ぶほうへ(前編)]]|ニア|262:[[愛を取り戻せ!]]|
|262:[[アイが呼ぶほうへ(前編)]]|ガッシュ・ベル|262:[[アイが呼ぶほうへ side-A]]|
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**アイが呼ぶほうへ(後編) ◆2PGjCBHFlk
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四人が自分達の団結を新たにしたところで、放置されていた扉の部屋はようやく日の目を見ることができた。
光の差し込まない暗い部屋の中に足を踏み入れ、カミナは僅かに息を呑む。
真夜中さながらの暗室ぶりは、故郷の夜を思い出させる。
ジーハ村では電力の消費を抑えろと、躍起になって怒鳴りつけた村長の存在も今では少し懐かしい。
(へっ。過ぎた昨日に気を向けるなんて、らしくねぇことしちまった。
一度故郷を飛び出したからには、退かねぇ媚びねぇ顧みねぇ――ちょっと違うか?)
首を傾げるカミナの左右、挟むように立つ二人が不安にしているのを肌で感じる。
暗闇を恐れるのは人の本能で、そのことで怒鳴りつけるなんて狭量さは持ち合わせていない。
故にここでカミナが取るべき行動は、誰よりも先に暗闇の中で前に進むことだった。
何故なら、リーダーが動かなければ後ろはついてこれないのだから。
「しみったれた場所じゃねぇか。薄暗くって何も見えやしねぇ!」
大声を上げて堂々と踏み出すカミナに、ガッシュとニアの足音が続く。
そのことに小さな感謝をした眼前――暗闇は唐突にもたらされた輝きに消し飛ばされる。
「――何なのだ!?」
「ニア、ガッシュ! 下がってろ!」
咄嗟の事態に悲鳴を上げる二人を背後に庇い、白光に覆われた瞳を無理にこじ開ける。
その目の前に何が出現していようと、最初の壁となるのは自分でなければならないのだから。
もっとも、その心意気も杞憂に終わった。
光の灯った室内、三人の目が光度の変化に対応し始めると、そこに危険がないことが知れる。
そう、その一室には敵対者は一人もおらず、あるのは広大な空間だけ。
カミナにとっては見たこともないような機械だらけの一室。
ど真ん中にででんと縦長の筒が伸びているのと、壁際に配置されているのが椅子によく似ている程度しか認識できない。
駆け回ってなお手に余る空間の出現に、カミナ達三人は声も出ない。
機械だらけの空間というのは、この三人にとってあまりにも馴染みのない空間なのだ。
だからこそ、この場の重要性について理解の呟きが漏れたことを誰も聞き逃さなかった。
『この場所は……』
「わかんのか、クロミラ」
『はっきりとはわかりません。ただ……この高度な文明は飛躍的に私のいた世界のものに似通っています。
細部に至っては違いますが、文明レベルにおいて』
「俺にはさっぱりわからねぇ。噛み砕いてくれ」
『……つまり、この場所がどういう目的に使われる場所なのか、私にはわかるかもしれないということです』
「すごいです! クロスミラージュさん!」
賛辞の言葉もそこそこに辞したクロスミラージュに従い、カミナは空間の中央にある腰ほどの高さのパネルを見る。
これだけならばグレンのコックピット内にも似たようなものがあったような気もするが、如何せん規模が違う。
握れば動かせるだろうという操縦桿を見つからず、カミナは手をこまねく他にない。
『やはり、この機械の文明の設計思想はかなり私の文明のレベルに近いものです。
次元間移動に即した私達の世界のものに比べ、こちらの場合はあくまで単一世界の理に従ったもののようですが……』
淡々と自身の考察を述べるクロスミラージュの背後、聞いている三人が煙を上げている。
カミナは真っ赤になった顔、耳や鼻から蒸気が漏れる。
ガッシュは理解しようと頭を抱え、その場で唸りながらぐるぐる回っている状態だ。
ニアに至っては指折り数えていることから、いつもの調子で質問する数をストックしている様子が窺えた。
これ以上の説明は無駄になる、とクロスミラージュが諦めたかは定かではない。
だが事実として彼は説明の口を止めると、
『とにかく、起動させることは可能だということです。カミナ、そちらにある赤いボタンを押していただけますか?』
「ぷすー…――っと、おぉ? わかった。この情熱的に赤ぇイカしたボタンだな?」
煙の噴出を止めたカミナが、促されるままに席上のボタンをゆっくり押す。
それだけで、光がかすかに灯るだけだった室内に機械の駆動音が満ち溢れた。
四方八方から鳴り響く音にガッシュとニアが驚くが、カミナはこの鼓膜を撫ぜる無数の音に聞き覚えがあるのに気づいていた。
この音は、そう――ガンメンが、グレンが起動する時に鳴り響く目覚めの音。
手足に活力が漲り、大きな顔で前を見据えるために、エネルギーが満ち満ちていく音だ。
「なんてこった……つまりこいつぁ、ガンメンだったのか!?」
『いえ、違うようです。機動兵器というわけではないようですが……』
「違うのかよ!」
意気込みを塞き止められて唾を飛ばすカミナ。
その懐でクロスミラージュが起動し始めた周囲の機械の検分を進める――その時だ。
『――螺旋界認識転移システム起動』
その電子音声を聞くのは二度目だが、その言葉の意味する内容は理解不能だった。
螺旋の冠がつく名前にカミナは振り向くが、ニアもガッシュもわからないと首を振る。
改めて何を言われたのか思い出そうにも、難しい名前すぎて螺旋何ちゃらとしか思い出せない。
「一体、どういう意味なのだ」
「待ってください。まだ、さっきの方のお話は途中のようです」
『――螺旋力保持者の存在を確認。システム起動。システムはこれより、対象者を望むものの場所へと転送します』
それきり静まり返る室内、相変わらず周囲の機械は騒がしいが、聞こえた声以上の変化は訪れる気配がない。
三人は互いに顔を見合わせると、同時に肩を竦めて無理解をアピール。
「クロミラ」
『はい。どうやらこの装置の名称は螺旋界認識転移システム。
おそらくはその名称の通り、認識した物体の場所へ転移させるという装置のようです。
認識したものを呼び出すのではなく、こちらから移動するという形式のもののようですが』
クロスミラージュは説明を述べながら、自身の考察が正しかったことを悟る。
機動六課などの存在のある本来の彼の次元に対し、こちらの装置は単一世界の移動を目的としたものだ。
流石に多次元間を移動するまでの技術はないらしいが、目的意識の違いがあるだけでその差異はかなり小規模なものだろう。
多数の世界から参加者を集った手口や、このような施設を用意するだけの技術力。
圧倒的な螺旋王の持つ力に、クロスミラージュは分の悪さを意識する他ない。
もっとも、そのクロスミラージュの抱く懸念の領域に、今の説明でカミナ達三人が至ることができるわけもなく――
「ぷすー」
「ほわーん」
「きらきらー」
三人の意識が現実からかなり距離が開いている。
クロスミラージュが必死に呼びかけて三人を呼び戻し、その機能の全てを説明し終えたのは五分後のことだった。
「まったく、凄いものがあるものなのだな」
「あ、これがアニキさんの仰っていた凄いモンなのですか?」
「違ぇ違ぇ! 俺の言う凄ぇもんはもっともぉっと凄ぇもんだ。こんな意味もわからねぇ役立たずな代物のことじゃねぇよ」
『まだ意味がわかっていないのですか!?』
クロスミラージュの絶叫にカミナは「仕方ねぇだろ」とパネルを思い切り叩く。その固さに思わず叩いた手を押さえながら、
「小難しい理屈はわからねぇんだよ。というか、俺の生き様には必要ねぇんだ」
『ええっと、つまり、こういう言い方はあまり得意ではないのですが……』
「想った場所、想った相手、そこに飛ぶことができる――ですよね?」
クロスミラージュの言葉を引き取り、微笑むニアがそう繋ぐ。
クロスミラージュが『感謝します』と返答すると、ようやくカミナも理解に行き届いた。
「なるほど、そりゃ便利じゃねぇか。つまり、欲しいもんとか」
『あるいは捜し人の元へ移動することが――』
そう、二人が納得の言葉を交換した瞬間だった。
先ほどのカミナの一撃が理由か、または別の要因が作用したのかはわからない。
かなりの確率で前者を起因とするだろう中、再び電子音声が告げる。
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
『しまった、これは――!?』
同時に重なる二つの機械音声、その片方が紛れもなく焦燥感に彩られていたのを三人は聞いていた。
その瞬間に三人が何を思っていたのか、クロスミラージュにはわからない。ただ、その結果だけはすぐにわかった。
――誰もいなくなった一室で、機械の作動音だけが虚しく響き続けている。
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