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「派閥争いって怖くね?」(2022/07/30 (土) 23:20:25) の最新版変更点
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**派閥争いって怖くね? ◆/eRp96XsK.
――それは不幸な出会いだった、というべきなのだろう。
自らの行使した破壊の力によってバラバラに引き裂かれ、千切れ飛んだ『ソレ』を見下ろしつつスカーはそう思った。
このような場所で、このような瞬間に出会わなければ、『ソレ』はもっと違う未来を迎えることが出来ただろう。
……いや、しかし矢張り同じ結果に終わっていたのかもしれない。なにしろ眼前で無残な姿を晒す『ソレ』は、
国家錬金術師をはじめとしたアメストリス人程ではないにしろ、スカーの――いやスカー”達”の宿敵と言っても過言ではない存在なのだ。
(……考えても詮無きこと、か)
まとまらぬ思考を振り払うかのように、スカーは頭を振るう。
そして、眼前の『ソレ』に頭を垂れ、「すまなかった」と一言呟き、身を翻した。
確かに『ソレ』をはじめとしたモノたちは宿敵だ。だが、国家錬金術師達のように憎しみと憎悪の対象にしている訳ではない。
だからこそ、スカーは『ソレ』に謝罪し、哀悼の意を述べた。
(兎も角、今は体力の回復を第一に考えるとしよう。そして、その間に……)
千切れ飛んだ『ソレ』の目は、ただ月明かりを反射するだけの瞳は、静かにスカーの背を映していた。
■
時は僅かに遡る。
スカーは自らが破壊した倉庫の残骸の中に紛れて体を休め、受けた傷へ適当な処置を施すべく自身のデイパックを開いていた。
最初にこの会場の地図やコンパスを取り出し、次いで参加者名簿、水や簡易食料を取り出していく。
(このような小さいデイパックにどうやればここまで物を収納する事が出来るのか……。
周囲の建物と同じく、己れが知らぬ……いや、アメストリスでは到底有り得ぬ様な技術を使用している、ということか)
やがてスカーはデイパックから一まとめにになったメモ用紙を取り出す。
そしてそれと同時に、そこに書いてある基本支給品の目録の存在に気付いた。
「チ、せめて包帯だけでもあればと思ったが……矢張りそう上手くはいかんか」
そこに書かれていた品物は、全て既に足元に広げてしまっている。
傷の処置を行う為に治療道具が欲しかったところだが、無いのであれば仕方が無い。
ならば、とスカーは唇を湿らす程度に水に口を付けた後、再びデイパックを漁り始める。
参加者達にランダムに配られる別途支給品、その中に治療用の道具、そして戦闘用の武器が含まれている可能性を考慮してのことだ。
しかし、スカーはデイパックの中に入っているであろう武器に期待を寄せてはいなかった。
あの黒の男のような強者が闊歩するこの殺し合いの地では、初めて手に取るような武器よりも、
この破壊をもたらす右の腕と、鍛え上げられた己が体の方が、遥かに信頼に値する。
が、今自分が一体どのような武器を所持しているのかは把握しておいた方がよいだろう。
自らが窮地に陥ったとき、それが活路を切り開く為の標となる可能性もあるのだから。
ほどなくスカーは、デイパックの中から底の浅いダンボールとそれに詰められた果物を取り出す事に成功した。
(……ブドウ、か?)
ダンボールの中に詰められていた果物、それは薄緑の果皮を持つ、白ブドウと思しき物だった。
思しき、とわざわざ付けたのには理由がある。
このブドウの果実は、ひとつの例外も無く全ての果皮に時計のようなものが張り付いていたのだ。
少なくとも、スカーはこのように面妖なブドウを見たことは無いし、聞いたことも無い。
さてどうしたものか、と考えているとダンボールからひらりと紙切れが落ちた。
それを摘み上げ、そこに書かれていた文字を読む。
『時の都アドニス特産・時計仕掛けのブドウ。
最高の収穫時をコンマ一秒も逃す事無く収穫した一品。
この至高の逸品を食す際には一分一秒の間の鮮度落ちにも気を使うように』
…………何なのだろうか、この妙に時間に口うるさい説明書と思しきものは。
これを書いた人物の前で遅刻したらどうなるのやら。いきなり手に持った得物で首を刎ね飛ばすような真似でもしてくるのかもしれない。
それは兎も角、少なくともこれは食しても何の問題も無いらしい。
ならば、とダンボールの中からひとふさ取り出し、実を一つ摘み、口の中に放り込む。
奥歯で実を挟み潰すと、ぷちゅ、という音が聞こえてきそうな心地良い感触ともに、口の中に爽やかな酸味が広がる。
そして、その酸味が口の中を占拠したその時、その酸味の中でほのかな甘みが自己主張を開始した。
甘みはすぐさま勢力を広げ、酸味を飲み込もうとする。しかし酸味も負けじと押し返す。
そのままそれらは混ざり合い、スカーの口内を何ともいえぬ甘酸っぱい味覚で満たしてくれる。
それに少し気を良くしたスカーは、ブドウの実を二度、三度と口へ放り込む。
そしてそれらを咀嚼するうち、妙な事に気付いた。
(このブドウは確かに美味い。だが、何というか……まるで、個性が欠落しているかのようだ)
当然ながら、スカーは美食だのグルメだのという趣味を持ち合わせてはいない。味覚はせいぜい人並みだ。
にもかかわらず、このブドウに対してそのような違和感を抱いた。
舌に自信のある人間ならば、一口目でそれとはまた別の、しかしより確かな違和感を覚えるやも知れない。
……が、いずれにせよこれは美味で、特に体に害となるものは含まれていない、というのは確かな事だろう。
再びもきゅもきゅとブドウを食べつつ、更にデイパックを漁っていく事にする。
そして、次にスカーが引き当てたものは手紙を出す際に使われるものと思われる茶封筒だった。
中には何かがぎっしりと詰まっているらしく、封筒は大きく膨れていた。
少々訝しみながら封を切り、中身を確認する。
その瞬間、スカーの脳髄を雷光が駆け抜けた。
スカーが封筒から取り出したもの、それは写真だった。何十枚もの写真が一括りにされ、封筒の中に入っていたのだ。
そしてそれらの写真の被写体、それは――――――猫、だった。
最初の写真には、寄りかかるようにして玩具の銃を持ち、どこかへ狙いをつけているように見える猫が。
次の写真には、大き目のカップの中に入り、顔だけを覗かせてカメラの方向を向いている子猫が。
その次の写真には、隣に座る猫に顎の下を舐められ、なんとも気持ちよさそうに顔を緩める猫が。
更にその次の写真には、背中にひよこを乗せ、重そうにふらふらしている子猫が。
次の写真にも、その次の写真にも、その次の次の写真にも、なんとも愛らしい猫の姿が映し出されていた。
スカーの手は、それらの写真を確認していくうちに、はっきりそうと分かるほど震え始めた。
この殺し合いの場で支給されたもののうち二つがブドウと猫の写真などと言う全く戦闘に役立たないものでは、
怒りで身を震わすのも無理はない……というか、当然だろう。
んが、スカーの震えはそれが原因ではない。ならば見事にハズレを引き当て殺し合いに恐れをなしたか、と思うかもしれないがそれも違う。
事実、周囲を見回し周囲に人の気配が無い事を確認し、再び写真へと目を落としたスカーの表情は、そう…………。
――――……和んでいた。
多くの者はそれを向けられただけで身を竦ませる程の鋭い眼光を発する目は優しく細められ、
彼がどこまでも厳格で頑な人間であるという事を伝えている横一文字に結ばれた口は見事に緩み、
イシュヴァールに生まれ、今日まで過酷な運命を背負ってきていたその浅黒い肌にはほんのりと赤みがさしている。
そしてスカーはそのような表情で、「…………にゃんこ……」等と呟き写真を眺めている。
そう、彼は、スカーは、
大の猫好きだったのだッ!!!
その後数分間、スカーはもきゅもきゅとブドウを食べつつとてもとても幸せそうな表情で猫の写真を眺めていた。
が、ブドウをひとふさ食べ終えたところでハッと正気に戻り、自分の今為すべき事を思い出す。
(いかん、己れとした事が……。兎も角、この猫達の写真は一旦後回しにしよう。
まずは残りの支給品を確かめねば。…………それが済めば、またゆっくり眺めることが出来るからな)
やっぱり正気に戻ってなかったかもしれない。
その思考は兎も角、スカーは再び自らのデイパックを漁る。
最早デイパックの中には最後の支給品しか残っていなかったので、すぐに引っ張り出す事に成功した。
――さて、ここで皆さんに質問をしたいと思う。
猫は数千年の昔から人々にペットとして飼われ、愛され続けてきた。では、そんな猫にライバルがいるとすれば、そのライバルとは?
そう、犬である。犬は猫と同じく古より人と共に歩んできた、人々のパートナーとも言うべき存在と言えるだろう。
両者は遥か古代より人と共にあった。故に両者の、そして両者のうちどちらかの派閥に所属する人々の確執は筆舌尽くし難いものがある。
どれ程両者の関係が壮絶で泥臭いものであるか伝えるために、とある二人の兄弟の話を例に出してみよう。
彼らは物心ついた時より盗み、壊し、殺し、故に周囲から人非人よ鬼畜よと蔑まれながら生きてきた。
故に、彼ら兄弟の結束は固く、彼らの絆は何者にも断ち切ることが出来ぬものだった。
が、ある時兄(猫派)が弟(犬派)に黙って、こっそりと鎧の中に雨に打たれていた子猫を隠したのだ。
その時の会話が以下のものである。
『鎧の中にネコなんか入れんなよな兄者』
『だってかわいそうじゃあないか』
『だいたい俺はイヌ派なんだよ!! ネコなんざペッ!!!』
『きっ……貴様私を比類なきネコ派と知っての暴言か!!』
『はっ!! ネコは自己チューで嫌いだね!!』
『なにを!! 他人に尻尾を振ってヘイコラしている畜生のどこがいいか!!
貴様のようなふぬけた奴にニャンコの愛らしさなど一生理解できんわ!!』
『言ったなこのクソ兄者!!』
嗚呼、なんという事であろうか!
何よりも固く、そして美しい筈だった兄弟の絆は、犬猫の派閥争いの前に無残にも引き裂かれてしまったのである!!
……と、このように犬派猫派の争いは非常に苛烈なものなのである。
で、あるが故に。
「あ゛」
スカーが最後に取り出した支給品が犬のぬいぐるみで、
猫派全開のスカーが殆ど条件反射で『ソレ』に対し全力全開天上天下一撃必殺のパゥワーを込めて右腕の破壊の力を行使したとしても、
誰も彼を責める事は出来ないだろう。
――そして、話は冒頭へと繋がるのであった。
【B-1/海岸沿いの倉庫/1日目-早朝】
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:左脇腹と右脇腹、右手の親指を除いた四本それぞれ損傷中。中程度の疲労。 にゃんこ……(*´Д`)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、猫の写真@アニロワ2ndオリジナル×50、時計仕掛けのブドウ@王ドロボウJING×9(ダンボール入り)
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
1:皆殺し
2:猫の写真を眺めつつ回復に努め、回復したら中央へ向かう
[備考]:スカーの近くにはバラバラになった犬のぬいぐるみ@サイボーグクロちゃん が放置されています。
【猫の写真@アニロワ2ndオリジナル】
愛くるしい猫達の写真。本当にただそれだけ。
しかし、ある意味最強の支給品と言えない事もない。
【時計仕掛けのブドウ@王ドロボウJING】
時の都アドニス編(アニメ3~4話・原作1~2巻)に登場。時の都の主マスターギアによって時間のくびきにかけられたブドウ。
実際の味の程は不明だが、このブドウ達が時間に支配されながらもこっそりと育んでいた『渾身のひとふさ』は王ドロボウをも唸らせる逸品。
【犬のぬいぐるみ@サイボーグクロちゃん】
ミーくんが変装のために使用する、どこか間の抜けた感じのする犬のぬいぐるみ。
元々はミーくんが初恋の相手である、とある捨て犬に告白する為に使われたもの。ちなみに初恋の結果は結果は悲しい失恋でした。
*時系列順で読む
Back:[[闇夜のMary Had a Little Lamb]] Next:[[紙視点――そして紙は舞い落ちた]]
*投下順で読む
Back:[[闇夜のMary Had a Little Lamb]] Next:[[紙視点――そして紙は舞い落ちた]]
|018:[[破壊者二人と仮装強盗]]|スカー(傷の男)|124:[[来るなら来い! 復讐のイシュヴァール人!]]|
**派閥争いって怖くね? ◆/eRp96XsK.
――それは不幸な出会いだった、というべきなのだろう。
自らの行使した破壊の力によってバラバラに引き裂かれ、千切れ飛んだ『ソレ』を見下ろしつつスカーはそう思った。
このような場所で、このような瞬間に出会わなければ、『ソレ』はもっと違う未来を迎えることが出来ただろう。
……いや、しかし矢張り同じ結果に終わっていたのかもしれない。なにしろ眼前で無残な姿を晒す『ソレ』は、
国家錬金術師をはじめとしたアメストリス人程ではないにしろ、スカーの――いやスカー”達”の宿敵と言っても過言ではない存在なのだ。
(……考えても詮無きこと、か)
まとまらぬ思考を振り払うかのように、スカーは頭を振るう。
そして、眼前の『ソレ』に頭を垂れ、「すまなかった」と一言呟き、身を翻した。
確かに『ソレ』をはじめとしたモノたちは宿敵だ。だが、国家錬金術師達のように憎しみと憎悪の対象にしている訳ではない。
だからこそ、スカーは『ソレ』に謝罪し、哀悼の意を述べた。
(兎も角、今は体力の回復を第一に考えるとしよう。そして、その間に……)
千切れ飛んだ『ソレ』の目は、ただ月明かりを反射するだけの瞳は、静かにスカーの背を映していた。
■
時は僅かに遡る。
スカーは自らが破壊した倉庫の残骸の中に紛れて体を休め、受けた傷へ適当な処置を施すべく自身のデイパックを開いていた。
最初にこの会場の地図やコンパスを取り出し、次いで参加者名簿、水や簡易食料を取り出していく。
(このような小さいデイパックにどうやればここまで物を収納する事が出来るのか……
周囲の建物と同じく、己れが知らぬ……いや、アメストリスでは到底有り得ぬ様な技術を使用している、ということか)
やがてスカーはデイパックから一まとめになったメモ用紙を取り出す。
そしてそれと同時に、そこに書いてある基本支給品の目録の存在に気付いた。
「チ、せめて包帯だけでもあればと思ったが……矢張りそう上手くはいかんか」
そこに書かれていた品物は、全て既に足元に広げてしまっている。
傷の処置を行う為に治療道具が欲しかったところだが、無いのであれば仕方が無い。
ならば、とスカーは唇を湿らす程度に水に口を付けた後、再びデイパックを漁り始める。
参加者達にランダムに配られる別途支給品、その中に治療用の道具、そして戦闘用の武器が含まれている可能性を考慮してのことだ。
しかし、スカーはデイパックの中に入っているであろう武器に期待を寄せてはいなかった。
あの黒の男のような強者が闊歩するこの殺し合いの地では、初めて手に取るような武器よりも、
この破壊をもたらす右の腕と、鍛え上げられた己が体の方が、遥かに信頼に値する。
が、今自分が一体どのような武器を所持しているのかは把握しておいた方がよいだろう。
自らが窮地に陥ったとき、それが活路を切り開く為の標となる可能性もあるのだから。
ほどなくスカーは、デイパックの中から底の浅いダンボールとそれに詰められた果物を取り出す事に成功した。
(……ブドウ、か?)
ダンボールの中に詰められていた果物、それは薄緑の果皮を持つ、白ブドウと思しき物だった。
思しき、とわざわざ付けたのには理由がある。
このブドウの果実は、ひとつの例外も無く全ての果皮に時計のようなものが張り付いていたのだ。
少なくとも、スカーはこのように面妖なブドウを見たことは無いし、聞いたことも無い。
さてどうしたものか、と考えているとダンボールからひらりと紙切れが落ちた。
それを摘み上げ、そこに書かれていた文字を読む。
『時の都アドニス特産・時計仕掛けのブドウ。
最高の収穫時をコンマ一秒も逃す事無く収穫した一品。
この至高の逸品を食す際には一分一秒の間の鮮度落ちにも気を使うように』
…………何なのだろうか、この妙に時間に口うるさい説明書と思しきものは。
これを書いた人物の前で遅刻したらどうなるのやら。いきなり手に持った得物で首を刎ね飛ばすような真似でもしてくるのかもしれない。
それは兎も角、少なくともこれは食しても何の問題も無いらしい。
ならば、とダンボールの中からひとふさ取り出し、実を一つ摘み、口の中に放り込む。
奥歯で実を挟み潰すと、ぷちゅ、という音が聞こえてきそうな心地良い感触ともに、口の中に爽やかな酸味が広がる。
そして、その酸味が口の中を占拠したその時、その酸味の中でほのかな甘みが自己主張を開始した。
甘みはすぐさま勢力を広げ、酸味を飲み込もうとする。しかし酸味も負けじと押し返す。
そのままそれらは混ざり合い、スカーの口内を何ともいえぬ甘酸っぱい味覚で満たしてくれる。
それに少し気を良くしたスカーは、ブドウの実を二度、三度と口へ放り込む。
そしてそれらを咀嚼するうち、妙な事に気付いた。
(このブドウは確かに美味い。だが、何というか……まるで、個性が欠落しているかのようだ)
当然ながら、スカーは美食だのグルメだのという趣味を持ち合わせてはいない。味覚はせいぜい人並みだ。
にもかかわらず、このブドウに対してそのような違和感を抱いた。
舌に自信のある人間ならば、一口目でそれとはまた別の、しかしより確かな違和感を覚えるやも知れない。
……が、いずれにせよこれは美味で、特に体に害となるものは含まれていない、というのは確かな事だろう。
再びもきゅもきゅとブドウを食べつつ、更にデイパックを漁っていく事にする。
そして、次にスカーが引き当てたものは手紙を出す際に使われるものと思われる茶封筒だった。
中には何かがぎっしりと詰まっているらしく、封筒は大きく膨れていた。
少々訝しみながら封を切り、中身を確認する。
その瞬間、スカーの脳髄を雷光が駆け抜けた。
スカーが封筒から取り出したもの、それは写真だった。何十枚もの写真が一括りにされ、封筒の中に入っていたのだ。
そしてそれらの写真の被写体、それは――――――猫、だった。
最初の写真には、寄りかかるようにして玩具の銃を持ち、どこかへ狙いをつけているように見える猫が。
次の写真には、大き目のカップの中に入り、顔だけを覗かせてカメラの方向を向いている子猫が。
その次の写真には、隣に座る猫に顎の下を舐められ、なんとも気持ちよさそうに顔を緩める猫が。
更にその次の写真には、背中にひよこを乗せ、重そうにふらふらしている子猫が。
次の写真にも、その次の写真にも、その次の次の写真にも、なんとも愛らしい猫の姿が映し出されていた。
スカーの手は、それらの写真を確認していくうちに、はっきりそうと分かるほど震え始めた。
この殺し合いの場で支給されたもののうち二つがブドウと猫の写真などという全く戦闘に役立たないものでは、
怒りで身を震わすのも無理はない……というか、当然だろう。
んが、スカーの震えはそれが原因ではない。ならば見事にハズレを引き当て殺し合いに恐れをなしたか、と思うかもしれないがそれも違う。
事実、周囲を見回し人の気配が無い事を確認し、再び写真へと目を落としたスカーの表情は、そう…………
――――……和んでいた。
多くの者はそれを向けられただけで身を竦ませる程の鋭い眼光を発する目は優しく細められ、
彼がどこまでも厳格で頑な人間であるという事を伝えている横一文字に結ばれた口は見事に緩み、
イシュヴァールに生まれ、今日まで過酷な運命を背負ってきていたその浅黒い肌にはほんのりと赤みがさしている。
そしてスカーはそのような表情で、「…………にゃんこ……」等と呟き写真を眺めている。
そう、彼は、スカーは、
大の猫好きだったのだッ!!!
その後数分間、スカーはもきゅもきゅとブドウを食べつつとてもとても幸せそうな表情で猫の写真を眺めていた。
が、ブドウをひとふさ食べ終えたところでハッと正気に戻り、自分の今為すべき事を思い出す。
(いかん、己れとした事が……兎も角、この猫達の写真は一旦後回しにしよう。
まずは残りの支給品を確かめねば…………それが済めば、またゆっくり眺めることが出来るからな)
やっぱり正気に戻ってなかったかもしれない。
その思考は兎も角、スカーは再び自らのデイパックを漁る。
最早デイパックの中には最後の支給品しか残っていなかったので、すぐに引っ張り出す事に成功した。
――さて、ここで皆さんに質問をしたいと思う。
猫は数千年の昔から人々にペットとして飼われ、愛され続けてきた。では、そんな猫にライバルがいるとすれば、そのライバルとは?
そう、犬である。犬は猫と同じく古より人と共に歩んできた、人々のパートナーとも言うべき存在と言えるだろう。
両者は遥か古代より人と共にあった。故に両者の、そして両者のうちどちらかの派閥に所属する人々の確執は筆舌尽くし難いものがある。
どれ程両者の関係が壮絶で泥臭いものであるか伝えるために、とある二人の兄弟の話を例に出してみよう。
彼らは物心ついた時より盗み、壊し、殺し、故に周囲から人非人よ鬼畜よと蔑まれながら生きてきた。
故に、彼ら兄弟の結束は固く、彼らの絆は何者にも断ち切ることが出来ぬものだった。
が、ある時兄(猫派)が弟(犬派)に黙って、こっそりと鎧の中に雨に打たれていた子猫を隠したのだ。
その時の会話が以下のものである。
『鎧の中にネコなんか入れんなよな兄者』
『だってかわいそうじゃあないか』
『だいたい俺はイヌ派なんだよ!! ネコなんざペッ!!!』
『きっ……貴様私を比類なきネコ派と知っての暴言か!!』
『はっ!! ネコは自己チューで嫌いだね!!』
『なにを!! 他人に尻尾を振ってヘイコラしている畜生のどこがいいか!!
貴様のようなふぬけた奴にニャンコの愛らしさなど一生理解できんわ!!』
『言ったなこのクソ兄者!!』
嗚呼、なんという事であろうか!
何よりも固く、そして美しい筈だった兄弟の絆は、犬猫の派閥争いの前に無残にも引き裂かれてしまったのである!!
……と、このように犬派猫派の争いは非常に苛烈なものなのである。
で、あるが故に。
「あ゛」
スカーが最後に取り出した支給品が犬のぬいぐるみで、
猫派全開のスカーが殆ど条件反射で『ソレ』に対し全力全開天上天下一撃必殺のパゥワーを込めて右腕の破壊の力を行使したとしても、
誰も彼を責める事は出来ないだろう。
――そして、話は冒頭へと繋がるのであった。
【B-1/海岸沿いの倉庫/1日目-早朝】
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:左脇腹と右脇腹、右手の親指を除いた四本それぞれ損傷中、中程度の疲労、にゃんこ……(*´Д`)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、猫の写真@アニロワ2ndオリジナル×50、時計仕掛けのブドウ@王ドロボウJING×9(ダンボール入り)
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
1:皆殺し
2:猫の写真を眺めつつ回復に努め、回復したら中央へ向かう
[備考]:スカーの近くにはバラバラになった犬のぬいぐるみ@サイボーグクロちゃん が放置されています。
【猫の写真@アニロワ2ndオリジナル】
愛くるしい猫達の写真。本当にただそれだけ。
しかし、ある意味最強の支給品と言えない事もない。
【時計仕掛けのブドウ@王ドロボウJING】
時の都アドニス編(アニメ3~4話・原作1~2巻)に登場。時の都の主マスターギアによって時間のくびきにかけられたブドウ。
実際の味の程は不明だが、このブドウ達が時間に支配されながらもこっそりと育んでいた『渾身のひとふさ』は王ドロボウをも唸らせる逸品。
【犬のぬいぐるみ@サイボーグクロちゃん】
ミーくんが変装のために使用する、どこか間の抜けた感じのする犬のぬいぐるみ。
元々はミーくんが初恋の相手である、とある捨て犬に告白する為に使われたもの。ちなみに初恋の結果は結果は悲しい失恋でした。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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