「くずれゆく……」(2023/07/24 (月) 14:27:39) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**くずれゆく…… ◆10fcvoEbko
「……言ったろう、スザクくん。その矛盾が、いつか君を殺すってね」
放送で枢木スザクの名を告げられたとき、ロイド・アスプルンドはそう呟いた。
真剣な面持ちである。今まで取り続けてきたような躁病的な軽い雰囲気は消え去っている。
ロイドはスザクが何故死んだかは知らない。
だが正義感が人の二倍も三倍も強い彼のこと、ここに来ても変わらず誰かのため に行動し、死んだのだろう。
人の死を嫌いながら死に近い場所にいようとする矛盾を抱えながら。
(結構強そうに見えたアニタくんもそうそうに脱落。
ジェレミア卿だって失脚してからは散々だけど、無能って訳じゃあない。
こりゃあ、ぼくなんかはうかうかしてらんないかなぁ?)
たとえ相手がかよわい女の子だったとしても、殺意を持って襲い掛かられればおめおめと殺される自信がある。
銃を持ってはいるが、荒事は苦手だし、多少でも心得のあるものには通用しないだろう。
(死んじゃうのは勘弁だなぁ。
ここにはまだいろいろ面白いものがいっぱいあるだろうし、シンヤ君の持ってくる首輪はぜひ解析したい。
まぁ、駄目なときはそれまでだろうけどね)
退廃的なことを考えながら廊下をうろつく。放送は既に終了していた。
熱心にいじっていた携帯電話は、放送が開始されたのにあわせてデイパックの中に戻した。
ふらふらと、校舎内を彷徨い歩き、黒板を見て回った。
『いいですとも!』
『2月2日』
『あんたの思った通りだよ、諸岡さん』
びっしりと書き込まれた黒板の落書きは結構な量だが、別に覚えきれない程ではない。
幾つ目かの教室を見終わり次の教室への移動中、ロイドはある教室の名前に目を留めた。
(んん?何か、新しい発見があるかなぁ?)
好奇心が抑えきれない、といった様子でにんまり笑う。
ロイドは鼻歌混じりに、足早にその教室の中へと入っていった。
その教室の名を示すプレートには「理科準備室」と記されていた。
◇
何故だが勝手に流れていた涙がひとまず止まり、それが完全に乾ききった頃に鴇羽舞衣は学校に辿り着いた。
体中にこびりついた血は臭いがつくのがいやだったので途中できる限り拭った。
重たい足取りで校庭に踏み入る。
その心中もまた、重く沈んだ虚ろな状態であった。
思考をできるかぎり単純化することで、何とか精神の均衡を保っている。
出会った人を殺し、大切なものを奪う。
今まで散々自分がされてきたことを、今度は自分がする側へと回るのだ。
それが正しいのだ、当然のことなのだと思う。思い込もうとする。
そうすればする程涙が溢れてくるのは奇妙だったが、その理由を考えるのが面倒くさくなる頃に涙は止まった。
おかけで、今は邪魔されることなく思考に集中できる。
ひとまずはエレメントの代わりとなるような武器の調達だ。目的地に学校を選んだ理由でもある。
調理実習室に行けば包丁程度の刃物ならば入手できるだろう。
包丁。
そういえば巧海や命にはよくご飯を作ってあげた。
特に命は舞衣のご飯はおいしいっていつもとても嬉しそうに言っていた。
そんなことを、思い出した。
奪われていったもののことなど、もうどうでもいいのに。
舞衣は心底うっとおしげに頭を振って、心中に浮かんだものを振り払った。
そうしたら、顔を上げた際に一つの教室が目に留まった。
校庭から眺める限り、どこもかしこも人のいる様子のない校舎だが、その教室にだけは人影が見えた。
よく目を凝らすと、ひょろひょろとした眼鏡をかけた男が、何か作業をしている。
へらへら笑いながら手を動かす様は、いかにも理系のもやしっ子という感じで、武器を持っている可能性はあるにせよ当人はとても強そうには見えない。
最初に殺すのはあいつでいいか、と舞衣は思った。
善良な人間のふりして接触してみて、隙を見て殺そう。
ついでに持ち物も奪ってしまおう。
光沢を失った瞳の奥でそのようなことを考えながら、舞衣は校舎の中へと姿を消した。
◇
「おいおいおいおいおいおいおい!
俺ってば今空飛んじゃってるよ!何でだろうなぁ、どうしてこんなことになってんだろうなぁ!おい!!
つーか何だこの乗り物はよぉ!羽虫かっつーの!あと、羽が近ぇよ!どっか切っちまったらどうしてくれんだっての!」
頭上で喚くラッド・ルッソの声を聞き流しながら、東方不敗マスターアジアは思案していた。
「そんときゃもちろん俺がぶち切れるんだけどなぁ!あぁ!?何か今上手いこと言っちまったかぁ!?
つーか、ジジィ!手前ぇ、俺が気持ち良く人殺しやってる真っ最中に邪魔してくれるたぁ、どういうつもりだぁ!?
おかげでこっちは鬱憤がたまりまくってんだけどなぁ!?」
この男は野に放っても問題あるまい。
自らの欲望のままに闘争を繰り返すこの男なら、赴いた先々で混沌の種となるだろう。
「ていうかあんた何?何でそんな細い糸指でつまむだけでぶら下がってられんの?
せめて手に巻き付けるぐらいはしなきゃ駄目だろぉ!普通はよぉ!」
となればこれ以上ここで時間を浪費する必要はない。
再び地に降り立ち、争乱の火種を求めて駆け回らなければならない。
武道家の血をたぎらす猛者がいれば、手合わせするのも良いだろう。
しかし、と白髪交じりの弁髪を風に踊らせながら、東方不敗は市街地を見下ろす。
ちなみに、弁髪はお下げ部分以外の毛髪を剃り落とすのが正しいスタイルであり、東方不敗のそれを弁髪と呼ぶのは不正確なのだが、そんなことはどうでもいい。
「無視かよ!
ところでなぁ!俺ってば段々分かってきちまったよ!
つまりこのレバーを動かしゃ、この羽虫を俺の好きに動かせるってことなんだよなぁ!?」
それ程の距離を移動してきた訳ではない。判断を下すにはまだ早いかも知れない。
だが、川を一本越えてからというものぱったりと人影が途絶えていたのもまた事実だった。
やはり、より多くの人物と出会うためには人の集まりやすい施設などを狙うのが得策か。このまま人が見つからないのであればしばし休息するのも一案。
東方不敗がそのように考えたとき、フラップターが学校らしき建物の上空に差し掛かった。
「ほらこうすりゃ右だろ、んでもって左!
おいおい、俺ってばもう乗りこなしちゃったよ!
これって結構すげぇんじゃねぇの!?やっぱ才能ってやつかぁ!」
そして、その校庭を歩く一人の少女を発見したとき、東方不敗の口元が怪しく歪んだ。
絶望の淵に生きる幽鬼の如き雰囲気を纏いながら歩く少女。
そこに、東方不敗は己が目的達成の一助となる可能性の芽を見出した。
「まぁそれはそれとしてだ!
かくして俺は自由にこいつを動かせるようになっちまったって訳だぁ!
こいつの意味が分かるかぁ!?」
だが、弛まぬ修業と長年の人生経験で鍛えぬかれた東方不敗の眼力は、同時にその少女の奥底に未だ燻る迷いをも見て取った。
そして、それが今にも消えそうなほどに弱弱しくなりつつも、確かにその娘を支えているということも。
ならば、最後の一押しをしなければなるまい。
「つまり、俺がむかついちまってどうしようもねぇ手前ぇを、じっくり上からなぶり殺しにすることができるように……って何でいなくなってんのぉ!?
この高さから飛び降りるとかマジありえねぇっての!ヒャーハハッハッハッハ!」
ラッドの高笑いが響く中、フラップタ-から延びる金属糸が、風を受け激しく揺れ動いていた。
◇
舞衣は調理室で苦もなく包丁を入手することができた。
何本か見比べ、鞘つきで一番切れ味の良さそうなものを選ぶと、スカートの背中に差し挟んだ。
調理室の黒板はよく分からないいたずら書きで埋め尽くされていた。
『我の拳は神の息吹!』
『“堕ちたる種子”を開花させ、秘めたる力をつむぎ出す!!』
『美しき
滅びの母の力を!』
そんな言葉が目についた。
「……わっけ分かんない」
掃除くらいちゃんとしなさいよね、そうとだけ言って舞衣は調理室を後にした。
首尾よく調理室で包丁を手に入れ、男のいる教室を目指す。
「いらっしゃいまぁせぇ」
教室の扉を開けた舞衣を出迎えたのは、そんな言葉だった。
「あぁ、そんなあからさまに警戒した顔されると傷つくなぁ。
僕はロイド・アスプルンドっていいます。殺し合いをするつもりはないよ?
女性の扱いは心得てるつもりなので、リラックスしてもらって構わないよ」
「ああ…いや…」
甲高い声と調子っぱずれの抑揚でまくしたてる男、ロイドに舞衣は生返事を返すことしかできなかった。
ロイドが言うような警戒した顔をしていたつもりはない。
扉を開ける前にできるだけ平静を装えるように、心の準備は済ました。
舞衣は教室に入ってすぐ視界に飛び込んできた、部屋のあまりに雑然とした様子に思わず目的も忘れて息をのんでしまっただけである。
教室には大きな長机が一つと、左右に棚が一つずつ置かれている。
しかし、器具や薬品の保管用と思われる棚は空っぽであり、そこに収められていたと思われる物達は現在、机の上といわず床のあちらこちらにまで、無節操に展開していた。
足の踏み場は何とか残されているが、気を付けないと危険な薬品をぶちまけかねない。
そして、ロイドと名乗った男はそんな部屋の中で悠々と椅子に腰掛け、火を灯したアルコールランプで焙ったパンを口に運んでいた。
「ああ、失礼。食事しながらっていうのが気に障っちゃったのかなぁ?
それなら申し訳ないけど、いきなり部屋に入ってきたのは君だしこの件に関してはそっちが折れてくれるとありがたいなぁ。
ま、何にせよすぐに済ませます」
言葉の通りにパンを食べきり、ランプの火を消す。
「い、いや、それはいいんだけど。この部屋って全部あなたが…?」
舞衣はあきれ顔で部屋を見回した。
誰にいつ襲われるかも分からないこの状況下で、この男はずっと、珍しくもない理科室の道具達をひっぺがえしていたというのだろうか。
普通の神経では考えられないが、ロイドの締まりのないにへら顔を見ているとありえなくもない、と思えてしまう。
「いや~お恥ずかしい。ちょっとした捜し物のつもりだったんだけどねぇ。
いつの間にか止まらなくなっちゃって」
「捜し物って…そのアルコールランプのこと?」
「んんん。まぁ、そんなとこだねぇ」
何を考えているのか分からない。
舞衣はロイドとの会話で毒気を抜かれそうになっていることに気が付いた。
落ち着け、と心中で喝を入れる。
おかしな男だが状況もろくに分かっていないただの馬鹿だ。襲い掛かれば今すぐにでも命を奪うことができる。
「ちょおっと待ってねぇ、その辺どかすから。
これだけ散らかしてちゃ、座ってって言っても無理だよねぇ」
「ええ…ありがとう。名前、まだ言ってなかったわ。鴇羽舞衣よ」
「舞衣くんだねぇ。りょ~かい」
ロイドは慣れた手つきで床に散らばっている瓶や実験用具などをほいほい片付けている。
顔は下を向いており、舞衣は視界に入っていない。
今なら、と舞衣は思った。
だが、舞衣が背中に手を伸ばしかけたとき、ロイドはそれを察したかのようなタイミングでひょいと顔を上げた。
そして、奇妙なことを言った。
「一つ言い忘れてた。
断っておくけど僕はイレヴンに対して差別的な感情は別に持ってないからね。
大切なのはそれが僕にとって興味深いかどうか。その前には全ての物事は平等なんです」
「…はいぃ?イレヴン…って何?」
「イレヴンを知らない?本当に?それは…実に面白いねぇ!」
「うぇっ!?」
舞衣の発言のどこに興味をひかれたのか嬉々とした表情でロイドが迫ってきた。
目に宿るあやしげな光が、そこはかとなく怖い。
舞衣は思わず、包丁に伸ばし掛けた手を戻し、身を庇っていた。
「君日本人でしょう?イレヴンが何か分からないなんてありえないなぁ。
でもそれが真実だとすると…あ~、想像が膨らむなぁ。
ちらっとはそういう可能性も考えてたけど。シンヤくんにも聞いておけば良かったなぁ。うふふ」
訳の分からないことを言いながら、一人で身悶えしている。
舞衣は軽く引きながらも、ロイドの注意がそれた今がチャンス、と慎重に手を後ろに回そうとした。
しかし。
「おぉほっ!」
「ひいぃ!」
奇声を上げて飛び付いてきたロイドにその手を掴まれてしまった。
気付かれたかという焦りと生理的嫌悪感が合わさってもの凄く気持ち悪い。
しかし、ロイドはそのまま何をするでもなく、好奇心に満ちた気色の悪い視線を舞衣の手に注いでいる。
どうやら殺そうとしているのに気付かれた訳ではないらしい。
「…この指輪、見せてもらえる?」
「へ?」
一瞬何のことを言われているのか分からず、少ししてから支給品の指輪をはめっ放しにしていたことを思い出した。
「どうかな?僕にとっては君の話と同じくらい興味があるんだけど。
これは君の私物?」
「し、支給品よ。ちょっと待って、今外すから」
どうせこの状況ではただの指輪になど何の価値もない。
舞衣は手を振り払い、残った感触に寒気を覚えながら指輪を外してロイドに渡した。
眼鏡を外し興味津々と言った様子で指輪の観察を始めたロイドに言う。
「そんなに珍しい?ただの指輪でしょう」
「ただの指輪?馬鹿言っちゃいけない。
詳しく解析してみないとはっきりしたことは言えないがおそらくこの指輪は、宝石部分まで含めて僕が知っているどの材質とも、違う」
「ふ~ん…」
舞衣は興味のなさを隠しもせず、気の抜けた返事をした。
舞衣の思考は今、全く別のところに向いていた。
ロイドが、指輪の観察に熱中するあまり、舞衣に背中を向けている。
自分の指にすぽすぽ指輪をはめてみたり、相変わらずよく分からない男だが、がら空きの背中は舞衣に、突き刺して下さいと言っているように見えた。
ゆっくりと包丁を取り出し、構える。
即死させられなくてもいい。どうせこの校舎に他に人はいない。
泣き叫ばれたなら、叫び声もあげられなくなるまで刺し続ければいいだけの話だ。
奪われる側でいるのはもう御免だと、自らを鼓舞する。
舞衣は、背を向けたままぶつぶつと何事か呟いているロイドに向けて一歩足を踏み出した。
息が荒くなるのを自覚した瞬間、腰溜めに構えた包丁を一気に突き出そうと足に力を入れ、
「ざぁんねんでした」
くるりと振り返ったロイドが放り投げた何かによって突進を阻まれた。
舞衣が認識できたのは自分の額に何か固いものがぶつかったことと、振り向いたロイドが相変わらず気持ちの悪いスマイルを浮かべつつ、目だけはしっかりと覆い隠していることの二つだけだった。
次の瞬間、舞衣の目の前で閃光が放たれた。
「あ…あぁぁぁあ!!」
突如放たれたまばゆい光をまともに目にくらってしまい、舞衣は視界を奪われた。
かちかち明滅する暗闇の中にロイドの声が響く。
「簡単な閃光弾だよ。マグネシウムの燃焼ってやつだね。
お粗末なつくりで申し訳ないが、生憎この部屋にあるものは色々けちられていてそれが精一杯なんだぁ。
この場合は結果オーライかな?
勝手に反応が開始しないようにする工夫が、一番苦心した点です」
「うるさいうるさい!何なのよぉ!あんたも!あんたもそうやって私を…!」
耳障りな声のする方向を頼りに、半狂乱になりながら滅茶苦茶に包丁を振り回す。
だが手応えはなく、包丁は何かに中途半端に食い込んだ拍子に手からすっぽ抜けた。
舞衣はバランスを崩し、前のめりに転倒した。
床に散乱している物にぶつかりがちゃがちゃとやかましい音をたてる。硬い物が顎を打った。
「何があったかは知らないが、あれだけ死んだ目をしていれば誰だって警戒するよ。次からは改めることをお薦めする。
あ、君の話やこの指輪に興味があるのは本当だから、これちょっと貸してもらうよぉ。じゃあね、さよぉ~なら~」
「殺してやる!あんたなんか絶対殺してやる!!」
遠ざかっていく声に、舞衣は倒れ伏したまま、ありったけの憎しみを込めて叫んだ。
ロイドが自分でお粗末なつくりと言っていたとおり、視力が回復するのにそれ程の時間はかからなかった。
完全に回復するまで待って、舞衣はのっそりと身を起こした。
辺りを見回す。ロイドの言ったままの、死んだ魚のような目をしながら。
ロイドの姿はもうどこにも見えない。
教室の床に割れた瓶の破片が散らばっている。
破片の一つが肩口を傷つけ、浅く血が流れていた。
おぼつかない足取りで教室を出て、そのまま校舎の入り口まで戻る。
包丁は回収しなかった。
何だかそれが、とても惨めなものに思えたので。
「う…う…うぅ」
込み上げてくる嗚咽が抑えきれなくなって、舞衣はグラウンドの土に倒れこんだ。
情けなさに涙が出てくる。
「どうしろって…言うのよぉ…」
武器となるエレメントが出せなくなり、それでも加害者の側に回ることを決意した。
だが、実際は妙な男のペースにはめられ、まんまと出し抜かれている。
指輪も持ち逃げされてしまった。
所詮、忌まわしいHiMEの力に頼らなければ自分は何もできないのだと、舞衣は思った。
何の力も持たない、小娘に過ぎない。
「もう…駄目かも、私」
どうしていいか分からなくなって、呟いた。
このままずっとここで寝転んでいようかとさえ思う。
「エレメントも無しに、何も出来る訳…ないじゃない…!」」
「ならば、ワシが代わりの力をくれてやろうか?」
「…え?」
突如として声が響いた。
左右を見渡してみても誰もいない。
「どこを見ておる。ワシはここだ。ここにおる」
「ここって…はいぃ!?」
声をたどった先で目に入ったものを見て、舞衣は驚愕した。
校庭に建てられた二宮金次郎の銅像。
読書に励む少年を模したその銅像の頭上で、がっしりした体格の初老の男が腕を組み、直立不動の姿勢で佇んでいた。
その眼光は鋭く、射貫くような視線で舞衣を見据えている。
大真面目な顔をして銅像の頭上から舞衣を見下ろす男、という光景はともすれば滑稽に思われかねないものだったが、そのような感想など吹き飛ばし、これでいいのだと思えるような威厳がその男からは発せられていた。
「な、何…アンタ?」
疲れ切った舞衣の精神では、そう聞くのが精一杯だった。
「ワシの名は東方不敗マスターアジア。娘よ、随分と荒れておるようだな?」
「何言って…」
「力が欲しくはないかと問うておるのよ。つぇい!」
気合いとともに東方不敗を名乗る男はデイパックから何かを取り出した。
だがそれは、水や食料のように簡単に出てきた訳ではない。
明らかにデイパックの容量を十数倍はオーバーしているであろう物体が、たっぷり十秒程の時間をかけて舞衣の眼前にその姿を現したのである。
引きずりだされたものが、ずしんと重たい音を響かせて、グラウンドに足を下ろす。
「ロ、ロボット…?」
舞衣がそれに対してまず抱いた印象は、そのようなものだった。
白を基調にした武骨なフォルム。
人型でありながらも、その体躯は舞衣よりも二回りも三回りも巨大である。
右肩から、砲身が一門突き出されている。
それは、舞衣がテレビの中で見た、所謂戦闘ロボットと呼ばれるもの達に極めてよく似ていた。
「ソルテッカマン一号機という。ワシの支給品よ。これをお主にくれてやろう」
「ソル、テッカマン…?」
HiME同士の戦いの中ではまるで機械のように金属質なチャイルドもいた。
だが舞衣の知るチャイルドはどれも動物のような形状をしており、ソルテッカマンと呼ばれたもののように人型をしているものなど見たことがない。
にも関わらず、そのフォルムを見て舞衣はある記憶を連想していた。それも、つい最近の記憶である。
「ふん、最初に螺旋王によって爆破されたあの馬鹿者を思い出しおったか。
マニュアルによると、これは奴らのような生物を模して作った機械だとか。
つまりは、この機械は奴らに準ずる性能を持っておるということ。
奴の放った光線の威力はお主も見たであろう?
螺旋王には通じずとも、人の身には過ぎた力であることに変わりはない」
「人には過ぎた力…」
さっきの男に負けず劣らず奇妙であるはずの東方不敗の言葉は、不思議な程にすんなり舞衣の精神に染み込んでいった。
「そうだ。この力があれば並大抵の者に遅れをとることはあるまい。
それを貴様にくれてやろうと言うのだ」
「何でそんなこと…て、ていうかいきなりこんなもの渡されても使える訳ないじゃない!」
「ふん!」
舞衣の理性が行った精一杯の反論は、東方不敗が放った裂帛の気合いにかき消された。
気迫と共に投げ付けられたものが舞衣の目の前の地面に突き刺さる。
それは数枚の紙束だった。ただの紙でしかないはずのそれらが、固いグラウンドの土に深々と突き刺さっていた。
「マニュアルだ。読めい。
これをワシに与えた螺旋王もその辺りのことは考えておるようでな。
全くの素人でも問題なく扱えるように、操縦系統はかなり簡略化されておる。
最初の質問にも答えておこうか。まずこのような物はワシにとっては無用の長物。
そしてワシが望むのは戦乱、ただそれのみよ。
貴様のように他人を蹴落とそうと狙う者が多ければ多い程、ワシにとっては都合がよい」
「これに乗れば…私でも戦えるってこと…?」
降って湧いたように目の前に提示された、戦うための力は蠱惑的な魅力で以って舞衣を誘っている。
その誘いに乗ることはとても簡単で、そして魅惑的であるように舞衣には思えた。
東方不敗の言うとおり、一度乗ってしまえば手足のように動かせる仕組みになっているらしい。
かなり高機動で動くようだが、そのような戦闘を舞衣は経験済みだった。
熱にうなされたような顔でマニュアルをめくる舞衣の心は、着実に一定の方向に傾いて行った。
もはや乗ることを決意したのも同然の様子である舞衣を見て、東方不敗は満足気に笑う。
そして、最後の一押しと言うかのように口を開いた。
「さっき貴様が取り逃がした男だがな。北の方角へ逃げていきおったぞ」
はっとしたように舞衣が顔をあげた。その目はどうしてそのことを知っているのかと言っている。
「お主達のやりとりは一部始終見させて貰った。
お主があの男を取り逃がすところまで含めてなぁ。
おそらくは今頃どこぞの民家にでも身を隠しておろう。
このソルテッカマンでも用いねば、見つけだすのは不可能の一語に尽きる。
だが逆に、これを使えば奴を葬り去ることなど赤子の手を捻るも同じことよ」
東方不敗がソルテッカマンに顔を向ける。
それにつられて、舞衣もまた同じように視線を移した。
白亜に輝く巨体を見ていると、それに乗って戦う姿が不思議なくらい自然に想像できた。
這うように、ソルテッカマンの前に進み出る。
そんな舞衣の目の前に、東方不敗が降り立ち手を差し伸べた。
「どうした?何を迷うことがある。
ワシらの利害は一致しておる。お主はこれを用いて破壊の限りを尽くせばよい。
それこそ、お主が本当に望んでいたことであろう。
ワシの手を取れ。そして揺るぎない力を手に入れるのだ」
泥に汚れ涙も枯れ果てた顔を起こしながら。
舞衣は、自らの手を東方不敗の手に重ねた。
◇
舞衣の手を逃れたロイドは、学校の北側から市街地を抜け川べりにたどりついたところで、足を止めて息を吐いた。
「追いかけてはこないみたいだね。いや~、あぶなかったぁ」
背後を確認しながら言う。
手に舞衣に投げ付けたものと同形の、瓶型の手製閃光弾を持っている。
その指には舞衣から拝借した指輪がはめられていた。
「早速役にたったねぇ。残り一個になっちゃったけど」
手のひらで多少もて遊び、手製の閃光弾をデイパックに戻す。
ロイドは理科準備室に入ってからずっと、護身用の武器の調合をしていた。
あわよくば未知の物質を、という期待もないではなかったが、残念ながらそういったものは発見できなかった。
それどころか、そう簡単に爆弾などの強力な武器は作らせないという意図か、理科準備室と名乗りながらそこにはろくなものが置かれていなかった。
そのため、部屋にあるものとロイドの知識、技術を用いても粗悪な閃光弾を二つ作るのが限度だった。
そのうちの一つは早くも失われてしまった。
「良く頑張った方だとは思うけどねぇ?んふふ、あの子結構本気で面食らってたなぁ」
携帯電話からの情報で、ロイドは部屋に入ってきた人物が鴾羽舞衣という名前だと気付いていた。
相手の名乗るに任せていたのは扉を開けたときの舞衣のただならぬ表情――本人は隠しているつもりのようだったが――を見て変な刺激を与えるのはまずいと判断したためだ。
「ん~それにしても困ったなぁ。
できればシンヤくんが帰ってくるまで学校にいたかったんだけどなぁ。まだあの子近くにいるよねぇ。
今戻ったら今度こそ殺されちゃうよぉ、僕ぅ。いや~すんごく怒ってたもんなぁ、あの子」
軽い調子で笑う。いたずらが成功したことを喜ぶ子供のようだった。
シンヤとの合流を優先し、しばらく指輪の観察でもして時間を潰してから学校に戻るかと、ロイドが考え歩きだそうとしたとき、
「おい、あんた!」
何やら必死な声に呼び止められた。
声のした方を向くと、どういう訳か全身ずぶ乗れの少年が声の印象と違わぬ必死の形相でこちらに駆け寄ってきていた。
けがをしているのか歩き方がどこかぎこちなく、速度はそれ程ではない。
衛宮士郎、とロイドはその僅かな時間に携帯電話が表示した名前を思い出していた。
「おい、あんた、教えてくれ。ここは地図のどのあたりなんだっ!
早く戻らないと玖我が、う…!」
掴み掛からんばかりの勢いでまくしたてたかと思うと、突然頭を押さえて崩れ落ちる。
軽い脳震盪、とロイドは当たりを付けた。
よく見れば肩には銃創がある。手当てをした様子はない。
結構大変な体験してきたところらしい。
「まぁまぁ落ち着いて。ひどいけがだね、君。そこの川を泳いできたの?頑張ったねぇ。
ここはB-6エリアの真ん中あたりだよ。
僕はロイド・アスプルンド。君はお名前聞かせてくれないのかなぁ?」
少年の様子から危険人物ではないと判断したロイドはとりあえず少年を落ち着かせるようと既に知っていることを敢えて隠して名前を尋ねた。
パニックに付き合わされて無駄に時間を使ってしまってはたまらない。
「あ、あぁ悪い。俺は衛宮士郎…ってB-6!?
くそ、結構流されちまった。急いで助けに戻らないと」
「あら?もう行っちゃうの?まぁ、止めないけど。
でもその傷の応急処置と、ふらふらの足が回復するくらいの休憩をとった方が移動するにはかえって効率がいいと思うよ?」
「そんなことしてられるかっ!玖我…俺の知り合いが襲われてるんだぞ!」
めまいを起こしてふらつく体を無理やりひきずりながら、ロイドを怒鳴り付けてくる。
自分のことを完全に度外視して他人のために奔走する姿は、一瞬だけロイドにスザクの姿を思い出させた。
すぐに、その考えを否定する。
(違うね。スザクくんとは違う。
正義感が強いと言っても、この子のそれからはもう少し破滅的なものが含まれている)
未だロイドが殺人者であるか確かめようとしないのもそのせいか、とロイドは推測した。
それが合っているか気になったので聞いてみることにした。
「ところで君さぁ。
僕が人殺しで自分が襲われるかもとかそういう可能性は考えなかったのかい?」
士郎はやはりろくに移動できず、すぐ先の電柱にもたれかかり、肩で激しく呼吸していた。
さすがにしばらく歩くのを断念したのか、そのままずるずると座り込む。
そして、顔だけをロイドに向けて質問に答えた。
「あ…うっかりしてた。
あんた、そうなのか?そりゃあ、その、ちょっと、困るっていうか…」
「うっかりときたか!あ~っははははは!」
予想外といえば予想外の答えにロイドは大爆笑した。それを見た少年の表情が憮然としたものに変わる。
「何だ違うのかよ。ていうかそんな笑うとこじゃないだろ」
「いやいやいや!君が自分の安全なんてものにまるで価値を感じちゃいないてことが分かって可笑しくってねぇ。
気に障ったなら謝ります。あっはっはっは!」
「何か前にもそんなこと言われたような…。ん、あんた…その指輪!」
なおも笑い続けようとしたロイドを、士郎の真剣な声が止めた。
少年はロイドの手をつかみ、指にはめられた指輪を食い入るように見つめている。
それは先程ロイドが舞衣に対してしたことと全く同じだった。
こんなこと自分はしてたのかこりゃあ気持ち悪いなぁ、とロイドは思った。
「魔術礼装だ…!あんた魔術士だったのか!
魔術が使えるんなら心強い、あんた、玖我を助けるのに協力して…」
「なになになになぁ~んだってぇっ!?
今とっても気になる単語が聞こえたんだけどぉ~!」
「いぃっ!?」
士郎の言葉を完全に遮って、ロイドはぐいと顔を近付けた。
多少引かれたようだ構いはしない。
ロイドは一瞬で指輪を抜き取ると、何か知っている様子である士郎の手に握りこませた。
「君はこれが何なのか知ってるみたいだねぇ。
是非とも詳しく聞かせてもらいたいなぁ。今魔術って言った?」
「だから魔術礼装…ってもしかしたこれあんたのじゃなくて支給品か何かか?じゃあ何も知らずに身につけてたって訳か」
「おう!俺も聞かせて貰いてぇことがあるんだがよぉ!」
「まぁ、僕のだと思ってくれ構わないよ。それで?『魔術礼装』って何?」
「魔術士が使う魔術をサポートする道具みたいなもので…そうか、あんた魔術士じゃなかったのか。ぬか喜びだ」
「趣味の悪ぃ紫色の服着た、俺が殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてたまんねぇジジィがこの辺にいるはずなんだがぁ!」
「んっふふぅ。『魔術』という言葉がさも常識であるかのような口振りだねぇ。
その指輪だけじゃなく、君自身にも興味がわいてきたよぉ」
「いや近い!顔近いから!何も見えないから!」
「ああ!あとそういや女みてぇに長いお下げをしてたっけなぁ!」
「是が非でも話を聞きたいなぁ。君の知ってることを洗いざらい全部、ねぇ?」
「いや目ぇ!目ぇ恐いから!顔笑ってるけど目が笑ってないから!」
「アンタらぁ!あのクソジジィがどこにいるか知らねぇか!?」
「うるさいな。その人ならこの道を東に五千メートル程歩いたところにいましたよ」
「そうか!サンキューな!」
ロイドはいつの間にか割り込んでいた声に無意識にかつてない程不機嫌な声で答えた。
去っていく気配に満足し、再び尋問を始めようと冷や汗をかく少年に顔を近付け、
「…ってぇ、んな訳ねぇだろうがあああああああ!!」
何ものかが投げ付けたデイパックに弾き飛ばされた。
「あっら~~!?」
ロイドは軽やかに吹っ飛び、コンクリートの地面に強かにその身を打ち付けた。
起き上がる間もなく、近寄ってきた乱暴な足音に胸ぐらを引きずり起こされる。
「あのジジィがいなくなったのはこっから南だっつ-の!適当な返事するにも程があるんじゃねえのぉ!
せっかく俺がぶち切れつつも着地が上手いこといってちょっと上機嫌になってたってぇのに、アンタ何水差してくれちゃってんのぉ!?」
はち切れんばかりの怒りを顔中に漲らせ、ぐいと顔を突き出してくる。
それは先程ロイドが士郎に対してしたことと大体同じだった。
こんなこと自分はしてたのかこりゃあ気持ち悪いなぁ、とロイドは思った。
すぐそばでは、少年が助かった、と呟いていた。
「あれ、僕そんなこと言ったかなぁ?
…ごめん、覚えてない」
ラッド・ルッソ、と男の顔を見ると同時に携帯電話の情報を思い出した。
ラッドはロイドの答えがえらく気に入らないようだった。
「よぉ-し分かったぁ!まず手前ぇからぶっ殺す!
あのジジィのために取っとくつもりだったが、手前ぇのおかげで少しぐらい使ってもお釣りが出るぐらいに俺の殺る気は今最高潮だ!
つーわけで死ね!今すぐ死ね!」
「ちょ、ちょっと待て!いくら何でもやりすぎだ!」
本気で殺すつもりで殴ろうと腕を振りかぶったラッドを見て、士郎が慌てて止めに入った。
抱き抱えるようにしてラッドの剛腕を押さえ込む。
「ああ!?何なのお前?何かこいつといい感じになってたみたいだけどぉ!?」
「どこをどう見たらそうなる!いいからその手を放せ!」
「放すよぉ!
つ-か、今から俺がこいつをぼこってぼこってぼこってぼっこぼこにするからよぉ!?
最終的に持つとこ無くなって自然に放れるんだけどなぁ!?」
「無茶苦茶言うなって!?ああもう、こんなことしてる場合じゃないってのに…!」
「あの~…すみません…くび、しまってます。…先にそっちで死んじゃいそう…ぼく」
息も絶え絶えのロイドの訴えは、二人の耳には届かなかった。
「ああああああ!!もう面倒くせええええぇぇぇ!!」
そして、ついに業を煮やしたラッドが、腕に士郎をぶら下げたままロイドを殴り付けようとした次の瞬間。
三人から最も近い位置にある民家が、跡形もなく消し飛んだ。
「あぁん!?」
「何だぁ!?」
「KMF…いや、違う…!」
爆風が轟く中、三人が三様の言葉を発する。
熱波が吹き荒れ、降り注ぐ火の粉がたちまち3人の額に汗を浮かび上がらせた。
びりびりとした振動が、大地を揺らした。
そして、それらが収まると同時に三人の周囲を、太陽が消え去ったかのような黒い影が覆った。
静かに、全く同じタイミングでそれぞれ顔を上げる。
三人の正面には、数階建ての鉄筋のビルがあった。
その屋上。
日の光を遮るように、白い威容を誇る巨体が、三人を見下ろしていた。
肩に設置された砲身が真っ直ぐ三人に向けられていた。
「おいおい、マジかよ。あんなのもいちゃうわけ?」
「ロ…ボット…?まさか…」
呆然とする士郎とにやつきながらも未だに手を放してくれないラッド。
二人の対照的な表情を見ながら。
ロイドはぽりぽりとこめかみを掻いて、言った。
「もしかして、僕達だぁいピンチぃ?」
◇
「…うん。射撃はまだあんまり上手くいかないな」
ソルテッカマンのコックピットの中で、舞衣は一人呟いた。
舞衣にソルテッカマンを授けた後、東方不敗をはどこかへ去っていった。
計器類の放つ淡い光しかないその場所で、舞衣はこれまでにない安堵を感じていた。
これで、もう何も奪われずに済む。
これで、全てを焼き尽くすことができる。
これで、絶望を感じずにいることができる。
「カグツチは出せないんだから…代わり、頼むわよ」
沈みきった声で、乗機に対し言う。
舞衣は静かに照準を眼下の男たちに定めた。
中心にいるのは、にやけ顔のあの男。
忌々しい、ロイド・アスプルンド。
ぎっ、と音が鳴るほど強く歯を食いしばりながら、舞衣はレーザーライフルを発射した。
たとえ涙を流したとしても、鋼の鎧の中では誰にも見えはしなかった。
【B-6左の川沿い/一日目/昼】
【ロイド・アスプルンド@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式、携帯電話、 閃光弾×1
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:シンヤと会うために学校に戻る。
2:士郎の話に強い興味
3:携帯電話をもっと詳しく調べてみる。
4:シンヤが持ってくる首輪を分解してみる。
【携帯電話】
①全参加者の画像データ閲覧可能。
②地図にのっている特定の場所への電話番号が記録されている(どの施設の番号が登録されているのかは不明)。
全参加者の現在位置表示システム搭載。ただしパスワード解除必須。現在判明したのはロイドの位置のみ。
パスワードは参加者に最初に支給されていたランダムアイテムの『正式名称』。複数回答の可能性あり?
それ以外の機能に関しては詳細不明。
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
予備マガジン(超電導ライフル専用弾5/5)×4@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式(ランダム支給品0~1を含む)、ファイティングナイフ
フラップター(+レガートの金属糸@トライガン)@天空の城ラピュタ
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:ソルテッカマンに対処
1:東方不敗を探してぶち殺す。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、腹部、頭部を強打、左肩に未処置の銃創、軽い貧血
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:玖我を助けに戻る
2:イリヤの保護。
3:できる限り悪人でも救いたい(改心させたい)が、やむを得ない場合は――
4:18:00に図書館へ行く
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。
真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※チェスに軽度の不信感を持っています
※なつきの仮説を何処まで信用しているかは不明
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷と切り傷
[装備]:ソルテッカマン一号機@宇宙の騎士テッカマンブレード
機体状況:無傷、エネルギー100%、フェルミオン砲11/12 レーザーライフル20/20
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※静留にHiMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※フェルミオン砲の衝撃が周囲に響き渡りました。
【ソルテッカマン一号機・加具土】
テッカマンブレードのデータを元に軍が作り上げたパワードスーツ。
本ロワにおいては誰でも扱えるよう、操縦系統が簡略化されている。身長は2~2.5メートル程度。
脚部ローラーでの移動の他、同じく脚部のスラスターで空中移動も可能。が、常時飛行は厳しい。
武装はフェルミオン砲(非拡散タイプ)とレーザーライフル。
【B-6学校/一日目/昼】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(小)全身、特に腹にダメージ、螺旋力増大?
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:支給品一式
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝する。
1:一時休息を取るが気になることがあればそちらを優先。
2:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:できればドモンを殺したくない。
※舞衣と分かれた直後の行動については不明。
*時系列順で読む
Back:[[禁忌の身体]] Next:[[野蛮召喚塔]]
*投下順で読む
Back:[[禁忌の身体]] Next:[[明智健悟の耽美なるバトルロワイヤル――幕間]]
|078:[[闇夜のMary Had a Little Lamb]]|ロイド・アスプルンド|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|129:[[そして最後に立っていたのは唯一人]]|ラッド・ルッソ|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|133:[[貫けよ、その弾丸で]]|衛宮士郎|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|112:[[オトメのS・O・S]]|鴇羽舞衣|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|129:[[そして最後に立っていたのは唯一人]]|東方不敗|184:[[こころの迷宮]]|
**くずれゆく…… ◆10fcvoEbko
「……言ったろう、スザクくん。その矛盾が、いつか君を殺すってね」
放送で枢木スザクの名を告げられたとき、ロイド・アスプルンドはそう呟いた。
真剣な面持ちである。今まで取り続けてきたような躁病的な軽い雰囲気は消え去っている。
ロイドはスザクが何故死んだかは知らない。
だが正義感が人の二倍も三倍も強い彼のこと、ここに来ても変わらず誰かのため に行動し、死んだのだろう。
人の死を嫌いながら死に近い場所にいようとする矛盾を抱えながら。
(結構強そうに見えたアニタくんもそうそうに脱落。
ジェレミア卿だって失脚してからは散々だけど、無能って訳じゃあない。
こりゃあ、ぼくなんかはうかうかしてらんないかなぁ?)
たとえ相手がかよわい女の子だったとしても、殺意を持って襲い掛かられればおめおめと殺される自信がある。
銃を持ってはいるが、荒事は苦手だし、多少でも心得のあるものには通用しないだろう。
(死んじゃうのは勘弁だなぁ。
ここにはまだいろいろ面白いものがいっぱいあるだろうし、シンヤ君の持ってくる首輪はぜひ解析したい。
まぁ、駄目なときはそれまでだろうけどね)
退廃的なことを考えながら廊下をうろつく。放送は既に終了していた。
熱心にいじっていた携帯電話は、放送が開始されたのにあわせてデイパックの中に戻した。
ふらふらと、校舎内を彷徨い歩き、黒板を見て回った。
『いいですとも!』
『2月2日』
『あんたの思った通りだよ、諸岡さん』
びっしりと書き込まれた黒板の落書きは結構な量だが、別に覚えきれない程ではない。
幾つ目かの教室を見終わり次の教室への移動中、ロイドはある教室の名前に目を留めた。
(んん?何か、新しい発見があるかなぁ?)
好奇心が抑えきれない、といった様子でにんまり笑う。
ロイドは鼻歌混じりに、足早にその教室の中へと入っていった。
その教室の名を示すプレートには「理科準備室」と記されていた。
◇
何故だが勝手に流れていた涙がひとまず止まり、それが完全に乾ききった頃に鴇羽舞衣は学校に辿り着いた。
体中にこびりついた血は臭いがつくのがいやだったので途中できる限り拭った。
重たい足取りで校庭に踏み入る。
その心中もまた、重く沈んだ虚ろな状態であった。
思考をできるかぎり単純化することで、何とか精神の均衡を保っている。
出会った人を殺し、大切なものを奪う。
今まで散々自分がされてきたことを、今度は自分がする側へと回るのだ。
それが正しいのだ、当然のことなのだと思う。思い込もうとする。
そうすればする程涙が溢れてくるのは奇妙だったが、その理由を考えるのが面倒くさくなる頃に涙は止まった。
おかけで、今は邪魔されることなく思考に集中できる。
ひとまずはエレメントの代わりとなるような武器の調達だ。目的地に学校を選んだ理由でもある。
調理実習室に行けば包丁程度の刃物ならば入手できるだろう。
包丁。
そういえば巧海や命にはよくご飯を作ってあげた。
特に命は舞衣のご飯はおいしいっていつもとても嬉しそうに言っていた。
そんなことを、思い出した。
奪われていったもののことなど、もうどうでもいいのに。
舞衣は心底うっとおしげに頭を振って、心中に浮かんだものを振り払った。
そうしたら、顔を上げた際に一つの教室が目に留まった。
校庭から眺める限り、どこもかしこも人のいる様子のない校舎だが、その教室にだけは人影が見えた。
よく目を凝らすと、ひょろひょろとした眼鏡をかけた男が、何か作業をしている。
へらへら笑いながら手を動かす様は、いかにも理系のもやしっ子という感じで、武器を持っている可能性はあるにせよ当人はとても強そうには見えない。
最初に殺すのはあいつでいいか、と舞衣は思った。
善良な人間のふりして接触してみて、隙を見て殺そう。
ついでに持ち物も奪ってしまおう。
光沢を失った瞳の奥でそのようなことを考えながら、舞衣は校舎の中へと姿を消した。
◇
「おいおいおいおいおいおいおい!
俺ってば今空飛んじゃってるよ!何でだろうなぁ、どうしてこんなことになってんだろうなぁ!おい!!
つーか何だこの乗り物はよぉ!羽虫かっつーの!あと、羽が近ぇよ!どっか切っちまったらどうしてくれんだっての!」
頭上で喚くラッド・ルッソの声を聞き流しながら、東方不敗マスターアジアは思案していた。
「そんときゃもちろん俺がぶち切れるんだけどなぁ!あぁ!?何か今上手いこと言っちまったかぁ!?
つーか、ジジィ!手前ぇ、俺が気持ち良く人殺しやってる真っ最中に邪魔してくれるたぁ、どういうつもりだぁ!?
おかげでこっちは鬱憤がたまりまくってんだけどなぁ!?」
この男は野に放っても問題あるまい。
自らの欲望のままに闘争を繰り返すこの男なら、赴いた先々で混沌の種となるだろう。
「ていうかあんた何?何でそんな細い糸指でつまむだけでぶら下がってられんの?
せめて手に巻き付けるぐらいはしなきゃ駄目だろぉ!普通はよぉ!」
となればこれ以上ここで時間を浪費する必要はない。
再び地に降り立ち、争乱の火種を求めて駆け回らなければならない。
武道家の血をたぎらす猛者がいれば、手合わせするのも良いだろう。
しかし、と白髪交じりの弁髪を風に踊らせながら、東方不敗は市街地を見下ろす。
ちなみに、弁髪はお下げ部分以外の毛髪を剃り落とすのが正しいスタイルであり、東方不敗のそれを弁髪と呼ぶのは不正確なのだが、そんなことはどうでもいい。
「無視かよ!
ところでなぁ!俺ってば段々分かってきちまったよ!
つまりこのレバーを動かしゃ、この羽虫を俺の好きに動かせるってことなんだよなぁ!?」
それ程の距離を移動してきた訳ではない。判断を下すにはまだ早いかも知れない。
だが、川を一本越えてからというものぱったりと人影が途絶えていたのもまた事実だった。
やはり、より多くの人物と出会うためには人の集まりやすい施設などを狙うのが得策か。このまま人が見つからないのであればしばし休息するのも一案。
東方不敗がそのように考えたとき、フラップターが学校らしき建物の上空に差し掛かった。
「ほらこうすりゃ右だろ、んでもって左!
おいおい、俺ってばもう乗りこなしちゃったよ!
これって結構すげぇんじゃねぇの!?やっぱ才能ってやつかぁ!」
そして、その校庭を歩く一人の少女を発見したとき、東方不敗の口元が怪しく歪んだ。
絶望の淵に生きる幽鬼の如き雰囲気を纏いながら歩く少女。
そこに、東方不敗は己が目的達成の一助となる可能性の芽を見出した。
「まぁそれはそれとしてだ!
かくして俺は自由にこいつを動かせるようになっちまったって訳だぁ!
こいつの意味が分かるかぁ!?」
だが、弛まぬ修業と長年の人生経験で鍛えぬかれた東方不敗の眼力は、同時にその少女の奥底に未だ燻る迷いをも見て取った。
そして、それが今にも消えそうなほどに弱弱しくなりつつも、確かにその娘を支えているということも。
ならば、最後の一押しをしなければなるまい。
「つまり、俺がむかついちまってどうしようもねぇ手前ぇを、じっくり上からなぶり殺しにすることができるように……って何でいなくなってんのぉ!?
この高さから飛び降りるとかマジありえねぇっての!ヒャーハハッハッハッハ!」
ラッドの高笑いが響く中、フラップタ-から延びる金属糸が、風を受け激しく揺れ動いていた。
◇
舞衣は調理室で苦もなく包丁を入手することができた。
何本か見比べ、鞘つきで一番切れ味の良さそうなものを選ぶと、スカートの背中に差し挟んだ。
調理室の黒板はよく分からないいたずら書きで埋め尽くされていた。
『我の拳は神の息吹!』
『“堕ちたる種子”を開花させ、秘めたる力をつむぎ出す!!』
『美しき
滅びの母の力を!』
そんな言葉が目についた。
「……わっけ分かんない」
掃除くらいちゃんとしなさいよね、そうとだけ言って舞衣は調理室を後にした。
首尾よく調理室で包丁を手に入れ、男のいる教室を目指す。
「いらっしゃいまぁせぇ」
教室の扉を開けた舞衣を出迎えたのは、そんな言葉だった。
「あぁ、そんなあからさまに警戒した顔されると傷つくなぁ。
僕はロイド・アスプルンドっていいます。殺し合いをするつもりはないよ?
女性の扱いは心得てるつもりなので、リラックスしてもらって構わないよ」
「ああ…いや…」
甲高い声と調子っぱずれの抑揚でまくしたてる男、ロイドに舞衣は生返事を返すことしかできなかった。
ロイドが言うような警戒した顔をしていたつもりはない。
扉を開ける前にできるだけ平静を装えるように、心の準備は済ました。
舞衣は教室に入ってすぐ視界に飛び込んできた、部屋のあまりに雑然とした様子に思わず目的も忘れて息をのんでしまっただけである。
教室には大きな長机が一つと、左右に棚が一つずつ置かれている。
しかし、器具や薬品の保管用と思われる棚は空っぽであり、そこに収められていたと思われる物達は現在、机の上といわず床のあちらこちらにまで、無節操に展開していた。
足の踏み場は何とか残されているが、気を付けないと危険な薬品をぶちまけかねない。
そして、ロイドと名乗った男はそんな部屋の中で悠々と椅子に腰掛け、火を灯したアルコールランプで焙ったパンを口に運んでいた。
「ああ、失礼。食事しながらっていうのが気に障っちゃったのかなぁ?
それなら申し訳ないけど、いきなり部屋に入ってきたのは君だしこの件に関してはそっちが折れてくれるとありがたいなぁ。
ま、何にせよすぐに済ませます」
言葉の通りにパンを食べきり、ランプの火を消す。
「い、いや、それはいいんだけど。この部屋って全部あなたが…?」
舞衣はあきれ顔で部屋を見回した。
誰にいつ襲われるかも分からないこの状況下で、この男はずっと、珍しくもない理科室の道具達をひっぺがえしていたというのだろうか。
普通の神経では考えられないが、ロイドの締まりのないにへら顔を見ているとありえなくもない、と思えてしまう。
「いや~お恥ずかしい。ちょっとした捜し物のつもりだったんだけどねぇ。
いつの間にか止まらなくなっちゃって」
「捜し物って…そのアルコールランプのこと?」
「んんん。まぁ、そんなとこだねぇ」
何を考えているのか分からない。
舞衣はロイドとの会話で毒気を抜かれそうになっていることに気が付いた。
落ち着け、と心中で喝を入れる。
おかしな男だが状況もろくに分かっていないただの馬鹿だ。襲い掛かれば今すぐにでも命を奪うことができる。
「ちょおっと待ってねぇ、その辺どかすから。
これだけ散らかしてちゃ、座ってって言っても無理だよねぇ」
「ええ…ありがとう。名前、まだ言ってなかったわ。鴇羽舞衣よ」
「舞衣くんだねぇ。りょ~かい」
ロイドは慣れた手つきで床に散らばっている瓶や実験用具などをほいほい片付けている。
顔は下を向いており、舞衣は視界に入っていない。
今なら、と舞衣は思った。
だが、舞衣が背中に手を伸ばしかけたとき、ロイドはそれを察したかのようなタイミングでひょいと顔を上げた。
そして、奇妙なことを言った。
「一つ言い忘れてた。
断っておくけど僕はイレヴンに対して差別的な感情は別に持ってないからね。
大切なのはそれが僕にとって興味深いかどうか。その前には全ての物事は平等なんです」
「…はいぃ?イレヴン…って何?」
「イレヴンを知らない?本当に?それは…実に面白いねぇ!」
「うぇっ!?」
舞衣の発言のどこに興味をひかれたのか嬉々とした表情でロイドが迫ってきた。
目に宿るあやしげな光が、そこはかとなく怖い。
舞衣は思わず、包丁に伸ばし掛けた手を戻し、身を庇っていた。
「君日本人でしょう?イレヴンが何か分からないなんてありえないなぁ。
でもそれが真実だとすると…あ~、想像が膨らむなぁ。
ちらっとはそういう可能性も考えてたけど。シンヤくんにも聞いておけば良かったなぁ。うふふ」
訳の分からないことを言いながら、一人で身悶えしている。
舞衣は軽く引きながらも、ロイドの注意がそれた今がチャンス、と慎重に手を後ろに回そうとした。
しかし。
「おぉほっ!」
「ひいぃ!」
奇声を上げて飛び付いてきたロイドにその手を掴まれてしまった。
気付かれたかという焦りと生理的嫌悪感が合わさってもの凄く気持ち悪い。
しかし、ロイドはそのまま何をするでもなく、好奇心に満ちた気色の悪い視線を舞衣の手に注いでいる。
どうやら殺そうとしているのに気付かれた訳ではないらしい。
「…この指輪、見せてもらえる?」
「へ?」
一瞬何のことを言われているのか分からず、少ししてから支給品の指輪をはめっ放しにしていたことを思い出した。
「どうかな?僕にとっては君の話と同じくらい興味があるんだけど。
これは君の私物?」
「し、支給品よ。ちょっと待って、今外すから」
どうせこの状況ではただの指輪になど何の価値もない。
舞衣は手を振り払い、残った感触に寒気を覚えながら指輪を外してロイドに渡した。
眼鏡を外し興味津々と言った様子で指輪の観察を始めたロイドに言う。
「そんなに珍しい?ただの指輪でしょう」
「ただの指輪?馬鹿言っちゃいけない。
詳しく解析してみないとはっきりしたことは言えないがおそらくこの指輪は、宝石部分まで含めて僕が知っているどの材質とも、違う」
「ふ~ん…」
舞衣は興味のなさを隠しもせず、気の抜けた返事をした。
舞衣の思考は今、全く別のところに向いていた。
ロイドが、指輪の観察に熱中するあまり、舞衣に背中を向けている。
自分の指にすぽすぽ指輪をはめてみたり、相変わらずよく分からない男だが、がら空きの背中は舞衣に、突き刺して下さいと言っているように見えた。
ゆっくりと包丁を取り出し、構える。
即死させられなくてもいい。どうせこの校舎に他に人はいない。
泣き叫ばれたなら、叫び声もあげられなくなるまで刺し続ければいいだけの話だ。
奪われる側でいるのはもう御免だと、自らを鼓舞する。
舞衣は、背を向けたままぶつぶつと何事か呟いているロイドに向けて一歩足を踏み出した。
息が荒くなるのを自覚した瞬間、腰溜めに構えた包丁を一気に突き出そうと足に力を入れ、
「ざぁんねんでした」
くるりと振り返ったロイドが放り投げた何かによって突進を阻まれた。
舞衣が認識できたのは自分の額に何か固いものがぶつかったことと、振り向いたロイドが相変わらず気持ちの悪いスマイルを浮かべつつ、目だけはしっかりと覆い隠していることの二つだけだった。
次の瞬間、舞衣の目の前で閃光が放たれた。
「あ…あぁぁぁあ!!」
突如放たれたまばゆい光をまともに目にくらってしまい、舞衣は視界を奪われた。
かちかち明滅する暗闇の中にロイドの声が響く。
「簡単な閃光弾だよ。マグネシウムの燃焼ってやつだね。
お粗末なつくりで申し訳ないが、生憎この部屋にあるものは色々けちられていてそれが精一杯なんだぁ。
この場合は結果オーライかな?
勝手に反応が開始しないようにする工夫が、一番苦心した点です」
「うるさいうるさい!何なのよぉ!あんたも!あんたもそうやって私を…!」
耳障りな声のする方向を頼りに、半狂乱になりながら滅茶苦茶に包丁を振り回す。
だが手応えはなく、包丁は何かに中途半端に食い込んだ拍子に手からすっぽ抜けた。
舞衣はバランスを崩し、前のめりに転倒した。
床に散乱している物にぶつかりがちゃがちゃとやかましい音をたてる。硬い物が顎を打った。
「何があったかは知らないが、あれだけ死んだ目をしていれば誰だって警戒するよ。次からは改めることをお薦めする。
あ、君の話やこの指輪に興味があるのは本当だから、これちょっと貸してもらうよぉ。じゃあね、さよぉ~なら~」
「殺してやる!あんたなんか絶対殺してやる!!」
遠ざかっていく声に、舞衣は倒れ伏したまま、ありったけの憎しみを込めて叫んだ。
ロイドが自分でお粗末なつくりと言っていたとおり、視力が回復するのにそれ程の時間はかからなかった。
完全に回復するまで待って、舞衣はのっそりと身を起こした。
辺りを見回す。ロイドの言ったままの、死んだ魚のような目をしながら。
ロイドの姿はもうどこにも見えない。
教室の床に割れた瓶の破片が散らばっている。
破片の一つが肩口を傷つけ、浅く血が流れていた。
おぼつかない足取りで教室を出て、そのまま校舎の入り口まで戻る。
包丁は回収しなかった。
何だかそれが、とても惨めなものに思えたので。
「う…う…うぅ」
込み上げてくる嗚咽が抑えきれなくなって、舞衣はグラウンドの土に倒れこんだ。
情けなさに涙が出てくる。
「どうしろって…言うのよぉ…」
武器となるエレメントが出せなくなり、それでも加害者の側に回ることを決意した。
だが、実際は妙な男のペースにはめられ、まんまと出し抜かれている。
指輪も持ち逃げされてしまった。
所詮、忌まわしいHiMEの力に頼らなければ自分は何もできないのだと、舞衣は思った。
何の力も持たない、小娘に過ぎない。
「もう…駄目かも、私」
どうしていいか分からなくなって、呟いた。
このままずっとここで寝転んでいようかとさえ思う。
「エレメントも無しに、何も出来る訳…ないじゃない…!」」
「ならば、ワシが代わりの力をくれてやろうか?」
「…え?」
突如として声が響いた。
左右を見渡してみても誰もいない。
「どこを見ておる。ワシはここだ。ここにおる」
「ここって…はいぃ!?」
声をたどった先で目に入ったものを見て、舞衣は驚愕した。
校庭に建てられた二宮金次郎の銅像。
読書に励む少年を模したその銅像の頭上で、がっしりした体格の初老の男が腕を組み、直立不動の姿勢で佇んでいた。
その眼光は鋭く、射貫くような視線で舞衣を見据えている。
大真面目な顔をして銅像の頭上から舞衣を見下ろす男、という光景はともすれば滑稽に思われかねないものだったが、そのような感想など吹き飛ばし、これでいいのだと思えるような威厳がその男からは発せられていた。
「な、何…アンタ?」
疲れ切った舞衣の精神では、そう聞くのが精一杯だった。
「ワシの名は東方不敗マスターアジア。娘よ、随分と荒れておるようだな?」
「何言って…」
「力が欲しくはないかと問うておるのよ。つぇい!」
気合いとともに東方不敗を名乗る男はデイパックから何かを取り出した。
だがそれは、水や食料のように簡単に出てきた訳ではない。
明らかにデイパックの容量を十数倍はオーバーしているであろう物体が、たっぷり十秒程の時間をかけて舞衣の眼前にその姿を現したのである。
引きずりだされたものが、ずしんと重たい音を響かせて、グラウンドに足を下ろす。
「ロ、ロボット…?」
舞衣がそれに対してまず抱いた印象は、そのようなものだった。
白を基調にした武骨なフォルム。
人型でありながらも、その体躯は舞衣よりも二回りも三回りも巨大である。
右肩から、砲身が一門突き出されている。
それは、舞衣がテレビの中で見た、所謂戦闘ロボットと呼ばれるもの達に極めてよく似ていた。
「ソルテッカマン一号機という。ワシの支給品よ。これをお主にくれてやろう」
「ソル、テッカマン…?」
HiME同士の戦いの中ではまるで機械のように金属質なチャイルドもいた。
だが舞衣の知るチャイルドはどれも動物のような形状をしており、ソルテッカマンと呼ばれたもののように人型をしているものなど見たことがない。
にも関わらず、そのフォルムを見て舞衣はある記憶を連想していた。それも、つい最近の記憶である。
「ふん、最初に螺旋王によって爆破されたあの馬鹿者を思い出しおったか。
マニュアルによると、これは奴らのような生物を模して作った機械だとか。
つまりは、この機械は奴らに準ずる性能を持っておるということ。
奴の放った光線の威力はお主も見たであろう?
螺旋王には通じずとも、人の身には過ぎた力であることに変わりはない」
「人には過ぎた力…」
さっきの男に負けず劣らず奇妙であるはずの東方不敗の言葉は、不思議な程にすんなり舞衣の精神に染み込んでいった。
「そうだ。この力があれば並大抵の者に遅れをとることはあるまい。
それを貴様にくれてやろうと言うのだ」
「何でそんなこと…て、ていうかいきなりこんなもの渡されても使える訳ないじゃない!」
「ふん!」
舞衣の理性が行った精一杯の反論は、東方不敗が放った裂帛の気合いにかき消された。
気迫と共に投げ付けられたものが舞衣の目の前の地面に突き刺さる。
それは数枚の紙束だった。ただの紙でしかないはずのそれらが、固いグラウンドの土に深々と突き刺さっていた。
「マニュアルだ。読めい。
これをワシに与えた螺旋王もその辺りのことは考えておるようでな。
全くの素人でも問題なく扱えるように、操縦系統はかなり簡略化されておる。
最初の質問にも答えておこうか。まずこのような物はワシにとっては無用の長物。
そしてワシが望むのは戦乱、ただそれのみよ。
貴様のように他人を蹴落とそうと狙う者が多ければ多い程、ワシにとっては都合がよい」
「これに乗れば…私でも戦えるってこと…?」
降って湧いたように目の前に提示された、戦うための力は蠱惑的な魅力で以って舞衣を誘っている。
その誘いに乗ることはとても簡単で、そして魅惑的であるように舞衣には思えた。
東方不敗の言うとおり、一度乗ってしまえば手足のように動かせる仕組みになっているらしい。
かなり高機動で動くようだが、そのような戦闘を舞衣は経験済みだった。
熱にうなされたような顔でマニュアルをめくる舞衣の心は、着実に一定の方向に傾いて行った。
もはや乗ることを決意したのも同然の様子である舞衣を見て、東方不敗は満足気に笑う。
そして、最後の一押しと言うかのように口を開いた。
「さっき貴様が取り逃がした男だがな。北の方角へ逃げていきおったぞ」
はっとしたように舞衣が顔をあげた。その目はどうしてそのことを知っているのかと言っている。
「お主達のやりとりは一部始終見させて貰った。
お主があの男を取り逃がすところまで含めてなぁ。
おそらくは今頃どこぞの民家にでも身を隠しておろう。
このソルテッカマンでも用いねば、見つけだすのは不可能の一語に尽きる。
だが逆に、これを使えば奴を葬り去ることなど赤子の手を捻るも同じことよ」
東方不敗がソルテッカマンに顔を向ける。
それにつられて、舞衣もまた同じように視線を移した。
白亜に輝く巨体を見ていると、それに乗って戦う姿が不思議なくらい自然に想像できた。
這うように、ソルテッカマンの前に進み出る。
そんな舞衣の目の前に、東方不敗が降り立ち手を差し伸べた。
「どうした?何を迷うことがある。
ワシらの利害は一致しておる。お主はこれを用いて破壊の限りを尽くせばよい。
それこそ、お主が本当に望んでいたことであろう。
ワシの手を取れ。そして揺るぎない力を手に入れるのだ」
泥に汚れ涙も枯れ果てた顔を起こしながら。
舞衣は、自らの手を東方不敗の手に重ねた。
◇
舞衣の手を逃れたロイドは、学校の北側から市街地を抜け川べりにたどりついたところで、足を止めて息を吐いた。
「追いかけてはこないみたいだね。いや~、あぶなかったぁ」
背後を確認しながら言う。
手に舞衣に投げ付けたものと同形の、瓶型の手製閃光弾を持っている。
その指には舞衣から拝借した指輪がはめられていた。
「早速役にたったねぇ。残り一個になっちゃったけど」
手のひらで多少もて遊び、手製の閃光弾をデイパックに戻す。
ロイドは理科準備室に入ってからずっと、護身用の武器の調合をしていた。
あわよくば未知の物質を、という期待もないではなかったが、残念ながらそういったものは発見できなかった。
それどころか、そう簡単に爆弾などの強力な武器は作らせないという意図か、理科準備室と名乗りながらそこにはろくなものが置かれていなかった。
そのため、部屋にあるものとロイドの知識、技術を用いても粗悪な閃光弾を二つ作るのが限度だった。
そのうちの一つは早くも失われてしまった。
「良く頑張った方だとは思うけどねぇ?んふふ、あの子結構本気で面食らってたなぁ」
携帯電話からの情報で、ロイドは部屋に入ってきた人物が鴾羽舞衣という名前だと気付いていた。
相手の名乗るに任せていたのは扉を開けたときの舞衣のただならぬ表情――本人は隠しているつもりのようだったが――を見て変な刺激を与えるのはまずいと判断したためだ。
「ん~それにしても困ったなぁ。
できればシンヤくんが帰ってくるまで学校にいたかったんだけどなぁ。まだあの子近くにいるよねぇ。
今戻ったら今度こそ殺されちゃうよぉ、僕ぅ。いや~すんごく怒ってたもんなぁ、あの子」
軽い調子で笑う。いたずらが成功したことを喜ぶ子供のようだった。
シンヤとの合流を優先し、しばらく指輪の観察でもして時間を潰してから学校に戻るかと、ロイドが考え歩きだそうとしたとき、
「おい、あんた!」
何やら必死な声に呼び止められた。
声のした方を向くと、どういう訳か全身ずぶ乗れの少年が声の印象と違わぬ必死の形相でこちらに駆け寄ってきていた。
けがをしているのか歩き方がどこかぎこちなく、速度はそれ程ではない。
衛宮士郎、とロイドはその僅かな時間に携帯電話が表示した名前を思い出していた。
「おい、あんた、教えてくれ。ここは地図のどのあたりなんだっ!
早く戻らないと玖我が、う…!」
掴み掛からんばかりの勢いでまくしたてたかと思うと、突然頭を押さえて崩れ落ちる。
軽い脳震盪、とロイドは当たりを付けた。
よく見れば肩には銃創がある。手当てをした様子はない。
結構大変な体験してきたところらしい。
「まぁまぁ落ち着いて。ひどいけがだね、君。そこの川を泳いできたの?頑張ったねぇ。
ここはB-6エリアの真ん中あたりだよ。
僕はロイド・アスプルンド。君はお名前聞かせてくれないのかなぁ?」
少年の様子から危険人物ではないと判断したロイドはとりあえず少年を落ち着かせるようと既に知っていることを敢えて隠して名前を尋ねた。
パニックに付き合わされて無駄に時間を使ってしまってはたまらない。
「あ、あぁ悪い。俺は衛宮士郎…ってB-6!?
くそ、結構流されちまった。急いで助けに戻らないと」
「あら?もう行っちゃうの?まぁ、止めないけど。
でもその傷の応急処置と、ふらふらの足が回復するくらいの休憩をとった方が移動するにはかえって効率がいいと思うよ?」
「そんなことしてられるかっ!玖我…俺の知り合いが襲われてるんだぞ!」
めまいを起こしてふらつく体を無理やりひきずりながら、ロイドを怒鳴り付けてくる。
自分のことを完全に度外視して他人のために奔走する姿は、一瞬だけロイドにスザクの姿を思い出させた。
すぐに、その考えを否定する。
(違うね。スザクくんとは違う。
正義感が強いと言っても、この子のそれからはもう少し破滅的なものが含まれている)
未だロイドが殺人者であるか確かめようとしないのもそのせいか、とロイドは推測した。
それが合っているか気になったので聞いてみることにした。
「ところで君さぁ。
僕が人殺しで自分が襲われるかもとかそういう可能性は考えなかったのかい?」
士郎はやはりろくに移動できず、すぐ先の電柱にもたれかかり、肩で激しく呼吸していた。
さすがにしばらく歩くのを断念したのか、そのままずるずると座り込む。
そして、顔だけをロイドに向けて質問に答えた。
「あ…うっかりしてた。
あんた、そうなのか?そりゃあ、その、ちょっと、困るっていうか…」
「うっかりときたか!あ~っははははは!」
予想外といえば予想外の答えにロイドは大爆笑した。それを見た少年の表情が憮然としたものに変わる。
「何だ違うのかよ。ていうかそんな笑うとこじゃないだろ」
「いやいやいや!君が自分の安全なんてものにまるで価値を感じちゃいないてことが分かって可笑しくってねぇ。
気に障ったなら謝ります。あっはっはっは!」
「何か前にもそんなこと言われたような…ん、あんた…その指輪!」
なおも笑い続けようとしたロイドを、士郎の真剣な声が止めた。
少年はロイドの手をつかみ、指にはめられた指輪を食い入るように見つめている。
それは先程ロイドが舞衣に対してしたことと全く同じだった。
こんなこと自分はしてたのかこりゃあ気持ち悪いなぁ、とロイドは思った。
「魔術礼装だ…!あんた魔術士だったのか!
魔術が使えるんなら心強い、あんた、玖我を助けるのに協力して…」
「なになになになぁ~んだってぇっ!?
今とっても気になる単語が聞こえたんだけどぉ~!」
「いぃっ!?」
士郎の言葉を完全に遮って、ロイドはぐいと顔を近付けた。
多少引かれたようだ構いはしない。
ロイドは一瞬で指輪を抜き取ると、何か知っている様子である士郎の手に握りこませた。
「君はこれが何なのか知ってるみたいだねぇ。
是非とも詳しく聞かせてもらいたいなぁ。今魔術って言った?」
「だから魔術礼装…ってもしかしたこれあんたのじゃなくて支給品か何かか?じゃあ何も知らずに身につけてたって訳か」
「おう!俺も聞かせて貰いてぇことがあるんだがよぉ!」
「まぁ、僕のだと思ってくれて構わないよ。それで?『魔術礼装』って何?」
「魔術士が使う魔術をサポートする道具みたいなもので…そうか、あんた魔術士じゃなかったのか。ぬか喜びだ」
「趣味の悪ぃ紫色の服着た、俺が殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてたまんねぇジジィがこの辺にいるはずなんだがぁ!」
「んっふふぅ。『魔術』という言葉がさも常識であるかのような口振りだねぇ。
その指輪だけじゃなく、君自身にも興味がわいてきたよぉ」
「いや近い!顔近いから!何も見えないから!」
「ああ!あとそういや女みてぇに長いお下げをしてたっけなぁ!」
「是が非でも話を聞きたいなぁ。君の知ってることを洗いざらい全部、ねぇ?」
「いや目ぇ!目ぇ恐いから!顔笑ってるけど目が笑ってないから!」
「アンタらぁ!あのクソジジィがどこにいるか知らねぇか!?」
「うるさいな。その人ならこの道を東に五千メートル程歩いたところにいましたよ」
「そうか!サンキューな!」
ロイドはいつの間にか割り込んでいた声に無意識にかつてない程不機嫌な声で答えた。
去っていく気配に満足し、再び尋問を始めようと冷や汗をかく少年に顔を近付け、
「…ってぇ、んな訳ねぇだろうがあああああああ!!」
何ものかが投げ付けたデイパックに弾き飛ばされた。
「あっら~~!?」
ロイドは軽やかに吹っ飛び、コンクリートの地面に強かにその身を打ち付けた。
起き上がる間もなく、近寄ってきた乱暴な足音に胸ぐらを引きずり起こされる。
「あのジジィがいなくなったのはこっから南だっつ-の!適当な返事するにも程があるんじゃねえのぉ!
せっかく俺がぶち切れつつも着地が上手いこといってちょっと上機嫌になってたってぇのに、アンタ何水差してくれちゃってんのぉ!?」
はち切れんばかりの怒りを顔中に漲らせ、ぐいと顔を突き出してくる。
それは先程ロイドが士郎に対してしたことと大体同じだった。
こんなこと自分はしてたのかこりゃあ気持ち悪いなぁ、とロイドは思った。
すぐそばでは、少年が助かった、と呟いていた。
「あれ、僕そんなこと言ったかなぁ?
…ごめん、覚えてない」
ラッド・ルッソ、と男の顔を見ると同時に携帯電話の情報を思い出した。
ラッドはロイドの答えがえらく気に入らないようだった。
「よぉ-し分かったぁ!まず手前ぇからぶっ殺す!
あのジジィのために取っとくつもりだったが、手前ぇのおかげで少しぐらい使ってもお釣りが出るぐらいに俺の殺る気は今最高潮だ!
つーわけで死ね!今すぐ死ね!」
「ちょ、ちょっと待て!いくら何でもやりすぎだ!」
本気で殺すつもりで殴ろうと腕を振りかぶったラッドを見て、士郎が慌てて止めに入った。
抱き抱えるようにしてラッドの剛腕を押さえ込む。
「ああ!?何なのお前?何かこいつといい感じになってたみたいだけどぉ!?」
「どこをどう見たらそうなる!いいからその手を放せ!」
「放すよぉ!
つ-か、今から俺がこいつをぼこってぼこってぼこってぼっこぼこにするからよぉ!?
最終的に持つとこ無くなって自然に放れるんだけどなぁ!?」
「無茶苦茶言うなって!?ああもう、こんなことしてる場合じゃないってのに…!」
「あの~…すみません…くび、しまってます…先にそっちで死んじゃいそう…ぼく」
息も絶え絶えのロイドの訴えは、二人の耳には届かなかった。
「ああああああ!!もう面倒くせええええぇぇぇ!!」
そして、ついに業を煮やしたラッドが、腕に士郎をぶら下げたままロイドを殴り付けようとした次の瞬間。
三人から最も近い位置にある民家が、跡形もなく消し飛んだ。
「あぁん!?」
「何だぁ!?」
「KMF…いや、違う…!」
爆風が轟く中、三人が三様の言葉を発する。
熱波が吹き荒れ、降り注ぐ火の粉がたちまち3人の額に汗を浮かび上がらせた。
びりびりとした振動が、大地を揺らした。
そして、それらが収まると同時に三人の周囲を、太陽が消え去ったかのような黒い影が覆った。
静かに、全く同じタイミングでそれぞれ顔を上げる。
三人の正面には、数階建ての鉄筋のビルがあった。
その屋上。
日の光を遮るように、白い威容を誇る巨体が、三人を見下ろしていた。
肩に設置された砲身が真っ直ぐ三人に向けられていた。
「おいおい、マジかよ。あんなのもいちゃうわけ?」
「ロ…ボット…?まさか…」
呆然とする士郎とにやつきながらも未だに手を放してくれないラッド。
二人の対照的な表情を見ながら。
ロイドはぽりぽりとこめかみを掻いて、言った。
「もしかして、僕達だぁいピンチぃ?」
◇
「…うん。射撃はまだあんまり上手くいかないな」
ソルテッカマンのコックピットの中で、舞衣は一人呟いた。
舞衣にソルテッカマンを授けた後、東方不敗をはどこかへ去っていった。
計器類の放つ淡い光しかないその場所で、舞衣はこれまでにない安堵を感じていた。
これで、もう何も奪われずに済む。
これで、全てを焼き尽くすことができる。
これで、絶望を感じずにいることができる。
「カグツチは出せないんだから…代わり、頼むわよ」
沈みきった声で、乗機に対し言う。
舞衣は静かに照準を眼下の男たちに定めた。
中心にいるのは、にやけ顔のあの男。
忌々しい、ロイド・アスプルンド。
ぎっ、と音が鳴るほど強く歯を食いしばりながら、舞衣はレーザーライフルを発射した。
たとえ涙を流したとしても、鋼の鎧の中では誰にも見えはしなかった。
【B-6左の川沿い/一日目/昼】
【ロイド・アスプルンド@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式、携帯電話、 閃光弾×1
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:シンヤと会うために学校に戻る。
2:士郎の話に強い興味
3:携帯電話をもっと詳しく調べてみる。
4:シンヤが持ってくる首輪を分解してみる。
【携帯電話】
①全参加者の画像データ閲覧可能。
②地図にのっている特定の場所への電話番号が記録されている(どの施設の番号が登録されているのかは不明)。
全参加者の現在位置表示システム搭載。ただしパスワード解除必須。現在判明したのはロイドの位置のみ。
パスワードは参加者に最初に支給されていたランダムアイテムの『正式名称』。複数回答の可能性あり?
それ以外の機能に関しては詳細不明。
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
予備マガジン(超電導ライフル専用弾5/5)×4@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式(ランダム支給品0~1を含む)、ファイティングナイフ
フラップター(+レガートの金属糸@トライガン)@天空の城ラピュタ
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:ソルテッカマンに対処
1:東方不敗を探してぶち殺す。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、腹部、頭部を強打、左肩に未処置の銃創、軽い貧血
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:玖我を助けに戻る
2:イリヤの保護。
3:できる限り悪人でも救いたい(改心させたい)が、やむを得ない場合は――
4:18:00に図書館へ行く
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。
真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※チェスに軽度の不信感を持っています
※なつきの仮説を何処まで信用しているかは不明
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷と切り傷
[装備]:ソルテッカマン一号機@宇宙の騎士テッカマンブレード
機体状況:無傷、エネルギー100%、フェルミオン砲11/12 レーザーライフル20/20
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※静留にHiMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※フェルミオン砲の衝撃が周囲に響き渡りました。
【ソルテッカマン一号機・加具土】
テッカマンブレードのデータを元に軍が作り上げたパワードスーツ。
本ロワにおいては誰でも扱えるよう、操縦系統が簡略化されている。身長は2~2.5メートル程度。
脚部ローラーでの移動の他、同じく脚部のスラスターで空中移動も可能。が、常時飛行は厳しい。
武装はフェルミオン砲(非拡散タイプ)とレーザーライフル。
【B-6学校/一日目/昼】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(小)全身、特に腹にダメージ、螺旋力増大?
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:支給品一式
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝する。
1:一時休息を取るが気になることがあればそちらを優先。
2:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:できればドモンを殺したくない。
※舞衣と分かれた直後の行動については不明。
*時系列順で読む
Back:[[禁忌の身体]] Next:[[野蛮召喚塔]]
*投下順で読む
Back:[[禁忌の身体]] Next:[[明智健悟の耽美なるバトルロワイヤル――幕間]]
|078:[[闇夜のMary Had a Little Lamb]]|ロイド・アスプルンド|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|129:[[そして最後に立っていたのは唯一人]]|ラッド・ルッソ|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|133:[[貫けよ、その弾丸で]]|衛宮士郎|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|112:[[オトメのS・O・S]]|鴇羽舞衣|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|129:[[そして最後に立っていたのは唯一人]]|東方不敗|184:[[こころの迷宮]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: