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「そして私のおそれはつのる」(2022/09/18 (日) 10:48:44) の最新版変更点
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**そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs
言峰綺礼は一人、陽光が照らす森林の中を歩いていた……はずだった。
土色の大地を靴底で踏み締め、草木茂る視界に自然の情緒を感じていると、異変は唐突に訪れた。
飛び込んできたのは、灰色の群集である。
乱雑していた木の葉のカーペットは無機質なアスファルトによって舗装され、雄大な木々は物言わぬ電柱へと変わり果てた。
数年かけて達成できる開拓を、一瞬で終えてしまったかのような異変である。
しかしそれを目にしての混乱や戸惑いは、言峰の胸中にはなかった。
「なるほど」
静かに驚嘆し、ドモン・カッシュが語っていた情報の矛盾、その真相を理解する。
景色の一変。言峰の視覚が捉えた異常は、現実的に考えてありえない事象だった。
しかしそれも、魔術という現世の枠から外れた概念を知る言峰にとっては、さして混乱を覚えるような異常ではない。
「ふむ。方位磁石が狂ったか。魔術ではない、螺旋王が用いる科学力によるものと考えるべきか?
この世界――もしくは惑星が持つ磁場に働きかけたのか、いずれにしても興味深い技術だ」
言峰が握るコンパスの針は、目まぐるしい勢いで回転し、もはや使い物にならなくなっていた。
このコンパスが故障したのは、ちょうど言峰を囲う景色が急変した瞬間。
つまりその瞬間、支給物である安っぽいコンパスを狂わせるほどの磁力が働きかけ、同時に景色の変化に繋がった。
言峰はこれを、魔術的な干渉ではなく、科学的な干渉であると推測した。
「科学技術による長距離瞬間移動……螺旋王は未来人かなにかか?」
自身の方向感覚だけを頼りに、言峰は雑多な住宅地を南下し、やがて高速道路を目視した。
ドモン・カッシュが衛宮士郎と戦闘を行ったという舞台、地図を見れば遥か北に位置していたはずのそれが、今は言峰の目の前に聳えている。
言峰が南へと歩を進める際、出発点としたのがH-2の学校だった。
周囲の景色が変化を見せたのは、ちょうど六百メートルは歩いたかという頃。
そこからさらに五百メートルほど南下し、高速道路を発見した。
以上の事柄から、言峰は現在地をH-2の南ではなく、会場最北のA-2だと推定した。
最南地点から南下し最北に移動するなど、物理的に考えてありえない。が、ここが会場の外である可能性のほうがもっとありえない。
つまり、この会場は地図で見ればそれこそ平面だが――実際の形は球。廻れば周回する地球と同じように、端と端とで繋がり合っているのだ。
「ドモン・カッシュの言にも頷ける。褐色肌の男と戦っているうちに、北を突き抜け南へとやってきたというわけか。
しかしなるほど……参加者を隔離するという意味では、これ以上に有能な柵はないな」
高速道路上を歩き、言峰は『ワープ』という超技術について考察していた。
ドモン・カッシュの告げる矛盾に興味を持ち、会場の南端へと躍り出たのが発端。
南から北への瞬間移動という形で矛盾は解消されたものの、螺旋王が有する能力に関しては、ますます謎が深まった。
とはいえ、その謎は興味という範疇を抜け出しはしない。
絶対的に解明したい欲求もなく、その必然性もないため、言峰はこの事象を頭の片隅に留める程度にしておいた。
彼の目的は愉悦。それは、螺旋王との敵対という形で齎されるものではない。
他者との接触と教授、それによる変化。彼にとっての殺し合いの趣旨はそれだ。
パズー、八神はやて、間桐慎二、ドモン・カッシュ……彼らは、言峰との出会いによりどんな変化を齎すのか。
そして、正午を目前にしたこの時間。
神父たる言峰の前に、新たな子羊が迷い込む。
◇ ◇ ◇
お昼が近づいて、それでもエドは、無邪気に先頭を走っていた。
両腕を翼のように広げ、飛行機のようなスタイルでキーンと飛び回ってみたり、
四つん這いに屈み、ねずみのようにちょこまかと動き回ってみたり、
時折背後に回りこんで、俯くシータをばぁ~っと驚かせてみたり、
壁に覆われた人気のない道路(彼女は高速道路を知らない)でなければ、こんな風に遊んではいられない。
……でも、もしかしたら。
エドには、そんな心配も常識も、まったく通用しないのかもしれない。
「だーれもいません、だーれもいません、管とみんなとごはんはどこですか~」
リズムを刻みながら、エドは陽気な声を上げて進む。
その後ろを、シータが無言のまま追う。
マオから逃げ出して、シータはエドの示す方向のまま、会場内をあてもなく周旋していた。
鉄扇子から身を守ってくれた鎧は、重いので道中に脱ぎ捨ててきた。
何者かに襲われればあの鎧は役に立つだろうが、その前にあの重量では逃げることもままならない。
機敏なエドと行動を共にするための、苦渋の判断だった。
(あと、何分くらいなんだろう……)
手元に時計はない。が、刻々と近づく時を感じて、シータは思わず息を飲む。
マオの急変は衝撃的だった。彼の思わぬ行動により、シータの精神はさらに苛まれた。
その後エドの爛漫さに癒されはしたものの、二回目の放送が近づくにつれて、心のざわめきはまた騒々しさを取り戻す。
この六時間の結果報告。いったい何人の人間が死んだのか。それが気になったしょうがない。
これじゃ駄目だとは思いつつも、シータは押し寄せる不安を振り払うことができなかった。
「んにゃ? どうかしたおねえちゃん?」
「……ううん、なんでもない」
エドの不謹慎な笑顔も、今では疎ましく思えてしまう。
度胸が違うのか、それとも単純にそういう性格なのだろうか、エドは放送への恐怖心など微塵も持ち合わせていないようだった。
現在位置も、現在時間も、マオの真意も、エドの真意も、パズーたちの行方も、なにもわからない。
手ぶらのまま過ぎていく時が、シータの歩みを重くした。
「あ、はっけ~ん! はっけんはっけんはっけぇ~ん!」
エドの急な報告を受け、シータは俯かせていた顔を上げる。
進路上、両壁に隔てられた道路の先に、神父の格好をした男性がいた。
エドは、神父の元へと一目散に駆けてく。
シータは咄嗟に辺りを見渡し、退路がないか確認した。
進むか戻るか、道は二つしかなかった。
◇ ◇ ◇
「こぉんにちわあー!」
元気よく挨拶を投げるエドに、言峰は訝しげな視線を送った。
(……なんだ、この娘は?)
進む先は前と後ろの二つしか存在しない高速道路上。言峰の前方に、二人の少女の姿があった。
その片方、一見して少年とも思える赤毛の娘は、ここが殺戮の舞台であるなどまったく意に介していない様子で、言峰に笑顔を振りまく。
しかも、誰もが肩に提げているはずのデイパックが見当たらない。服装も、武器など隠し様がない簡素なシャツ姿だった。
正真正銘の手ぶらのまま、見ず知らずの男にこんにちわと声をかける。まるで馬鹿のようだった。
警戒心を微塵も抱かず、そしてその特徴的な赤毛……無論、言峰の知人に該当する者などいなかったが、一つだけ心あたりがあった。
ドモン・カッシュの情報の中にあった、エドという名の少女である。
名簿を見る限り、エドという名に該当する参加者は二名いた。
一人はエドワード・エルリック……これは明らかな男性の名であり、そもそも第一放送で死亡が知らされている。
となれば、目の前の少女こそがドモンが出会ったというエド……エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世だろう。
その長ったらしい本名からしてどこかの貴族かとも思ったが、格好から感じるイメージは、どちらかというストリート・チルドレンを思わせる薄汚さだ。
「こんにちわ。君は……エドか」
「ありー? たしかにエドはエドですけどー、なんで知ってるのぉ?」
猛ダッシュで駆け寄ってきたエドに挨拶を返し、言峰は改めてその容姿を観察する。
おどけた表情に、天真爛漫な瞳。恐怖や憎悪など、殺人劇に付き物であるはずの感情が、ごっそり抜け落ちたかのような平静。
もしくはこのエドという少女は、そんな感情は元々持ち合わせていないのかもしれない。
純真でまっさらな心に種を植え付け、彼女という人間の本質を歪めるのもそれはそれでおもしろそうだが、酷く骨が折れそうでもある。
(それよりも……)
警戒心ゼロで周囲をぐるぐると回るエド。言峰はそんなエドから視線を外し、遥か前方を見やる。
そこには、エドの同行者と思わしきおさげの少女が、硬直したままこちらを眺めている姿があった。
「あちらの女性は?」
「あれはー、シータおねえさんだよー。エドを怖い人から守ってくれたんだ」
シータという名を耳にし、言峰は僅かに口元を緩めた。
そのままシータへ向けた視線を固定し、一歩進む。
遠方に立つシータの身が、僅かに退いたように見えた。
「ところで、おじさんのお名前はぁ?」
間延びした声を発し、エドは言峰の進路を塞ぐように、前方に躍り出た。
言峰はエドに対し朗らかな笑顔を見せ、語る。
「ああ、まだ名乗っていなかったな。私の名は言峰綺礼。なんということはない、ただの神父さ」
名乗った、次の瞬間。
エドの体は、力なく崩れた。
◇ ◇ ◇
マオ、エドに続く三人目の遭遇者。それは、教会の神父らしき壮年の男だった。
一見しただけでは、敵か味方かも判断つかない。
聖職者ならば殺人など言語道断なはずだが、そもそも格好だけでは本当に神父と決定付けることもできない。
だというのにエドは、その性格からか、まったくの躊躇もせず男に歩み寄っていってしまった。
第一に警戒心が働いたシータは、エドのように歩み寄ることはできず、その場で竦んでしまった。
数秒、エドと男が言葉を交わしている様子を、遠方から眺めることしかできない。
そして今、異常事態は唐突に起こった。
男の周りを忙しなく飛び跳ねていたエドの身が、不意に地面に倒れふしてしまったのだ。
一部始終を眺めていたシータだったが、その突然すぎる事態を理解することはできなかった。
神父であると同時に一流の武術家でもある言峰の手刀が、瞬速のスピードでエドの首元を打ち気絶させたなど――
距離の離れた場所にいるシータの動体視力では、理解などできるはずもなかった。
理解が追いつかないため、事態の推移も把握しきれず、目の前の光景をただ見守ることしかできない。
エドが倒れ、男はそれを気にも留めず、ゆったりとした歩みでシータの元に近寄ってくる――そんな現実を。
「こんにちわ、シータ」
「っ!」
混乱の渦中でただ呆然としたシータは、逃げるという思考に辿り着く間もなく、男の接近を許してしまった。
遠方で倒れたままのエド、目の前で自身を見下ろす長身の男、これらの現状が、シータの危機感に火をつける。
顔に動揺の色を浮かばせ、そっと後ずさった。
シータの様子を見て、男は苦笑する。
「ふふふ……そう怖がることはない。私はただ、君の名がシータであると知り、伝言を伝えようとしたまでのこと。
あの娘には、少しばかりお休みいただいたまでさ。彼女にも興味はあるが……それは君の後だ」
ここに来てから、シータが出会ったのは僅かに二人。
数人しか知らぬはずのシータの名で呼びかけられ、また一歩後ずさる。
不安と危機感に苛まれながら、それでも常の気丈さを取り戻そうと、シータは男の目を見て発言した。
「どうして、私の名前を?」
「必ず助けてやる。だから心配するな」
質問を投げるが、返ってきたのは回答ではなく、男が預かったという伝言のほうだった。
「……とまぁ、これが君への伝言だ。名乗り忘れたな。私の名は言峰綺礼……見てのとおり、しがない神父さ」
「コトミネ、さん……? その伝言は、誰から?」
言峰と名乗った神父の怪しさに、喉が鳴る。
エドを気絶させた真意が見えず、戸惑う。
そして、伝言とやらの内容をやや遅れて頭に入れ、一つの可能性にいきつく。
「――っ! あなたは、ひょっとして!」
「パズー――私のこの伝言を託した少年は、たしかそう名乗っていたかな」
思わぬ人物から探し求めていた少年の名が飛び出て、シータは目を見開いた。
言峰の身に縋りつき、覇気ある言葉で尋ねる。
「パズー、パズーに会ったんですか? 教えてください。パズーは、パズーは今どこに――」
「ほう……そのパズーという少年の身が、よほど気にかかると見える」
ほとんど取り乱したような所作で、シータは言峰の返答を待った。
パズー。あの日スラッグ渓谷に落ちたシータを助け、ムスカの元から救い出してくれた少年。
その後ラピュタを発見し、一緒にこんなところにまで拉致されてしまった。
シータはパズーを巻き込んでしまったという負い目から、真剣に彼の身を案じていた。
それこそ自らの身を投げ出さん勢いで――それを本人が自覚していたかどうかは、また別の話だが。
言峰はもったいぶったような間を空けて、そんなシータの様子を眺める。
口元の緩みは声を発さずとも、心配で震える少女を嘲笑しているかのように見えた。
「落ち着きたまえ。私がパズーに出会ったのは、もう十時間も前のことだ。彼が今どこにいるかまでは知らん」
「そう……ですか」
シータは見るからに落胆し、失意の表情を俯かせる。
希望からの転落。言峰はシータの感情変化に若干の愉悦を覚え、言葉を続ける。
「そう落ち込むことはない。先の伝言にあったとおり、パズーは『心配するな』と言っている。
君がどれほど彼を心配しているかは知らぬが、あまり彼の気遣いを無碍にするものじゃない」
「……そうですね」
口ではそう言いつつも、シータはまだ、希望へは這い上がれていなかった。
目的の達成、その足掛かりになるかと思われた情報は、しかしなにも齎しはしなかった。
誰であろうと落胆せずにはいられない。あと一歩というところで掴み損ねた希望は、より大きな反動として返ってくる。
失意に溺れ、希望を見失った感情が誘う先は――絶望しかない。
「――それにその心配自体、もうすぐ不要となるやもしれん。時間にして、あと数分後にはな」
「えっ?」
言峰の意味深な発言に釣られ、シータは彼の顔を見上げる。そして、反射的に身を離した。
なにか嫌な予感がして、本能的に言峰を拒絶したのだ。
「忘れていたわけではあるまい? それともまさか、時計をなくしでもしたか?
もうすぐ12時……螺旋王による二回目の放送が始まる時間だ。あるいはそのときに」
「……あなたは、その放送でパズーの名前が呼ばれるとでも言うのですか?」
シータは動揺を制し、確かな敵意を持って言峰に接した。
少女ながらもシータが放つ雰囲気は毅然としていて、言峰に感嘆を促すほどのものでもあった。
とはいえ、シータは少女だ。ラピュタの王族という言峰の知り得ぬ正体を持とうと、その本質は変わらない。
「一つの否定できない可能性だよ。いつ、どこで、誰がなにをするか……そんなことが把握できるのは、監視者たる螺旋王だけだ。
私と別れた後のパズーが、どのような道程を歩み、現在はどうしているかなど、知る由もない」
「なら、どうして心配が不要になるなんてこと」
「言っただろう? 一つの否定できない可能性だと。では訊くが、パズーとはいったい何者かね?
何者にも屈さぬ無敵の超人か? 何者にも殺されぬ不死の化物か? 私には、いたって普通の少年に見えたのだが」
「パズーは普通の男の子です。銀鉱で働いていた、単なる優しい男の子です。
でもパズーはとても強いわ。こんな殺し合いには決して屈しない。私はパズーと一緒に生きて帰ります」
(ほう……)
――強い。
言峰はシータの反論を耳にし、胸中で賛嘆した。
言の節々には未だ不安が在中しているものの、視線は確固として言峰の瞳と対峙している。
常人らしからぬ物腰は生まれついてのものか、それともパズーとの日常で育まれたものか。
それだけに、惜しい。
彼女の精神は、とても不安定だ。余裕が見当たらない。
言峰の言葉に揺さぶられながらも、懸命にシータという意志を保っている。
懸命に――辛うじて、とも言い表すことができる。
罅割れたガラスを、ガムテープで補強しているような状態だ。
現実という槌で叩いたら、さてどう砕けるものか。
◇ ◇ ◇
「一つの可能性、などという曖昧な根拠でつい失言を吐いてしまった。謝罪しよう」
「いえ、謝るほどのことでは……」
「さて、では迎えるとしようか――二回目の放送を。パズーへの心配を募らせて、な」
「はい」
言峰が振り返り、倒れたエドの元へと歩み寄っていく。
シータは言峰の言葉に賛同し、しかし足を動かすことはできなかった。
(――あれ?)
両足が、地面に植えつけられたかのように動かない。
遠ざかっていく言峰の姿を視線で追うが、その焦点は定まらない。
心が、ざわついた。
「……んー……あり、朝ぁ?」
「いや、昼だ。間もなく放送が始まる。君も静聴したほうがいいだろう」
言峰は倒れていたエドを起こし、気絶状態から再起させた。
それら、光景として視界に映る映像を受け止め、しかし介入することができない。
まるで、世界の外枠から外れてしまったようだった。
シータは心の中で反芻する。これから待ち受けるものを。
「放送。ここ六時間における死者の名と、新たな禁止エリアを発表する簡素な儀式だ。
螺旋王にとっては、それによって齎される我々の変化が、主な目的なのだろうがな」
言峰のふとした発言が、シータの奥底で重なる。
死者の発表。放送のメインイベントとも言える事柄に、並々ならぬ不安を抱えている自分がいた。
言峰の根拠のない言、パズーの死を否定して、なお放送を恐れるという矛盾に気付く。
「恐れることはない。恐れようとも、逃れる術はないのだからな。
仮に目を背け、耳を塞ごうとも、放送の内容は我々の頭に入り込んでくる。
意識するなというほうが無理なものだ……心配するにせよ、感傷を抱くにせよな」
パズーの名が放送で呼ばれる……パズーが、既に死亡している。
言峰の言うとおり、一つの可能性にすぎなかった。それが的中している確率など、シータにも言峰にも計れはしない。
誰の名が、どれだけの名が呼ばれるのか。
興味ではなく、知ることへの恐れ。
待ち遠しくもあり、忌避したくもあるもの。
しかしシータは、ただ黙って放送を待ち構える。
選択肢など、他にはなかったからだ。
「時間だ。さぁ、静聴しようではないか――螺旋王による、放送を」
それは小さな、とても小さな不純物。
シータはその正体を知る間もなく、第二回の放送を迎える。
【A-3・高速道路/一日目/昼(放送開始)】
【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:荷物一式(コンパスが故障)
[思考]
基本:観察者としての姿勢を崩さない。苦しみを観察し、検分し、愉悦とする。
1:この場で放送を聴く。
2:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
3:風浦可符香に興味。
[備考]
※制限に気付いています。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
※会場がループしていることに気付きました。
※もちろんパズーが既に死亡しているという事実は知りません。
そのことを前提にシータに揺さぶりをかけているわけではないので、あしからず。
【エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労、強い使命感
[装備]:アンディの帽子とスカーフ@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]
1:言峰からもっと話を聞く。
2:アンチシズマ管を探す。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労、迷い、若干自暴自棄、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:放送に対する得体の知れぬ不安
1:エドに付いて行く
2:エドを守る
3:マオに激しい疑心
[備考]
マオの指摘によって、パズーやドーラと再会するのを躊躇しています。
ただし、洗脳されてるわけではありません。強い説得があれば考え直すと思われます。
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※エドのことを男の子だと勘違いしています。
※日出処の戦士の鎧@王ドロボウJINGは、A-4の高速道路入り口付近に脱ぎ捨ててあります。
*時系列順で読む
Back:[[金田一少年の天敵]] Next:[[突っ走る女たち]]
*投下順で読む
Back:[[金田一少年の天敵]] Next:[[突っ走る女たち]]
|141:[[金ぴかと本と熱血格闘家とあたし]]|言峰綺礼|177:[[言峰綺礼の愉悦]]|
|144:[[とあるラピュタの同性交流]]|エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世|177:[[言峰綺礼の愉悦]]|
|144:[[とあるラピュタの同性交流]]|シータ|177:[[言峰綺礼の愉悦]]|
**そして私のおそれはつのる ◆LXe12sNRSs
言峰綺礼は一人、陽光が照らす森林の中を歩いていた……はずだった。
土色の大地を靴底で踏み締め、草木茂る視界に自然の情緒を感じていると、異変は唐突に訪れた。
飛び込んできたのは、灰色の群集である。
乱雑していた木の葉のカーペットは無機質なアスファルトによって舗装され、雄大な木々は物言わぬ電柱へと変わり果てた。
数年かけて達成できる開拓を、一瞬で終えてしまったかのような異変である。
しかしそれを目にしての混乱や戸惑いは、言峰の胸中にはなかった。
「なるほど」
静かに驚嘆し、ドモン・カッシュが語っていた情報の矛盾、その真相を理解する。
景色の一変。言峰の視覚が捉えた異常は、現実的に考えてありえない事象だった。
しかしそれも、魔術という現世の枠から外れた概念を知る言峰にとっては、さして混乱を覚えるような異常ではない。
「ふむ。方位磁石が狂ったか。魔術ではない、螺旋王が用いる科学力によるものと考えるべきか?
この世界――もしくは惑星が持つ磁場に働きかけたのか、いずれにしても興味深い技術だ」
言峰が握るコンパスの針は、目まぐるしい勢いで回転し、もはや使い物にならなくなっていた。
このコンパスが故障したのは、ちょうど言峰を囲う景色が急変した瞬間。
つまりその瞬間、支給物である安っぽいコンパスを狂わせるほどの磁力が働きかけ、同時に景色の変化に繋がった。
言峰はこれを、魔術的な干渉ではなく、科学的な干渉であると推測した。
「科学技術による長距離瞬間移動……螺旋王は未来人かなにかか?」
自身の方向感覚だけを頼りに、言峰は雑多な住宅地を南下し、やがて高速道路を目視した。
ドモン・カッシュが衛宮士郎と戦闘を行ったという舞台、地図を見れば遥か北に位置していたはずのそれが、今は言峰の目の前に聳えている。
言峰が南へと歩を進める際、出発点としたのがH-2の学校だった。
周囲の景色が変化を見せたのは、ちょうど六百メートルは歩いたかという頃。
そこからさらに五百メートルほど南下し、高速道路を発見した。
以上の事柄から、言峰は現在地をH-2の南ではなく、会場最北のA-2だと推定した。
最南地点から南下し最北に移動するなど、物理的に考えてありえない。が、ここが会場の外である可能性のほうがもっとありえない。
つまり、この会場は地図で見ればそれこそ平面だが――実際の形は球。廻れば周回する地球と同じように、端と端とで繋がり合っているのだ。
「ドモン・カッシュの言にも頷ける。褐色肌の男と戦っているうちに、北を突き抜け南へとやってきたというわけか。
しかしなるほど……参加者を隔離するという意味では、これ以上に有能な柵はないな」
高速道路上を歩き、言峰は『ワープ』という超技術について考察していた。
ドモン・カッシュの告げる矛盾に興味を持ち、会場の南端へと躍り出たのが発端。
南から北への瞬間移動という形で矛盾は解消されたものの、螺旋王が有する能力に関しては、ますます謎が深まった。
とはいえ、その謎は興味という範疇を抜け出しはしない。
絶対的に解明したい欲求もなく、その必然性もないため、言峰はこの事象を頭の片隅に留める程度にしておいた。
彼の目的は愉悦。それは、螺旋王との敵対という形で齎されるものではない。
他者との接触と教授、それによる変化。彼にとっての殺し合いの趣旨はそれだ。
パズー、八神はやて、間桐慎二、ドモン・カッシュ……彼らは、言峰との出会いによりどんな変化を齎すのか。
そして、正午を目前にしたこの時間。
神父たる言峰の前に、新たな子羊が迷い込む。
◇ ◇ ◇
お昼が近づいて、それでもエドは、無邪気に先頭を走っていた。
両腕を翼のように広げ、飛行機のようなスタイルでキーンと飛び回ってみたり、
四つん這いに屈み、ねずみのようにちょこまかと動き回ってみたり、
時折背後に回りこんで、俯くシータをばぁ~っと驚かせてみたり、
壁に覆われた人気のない道路(彼女は高速道路を知らない)でなければ、こんな風に遊んではいられない。
……でも、もしかしたら。
エドには、そんな心配も常識も、まったく通用しないのかもしれない。
「だーれもいません、だーれもいません、管とみんなとごはんはどこですか~」
リズムを刻みながら、エドは陽気な声を上げて進む。
その後ろを、シータが無言のまま追う。
マオから逃げ出して、シータはエドの示す方向のまま、会場内をあてもなく周旋していた。
鉄扇子から身を守ってくれた鎧は、重いので道中に脱ぎ捨ててきた。
何者かに襲われればあの鎧は役に立つだろうが、その前にあの重量では逃げることもままならない。
機敏なエドと行動を共にするための、苦渋の判断だった。
(あと、何分くらいなんだろう……)
手元に時計はない。が、刻々と近づく時を感じて、シータは思わず息を飲む。
マオの急変は衝撃的だった。彼の思わぬ行動により、シータの精神はさらに苛まれた。
その後エドの爛漫さに癒されはしたものの、二回目の放送が近づくにつれて、心のざわめきはまた騒々しさを取り戻す。
この六時間の結果報告。いったい何人の人間が死んだのか。それが気になったしょうがない。
これじゃ駄目だとは思いつつも、シータは押し寄せる不安を振り払うことができなかった。
「んにゃ? どうかしたおねえさん?」
「……ううん、なんでもない」
エドの不謹慎な笑顔も、今では疎ましく思えてしまう。
度胸が違うのか、それとも単純にそういう性格なのだろうか、エドは放送への恐怖心など微塵も持ち合わせていないようだった。
現在位置も、現在時間も、マオの真意も、エドの真意も、パズーたちの行方も、なにもわからない。
手ぶらのまま過ぎていく時が、シータの歩みを重くした。
「あ、はっけ~ん! はっけんはっけんはっけぇ~ん!」
エドの急な報告を受け、シータは俯かせていた顔を上げる。
進路上、両壁に隔てられた道路の先に、神父の格好をした男性がいた。
エドは、神父の元へと一目散に駆けてく。
シータは咄嗟に辺りを見渡し、退路がないか確認した。
進むか戻るか、道は二つしかなかった。
◇ ◇ ◇
「こぉんにちわあー!」
元気よく挨拶を投げるエドに、言峰は訝しげな視線を送った。
(……なんだ、この娘は?)
進む先は前と後ろの二つしか存在しない高速道路上。言峰の前方に、二人の少女の姿があった。
その片方、一見して少年とも思える赤毛の娘は、ここが殺戮の舞台であるなどまったく意に介していない様子で、言峰に笑顔を振りまく。
しかも、誰もが肩に提げているはずのデイパックが見当たらない。服装も、武器など隠し様がない簡素なシャツ姿だった。
正真正銘の手ぶらのまま、見ず知らずの男にこんにちわと声をかける。まるで馬鹿のようだった。
警戒心を微塵も抱かず、そしてその特徴的な赤毛……無論、言峰の知人に該当する者などいなかったが、一つだけ心あたりがあった。
ドモン・カッシュの情報の中にあった、エドという名の少女である。
名簿を見る限り、エドという名に該当する参加者は二名いた。
一人はエドワード・エルリック……これは明らかな男性の名であり、そもそも第一放送で死亡が知らされている。
となれば、目の前の少女こそがドモンが出会ったというエド……エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世だろう。
その長ったらしい本名からしてどこかの貴族かとも思ったが、格好から感じるイメージは、どちらかというストリート・チルドレンを思わせる薄汚さだ。
「こんにちわ。君は……エドか」
「ありー? たしかにエドはエドですけどー、なんで知ってるのぉ?」
猛ダッシュで駆け寄ってきたエドに挨拶を返し、言峰は改めてその容姿を観察する。
おどけた表情に、天真爛漫な瞳。恐怖や憎悪など、殺人劇に付き物であるはずの感情が、ごっそり抜け落ちたかのような平静。
もしくはこのエドという少女は、そんな感情は元々持ち合わせていないのかもしれない。
純真でまっさらな心に種を植え付け、彼女という人間の本質を歪めるのもそれはそれでおもしろそうだが、酷く骨が折れそうでもある。
(それよりも……)
警戒心ゼロで周囲をぐるぐると回るエド。言峰はそんなエドから視線を外し、遥か前方を見やる。
そこには、エドの同行者と思わしきおさげの少女が、硬直したままこちらを眺めている姿があった。
「あちらの女性は?」
「あれはー、シータおねえさんだよー。エドを怖い人から守ってくれたんだ」
シータという名を耳にし、言峰は僅かに口元を緩めた。
そのままシータへ向けた視線を固定し、一歩進む。
遠方に立つシータの身が、僅かに退いたように見えた。
「ところで、おじさんのお名前はぁ?」
間延びした声を発し、エドは言峰の進路を塞ぐように、前方に躍り出た。
言峰はエドに対し朗らかな笑顔を見せ、語る。
「ああ、まだ名乗っていなかったな。私の名は言峰綺礼。なんということはない、ただの神父さ」
名乗った、次の瞬間。
エドの体は、力なく崩れた。
◇ ◇ ◇
マオ、エドに続く三人目の遭遇者。それは、教会の神父らしき壮年の男だった。
一見しただけでは、敵か味方かも判断つかない。
聖職者ならば殺人など言語道断なはずだが、そもそも格好だけでは本当に神父と決定付けることもできない。
だというのにエドは、その性格からか、まったくの躊躇もせず男に歩み寄っていってしまった。
第一に警戒心が働いたシータは、エドのように歩み寄ることはできず、その場で竦んでしまった。
数秒、エドと男が言葉を交わしている様子を、遠方から眺めることしかできない。
そして今、異常事態は唐突に起こった。
男の周りを忙しなく飛び跳ねていたエドの身が、不意に地面に倒れふしてしまったのだ。
一部始終を眺めていたシータだったが、その突然すぎる事態を理解することはできなかった。
神父であると同時に一流の武術家でもある言峰の手刀が、瞬速のスピードでエドの首元を打ち気絶させたなど――
距離の離れた場所にいるシータの動体視力では、理解などできるはずもなかった。
理解が追いつかないため、事態の推移も把握しきれず、目の前の光景をただ見守ることしかできない。
エドが倒れ、男はそれを気にも留めず、ゆったりとした歩みでシータの元に近寄ってくる――そんな現実を。
「こんにちわ、シータ」
「っ!」
混乱の渦中でただ呆然としたシータは、逃げるという思考に辿り着く間もなく、男の接近を許してしまった。
遠方で倒れたままのエド、目の前で自身を見下ろす長身の男、これらの現状が、シータの危機感に火をつける。
顔に動揺の色を浮かばせ、そっと後ずさった。
シータの様子を見て、男は苦笑する。
「ふふふ……そう怖がることはない。私はただ、君の名がシータであると知り、伝言を伝えようとしたまでのこと。
あの娘には、少しばかりお休みいただいたまでさ。彼女にも興味はあるが……それは君の後だ」
ここに来てから、シータが出会ったのは僅かに二人。
数人しか知らぬはずのシータの名で呼びかけられ、また一歩後ずさる。
不安と危機感に苛まれながら、それでも常の気丈さを取り戻そうと、シータは男の目を見て発言した。
「どうして、私の名前を?」
「必ず助けてやる。だから心配するな」
質問を投げるが、返ってきたのは回答ではなく、男が預かったという伝言のほうだった。
「……とまぁ、これが君への伝言だ。名乗り忘れたな。私の名は言峰綺礼……見てのとおり、しがない神父さ」
「コトミネ、さん……? その伝言は、誰から?」
言峰と名乗った神父の怪しさに、喉が鳴る。
エドを気絶させた真意が見えず、戸惑う。
そして、伝言とやらの内容をやや遅れて頭に入れ、一つの可能性にいきつく。
「――っ! あなたは、ひょっとして!」
「パズー――私のこの伝言を託した少年は、たしかそう名乗っていたかな」
思わぬ人物から探し求めていた少年の名が飛び出て、シータは目を見開いた。
言峰の身に縋りつき、覇気ある言葉で尋ねる。
「パズー、パズーに会ったんですか? 教えてください。パズーは、パズーは今どこに――」
「ほう……そのパズーという少年の身が、よほど気にかかると見える」
ほとんど取り乱したような所作で、シータは言峰の返答を待った。
パズー。あの日スラッグ渓谷に落ちたシータを助け、ムスカの元から救い出してくれた少年。
その後ラピュタを発見し、一緒にこんなところにまで拉致されてしまった。
シータはパズーを巻き込んでしまったという負い目から、真剣に彼の身を案じていた。
それこそ自らの身を投げ出さん勢いで――それを本人が自覚していたかどうかは、また別の話だが。
言峰はもったいぶったような間を空けて、そんなシータの様子を眺める。
口元の緩みは声を発さずとも、心配で震える少女を嘲笑しているかのように見えた。
「落ち着きたまえ。私がパズーに出会ったのは、もう十時間も前のことだ。彼が今どこにいるかまでは知らん」
「そう……ですか」
シータは見るからに落胆し、失意の表情を俯かせる。
希望からの転落。言峰はシータの感情変化に若干の愉悦を覚え、言葉を続ける。
「そう落ち込むことはない。先の伝言にあったとおり、パズーは『心配するな』と言っている。
君がどれほど彼を心配しているかは知らぬが、あまり彼の気遣いを無碍にするものじゃない」
「……そうですね」
口ではそう言いつつも、シータはまだ、希望へは這い上がれていなかった。
目的の達成、その足掛かりになるかと思われた情報は、しかしなにも齎しはしなかった。
誰であろうと落胆せずにはいられない。あと一歩というところで掴み損ねた希望は、より大きな反動として返ってくる。
失意に溺れ、希望を見失った感情が誘う先は――絶望しかない。
「――それにその心配自体、もうすぐ不要となるやもしれん。時間にして、あと数分後にはな」
「えっ?」
言峰の意味深な発言に釣られ、シータは彼の顔を見上げる。そして、反射的に身を離した。
なにか嫌な予感がして、本能的に言峰を拒絶したのだ。
「忘れていたわけではあるまい? それともまさか、時計をなくしでもしたか?
もうすぐ12時……螺旋王による二回目の放送が始まる時間だ。あるいはそのときに」
「……あなたは、その放送でパズーの名前が呼ばれるとでも言うのですか?」
シータは動揺を制し、確かな敵意を持って言峰に接した。
少女ながらもシータが放つ雰囲気は毅然としていて、言峰に感嘆を促すほどのものでもあった。
とはいえ、シータは少女だ。ラピュタの王族という言峰の知り得ぬ正体を持とうと、その本質は変わらない。
「一つの否定できない可能性だよ。いつ、どこで、誰がなにをするか……そんなことが把握できるのは、監視者たる螺旋王だけだ。
私と別れた後のパズーが、どのような道程を歩み、現在はどうしているかなど、知る由もない」
「なら、どうして心配が不要になるなんてこと」
「言っただろう? 一つの否定できない可能性だと。では訊くが、パズーとはいったい何者かね?
何者にも屈さぬ無敵の超人か? 何者にも殺されぬ不死の化物か? 私には、いたって普通の少年に見えたのだが」
「パズーは普通の男の子です。銀鉱で働いていた、単なる優しい男の子です。
でもパズーはとても強いわ。こんな殺し合いには決して屈しない。私はパズーと一緒に生きて帰ります」
(ほう……)
――強い。
言峰はシータの反論を耳にし、胸中で賛嘆した。
言の節々には未だ不安が在中しているものの、視線は確固として言峰の瞳と対峙している。
常人らしからぬ物腰は生まれついてのものか、それともパズーとの日常で育まれたものか。
それだけに、惜しい。
彼女の精神は、とても不安定だ。余裕が見当たらない。
言峰の言葉に揺さぶられながらも、懸命にシータという意志を保っている。
懸命に――辛うじて、とも言い表すことができる。
罅割れたガラスを、ガムテープで補強しているような状態だ。
現実という槌で叩いたら、さてどう砕けるものか。
◇ ◇ ◇
「一つの可能性、などという曖昧な根拠でつい失言を吐いてしまった。謝罪しよう」
「いえ、謝るほどのことでは……」
「さて、では迎えるとしようか――二回目の放送を。パズーへの心配を募らせて、な」
「はい」
言峰が振り返り、倒れたエドの元へと歩み寄っていく。
シータは言峰の言葉に賛同し、しかし足を動かすことはできなかった。
(――あれ?)
両足が、地面に植えつけられたかのように動かない。
遠ざかっていく言峰の姿を視線で追うが、その焦点は定まらない。
心が、ざわついた。
「……んー……あり、朝ぁ?」
「いや、昼だ。間もなく放送が始まる。君も静聴したほうがいいだろう」
言峰は倒れていたエドを起こし、気絶状態から再起させた。
それら、光景として視界に映る映像を受け止め、しかし介入することができない。
まるで、世界の外枠から外れてしまったようだった。
シータは心の中で反芻する。これから待ち受けるものを。
「放送。ここ六時間における死者の名と、新たな禁止エリアを発表する簡素な儀式だ。
螺旋王にとっては、それによって齎される我々の変化が、主な目的なのだろうがな」
言峰のふとした発言が、シータの奥底で重なる。
死者の発表。放送のメインイベントとも言える事柄に、並々ならぬ不安を抱えている自分がいた。
言峰の根拠のない言、パズーの死を否定して、なお放送を恐れるという矛盾に気付く。
「恐れることはない。恐れようとも、逃れる術はないのだからな。
仮に目を背け、耳を塞ごうとも、放送の内容は我々の頭に入り込んでくる。
意識するなというほうが無理なものだ……心配するにせよ、感傷を抱くにせよな」
パズーの名が放送で呼ばれる……パズーが、既に死亡している。
言峰の言うとおり、一つの可能性にすぎなかった。それが的中している確率など、シータにも言峰にも計れはしない。
誰の名が、どれだけの名が呼ばれるのか。
興味ではなく、知ることへの恐れ。
待ち遠しくもあり、忌避したくもあるもの。
しかしシータは、ただ黙って放送を待ち構える。
選択肢など、他にはなかったからだ。
「時間だ。さぁ、静聴しようではないか――螺旋王による、放送を」
それは小さな、とても小さな不純物。
シータはその正体を知る間もなく、第二回の放送を迎える。
【A-3・高速道路/一日目/昼(放送開始)】
【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:荷物一式(コンパスが故障)
[思考]
基本:観察者としての姿勢を崩さない。苦しみを観察し、検分し、愉悦とする。
1:この場で放送を聴く。
2:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
3:風浦可符香に興味。
[備考]
※制限に気付いています。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
※会場がループしていることに気付きました。
※もちろんパズーが既に死亡しているという事実は知りません。
そのことを前提にシータに揺さぶりをかけているわけではないので、あしからず。
【エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労、強い使命感
[装備]:アンディの帽子とスカーフ@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]
1:言峰からもっと話を聞く。
2:アンチシズマ管を探す。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労、迷い、若干自暴自棄、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:放送に対する得体の知れぬ不安
1:エドに付いて行く
2:エドを守る
3:マオに激しい疑心
[備考]
マオの指摘によって、パズーやドーラと再会するのを躊躇しています。
ただし、洗脳されてるわけではありません。強い説得があれば考え直すと思われます。
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※エドのことを男の子だと勘違いしています。
※日出処の戦士の鎧@王ドロボウJINGは、A-4の高速道路入り口付近に脱ぎ捨ててあります。
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