「まだ静かな朝」(2022/08/13 (土) 18:10:56) の最新版変更点
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**まだ静かな朝 ◆AZWNjKqIBQ
運命の流れというものに導かれたかのように、ゆらりゆらりと彼や彼女たちはそこに辿り着いた。
そしてその偶然による一時の交錯は、彼や彼女たちの運命を一纏めに捻り込みその場に大きな螺旋を描かせた。
一瞬、激しく強く内側へと巻かれた螺旋は巻き込まれた者をズタボロにし、その反動から外向きの力へと転じると
彼や彼女たちをそのままの状態でその場から四方八方へと突き放した。
その跡に残されたのは、螺旋の力に運命を断ち切られた不幸な少年と少女。
そして、未だ傍観者でしかない二人――。
◆ ◆ ◆
ジェット・ブラックは、爆発の痕が生々しい現場より100メートルほど離れた一軒のカフェの中にいた。
そして、彼の前にはテーブルを挟んで少年――チェスワフ・メイエルが身を固くして座っている。
純英国風で、微かにコーヒー豆の香りが漂う店内ではあったが、二人の前にカップはない。
落ち着いて珈琲の味や香りを楽しむ余裕などはないからだ。
◆ ◆ ◆
「こんな状況ではあるが、まずは落ち着いて欲しい。
俺の名前は、ジェット・ブラック。君の名前も聞かせてもらえるかな……?」
静かに、徒に相手を刺激しすぎないよう、ジェットは目の前の少年に話しかけた。
これは被疑者を問い詰めるためのそれではない。被害者より事情を聞きだすための手法だ。
目の前の少年はか細い声で「ドモン・カッシュ」と名乗った。
ジェットは頭の中でそれが記憶した名簿の中に存在することを確認すると、改めて少年の様子を観察する。
握った拳を膝の上に置いたままで固まっており、一見して緊張していることが窺える。
無理もない。自分が被害にあったというだけでなく、あそこには無残な子供の死体が二つもあった。
一つ間違えば自分も……と考えれば、恐怖におかしくなってしまっても仕方がないぐらいだ。
だが、喋る時にはおずおずとだがこちらへと顔を向けて目を合わせてくれた。
少なくとも自分は少年から殺人者の類としては見られていない。
それに安堵すると、ジェットは次の質問を少年へとぶつける。
「君がどこから、どうしてあそこに来たのか……。それを聞かせてくれるかな?」
いきなり事件のことを問い質したりはしない。それだと少年にフラッシュバックを起こさせる可能性があったし、
彼が冷静であったであろう頃の事から順序立てて語って貰った方が、記憶に混乱を生じさせづらい。
ゆっくりしている時間はないが、強いては事を仕損じるし、新しく余計な問題を抱えかねない。
ジェットはゆっくりと根気強く少年に記憶を辿らせ、あの場所で彼が体験したことを聞きだすことに成功した。
「……君が何かが倒れる物音に気付いてあそこに行って見ると、そこにあの少年が倒れていた。
そして、彼を助けようと近づくとそこで爆発が起き――君はそこで気絶してしまった」
そういうことか? と問い直すと、少年はコクリと頷きそれを肯定した。
記憶の中にある現場の状況、そして目の前の少年の証言。それらを総合してジェットは推理する……。
恐らくは最初に少女の遺体が道路の真ん中に置かれていたのであろう。
そこにバイクで通りかかったあの少年はそれに驚きそこで転倒――そしてそこに爆弾が投げ込まれる。
注意を引くもので相手の動きを止め、仕留める。簡単なブービートラップだ。
そして、目の前の少年は幸か不幸か事の終わりに居合わせてしまった……。
下手人は――全くの不明。
証言者である少年が気絶していたためにそいつが何者なのかは分からない。
分かるのは、そいつが殺し合いを行うという事になんら躊躇がなく、罠を張るなどその種の経験を積んでいること。
そして、未だこの近くに潜んでいるかもしれないということだけだ。
◆ ◆ ◆
事の終わりにやってきたその大柄な男は、自分に怪我がないことを確かめると急いで現場より引き離し、
カフェの中の椅子に座らせるとゆっくりと丁寧に話しかけてきた。
浮ついたところが全く感じられない事から、相当の修羅場を潜っているのだろうということが見て取れ、
それとなしに尋ねてみると、元警官であり、今は賞金稼ぎ――バウンティハンターをしているのだと教えてくれた。
なるほど……と、心の中だけで薄く笑った。これは当たりの可能性が高いと……。
チェスワフ・メイエルは目の前の男に観察されていることを認識しながら、相手を観察していた。
決して自分の中身には気付かれぬよう、ひっそりと……静かに……。
「……僕は、ドモン・カッシュ、……です」
男に名前を尋ねられ時、チェスは再びドモンという名前を偽名として使用した。
今後のことを考えれば、できるだけ嘘による矛盾を作らない方が好ましいという判断だ。
そして、偽名が名乗れた事。つまりは相手が不死者でない事に心の中だけでひっそりと安堵する。
続けて尋ねられたのは、どこにいて、どうしてあそこに辿り着いたのかということだった。
それにチェスは、適度に言葉を詰まらせ、恐怖に身を振るわせる少年を演じながら答えた。
話すべき回答に関しては、このカフェに辿り着くまでの短い間に組み立て終わっている。
重要なのは、殺し合いに乗った者を目の前の男に追わせないということ。
そのために、自分を殺そうとした女のことは存在しないものとした。
恐らくは、すでに死んでいた少年を殺害した者が彼女以外に存在したはずだが、そちらは元より見ていないのでそのまま答える。
目の前の男は話を聞き終わると、手に持った拳銃を確認しながら思案している。
あの状況と、適度に調整された情報。既知の知識によるブレはあるだろうが、恐らくは狙ったとおりに思考しているはず。
思案を終えた男と二、三言交わしてそれを確信すると、チェスはあどけない子供という仮面の下でほくそえんだ。
◆ ◆ ◆
映画館の近くで起こった事の顛末をあらかた確認すると、大男と少年の二人組は潜んでいたカフェから通りへと出た。
「さっき、走っていったお姉さんを探すんだよね?」
「ああ。あんな状態じゃあ、危なっかしくて仕方がないからな」
半狂乱の状態で走り去っていってしまったティアナ・ランスター。
彼女が向った南西の方角へと二人は通りを行く。だが、ジェットの方はともかく、チェスには彼女を探し出すつもりはなかった。
人死にを目の当たりにしたぐらいで取り乱す小娘など、仲間に加えたところで何の利もない。それどころか害ですらある。
カフェを出る前にそれを自分から提案したのは、あくまで殺し合いに乗った者達から離れるための方便だ。
そして、カフェの中でたどたどしい振りをして十分に時間を稼いだ。この後、あの娘と出会う可能性は低い。
そうチェスは考えている。そして実際に、二人が行く先に彼女の姿を捕らえることはできなかった。
――そして出立してよりすぐ、丁度6時を迎えた時。あの螺旋王を名乗った男の声が通りに大きく響き渡った。
◆ ◆ ◆
脱落者は九人。
その気になっている奴はそれなりにいるということ。それはあの惨状を思い返せばいやという程解ることだった。
幸いなことにスパイクやエドの名前は呼ばれなかったが、自分も含めて安全が保証されたという訳でもない。
ジェットは、流れ終わった放送に憂鬱と微妙な安堵が交じり合った溜息を零した。
ティアナと名乗った少女が口にしたキャロという名前。
それが螺旋王の口より死者と告げられたからには、先刻の彼女の発言は不幸にも正しかったという事になる。
ただでさえ精神失調状態である彼女がその事実を確定されればどういったことになるか……。
だが、その身を案じるジェットの目に彼女の姿は捉えられない。
あの現場より1キロメートル程先、駅も近くになるつれ大きく派手な建物が目に付くようになってきた。
その内のどこに彼女が潜んでいるのか、はたまた彼女は全く別の方向へと向ってしまったのか、それは見当もつかない。
目に入る街の様子は賑やかだったが、空間は静寂に包まれていた。
聞こえるのは自分と少年の足音のみ……と、大きな音がジェットの耳に飛び込んでくる。
その方向、駅の方へと視線をやればそこから抜け出ていく一本の列車の姿が確認できた。
そして二人が見守る中、それは程無くして北方へと姿を消す。
「(……やはり、列車は運行されていたのか)」
ジェットはこの実験に対する自分の読みが正しかったことを確認し、その手ごたえに口の端を歪ませた。
だが、列車に関しては今考えることではない。それは、また後にでも確認できる。
列車が走り去った方から視線を外し、同行する少年を促すと、ジェットは再び静寂に包まれた街を先に進んだ。
◆ ◆ ◆
螺旋王による放送が終わりを告げた時、チェスは目に見える形でほっと胸をなでおろした。
それは同行する男に対して答えた、「知人に死者がいなくてよかった」というこではなく、
自分が名前を借りているドモン・カッシュが呼ばれなかったことに対してだ。
最初に偽名を使った時から危惧していたことだが、取りあえずは難を逃れたことにチェスは安堵する。
ばれたらばれたで、誤魔化す方法は考えているがばれないというのなら、それに越したことはない。
それから後、チェスのゆっくりとした歩みに合わせてくれている男は、彼に対して非常に饒舌だった。
恐らくは、常に話しかけることで不安に怯える子供をあやしているつもりなのだろうとチェスは受け取ったが、
その彼の口から語られる話は、情報としても中々に面白いことばかりだった。
「俺はここが火星のどこか……と踏んでいたんだが、どうやら違うらしい。
まぁ、あんなオーバーテクノロジーを見せられりゃあ、ここが宇宙の果てにあるって言われも納得だがな」
日が昇りはじめ、少しずつ青く明るくなってきた空を見ながら男はそんなことを言った。
なんでも、見えるはずの衛星が見えず、太陽の大きさも彼が知るものとは違うらしい。
それにチェスは正直に驚いた。せいぜい半世紀ぐらいまでのギャップだろうとこの舞台から予測していたのだが、
話を聞いている限りでは少なくとも彼と自分の間だけでも一世紀以上のギャップがあると感じられた。
錬金術師としての好奇心から、チェスは男に対し自分の素性を明かしさらに話を求めた。
1930年代のアメリカ出身ということを聞き、彼は驚き、またカウボーイの時代より少しズレていることを残念がったが、
チェスの目に子供らしい好奇心の光が浮かんでいることに気付くと、喜んで話を続けた。
その表情は演技でしかなかった――そのつもりだったが、いつしかそれが本物の表情になっていることにチェスは気付く。
不意に、まだ不死者になる前、大人の錬金術師達の間を駆けていた頃のことを思い出す。
その頃はずっとこうだったと。好奇心を刺激し、そして満たすものに囲まれて幸せだった。恐ろしい物など何も知らず――。
「……どうした? 疲れたのか」
不意に表情が曇ったチェスの顔をジェットは心配そうに覗き込む。
チェスはううんと首を振ると、表情を戻して再び彼に未来の話をねだった。
しかし、今度の表情こそ本当に作り物で、心の中はさっきとは真逆に冷めたものへと変わっていた。
「(……そうだ。心を許せる相手なんていない)」
どんな善良そうな人間であろうと、一度皮を捲ればその中にはおぞましいもので溢れかえっている。
それをチェスはいやというほどよく知っている。自分を保護してくれていた彼を「喰った」あの時から、
そしてそれからの約200年の歳月を経て自分の中で育った暗黒の心を見て。
◆ ◆ ◆
途切れた会話は、不意に鳴り響いた列車の走る音が消えた後に再会される。
今度のは、未来や過去の話ではなく、現在の話だった。
「――と考えているんだ。これはただの生き残りを選び出すための実験じゃあないってな」
ジェットがチェスに語ったのは、彼が推測する螺旋王の目的だった。
彼はこの殺し合いを実験と称し、「螺旋遺伝子」と言うジェット達にとっては未知の「何か」を探ろうとしている。
それが、単純な殺し合いの中で見つかるものではないことは明白だと言っていい。
殺し合いならば、あの集められていた場所で行えばよかった。こんな複雑な舞台を用意する必要はない。
だがそれだけだと、螺旋王はサバイバル要素を組み込んでいるだけでないのかと反論されるだろう。
しかし、ジェットには幸運なことにヒントが与えられていた。
それは――彼に支給されたアンチシズマ管と、映画館のスクリーンに映し出されたその内容だ。
殺し合いとは全くの無縁。それでいて意味深なそれが、この実験において何を意味するのか……。
「螺旋王という男は、俺たちがこの殺し合いの中で「何か」を見つけることを求めているのかもしれない。
それが何なのかは、全く見当もつかないがな……」
螺旋王は実験と称し、殺し合いを自分達に命じた。
だが、実験と言うならばモルモットである自分達にその本当の目的が教えられていなくても当然なのだ。
殺し合いで最後の一人を選び出す――それは参加者に課せられた目的でしかない。
「それとな。俺はこれを見て気付いたんだ」
言いながらジェットが取り出したのは、全員に同じものが配布されている実験場の地図だった。
そこには簡略化された地形と、主だった道路。そしていくつかの施設の位置が記されている。
「思えば、こいつは不自然な地図なんだ」
ジェットが語るのは、そこに記された施設についてだった。
彼は語る。選出された施設には何らかの意味があると。
辺りを見渡せば、街中には大小様々な建物が犇めいている。
それらの内には、地図に記されていてもおかしくないであろう特徴的な建物も散見される。
ならば、地図に記された施設とそうでないもの差は一体何なのか――?
「さっきも言ったが、俺は映画館の中で映画を見た。
つまり、あの映画館は施設としてある種の機能を果たしていた……と考えられる。
逆に、地図に記されていない建物にはその気配がない。さっきのカフェのようにな」
つまり、地図に記された施設には「何か」がある。
そして、螺旋王は参加者達が「何か」を見つけ出し「何らか」の目標を達成することを目論んでいる。
何か、何かばかりで全くピースの揃っていない論だが……、
「少なくとも、殺し合いに興じているよりは真っ当だと思えるだろう?」
と、ジェットは締めくくった。
「……じゃあ、あそこにもその「何か」があるの?」
チェスが指差す先。そこには地図に記された施設の一つ――「螺旋博物館」が静かに建っていた。
【D-4/博物館前/1日目-朝】
【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、アゾット剣@Fate/stay night
薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本:最後の一人になる。または、何らかの方法で脱出する
1:ジェットと同行し、彼に守ってもらう
2:ゲームのクリア、または脱出に役立ちそうな人間と接触し利用する
3:不死者かもしれない人物を警戒(アイザック、ミリア、ジャグジー)
4:未知の不死者がいないか警戒(初対面の相手には偽名を名乗る)
5:ゲームに乗った人間はなるだけ放っておく
[備考]
※なつき、ジェットにはドモン・カッシュと名乗っています
※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません
※ジェットと情報交換をし、カウボーイビバップの世界の知識をある程度得ました
【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:コルトガバメント(残弾:6/7発)
[道具]:デイバック、支給品一式(ランダムアイテム0~1つ 本人確認済み)
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
[思考]
基本: 情報を集め、この場から脱出する
1:博物館内を調べる
2:情報を集めるために各施設を訪れる
3:ドモン(チェス)を保護
4:出会えればティアナを保護
5:謎の爆弾魔(ニコラス)を警戒
6:仲間(スパイク、エド)が心配
[備考]
※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます
※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません
※チェスと情報交換をしました
*時系列順で読む
Back:[[ジャミング・ウィズ・エドワード]] Next:[[貴方の描いた明日へ向かいます]]
*投下順で読む
Back:[[ジャミング・ウィズ・エドワード]] Next:[[貴方の描いた明日へ向かいます]]
|088:[[阿修羅姫(後編)]]|チェスワフ・メイエル|149:[[螺旋博物館Ⅱ]]|
|088:[[阿修羅姫(後編)]]|ジェット・ブラック|149:[[螺旋博物館Ⅱ]]|
**まだ静かな朝 ◆AZWNjKqIBQ
運命の流れというものに導かれたかのように、ゆらりゆらりと彼や彼女たちはそこに辿り着いた。
そしてその偶然による一時の交錯は、彼や彼女たちの運命を一纏めに捻り込みその場に大きな螺旋を描かせた。
一瞬、激しく強く内側へと巻かれた螺旋は巻き込まれた者をズタボロにし、その反動から外向きの力へと転じると
彼や彼女たちをそのままの状態でその場から四方八方へと突き放した。
その跡に残されたのは、螺旋の力に運命を断ち切られた不幸な少年と少女。
そして、未だ傍観者でしかない二人――
◆ ◆ ◆
ジェット・ブラックは、爆発の痕が生々しい現場より100メートルほど離れた一軒のカフェの中にいた。
そして、彼の前にはテーブルを挟んで少年――チェスワフ・メイエルが身を固くして座っている。
純英国風で、微かにコーヒー豆の香りが漂う店内ではあったが、二人の前にカップはない。
落ち着いて珈琲の味や香りを楽しむ余裕などはないからだ。
◆ ◆ ◆
「こんな状況ではあるが、まずは落ち着いて欲しい。
俺の名前は、ジェット・ブラック。君の名前も聞かせてもらえるかな……?」
静かに、徒に相手を刺激しすぎないよう、ジェットは目の前の少年に話しかけた。
これは被疑者を問い詰めるためのそれではない。被害者より事情を聞きだすための手法だ。
目の前の少年はか細い声で「ドモン・カッシュ」と名乗った。
ジェットは頭の中でそれが記憶した名簿の中に存在することを確認すると、改めて少年の様子を観察する。
握った拳を膝の上に置いたままで固まっており、一見して緊張していることが窺える。
無理もない。自分が被害にあったというだけでなく、あそこには無残な子供の死体が二つもあった。
一つ間違えば自分も……と考えれば、恐怖におかしくなってしまっても仕方がないぐらいだ。
だが、喋る時にはおずおずとだがこちらへと顔を向けて目を合わせてくれた。
少なくとも自分は少年から殺人者の類としては見られていない。
それに安堵すると、ジェットは次の質問を少年へとぶつける。
「君がどこから、どうしてあそこに来たのか……それを聞かせてくれるかな?」
いきなり事件のことを問い質したりはしない。それだと少年にフラッシュバックを起こさせる可能性があったし、
彼が冷静であったであろう頃の事から順序立てて語って貰った方が、記憶に混乱を生じさせづらい。
ゆっくりしている時間はないが、強いては事を仕損じるし、新しく余計な問題を抱えかねない。
ジェットはゆっくりと根気強く少年に記憶を辿らせ、あの場所で彼が体験したことを聞きだすことに成功した。
「……君が何かが倒れる物音に気付いてあそこに行ってみると、そこにあの少年が倒れていた。
そして、彼を助けようと近づくとそこで爆発が起き――君はそこで気絶してしまった」
そういうことか? と問い直すと、少年はコクリと頷きそれを肯定した。
記憶の中にある現場の状況、そして目の前の少年の証言。それらを総合してジェットは推理する……
恐らくは最初に少女の遺体が道路の真ん中に置かれていたのであろう。
そこにバイクで通りかかったあの少年はそれに驚きそこで転倒――そしてそこに爆弾が投げ込まれる。
注意を引くもので相手の動きを止め、仕留める。簡単なブービートラップだ。
そして、目の前の少年は幸か不幸か事の終わりに居合わせてしまった……
下手人は――全くの不明。
証言者である少年が気絶していたためにそいつが何者なのかは分からない。
分かるのは、そいつが殺し合いを行うという事になんら躊躇がなく、罠を張るなどその種の経験を積んでいること。
そして、未だこの近くに潜んでいるかもしれないということだけだ。
◆ ◆ ◆
事の終わりにやってきたその大柄な男は、自分に怪我がないことを確かめると急いで現場より引き離し、
カフェの中の椅子に座らせるとゆっくりと丁寧に話しかけてきた。
浮ついたところが全く感じられない事から、相当の修羅場を潜っているのだろうということが見て取れ、
それとなしに尋ねてみると、元警官であり、今は賞金稼ぎ――バウンティハンターをしているのだと教えてくれた。
なるほど……と、心の中だけで薄く笑った。これは当たりの可能性が高いと……
チェスワフ・メイエルは目の前の男に観察されていることを認識しながら、相手を観察していた。
決して自分の中身には気付かれぬよう、ひっそりと……静かに……
「……僕は、ドモン・カッシュ……です」
男に名前を尋ねられた時、チェスは再びドモンという名前を偽名として使用した。
今後のことを考えれば、できるだけ嘘による矛盾を作らない方が好ましいという判断だ。
そして、偽名が名乗れた事。つまりは相手が不死者でない事に心の中だけでひっそりと安堵する。
続けて尋ねられたのは、どこにいて、どうしてあそこに辿り着いたのかということだった。
それにチェスは、適度に言葉を詰まらせ、恐怖に身を振るわせる少年を演じながら答えた。
話すべき回答に関しては、このカフェに辿り着くまでの短い間に組み立て終わっている。
重要なのは、殺し合いに乗った者を目の前の男に追わせないということ。
そのために、自分を殺そうとした女のことは存在しないものとした。
恐らくは、すでに死んでいた少年を殺害した者が彼女以外に存在したはずだが、そちらは元より見ていないのでそのまま答える。
目の前の男は話を聞き終わると、手に持った拳銃を確認しながら思案している。
あの状況と、適度に調整された情報。既知の知識によるブレはあるだろうが、恐らくは狙ったとおりに思考しているはず。
思案を終えた男と二、三言交わしてそれを確信すると、チェスはあどけない子供という仮面の下でほくそえんだ。
◆ ◆ ◆
映画館の近くで起こった事の顛末をあらかた確認すると、大男と少年の二人組は潜んでいたカフェから通りへと出た。
「さっき、走っていったお姉さんを探すんだよね?」
「ああ。あんな状態じゃあ、危なっかしくて仕方がないからな」
半狂乱の状態で走り去っていってしまったティアナ・ランスター。
彼女が向かった南西の方角へと二人は通りを行く。だが、ジェットの方はともかく、チェスには彼女を探し出すつもりはなかった。
人死にを目の当たりにしたぐらいで取り乱す小娘など、仲間に加えたところで何の利もない。それどころか害ですらある。
カフェを出る前にそれを自分から提案したのは、あくまで殺し合いに乗った者達から離れるための方便だ。
そして、カフェの中でたどたどしい振りをして十分に時間を稼いだ。この後、あの娘と出会う可能性は低い。
そうチェスは考えている。そして実際に、二人が行く先に彼女の姿を捉えることはできなかった。
――そして出立してよりすぐ、丁度6時を迎えた時。あの螺旋王を名乗った男の声が通りに大きく響き渡った。
◆ ◆ ◆
脱落者は九人。
その気になっている奴はそれなりにいるということ。それはあの惨状を思い返せばいやという程解ることだった。
幸いなことにスパイクやエドの名前は呼ばれなかったが、自分も含めて安全が保証されたという訳でもない。
ジェットは、流れ終わった放送に憂鬱と微妙な安堵が交じり合った溜息を零した。
ティアナと名乗った少女が口にしたキャロという名前。
それが螺旋王の口より死者と告げられたからには、先刻の彼女の発言は不幸にも正しかったという事になる。
ただでさえ精神失調状態である彼女がその事実を確定されればどういったことになるか……
だが、その身を案じるジェットの目に彼女の姿は捉えられない。
あの現場より1キロメートル程先、駅も近くになるつれ大きく派手な建物が目に付くようになってきた。
その内のどこに彼女が潜んでいるのか、はたまた彼女は全く別の方向へと向かってしまったのか、それは見当もつかない。
目に入る街の様子は賑やかだったが、空間は静寂に包まれていた。
聞こえるのは自分と少年の足音のみ……と、大きな音がジェットの耳に飛び込んでくる。
その方向、駅の方へと視線をやればそこから抜け出ていく一本の列車の姿が確認できた。
そして二人が見守る中、それは程無くして北方へと姿を消す。
(……やはり、列車は運行されていたのか)
ジェットはこの実験に対する自分の読みが正しかったことを確認し、その手ごたえに口の端を歪ませた。
だが、列車に関しては今考えることではない。それは、また後にでも確認できる。
列車が走り去った方から視線を外し、同行する少年を促すと、ジェットは再び静寂に包まれた街を先に進んだ。
◆ ◆ ◆
螺旋王による放送が終わりを告げた時、チェスは目に見える形でほっと胸をなでおろした。
それは同行する男に対して答えた、「知人に死者がいなくてよかった」ということではなく、
自分が名前を借りているドモン・カッシュが呼ばれなかったことに対してだ。
最初に偽名を使った時から危惧していたことだが、取りあえずは難を逃れたことにチェスは安堵する。
ばれたらばれたで、誤魔化す方法は考えているがばれないというのなら、それに越したことはない。
それから後、チェスのゆっくりとした歩みに合わせてくれている男は、彼に対して非常に饒舌だった。
恐らくは、常に話しかけることで不安に怯える子供をあやしているつもりなのだろうとチェスは受け取ったが、
その彼の口から語られる話は、情報としても中々に面白いことばかりだった。
「俺はここが火星のどこか……と踏んでいたんだが、どうやら違うらしい。
まぁ、あんなオーバーテクノロジーを見せられりゃあ、ここが宇宙の果てにあるって言われも納得だがな」
日が昇りはじめ、少しずつ青く明るくなってきた空を見ながら男はそんなことを言った。
なんでも、見えるはずの衛星が見えず、太陽の大きさも彼が知るものとは違うらしい。
それにチェスは正直に驚いた。せいぜい半世紀ぐらいまでのギャップだろうとこの舞台から予測していたのだが、
話を聞いている限りでは少なくとも彼と自分の間だけでも一世紀以上のギャップがあると感じられた。
錬金術師としての好奇心から、チェスは男に対し自分の素性を明かしさらに話を求めた。
1930年代のアメリカ出身ということを聞き、彼は驚き、またカウボーイの時代より少しズレていることを残念がったが、
チェスの目に子供らしい好奇心の光が浮かんでいることに気付くと、喜んで話を続けた。
その表情は演技でしかなかった――そのつもりだったが、いつしかそれが本物の表情になっていることにチェスは気付く。
不意に、まだ不死者になる前、大人の錬金術師達の間を駆けていた頃のことを思い出す。
その頃はずっとこうだったと。好奇心を刺激し、そして満たすものに囲まれて幸せだった。恐ろしい物など何も知らず――
「……どうした? 疲れたのか」
不意に表情が曇ったチェスの顔をジェットは心配そうに覗き込む。
チェスはううんと首を振ると、表情を戻して再び彼に未来の話をねだった。
しかし、今度の表情こそ本当に作り物で、心の中はさっきとは真逆に冷めたものへと変わっていた。
(……そうだ。心を許せる相手なんていない)
どんな善良そうな人間であろうと、一度皮を捲ればその中にはおぞましいもので溢れかえっている。
それをチェスはいやというほどよく知っている。自分を保護してくれていた彼を「喰った」あの時から、
そしてそれからの約200年の歳月を経て自分の中で育った暗黒の心を見て。
◆ ◆ ◆
途切れた会話は、不意に鳴り響いた列車の走る音が消えた後に再開される。
今度のは、未来や過去の話ではなく、現在の話だった。
「――と考えているんだ。これはただの生き残りを選び出すための実験じゃあないってな」
ジェットがチェスに語ったのは、彼が推測する螺旋王の目的だった。
彼はこの殺し合いを実験と称し、「螺旋遺伝子」というジェット達にとっては未知の「何か」を探ろうとしている。
それが、単純な殺し合いの中で見つかるものではないことは明白だと言っていい。
殺し合いならば、あの集められていた場所で行えばよかった。こんな複雑な舞台を用意する必要はない。
だがそれだけだと、螺旋王はサバイバル要素を組み込んでいるだけでないのかと反論されるだろう。
しかし、ジェットには幸運なことにヒントが与えられていた。
それは――彼に支給されたアンチシズマ管と、映画館のスクリーンに映し出されたその内容だ。
殺し合いとは全くの無縁。それでいて意味深なそれが、この実験において何を意味するのか……
「螺旋王という男は、俺たちがこの殺し合いの中で「何か」を見つけることを求めているのかもしれない。
それが何なのかは、全く見当もつかないがな……」
螺旋王は実験と称し、殺し合いを自分達に命じた。
だが、実験と言うならばモルモットである自分達にその本当の目的が教えられていなくても当然なのだ。
殺し合いで最後の一人を選び出す――それは参加者に課せられた目的でしかない。
「それとな。俺はこれを見て気付いたんだ」
言いながらジェットが取り出したのは、全員に同じものが配布されている実験場の地図だった。
そこには簡略化された地形と、主だった道路。そしていくつかの施設の位置が記されている。
「思えば、こいつは不自然な地図なんだ」
ジェットが語るのは、そこに記された施設についてだった。
彼は語る。選出された施設には何らかの意味があると。
辺りを見渡せば、街中には大小様々な建物が犇めいている。
それらの内には、地図に記されていてもおかしくないであろう特徴的な建物も散見される。
ならば、地図に記された施設とそうでないものの差は一体何なのか――?
「さっきも言ったが、俺は映画館の中で映画を見た。
つまり、あの映画館は施設としてある種の機能を果たしていた……と考えられる。
逆に、地図に記されていない建物にはその気配がない。さっきのカフェのようにな」
つまり、地図に記された施設には「何か」がある。
そして、螺旋王は参加者達が「何か」を見つけ出し「何らか」の目標を達成することを目論んでいる。
何か、何かばかりで全くピースの揃っていない論だが……
「少なくとも、殺し合いに興じているよりは真っ当だと思えるだろう?」
と、ジェットは締めくくった。
「……じゃあ、あそこにもその「何か」があるの?」
チェスが指差す先。そこには地図に記された施設の一つ――「螺旋博物館」が静かに建っていた。
【D-4/博物館前/1日目-朝】
【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、アゾット剣@Fate/stay night
薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本:最後の一人になる。または、何らかの方法で脱出する
1:ジェットと同行し、彼に守ってもらう
2:ゲームのクリア、または脱出に役立ちそうな人間と接触し利用する
3:不死者かもしれない人物を警戒(アイザック、ミリア、ジャグジー)
4:未知の不死者がいないか警戒(初対面の相手には偽名を名乗る)
5:ゲームに乗った人間はなるだけ放っておく
[備考]
※なつき、ジェットにはドモン・カッシュと名乗っています
※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません
※ジェットと情報交換をし、カウボーイビバップの世界の知識をある程度得ました
【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:コルトガバメント(残弾:6/7発)
[道具]:デイバック、支給品一式(ランダムアイテム0~1つ 本人確認済み)
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
[思考]
基本:情報を集め、この場から脱出する
1:博物館内を調べる
2:情報を集めるために各施設を訪れる
3:ドモン(チェス)を保護
4:出会えればティアナを保護
5:謎の爆弾魔(ニコラス)を警戒
6:仲間(スパイク、エド)が心配
[備考]
※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます
※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません
※チェスと情報交換をしました
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