「ランチタイムの時間だよ」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ランチタイムの時間だよ」(2022/09/16 (金) 17:58:07) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**ランチタイムの時間だよ ◆AZWNjKqIBQ
「見てみろよ、ミリア! ここはお宝の山だぞっ!」
「夢の島だねっ! ドリームアイランドだねっ!」
雲ひとつない澄み渡った真っ青な空と、その頂上から燦々と降り注ぐ眩しい太陽。
その遥か足元。雑多で膨大なゴミが堆く積みあがったデコボコな地面の上を、一組のカップルが走り回っていた。
空に輝く太陽にも負けないような陽気を振りまいて、楽しそうに、とても楽しそうに――……。
「アイザックー……。こんなにもたくさん勝手に持ち出していいのかなー?」
「おいおいミリア~、ここをどこだか忘れたのか? ここにあるのは全部捨てられた物なんだぜ」
「捨てられたなんて可哀相っ! もうここにある物は誰の物でもないんだね、アイザック!」
「……そうさ、ミリア。だから俺たちがこれからこいつらの面倒を見てやろうってんじゃないか」
「やさしいアイザック! これからはもうこの子たちも寂しくないんだねっ!」
「ああ。これからは俺が父となり、ミリアが母となり、この子たちは新しい人生を歩んでいくのさ」
「リサイクルだね~、循環社会だね~!」
ゴミ処分場という施設の中。分別することを諦められたゴミがただただ積まれているだけの場所でも、
アイザックとミリアはいつもの調子であった。
もう日も昇ったというのにアイザックは半裸のままで、ミリアの方は入り口を潜ったところで拾った安全メットを被り
アレンビーから借りたスコップ片手にした姿で、そのゴミ山の上を走り回り、時には何かを掘り出している。
螺旋王を探すという目的も半分忘れ、二人揃っていつもの通りに、子供の様に今という時間を謳歌していた。
そんな二人を遠目に、同行者の一人であるアレンビーは溜息をひとつついた。
彼女は彼らより少し離れた場所。バランスよく積みあげられた古タイヤの塔の頂上に腰掛けている。
ここに入ってきてすぐの頃は彼女も螺旋王の隠れ家を探していたのだが……。
「そんな顔をすると、この青空を写し取ったかの様な君の髪の色も曇ってしまうよアレンビー」
憂鬱に顔を曇らせるアレンビーの頭上を一羽の烏――キールが浮ついた台詞を吐きながら旋回する。
「……やっぱり、おかしいんじゃないかなって思うんだけど」
「おかしいのはこの世界の方さアレンビー。そんな些事に心を囚われて、君の顔から美貌が失われることの――……」
ふう――と大きく溜息をついてアレンビーは烏の戯言を聞き流す。
どうやらこの喋る鳥は物事を真剣には捉えていないぞ、ということをこの1時間ほどでアレンビーは理解した。
そして、ゴミ山の上を駆け回る二人。彼らについても、真剣ではあっても根本的にな部分でおかしい所があると彼女は感じている。
嘘をついて騙しているとは思わないし、アイザックの復活劇も実際に目の当たりにしている。それでも……、
怒涛の勢いで問答無用に理性を押し流す運命の逆流――ポロロッカ(大騒ぎ)。
そこから僅かに取り残されたアレンビーの理性が、彼女にこのままじゃいけないと小さな警告を送り続けていた。
……と、頭上の烏よりアレンビーにとって意味のある言葉が投げかけられた。
「お客さんだよ、アレンビー。しかも二人……」
「その言い方だと、来たのは男の人かしら?」
皮肉っぽくかけられた言葉に烏は空中で器用に首肯する。
「あたり。アレンビーと相互理解が深まって嬉しいよ。来たのは両方とも男。おっさんと小僧さ」
古タイヤの塔の頂上で立ち上がり入り口の方へと振り返ったアレンビー。
その視線の先には、一組の壮年の男性と背の低い少年の姿があった。
◆ ◆ ◆
「ゴミ処分場だと……何があるんだろう?」
出会ってより数時間が経ち、そろそろ口数も少しずつ増えてきた同行者の質問にジェットは頭を捻る。
「そうだな。……映画館では映画に、博物館では展示室に何かがあったんだ。
ということはゴミ処分場だとやっぱり集められたゴミ……、もしくはそれを処理する施設あたりが怪しいな」
その返答にチェスはこくりと頷き、納得したことをジェットに知らせる。
そして視線を上げて、眼前に大きく広がるゴミ処理場をその小さな両目で見渡した。
ゴミ処分場に入ってすぐに見えるのは、廃車となり積み上げられた車の残骸や古タイヤの塔。
真っ赤に錆びた金属製の何かだった物で組上げられた奇怪なオブジェ。同じ様に錆びの浮いた、古びたコンテナの数々。
その間の所々に見えるのは、それもゴミかと見間違うほど汚れたゴミを動かすための重機達。
それらから目を移せば、次に見えてくるのは無愛想な灰色の建物の群れだ。
特徴的なのは、空へと長く伸びる紅白の縞模様に塗られた煙突だけだが、そこから吐き出されるべきである煙は少しも見えない。
そして、更に視線を奥へと進めればそこに見えるのは灰一色に見える巨大な山。
よく観察してみると、一見灰一色なそれは雑多な色が重なりあった結果そういう印象を受けるのだということが解る。
物の死骸を集める場所だけあって、まるで墓場の様にそこは静寂で、
聞こえてくるのは海風に揺られたゴミの群れが奏でる、細波の様な静かなノイズだけだった。
――と、一瞬何かが二人の頭上に降りかかる陽光を遮った。そして、それは軽い音を立てて彼らの目の前にへと着地する。
「はじめまして! 私はアレンビー・ビアズリー。オジサンと少年は?」
それは、この場には似つかわしくない透き通った青い髪の少女――アレンビー・ビアズリーだった。
◆ ◆ ◆
「あ……と、驚かせたみたいだね……」
突然に現れて今、目の前で両の手の平を顔の前で振り、照れ笑いする少女にチェスは大きく驚いていた。
視界の中のどこから飛んできたのだとしても、それが尋常な距離ではないと推測できる跳躍力。
そして、目の前のジェットが銃を向けていても、なお平然としていることから窺い知れる実力。
あの螺旋王に集められていた場所でのことを除けば、目の前で見る超人との初めての遭遇であった。
「俺はジェット・ブラック。この子はドモン・カッシュだ」
銃を下ろさずまだ警戒を解かないままに、ジェットはチェスのことを聞かされたとおりにドモンと紹介する。
その瞬間、アレンビーの顔に怪訝な表情が浮かぶのをチェスは見逃さなかった。
「ドモン・カッシュです。こんにちはおねーさん」
あどけない声を使って嘘の自己紹介をすませた裏で、チェスはこの状況を推定していた。それは――、
”目の前の女はドモン・カッシュという人物を知っている。だが、決して不死者ではない”
ならば、問題は想定範囲内だった。前もって考えていた通りにことを推移させればよい……。
「どうしたのおねーさん? なんだか怖い顔をしてるよ」
自分は子供だ。と、最早そう思わなくても自然に出るようになっているその使い古した仮面をチェスは被る。
「アタシの知っているドモン・カッシュとは違うみたいだけど、同姓同名って訳じゃあないよね……」
相手は警戒を強めている。だが、それもチェスの手の内だった。
ある程度緊張を高めた所で拍子抜けするような回答を提示すれば、相手を容易にそちらへと誘導することができる。
水と同じで低きところへと流れるのは人の心でも変わらない。それは300年を生きた彼が信じる世界の法則だ。
「ううん。僕は”チェスワフ・メ……”……――!」
一瞬、ドクンと心臓が脈打ちチェスの仮面に皹が入った。
(馬鹿な。今、私はドモン・カッシュと名乗ろうとしたはずなのに……何故!?)
偽名が名乗れない。それが何故なのかは解りきっている――不死者が近くにいるのだ。見えないどこかに。
そいつが目の前の女と会話をしているうちにひっそりと近づいてきている。
「ご、ご、ごめんなさい。本当……は、チェスワフ・メイエル……です」
それに気付いたことに気付かれてはまずいと、チェスは必死に子供として動揺するという自分を取り繕う。
目の前にいる二人に対しても、そしてどこか近くに潜んでいる不死者に対しても、自分は無害で臆病な子供だと見せかけなければならない。
途端に複雑化した状況と条件に、チェスの頭脳はその回答を導き出すべくめまぐるしく回転を始める。
予め用意していたプランに、このような特殊な条件を設定したものはない。だからこの一瞬で……――、
「おー! チェス君じゃあないか」「無事だったんだねー!」
と、仮面の下で苦悩するチェスの元へ聞き覚えがある声と共に助け舟が降りて来た。
1931年のフライングプッシー号に乗り合わせた、自分の身元を保証してくれる風変わりな男女のカップル。
彼らによってこの苦境から自分は救われるだろうとチェスは確信した。だが、チェスにはその男の笑い顔が――、
――その嘘偽りの全く無い真っ白な笑顔が、死神のそれにしか見ることができなかった。
◆ ◆ ◆
結局の所、アレンビーがチェスに抱きかけていた誤解はあっさりと解かれた。
すでに同行していたアイザックとミリアが間に入ったことで、それは単なる臆病な子供がその場の思いつきでついた嘘だったと
チェスの想定していた通りに決着がついた。
興味なさげにその場を離れていたキールも、チェスの同行者であったジェットも最終的にはそれに納得した。
かくして、互いが安全な相手だと確信した彼らはそれまでに得ていた情報を交換し合うのだが……。
◆ ◆ ◆
「俺にはどうしてもお前さんがたの言っていることが正気とは思えんのだが……」
「……否定はしないわ」
合流した後、再びゴミ処理場内の探索へと二手に別れたその片方。
ジェットとアレンビー。そして、その頭上のキールの二人と一羽はゴミ処分場内にある焼却施設の中を探索していた。
先程行われたばかりの情報交換の中で、新しく合流したジェットとチェスの二人に語られた
アイザックが螺旋王の息子だという話と、そこから続く荒唐無稽なストーリーをジェットは……、
「意味が解らん。そんな訳ないだろう」
……と、常識という観念で一蹴した。
勿論、それを目の前で物語を熱心に紡ぐ、頭の上にお花を咲かせた二人に直接ぶつけたりはせず、
ていよく別れた所で、比較的常識が通用しそうなアレンビーへとぶつけて探りを入れてみた。
ジェットの見込み通り彼女もあの話には懐疑的な部分があったようだが……、
「でも、彼が不死身だってことはこの目で確認したし、彼は今までもそうだったって……」
そこが問題だった。
彼はこの実験が始まってより繰り返し殺され続けてきた――そういうありえない事実があるからこそ、
またそこから続く信じがたい話もアレンビーは一蹴できないでいるのだ。
「……とりあえず、話に出てきたカフカって娘と会ってみないと解らんな。
それに、やつが”殺された”という相手にも確認を取りたいところだが……」
そこでジェットも首を捻った。行方知れずのカフカという少女を探すのも骨が折れる話だが、名前も知らない相手を探すのはそれ以上だ。
しかも、アイザックを”殺した”ということは、つまりはその殺意をこちらにも向けてくる危険人物であろうことが容易に想像できる。
床の上を歩く二人は頭を悩ませ、逆に空を羽で叩いて飛ぶ一羽は何も考えずに、ゆっくりと施設の奥へと入り込んでいった。
◆ ◆ ◆
片方の組が薄暗い室内で、これまた暗い考えに心囚われている頃。
もう片方の組の方は明るい日差しが降り注ぐ中、あいも変わらず陽気に宝探しを楽しんでいた。
「いやー、チェス君が無事でよかった」「よかったネ!」
「あのおじさんにも何かお礼をしないとな~」「恩返しだね! 玉手箱だね!」
「よし、と言うわけで玉手箱を掘り当てよう!」「ここ掘れワンワンだね! 大判小判ザックザクだね~!」
目の前にいる二人は馬鹿だ――クルクル回ってはスコップを振り回す二人にチェスはそう評価を下した。
だが、その二人を目の前に彼の心臓は落ち着かず、身体は足場の悪さを考えてもなおフラフラと揺れていた。
”アイザック・ディアンは不死者である”
それはチェスにとっては最早間違いのないことであった。
先刻の突如として偽名を名乗れなくなった事。そして、その後彼らから聞かされた「手品」の話……。
1931年のフライングプッシーフット号。その食堂車の中にいたチェス以外の不死者。それはアイザック・ディアンだった。
子供として目の前の二人に付き合いながらチェスは考える。
――アイザック・ディアンという男は一体何者なのか? 何を考えているのか?
底抜けの明るい態度。手品やポロロッカという荒唐無稽な話で皆に幸せをもたらせると考えている異常な思考。
チェスの頭の中に思い浮かんだのは、同じ錬金術師であり不死者の一人でもある”笑顔中毒者”のエルマーという男だった。
幸不幸の関係なしにただ”笑えればいい”――それだけが至上命題の、ある意味最も狂っていて、そして傍迷惑な男だ。
果たして、目の前の男はそんなモノなのだろうか? それとも全ては演技なのか? そして――、
――この男は私が不死者だと知っているのか? 私を喰おうとするのか?
それがチェスにとって最も重要な事だった。文字通り、それは死活問題だ。
目の前の男が何を考えているのか解らない。それがチェスにはどうしようもなく怖い。
もし自分を喰おうとしているのならどうすればよいのか? それだけはどうしてもいやだ。死んでもいい。だが喰われたくはない。
こんな汚いものを。こんなおぞましいものを、誰かの中に移し覗き見られるなんてとても耐えられない。それだけは……、
「(……私が、ヤツを喰えば……)」
そうだ。そうすればよい。そうすれば不安は何もなくなる。何も怖がる必要はなくなってしまう。
何よりも、ここはそういう場所なのだ。不死者は不死者でしか殺せない。ならば、どこに躊躇う必要があるのか。
心と水はよく似ている。どちらも低き低き方へと自然に流れてゆく。恐れを抱いたチェスの心も低き方へと――。
◆ ◆ ◆
「……で、キールはこれをどう思う訳?」
アレンビーはジェットとの会話が一段落すると、頭上で無関心を貫いていた喋る烏に声をかけた。
「あれ、もしかして俺に意見を求めたの?
でも俺、男の声なんか全然頭の中に入ってこないからさ。アレンビーがその可愛い声でもう一度聞かせておくれよ」
はぁ……と、アレンビーは何度目になるかわからない溜息をつく。こんなにも面倒くさいのなら、いっそ無視すればと決め込みたいところだが、
今は鳥の足も借りたいところなので渋々ながら説明を繰り返した。
「ジェットさんが言っていた螺旋王の本当の目的って話。螺旋力ってのはあなたも聞いたでしょ」
「さぁてね。鳥頭って言葉があるぐらいだから、俺女の子の話以外は……」
「…………焼却炉に放り込んで焼き鳥にしちゃうわよ」
「おぉ、なんと大胆なアプローチか。不肖ながらこのキール、恋の炎にならば喜んでこの身を投げ込みましょう……」
「たまにはあんたも普通に喋りなさいよ!」
いつ終わるとも知れない一人と一羽のやり取りから離れた場所で、残りの一人であるジェットは大きく息を吐いた。
「(……焼き鳥、か)」
そういえば、ここに来てからろくに食事をしていない。
これから長丁場になりそうなことを考えると、スパイクではないがたんぱく質の補給を期待したいところだ。
だがジェットの記憶が確かならば、自身の鞄の中に肉は入ってなかったはずだ。……と。
「魚の肉も……たんぱく質だよな?」
ジェットの両眼が注視するところ、アレンビーの背中には青々とした巨大なブリが背負われていた……。
◆ ◆ ◆
「そーだよ忘れてた!」
突然あがったの大声にチェスはびくりと身体を震わせ、ミリアも何事かとそちらを振り返った。
アイザックは二人が自分に注視していることを確認すると、今までに見せたことののないような真剣な口調でそれを口にした。
「……俺達、メシ喰ってねーじゃん」
その発言に、ミリアはまるでこの世の終わりが目の前にやってきたかのような表情を浮かべ絶叫する。
「どうしようアイザック! このままじゃあ、チェス君も私達もみんな餓死しちゃうようっ!」
涙を浮かべひしと抱きつくミリアを受け止めると、アイザックはその涙を拭いながら次の台詞を吐く。
「安心しなミリア。俺達には心強い味方がいるんだぜ」
「……それは?」
「ブリだ!」
「……アイザック。あのアレンビーさんのお友達を食べちゃうんだね」
「ああ。そうだぜミリア。そして、彼は我々の血となり肉となりて我々に宿りその御魂は永延と受け継がれるんだ」
「リサイクルだね~、循環社会だね~!」
という訳で。と、ピタリと直立するアイザックとミリア。
「じゃあ、ミリアはアレンビーさん達とブリさんをここまで呼んできてくれ。
俺はその間に、みんなで楽しく食事ができるよう見晴らしのイイ場所を探しとく。」
「OK。アイザック! みんなで野原にマットをひいて楽しいランチタイムだね♪」
言い終わるが早いか、ミリアはドレスの裾を翻し安全メットを小刻みに揺らしながらゴミ山の向こう側へと消えていってしまった。
後に残ったのは、ミリアが消えた先へ未だ爽やかな視線を送るアイザックと、呆然とし目が点になっているチェスの二人のみ。
◆ ◆ ◆
「じゃあさチェス君、一緒に見晴らしのいい場所を探そうか!」
そう言いながらザクザクとゴミ山を登るアイザックに、チェスは恐る恐るとついて行く。
目の前の無防備な男は一体何を考えているのか。これは罠なのではないか。そんな気持ちを心の中に渦巻かせながら。
「チェス君さー。アレンビーやあのおじさんに”偽名”を使ったんだって?」
先を行く男から何気なくかけられたその言葉に、チェスの身中にある小さな心臓がドクンと大きな音を立てた。
まるで、その音が外に漏れ聞こえてしまうのが心配だという風に、チェスはその手をそこに当てる。
見上げた先、振り向いた男の表情は日の光が逆光になっているため見ることはできない。
だが、チェスには男が自分を見下ろして薄笑いを浮かべているんじゃないかと思えた。
――よ~くわかるよ。怖いもんな、俺だって泥……ウ…………時ハ…………。
ドクンドクンとまるで自分の身体がひとつの心臓となったかと思うぐらいに、その音は響き、身体を揺らす。
――だ……ら、チェス君も………………………………だロ…………?
ドクンドクンと一つ音を打つたび、身体が恐怖に引き絞られる。まるで見えない蛇が音を打つたびに絡み付いてくる様に。
――で…………「安心」…………ヨ。…………で、……………………「喰ったら」………………って!
身体を縛り付けていたは恐怖という感情だったが、それを解放したのはそれよりも強い恐怖だった。
「うわああああああああああああああああああ――――っ!」
ゴミ山の上に蕩う濁った空気を切り裂くような絶叫を上げ、まるで手負いの獣かと思えるような様でチェスは突進した。
足場も悪く、チェスは短躯なために速さはそれほどでもない。だが、眼前へと迫る彼の気迫にアイザックは動くことができなかった。
いつの間にかに抜き出されていた短剣を前に構え、弾丸となったチェスはそのままアイザックへとぶつかり――押し倒した。
グシャリと音を立ててゴミの中に埋まったアイザックの上を這い、チェスは彼の頭へと短い右手を伸ばす。
その手がそこに届いた次の瞬間、それは始まった――、
張り付いたチェスの右手から中身を吸い出されているかの様に、アイザックの身体が萎み始める。
最初は手や足の末端部分から、血が肉が骨が吸い取られ残された皮膚が乾いた紙の様にくしゃくしゃになる。
そして中身が吸われた後、残された皮膚も同じ様に右手の中へと吸い取られた。
髪の毛の一本、歯の一本、爪の一枚、何一つ残さずにアイザックという存在をその中へと吸い込んで「喰った」。
その場に残ったのは彼が身に纏っていた衣服と荷物。そして、彼の名前が刻まれた首輪が一つだけだった。
だが、アイザックがここにいたという証であるその首輪も、持ち主が居なくなると重力に従いゴミ山を転がり落ち、何処かへと姿を消した。
そして、残された人間は孤独な不死者であるチェスワフ・メイエルが一人。
彼は思っていた自身は最悪の存在であると。この世で最も汚い物の一つだと。だから、もうどの様な悪行を尽くしても変わらぬと。
だが、信じていた己の最悪よりもまだ邪悪で汚らわしい存在があるということを今此処で彼は知った。
「――――――――――――――――――――――――――!」
自身の魂を内側から切り裂くような無音の絶叫を上げ、チェスワフ・メイエルはただ独り……逃げた。
◆ ◆ ◆
「アイザックー! どこにいるのー?」
広大なゴミ山の片隅に、もうこの世には存在しない男を呼ぶ声が木霊していた。
「早く出てこないと、先に食べちゃうよー」
そんなことは今までで一度もなかった。出会ってからはいつもアイザックは彼女の傍に居続けたのだから。
「チェス君? アイザック? どこに隠れているのー?」
綺麗なストレートの金髪をなびかせる彼女の足元で、何かがキラリと陽光を反射していた……。
【E-4/ゴミ処分場・ゴミ山の上/1日目-昼】
【ミリア・ハーヴェント@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:安全メット、スコップ、珠洲城遥の腕章@舞-HiME
[道具]:デイバック、支給品一式、拡声器、ガラクタ(未識別)×1~3
[思考]
基本:アイザックと一緒♪
1:アイザックとチェス君を探してみんなと一緒にランチを食べる
2:ランチが終わったらゴミ山探索の続き、螺旋王を探す
3:ジャグジー、剣持、明智、高遠、ドモン、清麿、ジンを探す
4:パーティー楽しみだねアイザック! みんなでやればもっと楽しそう! あとでカフカたちと合流しようか?
[備考]
※可符香とアイザックの話を全面的に信用しています
※殺し合いの意味を完全に勘違いしています(アイザックに課せられた試練で、終了条件は全員に手品で殺される事)
※アイザックはポロロッカ星の王子で、螺旋王は彼の父親。それを記憶喪失で忘れていたと思い込んでいます
※この世界は死ねば元の世界に帰還。生き残ればポロロッカへご招待されると勘違いしています
※少なくとも「悲恋湖伝説」「雪夜叉伝説」「瞬間消失の謎」については把握済み。(金田一の事件簿)
※可符香、金田一、アレンビー、キール、ジェットと情報交換をしました
【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ】
[状態]:健康、空腹
[装備]:コルトガバメント(残弾:6/7発)
[道具]:デイバック、支給品一式(ランダムアイテム0~1つ 本人確認済み)
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
[思考]
基本:情報を集め、この場から脱出する
1:チェスとアイザックを探してブリを食べる
2:情報を集めるために各施設を訪れる。(とりあえず今はゴミ処理場の探索)
3:カフカという少女を探し出しポロロッカについて尋ねてみる
4:出会えればティアナを保護
5:謎の爆弾魔(ニコラス)を警戒
6:仲間(スパイク、エド)が心配
7:明日の正午以降に博物館に戻ってくる
[備考]
※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます
※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません
※チェス、アレンビー、アイザック&ミリア、キールと情報交換をしました
※監視、盗聴されている可能性に気づきました
しかし、それは何処にでもその可能性があると考えているだけで、首輪に盗聴器があるという考えには至っていません
【アレンビー・ビアズリー@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:健康
[装備]:ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:生きてる)
[道具]:デイバック、支給品一式、爆弾生物ポルヴォーラ@王ドロボウJING、注射器と各種薬剤
[思考]
1:ミリアと一緒にアイザックとチェスを探し、その後みんなでブリを食べる
2:ポロロッカのことについては、もう一度考え直したい
3:豪華客船へとゲームに乗っていない人間を集める(高遠の伝言)
4:悪いヤツは倒す! (悪くなくとも強い人ならばファイトもしてみたい……)
[備考]
※キールロワイアルのアレンビーver.「ノーベルロワイアル」を習得
※参加者名簿はまだ確認していない
※シュバルツ、東方不敗はすでに亡くなっている人として認識している
※ガッシュ、キール、剣持、アイザック&ミリア、ジェットと情報交換をしました
※高遠を信用できそうな人物と認識しています
【キール@王ドロボウJING】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイバック、支給品一式、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING
[思考]
基本:可愛い女の子についてゆく(現在はアレンビー)
1:居なくなった男二人を適当に探し、アレンビーと優雅なランチを楽しむ
2:他のことは……、まぁ、あんまりどうでもいい
3:女性は口説く! 野郎? 別に興味ない
[備考]
※参加者名簿はまだ確認していない
※ガッシュ、キール、剣持、アイザック&ミリア、ジェットと情報交換をしました
※高遠を信用できそうな人物と認識しています
※アイザックの遺品がゴミ山の中に放置されています
デイバック、支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師
カウボーイ風の服とハット、アイザックのパンツ、アイザックの首輪
アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1~3
※アイザック&ミリアがゴミ山から掘り出したガラクタは多分ただのガラクタです
◆ ◆ ◆
チェスはただ闇雲に走り続けていた。その小さな身体で。何かに追われる様に。何かから逃げる様に。
バクバクと心臓が激しい収縮を繰り返し、全身から汗が噴出し、身体中の筋肉が悲鳴を上げている。
彼は不死者である。歳は負わないし、身体が傷ついてもそれは瞬く間に元通りとなる。
だが、それはあくまでそうであるというだけのことであって、常時の肉体の働きは普通の人間と変わりはない。
疲労が限界を超え筋肉の断絶が起きた時になって、やっと悪魔の定めたルールに基づいて肉体は修復を開始する。
走りながら何度もそれを繰り返したチェスの身体が、糸の切れた操り人形の様にアスファルトへと叩きつけられた。
全身の修復箇所が身体を動かすのに必要な分を超えたからだ。それが修復されるまでの間、チェスは物の様にそこへ横たわる。
冷たい地面に触れて、乱れていたチェスの思考が少しずつ戻ってくる。狂ったままなら楽だったろうにと思っても、否応無しに……。
不死者が不死者を喰うということは、ただその片方に死を齎すという事だけではない。
喰った方が喰われた方の全てを得るということだ。脳の中の記憶だけでなく、身体の覚えた技術、体術までをもだ。
その人間の人生を受け継ぐといっても変わりはない。
そしてチェスは知った。アイザックが――愚かで、無自覚で、それでいて、とても善良な人間であることを。
彼は自身が不死者であることにすら気付いていなかった。それ故に記憶を探ってもどうして彼が不死者だったのかは解らない。
そう――だから、彼が自分を喰らおうとしているということなどは、全て卑小で愚かな自分の妄信だったのだ。
自身の記憶と同じ様に、近い記憶ほど鮮明に読み取れる。彼の最後の記憶は――「これも手品か」――だった。
その愚かさに、チェスの両目から涙が溢れた。とめどなく流れ、筋をつくり、地面にそれは溜まった。
最初に人を「喰った」のはフェルメートという男で、彼は同じ錬金術師であり、保護者であり、また自身を虐げる者であった。
「喰った」のは自衛のためであったが、直後にそうしたことを後悔した。
フェルメートの中にあったモノは己に向けられていた歪んだドス黒い欲望ばかりで、それは己の中に元よりあった
彼を恐れる気持ちと同居し、その身体を裏返しにして吐き出したくなる様な汚く重い膿を心の中に生み出した。
虐げる者と虐げられる者が同居するという、誰にも見られたくない汚らわしい自分。
それを誰にも見られたくないかった小さなチェスは、いつしか自分以外の全ての不死者を喰らおうとまでに思いつめていた。
そして、そんな自分が最悪のものであるという自覚はあったのに――。
穢れていないもの。真っ白なもの。無垢なもの。それらを踏み躙り、己の中に取り込んでしまうことのなんと悲しいことか。
真っ白なものが世界から失われ、自身の中で汚物に侵され黒ずんでいくことのなんと悲しいことか。
身体が再生を終え立てるようになっても、チェスはまだ横になったまま泣いていた。
――ただただ、アイザックがこの世からいなくなったことを嘆いて泣いていた。
&color(red){【アイザック・ディアン@BACCANO バッカーノ! 死亡】}
【D-3/市街地/1日目-昼(放送直前)】
【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night
[道具]:デイバック、支給品一式、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本:最後の一人になる。または、何らかの方法で脱出する
0:ミリア達とは会いたくない
1:…………………………
[備考]
※アイザック・ディアンを「喰って」その知識や技能を得ました
※ミリアが不死者であることには気付いていません
※なつきにはドモン・カッシュと名乗っています
※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません
※ジェット、アイザック&ミリア、アレンビー、キールと情報交換をしました
※監視、盗聴されている可能性を教えられました。
※無意識の内に急激に進化する文明の利器に惹かれつつあります。
*時系列順で読む
Back:[[突っ走る女たち]] Next:[[奪え、全て、その手で]]
*投下順で読む
Back:[[突っ走る女たち]] Next:[[奪え、全て、その手で]]
|149:[[螺旋博物館Ⅱ]]|チェスワフ・メイエル|166:[[これより先怪物領域]]|
|149:[[螺旋博物館Ⅱ]]|ジェット・ブラック|166:[[これより先怪物領域]]|
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|&color(red){アイザック・ディアン}||
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|ミリア・ハーヴェント|166:[[これより先怪物領域]]|
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|アレンビー・ビアズリー|166:[[これより先怪物領域]]|
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|キール|166:[[これより先怪物領域]]|
**ランチタイムの時間だよ ◆AZWNjKqIBQ
「見てみろよ、ミリア! ここはお宝の山だぞっ!」
「夢の島だねっ! ドリームアイランドだねっ!」
雲ひとつない澄み渡った真っ青な空と、その頂上から燦々と降り注ぐ眩しい太陽。
その遥か足元。雑多で膨大なゴミが堆く積みあがったデコボコな地面の上を、一組のカップルが走り回っていた。
空に輝く太陽にも負けないような陽気を振りまいて、楽しそうに、とても楽しそうに――……
「アイザックー……こんなにもたくさん勝手に持ち出していいのかなー?」
「おいおいミリア~、ここをどこだか忘れたのか? ここにあるのは全部捨てられた物なんだぜ」
「捨てられたなんて可哀相っ! もうここにある物は誰の物でもないんだね、アイザック!」
「……そうさ、ミリア。だから俺たちがこれからこいつらの面倒を見てやろうってんじゃないか」
「やさしいアイザック! これからはもうこの子たちも寂しくないんだねっ!」
「ああ。これからは俺が父となり、ミリアが母となり、この子たちは新しい人生を歩んでいくのさ」
「リサイクルだね~、循環社会だね~!」
ゴミ処分場という施設の中。分別することを諦められたゴミがただただ積まれているだけの場所でも、
アイザックとミリアはいつもの調子であった。
もう日も昇ったというのにアイザックは半裸のままで、ミリアの方は入り口を潜ったところで拾った安全メットを被り
アレンビーから借りたスコップ片手にした姿で、そのゴミ山の上を走り回り、時には何かを掘り出している。
螺旋王を探すという目的も半分忘れ、二人揃っていつもの通りに、子供の様に今という時間を謳歌していた。
そんな二人を遠目に、同行者の一人であるアレンビーは溜息をひとつついた。
彼女は彼らより少し離れた場所。バランスよく積みあげられた古タイヤの塔の頂上に腰掛けている。
ここに入ってきてすぐの頃は彼女も螺旋王の隠れ家を探していたのだが……
「そんな顔をすると、この青空を写し取ったかの様な君の髪の色も曇ってしまうよアレンビー」
憂鬱に顔を曇らせるアレンビーの頭上を一羽の烏――キールが浮ついた台詞を吐きながら旋回する。
「……やっぱり、おかしいんじゃないかなって思うんだけど」
「おかしいのはこの世界の方さアレンビー。そんな些事に心を囚われて、君の顔から美貌が失われることの――……」
ふう――と大きく溜息をついてアレンビーは烏の戯言を聞き流す。
どうやらこの喋る鳥は物事を真剣には捉えていないぞ、ということをこの1時間ほどでアレンビーは理解した。
そして、ゴミ山の上を駆け回る二人。彼らについても、真剣ではあっても根本的にな部分でおかしい所があると彼女は感じている。
嘘をついて騙しているとは思わないし、アイザックの復活劇も実際に目の当たりにしている。それでも……
怒涛の勢いで問答無用に理性を押し流す運命の逆流――ポロロッカ(大騒ぎ)。
そこから僅かに取り残されたアレンビーの理性が、彼女にこのままじゃいけないと小さな警告を送り続けていた。
……と、頭上の烏よりアレンビーにとって意味のある言葉が投げかけられた。
「お客さんだよ、アレンビー。しかも二人……」
「その言い方だと、来たのは男の人かしら?」
皮肉っぽくかけられた言葉に烏は空中で器用に首肯する。
「あたり。アレンビーと相互理解が深まって嬉しいよ。来たのは両方とも男。おっさんと小僧さ」
古タイヤの塔の頂上で立ち上がり入り口の方へと振り返ったアレンビー。
その視線の先には、一組の壮年の男性と背の低い少年の姿があった。
◆ ◆ ◆
「ゴミ処分場だと……何があるんだろう?」
出会ってより数時間が経ち、そろそろ口数も少しずつ増えてきた同行者の質問にジェットは頭を捻る。
「そうだな。……映画館では映画に、博物館では展示室に何かがあったんだ。
ということはゴミ処分場だとやっぱり集められたゴミ……もしくはそれを処理する施設あたりが怪しいな」
その返答にチェスはこくりと頷き、納得したことをジェットに知らせる。
そして視線を上げて、眼前に大きく広がるゴミ処理場をその小さな両目で見渡した。
ゴミ処分場に入ってすぐに見えるのは、廃車となり積み上げられた車の残骸や古タイヤの塔。
真っ赤に錆びた金属製の何かだった物で組上げられた奇怪なオブジェ。同じ様に錆びの浮いた、古びたコンテナの数々。
その間の所々に見えるのは、それもゴミかと見間違うほど汚れたゴミを動かすための重機達。
それらから目を移せば、次に見えてくるのは無愛想な灰色の建物の群れだ。
特徴的なのは、空へと長く伸びる紅白の縞模様に塗られた煙突だけだが、そこから吐き出されるべきである煙は少しも見えない。
そして、更に視線を奥へと進めればそこに見えるのは灰一色に見える巨大な山。
よく観察してみると、一見灰一色なそれは雑多な色が重なりあった結果そういう印象を受けるのだということが解る。
物の死骸を集める場所だけあって、まるで墓場の様にそこは静寂で、
聞こえてくるのは海風に揺られたゴミの群れが奏でる、細波の様な静かなノイズだけだった。
――と、一瞬何かが二人の頭上に降りかかる陽光を遮った。そして、それは軽い音を立てて彼らの目の前にへと着地する。
「はじめまして! 私はアレンビー・ビアズリー。オジサンと少年は?」
それは、この場には似つかわしくない透き通った青い髪の少女――アレンビー・ビアズリーだった。
◆ ◆ ◆
「あ……と、驚かせたみたいだね……」
突然に現れて今、目の前で両の手の平を顔の前で振り、照れ笑いする少女にチェスは大きく驚いていた。
視界の中のどこから飛んできたのだとしても、それが尋常な距離ではないと推測できる跳躍力。
そして、目の前のジェットが銃を向けていても、なお平然としていることから窺い知れる実力。
あの螺旋王に集められていた場所でのことを除けば、目の前で見る超人との初めての遭遇であった。
「俺はジェット・ブラック。この子はドモン・カッシュだ」
銃を下ろさずまだ警戒を解かないままに、ジェットはチェスのことを聞かされたとおりにドモンと紹介する。
その瞬間、アレンビーの顔に怪訝な表情が浮かぶのをチェスは見逃さなかった。
「ドモン・カッシュです。こんにちはおねーさん」
あどけない声を使って嘘の自己紹介をすませた裏で、チェスはこの状況を推定していた。それは――
”目の前の女はドモン・カッシュという人物を知っている。だが、決して不死者ではない”
ならば、問題は想定範囲内だった。前もって考えていた通りに事を推移させればよい……
「どうしたのおねーさん? なんだか怖い顔をしてるよ」
自分は子供だ。と、最早そう思わなくても自然に出るようになっているその使い古した仮面をチェスは被る。
「アタシの知っているドモン・カッシュとは違うみたいだけど、同姓同名って訳じゃあないよね……」
相手は警戒を強めている。だが、それもチェスの手の内だった。
ある程度緊張を高めた所で拍子抜けするような回答を提示すれば、相手を容易にそちらへと誘導することができる。
水と同じで低きところへと流れるのは人の心でも変わらない。それは300年を生きた彼が信じる世界の法則だ。
「ううん。僕は”チェスワフ・メ……”……――!」
一瞬、ドクンと心臓が脈打ちチェスの仮面に皹が入った。
(馬鹿な。今、私はドモン・カッシュと名乗ろうとしたはずなのに……何故!?)
偽名が名乗れない。それが何故なのかは解りきっている――不死者が近くにいるのだ。見えないどこかに。
そいつが目の前の女と会話をしているうちにひっそりと近づいてきている。
「ご、ご、ごめんなさい。本当……は、チェスワフ・メイエル……です」
それに気付いたことに気付かれてはまずいと、チェスは必死に子供として動揺するという自分を取り繕う。
目の前にいる二人に対しても、そしてどこか近くに潜んでいる不死者に対しても、自分は無害で臆病な子供だと見せかけなければならない。
途端に複雑化した状況と条件に、チェスの頭脳はその回答を導き出すべくめまぐるしく回転を始める。
予め用意していたプランに、このような特殊な条件を設定したものはない。だからこの一瞬で……――
「おー! チェス君じゃあないか」「無事だったんだねー!」
と、仮面の下で苦悩するチェスの元へ聞き覚えがある声と共に助け舟が降りて来た。
1931年のフライングプッシー号に乗り合わせた、自分の身元を保証してくれる風変わりな男女のカップル。
彼らによってこの苦境から自分は救われるだろうとチェスは確信した。だが、チェスにはその男の笑い顔が――
――その嘘偽りの全く無い真っ白な笑顔が、死神のそれにしか見ることができなかった。
◆ ◆ ◆
結局の所、アレンビーがチェスに抱きかけていた誤解はあっさりと解かれた。
すでに同行していたアイザックとミリアが間に入ったことで、それは単なる臆病な子供がその場の思いつきでついた嘘だったと、
チェスの想定していた通りに決着がついた。
興味なさげにその場を離れていたキールも、チェスの同行者であったジェットも最終的にはそれに納得した。
かくして、互いが安全な相手だと確信した彼らはそれまでに得ていた情報を交換し合うのだが……
◆ ◆ ◆
「俺にはどうしてもお前さんがたの言っていることが正気とは思えんのだが……」
「……否定はしないわ」
合流した後、再びゴミ処理場内の探索へと二手に別れたその片方。
ジェットとアレンビー。そして、その頭上のキールの二人と一羽はゴミ処分場内にある焼却施設の中を探索していた。
先程行われたばかりの情報交換の中で、新しく合流したジェットとチェスの二人に語られた
アイザックが螺旋王の息子だという話と、そこから続く荒唐無稽なストーリーをジェットは……
「意味が解らん。そんな訳ないだろう」
……と、常識という観念で一蹴した。
勿論、それを目の前で物語を熱心に紡ぐ、頭の上にお花を咲かせた二人に直接ぶつけたりはせず、
体よく別れた所で、比較的常識が通用しそうなアレンビーへとぶつけて探りを入れてみた。
ジェットの見込み通り彼女もあの話には懐疑的な部分があったようだが……
「でも、彼が不死身だってことはこの目で確認したし、彼は今までもそうだったって……」
そこが問題だった。
彼はこの実験が始まってより繰り返し殺され続けてきた――そういうありえない事実があるからこそ、
またそこから続く信じがたい話もアレンビーは一蹴できないでいるのだ。
「……とりあえず、話に出てきたカフカって娘と会ってみないと解らんな。
それに、やつが”殺された”という相手にも確認を取りたいところだが……」
そこでジェットも首を捻った。行方知れずのカフカという少女を探すのも骨が折れる話だが、名前も知らない相手を探すのはそれ以上だ。
しかも、アイザックを”殺した”ということは、つまりはその殺意をこちらにも向けてくる危険人物であろうことが容易に想像できる。
床の上を歩く二人は頭を悩ませ、逆に空を羽で叩いて飛ぶ一羽は何も考えずに、ゆっくりと施設の奥へと入り込んでいった。
◆ ◆ ◆
片方の組が薄暗い室内で、これまた暗い考えに心囚われている頃。
もう片方の組の方は明るい日差しが降り注ぐ中、あいも変わらず陽気に宝探しを楽しんでいた。
「いやー、チェス君が無事でよかった」「よかったネ!」
「あのおじさんにも何かお礼をしないとな~」「恩返しだね! 玉手箱だね!」
「よし、と言うわけで玉手箱を掘り当てよう!」「ここ掘れワンワンだね! 大判小判ザックザクだね~!」
目の前にいる二人は馬鹿だ――クルクル回ってはスコップを振り回す二人にチェスはそう評価を下した。
だが、その二人を目の前に彼の心臓は落ち着かず、身体は足場の悪さを考えてもなおフラフラと揺れていた。
”アイザック・ディアンは不死者である”
それはチェスにとっては最早間違いのないことであった。
先刻の突如として偽名を名乗れなくなった事。そして、その後彼らから聞かされた「手品」の話……
1931年のフライングプッシーフット号。その食堂車の中にいたチェス以外の不死者。それはアイザック・ディアンだった。
子供として目の前の二人に付き合いながらチェスは考える。
――アイザック・ディアンという男は一体何者なのか? 何を考えているのか?
底抜けの明るい態度。手品やポロロッカという荒唐無稽な話で皆に幸せをもたらせると考えている異常な思考。
チェスの頭の中に思い浮かんだのは、同じ錬金術師であり不死者の一人でもある”笑顔中毒者”のエルマーという男だった。
幸不幸の関係なしにただ”笑えればいい”――それだけが至上命題の、ある意味最も狂っていて、そして傍迷惑な男だ。
果たして、目の前の男はそんなモノなのだろうか? それとも全ては演技なのか? そして――
――この男は私が不死者だと知っているのか? 私を喰おうとするのか?
それがチェスにとって最も重要な事だった。文字通り、それは死活問題だ。
目の前の男が何を考えているのか解らない。それがチェスにはどうしようもなく怖い。
もし自分を喰おうとしているのならどうすればよいのか? それだけはどうしてもいやだ。死んでもいい。だが喰われたくはない。
こんな汚いものを。こんなおぞましいものを、誰かの中に移し覗き見られるなんてとても耐えられない。それだけは……
(……私が、ヤツを喰えば……)
そうだ。そうすればよい。そうすれば不安は何もなくなる。何も怖がる必要はなくなってしまう。
何よりも、ここはそういう場所なのだ。不死者は不死者でしか殺せない。ならば、どこに躊躇う必要があるのか。
心と水はよく似ている。どちらも低き低き方へと自然に流れてゆく。恐れを抱いたチェスの心も低き方へと――
◆ ◆ ◆
「……で、キールはこれをどう思う訳?」
アレンビーはジェットとの会話が一段落すると、頭上で無関心を貫いていた喋る烏に声をかけた。
「あれ、もしかして俺に意見を求めたの?
でも俺、男の声なんか全然頭の中に入ってこないからさ。アレンビーがその可愛い声でもう一度聞かせておくれよ」
はぁ……と、アレンビーは何度目になるかわからない溜息をつく。こんなにも面倒くさいのなら、いっそ無視すればと決め込みたいところだが、
今は鳥の足も借りたいところなので渋々ながら説明を繰り返した。
「ジェットさんが言っていた螺旋王の本当の目的って話。螺旋力ってのはあなたも聞いたでしょ」
「さぁてね。鳥頭って言葉があるぐらいだから、俺女の子の話以外は……」
「…………焼却炉に放り込んで焼き鳥にしちゃうわよ」
「おぉ、なんと大胆なアプローチか。不肖ながらこのキール、恋の炎にならば喜んでこの身を投げ込みましょう……」
「たまにはあんたも普通に喋りなさいよ!」
いつ終わるとも知れない一人と一羽のやり取りから離れた場所で、残りの一人であるジェットは大きく息を吐いた。
(……焼き鳥、か)
そういえば、ここに来てからろくに食事をしていない。
これから長丁場になりそうなことを考えると、スパイクではないがたんぱく質の補給を期待したいところだ。
だがジェットの記憶が確かならば、自身の鞄の中に肉は入ってなかったはずだ……と。
「魚の肉も……たんぱく質だよな?」
ジェットの両眼が注視するところ、アレンビーの背中には青々とした巨大なブリが背負われていた……
◆ ◆ ◆
「そーだよ忘れてた!」
突然あがったの大声にチェスはびくりと身体を震わせ、ミリアも何事かとそちらを振り返った。
アイザックは二人が自分に注視していることを確認すると、今までに見せたことのないような真剣な口調でそれを口にした。
「……俺達、メシ喰ってねーじゃん」
その発言に、ミリアはまるでこの世の終わりが目の前にやってきたかのような表情を浮かべ絶叫する。
「どうしようアイザック! このままじゃあ、チェス君も私達もみんな餓死しちゃうようっ!」
涙を浮かべひしと抱きつくミリアを受け止めると、アイザックはその涙を拭いながら次の台詞を吐く。
「安心しなミリア。俺達には心強い味方がいるんだぜ」
「……それは?」
「ブリだ!」
「……アイザック。あのアレンビーさんのお友達を食べちゃうんだね」
「ああ。そうだぜミリア。そして、彼は我々の血となり肉となりて我々に宿りその御魂は延々と受け継がれるんだ」
「リサイクルだね~、循環社会だね~!」
という訳で。と、ピタリと直立するアイザックとミリア。
「じゃあ、ミリアはアレンビーさん達とブリさんをここまで呼んできてくれ。
俺はその間に、みんなで楽しく食事ができるよう見晴らしのイイ場所を探しとく。」
「OK。アイザック! みんなで野原にマットをひいて楽しいランチタイムだね♪」
言い終わるが早いか、ミリアはドレスの裾を翻し安全メットを小刻みに揺らしながらゴミ山の向こう側へと消えていってしまった。
後に残ったのは、ミリアが消えた先へ未だ爽やかな視線を送るアイザックと、呆然とし目が点になっているチェスの二人のみ。
◆ ◆ ◆
「じゃあさチェス君、一緒に見晴らしのいい場所を探そうか!」
そう言いながらザクザクとゴミ山を登るアイザックに、チェスは恐る恐るとついて行く。
目の前の無防備な男は一体何を考えているのか。これは罠なのではないか。そんな気持ちを心の中に渦巻かせながら。
「チェス君さー。アレンビーやあのおじさんに”偽名”を使ったんだって?」
先を行く男から何気なくかけられたその言葉に、チェスの身中にある小さな心臓がドクンと大きな音を立てた。
まるで、その音が外に漏れ聞こえてしまうのが心配だという風に、チェスはその手をそこに当てる。
見上げた先、振り向いた男の表情は日の光が逆光になっているため見ることはできない。
だが、チェスには男が自分を見下ろして薄笑いを浮かべているんじゃないかと思えた。
――よ~くわかるよ。怖いもんな、俺だって泥……ウ…………時ハ…………
ドクンドクンとまるで自分の身体がひとつの心臓となったかと思うぐらいに、その音は響き、身体を揺らす。
――だ……ら、チェス君も………………………………だロ…………?
ドクンドクンと一つ音を打つたび、身体が恐怖に引き絞られる。まるで見えない蛇が音を打つたびに絡み付いてくる様に。
――で…………「安心」…………ヨ。…………で、……………………「喰ったら」………………って!
身体を縛り付けていたのは恐怖という感情だったが、それを解放したのはそれよりも強い恐怖だった。
「うわああああああああああああああああああ――――っ!」
ゴミ山の上に蕩う濁った空気を切り裂くような絶叫を上げ、まるで手負いの獣かと思えるような様でチェスは突進した。
足場も悪く、チェスは短躯なために速さはそれほどでもない。だが、眼前へと迫る彼の気迫にアイザックは動くことができなかった。
いつの間にかに抜き出されていた短剣を前に構え、弾丸となったチェスはそのままアイザックへとぶつかり――押し倒した。
グシャリと音を立ててゴミの中に埋まったアイザックの上を這い、チェスは彼の頭へと短い右手を伸ばす。
その手がそこに届いた次の瞬間、それは始まった――
張り付いたチェスの右手から中身を吸い出されているかの様に、アイザックの身体が萎み始める。
最初は手や足の末端部分から、血が肉が骨が吸い取られ残された皮膚が乾いた紙の様にくしゃくしゃになる。
そして中身が吸われた後、残された皮膚も同じ様に右手の中へと吸い取られた。
髪の毛の一本、歯の一本、爪の一枚、何一つ残さずにアイザックという存在をその中へと吸い込んで「喰った」。
その場に残ったのは彼が身に纏っていた衣服と荷物。そして、彼の名前が刻まれた首輪が一つだけだった。
だが、アイザックがここにいたという証であるその首輪も、持ち主が居なくなると重力に従いゴミ山を転がり落ち、何処かへと姿を消した。
そして、残された人間は孤独な不死者であるチェスワフ・メイエルが一人。
彼は思っていた。自身は最悪の存在であると。この世で最も汚い物の一つだと。だから、もうどの様な悪行を尽くしても変わらぬと。
だが、信じていた己の最悪よりもまだ邪悪で汚らわしい存在があるということを今此処で彼は知った。
「――――――――――――――――――――――――――!」
自身の魂を内側から切り裂くような無音の絶叫を上げ、チェスワフ・メイエルはただ独り……逃げた。
◆ ◆ ◆
「アイザックー! どこにいるのー?」
広大なゴミ山の片隅に、もうこの世には存在しない男を呼ぶ声が木霊していた。
「早く出てこないと、先に食べちゃうよー」
そんなことは今までで一度もなかった。出会ってからはいつもアイザックは彼女の傍に居続けたのだから。
「チェス君? アイザック? どこに隠れているのー?」
綺麗なストレートの金髪をなびかせる彼女の足元で、何かがキラリと陽光を反射していた……
【E-4/ゴミ処分場・ゴミ山の上/1日目-昼】
【ミリア・ハーヴェント@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:安全メット、スコップ、珠洲城遥の腕章@舞-HiME
[道具]:デイバック、支給品一式、拡声器、ガラクタ(未識別)×1~3
[思考]
基本:アイザックと一緒♪
1:アイザックとチェス君を探してみんなと一緒にランチを食べる
2:ランチが終わったらゴミ山探索の続き、螺旋王を探す
3:ジャグジー、剣持、明智、高遠、ドモン、清麿、ジンを探す
4:パーティー楽しみだねアイザック! みんなでやればもっと楽しそう! あとでカフカたちと合流しようか?
[備考]
※可符香とアイザックの話を全面的に信用しています
※殺し合いの意味を完全に勘違いしています(アイザックに課せられた試練で、終了条件は全員に手品で殺される事)
※アイザックはポロロッカ星の王子で、螺旋王は彼の父親。それを記憶喪失で忘れていたと思い込んでいます
※この世界は死ねば元の世界に帰還。生き残ればポロロッカへご招待されると勘違いしています
※少なくとも「悲恋湖伝説」「雪夜叉伝説」「瞬間消失の謎」については把握済み。(金田一の事件簿)
※可符香、金田一、アレンビー、キール、ジェットと情報交換をしました
【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ】
[状態]:健康、空腹
[装備]:コルトガバメント(残弾:6/7発)
[道具]:デイバック、支給品一式(ランダムアイテム0~1つ 本人確認済み)
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
[思考]
基本:情報を集め、この場から脱出する
1:チェスとアイザックを探してブリを食べる
2:情報を集めるために各施設を訪れる。(とりあえず今はゴミ処理場の探索)
3:カフカという少女を探し出しポロロッカについて尋ねてみる
4:出会えればティアナを保護
5:謎の爆弾魔(ニコラス)を警戒
6:仲間(スパイク、エド)が心配
7:明日の正午以降に博物館に戻ってくる
[備考]
※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます
※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません
※チェス、アレンビー、アイザック&ミリア、キールと情報交換をしました
※監視、盗聴されている可能性に気づきました
しかし、それは何処にでもその可能性があると考えているだけで、首輪に盗聴器があるという考えには至っていません
【アレンビー・ビアズリー@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:健康
[装備]:ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:生きてる)
[道具]:デイバック、支給品一式、爆弾生物ポルヴォーラ@王ドロボウJING、注射器と各種薬剤
[思考]
1:ミリアと一緒にアイザックとチェスを探し、その後みんなでブリを食べる
2:ポロロッカのことについては、もう一度考え直したい
3:豪華客船へとゲームに乗っていない人間を集める(高遠の伝言)
4:悪いヤツは倒す! (悪くなくとも強い人ならばファイトもしてみたい……)
[備考]
※キールロワイアルのアレンビーver.「ノーベルロワイアル」を習得
※参加者名簿はまだ確認していない
※シュバルツ、東方不敗はすでに亡くなっている人として認識している
※ガッシュ、キール、剣持、アイザック&ミリア、ジェットと情報交換をしました
※高遠を信用できそうな人物と認識しています
【キール@王ドロボウJING】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイバック、支給品一式、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING
[思考]
基本:可愛い女の子についてゆく(現在はアレンビー)
1:居なくなった男二人を適当に探し、アレンビーと優雅なランチを楽しむ
2:他のことは……まぁ、あんまりどうでもいい
3:女性は口説く! 野郎? 別に興味ない
[備考]
※参加者名簿はまだ確認していない
※ガッシュ、キール、剣持、アイザック&ミリア、ジェットと情報交換をしました
※高遠を信用できそうな人物と認識しています
※アイザックの遺品がゴミ山の中に放置されています
デイバック、支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師
カウボーイ風の服とハット、アイザックのパンツ、アイザックの首輪
アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1~3
※アイザック&ミリアがゴミ山から掘り出したガラクタは多分ただのガラクタです
◆ ◆ ◆
チェスはただ闇雲に走り続けていた。その小さな身体で。何かに追われる様に。何かから逃げる様に。
バクバクと心臓が激しい収縮を繰り返し、全身から汗が噴出し、身体中の筋肉が悲鳴を上げている。
彼は不死者である。歳はとらないし、身体が傷ついてもそれは瞬く間に元通りとなる。
だが、それはあくまでそうであるというだけのことであって、常時の肉体の働きは普通の人間と変わりはない。
疲労が限界を超え筋肉の断絶が起きた時になって、やっと悪魔の定めたルールに基づいて肉体は修復を開始する。
走りながら何度もそれを繰り返したチェスの身体が、糸の切れた操り人形の様にアスファルトへと叩きつけられた。
全身の修復箇所が身体を動かすのに必要な分を超えたからだ。それが修復されるまでの間、チェスは物の様にそこへ横たわる。
冷たい地面に触れて、乱れていたチェスの思考が少しずつ戻ってくる。狂ったままなら楽だったろうにと思っても、否応無しに……
不死者が不死者を喰うということは、ただその片方に死を齎すという事だけではない。
喰った方が喰われた方の全てを得るということだ。脳の中の記憶だけでなく、身体の覚えた技術、体術までをもだ。
その人間の人生を受け継ぐといっても変わりはない。
そしてチェスは知った。アイザックが――愚かで、無自覚で、それでいて、とても善良な人間であることを。
彼は自身が不死者であることにすら気付いていなかった。それ故に記憶を探ってもどうして彼が不死者だったのかは解らない。
そう――だから、彼が自分を喰らおうとしているということなどは、全て卑小で愚かな自分の妄信だったのだ。
自身の記憶と同じ様に、近い記憶ほど鮮明に読み取れる。彼の最後の記憶は――「これも手品か」――だった。
その愚かさに、チェスの両目から涙が溢れた。とめどなく流れ、筋をつくり、地面にそれは溜まった。
最初に人を「喰った」のはフェルメートという男で、彼は同じ錬金術師であり、保護者であり、また自身を虐げる者であった。
「喰った」のは自衛のためであったが、直後にそうしたことを後悔した。
フェルメートの中にあったモノは己に向けられていた歪んだドス黒い欲望ばかりで、
それは己の中に元よりあった彼を恐れる気持ちと同居し、その身体を裏返しにして吐き出したくなる様な汚く重い膿を心の中に生み出した。
虐げる者と虐げられる者が同居するという、誰にも見られたくない汚らわしい自分。
それを誰にも見られたくなかった小さなチェスは、いつしか自分以外の全ての不死者を喰らおうとまでに思いつめていた。
そして、そんな自分が最悪のものであるという自覚はあったのに――
穢れていないもの。真っ白なもの。無垢なもの。それらを踏み躙り、己の中に取り込んでしまうことのなんと悲しいことか。
真っ白なものが世界から失われ、自身の中で汚物に侵され黒ずんでいくことのなんと悲しいことか。
身体が再生を終え立てるようになっても、チェスはまだ横になったまま泣いていた。
――ただただ、アイザックがこの世からいなくなったことを嘆いて泣いていた。
&color(red){【アイザック・ディアン@BACCANO バッカーノ! 死亡】}
【D-3/市街地/1日目-昼(放送直前)】
【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night
[道具]:デイバック、支給品一式、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本:最後の一人になる。または、何らかの方法で脱出する
0:ミリア達とは会いたくない
1:…………………………
[備考]
※アイザック・ディアンを「喰って」その知識や技能を得ました
※ミリアが不死者であることには気付いていません
※なつきにはドモン・カッシュと名乗っています
※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません
※ジェット、アイザック&ミリア、アレンビー、キールと情報交換をしました
※監視、盗聴されている可能性を教えられました。
※無意識の内に急激に進化する文明の利器に惹かれつつあります。
*時系列順で読む
Back:[[突っ走る女たち]] Next:[[奪え、全て、その手で]]
*投下順で読む
Back:[[突っ走る女たち]] Next:[[奪え、全て、その手で]]
|149:[[螺旋博物館Ⅱ]]|チェスワフ・メイエル|166:[[これより先怪物領域]]|
|149:[[螺旋博物館Ⅱ]]|ジェット・ブラック|166:[[これより先怪物領域]]|
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|&color(red){アイザック・ディアン}||
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|ミリア・ハーヴェント|166:[[これより先怪物領域]]|
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|アレンビー・ビアズリー|166:[[これより先怪物領域]]|
|126:[[POROROCCANO! -ポロロッカーノ-]]|キール|166:[[これより先怪物領域]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: