「肉はない。が、監視はある」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「肉はない。が、監視はある」(2022/08/06 (土) 22:53:21) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**肉はない。が、監視はある ◆5VEHREaaO2
太陽が湧き、月が沈もうとしていた。
黒い夜空を引きつれ夜の太陽は西へと沈み、昼の月が東より昇り赤い空を生み出そうとしていた。
そんな太陽の方向へと連れ立って進む人間が二人いた。
先頭で歩くはアフロで青いスーツを着た男、その後ろにいるのは長髪に白いコートを着た女であり、
静寂を守るように佇む街中を進んでいた。
そんな二人が街中を歩んでいるときだった。突如として静寂を打ち破る音が響き渡ったのは。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
珍妙な音が二重に響き渡った。その音は人間が空腹時に消化器官から発せられる腹鳴り。
通称『腹の虫が鳴く』。
「腹減ったー」
男は現在の自身の状況を言葉で表す。
男の名はスパイク・スピーゲル。
ビバップ号で肉なしチンジャオロース等の貧乏メニューが主食のカウボーイ。
女の名は読子・リードマン。
本を読むためならば、三大欲求の一つである性欲を消去し、残り二つの睡眠欲や食欲すら忘却するビブリオマニア。
バトルロイヤル開始から数時間しか立っていないとはいえ、胃袋に元々何も入っていなかった二人に空腹が訪れるのは必然であった。
無論二人のデイパッグの中には他の参加者同様に食料品が支給されている。
とはいえ、スパイクの方は移動中に食料を摂取していた。
故に空腹感が強かった。摂取した量は雀の涙のため、余計に空腹感が襲ってくるのだ。
というよりも肉がなければ喰った気がしない。
さらに、水以外の食料と呼べるものは失われているという事実が拍車をかける。
「なあ、リードマン」
スパイクは何気なく読子に声を掛ける。
別に何か意味があったわけではない。侘しさを紛らわしたかっただけである。
だがすぐには読子は反応を返さなかった。
「おい、リードマン」
スパイクはもう一度読子の名を呼ぶ。
だが5秒、10秒とスパイクが待っても反応はない。
腹の虫が二重に聞こえた以上は、後ろから付いてきているはずだ。
そうぼんやりと考えながら、スパイクは後ろへと振り向いた。
そこにはやはり読子・リードマンがいた。
ただし、本を読みながら歩くという本好きにも程がある所業をしていたが。
「………」
スパイクは絶句する。すでに認知はしていたがこの女はどれだけ本好きなのかと。
転んだらどうする? 逸れたらどう合流する? ふだんからこうなのか?
スパイクの心の中で、リードマン株がアメリカの大恐慌も真っ青になる勢いで暴落していく。
「もう少ししっかりしろよ」
再び足を進めながら、呆れた口調で呟く。
もちろん、本のページをめくる音しか返ってこなかった。
数歩進み、無言でスパイクは立ち止まった。
もし自分が先導しなければこの女はどうするんだろう、という知的好奇心が彼の中で渦巻く。
そして、スパイクはあっさりと誘惑に負けた。
スパイクは横へと退き、読子に道を譲る。
読子はスパイクの前を通り過ぎ、先へ先へと歩いていった。状況の変化にも気づかずに。
「……よくついて来れたな」
あえて、口に出し嫌味を言う。だが読子はなんの反応も返さず本を読み続ける。
恐ろしい程の集中力である。思わず嗜虐新がそそられるほどの。
「何の反応も返さねえといたずらしちまうぞ」
そう言ってみる。返事は当然のことながら無し。
スパイクはにやりと笑う。お前が悪いんだぜと、心の中で呟きながら。
背後へと周り歩調を合わせ、いたずらをしようと身構える。
さて、何をしてやろうか?
借りを返す主義である以上は、先ほどの紙斬撃未遂のおかえしぐらいはしておきたい。
メガネをずらす。いや駄目だ、さきほどのように反撃されかねない。
巨大な胸を揉む。これも駄目だ、セクハラで訴えられれば普通に裁判直行コースだ。
チョップでもかます。泣き出したりしたら、あやすのがめんどくさい。
etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ある程度考えいくつかの案を出してはみたが、ほとんど没となった。
どうやら割と出来ることは少なそうだ。とりあえずは、餓鬼の悪戯レベルで勘弁してやることにする。
リードマンのデイパッグの中にわざと乱暴に手を突っ込む。だが反応はない。
乱雑にデイパッグの中からペンダントを抜き出す。やはり反応はない。
ペンダントのホックを外し首へと掛ける。もちろん反応はない。
首紐に掛かる形となった長い黒髪を外へと出す。当然のことながら反応はない。
本を読んでいる間はもっと刺激的なことをしなければ反応はないようだ。
きっと本読み発電という装置があれば、この女は最高の素体だろう。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
再び、二人仲良く腹の虫が鳴く。やはり暇つぶしでは腹は膨れない。
本を読んでも腹は膨れない。大食漢というわけではないがあの程度では腹は膨れない。
ならばどうすればいいか?
決まっている。どこからか食料を調達してしまえばいい。
「さて、うまい飯はどこにある?」
スパイクは読子の後に続きながら、右手の親指を目頭に当て、辺りに視線を彷徨わせる。
「おや?」
そして、前方数十mの所にある、鮮やかな赤色に縦に黒井文字が書かれている旗を見つけた。
その旗は数本あり、こんな文字が載っていた。
『一番人気 尾道ラーメン 600円』
『昼食にお勧め 店長自慢のカレーライス 500円』
スパイクは思わず笑みを浮かべる。
これで空腹からオサラバダ。チャーシューメンイタダキマス。カツカレーハオレノモノ。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
同時に腹の虫も鳴る。まるで自身を満たす強敵を見つけ、歓喜する武道家のごとく。
スパイクは今だ本を読みながら歩く読子の首を、チョークリッパーを仕掛けるがごとく二の腕で締め上げる。
「てりゃ!」
「わっ!? いきなりなんですか?」
読子はいきなりのスパイクの暴力に講義の声を上げ、手足をじたばたと動かしながら抵抗を試みる。
だがスパイクは、そんな読子のささやかな抵抗すら力技でねじ伏せ、ラーメン屋と思われる建物へと引っ張っていく。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
「ラーメンですね」
読子は腹の虫を鳴かせながら、目の前の店を見てそう呟く。
「食べたいな~」
さすがの彼女も本の虫状態を中断されれば、食欲も湧き上がる。
「でも、誰もいませんね」
ガラス張りであるため、店内は外から丸見えである。
故に誰もいないことが見受けられた。それは客どころか料理人すらいないという事実を指している。
とはいえ、二人は質を追い求めるわけではないので、煮込んだチャーシュー程度充分であるので
入らないという選択肢は両名の頭には存在しない。逆に、ただ飯にありつけるというものだ。
そして、スパイクには料理に対する秘策があった。
「昔の偉い人はこう言った。料理は女の仕事」
彼の相棒が聞いたら泣き出し、家事を放棄するような台詞をぬけぬけと言い放った。
スパイクは読子に料理を作らせ、自分はノウノウと結跏趺坐の行をするつもりなのだ。
「あのぅ。コックさんは男の人が多いらしいですよ」
スパイクの男女差別極まった暴論に、どこかピントのずれた答えを読子は返す。
いまだ、スパイクの企みなど知らぬまま。
「料理の本ぐらい読んだことあるだろう?」
「……ありますけど」
「なら作れる」
「む、無理です。私生まれてこのかた……」
陰謀に気付いた読子の鼻先にスパイクは右掌を突きつける。読子は思わず黙ってしまった。
そして、戸惑う読子の言葉を片手で制した男は口を開く。
「偉大なるブルース・リー師父はこう言った」
「あのぅ。それってまさか……」
「考えるな、感じるんだ」
「暴論ですそれ」
そんなやり取りをしつつ、頭をホールドされている女と年上の婦女を捕まえた男は店内へと入っていった。
ちなみに店名は『全国のラーメンが楽しめる店倉田屋』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
八神はやては項垂れながら街中を歩いていた。
親に見捨てられた子供と思えるほどに覇気を失いながら、北へと進んでいた。
クロとの約束を守るために。
いや、クロとの約束がただ一つの自身を現世に繋ぎつける糸であるかのごとく、
観覧車へと向かうルートを歩んでいた。それ以外にはやてにできることはなかった。
言峰綺礼の言葉に縛られるはやてには、クロとの約束以外のことを考える余裕はなかった。
故に、ここにつれてこられてから、初めて無警戒に行動していた。
言峰綺礼の呪は、はやての思考を縛り短絡化する。
そんなはやてが無用心に歩いている時だった。
道先にある十字路にまっすぐ進んでいく影を見つけたのは。
はやては驚きつつも、慌てて電柱の裏へと隠れる。
影ははやての姿に気付かずに、十字路の右へと進んでいく。
いったい誰だろうか? はやてはそれをまず考える。
はやての眼には、人影は白い長衣を着た人物に見えた。
その白い長衣を着た人物にはやては心当たりがあった。
八神家の一員であり、機動六課の医療担当班に所属する湖の騎士シャマルである。
それは見間違えだったのかもしれない。ただの儚い幻想だったのかもしれない。
はやては心を期待で満たしつつ、曲がり角まで歩み寄り、壁に隠れながらも人影が去っていった方向を覗く。
だがそこには、騎士シャマルはいなかった。
代わりに、アフロの頭に青色のスーツを着た男と、その先を行く長髪で白いコートを着た女が見えただけだった。
どちらも捜し求めた人物でないどころか、クロやパズーや自身が知っている人物ですらない。
はやては失望しつつどうすればいいか迷った。あの二人に接触すべきだろうか?
先ほども二人組を見かけたが、自分では戦闘になった際に対処できないと判断したため会話すらせずに避けた。
だが、あの二人の場合はどうだろうか?
正直に言えば、あの二人が自分より戦力的に勝っているという姿が想像しにくい。
あの男はデバイス無しの自分よりも戦闘能力があるかもしれないとは思える。
しかし、女の方は真逆だ。どう見ても戦闘能力があるとは思えない。
先ほど言峰という戦闘能力がないと思われた神父に手痛い思いはしたものの、それでも女の方を脅威だとは思えない。
正直に言えば魔法無しのリィンフォースⅡですら勝てそうだ。
しかも何か書物を読んでいる。その本が重要であったとしても、あれでは襲ってくださいと言っているようなものだ。
そんなふうに思える女が、足を引っ張らないわけがない。
ここは接触するべきだろうか?
はやてがそんなふうに悩んでいる時だった。突如として変化が訪れたのは。
女の後ろを歩く男が、突然女のデイパッグに手を突っ込んだのだ。
果たしていったい何をしようというのか?
はやてには男の考えなど分からなかった。ある瞬間までは。
男はデイパッグの中から、ワイヤーのような物を取り出すと女の首へと掛けた。
はやては突然のことに驚きつつ、とっさに男へと銃を向ける。
男は女の首をワイヤーで絞めるつもりなのだ。
ゆえにはやては防ごうとした。この距離で当るかどうかも考えずに。
『誰かを否定することでしか肯定できぬ願望があるのなら、
何を躊躇うこともない。自らの意思で他者を蹴落とし、その先へと進みたまえ』
だが撃てない。はやては弾金を引くことができない。
言峰の呪が頭に響き、行動を阻害する。
他者の願いを否定するほど自身の信念は正しいのか?
優勝して願いを叶えるのは、間違っているのか?
今までのはやての人生を否定するような疑問が、彼女の行動を縛る。
しかし、はやてが弾金を引く必要はなかった。
女の首に手を掛けていた男は、あっさりと女から身を離し、辺りを見回していた。
いったい何なのだろうか? はやては状況が悪い方向に流れなかったことに安堵しつつも疑問に思う。
が、はやてがホッとしたのもつかぬまに男はすぐさま女にヘッドロックを掛けた。
首を絞め殺すつもりか!?
はやては再び岐路に立たされた。と思った。
だが男は、じたばたともがく女を引き釣り、飲食店の中へと入っていった。
あの男はいったい何がしたいのか? はやてには理解できない。
故にはやては想像する。あの男がこれから女性に何をするのかを。
薄暗い店内。二人きりの男女。自分より2,3歳ほど年上と思われる弱そうな女性。
推定85と思われる男を惑わす巨峰。男のにやりといやらしく笑う唇。殺し合いという極限空間。
殺せるチャンスなどいくらでもある状況で、男が女を捕まえる意味。
それらから、はやては結論を出した。
あの男は婦女暴行をしようとしているのだ。
はやては非男性経験が19年の処女であるものの、れっきとした女である。
人気の無い店で、あの男が女に何をするかは簡単に想像が付く。
薄暗く数坪ほどの狭い店内へと無理矢理連れ込まれる女。そこには誰も助けなど来なず、逃げ場すらない。
その場で、男は銃を突きつけ女に要求するのだ。
服を脱げ、下着を脱げ、俺に奉仕しろと。
女は泣き叫び、髪をつかまれ、床に押し倒されつつも必死に抵抗する。
だが抵抗むなしく、後には白い液体塗れになった女が店内に残された。
そんな状況を思い浮かべると、生理的嫌悪と共に寒気がしてくる。
生まれ故郷の大阪でも同じような事件が起こったことを考えると、この答えは間違ってはいないだろう。
ならばどうするか?
果たして、婦女暴行を阻止するべきなのだろうか?
はやては悩む。それは言峰綺礼の呪の範囲外の悩み。
80人を殺害し優勝という希望を得ようとしているわけではなく、世界の運命などまったく左右されない婦女暴行。
たった一人の女性の運命とその周囲の人物の感情しか狂わない事態。
はやては憤り、胸を切り裂かれる思いとなり、女性としての嫌悪感を感じ、
言峰の言葉を思い出し、守るという行為に対する疑念を感じ、悩む。
「……私はどうすればええんやろう?」
そして、彼女の下した結論は―――――――――
【G-4ラーメン屋店内 一日目・早朝】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:腹減ったー
[装備]:デザートイーグル(残弾8/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式(食料なし)
[思考]
1.オンセンに行く前に腹ごしらえ。料理はリードマンに作らせる。
2.とりあえずオンセンに行ってから帰る。
3.読子と一緒に行動してやる。
【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:お腹空きましたー
[装備]:○極○彦の小説、飛行石@天空の城ラピュタ
[道具]:支給品一式、拡声器
[思考]
1.○極○彦先生の本を読破する。
2.温泉に行く前に腹ごしらえ。
3.スパイクと一緒に温泉に行ってから帰る。
【G-4ラーメン屋から少し離れたところ 一日目・早朝】
【八神はやて@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康
[装備]:トリモチ銃@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式 レイン・ミカムラ着用のネオドイツのマスク@機動武闘伝Gガンダム
[思考]
1.婦女暴行を阻止するかどうか迷う。
2.自分の信念が正しいのかという迷い。困惑。
3.東回りに観覧車へ。クロと合流する。
4.主催者を逮捕するのは、果たして正しいのだろうか?
※ムスカを危険人物と認識しました
※シータ、ドーラの容姿を覚えました。
※モノレールに乗るのは危険だと考えています。
※言峰については、量りかねています。
*時系列順で読む
Back:[[世界の中心で、叫ぶ]] Next:[[阿修羅姫(前編)]]
*投下順で読む
Back:[[世界の中心で、叫ぶ]] Next:[[阿修羅姫(前編)]]
|059:[[本を取り戻せ]]|スパイク・スピーゲル|095:[[倉田屋で会いましょう]]|
|059:[[本を取り戻せ]]|読子・リードマン|095:[[倉田屋で会いましょう]]|
|072:[[一日目・森林/オルター・エゴ]]|八神はやて|095:[[倉田屋で会いましょう]]|
**肉はない。が、監視はある ◆5VEHREaaO2
太陽が湧き、月が沈もうとしていた。
黒い夜空を引きつれ夜の太陽は西へと沈み、昼の月が東より昇り赤い空を生み出そうとしていた。
そんな太陽の方向へと連れ立って進む人間が二人いた。
先頭で歩くはアフロで青いスーツを着た男、その後ろにいるのは長髪に白いコートを着た女であり、
静寂を守るように佇む街中を進んでいた。
そんな二人が街中を歩んでいるときだった。突如として静寂を打ち破る音が響き渡ったのは。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
珍妙な音が二重に響き渡った。その音は人間が空腹時に消化器官から発せられる腹鳴り。
通称『腹の虫が鳴く』。
「腹減ったー」
男は現在の自身の状況を言葉で表す。
男の名はスパイク・スピーゲル。
ビバップ号で肉なしチンジャオロース等の貧乏メニューが主食のカウボーイ。
女の名は読子・リードマン。
本を読むためならば、三大欲求の一つである性欲を消去し、残り二つの睡眠欲や食欲すら忘却するビブリオマニア。
バトルロイヤル開始から数時間しか立っていないとはいえ、胃袋に元々何も入っていなかった二人に空腹が訪れるのは必然であった。
無論二人のデイパッグの中には他の参加者同様に食料品が支給されている。
とはいえ、スパイクの方は移動中に食料を摂取していた。
故に空腹感が強かった。摂取した量は雀の涙のため、余計に空腹感が襲ってくるのだ。
というよりも肉がなければ喰った気がしない。
さらに、水以外の食料と呼べるものは失われているという事実が拍車をかける。
「なあ、リードマン」
スパイクは何気なく読子に声を掛ける。
別に何か意味があったわけではない。侘しさを紛らわしたかっただけである。
だがすぐには読子は反応を返さなかった。
「おい、リードマン」
スパイクはもう一度読子の名を呼ぶ。
だが5秒、10秒とスパイクが待っても反応はない。
腹の虫が二重に聞こえた以上は、後ろから付いてきているはずだ。
そうぼんやりと考えながら、スパイクは後ろへと振り向いた。
そこにはやはり読子・リードマンがいた。
ただし、本を読みながら歩くという本好きにも程がある所業をしていたが。
「………」
スパイクは絶句する。すでに認知はしていたがこの女はどれだけ本好きなのかと。
転んだらどうする? 逸れたらどう合流する? ふだんからこうなのか?
スパイクの心の中で、リードマン株がアメリカの大恐慌も真っ青になる勢いで暴落していく。
「もう少ししっかりしろよ」
再び足を進めながら、呆れた口調で呟く。
もちろん、本のページをめくる音しか返ってこなかった。
数歩進み、無言でスパイクは立ち止まった。
もし自分が先導しなければこの女はどうするんだろう、という知的好奇心が彼の中で渦巻く。
そして、スパイクはあっさりと誘惑に負けた。
スパイクは横へと退き、読子に道を譲る。
読子はスパイクの前を通り過ぎ、先へ先へと歩いていった。状況の変化にも気づかずに。
「……よくついて来れたな」
あえて、口に出し嫌味を言う。だが読子はなんの反応も返さず本を読み続ける。
恐ろしい程の集中力である。思わず嗜虐心がそそられるほどの。
「何の反応も返さねえといたずらしちまうぞ」
そう言ってみる。返事は当然のことながら無し。
スパイクはにやりと笑う。お前が悪いんだぜと、心の中で呟きながら。
背後へと回り歩調を合わせ、いたずらをしようと身構える。
さて、何をしてやろうか?
借りを返す主義である以上は、先ほどの紙斬撃未遂のおかえしぐらいはしておきたい。
メガネをずらす。いや駄目だ、さきほどのように反撃されかねない。
巨大な胸を揉む。これも駄目だ、セクハラで訴えられれば普通に裁判直行コースだ。
チョップでもかます。泣き出したりしたら、あやすのがめんどくさい。
etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc,etc
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ある程度考えいくつかの案を出してはみたが、ほとんど没となった。
どうやら割と出来ることは少なそうだ。とりあえずは、餓鬼の悪戯レベルで勘弁してやることにする。
リードマンのデイパッグの中にわざと乱暴に手を突っ込む。だが反応はない。
乱雑にデイパッグの中からペンダントを抜き出す。やはり反応はない。
ペンダントのホックを外し首へと掛ける。もちろん反応はない。
首紐に掛かる形となった長い黒髪を外へと出す。当然のことながら反応はない。
本を読んでいる間はもっと刺激的なことをしなければ反応はないようだ。
きっと本読み発電という装置があれば、この女は最高の素体だろう。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
再び、二人仲良く腹の虫が鳴く。やはり暇つぶしでは腹は膨れない。
本を読んでも腹は膨れない。大食漢というわけではないがあの程度では腹は膨れない。
ならばどうすればいいか?
決まっている。どこからか食料を調達してしまえばいい。
「さて、うまい飯はどこにある?」
スパイクは読子の後に続きながら、右手の親指を目頭に当て、辺りに視線を彷徨わせる。
「おや?」
そして、前方数十mの所にある、鮮やかな赤色に縦に黒い文字が書かれている旗を見つけた。
その旗は数本あり、こんな文字が載っていた。
『一番人気 尾道ラーメン 600円』
『昼食にお勧め 店長自慢のカレーライス 500円』
スパイクは思わず笑みを浮かべる。
これで空腹からオサラバダ。チャーシューメンイタダキマス。カツカレーハオレノモノ。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
同時に腹の虫も鳴る。まるで自身を満たす強敵を見つけ、歓喜する武道家のごとく。
スパイクは未だ本を読みながら歩く読子の首を、チョークリッパーを仕掛けるがごとく二の腕で締め上げる。
「てりゃ!」
「わっ!? いきなりなんですか?」
読子はいきなりのスパイクの暴力に抗議の声を上げ、手足をじたばたと動かしながら抵抗を試みる。
だがスパイクは、そんな読子のささやかな抵抗すら力技でねじ伏せ、ラーメン屋と思われる建物へと引っ張っていく。
ぐ~きゅる~る~ぐお~ん
「ラーメンですね」
読子は腹の虫を鳴かせながら、目の前の店を見てそう呟く。
「食べたいな~」
さすがの彼女も本の虫状態を中断されれば、食欲も湧き上がる。
「でも、誰もいませんね」
ガラス張りであるため、店内は外から丸見えである。
故に誰もいないことが見受けられた。それは客どころか料理人すらいないという事実を指している。
とはいえ、二人は質を追い求めるわけではないので、煮込んだチャーシュー程度充分であるので
入らないという選択肢は両名の頭には存在しない。逆に、ただ飯にありつけるというものだ。
そして、スパイクには料理に対する秘策があった。
「昔の偉い人はこう言った。料理は女の仕事」
彼の相棒が聞いたら泣き出し、家事を放棄するような台詞をぬけぬけと言い放った。
スパイクは読子に料理を作らせ、自分はノウノウと結跏趺坐の行をするつもりなのだ。
「あのぅ。コックさんは男の人が多いらしいですよ」
スパイクの男女差別極まった暴論に、どこかピントのずれた答えを読子は返す。
未だ、スパイクの企みなど知らぬまま。
「料理の本ぐらい読んだことあるだろう?」
「……ありますけど」
「なら作れる」
「む、無理です。私生まれてこのかた……」
陰謀に気付いた読子の鼻先にスパイクは右掌を突きつける。読子は思わず黙ってしまった。
そして、戸惑う読子の言葉を片手で制した男は口を開く。
「偉大なるブルース・リー師父はこう言った」
「あのぅ。それってまさか……」
「考えるな、感じるんだ」
「暴論ですそれ」
そんなやり取りをしつつ、頭をホールドされている女と年上の婦女を捕まえた男は店内へと入っていった。
ちなみに店名は『全国のラーメンが楽しめる店倉田屋』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
八神はやては項垂れながら街中を歩いていた。
親に見捨てられた子供と思えるほどに覇気を失いながら、北へと進んでいた。
クロとの約束を守るために。
いや、クロとの約束がただ一つの自身を現世に繋ぎつける糸であるかのごとく、
観覧車へと向かうルートを歩んでいた。それ以外にはやてにできることはなかった。
言峰綺礼の言葉に縛られるはやてには、クロとの約束以外のことを考える余裕はなかった。
故に、ここにつれてこられてから、初めて無警戒に行動していた。
言峰綺礼の呪は、はやての思考を縛り短絡化する。
そんなはやてが無用心に歩いている時だった。
道先にある十字路にまっすぐ進んでいく影を見つけたのは。
はやては驚きつつも、慌てて電柱の裏へと隠れる。
影ははやての姿に気付かずに、十字路の右へと進んでいく。
いったい誰だろうか? はやてはそれをまず考える。
はやての眼には、人影は白い長衣を着た人物に見えた。
その白い長衣を着た人物にはやては心当たりがあった。
八神家の一員であり、機動六課の医療担当班に所属する湖の騎士シャマルである。
それは見間違えだったのかもしれない。ただの儚い幻想だったのかもしれない。
はやては心を期待で満たしつつ、曲がり角まで歩み寄り、壁に隠れながらも人影が去っていった方向を覗く。
だがそこには、騎士シャマルはいなかった。
代わりに、アフロの頭に青色のスーツを着た男と、その先を行く長髪で白いコートを着た女が見えただけだった。
どちらも捜し求めた人物でないどころか、クロやパズーや自身が知っている人物ですらない。
はやては失望しつつどうすればいいか迷った。あの二人に接触すべきだろうか?
先ほども二人組を見かけたが、自分では戦闘になった際に対処できないと判断したため会話すらせずに避けた。
だが、あの二人の場合はどうだろうか?
正直に言えば、あの二人が自分より戦力的に勝っているという姿が想像しにくい。
あの男はデバイス無しの自分よりも戦闘能力があるかもしれないとは思える。
しかし、女の方は真逆だ。どう見ても戦闘能力があるとは思えない。
先ほど言峰という戦闘能力がないと思われた神父に手痛い思いはしたものの、それでも女の方を脅威だとは思えない。
正直に言えば魔法無しのリィンフォースⅡですら勝てそうだ。
しかも何か書物を読んでいる。その本が重要であったとしても、あれでは襲ってくださいと言っているようなものだ。
そんなふうに思える女が、足を引っ張らないわけがない。
ここは接触するべきだろうか?
はやてがそんなふうに悩んでいる時だった。突如として変化が訪れたのは。
女の後ろを歩く男が、突然女のデイパッグに手を突っ込んだのだ。
果たしていったい何をしようというのか?
はやてには男の考えなど分からなかった。ある瞬間までは。
男はデイパッグの中から、ワイヤーのような物を取り出すと女の首へと掛けた。
はやては突然のことに驚きつつ、とっさに男へと銃を向ける。
男は女の首をワイヤーで絞めるつもりなのだ。
ゆえにはやては防ごうとした。この距離で当るかどうかも考えずに。
『誰かを否定することでしか肯定できぬ願望があるのなら、
何を躊躇うこともない。自らの意思で他者を蹴落とし、その先へと進みたまえ』
だが撃てない。はやては引き金を引くことができない。
言峰の呪が頭に響き、行動を阻害する。
他者の願いを否定するほど自身の信念は正しいのか?
優勝して願いを叶えるのは、間違っているのか?
今までのはやての人生を否定するような疑問が、彼女の行動を縛る。
しかし、はやてが引き金を引く必要はなかった。
女の首に手を掛けていた男は、あっさりと女から身を離し、辺りを見回していた。
いったい何なのだろうか? はやては状況が悪い方向に流れなかったことに安堵しつつも疑問に思う。
が、はやてがホッとしたのも束の間に男はすぐさま女にヘッドロックを掛けた。
首を絞め殺すつもりか!?
はやては再び岐路に立たされた。と思った。
だが男は、じたばたともがく女を引きずり、飲食店の中へと入っていった。
あの男はいったい何がしたいのか? はやてには理解できない。
故にはやては想像する。あの男がこれから女性に何をするのかを。
薄暗い店内。二人きりの男女。自分より2,3歳ほど年上と思われる弱そうな女性。
推定85と思われる男を惑わす巨峰。男のにやりといやらしく笑う唇。殺し合いという極限空間。
殺せるチャンスなどいくらでもある状況で、男が女を捕まえる意味。
それらから、はやては結論を出した。
あの男は婦女暴行をしようとしているのだ。
はやては非男性経験が19年の処女であるものの、れっきとした女である。
人気の無い店で、あの男が女に何をするかは簡単に想像が付く。
薄暗く数坪ほどの狭い店内へと無理矢理連れ込まれる女。そこには誰も助けなど来ず、逃げ場すらない。
その場で、男は銃を突きつけ女に要求するのだ。
服を脱げ、下着を脱げ、俺に奉仕しろと。
女は泣き叫び、髪をつかまれ、床に押し倒されつつも必死に抵抗する。
だが抵抗むなしく、後には白い液体塗れになった女が店内に残された。
そんな状況を思い浮かべると、生理的嫌悪と共に寒気がしてくる。
生まれ故郷の大阪でも同じような事件が起こったことを考えると、この答えは間違ってはいないだろう。
ならばどうするか?
果たして、婦女暴行を阻止するべきなのだろうか?
はやては悩む。それは言峰綺礼の呪の範囲外の悩み。
80人を殺害し優勝という希望を得ようとしているわけではなく、世界の運命などまったく左右されない婦女暴行。
たった一人の女性の運命とその周囲の人物の感情しか狂わない事態。
はやては憤り、胸を切り裂かれる思いとなり、女性としての嫌悪感を感じ、
言峰の言葉を思い出し、守るという行為に対する疑念を感じ、悩む。
「……私はどうすればええんやろう?」
そして、彼女の下した結論は―――――――――
【G-4ラーメン屋店内 一日目・早朝】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:腹減ったー
[装備]:デザートイーグル(残弾8/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式(食料なし)
[思考]
1.オンセンに行く前に腹ごしらえ。料理はリードマンに作らせる。
2.とりあえずオンセンに行ってから帰る。
3.読子と一緒に行動してやる。
【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:お腹空きましたー
[装備]:○極○彦の小説、飛行石@天空の城ラピュタ
[道具]:支給品一式、拡声器
[思考]
1.○極○彦先生の本を読破する。
2.温泉に行く前に腹ごしらえ。
3.スパイクと一緒に温泉に行ってから帰る。
【G-4ラーメン屋から少し離れたところ 一日目・早朝】
【八神はやて@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康
[装備]:トリモチ銃@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式、レイン・ミカムラ着用のネオドイツのマスク@機動武闘伝Gガンダム
[思考]
1.婦女暴行を阻止するかどうか迷う。
2.自分の信念が正しいのかという迷い。困惑。
3.東回りに観覧車へ。クロと合流する。
4.主催者を逮捕するのは、果たして正しいのだろうか?
※ムスカを危険人物と認識しました
※シータ、ドーラの容姿を覚えました。
※モノレールに乗るのは危険だと考えています。
※言峰については、量りかねています。
*時系列順で読む
Back:[[世界の中心で、叫ぶ]] Next:[[阿修羅姫(前編)]]
*投下順で読む
Back:[[世界の中心で、叫ぶ]] Next:[[阿修羅姫(前編)]]
|059:[[本を取り戻せ]]|スパイク・スピーゲル|095:[[倉田屋で会いましょう]]|
|059:[[本を取り戻せ]]|読子・リードマン|095:[[倉田屋で会いましょう]]|
|072:[[一日目・森林/オルター・エゴ]]|八神はやて|095:[[倉田屋で会いましょう]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: