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「スパイラルメロディーズ」(2022/08/26 (金) 23:55:46) の最新版変更点
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**スパイラルメロディーズ ◆LXe12sNRSs
「――っぐぅっ!?」
そう、男が苦しげに呻いたのは何度目だったろうか。
金髪に赤コートを纏った男は、軋む体に鞭を打ち、泣き言も言わずただ北への道を目指している。
彼の名はヴァッシュ・ザ・スタンピード。自らが誇示する正義を証明するため、我が身すら投げ出すお人よし。
――出会い頭から抱いていた印象は、やはり的を外れてなどいなかった。
「ヴァッシュさん……」
「え? あ、ああ、ごめん。いや、大丈夫だよ。早く、君を襲ったっていう男を捜さないとね……」
心配そうに瞳を向ける女をよそに、ヴァッシュはふらふらな足取りで前に進む。
その後姿を見て、女――『四女』の名を持つナンバーズ4、クアットロは妖艶に微笑む。
Dr.スカリエッティの一派に属する戦闘機人、ナンバーズ。その中からたった一人この地に召集された彼女は、当然のごとく生還を望む。
そのためなら他者を蹴落とし、貶め、殺すことも厭わない。それらはすべて、彼女にとっての日常とも言える。
ナンバーズ12姉妹の中でも、彼女は特に異質な存在だった。主に、その卑劣さ、残虐性の面で――。
「ヴァッシュさん。やはり、この辺りで一旦休みましょう。このままでは、ヴァッシュさんのほうが参ってしまいますわ」
「大丈夫さ……これしきで弱音を吐いたりなんてできないよ。死んじまったクロにも……」
「ヴァッシュさん!」
クアットロがいつになく大声を出すと、ヴァッシュは驚いた顔で彼女のほうへ振り向いた。
ああ、なんて期待通りな反応だろう……と、腹の底で恍惚な余韻に浸つつ、瞳に虚偽の涙を浮かべる。
「ヴァッシュさんの優しさは理解しています……でも、私の気持ちも察してください! もう……誰かが傷つくのなんて嫌……!」
「クアットロさん……」
――ああ! 本当に、本当にこの男は、なんというおまぬけさんなんでしょう!
クアットロは表では涙を見せ、裏では高笑いをし、善良なヴァッシュを楽しそうに謀る。
騙し、誘導し、自らの思うがままに、他者の行動や心理をコントロールする。その達成感は、何物にも変えがたい極上の快楽。
そんな変態的な趣味を持った人間というのも、世の中にはそうそういないだろう。が、あいにくクアットロは人間ではない。
「お願いです、ヴァッシュさん。どうか、今は休んでください。このままヴァッシュさんが誰かに襲われでもしたら……私……」
「……わかった。ううん、ごめんよクアットロさん。僕は、ちょっと焦りすぎてたみたいだ……」
「いいえ。私にはヴァッシュさんの気持ちが痛いほどよくわかります。だから今は休んで、その後はきっと……」
「ああ……もう、誰も死なせやしない。誰も死なせるもんか」
クアットロの嘘泣きに胸を打たれたヴァッシュは、焦る衝動を抑え、その身を一件の民家へと赴かせる。
それに付き従うクアットロは、内心で爆笑を続けていた。
なにからなにまで自分の思い通り。この男は実に扱いやすい。まるでアンテナの付いた自動人形のようだ。
(重宝しますわねぇ……このお馬鹿さんは。いずれはお別れしなければならないのが残念ですが……
それまでは精々、私のために働いてもらいますわよ……実験台としてね)
クアットロの眼鏡に陽光が反射して、怪しく光った。口元の笑みも相まって、いっそう不気味に見える。
そんな背後の悪意を、ヴァッシュは微塵も感じることができず、言葉に流されるまま休息につく。
そう、ここまでのすべてが計画通り。
ヴァッシュを休ませ――あわよくば眠りにつかせ――単独行動できる時間を作る。
そしてその時間を使い、『実験』に入る。
クロの残した一つの金属片。それを用いた、重要な実験を――。
◇ ◇ ◇
殺し合いに乗った者に気付かれぬよう、家の明かりはつけず、窓からの太陽光のみで、クアットロは実験準備を進めていた。
一休みという建前で作ったこのフリーな時間。有意義なものにするため、クアットロは『首輪の調査』という選択肢を選んだ。
キャロ殺害後の不手際を思い出す。あのときは黒服のせいで回収に回れなかったが、結果的にはこうやって首輪を入手している幸運な自分がいる。
これをどう扱うかが問題だった。他者の荷物に潜ませ疑心暗鬼を誘発するなり、解析を望む者に対する餌として使うなり、用途は余りある。
大きなアドバンテージを手に入れたクアットロは、まずこう思ったのだ――この首輪の情報がもっと欲しい、と。
首輪の情報。即ち、内部を構成する物質やら、分解するための目処、起爆の条件や詳細な爆発力などだ。
それらはまた、情報だけでも脱出に有益な材料として機能する。欲する者は多く、だからこそ持っていて得をする。
クアットロは、まずこの首輪について調べることにしたのだ。
運よく生き永らえたとはいえ、全身に大きなダメージを負ったヴァッシュは、今は寝室のベッドで眠っている。
暢気なものだとは思うが、彼の殺人を憎むような言動には、並々ならぬ正義感を感じた。
それを抑えつけてまで眠っているということは、それだけ体に負担がかかっているということだろう。
どちらにせよ、クアットロにとっては好都合。この誰にも邪魔されない機会を、十分に活用させてもらうとしよう。
机には、クロから回収した首輪が一つ。自分のものより一回り小さいのは、クロが猫だったからだろう。
そして首輪の隣には、この家に置いてあった工具セットが一式。
半田鏝のような専門的なものはなく、ドライバーや鑢など日曜大工品くらいしかないのが難だが、贅沢は言っていられない。
もとより、そんなに簡単に解体できるものであるはずがない。今回の趣旨は、あくまでも調査だ。
この首輪がいったいどういった物質なのか。それだけでもわかれば、成果は十分と言える。
(さ~て、ドキドキのお調べタイムとまいりましょうか~♪)
スタンドライトに照らされた机上をにんまり眺めるクアットロの表情は、マッドサイエンティストそのものだった。
まずは肝心の物を手に取り、じっくり触ってみる。
摩り、小突き、力を加えてみた感触は、やはり金属。
弾力性があるわけでもなく、重さも極々一般的。未知の文明を用いた代物とも思えたが、どうやらその線は薄そうだ。
次に、その全姿を今一度よく観察してみる。
なんの変哲もない新円の輪。色は銀。ただし純銀というわけではなく、鍍金のような色感だ。
外周部分には『KURO』と、持ち主の名が英語で刻まれている。これでどの首輪が誰のものか判別できるのだろう。
それ以外は目立った装飾もない。ただ一つ、爪が入り込めるほどの繋ぎ目らしき溝が二つあったが、それだけだ。
ここにドライバーを捻り込み、無理矢理分解しようものなら即ドカンだろう。これは安易すぎる。
クアットロは自身に嵌っているほうの首輪を撫で、クロのものと同様の溝を確認する。
位置は、ちょうど首の真後ろ。無論、自分で気付く可能性は限りなく低く、銀一色のため溝自体が判別しにくいだろう。
クアットロのように長髪だったり、襟のある服を着た者では、他者からも気付かれにくい。
もちろんこの溝が参加者全員の首輪にあり、首の後ろ側に付いているという確証はないが、クアットロとクロの場合は一致した。
(『KURO』の刻印はこの溝と溝の間に刻まれてますわね。鏡はあれど、首の後ろまでは届かず。私の名前も溝と溝の間に?)
クアットロは机に置かれていた化粧用の手鏡を持て余しつつ、自身の首輪とクロの首輪を見比べる。
首輪が全参加者共通である確証などないが、逆に考えれば、各々別のものを用意する理由も思い浮かばない。
クアットロとクロの首輪のサイズが違うのは、単純に首周りのサイズを考慮しての結果だろうし、深い意味はないはずだ。
もちろん、中身も同じはず。爆薬の量は多少増減するかもしれないが、いずれにしても必殺の威力分はあると思われる。
でなければ首輪による抑止力は効果が半減してしまう。そもそも、首輪の爆弾が原始的な火薬によるものかは不明だが。
(う~ん、やっぱり見ただけじゃなんとも……いっそ分解できればいいのですけれど……そううまくはいきませんわねぇ)
早くも手詰まりな予感を感じたクアットロは、口をへの字にしながら首輪を再度眺め回す。
どこからどう見ても輪。サイズが従来のものより小さいため、クアットロにとっては腕輪とも解釈できる。
手触りはツルツルしていて、特筆するような違和感はない。とても綺麗な素の状態だった。
(……ん? きれいな状態……それって、おかしくありませんこと?)
この首輪は、木っ端微塵に爆散したクロから回収したものだ。
所有者が木っ端微塵になるほど衝撃を受けたというのに、この首輪が綺麗な状態で現存しているのは、いったいどういうわけか。
首輪とは形状を表すための言葉でしかなく、その本質は爆弾だ。当然、中には可燃性物質が入っているはず。
鈍器で叩いたり、刃物で傷つけようとしたり、下手に干渉すれば誘爆して当然のはず。なのに、これはここに現存している。
(まさか、弄っても爆発しない? いいえ、そんなはずはありませんわ。でも、あるいは外部からの干渉も可能なのでは?)
ふとした疑問から、様々な仮説を展開するクアットロ。そのどれもが、確証を得ない曖昧なものだった。
力ずくで分解に臨むには、今一歩安心材料が足りない。現時点ではリスクが大きすぎる。
しかし、所有者が死んだ場合でも、首輪の爆弾としての機能は継続されるのだろうか。
たとえば、禁止エリアに首輪だけを放り込んだ場合、爆発はするのか。螺旋王の意志で、この首輪単体を爆破させることは可能なのか。
もしかしたら、所有者が死んだ時点で、爆弾としての機能は停止している可能性はないだろうか。
もちろん、これも都合のいい憶測だ。この首輪に所有者が死んだと認識できるシステムが組み込まれているかは、まったくの謎。
仮に組み込まれていたとしたら、彼女の機械をも騙すIS『シルバーカーテン』で爆弾としての機能を停止させることも可能だが……。
いや、でも、ひょっとしたら……クアットロの脳内を、葛藤の渦が包み込む。
(手詰まりですわねぇ……)
クアットロは狡猾な性格だ。さらに言えば、慎重派で臆病者でもある。
爆発というリスクが拭いきれない現段階では、この首輪を安易に分解する気にはなれなかった。
しかし、科学者には時に冒険し、自ら危険地帯に足を踏み入れる度胸が必要とされる。
彼女の主人、ジェイル・スカリエッティならば、こんなときどうするだろうか。
僅かな確率に懸け、首輪の分解に挑戦するか。それとも、安心できる要素が揃うまで待ちに徹するか。
どちらの選択肢も正しいようであり、間違いであるように思える。クアットロはますます頭を悩ませた。
(あ~んもう! イライラしますわねぇ……せっかく首輪を手に入れたっていうのに、これじゃあ……ん?)
ヒステリックな表情で奥歯を噛み締め、クアットロはクロの首輪を弄繰り回す。
溝に爪を差し入れたり、机の角に軽くぶつけてみたり、机上を転がしてみたりするが、成果はなにも得られない。
と、いろいろ試行錯誤するうちに――クアットロは、ある違和感に気付いた。
それを真っ先に感じ取ったのは、彼女の白い指先。触れる場所は、『KURO』の名が記された溝と溝の間。
その部分が微かに、何度か擦ってみなければわからないほど微かに、窪んでいる。
指先で押したり擦ってみたりして、そのおかしな感触をより深く検証していく。
どうやら、この窪みは円形に広がっているようだ。
大きさは指先と同じくらいで、『KURO』の刻印の中心に位置している。
まるで、『KURO』の刻印の位置はここだと示すかのように――もしくは、その逆か。
(これはもしかして……あら、あらあら、あらあらあら、あらあらあらあらぁー!?)
陰鬱に淀んでいたクアットロの眼鏡が、ギラリと光った。
違和感に気付いたクアットロは、窪みの部分、『KURO』の刻印周りを爪でガリガリと擦り、すると。
べリッという小さな音が鳴って、爪になにかが引っかかった。
ちょろんとはみ出た、三角型の突起。微かにねばねばするそれは、『KURO』のちょうど左下部分に位置している。
クアットロはその突起に指をかけると、そのまま右上方向に向かって、慎重に引っ張った。
するとどうだろう。三角型の突起はベリベリと音を立てていき、徐々に大きくなっていく。
やがては『KURO』の刻印も巻き込み、ビッという音を最後に、突起は首輪から完全に剥がれた。
クアットロの指先には、少しだけ丸みを帯びた長方形の粘着性物質が残っており、その表面には『KURO』の文字が。
一方、首輪の溝と溝の間からは、いつの間にか『KURO』の刻印が消えており、代わりに謎のマークが記されていた。
丸の中に、十字が刻まれた、謎のマーク。それが、クアットロの指先が捉えた違和感の正体。窪みである。
クアットロは、このマークに見覚えがあった。いや、クアットロでなくとも、大抵の者はこれを知っているだろう。
丸に、十字。これは――『ネジ』だ。
(…………!)
クアットロは荒い呼気をそのままに、一瞬思考することを忘れてしまった。
それほどまでに、この発見は重要な意味を持つものであったと言える。
所有者の名前が刻まれた、首輪後部の溝と溝の間。そこに触れて始めて気付いた、微かな窪み。
その正体が、このプラスのネジである。機械の接合などに用いる、あのネジだ。
なぜ、首輪にネジなんかが付いているのか。簡単だ。接合するためである。
なにを接合するというのか。それも簡単だ。答えは首輪。厳密に言えば、首輪と参加者の首を接合するためのもの。
おそらく、首輪はこのネジを緩めるによって外れる仕組みになっているのだろう。
逆に、参加者の首に嵌めた状態でネジを締めれば、それで首と首輪の接合が完了する。
なんという、単純なメカニズム。クアットロは思わず感嘆する。
殺し合いを強制する最重要アイテム『首輪』は――ネジ式だった!
(……拍子抜けですわ! 螺旋王、これでは、これではあまりにも……簡単すぎますわぁ~!)
もはや、喜んでいるのか怒っているのかもよくわからない。
クアットロは首輪に付いたネジを食い入るように注視し、口を開けながら笑っていた。
ネジ。それは、右に回せば締まり、左に回せば緩むもの。漢字を用いれば『螺旋』とも書き表せる。
そしてクアットロの手元には、ネジを締めるも緩めるも自由な万能工具、プラスドライバーが存在している。
これを使えば、ネジは首輪から外れ、その中身を露出することだろう――それが、あまりに簡単すぎる。
いくら問題のネジ部分を所有者の刻印――同色のネームシールで覆い隠そうとも、隠蔽工作としてはあんまりな措置。
位置は鏡を使っても視認することができない首の後部。他者の目を借りても、それは気付かれにくいだろう。
だが、こうやって他者の首から頂戴した物を念入りに調べれば、いつかは気付かれる。
首輪解除のスイッチをシールで隠すだけ。そのようなおざなりな対応策で、参加者たちの首輪解除が防げるとでも思っているのだろうか。
まさか、そんなはずはない。それではあの傲岸不遜に演説を行っていた禿頭が、あまりに滑稽すぎる。
誰かがこのネジに気付いたとしても、簡単に首輪が解除できるはずはないのだ。
つまり、仕掛けはまだ残されている。
(ま、一番あり得る可能性としては、ネジを回そうとした瞬間にドカン、ですわね)
ネジ式首輪のトリックに気付き、嬉々してネジを回そうとしたらご臨終。首輪は起爆し、死を招くだろう。
どこぞの馬鹿が引っかかりそうな、チープな罠だ。慎重派のクアットロは、そのような軽率な行動は取らない。
冷静に深呼吸してから、このネジについて再度考える。
ネジとは本来、円形の面に沿って螺旋状の溝を設けたものであり、別個の部材の締結や、回転運動と直線運動の変換などに用いられる。
ここで気になる単語が一つ。この殺し合いを考察する上で、忘れてはならない重要なキーワード――螺旋が出てくる。
螺旋王、螺旋遺伝子、螺旋生命体、そして螺旋力。
クアットロのデータベース上を検索してみても、これらの単語の意味するところはわからない。
だが、この螺旋こそが、この殺し合いを左右する重大な要素であることは間違いない。
螺旋状に回すことで締結が可能なネジ、それが首輪に付いているのも、なにか大きな意味があるのだろう。
(キーワードは螺旋、スパイラルですわね。それに気になることはもう一つ……)
机上に頬杖を突きながら、クアットロは心中で先ほどの放送内容を反芻する。
幼き少女が、螺旋の力に目覚めた――たしか、螺旋王はそんなことを漏らしていた。
螺旋の力。即ち螺旋力。それに目覚めたという少女。いったい何者なのか……クアットロの興味は、謎の少女へと向いた。
(幼き少女、というだけでは誰のことかわかりませんわねぇ。なにをどうして螺旋の力に目覚めたのか、そもそも螺旋の力とはなんなのか。興味深いテーマですのに)
螺旋の力の詳細、螺旋の力に目覚める方法、螺旋王を満足させる理由……こればかりは、クアットロの知識だけでは及びつかない。
螺旋王に通じている者、螺旋を知る者、螺旋力に目覚めた少女――いずれかとの接触を得る必要があった。
とはいえ、手がかりもなにもないのが現状だ。運よく出会えれば万々歳だが、血眼になって探し回るほどのものでもない。
今はとにかく、武器にも防具にもなり得る首輪の情報搾取が最優先。螺旋とネジの関連性については、頭の隅に止めておこう。
(で・す・が……せ~っかく分解の足掛かりが掴めたんですもの。このまま様子見で終わるわけには……いきませんわよねぇ)
甘美な果実を前に黙って指をくわえているほど、クアットロはお利口な性格ではない。
奪い、騙し、利用して――欲するは、絶対の優位。そして、勝利の栄冠だ。
この殺し合いの勝者が一人と言うのであれば、クアットロは彼女なりの手段を使い、それを目指すまで。
そして今は、『利用』のフェイズ。
首輪の情報を入手するために、利用する。
――あの善良すぎるお馬鹿さん、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを。
◇ ◇ ◇
作業をしていた机から離れ、クアットロはヴァッシュの眠る寝室へと赴いた。
ステルス機能を有した彼女の固有装備『シルバーケープ』が取り上げている現状、隠密行動には不安があったが、
お人よしのヴァッシュ相手なら、万が一相手が目覚めても、『シルバーカーテン』で誤魔化しが利く。
息を殺して歩み寄ると、ヴァッシュは安らかな寝息が聞こえてきた。その表情は、微かな苦悶。
初見の印象はアホ面のお人よしだったが、どうやら、彼は彼なりに殺し合いの現状を受け止めていたらしい。
だとすれば、今彼が見ているのは、クロを死なせてしまったことに対する後悔の悪夢か。
己が不甲斐なさと現実の悲惨な推移に、腹を立てているのやもしれない。
(なんて可哀想なヴァッシュさん。いっそこの場で楽にしてあげたほうが幸せかもしれませんわねぇ)
ベッド上のヴァッシュを睥睨しながら、クアットロは口元だけで笑う。
その妖艶な眼差しは、実験用のモルモットを見つめる科学者のようだった。
(この場で楽になるか、それとも、今後も私のために働いてもらうか……すべては『実験』の結果しだい)
クアットロは、仰向けになっていたヴァッシュの体を、そっと横に倒す。すると、彼の首輪の後部が見えるようになった。
そこには二つの溝があり、間には『Vash the stampede』の文字が刻まれている。
ここまではクロとまったく同じ。やはり目で確認することはできないが、クアットロの首輪にも『Quattro』と名が刻まれているのだろう。
問題はここから先。ヴァッシュの首輪が、果たしてクロのそれと同じ仕掛けかどうか……。
手で摩り、確認する。窪みはあった。爪で、刻印の付近を擦ってみる。なにかが引っかかった。
それを摘み、引っ張ってみる。ベリベリという音が鳴り、『Vash the stampede』の刻印が剥がれていく。
そして、クロの首輪と同じくネジが露見した。
(ビンゴ……♪)
ヴァッシュの首輪も、サイズ以外は全てクロのものと同じ。
偽装工作のためのネームシールが付いており、それを剥がしたところに、プラスのネジ。
想像通り、そして期待通り。これで、問題なく実験が行える。
「ん……んん……」
僅かに寝息を漏らしたヴァッシュに臆することなく、クアットロは持参したプラスドライバーを用意する。
彼女が目論む実験とはただ一つ。『ヴァッシュの首輪のネジを回し、首輪が解除できるかどうか検証する』こと。
もし成功すれば、クアットロは重要な分解状態のサンプルが入手でき、ヴァッシュに恩も売れる。
失敗したとしても、最悪ヴァッシュの首が弾け飛び、手駒が減る程度の損害。
もちろん、ヴァッシュは扱いやすいという意味では有能な駒であるため、惜しくもあった。
だが、痛む体を押して悪党退治に熱意を燃やしていたことからわかるように、彼は我が強い。
ここぞというところで思慮外の行動を起こす可能性は、十分に考えられた。それが、自分にとって不幸を呼ぶ可能性であることも。
それに、手駒ならばいくらでも代わりが利く。ヴァッシュが駄目になれば、また善良な人間を捜して取り入ればいいだけだ。
それに比べ、クロの首輪は一度爆発してしまえば、もう手元には残らない。
また手に入れようとしても、それには死者の首が必要だ。入手難度でいえば、ヴァッシュの代わりよりよっぽど手に入れにくい。
クアットロは天秤にかけたのだ。ヴァッシュの命とクロの首輪。失った場合、損害が大きいのはどちらか。
そしてその結果、クアットロはクロの首輪を残しておくべきだと判断した。
故に、分解の実験材料にはクロの首輪ではなく、ヴァッシュの首輪を選んだ。
(悪く思わないでくださいねぇ~。本当はこんなことしたくないんですけれど、好奇心が抑えられなくて~)
耳には届かぬ心の声で、調子のいいことを並べるクアットロ。疲労からくる眠気のためか、ヴァッシュは彼女の気配に気付くことができない。
まずは下準備。クアットロは用意したドライバーの他にもう一つ、白い布を取り出しそれを手に巻く。
これは、DG細胞と同じくキャロ・ル・ルシエの支給品から拝借した一品であり、かなりの耐久力を秘めているらしい。
首輪が起爆したとして、その爆発によりネジを回す手が被害を受けてはたまらない。これは、それを防ぐための措置だ。
すぐ側に迫る邪な野心に気付かぬまま、ヴァッシュの身はさらなる窮地へと誘われようとしている。
クアットロが布越しにプラスドライバーを握り、その切っ先をついにヴァッシュの首下に伸ばした。
(無事に解除できたら拍手喝采、万が一爆発しても恨まないでくださいねぇ~。まぁ、爆発するでしょうけど)
心底楽しそうな笑みで、クアットロはごくりと生唾を飲み込む。
切っ先をヴァッシュの首輪に付いたネジの、十字型の溝に嵌め込んだ。
あとは、左に捻るだけ。
左に捻るだけで――どうなるかは、もうすぐわかる。
(さぁ、参りますわよ!)
集中し、クアットロは手に力を込めた。
ドライバーを左に捻り、ネジを回そうとする。
回そうとする……の、だが。
(なっ――ビクともしない!?)
クアットロがどれだけ力んでも、ネジはいっこうに回る気配を見せなかった。
決してクアットロが非力なわけではない。武闘派ではないが、彼女とて戦闘機人の端くれ。
一般女性以上のパワーはあるし、その力でネジがビクともしないなどというのは、考えられなかった。
とすれば、ネジが回らないのは、腕力以外の別の要因が関係していると考えられる。
クアットロはその要因について、ネジと悪戦苦闘しているうちに気付くこととなる。
『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』
「――ッ!?」
瞬間、ヴァッシュの首輪から遠雷のような音声が響き、クアットロは反射的に手を離した。
異変は、その直後に始まった。
「――ぐああああああああああああああああああああああああああっ!?」
眠っていたはずのヴァッシュが、突然弓なりに動き出し、絶叫を上げたのである。
混乱するクアットロの瞳に映ったのは、苦痛に歪むヴァッシュの顔。まるで、拷問でも受けているかのような深刻さだった。
その動きは、蠢動するミミズそのもの。ベッド上で小躍りする姿は、転落してもおかしくないほどの激しさ。
突然の事態に、さすがのクアットロも思考が追いつかない。ただ、苦しむヴァッシュを呆然と見つめるだけだ。
「……ヴァッシュ、さん?」
ヴァッシュの絶叫は十秒ほど続き、やがて糸がぷっつり切れたかのように、またベッドに倒れ込んでしまった。
……数秒間、なにもせず待ってみるが、ヴァッシュが動く気配はない。
さっきまでの異変が嘘だったみたいに、シンと静まり返ってしまった。
恐る恐る、クアットロがヴァッシュに近づいてみる。
その顔を覗いてみる。酷くやつれていた。安眠の状態にあるとは言えないだろう。
脈を計ってみる。心音を確認してみる。どうやら、生きてはいるようだ。
首輪を見てみる。目立った変化は見当たらない。ネジは、やはり寸毫も回ってはいなかった。
(これはいったい……どういうことなのかしら?)
人差し指を口元に添え、クアットロは首を傾げる。
今一度、状況を整理してみよう。
クアットロは、ヴァッシュの首輪の解除を試みた。
結果は、失敗。
その際に下るペナルティは、首輪の爆発だろうと考えていた。
だがその予想は外れ、『螺旋力なき者よ、その愚かさを悔いるがいい』という謎の音声が響く。
そして、ヴァッシュは突如苦しみ出し、気絶してしまった。
以上が、クアットロの行った実験の過程と結果である。
(ふむふむ。なるほどなるほど……これは、おもしろくなってきましたわぁ)
予想外の顛末を迎えた実験。成果は得られなかったが、クアットロは満足気だった。
手に巻いた白布を取りつつ、考察に入る。
まずは、ネジがまったく回らなかった理由について。
これはやはり、クアットロの腕力の問題ではなく、なにかしらの仕掛けによって、回せなくなっていたと考えるべきだろう。
そして、力任せにネジを回そうとしたクアットロを嘲笑うかのごとく轟いた、不気味なメッセージ。
螺旋力なき者よ、その愚かさを悔いるがいい――今を思えば、あの音声は螺旋王の声質に似ていた。
本人が首輪に入力したものと見て間違いないだろう。そして、その音声は先ほどのような、解除に失敗した場合にのみ流れる。
このメッセージが、最大のヒントだった。
螺旋力なき者よ――螺旋力なき者とは、首輪の解除を実行しようとした、クアットロのことを差しているのだろう。
その愚かさを悔いるがいい――これについても、首輪が解除できなかった、ネジが回せなかったクアットロに対しての言。
愚かさとは、螺旋力がないという事実を差し、悔いろというのは、ヴァッシュに与えられた制裁を悔いろということだろう。
つまり――『おまえに螺旋力がなかったからネジは回らず、助けようと思った仲間は苦しんだ。馬鹿め』――これが、あの音声の要約。
(な~んて親切なんでしょう。というか螺旋王……これでは、ネジを回す方法を教えているも同然ではありませんこと!?)
螺旋力。やはり、キモはそれだった。
螺旋王のメッセージを要約するならば、『螺旋力がなかったから、ネジが回らなかった』と解釈できる。
逆に考えれば、『螺旋力があれば、ネジは回った』ということでもある。
クアットロにはその螺旋力がないと判断され、ヴァッシュはこの始末だ。
だが、もしネジを回したのがクアットロではなく、放送に出てきた、『螺旋の力に目覚めた少女』であったならばどうか。
恐らくネジは回り、ヴァッシュの首輪は外れていたことだろう。
原理はわからないが、このネジは螺旋力を持つ者が回せば回る。クアットロはそう推理した。
(でもぉ……螺旋王、これはちょ~っと優しすぎるんじゃありませんこと?)
螺旋力を得ることが容易なのかどうかは、現時点ではわからない。
しかし、ネジという解除のための確かな鍵穴を用意し、それに嵌る鍵を参加者が持つことを望むなど、主催者の趣旨としては不可解すぎる。
なにせ、首輪が外れれば参加者は晴れて自由の身だ。会場からの脱出は困難だとしても、禁止エリアに引きこもるなど、殺し合いに反する行為は容易くなる。
それでは、螺旋王の目的である『一人になるまでの殺し合い』が破綻してしまう。
本当にたった一人の勝者が出ることを望むなら、首輪が外れる要因など完全に排除してしまわなければおかしいのだ。
(そう。本当に殺し合いを望むのなら、首輪の解除なんてもってのほか。じゃあ……それが『嘘』だとしたら?)
螺旋王の目的は、殺し合い。82名の参加者がやらされていることも、殺し合い。それが、全て偽りだったとすれば……?
いや、そもそも、螺旋王の目的が殺し合いであるという前提が間違っていたのだ。
開幕の際の説明をよく思い出してみる。螺旋王は、クアットロたちに殺し合いをしてもらうと確かに言った。
だが同時に、こんなことも漏らしていた――優秀な螺旋遺伝子を求めている。これは言わばそのための実験、と。
(実験。そう、つまりはそれ。私たちがやっていることは、端から殺し合いなどではなく、優秀な螺旋遺伝子を選出するための実験だった)
殺し合いは、そのための手段でしかない。クアットロはそう考えたのだ。
殺し合いなどでわかるのは、各々の戦闘能力、知力、体力、演技力、結束力、状況判断能力、精神力等々……その中に、螺旋力に通じるものがあるのかもしれない。
重要なのは、殺し合いという行為ではなく、それよって生じる極限の環境。螺旋力とは、そういった環境でしか育めないものなのだろう。
仮に最後まで生き残った一人が決定したとして、その者が螺旋王の求める優秀な螺旋遺伝子の持ち主かはわからない。
逃げ隠れて運よく最後まで生き延びただけかもしれないし、誰かに守られ続けて最後まで残ることだってあり得る。
トーナメント方式にでもするならともかく、このような誰にでも勝ちが拾えるサバイバルでは、真の一番など選出できはしない。
そして肝心の螺旋力は、そういった極限の環境下ならば、誰にでも齎される可能性があるものなのだろう。
何者かは知らぬが、『幼き少女』というからには、殺し合いに消極的な弱者と推測できる。
そんな少女でも掴み得るもの。それが、螺旋力。その少女こそが、螺旋王の求めに現段階で最も近い人物に違いない。
(ますます興味が湧いてきましたわぁ~。螺旋力に目覚めた幼き少女! ぜひ、私の手で実験したい……)
未知なる力、螺旋力。クアットロは、いつしかその魅力の虜となっていた。
もっと深く、螺旋力を知る必要がある。そしてあわよくば、そのデータをスカリエッティの下に持ち帰ろうとさえ考え始めていた。
殺し合いは建前。その本質は実験。仮に首輪が解除されようとも、殺し合いが破綻しようとも、螺旋王の目的はその時点で達成されたことになる。
螺旋王も、言うなれば科学者の一端なのかもしれない。そう思うと、螺旋王自身にも興味が湧いた。
(接触が図れればいいのですけれど……さすがにそれは無理ですわよねぇ。私は私で、地道に螺旋力の調査を進めるしかありませんわね)
決意を新たにすると、クアットロは脳内でこれからの方針を整理し出した。
螺旋力の究明。螺旋力に目覚めた少女の捜索。螺旋力に目覚める方法の検証。障害となり得る存在は手早く排除。
首輪のネジの秘密は当面隠すつもりだが、これは脱出派にとって有益すぎる情報だ。いざというときは交換材料として使える。
疑心を招くため誰かの荷物に混ぜるのもいいが、ややもったいないか。第一、首輪にネームシールが貼ってあるのでは思惑通りの混乱は狙えまい。
そしてこの男……未だ眠りから覚めぬ、ヴァッシュの処遇について。
(これではもう、黒服を始末させるのは無理そうですわねぇ。あの苦しみようでしたし、いつ目覚めることやら。
で、もぉ……実験材料としては、まだまだ使い道はありますわね。起きたら起きたで、駒として使うだけでしたし)
眠っているうちに始末しておくのもアリかと考えたが、先を見越し、しばらくは放置しておくことに決めた。
と、おもむろに時計を確認すると、短針がもうすぐ北の数字を刺そうとしている。
(あら、もうこんな時間。ちょうどいいですわ。この男は当分目覚めないでしょうし、『苗床』の様子でも見に行きましょうか)
次なる行動を決めると、クアットロは気絶したヴァッシュをベッドに残したまま、民家を後にした。
工具は元の場所に戻し、『Vash the stampede』のネームシールも、元の位置に張り直してある。
ヴァッシュが目覚めたときのため、少し外に出てくるという置き手紙も残しておいた。
不手際はない。彼はクアットロが自身の首輪で実験をしたなど、露にも思わないことだろう。
――しかし、ここで一つの疑問が残る。
クアットロは首輪の解除に失敗し、ヴァッシュはそのペナルティとして、螺旋王による制裁を受けた。
果たしてその制裁とやらは、本当に所有者を気絶させるだけのものだったのだろうか?
螺旋王は言った。螺旋力なき愚かさを悔いろ、と。
果たして、真に後悔することとなるのは、クアットロか、それともヴァッシュか――
【E-5東部・民家/一日目/昼(放送直前)】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:全身打撲、気絶、???
[装備]:ミリィのスタンガン 残弾8、ナイヴズの銃@トライガン(破損)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]基本:絶対に殺し合いを止めさせるし、誰も殺させない。
1:???
2:C-5に向かい、少女(クアットロ)を攻撃した男を止める。
3:ナイヴズの銃は出来るだけ使いたくない。
4:ランサーが次に会ったときに怒ってたら、とりあえず謝り倒しながら逃げる。
[備考]
※クロの持っていた情報をある程度把握しています(クロの世界、はやてとの約束について)。
※首輪の解除に失敗したため、螺旋王による制裁を受け気絶しました。
詳細は不明ですが、目覚めた後なんらかの後遺症が残る可能性があります(ただし、洗脳などヴァッシュの意識を乗っ取る類のものではありません)。
【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:銃撃を受けた左肩がまともに動かない
[装備]:なし
[道具]:暗視スコープ、支給品一式、ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、不明支給品×0~1 、首輪(クロ)
[思考]
基本:勝ち残り、ドクターの元へ生きて帰る。その際、螺旋力に関するデータを持ち帰る。
1:苗床(ロイ)の様子を見に戻る。
2:螺旋力について調べる。また、螺旋力や螺旋王を知る人物を捜し情報を入手する。
3:『螺旋の力に目覚めた幼き少女』を捜す。
4:首輪を分解したい。
5:駒(ヴァッシュ)を使って、黒服の男(ウルフウッド)を始末する。
6:善良な人間の中に紛れ込み、扇動してお互いを殺し合わせる
7:出来る限り自分は肉体労働しない。
[備考]
※支給品はすべて把握しています。
※首輪及び螺旋に関する考察は以下のとおり。
・首輪はネジを回すことで解除できる。ネジを回すには、螺旋力が必要。
・死者から採取した首輪でも、上記の条件は適用される(未検証)。
・シルバーカーテンで首輪の爆弾としての機能を停止できるかもしれない(不安材料が多すぎるため未検証)。
・螺旋力とは、殺し合いのような極限の環境下において、誰にでも目覚める可能性があるもの。
・螺旋王の目的は、あくまでも『実験』。殺し合いはそのための手段でしかない。
【首輪について】
銀色のリング。首の後部に二つの小さな溝があり、その間に所有者の名前が刻まれている。
これは実はシールになっており、見ただけではわかりにくいが、よく触ってみると裏に隠れたネジの窪みがわかる。
シールを剥がすとプラスのネジが隠れており、これを回そうとすると螺旋王の音声が響き、所有者に謎の苦痛を与え気絶させる。
クアットロの推理どおり、このネジを回す方法に螺旋力が関係あるかどうかは不明。
また解除に失敗した場合、どういった方法で所有者を気絶させたのかも不明。その後の影響も一切不明。
【ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!】
ガッシュの兄、ゼオンのマント。色は白。
とても高価な魔界の布でできており、胸元のブローチが健在な限り、破損しても自動で修復する。
また、布生地自体が相当な耐久力を持っており、よく伸びる。
訓練し使いこなせるようになれば、自由に操れるようにもなる。飛行も可能。
ガッシュも同じものを持っているが、本人はその性能を知らず、扱い方もまったく知らない。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|110:[[Ashes to ashes]]|ヴァッシュ・ザ・スタンピード|165:[[召喚]]|
|110:[[Ashes to ashes]]|クアットロ|164:[[好奇心は猫をも殺す]]|
**スパイラルメロディーズ ◆LXe12sNRSs
「――っぐぅっ!?」
そう、男が苦しげに呻いたのは何度目だったろうか。
金髪に赤コートを纏った男は、軋む体に鞭を打ち、泣き言も言わずただ北への道を目指している。
彼の名はヴァッシュ・ザ・スタンピード。自らが誇示する正義を証明するため、我が身すら投げ出すお人よし。
――出会い頭から抱いていた印象は、やはり的を外れてなどいなかった。
「ヴァッシュさん……」
「え? あ、ああ、ごめん。いや、大丈夫だよ。早く、君を襲ったっていう男を捜さないとね……」
心配そうに瞳を向ける女をよそに、ヴァッシュはふらふらな足取りで前に進む。
その後姿を見て、女――『四女』の名を持つナンバーズ4、クアットロは妖艶に微笑む。
Dr.スカリエッティの一派に属する戦闘機人、ナンバーズ。その中からたった一人この地に召集された彼女は、当然のごとく生還を望む。
そのためなら他者を蹴落とし、貶め、殺すことも厭わない。それらはすべて、彼女にとっての日常とも言える。
ナンバーズ12姉妹の中でも、彼女は特に異質な存在だった。主に、その卑劣さ、残虐性の面で――
「ヴァッシュさん。やはり、この辺りで一旦休みましょう。このままでは、ヴァッシュさんのほうが参ってしまいますわ」
「大丈夫さ……これしきで弱音を吐いたりなんてできないよ。死んじまったクロにも……」
「ヴァッシュさん!」
クアットロがいつになく大声を出すと、ヴァッシュは驚いた顔で彼女のほうへ振り向いた。
ああ、なんて期待通りな反応だろう……と、腹の底で恍惚な余韻に浸つつ、瞳に虚偽の涙を浮かべる。
「ヴァッシュさんの優しさは理解しています……でも、私の気持ちも察してください! もう……誰かが傷つくのなんて嫌……!」
「クアットロさん……」
――ああ! 本当に、本当にこの男は、なんというおまぬけさんなんでしょう!
クアットロは表では涙を見せ、裏では高笑いをし、善良なヴァッシュを楽しそうに謀る。
騙し、誘導し、自らの思うがままに、他者の行動や心理をコントロールする。その達成感は、何物にも代えがたい極上の快楽。
そんな変態的な趣味を持った人間というのも、世の中にはそうそういないだろう。が、あいにくクアットロは人間ではない。
「お願いです、ヴァッシュさん。どうか、今は休んでください。このままヴァッシュさんが誰かに襲われでもしたら……私……」
「……わかった。ううん、ごめんよクアットロさん。僕は、ちょっと焦りすぎてたみたいだ……」
「いいえ。私にはヴァッシュさんの気持ちが痛いほどよくわかります。だから今は休んで、その後はきっと……」
「ああ……もう、誰も死なせやしない。誰も死なせるもんか」
クアットロの嘘泣きに胸を打たれたヴァッシュは、焦る衝動を抑え、その身を一件の民家へと赴かせる。
それに付き従うクアットロは、内心で爆笑を続けていた。
なにからなにまで自分の思い通り。この男は実に扱いやすい。まるでアンテナの付いた自動人形のようだ。
(重宝しますわねぇ……このお馬鹿さんは。いずれはお別れしなければならないのが残念ですが……
それまでは精々、私のために働いてもらいますわよ……実験台としてね)
クアットロの眼鏡に陽光が反射して、妖しく光った。口元の笑みも相まって、いっそう不気味に見える。
そんな背後の悪意を、ヴァッシュは微塵も感じることができず、言葉に流されるまま休息につく。
そう、ここまでのすべてが計画通り。
ヴァッシュを休ませ――あわよくば眠りにつかせ――単独行動できる時間を作る。
そしてその時間を使い、『実験』に入る。
クロの残した一つの金属片。それを用いた、重要な実験を――
◇ ◇ ◇
殺し合いに乗った者に気付かれぬよう、家の明かりはつけず、窓からの太陽光のみで、クアットロは実験準備を進めていた。
一休みという建前で作ったこのフリーな時間。有意義なものにするため、クアットロは『首輪の調査』という選択肢を選んだ。
キャロ殺害後の不手際を思い出す。あのときは黒服のせいで回収に回れなかったが、結果的にはこうやって首輪を入手している幸運な自分がいる。
これをどう扱うかが問題だった。他者の荷物に潜ませ疑心暗鬼を誘発するなり、解析を望む者に対する餌として使うなり、用途は余りある。
大きなアドバンテージを手に入れたクアットロは、まずこう思ったのだ――この首輪の情報がもっと欲しい、と。
首輪の情報。即ち、内部を構成する物質やら、分解するための目処、起爆の条件や詳細な爆発力などだ。
それらはまた、情報だけでも脱出に有益な材料として機能する。欲する者は多く、だからこそ持っていて得をする。
クアットロは、まずこの首輪について調べることにしたのだ。
運よく生き永らえたとはいえ、全身に大きなダメージを負ったヴァッシュは、今は寝室のベッドで眠っている。
暢気なものだとは思うが、彼の殺人を憎むような言動には、並々ならぬ正義感を感じた。
それを抑えつけてまで眠っているということは、それだけ体に負担がかかっているということだろう。
どちらにせよ、クアットロにとっては好都合。この誰にも邪魔されない機会を、十分に活用させてもらうとしよう。
机には、クロから回収した首輪が一つ。自分のものより一回り小さいのは、クロが猫だったからだろう。
そして首輪の隣には、この家に置いてあった工具セットが一式。
半田鏝のような専門的なものはなく、ドライバーや鑢など日曜大工品くらいしかないのが難だが、贅沢は言っていられない。
もとより、そんなに簡単に解体できるものであるはずがない。今回の趣旨は、あくまでも調査だ。
この首輪がいったいどういった物質なのか。それだけでもわかれば、成果は十分と言える。
(さ~て、ドキドキのお調べタイムとまいりましょうか~♪)
スタンドライトに照らされた机上をにんまり眺めるクアットロの表情は、マッドサイエンティストそのものだった。
まずは肝心の物を手に取り、じっくり触ってみる。
摩り、小突き、力を加えてみた感触は、やはり金属。
弾力性があるわけでもなく、重さも極々一般的。未知の文明を用いた代物とも思えたが、どうやらその線は薄そうだ。
次に、その全姿を今一度よく観察してみる。
なんの変哲もない新円の輪。色は銀。ただし純銀というわけではなく、鍍金のような色感だ。
外周部分には『KURO』と、持ち主の名が英語で刻まれている。これでどの首輪が誰のものか判別できるのだろう。
それ以外は目立った装飾もない。ただ一つ、爪が入り込めるほどの繋ぎ目らしき溝が二つあったが、それだけだ。
ここにドライバーを捻り込み、無理矢理分解しようものなら即ドカンだろう。これは安易すぎる。
クアットロは自身に嵌っているほうの首輪を撫で、クロのものと同様の溝を確認する。
位置は、ちょうど首の真後ろ。無論、自分で気付く可能性は限りなく低く、銀一色のため溝自体が判別しにくいだろう。
クアットロのように長髪だったり、襟のある服を着た者では、他者からも気付かれにくい。
もちろんこの溝が参加者全員の首輪にあり、首の後ろ側に付いているという確証はないが、クアットロとクロの場合は一致した。
(『KURO』の刻印はこの溝と溝の間に刻まれてますわね。鏡はあれど、首の後ろまでは届かず。私の名前も溝と溝の間に?)
クアットロは机に置かれていた化粧用の手鏡を持て余しつつ、自身の首輪とクロの首輪を見比べる。
首輪が全参加者共通である確証などないが、逆に考えれば、各々別のものを用意する理由も思い浮かばない。
クアットロとクロの首輪のサイズが違うのは、単純に首周りのサイズを考慮しての結果だろうし、深い意味はないはずだ。
もちろん、中身も同じはず。爆薬の量は多少増減するかもしれないが、いずれにしても必殺の威力分はあると思われる。
でなければ首輪による抑止力は効果が半減してしまう。そもそも、首輪の爆弾が原始的な火薬によるものかは不明だが。
(う~ん、やっぱり見ただけじゃなんとも……いっそ分解できればいいのですけれど……そううまくはいきませんわねぇ)
早くも手詰まりな予感を感じたクアットロは、口をへの字にしながら首輪を再度眺め回す。
どこからどう見ても輪。サイズが従来のものより小さいため、クアットロにとっては腕輪とも解釈できる。
手触りはツルツルしていて、特筆するような違和感はない。とても綺麗な素の状態だった。
(……ん? きれいな状態……それって、おかしくありませんこと?)
この首輪は、木っ端微塵に爆散したクロから回収したものだ。
所有者が木っ端微塵になるほど衝撃を受けたというのに、この首輪が綺麗な状態で現存しているのは、いったいどういうわけか。
首輪とは形状を表すための言葉でしかなく、その本質は爆弾だ。当然、中には可燃性物質が入っているはず。
鈍器で叩いたり、刃物で傷つけようとしたり、下手に干渉すれば誘爆して当然のはず。なのに、これはここに現存している。
(まさか、弄っても爆発しない? いいえ、そんなはずはありませんわ。でも、あるいは外部からの干渉も可能なのでは?)
ふとした疑問から、様々な仮説を展開するクアットロ。そのどれもが、確証を得ない曖昧なものだった。
力ずくで分解に臨むには、今一歩安心材料が足りない。現時点ではリスクが大きすぎる。
しかし、所有者が死んだ場合でも、首輪の爆弾としての機能は継続されるのだろうか。
たとえば、禁止エリアに首輪だけを放り込んだ場合、爆発はするのか。螺旋王の意志で、この首輪単体を爆破させることは可能なのか。
もしかしたら、所有者が死んだ時点で、爆弾としての機能は停止している可能性はないだろうか。
もちろん、これも都合のいい憶測だ。この首輪に所有者が死んだと認識できるシステムが組み込まれているかは、まったくの謎。
仮に組み込まれていたとしたら、彼女の機械をも騙すIS『シルバーカーテン』で爆弾としての機能を停止させることも可能だが……
いや、でも、ひょっとしたら……クアットロの脳内を、葛藤の渦が包み込む。
(手詰まりですわねぇ……)
クアットロは狡猾な性格だ。さらに言えば、慎重派で臆病者でもある。
爆発というリスクが拭いきれない現段階では、この首輪を安易に分解する気にはなれなかった。
しかし、科学者には時に冒険し、自ら危険地帯に足を踏み入れる度胸が必要とされる。
彼女の主人、ジェイル・スカリエッティならば、こんなときどうするだろうか。
僅かな確率に賭け、首輪の分解に挑戦するか。それとも、安心できる要素が揃うまで待ちに徹するか。
どちらの選択肢も正しいようであり、間違いであるように思える。クアットロはますます頭を悩ませた。
(あ~んもう! イライラしますわねぇ……せっかく首輪を手に入れたっていうのに、これじゃあ……ん?)
ヒステリックな表情で奥歯を噛み締め、クアットロはクロの首輪を弄繰り回す。
溝に爪を差し入れたり、机の角に軽くぶつけてみたり、机上を転がしてみたりするが、成果はなにも得られない。
と、いろいろ試行錯誤するうちに――クアットロは、ある違和感に気付いた。
それを真っ先に感じ取ったのは、彼女の白い指先。触れる場所は、『KURO』の名が記された溝と溝の間。
その部分が微かに、何度か擦ってみなければわからないほど微かに、窪んでいる。
指先で押したり擦ってみたりして、そのおかしな感触をより深く検証していく。
どうやら、この窪みは円形に広がっているようだ。
大きさは指先と同じくらいで、『KURO』の刻印の中心に位置している。
まるで、『KURO』の刻印の位置はここだと示すかのように――もしくは、その逆か。
(これはもしかして……あら、あらあら、あらあらあら、あらあらあらあらぁー!?)
陰鬱に淀んでいたクアットロの眼鏡が、ギラリと光った。
違和感に気付いたクアットロは、窪みの部分、『KURO』の刻印周りを爪でガリガリと擦り、すると。
べリッという小さな音が鳴って、爪になにかが引っかかった。
ちょろんとはみ出た、三角型の突起。微かにねばねばするそれは、『KURO』のちょうど左下部分に位置している。
クアットロはその突起に指をかけると、そのまま右上方向に向かって、慎重に引っ張った。
するとどうだろう。三角型の突起はベリベリと音を立てていき、徐々に大きくなっていく。
やがては『KURO』の刻印も巻き込み、ビッという音を最後に、突起は首輪から完全に剥がれた。
クアットロの指先には、少しだけ丸みを帯びた長方形の粘着性物質が残っており、その表面には『KURO』の文字が。
一方、首輪の溝と溝の間からは、いつの間にか『KURO』の刻印が消えており、代わりに謎のマークが記されていた。
丸の中に、十字が刻まれた、謎のマーク。それが、クアットロの指先が捉えた違和感の正体。窪みである。
クアットロは、このマークに見覚えがあった。いや、クアットロでなくとも、大抵の者はこれを知っているだろう。
丸に、十字。これは――『ネジ』だ。
(…………!)
クアットロは荒い呼気をそのままに、一瞬思考することを忘れてしまった。
それほどまでに、この発見は重要な意味を持つものであったと言える。
所有者の名前が刻まれた、首輪後部の溝と溝の間。そこに触れて初めて気付いた、微かな窪み。
その正体が、このプラスのネジである。機械の接合などに用いる、あのネジだ。
なぜ、首輪にネジなんかが付いているのか。簡単だ。接合するためである。
なにを接合するというのか。それも簡単だ。答えは首輪。厳密に言えば、首輪と参加者の首を接合するためのもの。
おそらく、首輪はこのネジを緩めるによって外れる仕組みになっているのだろう。
逆に、参加者の首に嵌めた状態でネジを締めれば、それで首と首輪の接合が完了する。
なんという、単純なメカニズム。クアットロは思わず感嘆する。
殺し合いを強制する最重要アイテム『首輪』は――ネジ式だった!
(……拍子抜けですわ! 螺旋王、これでは、これではあまりにも……簡単すぎますわぁ~!)
もはや、喜んでいるのか怒っているのかもよくわからない。
クアットロは首輪に付いたネジを食い入るように注視し、口を開けながら笑っていた。
ネジ。それは、右に回せば締まり、左に回せば緩むもの。漢字を用いれば『螺旋』とも書き表せる。
そしてクアットロの手元には、ネジを締めるも緩めるも自由な万能工具、プラスドライバーが存在している。
これを使えば、ネジは首輪から外れ、その中身を露出することだろう――それが、あまりに簡単すぎる。
いくら問題のネジ部分を所有者の刻印――同色のネームシールで覆い隠そうとも、隠蔽工作としてはあんまりな措置。
位置は鏡を使っても視認することができない首の後部。他者の目を借りても、それは気付かれにくいだろう。
だが、こうやって他者の首から頂戴した物を念入りに調べれば、いつかは気付かれる。
首輪解除のスイッチをシールで隠すだけ。そのようなおざなりな対応策で、参加者たちの首輪解除が防げるとでも思っているのだろうか。
まさか、そんなはずはない。それではあの傲岸不遜に演説を行っていた禿頭が、あまりに滑稽すぎる。
誰かがこのネジに気付いたとしても、簡単に首輪が解除できるはずはないのだ。
つまり、仕掛けはまだ残されている。
(ま、一番あり得る可能性としては、ネジを回そうとした瞬間にドカン、ですわね)
ネジ式首輪のトリックに気付き、嬉々してネジを回そうとしたらご臨終。首輪は起爆し、死を招くだろう。
どこぞの馬鹿が引っかかりそうな、チープな罠だ。慎重派のクアットロは、そのような軽率な行動は取らない。
冷静に深呼吸してから、このネジについて再度考える。
ネジとは本来、円形の面に沿って螺旋状の溝を設けたものであり、別個の部材の締結や、回転運動と直線運動の変換などに用いられる。
ここで気になる単語が一つ。この殺し合いを考察する上で、忘れてはならない重要なキーワード――螺旋が出てくる。
螺旋王、螺旋遺伝子、螺旋生命体、そして螺旋力。
クアットロのデータベース上を検索してみても、これらの単語の意味するところはわからない。
だが、この螺旋こそが、この殺し合いを左右する重大な要素であることは間違いない。
螺旋状に回すことで締結が可能なネジ、それが首輪に付いているのも、なにか大きな意味があるのだろう。
(キーワードは螺旋、スパイラルですわね。それに気になることはもう一つ……)
机上に頬杖を突きながら、クアットロは心中で先ほどの放送内容を反芻する。
幼き少女が、螺旋の力に目覚めた――たしか、螺旋王はそんなことを漏らしていた。
螺旋の力。即ち螺旋力。それに目覚めたという少女。いったい何者なのか……クアットロの興味は、謎の少女へと向いた。
(幼き少女、というだけでは誰のことかわかりませんわねぇ。なにをどうして螺旋の力に目覚めたのか、そもそも螺旋の力とはなんなのか。興味深いテーマですのに)
螺旋の力の詳細、螺旋の力に目覚める方法、螺旋王を満足させる理由……こればかりは、クアットロの知識だけでは及びつかない。
螺旋王に通じている者、螺旋を知る者、螺旋力に目覚めた少女――いずれかとの接触を得る必要があった。
とはいえ、手がかりもなにもないのが現状だ。運よく出会えれば万々歳だが、血眼になって探し回るほどのものでもない。
今はとにかく、武器にも防具にもなり得る首輪の情報搾取が最優先。螺旋とネジの関連性については、頭の隅に止めておこう。
(で・す・が……せ~っかく分解の足掛かりが掴めたんですもの。このまま様子見で終わるわけには……いきませんわよねぇ)
甘美な果実を前に黙って指をくわえているほど、クアットロはお利口な性格ではない。
奪い、騙し、利用して――欲するは、絶対の優位。そして、勝利の栄冠だ。
この殺し合いの勝者が一人と言うのであれば、クアットロは彼女なりの手段を使い、それを目指すまで。
そして今は、『利用』のフェイズ。
首輪の情報を入手するために、利用する。
――あの善良すぎるお馬鹿さん、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを。
◇ ◇ ◇
作業をしていた机から離れ、クアットロはヴァッシュの眠る寝室へと赴いた。
ステルス機能を有した彼女の固有装備『シルバーケープ』が取り上げられている現状、隠密行動には不安があったが、
お人よしのヴァッシュ相手なら、万が一相手が目覚めても、『シルバーカーテン』で誤魔化しが利く。
息を殺して歩み寄ると、ヴァッシュから安らかな寝息が聞こえてきた。その表情は、微かな苦悶。
初見の印象はアホ面のお人よしだったが、どうやら、彼は彼なりに殺し合いの現状を受け止めていたらしい。
だとすれば、今彼が見ているのは、クロを死なせてしまったことに対する後悔の悪夢か。
己が不甲斐なさと現実の悲惨な推移に、腹を立てているのやもしれない。
(なんて可哀想なヴァッシュさん。いっそこの場で楽にしてあげたほうが幸せかもしれませんわねぇ)
ベッド上のヴァッシュを睥睨しながら、クアットロは口元だけで笑う。
その妖艶な眼差しは、実験用のモルモットを見つめる科学者のようだった。
(この場で楽になるか、それとも、今後も私のために働いてもらうか……すべては『実験』の結果しだい)
クアットロは、仰向けになっていたヴァッシュの体を、そっと横に倒す。すると、彼の首輪の後部が見えるようになった。
そこには二つの溝があり、間には『Vash the stampede』の文字が刻まれている。
ここまではクロとまったく同じ。やはり目で確認することはできないが、クアットロの首輪にも『Quattro』と名が刻まれているのだろう。
問題はここから先。ヴァッシュの首輪が、果たしてクロのそれと同じ仕掛けかどうか……
手で摩り、確認する。窪みはあった。爪で、刻印の付近を擦ってみる。なにかが引っかかった。
それを摘み、引っ張ってみる。ベリベリという音が鳴り、『Vash the stampede』の刻印が剥がれていく。
そして、クロの首輪と同じくネジが露見した。
(ビンゴ……♪)
ヴァッシュの首輪も、サイズ以外は全てクロのものと同じ。
偽装工作のためのネームシールが付いており、それを剥がしたところに、プラスのネジ。
想像通り、そして期待通り。これで、問題なく実験が行える。
「ん……んん……」
僅かに寝息を漏らしたヴァッシュに臆することなく、クアットロは持参したプラスドライバーを用意する。
彼女が目論む実験とはただ一つ。『ヴァッシュの首輪のネジを回し、首輪が解除できるかどうか検証する』こと。
もし成功すれば、クアットロは重要な分解状態のサンプルが入手でき、ヴァッシュに恩も売れる。
失敗したとしても、最悪ヴァッシュの首が弾け飛び、手駒が減る程度の損害。
もちろん、ヴァッシュは扱いやすいという意味では有能な駒であるため、惜しくもあった。
だが、痛む体を押して悪党退治に熱意を燃やしていたことからわかるように、彼は我が強い。
ここぞというところで思慮外の行動を起こす可能性は、十分に考えられた。それが、自分にとって不幸を呼ぶ可能性であることも。
それに、手駒ならばいくらでも代わりが利く。ヴァッシュが駄目になれば、また善良な人間を捜して取り入ればいいだけだ。
それに比べ、クロの首輪は一度爆発してしまえば、もう手元には残らない。
また手に入れようとしても、それには死者の首が必要だ。入手難度でいえば、ヴァッシュの代わりよりよっぽど手に入れにくい。
クアットロは天秤にかけたのだ。ヴァッシュの命とクロの首輪。失った場合、損害が大きいのはどちらか。
そしてその結果、クアットロはクロの首輪を残しておくべきだと判断した。
故に、分解の実験材料にはクロの首輪ではなく、ヴァッシュの首輪を選んだ。
(悪く思わないでくださいねぇ~。本当はこんなことしたくないんですけれど、好奇心が抑えられなくて~)
耳には届かぬ心の声で、調子のいいことを並べるクアットロ。疲労からくる眠気のためか、ヴァッシュは彼女の気配に気付くことができない。
まずは下準備。クアットロは用意したドライバーの他にもう一つ、白い布を取り出しそれを手に巻く。
これは、DG細胞と同じくキャロ・ル・ルシエの支給品から拝借した一品であり、かなりの耐久力を秘めているらしい。
首輪が起爆したとして、その爆発によりネジを回す手が被害を受けてはたまらない。これは、それを防ぐための措置だ。
すぐ側に迫る邪な野心に気付かぬまま、ヴァッシュの身はさらなる窮地へと誘われようとしている。
クアットロが布越しにプラスドライバーを握り、その切っ先をついにヴァッシュの首下に伸ばした。
(無事に解除できたら拍手喝采、万が一爆発しても恨まないでくださいねぇ~。まぁ、爆発するでしょうけど)
心底楽しそうな笑みで、クアットロはごくりと生唾を飲み込む。
切っ先をヴァッシュの首輪に付いたネジの、十字型の溝に嵌め込んだ。
あとは、左に捻るだけ。
左に捻るだけで――どうなるかは、もうすぐわかる。
(さぁ、参りますわよ!)
集中し、クアットロは手に力を込めた。
ドライバーを左に捻り、ネジを回そうとする。
回そうとする……の、だが。
(なっ――ビクともしない!?)
クアットロがどれだけ力んでも、ネジはいっこうに回る気配を見せなかった。
決してクアットロが非力なわけではない。武闘派ではないが、彼女とて戦闘機人の端くれ。
一般女性以上のパワーはあるし、その力でネジがビクともしないなどというのは、考えられなかった。
とすれば、ネジが回らないのは、腕力以外の別の要因が関係していると考えられる。
クアットロはその要因について、ネジと悪戦苦闘しているうちに気付くこととなる。
『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』
「――ッ!?」
瞬間、ヴァッシュの首輪から遠雷のような音声が響き、クアットロは反射的に手を離した。
異変は、その直後に始まった。
「――ぐああああああああああああああああああああああああああっ!?」
眠っていたはずのヴァッシュが、突然弓なりに動き出し、絶叫を上げたのである。
混乱するクアットロの瞳に映ったのは、苦痛に歪むヴァッシュの顔。まるで、拷問でも受けているかのような深刻さだった。
その動きは、蠢動するミミズそのもの。ベッド上で小躍りする姿は、転落してもおかしくないほどの激しさ。
突然の事態に、さすがのクアットロも思考が追いつかない。ただ、苦しむヴァッシュを呆然と見つめるだけだ。
「……ヴァッシュ、さん?」
ヴァッシュの絶叫は十秒ほど続き、やがて糸がぷっつり切れたかのように、またベッドに倒れ込んでしまった。
……数秒間、なにもせず待ってみるが、ヴァッシュが動く気配はない。
さっきまでの異変が嘘だったみたいに、シンと静まり返ってしまった。
恐る恐る、クアットロがヴァッシュに近づいてみる。
その顔を覗いてみる。酷くやつれていた。安眠の状態にあるとは言えないだろう。
脈を計ってみる。心音を確認してみる。どうやら、生きてはいるようだ。
首輪を見てみる。目立った変化は見当たらない。ネジは、やはり寸毫も回ってはいなかった。
(これはいったい……どういうことなのかしら?)
人差し指を口元に添え、クアットロは首を傾げる。
今一度、状況を整理してみよう。
クアットロは、ヴァッシュの首輪の解除を試みた。
結果は、失敗。
その際に下るペナルティは、首輪の爆発だろうと考えていた。
だがその予想は外れ、『螺旋力なき者よ、その愚かさを悔いるがいい』という謎の音声が響く。
そして、ヴァッシュは突如苦しみ出し、気絶してしまった。
以上が、クアットロの行った実験の過程と結果である。
(ふむふむ。なるほどなるほど……これは、おもしろくなってきましたわぁ)
予想外の顛末を迎えた実験。成果は得られなかったが、クアットロは満足気だった。
手に巻いた白布を取りつつ、考察に入る。
まずは、ネジがまったく回らなかった理由について。
これはやはり、クアットロの腕力の問題ではなく、なにかしらの仕掛けによって、回せなくなっていたと考えるべきだろう。
そして、力任せにネジを回そうとしたクアットロを嘲笑うかのごとく轟いた、不気味なメッセージ。
螺旋力なき者よ、その愚かさを悔いるがいい――今思えば、あの音声は螺旋王の声質に似ていた。
本人が首輪に入力したものと見て間違いないだろう。そして、その音声は先ほどのような、解除に失敗した場合にのみ流れる。
このメッセージが、最大のヒントだった。
螺旋力なき者よ――螺旋力なき者とは、首輪の解除を実行しようとした、クアットロのことを差しているのだろう。
その愚かさを悔いるがいい――これについても、首輪が解除できなかった、ネジが回せなかったクアットロに対しての言。
愚かさとは、螺旋力がないという事実を差し、悔いろというのは、ヴァッシュに与えられた制裁を悔いろということだろう。
つまり――『おまえに螺旋力がなかったからネジは回らず、助けようと思った仲間は苦しんだ。馬鹿め』――これが、あの音声の要約。
(な~んて親切なんでしょう。というか螺旋王……これでは、ネジを回す方法を教えているも同然ではありませんこと!?)
螺旋力。やはり、キモはそれだった。
螺旋王のメッセージを要約するならば、『螺旋力がなかったから、ネジが回らなかった』と解釈できる。
逆に考えれば、『螺旋力があれば、ネジは回った』ということでもある。
クアットロにはその螺旋力がないと判断され、ヴァッシュはこの始末だ。
だが、もしネジを回したのがクアットロではなく、放送に出てきた、『螺旋の力に目覚めた少女』であったならばどうか。
恐らくネジは回り、ヴァッシュの首輪は外れていたことだろう。
原理はわからないが、このネジは螺旋力を持つ者が回せば回る。クアットロはそう推理した。
(でもぉ……螺旋王、これはちょ~っと優しすぎるんじゃありませんこと?)
螺旋力を得ることが容易なのかどうかは、現時点ではわからない。
しかし、ネジという解除のための確かな鍵穴を用意し、それに嵌る鍵を参加者が持つことを望むなど、主催者の趣旨としては不可解すぎる。
なにせ、首輪が外れれば参加者は晴れて自由の身だ。会場からの脱出は困難だとしても、禁止エリアに引きこもるなど、殺し合いに反する行為は容易くなる。
それでは、螺旋王の目的である『一人になるまでの殺し合い』が破綻してしまう。
本当にたった一人の勝者が出ることを望むなら、首輪が外れる要因など完全に排除してしまわなければおかしいのだ。
(そう。本当に殺し合いを望むのなら、首輪の解除なんてもってのほか。じゃあ……それが『嘘』だとしたら?)
螺旋王の目的は、殺し合い。82名の参加者がやらされていることも、殺し合い。それが、全て偽りだったとすれば……?
いや、そもそも、螺旋王の目的が殺し合いであるという前提が間違っていたのだ。
開幕の際の説明をよく思い出してみる。螺旋王は、クアットロたちに殺し合いをしてもらうと確かに言った。
だが同時に、こんなことも漏らしていた――優秀な螺旋遺伝子を求めている。これは言わばそのための実験、と。
(実験。そう、つまりはそれ。私たちがやっていることは、端から殺し合いなどではなく、優秀な螺旋遺伝子を選出するための実験だった)
殺し合いは、そのための手段でしかない。クアットロはそう考えたのだ。
殺し合いなどでわかるのは、各々の戦闘能力、知力、体力、演技力、結束力、状況判断能力、精神力等々……その中に、螺旋力に通じるものがあるのかもしれない。
重要なのは、殺し合いという行為ではなく、それよって生じる極限の環境。螺旋力とは、そういった環境でしか育めないものなのだろう。
仮に最後まで生き残った一人が決定したとして、その者が螺旋王の求める優秀な螺旋遺伝子の持ち主かはわからない。
逃げ隠れて運よく最後まで生き延びただけかもしれないし、誰かに守られ続けて最後まで残ることだってあり得る。
トーナメント方式にでもするならともかく、このような誰にでも勝ちが拾えるサバイバルでは、真の一番など選出できはしない。
そして肝心の螺旋力は、そういった極限の環境下ならば、誰にでも齎される可能性があるものなのだろう。
何者かは知らぬが、『幼き少女』というからには、殺し合いに消極的な弱者と推測できる。
そんな少女でも掴み得るもの。それが、螺旋力。その少女こそが、螺旋王の求めに現段階で最も近い人物に違いない。
(ますます興味が湧いてきましたわぁ~。螺旋力に目覚めた幼き少女! ぜひ、私の手で実験したい……)
未知なる力、螺旋力。クアットロは、いつしかその魅力の虜となっていた。
もっと深く、螺旋力を知る必要がある。そしてあわよくば、そのデータをスカリエッティの元に持ち帰ろうとさえ考え始めていた。
殺し合いは建前。その本質は実験。仮に首輪が解除されようとも、殺し合いが破綻しようとも、螺旋王の目的はその時点で達成されたことになる。
螺旋王も、言うなれば科学者の一端なのかもしれない。そう思うと、螺旋王自身にも興味が湧いた。
(接触が図れればいいのですけれど……さすがにそれは無理ですわよねぇ。私は私で、地道に螺旋力の調査を進めるしかありませんわね)
決意を新たにすると、クアットロは脳内でこれからの方針を整理し出した。
螺旋力の究明。螺旋力に目覚めた少女の捜索。螺旋力に目覚める方法の検証。障害となり得る存在は手早く排除。
首輪のネジの秘密は当面隠すつもりだが、これは脱出派にとって有益すぎる情報だ。いざというときは交換材料として使える。
疑心を招くため誰かの荷物に混ぜるのもいいが、ややもったいないか。第一、首輪にネームシールが貼ってあるのでは思惑通りの混乱は狙えまい。
そしてこの男……未だ眠りから覚めぬ、ヴァッシュの処遇について。
(これではもう、黒服を始末させるのは無理そうですわねぇ。あの苦しみようでしたし、いつ目覚めることやら。
で、もぉ……実験材料としては、まだまだ使い道はありますわね。起きたら起きたで、駒として使うだけでしたし)
眠っているうちに始末しておくのもアリかと考えたが、先を見越し、しばらくは放置しておくことに決めた。
と、おもむろに時計を確認すると、短針がもうすぐ北の数字を刺そうとしている。
(あら、もうこんな時間。ちょうどいいですわ。この男は当分目覚めないでしょうし、『苗床』の様子でも見に行きましょうか)
次なる行動を決めると、クアットロは気絶したヴァッシュをベッドに残したまま、民家を後にした。
工具は元の場所に戻し、『Vash the stampede』のネームシールも、元の位置に貼り直してある。
ヴァッシュが目覚めたときのため、少し外に出てくるという置き手紙も残しておいた。
不手際はない。彼はクアットロが自身の首輪で実験をしたなど、露にも思わないことだろう。
――しかし、ここで一つの疑問が残る。
クアットロは首輪の解除に失敗し、ヴァッシュはそのペナルティとして、螺旋王による制裁を受けた。
果たしてその制裁とやらは、本当に所有者を気絶させるだけのものだったのだろうか?
螺旋王は言った。螺旋力なき愚かさを悔いろ、と。
果たして、真に後悔することとなるのは、クアットロか、それともヴァッシュか――
【E-5東部・民家/一日目/昼(放送直前)】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:全身打撲、気絶、???
[装備]:ミリィのスタンガン@トライガン 残弾8、ナイヴズの銃@トライガン(破損)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]基本:絶対に殺し合いを止めさせるし、誰も殺させない。
1:???
2:C-5に向かい、少女(クアットロ)を攻撃した男を止める。
3:ナイヴズの銃は出来るだけ使いたくない。
4:ランサーが次に会ったときに怒ってたら、とりあえず謝り倒しながら逃げる。
[備考]
※クロの持っていた情報をある程度把握しています(クロの世界、はやてとの約束について)。
※首輪の解除に失敗したため、螺旋王による制裁を受け気絶しました。
詳細は不明ですが、目覚めた後なんらかの後遺症が残る可能性があります(ただし、洗脳などヴァッシュの意識を乗っ取る類のものではありません)。
【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:銃撃を受けた左肩がまともに動かない
[装備]:なし
[道具]:暗視スコープ、支給品一式、ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、不明支給品×0~1 、首輪(クロ)
[思考]
基本:勝ち残り、ドクターの元へ生きて帰る。その際、螺旋力に関するデータを持ち帰る。
1:苗床(ロイ)の様子を見に戻る。
2:螺旋力について調べる。また、螺旋力や螺旋王を知る人物を捜し情報を入手する。
3:『螺旋の力に目覚めた幼き少女』を捜す。
4:首輪を分解したい。
5:駒(ヴァッシュ)を使って、黒服の男(ウルフウッド)を始末する。
6:善良な人間の中に紛れ込み、扇動してお互いを殺し合わせる
7:出来る限り自分は肉体労働しない。
[備考]
※支給品はすべて把握しています。
※首輪及び螺旋に関する考察は以下のとおり。
・首輪はネジを回すことで解除できる。ネジを回すには、螺旋力が必要。
・死者から採取した首輪でも、上記の条件は適用される(未検証)。
・シルバーカーテンで首輪の爆弾としての機能を停止できるかもしれない(不安材料が多すぎるため未検証)。
・螺旋力とは、殺し合いのような極限の環境下において、誰にでも目覚める可能性があるもの。
・螺旋王の目的は、あくまでも『実験』。殺し合いはそのための手段でしかない。
【首輪について】
銀色のリング。首の後部に二つの小さな溝があり、その間に所有者の名前が刻まれている。
これは実はシールになっており、見ただけではわかりにくいが、よく触ってみると裏に隠れたネジの窪みがわかる。
シールを剥がすとプラスのネジが隠れており、これを回そうとすると螺旋王の音声が響き、所有者に謎の苦痛を与え気絶させる。
クアットロの推理どおり、このネジを回す方法に螺旋力が関係あるかどうかは不明。
また解除に失敗した場合、どういった方法で所有者を気絶させたのかも不明。その後の影響も一切不明。
【ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!】
ガッシュの兄、ゼオンのマント。色は白。
とても高価な魔界の布でできており、胸元のブローチが健在な限り、破損しても自動で修復する。
また、布生地自体が相当な耐久力を持っており、よく伸びる。
訓練し使いこなせるようになれば、自由に操れるようにもなる。飛行も可能。
ガッシュも同じものを持っているが、本人はその性能を知らず、扱い方もまったく知らない。
*時系列順で読む
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