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せやけどそれはただの夢や - (2022/08/31 (水) 21:48:27) のソース
**せやけどそれはただの夢や ◆TkF95IWjXE 「うーん、結構移動したはずなのに……誰も居ないね」 海上に造られたE-3の高速道路の上で時空管理局、機動六課のエース『高町なのは』一等空尉は背伸びをしていた。 周囲を見回しても延々と道路が続くだけで人っ子一人見当たらない。 彼女の首にかけられたデバイスが声を発する。 『……マスター、前方に何かあります。行ってみてはどうでしょうか?』 「そうだね。じゃあそろそろ休憩は終わり。行ってみようか」 そう言って『高町なのは』は駆け出した。 陸士として鍛えられた彼女はフォワードとしてローラーブーツで走る仲間や 竜種に乗って移動する仲間と共に行動できる程の速度を維持し、走り続けなければならない。 故にその脚力は常人の比ではなかった。 すでに一時間近く走り続けた後だというのその姿に疲労の色はない。 そして自分の力によほど自信があるのか、 その走る姿はこの殺し合いという場にそぐわないほど無用心であり、また堂々としていた。 彼女の首にかけられたデバイスは思う。 主は何故矛盾に気付けないのかと。 空士である『高町なのは』が何故地面を走る必要があるのかと。 そう、これはすべて幻想。 『高町なのは』などこの場には居なかった。 居たのは目の前で仲間を失い、心を病んでしまった少女が一人。 辛うじて動いている壊れかけの少女。 彼女の精神は『高町なのは』という殻を被る事で辛うじて人としての理性を保っていた。 螺旋博物館に近付けたくないデバイスの誘導と 無意識のうちに仲間が死んだ場所を避ける彼女。 気付くと彼女達は海上の人となっていた。 ◆◇◆◇◆ 「これ、何かな?」 道路上にそびえ立つソレを見て、思わず『なのは』は呟く。 見上げると眼前には巨大な人型(?)のような塔が建っていた。 それは文鎮というにはあまりにも大きすぎた。 大きく、ぶ厚く、重く、そして意味不明だった。 だからそれが何なのか、『なのは』には理解できなかった。 「何だと思う、クロスミラージュ?」 『なんらかの墓標ではないかと推測します』 「……そう、かもね」 脇に置かれた少年の死体を見ながら『なのは』はそう呟く。 周囲は酷い状況だった。 何かが爆発したのか道路の中心部は抉れ、その衝撃で壁が吹き飛んでいた。 その近くには延焼したバイクの残骸と、炭化した少年の死体がただ静かに眠っている。 軽く辺りを見回しただけでもここで起こった戦いの激しさが判った。 『なのは』は少年の前に立つと胸に手を当て静かに黙祷する。 少年が殺し合いの被害者なのか加害者なのかは彼女には判らなかったが、 それでも自分が間に合えば保護出来たのにと『なのは』は唇を噛む。 「ごめんね、助けてあげられなくて……」 短い黙祷を終えると強い意志を込めて正面に立つ謎のモニュメントを見上げる。 「向こう側にも誰か居るかもしれないよね」 『どうしますか?』 「そうだね……こうしよう!」 そう言って『なのは』は胸のクロスミラージュを銃形態へと変形させる。 だが、彼女の銃に対するトラウマは重かった。 銃形態となったクロスミラージュを前にすると、それだけで硬直して腕が動かなくなってしまう。 掴もうとする『なのは』の意思とは裏腹に彼女の奥に眠る心が、体が銃を持つ事を拒んでいた。 (大丈夫。『私』なら、『高町なのは』なら――こんなの何でもない!) 心の中で何度も何度もそう呟く事で辛うじて『なのは』は精神を安定させ、トラウマを抑え込む。 そしてようやく動いた腕で、ゆっくりと熱い物に触れるかのようにそうっと、 クロスミラージュに手を伸ばし……掴む。 「っ!!」 その感触に思わず『なのは』は吐き気を覚える。 だが『なのは』は必死に吐き気を堪えながらクロスミラージュを構える。 主の異常に気付いたクロスミラージュが思わず声をかける。 『マスター、どうされたのですか!?』 「だい、じょうぶ。『私』なら平気。『私』なら……」 クロスミラージュに、というより自分に言い聞かせるように『なのは』は呟いた。 そして頭痛を振り払うように頭を振ると魔法を使った。使う魔法はアンカーショット。 クロスミラージュの銃口から魔力で編まれたアンカーが飛び出し謎のモニュメント――瀬戸の文鎮の頂上付近に突き刺さる。 次の瞬間にはアンカーの吸引力で『なのは』は空中に身を踊らせていた。 頂上付近でアンカーを解除、軽く体勢を整え多少危なげな足取りながらもしっかりと瀬戸の文鎮に着地してみせた。 「く……クロスミラージュ、モードリリース」 「……了解」 重圧に耐え切れず『なのは』は即座にクロスミラージュを待機状態へと戻す。 銃形態のクロスミラージュが消え、圧迫感が消え思わず『なのは』は息をつく。 「ふう……あっ」 そして、ようやく眼前に広がるソレに気付いた。 「綺麗だね……ここで殺し合いが起こってるなんて信じられないぐらい……」 頂上から見下ろす世界は美しかった。 太陽の光を反射し青く輝く海と波、遥か遠くに見える緑萌ゆる山々。 遠くには観覧車まで見えた。 何もかも、トラウマすらも忘れて『なのは』はその光景に目を奪われていた。 その時、クロスミラージュが警告を発する。 『マスター! 前方に人影が』 「……あ、うん。多分参加者だよね」 景色に見とれていた『なのは』が慌てて前を見ると、 まだかなり距離が開いているが確かにこちらへと向かってくる人影が見えた。 『今なら退却することも出来ますが……どうしますか?』 「……そうだね、とりあえずお話してみよう。いざとなったらよろしくね、クロスミラージュ」 『了解』 そういうと『なのは』は無造作にトンと軽く、立っていた瀬戸の文鎮を蹴り地面に向かって飛び降りた。 急降下で彼女の体を風が吹き抜けていく。 目を細めながら『なのは』はタイミングを計る。 (今だ!) 地面にぶつかる寸前に落下緩和魔法を発動しその衝撃を相殺し、ゆっくりと地面に足をつける。 前を見ると一人の男がこちらに走ってくるのが見えた。 『なのは』は多少の警戒と共に男をじっと観察する。 とはいえ遠目から分かったのは、男が青い髪をしている事、 V字のサングラスをかけている事、何故か上半身裸でその体に刺青が入っている事……たったそれだけだった。 青い髪を見て一瞬スバルの事を思い出し、『なのは』の頭に僅かな痛みが走る。 (……スバルは大丈夫。だって『私』に助けられないものなんて無いんだから) 痛む頭を押さえながらゆっくりと男に近づと、男も気付いたのかこちらに顔を向けた。 その瞬間、何故か男は目を剥くと突然速度を上げて近寄ってきた。 「おうおうおうおうっ! てめえ、その服! てめえがさっき言ってた奴の仲間だな!」 「……服? なんの事、かな?」 その言葉に『なのは』は内心ギクリとした。 思わず自分の服装を見直すが……おかしな所なんて何処にも無い。 茶色の機動六課の制服を着た自分の姿があるだけ。 血塗れの制服なんてあるはずが無かった。 しかし男は更に声を荒げた。 「なめんなよ! てめえらの姑息な企みなんざ、俺にはお見通しなんだよ! 例え天が許そうと大グレン団の鬼リーダー、このカミナ様が許さねえ!!」 威勢のいい口調で見得を切ると男は大剣を振り、切っ先を『なのは』へと向けた。 「というわけで、覚悟しやがれ!」 という訳といわれても『なのは』には訳が分からなかった。 『なのは』は慌てて手を振りこちらに敵意がないことを示しながら話しかける。 「ちょ、ちょっと待って、話を聞いて!」 「問答無用っ! てめえらはこの俺がぶっ潰す!」 そう言いながらカミナと名乗った男は大剣を振りかぶり、一気に距離を詰めた。 その速度は思わず『なのは』が目を見張るほどだった。 「うりゃあああ!!」 「くっ!」 振り下ろされた剣の速度もその大きさにしては異常、『なのは』の想像を遥かに越えていた。 『なのは』の前髪を鉄板のような剣の腹が撫でる。 咄嗟に後ろに跳び辛うじて避けたが、あと少しで当たっていた。 そして――そう、剣の腹。 『なのは』を殺す気はないのかカミナは刃を向けないが、 あれだけの速度でこれほどの鉄塊を叩きつけられたら幾ら『なのは』でもただではすまないだろう。 避けたときに巻き起こった剣風に怯みながらも『なのは』は冷静に最善手を選ぶ。 「クロスミラージュ・セットアップ!」 『Standby ready』 デバイスの声と共に『なのは』の体を光が包む。 その身に纏うは白と青 胸元には赤リボン 髪を結ぶは白リボン 彼女が纏いしその衣装は エース・オブ・エースと言われた『高町なのは』のバリアジャケットだった。 「な、なんだぁぁぁ!?」 突然光って変身した『なのは』に驚いたのか、カミナが声をあげる。 その隙に『なのは』はカートリッジをロードする。 無理矢理銃を握った反動か、止まない頭痛と吐き気が襲うが『なのは』はそれを意志の力で封じ込める。 「話を聞いてって……言ってるでしょ!!」 薬莢が弾き出されると共に膨れ上がる魔力を制御し、一気に魔法を撃ちノックダウンさせる。 ……つもりだったが、トリガーに指を置こうとした瞬間『なのは』は動けなくなった。 「おえっ……ぐ……!!」 胸から血の花を咲かせるキャロの姿が脳裏に浮かび トラウマが一気に膨れ上がり一際強烈な吐き気と頭痛が彼女を襲う。 急激に込み上げて来るモノを辛うじて腕で押さえつけるが、額からは脂汗が滲みだし、足もガタガタと震え始めた。 (違う、『私』なら、もうあんな事にはならない……! 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!) あまりに異常な『なのは』の様子に思わずカミナは攻撃の手を止める。 「な、なんだぁ? おい、もしかして震えてんのか?」 その台詞に『なのは』の頭に血が昇る。 「違うっ!! 『私』はっ! 『私』は震えたりしないっ!!」 『なのは』はヒステリックにそう叫ぶと、銃口をカミナへと向けた。 あまりの怒りにそのトラウマをも忘れたのか、震えながらもその指は自然にトリガーへと伸びる。 「ちっ、なんだかよくわかんねえ奴だな」 カミナがそんな事をぼやくと同時に『なのは』が動く。 「シュート!」 「でもな、そんなモンに当たる俺じゃあねえぜ! どりゃあ!」 照準も定まらず放たれた魔力球は本当にあっさりと避けられてしまう。 だが―― 「クロスミラージュ……お願い!」『了解』 クロスミラージュのサポートにより、魔力球はありえない機動をとる。 カミナの後方を通過した魔力球は、突然死角からカミナの頭を目掛けて反転した。 操られた魔力球がカミナの後頭部に命中するその直前―― 「うおっ!?」 動物的直感でそれに気付いたカミナが、それを紙一重で避ける。 魔力球はただ地面を抉っただけで消失してしまったが、それは『なのは』の策の内だった。 無理な体勢で避けたカミナはバランスを崩し、つんのめる。 「おっと……って、なんだこりゃあ!?」 カミナが目を剥く。 何故ならその瞬間、『なのは』の横には多数の魔力球が創られていたからだ。 そしてカミナが体勢を立て直すよりも早く、それは撃ち出された。 「シュート!」 「うおおおおおおおおお!?」 慌てて地面を転がりながらそれを避けるカミナ。 だが、『なのは』は更に数発カートリッジをロードすると、ゆっくりとカミナの傍に立ち カミナを囲むように大量の魔力球を生成した。 「うおっ!?」 「動かないで……動くと、撃つからね」 弾幕とでも言うほどの魔力球に囲まれカミナの動きが止まる。 それを見て『なのは』は大きなため息をつくと言った。 「……いきなり斬りかかって来るなんて、なんでそんな危ない事をするの? それじゃあ、螺旋王の思う壺じゃない」 なのはの口調で。なのはのように。 (そうだ、そしてきっと『私』はこう言うんだ) 「 少 し …… 頭、 冷 や そ う か …… 」 ◆◇◆◇◆ その時カミナはどうやってこの光弾の包囲網から抜け出そうと頭を捻っていたが、 卑怯な罠で人を集めて狩っているような外道に説教されて、思わずかっとした。 「あん!? なに言ってやがる、てめえらがまず頭冷や――」 そこでカミナの言葉が止まる。カミナは気付いてしまった……女の、瞳の、奥の……闇に。 (なんだこいつ、まるで穴倉の底みてえな目ぇしやがって) 感情の見えない空虚な眼差し、カミナはその奥に得体の知れない闇を見たような気がした。 気付くと背筋に冷たいものが走っていた。滲み出す汗に肌が寒気を覚えたのだ。 知らずカミナの心臓は早鐘のように激しく脈打ち、汗が額を伝うのを感じる。 ヨーコやシモンを探してずっと走り続けていたから仕方ないと自身をごまかすが、 それが間違いである事は自覚していた。真実は目の前にある。 すなわち―― 「う、うおおおおおおおお!! くそ! こんな所でもたついてられるか!」 一瞬でも怯んだ事を恥じてカミナは突発的に叫ぶが鼓動は静まらない。 (ちくしょう、俺はこんなもんなのか?) 体を右に動かせば即座に数発の光の弾が威嚇するように周辺をゆらめく。左に動かしても同上。 隙が無かった。彼の脳裏に諦めが浮かびかけた――その時 ――ザクザクザク―― 穴を掘る音が聞こえた。 思わず地面に耳をあてるがそんな音はしていない。 だが、どこからか聞こえるこの穴掘りの音は…… ――ザクザクザク―― これはシモンだ。 どんな時でも最後まで諦めなかった自慢のダチ公の穴掘りの音だ。 理由もなしにカミナはそう確信した。 (――そうだ。最後まで諦めねえ。それが俺たち大グレン団だ! そうだよなシモン!) カミナは顔を上げ、再び気合を入れると、体勢を整える。 数発の光弾が牽制するがカミナは気にしない。 そして立ち上がろうと足に力を込める。 「ぐっ!」 体に光弾が当たる。 激痛が走るが、それでもカミナは気にしない。 自身の気合を、進む道を、ダチ公を信じて。 「こんな所で、やられるわけにはいかねえんだよ!!!」 いつの間にか、早鐘のように鳴っていた心臓は静まり、変わりにカミナの瞳から強い螺旋(いし)の光が閃いていた。 ◆◇◆◇◆ 叫びながら立ち上がろうとしているカミナを余所に『なのは』の準備は終わっていた。 カミナの動きを抑えるため数発の魔力球を残し、それ以外の全てを自身の前へと集わせる。 生み出すのは、彼女の脳裏に刻み込まれたある魔法。 (大丈夫……『私』になら出来るはず) 数多の魔力球を精製・制御し一点に集め銃弾ではなく砲弾としそれを一気に放つ。 ―― 良く見ておきなさい ―― 脳裏に声が響く。 よく知っているはずの声なのだが、今の彼女にはそれが誰の声だったのか理解できない。 でも、それでもその声の教えは覚えていた。 言われた事、戦い方、優しいその人の怖い魔法。 かつて彼女が恐怖と共に目に焼きつけた忘れがたい魔法。 その必殺の魔法の名前は―― 「クロスファイア……シュート!!」 『なのは』は魔法を撃ちだす! 魔方陣から生み出された一陣の閃光は外すことなくカミナを捉え、盛大に炸裂した。 「ぐあああああああああああああっ!!」 爆音と共にカミナの絶叫が周りに響く。 渦巻く爆煙を見ながら『なのは』の口から言葉が漏れる。 「……やった」 会心の出来だった。 巻き起こった爆煙のせいでカミナの姿は確認出来なかったが『なのは』は魔法の手ごたえで勝利を確信していた。 ゆっくりとクロスミラージュを下ろすと乱れた呼吸を整える。 ……その顔に浮かぶのは歓喜と悲哀。 泣き笑いのような歪んだ表情をしながら『なのは』の口から意識せず言葉がもれる。 「……出来た。あの時『私』が撃ったクロスファイアのバリエーション……」 そして震える体を腕で抱えながらうわ言の様にただただ呟く。 「やっぱり『私』なら……『私』だったらこんな殺し合いだってどうにか出来るんだ…… 『私』ならもう無くしたりしない……『私』なら『私』なら『私』なら……」 『マスター……』 その手の中でクロスミラージュが哀しげに呟く。 この結果が彼女自身の努力の成果だという事を彼は知っていた。 高町なのはの長く厳しい特訓を耐え切った今の主だからこそ出来た事。 ただそれだけの事実。 高町なのはの戦い方を真似ているつもりのようだが、その実その全てが主自身が習得した戦闘方法だった。 だから言った。彼女のデバイスとして言わずにはいられなかった。 『これはマスターの努力の成果です、あなたが強くなられたのです』 その言葉に『なのは』はしばらくきょとんとすると突然笑いだした。その表情を歪ませたままで。 「は、あはははははははは! 何を言ってるのか判らないよ、クロスミラージュ。 これぐらい『私』にはもともと出来た事だよ?」 『正気に戻ってくださいマスター』 悲痛なデバイスの声は今の彼女には――届かなかった。 だが―― 無理を通して道理を蹴っ飛ばす 絶望すら吹き飛ばすそんな力がこの場には存在していた。 「まだだぁぁぁぁぁぁぁ!!」 声と同時に未だ立ち込める爆煙が切り払われる。 現れたのはカミナ。 ――そのサングラスは何処かに吹き飛び、 サラシもボロボロ、見るからに満身創痍だったがそれでも剣を握り立っていた。 「なっ!?」 その姿を見て『なのは』は驚愕した。 倒れていなかった事より、こちらに向かってくる事より、 なによりも露になったカミナの瞳の奥に、吸い込まれそうな不思議な輝きを見つけて。 「へっ……この程度、痛くも痒くもねえ! 俺を、誰だと思っていやがるっ!!」 立っていられるのが不思議なほどのダメージを受けたというのにその男は吼えた。 『なのは』は知っていた。痛くない筈が無いという事を。彼女は知っていた。 耐えられない筈のものに耐え、痛いはずなのに痛くないと意地を通すその男の姿を。 『なのは』は迎撃も忘れ、ただぽかんと見つめ続けていた。 ……それはあるいは羨望だったのかもしれない。 自分が見失い、あるいは無くしてしまった筈の輝きを、目の前の男は激しく見せ付けてくる。 今の『なのは』には――それは眩しすぎた。 「あんた、何っ! 何なのよっ!!」 『なのは』は銃口を向けて叫ぶ。 じっと男の瞳を見ていると不安になるから。 自身の殻が破れそうになるから。 「そうと聞かれりゃ答えねえわけにはいかねえな! 耳の穴かっぽじってよ~く聞いとけよ!」 銃口を向けられていると言うのにカミナは何処吹く風で右手を揚げる。 『なのは』が思わずその右手を見上げると、すかさずカミナが人差し指を太陽に向けて大見得を切った。 「真っ赤な太陽この手で掴みゃ、凄く熱いが我慢するっ! 意地が支えの男道、大グレン団のカミナ様たぁ、俺のことだっ!!」 『なのは』の目にはいつの間にかカミナ以外見えなくなっていた。 そして太陽の下で輝くカミナを見つめているうちに『なのは』は唐突に思う。 (ああ、この人は、あの人に似ているんだ) 姿かたちではない、何処までも諦めない不屈の心を胸に秘めた所が。 どんな逆境でも怯まず立ち向かう……そう、レイジングハートを持つあの人に。 ―― 私の教導地味だから……苦しかったんだよね、ごめんね ―― 記憶から 思い出が甦る 胸に響いた この言葉は (……覚えてる。これ、『私』の言葉だ。『私』が誰かに……違うっ!! 『私』が言った言葉じゃない、これは……これは!) ―― 今日も頑張ろう、ティアナ ―― 脳裏に 笑顔が広がる それは それが 高町なのはさん そして、彼女はようやく気付けた。 「私は……なのはさんじゃ、なかったんだ……」 『マスター……!?』 それはどんな奇跡か。 デバイスが幾度言葉を繰り返しても払われなかった彼女の幻想は たった一人の男の一度の大見栄で吹き飛ばされてしまった。 「クロス、ミラージュ……ごめんね。私はただ――」 しかし彼女の言葉はそこで途切れる。 何故ならばその瞬間、動かない彼女に接近したカミナが剣の腹をぶち当てたからだ。 「……はがっ」 「くらえ、必殺! 男の魂 完全燃焼ぉぉぉ」 衝撃でカミナの左肩の傷が広がり、血が飛び散るが ――まるで痛みを感じてないように、カミナはそれを振り抜いた。 「場外ホームラン、アターーーーーーーック!!!」 「―――っ!!」 彼女は空中を吹っ飛びながら思う。刹那の間に。 ―― ああ、そうだ。なのはさんならこういうふうに空を飛べたはず……馬鹿だ、私は馬鹿 ―― 4、5メートルほど吹っ飛んだ彼女は地面にぶつかっても止まらず、ボールのようにゴロゴロと地面を転がった。 そして巨大文鎮にぶつかりようやく止まる。 その時にはもう彼女に意識は無かった。 「っっっぅう!!!」 カミナは痛む左肩を押さえて呻く。 思いっきり彼女を打ち飛ばすなどというとんでもない無茶をしたせいか左肩からは凄まじい激痛が襲ってくる。 この傷ではしばらくは無茶は出来ないだろう。 「ちっ……この俺とした事が少し手こずっちまった……なっ――!?」 カミナはぼやいてる途中で気付いた……彼女の姿が変わっている事に。 カミナの一撃で彼女が被っていた『高町なのは』という殻は完全にやぶれ、真実の姿が現れていた。 心弱き少女、血塗れの制服を着たティアナ・ランスターの姿がそこにはあった。 「――んだ、なんだ? 今度は顔まで変わりやがった!?」 ◆◇◆◇◆ 女が完全に気絶している事を確認してカミナはようやくその場に座り込んだ。 「体がだりぃ……そのわりには肩以外に傷はないし……なんだったんださっきの攻撃は?」 わかんねえ、そう呟きながらカミナは考える。 正直、体がだるくて眠ってしまいたい所だが、ヨーコやシモンを探すまで眠るわけにはいかなかった。 とはいえ、そうなると当面の問題は目の前の女だった。 変な光る攻撃もそうだが、人を集めて殺しまくってる奴の仲間にしては、どうにもこの女はおかしい。 銃を向けて震えるわ、ぶつぶつ一人で喋ってるわ、ぼけっとつっ立ってるわ とても外道な罠を張れるような人間には見えなかった。 「うーむ、やっぱ俺にはわからねえ。……しかしどうっすかな。 もう縛れるような物もないし。ここに置いといたらなんか殺されそうだしなぁ……」 カミナは頭をかきながらついついひとりごちる。 一人で居る事に慣れてないのだ。 『殺し合いに乗っていないならば、少し話をしませんか』 「……あん?」 唐突に声をかけられ思わず間抜けな返事をしてしまう。 カミナは慌てて辺りを見回すが周囲には倒れた女以外は誰も居ない。 「おうおうおう! 何処にいやがる!?」 『ここです、貴方の足元です』 「足元ぉ?」 カミナが足元を見るとそこにはただ板のようなモノがあるだけで 人っ子一人、もしくは小型ガンメンモドキ一体もいなかった。 「誰もいねえじゃねーか、隠れてないで――」 そこまで言った瞬間、その板が点滅して喋りだした。 『初めまして』 「――うおっ!? 板が喋ったぁ!?」 【E-3海上/高速道路上/1日目/昼】 【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 [状態]:気絶、精神異常、全身打撲、肋骨にひび、血塗れ、体力小消耗、精神力大消耗 [装備]:クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4) [道具]:なし [思考] 基本思考:??? 1:もう『高町なのは』ではいられない 2:機動六課メンバー以外の人間は敵だ 3:11:00までにはD-4駅に戻る? [備考] ※キャロ殺害の真犯人はジェット、帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。 これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。 この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。 ※冷静さを多少欠けていますが、戦闘を行うことは十分可能なようです。 ※銃器に対するトラウマはまだ若干残っています、無理に銃を撃とうとすると眩暈・吐き気・偏頭痛が襲います。 ※カミナの影響で自分が『高町なのは』であるという幻想はぶっ壊されました。 【カミナ@天元突破グレンラガン】 [状態]:魔力ダメージによる精神力特大消耗(気絶一歩手前) 体力大消耗・左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る )マントを脱いでいる [装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、 [道具]:支給品一式、ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!(?) 、ゲイボルク@Fate/stay night [思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。 1:なんだこの喋る板? 2:ヨーコと一刻も早く合流したい 3:ヴィラルを逃がした事に苛立ち 3:グレンとラガンは誰が持ってんだ? 4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す! [備考] ※グレンとラガンも支給品として誰かに支給されているのではないかと思っています。 ※ビクトリームをガンメンに似た何かだと認識しています。 ※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。 ※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。 ※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。 ※1/4メロンは海に出た際、落っことしました。どこかに流れ着いても、さぞかし塩辛いことでしょう。 ※向岸流で流れ着いたメロンが6個、F-1の海岸線に放置されています。 ※シモンの死に対しては半信半疑の状態です。 ※拡声器の声の主(八神はやて)、機動六課メンバーを危険人物と認識しています。 *時系列順で読む Back:[[悪魔(デビル)が哭く夜! 復活のデビルマスタング]] Next:[[『蛇』のアクロバットをためつすがめつ]] *投下順で読む Back:[[悪魔(デビル)が哭く夜! 復活のデビルマスタング]] Next:[[『蛇』のアクロバットをためつすがめつ]] |128:[[迷走Mind]]|ティアナ・ランスター|157:[[誓うカミナ]]| |132:[[たった一つの強がり抱いて(前編)]]|カミナ|157:[[誓うカミナ]]|