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「I can fly(前編)」(2023/06/09 (金) 22:50:59) の最新版変更点
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**I can fly(前編) ◆Wf0eUCE.vg
これは誰も救われない救いのお話。
■
朽ち果てた荒野を一陣の風が直奔る。
エンジン音を響かせながら、人間の足では決して追いつけぬ速度を持って駆け抜ける鋼鉄の馬。
それを駆る疾風の名はDボゥイ。
デパート地下に広がる奇妙な格納庫から地上へと飛び出し、戦利品であるバイクを操り荒野を直奔る。
彼を導くのは、もう一つの戦利品である胸元の小竜である。
胸元の戦利品、フリードリヒはただひたすらに北を示していた。
真摯さすら感じさせるその態度に感じるものがあったのかDボゥイは彼の導きに従い進路を一路北へ。
だが、その疾走は静止を余儀なくされることとなる。
「……なんだ、あれは?」
進行方向に目を疑いたくなるような怪異を認め、思わずDボゥイはバイクを静止させ地に足をつけた。
夜にしてなお暗い漆黒の体躯。
凹凸のない完全なる球体。
その中央に存在する赤い不気味な単眼。
そして何より、十分な距離をおいても威圧感すら感じさせるその巨大さ。
恒星ともいえる超重量が宙を飛ぶ様はまさしく怪異である。
Dボゥイの視線に、嫌がうえにも飛び込んできたのは、怪球と呼ぶに相応しい巨大な黒い太陽だった。
これほどの存在感を誇る怪異を見なかったことにできるはずもなく。
見つけてしまった以上、彼に選べる選択肢は二つ。
近づくか/近づかないか。
関わるか/関わらないか。
触らぬ神に祟りなし。
明確な目的のあるDボゥイとしては出来れば避けて通りたい。
だが、ふと見れば、彼の胸元に陣取る小竜、フリードリヒは相変わらず北方にDボゥイを誘導しようと必死である。
その先に存在するのは病院と、あの大怪球。
突き進めば接触はさけられない。
フリードリヒとて、それがわからないわけではないだろう。
それでもなお、彼をそこに導こうというのはつまり、あの大怪球の驚異を差し引いても、大事な物がそこにあるという事なのだろうか。
「信じるぞクソッ」
小さな相棒に悪態を突きながらもDボゥイはスロットルを切る。
彼には明確な目的はあっても明確な目的地はない。
となると、なにか確信のありそうなフリードリヒを導きを信じるしかないだろう。
エンジン音を響かせ、排気ガスを吹き出しながら、鋼鉄の馬は加速する。
導かれるように黒い太陽に向かって、Dボゥイは大地を奔った。
■
緑色の淡い光のなか、小早川ゆたかはゆりかごにも似た穏やかな振動に包まれていた。
どこをどう辿ったのか、それは彼女にもわからない。
何もない彼女に居場所なんてない。
行くべき場所もない。
どこに行きたいのかもわからない彼女は、ただ動けと命じただけだ。
そんな漠然とした命令でも、フォーグラーは彼女の意を汲み取り忠実に実行する。
彼女を乗せて無軌道に大怪球は動く。
重力制御を持って地に触れず進行するため、内部に伝わる振動は非常に少ない。
その進路では重力に押しつぶされた木々たちの悲鳴が響いているが、それはそれ。
そんなことは彼女の知ったことではないし、知らない以上それはなかったことと同義である。
ここはひどく静かだ。
ここには誰もいない。
誰も彼女に関わらない。
誰も彼女の行為を咎めない。
誰も彼女を惨めにしない。
これまでのことも、
これからのことも、
先ほどモニターに映った光景も。
何も考えない。
思考を破棄し、何も考えず、すべてに対して目を閉じる。
そうすれば、いろんな恐怖はおさまり震え止まってゆく。
誰とも関わらず、何も考えない。
それが、彼女に残された唯一救いだった。
だが、その安息も打ち破られることとなる。
前方を映すモニターがこちらに向かい直奔る赤いジャンパーの青年を進とらえたことによって。
迫りくる青年。
それを見たゆたかの体が総毛立つ。
なぜこちらに向かってくるのか。
心当たりならある、先ほどの通信だ。
彼女はただ単純に、先の通信により自分の居場所がばれたのだと思った。
実際はそんな事実はない。
正確には彼が目指しているのは彼と彼女の間に位置する病院である。
だが、そんなことは彼女は知らない。
知らない以上それは真実と同義である。
だから、彼はやってくる。
少なくとも彼女の中では。
彼が来る。
彼女に向かって。
彼が来る。
彼女を救いに。
彼が来る。
彼女を追い詰めるために。
いやだ。いやだ。いやだ。
今の自分を彼に見られるのはいやだ。
これ以上惨めな思いをするのはいやだ。
助けなんていらない。
優しさなんていらない。
どうか私を、これ以上追い詰めないでほしい。
独りがいいんだ。
独りなら、私は何も考えず穏やかでいられる。
だから、放っておいてほしい。
どうかここには、来ないでほしい。
かぶりを振って鬱屈とした心で、ただひたすらに少女はそう願った。
その願いに答えるように、
――――――シャガ。
眠たげだった大怪球の目が見開かれた。
「え?」
それは彼女にとっても予期せぬ動きだったのか。
思わず少女は疑問の声を漏らした。
だがそれはおかしい。
この大怪球フォーグラーを操っているのは彼女である。
いかに巨大な破壊兵器であろうとも所詮は機械。
操者の望まぬ行動を行えるはずがない。
彼女の予期せぬ動きなど起こりえるはずがない。
だが、はたして、本当にそうなのだろうか?
これは世界征服を企む悪の秘密社BF団が来るべき地球静止作戦のために製造した大怪球である。
いくらオートメーションされているとはいえ、はたしてそれは一介の女子高生などに操りきれる代物なのか?
まして、精密な動作など可能なのだろうか?
答えは否。否である。
確かにこの大怪球フォーグラーを動かしているのは彼女である。
だからと言って、それが扱えるとは限らない。
これは、父の無念と悲願を取り違えたエマニュエル・フォン・フォーグラー、妄執の化身だ。
ただの女子高生に操れるほどこの大怪球フォーグラーは易くない。
彼女はただこのフォーグラーを動かしているだけだ。
出来ることといったら、行動の指針を与えることくらいだろう。
まして、精密な動作などとても。
だが、なまじオートメーションされているが故にフォーグラーは彼女の意志を忠実に汲み取り実行する。
与えられた指針は拒絶。
故に、フォーグラーは実行する。
より確実で強力な、Dボゥイをこちらに近づけぬ方法を。
その手段を彼女は知らない。
この大怪球は何をしようとしているのかを彼女は知らない。
自棄になって思考を破棄し、ただ流されるままここにいる彼女はこの大怪球のことを何ひとつ知らない。
理解できない彼女の心は、ただ不安と恐怖ばかりが高まってゆく。
自分はいったい、何をしようとしているのか。
耐え切れず、彼女はフォーグラーに静止を命じようとした。
だがもう遅い。
彼女の意思を無視して高まってゆく重力場。
最高潮に達したエネルギーはもう後戻りできない領域に達している。
動き出した大怪球はもう止まらない。
絶望に取り残された少女を乗せた大怪球。
この大怪球が動いたとき、彼女は認められたような気がした。
この大怪球こそが、彼女が唯一安らげる場所だったはずなのに。
嗚呼、ここに来て、この大怪球までもが彼女を裏切るのか。
「やめ…………ッ」
静止の声も遅く、無機質な瞳から一陣の閃光が奔る。
瞬間、世界から音が消滅した。
波のように大地が沸き立ち崩壊してゆく。
触れる全てが蒸発するように消えてゆく。
草原を薙ぎ払う。
平原を撃破する。
街道を粉砕する。
大地を蹂躙する。
大気を蹂躙する。
蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。
抗いようのない破壊という名の理不尽が世界に振りまかれる。
この地上全てを薙ぎ払うかに思われた破壊の嵐。
それはしかし。
これを上回る理不尽に、完全なまでに飲み込まれた。
唐突に、横合いから飛び込んだのは紅。赤。朱。
理不尽はより大きな理不尽に飲み込まれる。
訪れしは破壊の化身にして創造の権化。
螺旋を描く圧倒的なまでの暴力の渦。
赤き螺旋は黒い太陽が放った重力塊を飲み込んでもなお止まらず。
様々な思いとともに病院を跡形もなく消滅させ、彼方の巨人を壊滅させ、ようやくその姿を隠した。
この後、とある事情により彼の王が宙に舞うという事態が起こるのだが、それはまた別の話である。
そんなどうでもいい話に、彼女の興味は移らない。
過ぎ去った破壊の結果などに興味はない。
今、彼女の脳裏を支配しているのはそんなことではない。
彼女の脳裏に焼き突いて離れない光景は自らが生み出した破壊の末路。
放たれた怪光線は周囲を吹き飛ばし、あっけなくそれは吹き飛んだ。
それこそ、飛び回る虫を潰す手軽さで、本当にあっけなく光の中に溶けていった。
「……ぁあ………ぁぁああ……」
自分は今、何をしてしまったのか。
自分はいったい、何を潰したのか。
虫のように潰れたそれはなんだったか。
彼女には理解できない。
いや。理解してはいけなかった。
だって、理解してしまったら、もう完全に戻れなくなってしまう。
考えるな。
考えるな。
考えるな。
これまでどおり思考を破棄すればいい。
理解しなければ、それはなかったことと同義だ。
脳が否定する。
全身が理解を否定する。
理解したくない。
理解してはいけない。
理解してしまったら、これまで目をそむけていたものが一斉に襲いかかって来る。
理解したくない。
理解したくない、のに。
「…………D、ボゥイ……さん」
その言葉は勝手に口から零れていた。
潰してしまった虫の名前。
潰れてしまった虫の名前。
彼女が潰した虫の名前。
彼女の大事な人の名前。
■
口にしてやっと頭が理解できた。
言葉と共に現実が彼女に染み渡る。
とたん、体がガタガタと震えだした。
「…………わたし……わた、し」
人は脆く。
心は脆く。
彼女は脆い。
優しい他人が怖かった。
不出来な自分を写す鏡の様で。
無力な自分が怖かった。
世界中の誰にも必要とされない様で。
諦めに身を任せ、目をそむけることで、すべての恐怖から少女は逃げていた。
だが、少女は捕えられた。
自覚してしまった以上、もう知らぬ振りは赦されない。
目を背けていた罪。
耳を塞いでいた罪。
知らなかった罪。
知らぬ振りをしていた罪。
なにも出来なかった罪。
なにもしなかった罪。
誰かの命を奪った罪。
それらが実感と共に一斉に彼女に襲いかかる。
言い逃れは出来ない。
いかに思考を放棄したとは言え、その選択を選んだのは彼女であり。
罪を犯したのは紛れもなく彼女自身なのだから。
広がる絶望は深く。
圧し掛かる罪は重く。
こころが自責に潰れてゆく。
呼吸ができない。
肺が潰れてしまったように息が苦しい。
体は燃えるように熱いというのに凍えるように寒い。
ギシギシと音を立てて胸が軋む。
胸が痛い。
胸が痛い。
現実が胸を抉る。
どうしようもない程、胸が痛い。
余りの痛みに、胸元を抱き占め彼女はうずくまる。
「うぅ……うっ……」
気づけば涙腺が決壊していた。
虚しくて、悲しくて、情けなくて、どうしようもなくて涙が止まらなかった。
自分は、いったいなんなのだろうか?
何の役にも立たず
何一つ満足に出来ず。
出来る事といえば、誰かの足を引っ張だけ。
こんなものに乗って、いったい何がしたかったのか。
こんなものに乗って、いったい何処に行きたかったのか。
彼女にはそんなことすらわからない。
ただ、わかった事は唯一つ。
こんなものに乗った所で、不出来な自分はなにも出来ず、どこにも行けやしない。
同じところをぐるぐる廻ることしかできない、無価値な人間であるということ。
これほど無価値ならば、いっそ、死んでしまえばいいのに。
それでもまだ、死を恐れ、生にしがみついている。
そんな自分が、どうしようもなく醜かった。
こんなにも汚い自分であることがどうしようもなく耐え切れず。
余りの醜さに吐き気がした。
「ごめん、なさい……私が…………私なんかが……」
慟哭に喉を詰まらせながらも、彼女は懺悔する。
醜悪な己を嘆きながら。
罪の痛みに苦しみながら。
赦しを請うため、息も絶え絶えに贖罪の言葉を紡ぐ。
だが、ここにいるのは彼女一人。
いくら謝罪を積み重ねても。いくら懺悔を並べても。
その声を聞く者はなく。その罪を許す者もない。
故に、彼女の罪は赦されることはない。
「……ごめんなさい……ごめんなさい」
それでも少女は懺悔を続ける。
償い方を知らない少女に出来ることはそれしかない。
赦されぬ罪に押しつぶされながら。
凍えてしまいそうな孤独の中で。
誰もいない、黒い太陽の中で。
「生まれてきてごめんなさい――――」
その生を、懺悔した。
■
――――Dボゥイ。
彼は非常に強運な男である。
「…………ぐ……ぁっ」
破壊と惨劇の跡。
全ての生けしモノの朽ち果てた荒野に呻きが漏れた。
地面に転がるそれの名はDボゥイ。
先ほど消滅したはずの男である。
操り手である彼女が精密射撃など不可能な所業であったが故か。
それとも、発射直前になって彼女の意志が反映されたのか、原因は定かではない。
撃ち放たれたレンズ砲は彼の近辺を薙ぎ払いはしたものの、それに留まり、彼に直撃などしなかった。
とは言えその余波凄まじく、湧き上がる大地、爆風と衝撃に吹き飛ばされその体は大きく宙を舞った。
そして、天地乖離す開闢の星が通過したのはその直後。
もし、あのまま病院近くにいたならば、おそらくDボゥイという存在は病院と共に跡形すら残らず消滅していたのだろうから。
着地もままならず背中から地面に叩き付けられはしたものの、あの馬鹿げた破壊の規模を考えれば、その結果は十分に僥倖だと言える。
Dボゥイ。
彼は強運な男である。
悪運、不運も運のうちとするならば、彼の運は相当のものと言えるだろう。
だが、その悪運もここまでか。
地面に叩き付けられたダメージは彼の意識を蝕むには十分であった。
そもそも、叩き付けられたダメージ以前に、重度の裂傷、出血多量、内臓破裂、この状態で生きていること自体が奇跡だ。
蓄積されたダメージは常人ならばすでに幾度か致死にまで至っている。
彼を生かしていたのは一重に忌むべきラダムによる肉体改造。
その産物である常軌を超える超回復の賜物である。
とはいえ、痛みを感じないスーパーマンになったわけではない。
当然、受けたダメージに対する痛みもあるし苦しみもある。
積み重ねられた肉体の損傷は、燃え上がり、擦り切れそうな精神力を上回ろうとしていた。
精神が限界に達し、その意識を手放しかけた、その時。
――――劈くような爆音が大地に轟いた。
世界を震撼させる轟音と爆音。
豪快すぎる目覚まし時計の音に、Dボゥイの意識は無理矢理叩き起こされる。
そして、慌てたように空を見上げた彼の視界に入ったのは降り注ぐ鉄クズの雨。
そして、堕ちて行く、黒い太陽の姿だった。
■
時は少々遡り。舞台は遥か上空へ移る。
天上より舞い落ちるは金色の英雄王。
ギルガメッシュは落下に備えるでもなく、月に向けてエアを穿った体勢のまま空を落ちていた。
その態度は相も変わらずの傲岸不遜である。
これより先、地上にいかな障壁が立ち塞がろうとも、いかな困難が待ちうけようとも、例外なく打ち砕くのみ。
己が力量に基づく確信にも似た慢心が英雄王の心を支配していた。
慢心した心地のまま、黄金色に明るみ始めた、否、溶けるように透け始めた空を仰向けのまま睨みつけた。
睨みつけるは消えゆく世界で唯一その存在を損なわぬ異なる光。
空を穿つように、遥か天上に輝く月の光。
果たしてそこには何が待ち受けるのか。
果たしてあれはこの英雄王の敵となりえるのか。
衝撃のアルベルト、螺旋王ロージェノム、そしてあの月。
果たして、この遊戯にはこの英雄王を興じさせる難敵がどれほどいるか。
これより待ち受ける血色の愉悦を想い、英雄王は亀裂のようにその口元を歪ませる。
―――――この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し―――――。
だが、難敵は予想外のところから現れる。
難敵の姿はなく聞こえるのは声ばかり。
加えて、発信源は他ならぬ英雄王の首元からである。
告げる内容は警告及び撤去命令。
王たるこの身に命令するなど何事かと、ギルガメッシュは不快感を露わにした。
とはいえ火急の事態であるのもまた事実である。
早急にこの場を離脱しなければならないのだが、舞台はいまだ高く上空。
速やかに移動と言われても飛行能力のない身ではそれも叶わぬ話である。
あるいは『天の鎖』があれば周囲の建造物に巻きつけ脱出することは可能だっただろう。
黄金の船『ヴィマーナ』をはじめとした、飛行宝具も両手でも足りないほど所持している。
その他、空間転送、時空転移、多次元転移、瞬間移動...etc...etc
無限と言える財さえ手元にあれば、脱出手段など雨霰であったのだが、生憎とそれら全ての財は宝物庫の中である。
黄金の都に通じる鍵である『王の財宝』なしでは取り出すこともできず、第一宝物庫へのアクセスは制限ではなく『防護結界』によって完全に禁止されているためそれらを頼ることは叶わない。
それらの事実に忌々しげに眉を顰めながらも英雄王は手中の剣を振りかぶる。
それは、このような事態に使うのももったいない、この世全ての財を収集した英雄王の財の中でも秘中の秘。
「つまらぬ出番でお前とて不満もあろうが、許せエア」
甚く不満気な主の声とは対照的に、乖離剣エアは不満など感じさせぬ速やかな動きで赤い魔力を胎動させた。
互い違いの方向に回転を始めた赤い碾き臼より、暴風が巻き起こる。
煌めく赤い極光。
荒れ狂う嵐の中、ギルがメッシュは上体を起こし前方に向かって魔力を解き放った。
ビックバン染みた天地創造の爆発力が迸る。
それに伴いジェットを超える推進力が生まれた。
英雄王にしか許されぬ贅沢の極みともいえる方法を持ってその場を脱するギルガメッシュ。
だが、はたして彼は気づいているのだろうか。
エアが生み出した暴風により、自身の体は空中にてどのように乱されたか。
その極光のたどりつく先に何があったか。
その結末を見届ける前に、彼方へ向って英雄王は空を舞った。
【???/???/二日目/早朝】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない、ブッ飛び中
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:む? ところで具足よ、我はどこに向かって飛んでいるのだ?
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※超高速でお空をブッ飛んでます。どこに向かっているのかは不明です。本人もわかってません。
勢いからしてD-5から周囲1~3エリアくらいならどこに現れても不思議ではありません。
■
**時系列順に読む
Back:[[空の上のおもちゃ(後編)]] Next:[[I can fly(後編)]]
**投下順に読む
Back:[[happily ever after]] Next:[[I can fly(後編)]]
|254:[[今はまだ飛べない翼]]|Dボゥイ|258:[[I can fly(後編)]]|
|254:[[今はまだ飛べない翼]]|小早川ゆたか|258:[[I can fly(後編)]]|
|256:[[空の上のおもちゃ(後編)]]|ギルガメッシュ|272:[[フォーグラー決死圏、心打つ者]]|
**I can fly(前編) ◆Wf0eUCE.vg
これは誰も救われない救いのお話。
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朽ち果てた荒野を一陣の風が直奔る。
エンジン音を響かせながら、人間の足では決して追いつけぬ速度を持って駆け抜ける鋼鉄の馬。
それを駆る疾風の名はDボゥイ。
デパート地下に広がる奇妙な格納庫から地上へと飛び出し、戦利品であるバイクを操り荒野を直奔る。
彼を導くのは、もう一つの戦利品である胸元の小竜である。
胸元の戦利品、フリードリヒはただひたすらに北を示していた。
真摯さすら感じさせるその態度に感じるものがあったのかDボゥイは彼の導きに従い進路を一路北へ。
だが、その疾走は静止を余儀なくされることとなる。
「……なんだ、あれは?」
進行方向に目を疑いたくなるような怪異を認め、思わずDボゥイはバイクを静止させ地に足をつけた。
夜にしてなお暗い漆黒の体躯。
凹凸のない完全なる球体。
その中央に存在する赤い不気味な単眼。
そして何より、十分な距離をおいても威圧感すら感じさせるその巨大さ。
恒星ともいえる超重量が宙を飛ぶ様はまさしく怪異である。
Dボゥイの視線に、嫌がうえにも飛び込んできたのは、怪球と呼ぶに相応しい巨大な黒い太陽だった。
これほどの存在感を誇る怪異を見なかったことにできるはずもなく。
見つけてしまった以上、彼に選べる選択肢は二つ。
近づくか/近づかないか。
関わるか/関わらないか。
触らぬ神に祟りなし。
明確な目的のあるDボゥイとしては出来れば避けて通りたい。
だが、ふと見れば、彼の胸元に陣取る小竜、フリードリヒは相変わらず北方にDボゥイを誘導しようと必死である。
その先に存在するのは病院と、あの大怪球。
突き進めば接触は避けられない。
フリードリヒとて、それがわからないわけではないだろう。
それでもなお、彼をそこに導こうというのはつまり、あの大怪球の驚異を差し引いても、大事な物がそこにあるという事なのだろうか。
「信じるぞクソッ」
小さな相棒に悪態を突きながらもDボゥイはスロットルを切る。
彼には明確な目的はあっても明確な目的地はない。
となると、なにか確信のありそうなフリードリヒの導きを信じるしかないだろう。
エンジン音を響かせ、排気ガスを吹き出しながら、鋼鉄の馬は加速する。
導かれるように黒い太陽に向かって、Dボゥイは大地を奔った。
■
緑色の淡い光のなか、小早川ゆたかはゆりかごにも似た穏やかな振動に包まれていた。
どこをどう辿ったのか、それは彼女にもわからない。
何もない彼女に居場所なんてない。
行くべき場所もない。
どこに行きたいのかもわからない彼女は、ただ動けと命じただけだ。
そんな漠然とした命令でも、フォーグラーは彼女の意を汲み取り忠実に実行する。
彼女を乗せて無軌道に大怪球は動く。
重力制御を持って地に触れず進行するため、内部に伝わる振動は非常に少ない。
その進路では重力に押しつぶされた木々たちの悲鳴が響いているが、それはそれ。
そんなことは彼女の知ったことではないし、知らない以上それはなかったことと同義である。
ここはひどく静かだ。
ここには誰もいない。
誰も彼女に関わらない。
誰も彼女の行為を咎めない。
誰も彼女を惨めにしない。
これまでのことも、
これからのことも、
先ほどモニターに映った光景も。
何も考えない。
思考を破棄し、何も考えず、すべてに対して目を閉じる。
そうすれば、いろんな恐怖はおさまり震えは止まってゆく。
誰とも関わらず、何も考えない。
それが、彼女に残された唯一の救いだった。
だが、その安息も打ち破られることとなる。
前方を映すモニターがこちらに向かい直奔る赤いジャンパーの青年を捉えたことによって。
迫りくる青年。
それを見たゆたかの体が総毛立つ。
なぜこちらに向かってくるのか。
心当たりならある。先ほどの通信だ。
彼女はただ単純に、先の通信により自分の居場所がばれたのだと思った。
実際はそんな事実はない。
正確には彼が目指しているのは彼と彼女の間に位置する病院である。
だが、そんなことは彼女は知らない。
知らない以上それは真実と同義である。
だから、彼はやってくる。
少なくとも彼女の中では。
彼が来る。
彼女に向かって。
彼が来る。
彼女を救いに。
彼が来る。
彼女を追い詰めるために。
いやだ。いやだ。いやだ。
今の自分を彼に見られるのはいやだ。
これ以上惨めな思いをするのはいやだ。
助けなんていらない。
優しさなんていらない。
どうか私を、これ以上追い詰めないでほしい。
独りがいいんだ。
独りなら、私は何も考えず穏やかでいられる。
だから、放っておいてほしい。
どうかここには、来ないでほしい。
かぶりを振って鬱屈とした心で、ただひたすらに少女はそう願った。
その願いに答えるように、
――――――シャガ。
眠たげだった大怪球の目が見開かれた。
「え?」
それは彼女にとっても予期せぬ動きだったのか。
思わず少女は疑問の声を漏らした。
だがそれはおかしい。
この大怪球フォーグラーを操っているのは彼女である。
いかに巨大な破壊兵器であろうとも所詮は機械。
操者の望まぬ行動をできるはずがない。
彼女の予期せぬ動きなど起こりえるはずがない。
だが、はたして、本当にそうなのだろうか?
これは世界征服を企む悪の秘密社BF団が来るべき地球静止作戦のために製造した大怪球である。
いくらオートメーションされているとはいえ、はたしてそれは一介の女子高生などに操りきれる代物なのか?
まして、精密な動作など可能なのだろうか?
答えは否。否である。
確かにこの大怪球フォーグラーを動かしているのは彼女である。
だからと言って、それが扱えるとは限らない。
これは、父の無念と悲願を取り違えたエマニュエル・フォン・フォーグラー、妄執の化身だ。
ただの女子高生に操れるほどこの大怪球フォーグラーは易くない。
彼女はただこのフォーグラーを動かしているだけだ。
出来ることといったら、行動の指針を与えることくらいだろう。
まして、精密な動作などとても。
だが、なまじオートメーションされているが故にフォーグラーは彼女の意志を忠実に汲み取り実行する。
与えられた指針は拒絶。
故に、フォーグラーは実行する。
より確実で強力な、Dボゥイをこちらに近づけぬ方法を。
その手段を彼女は知らない。
この大怪球は何をしようとしているのかを彼女は知らない。
自棄になって思考を破棄し、ただ流されるままここにいる彼女はこの大怪球のことを何ひとつ知らない。
理解できない彼女の心は、ただ不安と恐怖ばかりが高まってゆく。
自分はいったい、何をしようとしているのか。
耐え切れず、彼女はフォーグラーに静止を命じようとした。
だがもう遅い。
彼女の意思を無視して高まってゆく重力場。
最高潮に達したエネルギーはもう後戻りできない領域に達している。
動き出した大怪球はもう止まらない。
絶望に取り残された少女を乗せた大怪球。
この大怪球が動いたとき、彼女は認められたような気がした。
この大怪球こそが、彼女が唯一安らげる場所だったはずなのに。
嗚呼、ここに来て、この大怪球までもが彼女を裏切るのか。
「やめ…………ッ」
静止の声も遅く、無機質な瞳から一陣の閃光が奔る。
瞬間、世界から音が消滅した。
波のように大地が沸き立ち崩壊してゆく。
触れる全てが蒸発するように消えてゆく。
草原を薙ぎ払う。
平原を撃破する。
街道を粉砕する。
大地を蹂躙する。
大気を蹂躙する。
蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。
抗いようのない破壊という名の理不尽が世界に振りまかれる。
この地上全てを薙ぎ払うかに思われた破壊の嵐。
それはしかし。
これを上回る理不尽に、完全なまでに飲み込まれた。
唐突に、横合いから飛び込んだのは紅。赤。朱。
理不尽はより大きな理不尽に飲み込まれる。
訪れしは破壊の化身にして創造の権化。
螺旋を描く圧倒的なまでの暴力の渦。
赤き螺旋は黒い太陽が放った重力塊を飲み込んでもなお止まらず。
様々な思いとともに病院を跡形もなく消滅させ、彼方の巨人を壊滅させ、ようやくその姿を隠した。
この後、とある事情により彼の王が宙に舞うという事態が起こるのだが、それはまた別の話である。
そんなどうでもいい話に、彼女の興味は移らない。
過ぎ去った破壊の結果などに興味はない。
今、彼女の脳裏を支配しているのはそんなことではない。
彼女の脳裏に焼き突いて離れない光景は自らが生み出した破壊の末路。
放たれた怪光線は周囲を吹き飛ばし、あっけなくそれは吹き飛んだ。
それこそ、飛び回る虫を潰す手軽さで、本当にあっけなく光の中に溶けていった。
「……ぁあ………ぁぁああ……」
自分は今、何をしてしまったのか。
自分はいったい、何を潰したのか。
虫のように潰れたそれはなんだったか。
彼女には理解できない。
いや。理解してはいけなかった。
だって、理解してしまったら、もう完全に戻れなくなってしまう。
考えるな。
考えるな。
考えるな。
これまでどおり思考を破棄すればいい。
理解しなければ、それはなかったことと同義だ。
脳が否定する。
全身が理解を否定する。
理解したくない。
理解してはいけない。
理解してしまったら、これまで目をそむけていたものが一斉に襲いかかって来る。
理解したくない。
理解したくない、のに。
「…………D、ボゥイ……さん」
その言葉は勝手に口から零れていた。
潰してしまった虫の名前。
潰れてしまった虫の名前。
彼女が潰した虫の名前。
彼女の大事な人の名前。
■
口にしてやっと頭が理解できた。
言葉と共に現実が彼女に染み渡る。
とたん、体がガタガタと震えだした。
「…………わたし……わた、し」
人は脆く。
心は脆く。
彼女は脆い。
優しい他人が怖かった。
不出来な自分を映す鏡の様で。
無力な自分が怖かった。
世界中の誰にも必要とされない様で。
諦めに身を任せ、目をそむけることで、すべての恐怖から少女は逃げていた。
だが、少女は捕えられた。
自覚してしまった以上、もう知らぬ振りは赦されない。
目を背けていた罪。
耳を塞いでいた罪。
知らなかった罪。
知らぬ振りをしていた罪。
なにも出来なかった罪。
なにもしなかった罪。
誰かの命を奪った罪。
それらが実感と共に一斉に彼女に襲いかかる。
言い逃れは出来ない。
いかに思考を放棄したとは言え、その選択を選んだのは彼女であり。
罪を犯したのは紛れもなく彼女自身なのだから。
広がる絶望は深く。
圧し掛かる罪は重く。
こころが自責に潰れてゆく。
呼吸ができない。
肺が潰れてしまったように息が苦しい。
体は燃えるように熱いというのに凍えるように寒い。
ギシギシと音を立てて胸が軋む。
胸が痛い。
胸が痛い。
現実が胸を抉る。
どうしようもない程、胸が痛い。
あまりの痛みに、胸元を抱き締め彼女はうずくまる。
「うぅ……うっ……」
気づけば涙腺が決壊していた。
虚しくて、悲しくて、情けなくて、どうしようもなくて涙が止まらなかった。
自分は、いったいなんなのだろうか?
何の役にも立たず。
何一つ満足に出来ず。
出来る事といえば、誰かの足を引っ張るだけ。
こんなものに乗って、いったい何がしたかったのか。
こんなものに乗って、いったい何処に行きたかったのか。
彼女にはそんなことすらわからない。
ただ、わかった事は唯一つ。
こんなものに乗った所で、不出来な自分はなにも出来ず、どこにも行けやしない。
同じところをぐるぐる廻ることしかできない、無価値な人間であるということ。
これほど無価値ならば、いっそ、死んでしまえばいいのに。
それでもまだ、死を恐れ、生にしがみついている。
そんな自分が、どうしようもなく醜かった。
こんなにも汚い自分であることがどうしようもなく耐え切れず。
あまりの醜さに吐き気がした。
「ごめん、なさい……私が…………私なんかが……」
慟哭に喉を詰まらせながらも、彼女は懺悔する。
醜悪な己を嘆きながら。
罪の痛みに苦しみながら。
赦しを請うため、息も絶え絶えに贖罪の言葉を紡ぐ。
だが、ここにいるのは彼女一人。
いくら謝罪を積み重ねても。いくら懺悔を並べても。
その声を聞く者はなく。その罪を許す者もない。
故に、彼女の罪は赦されることはない。
「……ごめんなさい……ごめんなさい」
それでも少女は懺悔を続ける。
償い方を知らない少女に出来ることはそれしかない。
赦されぬ罪に押しつぶされながら。
凍えてしまいそうな孤独の中で。
誰もいない、黒い太陽の中で。
「生まれてきてごめんなさい――――」
その生を、懺悔した。
■
――――Dボゥイ。
彼は非常に強運な男である。
「…………ぐ……ぁっ」
破壊と惨劇の跡。
全ての生けしモノの朽ち果てた荒野に呻きが漏れた。
地面に転がるそれの名はDボゥイ。
先ほど消滅したはずの男である。
操り手である彼女が精密射撃など不可能な所業であったが故か。
それとも、発射直前になって彼女の意志が反映されたのか、原因は定かではない。
撃ち放たれたレンズ砲は彼の近辺を薙ぎ払いはしたものの、それに留まり、彼に直撃などしなかった。
とは言えその余波凄まじく、湧き上がる大地、爆風と衝撃に吹き飛ばされその体は大きく宙を舞った。
そして、天地乖離す開闢の星が通過したのはその直後。
もし、あのまま病院近くにいたならば、おそらくDボゥイという存在は病院と共に跡形すら残らず消滅していたのだろうから。
着地もままならず背中から地面に叩き付けられはしたものの、あの馬鹿げた破壊の規模を考えれば、その結果は十分に僥倖だと言える。
Dボゥイ。
彼は強運な男である。
悪運、不運も運のうちとするならば、彼の運は相当のものと言えるだろう。
だが、その悪運もここまでか。
地面に叩き付けられたダメージは彼の意識を蝕むには十分であった。
そもそも、叩き付けられたダメージ以前に、重度の裂傷、出血多量、内臓破裂、この状態で生きていること自体が奇跡だ。
蓄積されたダメージは常人ならばすでに幾度か致死にまで至っている。
彼を生かしていたのは一重に忌むべきラダムによる肉体改造。
その産物である常軌を超える超回復の賜物である。
とはいえ、痛みを感じないスーパーマンになったわけではない。
当然、受けたダメージに対する痛みもあるし苦しみもある。
積み重ねられた肉体の損傷は、燃え上がり、擦り切れそうな精神力を上回ろうとしていた。
精神が限界に達し、その意識を手放しかけた、その時。
――――劈くような爆音が大地に轟いた。
世界を震撼させる轟音と爆音。
豪快すぎる目覚まし時計の音に、Dボゥイの意識は無理矢理叩き起こされる。
そして、慌てたように空を見上げた彼の視界に入ったのは降り注ぐ鉄クズの雨。
そして、堕ちて行く、黒い太陽の姿だった。
■
時は少々遡り。舞台は遥か上空へ移る。
天上より舞い落ちるは金色の英雄王。
ギルガメッシュは落下に備えるでもなく、月に向けてエアを穿った体勢のまま空を落ちていた。
その態度は相も変わらずの傲岸不遜である。
これより先、地上にいかな障壁が立ち塞がろうとも、いかな困難が待ちうけようとも、例外なく打ち砕くのみ。
己が力量に基づく確信にも似た慢心が英雄王の心を支配していた。
慢心した心地のまま、黄金色に明るみ始めた、否、溶けるように透け始めた空を仰向けのまま睨みつけた。
睨みつけるは消えゆく世界で唯一その存在を損なわぬ異なる光。
空を穿つように、遥か天上に輝く月の光。
果たしてそこには何が待ち受けるのか。
果たしてあれはこの英雄王の敵となりえるのか。
衝撃のアルベルト、螺旋王ロージェノム、そしてあの月。
果たして、この遊戯にはこの英雄王を興じさせる難敵がどれほどいるか。
これより待ち受ける血色の愉悦を想い、英雄王は亀裂のようにその口元を歪ませる。
―――――この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し―――――
だが、難敵は予想外のところから現れる。
難敵の姿はなく聞こえるのは声ばかり。
加えて、発信源は他ならぬ英雄王の首元からである。
告げる内容は警告及び撤去命令。
王たるこの身に命令するなど何事かと、ギルガメッシュは不快感を露わにした。
とはいえ火急の事態であるのもまた事実である。
早急にこの場を離脱しなければならないのだが、舞台はいまだ高く上空。
速やかに移動と言われても飛行能力のない身ではそれも叶わぬ話である。
あるいは『天の鎖』があれば周囲の建造物に巻きつけ脱出することは可能だっただろう。
黄金の船『ヴィマーナ』をはじめとした、飛行宝具も両手でも足りないほど所持している。
その他、空間転送、時空転移、多次元転移、瞬間移動...etc...etc
無限と言える財さえ手元にあれば、脱出手段など雨霰であったのだが、生憎とそれら全ての財は宝物庫の中である。
黄金の都に通じる鍵である『王の財宝』なしでは取り出すこともできず、第一宝物庫へのアクセスは制限ではなく『防護結界』によって完全に禁止されているためそれらを頼ることは叶わない。
それらの事実に忌々しげに眉を顰めながらも英雄王は手中の剣を振りかぶる。
それは、このような事態に使うのももったいない、この世全ての財を収集した英雄王の財の中でも秘中の秘。
「つまらぬ出番でお前とて不満もあろうが、許せエア」
甚く不満気な主の声とは対照的に、乖離剣エアは不満など感じさせぬ速やかな動きで赤い魔力を胎動させた。
互い違いの方向に回転を始めた赤い碾き臼より、暴風が巻き起こる。
煌めく赤い極光。
荒れ狂う嵐の中、ギルがメッシュは上体を起こし前方に向かって魔力を解き放った。
ビックバン染みた天地創造の爆発力が迸る。
それに伴いジェットを超える推進力が生まれた。
英雄王にしか許されぬ贅沢の極みともいえる方法を持ってその場を脱するギルガメッシュ。
だが、はたして彼は気づいているのだろうか。
エアが生み出した暴風により、自身の体は空中にてどのように乱されたか。
その極光のたどりつく先に何があったか。
その結末を見届ける前に、彼方へ向かって英雄王は空を舞った。
【???/???/二日目/早朝】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、慢心、ただし油断はない、ブッ飛び中
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:む? ところで具足よ、我はどこに向かって飛んでいるのだ?
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。
強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※超高速でお空をブッ飛んでます。どこに向かっているのかは不明です。本人もわかってません。
勢いからしてD-5から周囲1~3エリアくらいならどこに現れても不思議ではありません。
■
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|256:[[空の上のおもちゃ(後編)]]|ギルガメッシュ|272:[[フォーグラー決死圏、心打つ者]]|
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