「TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風 - (2023/06/19 (月) 00:28:24) のソース
**TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風 ◆japrki1LkU ――何なんや、このドグサレマシーンは? 牧師・ウルフウッドは、苛立ちに沸騰する頭で考える。 目の前には延々と同じ言葉を輪唱する、訳の分からない機械。 『――螺旋力が確認できません』 また聞こえた。 何や、銃弾でもくれてやろうか?綺麗な螺旋描いてくれるで? 最早言い返す気力も湧かなかった。 休憩を求めて立ち寄った筈なのに逆効果、苛立ちと精神的疲労が募っていくだけだ。 例の死ね死ねコールも変わらず聞こえる。 一時期の苛立ちに比べたらまだマシだが、それでもヤバい。 今にも堪忍袋が弾け飛びそうだ。 「なぁ、いい加減にせぇへんか? ワイ、マジでキツいんやけど?そろそろ止めてくれへんか?」 『――螺旋力が確認できません』 (死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね) 「なぁ頼むわ。なんぼでも懺悔するから、な」 『――螺旋力が確認できません』 (死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね) 「フフッ……OK、OKや。おんどれらは余程ワイの事が嫌いみたいやな」 『――螺旋力が確認できません』 (死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね) ――頭の中で何かが切れる音がした。 これが俗に言う堪忍袋の尾が切れる、というものなのだろう。 「――黙れぇ、言うとるやろ! このボケがッ!」 銃声は二つ。 懐から抜き出した拳銃から、二発の弾丸が放たれた。 それら弾丸は、空中に不可視の螺旋を刻み込み、狙い通りにワープ装置へと命中。 配線やら部品を貫きつつ、弾丸が機械に支配された内部へと侵入する。 ワープ装置が変な音と共に火花を散らした。 「どうや、クソったれ……!」 『――螺旋力、確認』 「まだ言うか、このボケ! ええで全身全霊でブッ壊した…………チョイ待ち、何て言うた?」 『――螺旋力、確認』 また、聞こえた。 空耳じゃあらへん。 確かに言った、『螺旋力、確認』と。 「てことは、何か? 求めるものに飛ばしてくれんのか?」 『――螺旋力、確認』 先程までは糞ウザかったリピート機能も、今では可愛く思えてくる。 今なら久し振りに、心の底から笑える気がした。 「よし、タバコや! タバコのある所に飛ばしてくれ!」 『――螺旋力、確認』 長い長い戦いだった。 これだけ辛い戦いには後にも先にも出会う事はないだろう。 ありがとう、神様。 後でブチのめすけど、今だけは感謝してやるわ。 あぁ立っているだけで、タバコの味を思い出してくる。 早く飛ばしてくれ。 焦らす、なんて演出必要無いから、早く―― 「…………おい、聞いとるんか?」 『――螺旋力、確認』 「タバコやで。タ・バ・コ。こないな暑っ苦しい部屋やない、タバコがある場所に飛ばせぇ言うとるんや」 『――螺旋力、確認』 「だから、飛ばせっちゅーねん! アレか、悪の心が無い純粋な人間しか飛ばせないとかか!?」 『――螺旋力、確認』 分かった、分かった。 やっぱ心の底から会いたいものじゃなきゃ、駄目なんだろ? 耳かっぽじってよく聞け。 「――ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。ヴァッシュ・ザ・スタンピードに会わせてくれ」 『――――螺旋力、確認』 瞬間、世界が暗転。 何処かに引っ張られていく感覚の後、浮遊感が体を包んだ。 □ 「……何処やねん、ココ」 牧師・ウルフウッドは断続的に痛みを訴える頭を押さえ、立ち上がった。 右に左に首を回すと、先程の機械だらけの部屋とは打って変わり、鬱蒼と茂る木々が目に映る。 「何や、マジで飛んだんか……」 僅かな警戒と共に、ウルフウッドが歩き出す。 自分は確かに口にした。 ヴァッシュ・ザ・スタンピードの元に飛ばしてくれ、と。 そして気が付けば森の中。 まさか、本当に? 「いやいや、有り得へんやろ。だってワイ見たやん、トンガリの生首」 自嘲気味な笑みを浮かべ、首を振るウルフウッド。 まぁ、あのムサい部屋から抜け出せただけでも良しとするか。 「さて、どないするかな。不思議と頭ん中スッキリしとるし、お仕事でも始めるか?」 二発ほど無駄弾を撃ってしまったが、まだ十発以上の弾丸はある。 当分は何とかなるだろう。 懐にある銃を確認し、ウルフウッドの顔に獰猛な野獣の笑みが浮かぶ。 殺る気に満ちている。 気分も爽快。 仕事をするには充分なコンディションだ。 「さて行きますか――」 「おい、ウルフウッド」 そして、歩き始めたと同時に後ろから声が掛かる。 その声はどこかで聞いた事のあるような気がした。 「…………いやナイ。ナイな、これはナイ」 軽く首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが呟く。 「……何言ってんだ、ウルフウッド?」 「ないないないない。だってアレやん。アイツ首ポォーンなってたやん。有り得へんって」 大きく首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが呟く。 決して声のした方見ようとはしない。 「もしも~し、聞こえてる?」 「ナイナイナイナイナイ!! だって有り得へんもん! ワイだってなんだかんだ言って生き返ったけど、流石にナイ! これはナイって!!」 千切れんばかりに首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが叫ぶ。 三度声を掛けられたにも関わらず、絶対に声を掛けられた方を見ようとはしない。 「オイ、テロ牧師!」 「だぁから……!」 ――そして、ウルフウッドは遂に振り向いた。 そこには此処に居る筈の無い男――死んだ筈の男の姿。 「よう、ウルフウッド」 「トンガリ……!」 生首ではなく、ちゃんと胴体のある金髪のトンガリ頭、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿がそこには居た。 □ 山の中にポツリと建っていた家の中。 二人の男達が机を挟み、向かい合わせに座っていた。 机の上には一本のお酒、安物だろうがこの殺し合いの中、酒が見つかっただけでも幸運だろう。 「――って、なんで呑気に酒飲みになっとんねん!」 「まあまあ落ち着いて。たまには良いだろ、こーゆーのも」 彼等がこの場所を訪れたのには理由がある。 有り得ない再会に驚愕していたウルフウッドに、ヴァッシュが酒を飲みたいと言い始めたのだ。 そして、まるで図ったかのように建っていた民家の中にお邪魔し、図ったかのように置いてあった酒を頂戴し、今に至る。 「今は殺し合いの真っ最中やで? 生き返ったか何やか知らんけど、平和を愛するガンマン様がそんな呑気でええんか?」 「大丈夫、大丈夫。ここでぐらいゆっくりした方が良いよ」 憮然とした顔で文句を言うウルフウッドに、ヴァッシュが微笑みながら答える。 「はぁ、まぁええわ。そんで、や。なんでオンドレはピンピンしとんねん。ワイは確かに見たで生首状態のお前を」 「……いやー僕も訳分かんないんだけど、気付いたら森の中歩いててさ。確か向こうで遊んでた気がしたんだけどな……」 「なんや、向こうって? 天国か?」 「みたいな所かもね……」 そう言いながら、ヴァッシュは二つのコップに並々と酒を注いでいく。 ――なんやねん、コイツ? そんなヴァッシュに、ウルフウッドは違和感を感じずにはいられなかった。 此処は殺し合いの場だ。 普段のトンガリだったら、自分が生き返った事すら歯牙に掛けず、戦闘を止める為、人を救う為に駆けずり回っている筈だ。 なのに目の前の男は、間抜けそうな笑みを浮かべ酒を注いでいる。 「おい、ウルフウッド。乾杯だ」 「……おう」 中身の酒を揺らしつつ二つのコップが触れ合い、甲高い音を鳴らした。 互いに無言のまま、酒に口をつける。 アルコールの苦味が口内を占領し喉に抜けていく。 ウルフウッドにとって久し振りの酒は、この世の物とは思えない程、美味く感じた。 「……なぁ、ウルフウッド」 場を支配する沈黙を打ち破ったのは、ヴァッシュの小さな呟きであった。 「……何や?」 酒を喉へと流し込み、無愛想にウルフウッドが答えた。 「……お前は考えを変える気は無いのか?」 「なんや説教かいな。生き返ってまでご苦労さんなこって」 やれやれと首を振り、ヴァッシュに顔を寄せるウルフウッド。 その表情には、この一日半で溜まりに溜まった鬱憤が苛立ちとして映っていた。 「……お前が何と言おうと、ワイはこの道を突き進む。殺して、殺して、殺しまくってやる。 オンドレを殺したシータっちゅうクソガキも、あの不死身の化け物も、あのスパイクっちゅうモッサリヘアーも、や」 「ウルフウッド……」 悲しげな顔で見詰めてくるヴァッシュへと、ウルフウッドは人差し指を突き付け、言い切った。 対するヴァッシュは何も言わない。 ただ無言で、そしてやっぱり悲しげな表情でウルフウッドを見詰めていた。 睨み合う二人。 再び沈黙が場を支配する。 「そや、どうしてもワイを止めたいんやったら一つだけ方法があるで?」 二度目の沈黙を破ったのは、ヴァッシュではなくウルフウッドであった。 挑発的な笑みを浮かべヴァッシュを睨む。 「方法……?」 「コレや」 そう言いウルフウッドが取り出した物は、拳銃。 それは、引き金を引く握力さえあれば、誰でも殺人鬼になれる悪魔の道具。 ウルフウッドはそれを机へと置き、持ち手をヴァッシュが座っている方へと向けた。 「ワイを止めたいんやったら、この場で殺せ。 その銃でワイの脳天に風穴開けてみろや」 「…………」 「出来へんよな……だからお前はヘタレなんや。そんなんだからあんなクソガキに殺されるんや、どアホ」 口は三日月を描き、だがその瞳は虚無感に包まれていた。 泣いているような、笑っているような、複雑な表情を見せ、ウルフウッドは語り続ける。 「ワイは行く……オンドレと呑気に酒飲んどる暇なんてあらへん。 クソったれの神様に抗って、抗って、抗いまくってやらなアカンのや」 そう言いウルフウッドは、ヴァッシュへと背中を向け、右手をヒラヒラと振った。 立ち止まる暇なんて無い。 トンガリが生き返ろうと、するべき事は変わらない。 血塗られた地獄で抗い続けて、あの世とやらで高笑いしてるであろう神様に吠え面かかせてやる。 牧師の胸に宿った真っ黒な誓いは誰にも、盟友ですら揺るがす事は叶わない。 牧師は断罪者として歩き始め―― 「……死ぬなよ、ウルフウッド」 ――その時、小さな呟きが牧師の鼓膜を叩いた。 「……なに、言うとんのや? ワイが生き延びれば生き延びるほど、人は死ぬで?」 「うん、そうだろうね。俺が何を言っても君は止まらない。多分、沢山の人を殺す。でもさ、ウルフウッド――」 暖かい、本当に暖かい微笑みが、振り向いたウルフウッドの眼に映った。 それは自分を、自分の罪を許してくれるかの様な微笑み。 「――お前には死んで欲しくないんだよ」 「…………アホか」 その微笑みを見ていられなかった。 俯き、心とは裏腹の皮肉を言う事しか出来なかった。 ああ、何でコイツは笑っていられるのだろう? 百年以上の因縁に決着をつけ、平穏な生活が始まろうとした矢先に、こんな地獄に巻き込まれたというのに。 再び出会った仲間が殺し合いに乗っている事を知ったのに。 ――最後まで信じた人間に裏切られ、願いが通じる事なく殺されたくせに。 自分には理解できない。 「……ウルフウッド、そろそろお別れだ」 俯き、思考の渦に呑まれていたウルフウッドに、不意に声が掛かる。 その言葉の意味をウルフウッドには理解できなかった。 「は? なに言うとんねん? 生き返ったんじゃないんか?」 「いや~、どっかの誰かさんと違って、そこまでラッキーな男じゃないよ、僕は」 陽気に男は笑っていた。 「おい、洒落ならへんぞ! ワイはタバコ諦めてまでオンドレん所に来たんや! それが、説教されるだけされてほなサイナラか!? そんなん許せるか、ボケ!」 「死ぬなよ、ウルフウッド……そして、出来たら誰も殺さないでくれ」 「シカトか!? こないなタイミングでそんな高等技術を使うか、この糞ガキ!」 「生きてくれ。そして俺の代わりに平和な生活を満喫してくれ、ミリィやメリルとさ」 「ちょい待て、トンガ――」 「じゃあな、ウルフウッド」 二度目の暗転。 闇が世界を支配し、意識がブツリと途切れた。 □ (死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね) 覚醒の手助けは、聞き飽きた呪怨の大合唱であった。 瞼を開けば、訳の分からない機材やコードが見える。 どうやら仰向けに倒れているらしい。 上半身を起こし周りに首を回し、状況を確認。 そこは、何とも見飽きた部屋。 目の前には熾烈な押し問答を繰り広げた好敵手――ワープ装置。 「……なんや戻ってきたんか?」 首を捻りながらいつもの癖でポケットを漁る。 残念ながらタバコのタの字も無かった。 「訳わからんわ。まったく、どーなっとんねん……」 『――螺旋力、確認できません』 好敵手が律儀に返答してくれる。 うん、素直なもんだ。 ここまでやってくれると愛着すら湧いてくる。 ――ん? 「おい、お前何て言うた?」 『――螺旋力、確認できません』 あれ?なんかおかしくないか? さっきは確か―― 「ちょい、もう一回言ってみ」 『――螺旋力、確認できません』 螺旋力、確認できません? あれ? さっきと言ってる事違ってないか? さっきまでは螺旋力、確認しました、とか言ってた筈だろ? 「……おいおい、まさか――」 何かに気が付いたのか、ウルフウッドは懐の銃から弾倉を取り出し、調べ始める。 ――あの時、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの元へ飛ばされる直前、自分は目の前の機械に向けて二回引き金を引いた。 つまり、最初に詰められていた八発の弾丸から、二発の弾丸が消費された訳だ。 ならば、今現在、弾倉には六発の弾丸が存在しなくてはいけない筈だ。 なのに―― 「……マジか」 ――どうして八発もの弾丸が入っているのだ。 疑問の呟きとは裏腹に、ウルフウッドは一つの可能性に気付いていた。 「…………ハッ、ハハッ、夢っちゅー訳か……この機械が動いたのも、トンガリに会ったのも、全て……」 言うなれば白昼夢。 大方、疲労とストレスに意識を飛ばし、あの夢を見たのだろう。 「プッ……ダッハッハッハ!」 大爆笑。 吹き出すと共に、ウルフウッドが腹を抱えて笑い始めた。 「ハッハッハッ! 何や夢かいな! 何時の間に寝とったんや! ヤバい、面白すぎるでマジ!」 腹を抱えるだけでは飽きたらず、遂には床で暴れながら笑い声を上げ続けるウルフウッド。 あれだけ頑なに返答をし続けていた螺旋界認識転移装置でさえ、その姿に閉口する。 「ハハハハハハ! ホンマにやってられへん! あの滅茶苦茶美味かった酒も、ウザったい説教かましてくれたトンガリも、死なないでくれって言葉も、全部ワイの脳内で作った幻想かいな! ワイの脳みそはドンだけ想像力豊かなんや!」 ドンドンと床を叩き、狂ったかの様に男は笑い転げる。 止めない者は誰も居ない、孤独で滑稽なバカ騒ぎ。 あまりに滑稽な自分が、愉快で仕方がない。 機械との押し問答の次は、盟友と酒を酌み交わす夢。 その女々しさが、その情けなさが、面白すぎて。そして―― 「ホンマ――ふざけんなぁッ!!」 ――そんな夢を見た自分が、そんな夢を見せた神様が、許せなかった。 ドンッと、男の拳が床に突き刺さる。 悲哀と憤怒が入り混じった、不思議で複雑な表情が男の顔には貼り付いていた。 「おちょくるのもいい加減にしてくれ……何でこないな夢見せるんや、神様よ?」 『ウルフウッド、お前には死んでほしくない』 あの言葉を言われた時、ただ単純に嬉しかった。 生き返ってから、初めて自分の存在を受け入れられた気がしたから。 心の底から喜びが湧き出た。 ――だが、その言葉の正体は、ただの夢。 自分の脳内で再生された虚像。 「そこまでして追い詰めてどないするつもりやねん……」 虚空に呟かれた疑問。 答えは分かっていた。 神様――主は無かったことにしたいのだ。 自分の過ちを――ウルフウッドという存在を生き返らせてしまった、その過ちを。 だから、追い詰める。 頭の中に『死ね』という言葉を流し続け、死んだ男の夢を見せ、ほんの少しの希望を与え、そして絶望させる。 「……ワイは死なへんぞ。オンドレがどんな嫌がらせをしようと、死なへん。生き抜いてやる」 主に反抗する為に、ウルフウッドは立ち上がる。 休憩はすんだ。 多少の睡眠を取ったおかげか、頭はスッキリしている。 先程に比べ体も軽い。 殺し合いに臨むには充分すぎる状態だ。 「さぁいくで、皆殺しや」 懐にある銃を確認。 今の自分が持つ唯一の武器にして命綱。 ウルフウッドは好敵手に背を向け、自らが入室してきた扉の方へと歩き出し―― 「…………なんや、コレ?」 ――そして彼は気が付いた。 ある一点を見つめたまま、ウルフウッドの足が止まる。 『ソレ』は最初から――カミナ達が扉を開いた時からそこに存在していた。 勿論、後にウルフウッドが侵入してきた時も変わらずに、だ。 だが、『ソレ』の存在に気付く者は誰も居ない。 何故なら、扉を開くと同時に、不可思議な機械が彼等を待ち受けていたからだ。 当然侵入者達の注意はその機械へと向けられ、死角に置かれた『ソレ』に気付く事は無い。 そして、この部屋への侵入を許されし者――螺旋力覚醒者は、部屋に設置された螺旋界認識転移装置により別の場所に飛ばされた。 だから、気付かない。 扉の上に設置された『ソレ』に。 「……何で、ココにコレがあるんや」 だが、螺旋力未覚醒者――ニコラス・D・ウルフウッドは、『ソレ』に気が付く事が出来た。 『ソレ』――扉の上部に、まるで見下ろすかの様に鎮座した巨大な十字架に。 長年、ウルフウッドの相棒とも言える最強の個人兵装に。 「最後の慈悲って訳か……」 大蛇に呑み込まれた筈のパニッシャーが、何故この部屋にあるのか、ウルフウッドには分からない。 ほんの数秒、困惑の表情で考え込むウルフウッドであったが、直ぐにその疑問を思考の隅に切り捨てた。 そんな事どうでも良い。 先程のような夢ではない。 この手の中に、愛銃にして最強の個人兵装が握られている。 その事実こそが大事であった。 ウルフウッドの顔が猛獣のソレの様に歪み、その手がバックルの一つを外した。 現れるは、見慣れた十字架――相棒パニッシャー。 様々な機械が織り成す部屋に於いて、十字架は何時も通りの白銀を見せ付け、自らの存在を誇示していた。 「またよろしく頼むで、相棒……」 優しい語り掛けと共に、ウルフウッドはデイバックと十字架を背負った。 そして何も存在しない虚空を睨み、口を開く。 「神様よ……指くわえて見とれ。ワイが、オンドレが生き返らせた愚者が、全てを殺すところを……絶対にワイは負けへんぞ……!」 その背中に断罪を意味する兵器を背負い、罪人は歩き出す。 反逆の牙は手に入れた。 あとは、いつも通りに殺していくだけ。 そこに祈りは必要ない。 背信者に祈るべき神など存在しないのだから。 生き抜く為だけに、全てを殺す為だけに、主に復讐を果たす為だけに、血塗られた地獄を進む。 「じゃあな、トンガリ」 居るはずの無い盟友へと言葉を残し、復讐者は地獄へと舞い戻った。 □ 男が背負う十字架が持って来られた世界。 それは、男の住む世界とほとんど同様の、だが何処か違う世界――言うなれば多元宇宙に浮かぶもう一つの砂の惑星。 男は知らない。 その十字架が砂の惑星に住む数千万の命を、盟友――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの命を、救った事を。 何も知らない男は全ての命を奪う為、目の前の道を歩き続ける。 世界を救った十字架が――血に、染まる。 【B-4/螺旋界認識転移装置室/2日目/朝】 【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】 [状態]:疲れによる認識力判断力の欠如(睡眠により軽減)、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味 軽いイライラ、聖杯の泥 [装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1) パニッシャー(重機関銃残弾100%/ロケットランチャー100%)@トライガン [道具]:支給品一式 [思考] 基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む) 1:売られた喧嘩は買うが、自分の生存を最優先。他者は適当に利用して適当に裏切る。 2:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。 3:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。 4:ヴァッシュに対して深い■■■ 5:言峰に対して――――? [備考] ※迷いは完全に断ち切りました。 ※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは―― ※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。 ※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。 ※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。 ※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しましたが、未覚醒のため使用できません。 ※五回目の放送を聞き逃しました。 ※『疲れによる認識判断力の欠如』は睡眠により軽減、『寝不足による思考の混乱』は解消されました。 **時系列順に読む Back:[[GOOD BYE MIRROR DAYS]] Next:[[かしまし~ラブ&ピース・ミーツ・ガール~]] **投下順に読む Back:[[GOOD BYE MIRROR DAYS]] Next:[[かしまし~ラブ&ピース・ミーツ・ガール~]] |262:[[俺達が愛したタフな日々]]|ニコラス・D・ウルフウッド|267:[[No Man's Land -はるか時の彼方-]]|