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「この手に堕ちた腐りかけの肉塊」(2022/07/24 (日) 17:46:42) の最新版変更点
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**この手に堕ちた腐りかけの肉塊 ◆oRFbZD5WiQ
なにがおもしろいのか、はたまた、見るもの全てが愉快でたまらないのか。
シータの隣を歩く、マオと名乗った長身の青年は、己の喜悦を動作で表すように両の手を叩いていた。
(なんで、こんな状態でそんなに楽しそうにしていられるんだろう。それに――)
つい先程――いや、既に随分と時間は経っているが、彼女の主観では先程――、自分とパズーしか知らないような事を、
否。パズーですら完全には知らぬ事を正鵠に言い当てた、彼は一体何者なのか。
あのムスカという軍人の関係者か、それとも、
(ラピュタの王族、かも)
そう、あのムスカのように。
◆ ◆ ◆
滑稽滑稽、まさに滑稽だ! とマオは嘲う。
自分の思考が読まれている事など理解の埒外の彼女は、必死に理由を求める。
そう、自分の思考をトレースされた、その理由を。
その小さな頭に入った灰色のそれを必死に稼動し、自身の経験を順序だてて回想し、考える。
どうすれば、そこまでわたしを調べる事ができるの? どこで、わたしたちを知ったの?
(ホントに滑稽だね! なんたって、考えれば考えるほど、僕に情報を与えていくワケなんだから!)
制限で弱まったギアスでは読み取れない箇所の記憶まで、勝手に浮上させ、その上分かりやすく整頓までしてくれる!
それはなんのため? そう、自身の身を守るためだ――実際、それは無意味。否、無どころか負。ゼロどころかマイナス。
なのに、彼女はこんなに必死に――これを笑わずにして、いつ笑うというのか!
「マオさん、あまり大きな声で笑わない方が……」
「ん? ああ! これは済まないね。ボクの笑い声を聞いて悪い人が集まったら大変だからね!」
そう言って笑うと、シータは僅かに渋い顔をする。そして、内心に仕舞いこまれた本音が流出する。
<分からない……この人が分からない。あんまり信用できないかも>
懸命な判断だね、と内心で思う。もし自分が彼女の立場だとして、このような男を信用するかと言えば、断じて否だ。
だが、信頼など豚にでも食わしてやればいい。
彼女はあくまで手駒。キングを守るため、敵のキングを落すために疾駆するポーンに過ぎない。
いや、例えるならば、チェスよりも将棋の方がいいかもね。あれは確か、相手の駒をも利用できたはずだ。
「ところでマオさん、なんでこっちに向かうんですか? 人を探すなら、レールウェイという乗り物に乗った方がいいと思うんですけど」
「ああ、それはだね!」
ぱんっ、と。自身の喜悦を象徴する喝采を止めると、くるり、と芝居がかった動作で振り向いた。
「いくら殺し合いを止める、って言ってもボクらじゃ力不足だと思うんだ。君は戦い慣れているわけでもないし、ボクだって腕っ節は平均的なものさ。
おっと、だったらなおさら、中心部に向かって仲間を集めた方がいい、と思ったね?」
びくん、と思考を言い当てられた事に驚いたのか、体を揺らす。
思考が読める事を公言する気はないが、この程度なら「いや、そんな顔をしてたからね!」とでも言えば済む事だ。
「それが違うのさ! 街は確かに人が多い、けど同時に殺人者もまた多く潜んでる可能性が高いんだよ!
エリア11では急がば回れ、というコトワザがあるらしいじゃないか。まさにそれだね。焦って動いたあげく殺された、なんて笑い話にしかならないからねぇ。
だからね、あまり人がいない場所をぐるっと見て回って、ゆっくり人を集めるのさ。街に行くのは、それからでも遅くはないはずだよ。
それに、あっちに観覧車が見えるだろう? ああいった目立つ建造物には人が集まりやすいと思うんだ。街ほどではないにしろね。
安全に、けど、なるべく多くの人と会うための苦肉の策なわけさ!」
いや、それはタテマエだ。本音を言うと、わざわざ人が集まるところに自分から進んで行きたくないだけだ。
それを誤魔化すために、適当を言っただけなのだが――考えてみればそれも正鵠を射ているかもしれない。
バックの中身を思い出す。
一つは、日出処の戦士の剣と鎧。
最初、イレブンが昔愛用していたとされる武具だと思ったのだが、どちらかというと西洋甲冑に近い。イレブン的な要素は、武器である刀くらいか。
そして、オドラデクエンジン。説明には永久機関、と書かれていたが、それもどのくらいアテになるのかは不明だ。
これだけ。これだけだ。この状態で真っ向勝負を仕掛けられたら、果たして切り抜けられるかどうか。
なら、と思い、バックから鎧を取り出す。未だ漆黒に包まれた空の下、それは非常に目立っていた。
「……これは?」
「外側を回る、といっても危険な事は変わりないからね。身を守る物くらいは手渡すさ。
それにほら、見てごらん? これ、小さな子でも装着できるくらいのサイズなんだ!」
君が怪我しちゃいけないからねぇ、と言って手渡すと、シータの思考が若干柔らかくなった。
<……でも、心配はしてくれてるみたい。そこまで疑ってかからなくても――>
馬鹿め、と思う。
それを手渡したのは、あくまで保身。もし戦いの場になれば、武器を持っているという事を理由に、先陣を切らすための布石だ。
(まあ、思った以上の効果があったみたいだけど)
信頼など、豚にでも食わしておけばいい。確かにそう考えた。そして、今もそれは変わっていない。
だって、ここにいるではないか。信頼という餌を喰らい、肥え太る豚が。自分が肉にされる事を知らず、餌を貪る家畜が。
「あの、お礼といってはなんなのですけど……これを」
笑い出したくなる衝動を抑え、彼女の掌に載るそれを見る。
それは扇。中華連邦でもよく見る、一般的な形のそれだ。
だが、触れる感触は冷たい金属のそれ――そう、鉄扇だ。
「あまり強そうな物ではないんですけど、武器がないと不安だと思うから」
「いやいや! 気にしなくてもいいさ、武器として扱った事はないけど、知識としては知ってるものだからね!
これはこれで構わないよ!」
使えない、と内心で毒づく。チェーンソウでも出してくれたら、心から賞賛してあげてもよかったのだが。
(まあ、さすがに高望みかな)
陸と陸とを繋ぐ道路に差し掛かる。
位置はC-1とB-2の丁度境目くらいだ。
◆ ◆ ◆
がしゃん、と甲冑が音を立てる。
纏った赤色のそれは重く、だが、適度に安心感を与えてくれる。
重い、という事は金属であるという事。金属であるという事は、頑丈であるという事。
気休めなのかもしれないが、少女の心をある程度静めるには十分な力を持っていた。
道路を通り抜けると、遠くに見えていたあの車輪も巨大に見えてくる。
マオが観覧車と言ったそれは、どうやら乗り物らしい。けれど、同じ場所をぐるりと回るだけで、前に進めそうな気がしないのだが。
「おっと、観覧車を知らないのかい? 子供の頃、親に連れてってもらったり、親がいなくても遊園地を遠くから眺めたりはしたと思うけどねぇ。
まあ、いいさ。あれは乗り物といっても車や飛行機と同列じゃあないんだよ。山に登って風景を眺めるのを、全部機械で行ったものだと考えればいい」
そうですか、と答え、観覧車という名の車輪を見上げる。
原色を基調としたそれは、見ている者を陽気にさせる効果があるのだろう。
だが、それは本来、家族連れの子供が抱く想いだ。間違っても、殺し合いに無理矢理引き込まれた少女が抱く感想ではない。
事実、シータはあのぐるぐると回る個室を、まるで棺みたいだ、とすら思ったほどだ。
「棺、それも間違いじゃぁないね。こんな状態であそこに乗っている事に気づかれたら、狙い撃ちだ。
それに、螺旋王とかいう男に向かっていった、あの正義のヒーローのような彼。
彼が放ったビームみたいな奴で破壊されたら、そのまま横倒し。戦うまでもなくザクロになれるよ」
その言葉に、思わず身震いをしてしまう。
嫌なイメージから逃れるように視線を背け――
「……え?」
それを見た。
◆ ◆ ◆
いきなりだった。
観覧車を知らない事、彼女の言うラピュタ。それらを総合し、全く別の世界から来たのかなこの子は、と馬鹿げた空想をしていた、その瞬間だった。
圧倒的なノイズ。整理される事のない思考の奔流が、マオの脳を一瞬で犯した。
うるさい、うるさい、うるさいッ! 鼓膜が破けてしまいそうだ!
このガキ、さっきまで静かだったくせに、急にこんな――!
「ぐ――ほら、シータ、落ち着きな。一体なにが、……!?」
安心させるように言って、初めて気づいた。
(思考が……読み取れない!?)
慌てて意識を集中。脳細胞全てを、シータという少女の思考の整理に当てる。
だが、氾濫した川の如く流れるそれを、整理するどころか受け止める事すら叶わない。
これが――これが制限か!
普段ならば、多少錯乱していようとも、その思考を完全に理解する自信がある。
だが、今はどうだ? まるで理解できない。せいぜい、『死』『殺人』『血』、そんな断片的なモノを拾えたくらいだ。
<殺――血が、ががが――乗ってるるるるる人――こん――無――ざ、ざざざ――惨>
気が狂いそうだ。今ほどC.Cの声を聞きたいと思った事はないかもしれない。
その、狂わせるような思考を漏らす少女を見やる。
嫌だ嫌だ、と言うように首を振るうその姿。瞬間、怒りが炸裂した。
「――ッ! うるさい!」
嫌なのは、こっちだ!
がんっ! と。兜に包まれた頭部に、鉄扇子を思い切り叩きつける。
ぐらり、とシータの体が揺れ、思考が一瞬途切れる。
<――え? わたし、殴られ……?>
「……ああ、大丈夫かい? すまないね、錯乱していたようだから、ちょっと失礼させてもらったよ」
未だ軋む頭を押さえつつ、なんとか体裁を取り繕う。
「それで、どうしたんだい。そんなに取り乱して」
「その……あそこに」
あそこ? とシータが指差す方に視線を向けると、
「……ああ」
あれか、と地面に倒れ伏すそれを見た。
赤。濃厚な赤ワインにも似た赤色だ。
ならば、この少女はワイン樽か。もっとも、胸元に穿たれた穴から流れ出るモノはなく、生命を出し切った後だという事が見て取れた。
そう、それは死体だ。虚空を見上げる、命無き人型。
「なるほど、これを見て取り乱したんだね。……うん、君が取り乱すのもすごくよく分かるよ。
これは酷いよね。――そうだ! ボクがちゃんと埋葬してあげるから、君は観覧車の傍で待っていてくれないかな?」
そう言うと、シータは若干うろたえつつも、こくりと頷いてくれた。
去っていく背中が見えなくなるのを確認する。そして、
「しっ!」
その遺骸を、焼きつくような怒りを以って蹴り飛ばした。
爪先が頭蓋に突き刺さり、陥没。機能停止した脳みそがシェイクされる。
「君がこんな場所で死んでるから、ボクが酷い目にあったじゃないかッ!
死んでからも他人に迷惑をかけるんじゃない! この、愚図め!」
踵が顔面を抉る。頭蓋骨が崩壊し、内部に納められた脳が潰れる。どろり、と隙間からそれらしきモノがこぼれた。
それでも飽き足らぬ、そう言うように鉄扇子を用い、全体重を以って胸を突き刺していく。
そう、何度も何度も。肋骨をパウダーに、臓器をミンチにするまで止めない、そう言うように。
ああ、チェーンソウが、いや、もっと武器らしい武器があればよかったのに。
そうすれば、この肉を解体しコンパクトにした後、そこらのゴミ箱にでも放り込んでやるのに。
皮膚と内部の肉が混ざり合い、屈強な戦士ですら目を背けたくなるような状態になって、ようやくマオは冷静を取り戻した。
「――は、ぁ。まあ、いいさ。もう、二度と会うこともないだろうからね」
また、他人の思考を聞き続けなくてはならないのか、と思うと陰鬱な気分になってくる。
早く、早くC.Cの声が聴きたい。お願いだ、このままじゃあ本当に狂いそうだ。
記憶に残るC.Cの声を思い出しながら、シータが待っているであろう観覧車に足を進める。
それを、こぼれ落ちた眼球で柊つかさは眺めていた。
いつまでも、いつまでも、きっと永遠に見続けている事だろう。
◆ ◆ ◆
帰ってきたマオの息は荒かった。
それも仕方のない事だと思う。人一人を埋めるために、一体どのくらい土を掘ればよいのか。
それを、道具なしでやり遂げたのだ。これで息を乱さぬはずが――
(あれ?)
ふと、その両手を見る。
(土で汚れて、ない?)
「ああ、遅れてごめんね。水道を探してたんだ。さすがに泥まみれじゃいけない、と思ってね」
そうマオは言うが、それにしたって服まで汚れていないのは不自然だ。
不自然――だけれど、取り乱した自分を下げさせる配慮のある人間だ。そこまで悪い事はしていない、と信じたいが――
(……分からない、わたしには分からない)
親切だと思うときもある、怪しいと思うときもある。
自分は、どちらを信じればいいのだろうか――?
【B-2/観覧車の前/1日目/黎明】
【マオ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:疲労 低
[装備]:マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ 鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
[道具]:支給品一式 オドラデクエンジン@王ドロボウJING
[思考]
1:ヘッドホン(C.C.の声が聞ける自分のもの)を手に入れたい
2:ギアスを利用して手駒を増やす。手駒は有効利用
3:ゲームに乗るか、螺旋王を倒すか、あるいは脱出するか、どれでもいいと思っている
4:どれを選ぶにせよ、ルルーシュに復讐してからゲームを終わらせ、C.C.を手に入れる
[備考]
マオのギアス…周囲の人間の思考を読み取る能力。常に発動していてオフにはできない。
意識を集中すると能力範囲が広がるが、制限により最大で100メートルまでとなっている。
さらに、意識を集中すると頭痛と疲労が起きるため、広範囲での思考読み取りを長時間続けるのは無理。
深層意識の読み取りにも同様の制限がある他、ノイズが混じるために完全には読み取れない。
※また、錯乱などといった思考の暴走には対処しきれない事に気づきました。
※異世界の概念はあまり信じていない様子。
※シータの知りうるラピュタ関連の情報、パズーやドーラの出会いをほぼ完全に知りました。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:迷い
[装備]:日出処の戦士の鎧と剣@王ドロボウJING
[道具]:支給品一式 支給アイテム0~1個(マオのヘッドホン、武器は入っていない)
[思考]
1:ゲームを止めるという言葉を信じて、マオについていく
2:信頼すべきか否か、迷っている
3:今のところは信頼に傾いている
[備考]
マオの指摘によって、パズーやドーラと再会するのを躊躇しています。
ただし、洗脳されてるわけではありません。強い説得があれば考え直すと思われます。
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
【日出処の戦士の鎧と剣】
真っ赤な色で小柄な女性でも装着が可能。相手に顔も見られないし、強度もそこそこ。
また、日出処といっても、見た目は狼っぽい西洋甲冑である。日本的なのは刀くらいか。
また、顔の部分が開いているけれど、近くまで行かないと見れないはず。
もっとも、目が良いという設定のキャラなら、近づかなくても見られる、かも。
【オドラデクエンジン】
永久機関で作られているエンジン。機械に組み込めばすごいことになりそう?
【鉄扇子】
呉先生が愛用する扇子。鉄製なので重くて頑丈
B-2にはボロボロになったつかさの死体が転がっています。場所は変えてはいません。
*時系列順で読む
Back:[[いろいろな人たち]] Next:[[覚悟はいいか?]]
*投下順で読む
Back:[[ただ撃ち貫くのみ]] Next:[[蘇れ、ラピュタの神よ]]
|026:[[復活のマオ]]|マオ|089:[[知らないということの幸せ]]|
|026:[[復活のマオ]]|シータ|089:[[知らないということの幸せ]]|
**この手に堕ちた腐りかけの肉塊 ◆oRFbZD5WiQ
なにがおもしろいのか、はたまた、見るもの全てが愉快でたまらないのか。
シータの隣を歩く、マオと名乗った長身の青年は、己の喜悦を動作で表すように両の手を叩いていた。
(なんで、こんな状態でそんなに楽しそうにしていられるんだろう。それに――)
つい先程――いや、既に随分と時間は経っているが、彼女の主観では先程――、自分とパズーしか知らないような事を、
否。パズーですら完全には知らぬ事を正鵠に言い当てた、彼は一体何者なのか。
あのムスカという軍人の関係者か、それとも、
(ラピュタの王族、かも)
そう、あのムスカのように。
◆ ◆ ◆
滑稽滑稽、まさに滑稽だ! とマオは嘲う。
自分の思考が読まれている事など理解の埒外の彼女は、必死に理由を求める。
そう、自分の思考をトレースされた、その理由を。
その小さな頭に入った灰色のそれを必死に稼動し、自身の経験を順序だてて回想し、考える。
どうすれば、そこまでわたしを調べる事ができるの? どこで、わたしたちを知ったの?
(ホントに滑稽だね! なんたって、考えれば考えるほど、僕に情報を与えていくワケなんだから!)
制限で弱まったギアスでは読み取れない箇所の記憶まで、勝手に浮上させ、その上分かりやすく整頓までしてくれる!
それはなんのため? そう、自身の身を守るためだ――実際、それは無意味。否、無どころか負。ゼロどころかマイナス。
なのに、彼女はこんなに必死に――これを笑わずにして、いつ笑うというのか!
「マオさん、あまり大きな声で笑わない方が……」
「ん? ああ! これは済まないね。ボクの笑い声を聞いて悪い人が集まったら大変だからね!」
そう言って笑うと、シータは僅かに渋い顔をする。そして、内心に仕舞いこまれた本音が流出する。
<分からない……この人が分からない。あんまり信用できないかも>
懸命な判断だね、と内心で思う。もし自分が彼女の立場だとして、このような男を信用するかと言えば、断じて否だ。
だが、信頼など豚にでも食わしてやればいい。
彼女はあくまで手駒。キングを守るため、敵のキングを落とすために疾駆するポーンに過ぎない。
いや、例えるならば、チェスよりも将棋の方がいいかもね。あれは確か、相手の駒をも利用できたはずだ。
「ところでマオさん、なんでこっちに向かうんですか? 人を探すなら、レールウェイという乗り物に乗った方がいいと思うんですけど」
「ああ、それはだね!」
ぱんっ、と。自身の喜悦を象徴する喝采を止めると、くるり、と芝居がかった動作で振り向いた。
「いくら殺し合いを止める、って言ってもボクらじゃ力不足だと思うんだ。君は戦い慣れているわけでもないし、ボクだって腕っ節は平均的なものさ。
おっと、だったらなおさら、中心部に向かって仲間を集めた方がいい、と思ったね?」
びくん、と思考を言い当てられた事に驚いたのか、体を揺らす。
思考が読める事を公言する気はないが、この程度なら「いや、そんな顔をしてたからね!」とでも言えば済む事だ。
「それが違うのさ! 街は確かに人が多い、けど同時に殺人者もまた多く潜んでる可能性が高いんだよ!
エリア11では急がば回れ、というコトワザがあるらしいじゃないか。まさにそれだね。焦って動いたあげく殺された、なんて笑い話にしかならないからねぇ。
だからね、あまり人がいない場所をぐるっと見て回って、ゆっくり人を集めるのさ。街に行くのは、それからでも遅くはないはずだよ。
それに、あっちに観覧車が見えるだろう? ああいった目立つ建造物には人が集まりやすいと思うんだ。街ほどではないにしろね。
安全に、けど、なるべく多くの人と会うための苦肉の策なわけさ!」
いや、それはタテマエだ。本音を言うと、わざわざ人が集まるところに自分から進んで行きたくないだけだ。
それを誤魔化すために、適当を言っただけなのだが――考えてみればそれも正鵠を射ているかもしれない。
バックの中身を思い出す。
一つは、日出処の戦士の剣と鎧。
最初、イレブンが昔愛用していたとされる武具だと思ったのだが、どちらかというと西洋甲冑に近い。イレブン的な要素は、武器である刀くらいか。
そして、オドラデクエンジン。説明には永久機関、と書かれていたが、それもどのくらいアテになるのかは不明だ。
これだけ。これだけだ。この状態で真っ向勝負を仕掛けられたら、果たして切り抜けられるかどうか。
なら、と思い、バックから鎧を取り出す。未だ漆黒に包まれた空の下、それは非常に目立っていた。
「……これは?」
「外側を回る、といっても危険な事は変わりないからね。身を守る物くらいは手渡すさ。
それにほら、見てごらん? これ、小さな子でも装着できるくらいのサイズなんだ!」
君が怪我しちゃいけないからねぇ、と言って手渡すと、シータの思考が若干柔らかくなった。
<……でも、心配はしてくれてるみたい。そこまで疑ってかからなくても――>
馬鹿め、と思う。
それを手渡したのは、あくまで保身。もし戦いの場になれば、武器を持っているという事を理由に、先陣を切らすための布石だ。
(まあ、思った以上の効果があったみたいだけど)
信頼など、豚にでも食わしておけばいい。確かにそう考えた。そして、今もそれは変わっていない。
だって、ここにいるではないか。信頼という餌を喰らい、肥え太る豚が。自分が肉にされる事を知らず、餌を貪る家畜が。
「あの、お礼といってはなんなのですけど……これを」
笑い出したくなる衝動を抑え、彼女の掌に乗るそれを見る。
それは扇。中華連邦でもよく見る、一般的な形のそれだ。
だが、触れる感触は冷たい金属のそれ――そう、鉄扇だ。
「あまり強そうな物ではないんですけど、武器がないと不安だと思うから」
「いやいや! 気にしなくてもいいさ、武器として扱った事はないけど、知識としては知ってるものだからね!
これはこれで構わないよ!」
使えない、と内心で毒づく。チェーンソウでも出してくれたら、心から賞賛してあげてもよかったのだが。
(まあ、さすがに高望みかな)
陸と陸とを繋ぐ道路に差し掛かる。
位置はC-1とB-2の丁度境目くらいだ。
◆ ◆ ◆
がしゃん、と甲冑が音を立てる。
纏った赤色のそれは重く、だが、適度に安心感を与えてくれる。
重い、という事は金属であるという事。金属であるという事は、頑丈であるという事。
気休めなのかもしれないが、少女の心をある程度静めるには十分な力を持っていた。
道路を通り抜けると、遠くに見えていたあの車輪も巨大に見えてくる。
マオが観覧車と言ったそれは、どうやら乗り物らしい。けれど、同じ場所をぐるりと回るだけで、前に進めそうな気がしないのだが。
「おっと、観覧車を知らないのかい? 子供の頃、親に連れてってもらったり、親がいなくても遊園地を遠くから眺めたりはしたと思うけどねぇ。
まあ、いいさ。あれは乗り物といっても車や飛行機と同列じゃあないんだよ。山に登って風景を眺めるのを、全部機械で行ったものだと考えればいい」
そうですか、と答え、観覧車という名の車輪を見上げる。
原色を基調としたそれは、見ている者を陽気にさせる効果があるのだろう。
だが、それは本来、家族連れの子供が抱く想いだ。間違っても、殺し合いに無理矢理引き込まれた少女が抱く感想ではない。
事実、シータはあのぐるぐると回る個室を、まるで棺みたいだ、とすら思ったほどだ。
「棺、それも間違いじゃぁないね。こんな状態であそこに乗っている事に気づかれたら、狙い撃ちだ。
それに、螺旋王とかいう男に向かっていった、あの正義のヒーローのような彼。
彼が放ったビームみたいな奴で破壊されたら、そのまま横倒し。戦うまでもなくザクロになれるよ」
その言葉に、思わず身震いをしてしまう。
嫌なイメージから逃れるように視線を背け――
「……え?」
それを見た。
◆ ◆ ◆
いきなりだった。
観覧車を知らない事、彼女の言うラピュタ。それらを総合し、全く別の世界から来たのかなこの子は、と馬鹿げた空想をしていた、その瞬間だった。
圧倒的なノイズ。整理される事のない思考の奔流が、マオの脳を一瞬で犯した。
うるさい、うるさい、うるさいッ! 鼓膜が破けてしまいそうだ!
このガキ、さっきまで静かだったくせに、急にこんな――!
「ぐ――ほら、シータ、落ち着きな。一体なにが、……!?」
安心させるように言って、初めて気づいた。
(思考が……読み取れない!?)
慌てて意識を集中。脳細胞全てを、シータという少女の思考の整理に当てる。
だが、氾濫した川の如く流れるそれを、整理するどころか受け止める事すら叶わない。
これが――これが制限か!
普段ならば、多少錯乱していようとも、その思考を完全に理解する自信がある。
だが、今はどうだ? まるで理解できない。せいぜい、『死』『殺人』『血』、そんな断片的なモノを拾えたくらいだ。
<殺――血が、ががが――乗ってるるるるる人――こん――無――ざ、ざざざ――惨>
気が狂いそうだ。今ほどC.Cの声を聞きたいと思った事はないかもしれない。
その、狂わせるような思考を漏らす少女を見やる。
嫌だ嫌だ、と言うように首を振るうその姿。瞬間、怒りが炸裂した。
「――ッ! うるさい!」
嫌なのは、こっちだ!
がんっ! と。兜に包まれた頭部に、鉄扇子を思い切り叩きつける。
ぐらり、とシータの体が揺れ、思考が一瞬途切れる。
<――え? わたし、殴られ……?>
「……ああ、大丈夫かい? すまないね、錯乱していたようだから、ちょっと失礼させてもらったよ」
未だ軋む頭を押さえつつ、なんとか体裁を取り繕う。
「それで、どうしたんだい。そんなに取り乱して」
「その……あそこに」
あそこ? とシータが指差す方に視線を向けると、
「……ああ」
あれか、と地面に倒れ伏すそれを見た。
赤。濃厚な赤ワインにも似た赤色だ。
ならば、この少女はワイン樽か。もっとも、胸元に穿たれた穴から流れ出るモノはなく、生命を出し切った後だという事が見て取れた。
そう、それは死体だ。虚空を見上げる、命無き人型。
「なるほど、これを見て取り乱したんだね。……うん、君が取り乱すのもすごくよく分かるよ。
これは酷いよね。――そうだ! ボクがちゃんと埋葬してあげるから、君は観覧車の傍で待っていてくれないかな?」
そう言うと、シータは若干うろたえつつも、こくりと頷いてくれた。
去っていく背中が見えなくなるのを確認する。そして、
「しっ!」
その遺骸を、焼きつくような怒りを以って蹴り飛ばした。
爪先が頭蓋に突き刺さり、陥没。機能停止した脳みそがシェイクされる。
「君がこんな場所で死んでるから、ボクが酷い目にあったじゃないかッ!
死んでからも他人に迷惑をかけるんじゃない! この、愚図め!」
踵が顔面を抉る。頭蓋骨が崩壊し、内部に納められた脳が潰れる。どろり、と隙間からそれらしきモノがこぼれた。
それでも飽き足らぬ、そう言うように鉄扇子を用い、全体重を以って胸を突き刺していく。
そう、何度も何度も。肋骨をパウダーに、臓器をミンチにするまで止めない、そう言うように。
ああ、チェーンソウが、いや、もっと武器らしい武器があればよかったのに。
そうすれば、この肉を解体しコンパクトにした後、そこらのゴミ箱にでも放り込んでやるのに。
皮膚と内部の肉が混ざり合い、屈強な戦士ですら目を背けたくなるような状態になって、ようやくマオは冷静を取り戻した。
「――は、ぁ。まあ、いいさ。もう、二度と会うこともないだろうからね」
また、他人の思考を聞き続けなくてはならないのか、と思うと陰鬱な気分になってくる。
早く、早くC.Cの声が聴きたい。お願いだ、このままじゃあ本当に狂いそうだ。
記憶に残るC.Cの声を思い出しながら、シータが待っているであろう観覧車に足を進める。
それを、こぼれ落ちた眼球で柊つかさは眺めていた。
いつまでも、いつまでも、きっと永遠に見続けている事だろう。
◆ ◆ ◆
帰ってきたマオの息は荒かった。
それも仕方のない事だと思う。人一人を埋めるために、一体どのくらい土を掘ればよいのか。
それを、道具なしでやり遂げたのだ。これで息を乱さぬはずが――
(あれ?)
ふと、その両手を見る。
(土で汚れて、ない?)
「ああ、遅れてごめんね。水道を探してたんだ。さすがに泥まみれじゃいけない、と思ってね」
そうマオは言うが、それにしたって服まで汚れていないのは不自然だ。
不自然――だけれど、取り乱した自分を下げさせる配慮のある人間だ。そこまで悪い事はしていない、と信じたいが――
(……分からない、わたしには分からない)
親切だと思うときもある、怪しいと思うときもある。
自分は、どちらを信じればいいのだろうか――?
【B-2/観覧車の前/1日目/黎明】
【マオ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:疲労 低
[装備]:マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ、鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
[道具]:支給品一式、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
[思考]
1:ヘッドホン(C.C.の声が聞ける自分のもの)を手に入れたい
2:ギアスを利用して手駒を増やす。手駒は有効利用
3:ゲームに乗るか、螺旋王を倒すか、あるいは脱出するか、どれでもいいと思っている
4:どれを選ぶにせよ、ルルーシュに復讐してからゲームを終わらせ、C.C.を手に入れる
[備考]
マオのギアス…周囲の人間の思考を読み取る能力。常に発動していてオフにはできない。
意識を集中すると能力範囲が広がるが、制限により最大で100メートルまでとなっている。
さらに、意識を集中すると頭痛と疲労が起きるため、広範囲での思考読み取りを長時間続けるのは無理。
深層意識の読み取りにも同様の制限がある他、ノイズが混じるために完全には読み取れない。
※また、錯乱などといった思考の暴走には対処しきれない事に気づきました。
※異世界の概念はあまり信じていない様子。
※シータの知りうるラピュタ関連の情報、パズーやドーラの出会いをほぼ完全に知りました。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:迷い
[装備]:日出処の戦士の鎧と剣@王ドロボウJING
[道具]:支給品一式、支給アイテム0~1個(マオのヘッドホン、武器は入っていない)
[思考]
1:ゲームを止めるという言葉を信じて、マオについていく
2:信頼すべきか否か、迷っている
3:今のところは信頼に傾いている
[備考]
マオの指摘によって、パズーやドーラと再会するのを躊躇しています。
ただし、洗脳されてるわけではありません。強い説得があれば考え直すと思われます。
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
【日出処の戦士の鎧と剣】
真っ赤な色で小柄な女性でも装着が可能。相手に顔も見られないし、強度もそこそこ。
また、日出処といっても、見た目は狼っぽい西洋甲冑である。日本的なのは刀くらいか。
また、顔の部分が開いているけれど、近くまで行かないと見れないはず。
もっとも、目が良いという設定のキャラなら、近づかなくても見られる、かも。
【オドラデクエンジン】
永久機関で作られているエンジン。機械に組み込めばすごいことになりそう?
【鉄扇子】
呉先生が愛用する扇子。鉄製なので重くて頑丈
B-2にはボロボロになったつかさの死体が転がっています。場所は変えてはいません。
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