•リビング

私はリビングに置きっぱなしにしていたバックからあずにゃんの携帯を取り出す。

唯「はい、純ちゃんが拾ってくれたんだよ。」

梓「本当にありがとうございます、ところで純は学校に来てたんですか?」

唯「来てたけど早退したよ」

梓「そうですか、憂と純が心配です」

そういえば、あずにゃんと純ちゃんは憂がずっと虐められてたことに気づいてなかったんだよね。

唯「憂が入院する前ってどんな感じだった?」

梓「良くCと一緒にいて私達と距離をとっているようでした、今まで気付かなかった私達にも責任があります」

結局一言も発言しないまま退学したC。

あいつが憂とあずにゃんを引き離してたのか。

奴らの自供によると、現金を奪ったのは一度だけらしい。

憂にも学校から連絡が行ってるだろうから事実だろう。

憂はトイレに連れ込まれ携帯と財布を奪われた後、特に酷い暴行は受けずに次はあずにゃんと純ちゃんを虐めると脅されたらしい。

そして憂はなんでもいう事を聞くから私以外の人を虐めるのはやめて欲しい。と懇願したんだそうだ。

その忠誠の証があの土下座写メ。

憂が制服を脱がされ辱めを受けていたりしないだろうかと危惧していたが杞憂だった。

唯「血の跡が付いてたけどあずにゃんは怪我させられたの?」

梓「あ、これは私のじゃないです」

唯「じゃあ誰の?」

梓「Cのですね、携帯でCの顔を殴った時に唇から出血してたので、その跡すぐに逃げてロッカーに隠れてたんです」

唯「そ、そうなんだ」

梓「じゃあ純に電話しますね」

唯「うん、ちょっと私にも代わって」

あずにゃんが電話を発信すると、ワンコールで純ちゃんが出た。

主に私が今日の出来事を報告し、明日学校で借りたものを返すという旨を伝えて電話を切った。

唯「ふぅ、今日は色々あって疲れたよ」

梓「…憂に変装してたなんて学校から聞いてないですよ」

唯「あずにゃんの為なら手段は問わないってことだよ」

梓「頼もしいけどちょっと怖いですよ」

唯「私は怖くないよー、子猫ちゃんこっちにおいでー」

梓「もう、色々お世話になったし今日は私がご馳走します、そこに座って待ってて下さい」

唯「えー、私ちょっとは料理覚えたんだよ?共同作業しようよー」

梓「ダメです、私の料理を食べてもらいたいんです」

唯「わかったよー」

私はテレビを見ながらあずにゃんの手料理を待つが、なんとなくあずにゃん分を補給したくなった。

唯「よいしょ」

テレビを消してキッチンに潜入する。

そこではエプロン姿のあずにゃんが私の為に黙々と作業していた。

こちらを見ずに

梓「座って待ってて下さい」

と、冷たく言い放つ。

唯「写真撮っていい?」

梓「ダメです」

冷たいなぁ。
ほんとに気まぐれなんだから。

私はあずにゃんの背後に移動し肩に顎を乗せる。

唯「あずにゃん構ってよー」

返事が無い。

あずにゃんの耳に私の頬を擦り付ける。
多分今抱き締めたらあずにゃんは怒るだろう。
耳を噛んだら激怒するだろう。
ギリギリのラインを見極める。

ある程度満足したので何も言わずにリビングに戻る。

今日取り返した憂の携帯を取り出す。
憂に返す前に忌まわしいデータを消したいがそうなるとデータフォルダを覗くことになる。

いくら姉妹でも携帯を覗くのはダメだよね。

明日お見舞いに行ってこのまま返そう。

あずにゃんの視線を感じるが私は背を向けて携帯をバックに仕舞った。

唯「いただきまーす!」

梓「どーぞ、召し上がれ」

あずにゃんの声が淡々としてる。
不機嫌あずにゃんだね。

なんとなくアクセントのニュアンス的に
『召し上がりやがれ』と言われてるような気がした。

唯「美味しいよ、あずにゃん」

梓「それは良かったです」

無理に会話を続けない。
カチャカチャと食器を叩く音が響く。
敢えてテレビは点けない。

唯「ご馳走様でした」

梓「ご馳走様でした」

あずにゃんが食器をシンクに運ぶ。

唯「私が食器洗っておくからあずにゃんはお風呂入ったら?」

あずにゃんはジト目でこちらを見る。

唯「食器洗いくらいできるよー」

梓「そうですか、ならお言葉に甘えて」

唯「いってらっしゃい」

あずにゃんがお風呂に入ってお湯を流す音が聞こえてくる。

私はご機嫌に食器を洗い終えて、テレビを見てあずにゃんを待つ。

いつもなら一緒にお風呂入ろうとか言うところだが、今日はね、雰囲気作りをね。

この為にシャワーを浴びて来たのだから。

やがてあずにゃんがお風呂から出てくる。

梓「あがりました」

唯「早いね」

私はソファの上であぐらを組み短く返答する。

あずにゃんがバスタオルで髪を乾かしながら歩いてくる。

私はソファの背もたれに寄りかかりテレビを見続ける。

そしてあぐらを解き股を開く。
あずにゃんを一瞥し股の間からソファをポンポンと叩く。

少し躊躇った後に
あずにゃんがストンと私の足の間に腰を下ろした。

なにこの子。
可愛すぎるでしょ。

思い切り後ろから抱き締めたい衝動を抑えてそっとあずにゃんのお腹に手を回す。

あずにゃんが手を重ねてきた。

ネコはそっけなくされると構ってもらいたくなるのだ。

唯「あーずにゃんっ♪」

名前を呼ぶと私にもたれかかってきた。
私はギューッとあずにゃんを締め付け頬っぺた同士を擦り付ける。

ぐりぐり。

あずにゃんはテレビに見入ってる振りをしている。

急いでお風呂からあがって髪を乾かすのも後回しにする位、私に構って欲しかったんだよね?そうなんだよね?

唯「髪乾かしてあげるね」

私はパッと腕を解きあずにゃんの首にかかっているバスタオルを取る。

唯「髪が長いと乾かすのも大変だねー」

梓「…」

丁寧に丁寧にあずにゃんの髪から水分を抜き取っていく。

唯「はい完了」

そう言い手を止めるとあずにゃんはまたもたれかかってくる。

梓「…」

唯「…」

…腕をお腹に回して欲しいんだよね。
でも、

唯「ドライヤーどこ?」

梓「…部屋です」

唯「いこっか」

あずにゃんは立ち上がりバスタオルを洗濯籠に入れた。
立ち上がるときにさりげなく私の膝に手を置く所とか最高に可愛い。


•梓自室

あずにゃんはドライヤーをコンセントに挿し私に手渡す。

ちょっと触れ合いすぎかなと思った私はあずにゃんを勉強机の椅子に座らせドライヤーのスイッチをいれる。

フォーン

静かなドライヤーだ。
確かイオンがなんとかかんとかなんだよね。
以前CMで見た。

唯「熱かったら言ってね」

温風と冷風であずにゃんの髪を乾かしていく。

唯「本当に綺麗な髪だね」

毎日洗って乾かしてを繰り返してるのか。
私だったら乾かすのサボってすぐに痛めてしまうだろう。

唯「はい、完了」

ドライヤーをコンセントから抜いて柄に巻きつけてあずにゃんに手渡す。

梓「ありがとうございます」

あずにゃんが椅子から立ち上がろうとしたとき私は後ろから抱きついた。

梓「どうしたんですか?」

唯「あずにゃんと一緒に寝たい…」

梓「どういう意味です?」

唯「普通の意味」

梓「じゃあ…もう寝ましょうか」

唯「うんっ」

カチッ

部屋を照らす電気が消え、視界が一気に暗転する。

日が出ている間は晴天だったが今は厚い雲が月明かりを遮っている。

二人で一つのベッドに入る。

唯「真っ暗だね」

梓「もう寝ましょうよ」

あずにゃんは私に背を向けて眠りの体制に入る。

唯「ちょっとお話しない?」

梓「いいですよ」

唯「さっき言ったけど今日はあることを告白しに来たんだよ」

梓「はい」

唯「眠かったら返事しなくていいよ」

唯「それでねまだちょっと決心が付かないから、他の話するね」

唯「私達が卒業したらあずにゃんは部長になるよね、けどもし部員が四人集まらなくて軽音部が廃部になっても誰も責めないからね」

唯「気負わないで、軽音部に縛られないで、あずにゃんはあずにゃんのスクールライフを送ればいいよ」

唯「帰宅部ならもっと憂と遊べるでしょ?」

梓「…なにいってるんですか、私は好きで軽音部にいるんです」

唯「その軽音部を守る為に無理しすぎないでって事だよ、唯一の後輩が病んでる姿なんて見たくないからね」

梓「唯先輩にとって私は部活の後輩なんですか?」

唯「あずにゃんは部活の後輩だよ」

梓「そうですかただの後輩なんですね…」

唯「あずにゃんが私にとってただの後輩じゃないってことくらいわかるでしょ?」

梓「どうでしょう」

唯「あずにゃん、言わないと伝わらないかな?」

唯「決心が必要な告白なんてあれしかないでしょ?」

梓「言わないとわかりません」

唯「言っちゃったら後戻りできないから決心が必要なんだよ」

梓「言ってみればいいじゃないですか、私達の絆を信頼できないんですか?」

唯「言えないよ、確信できない限り絶対言えない」

唯「あずにゃんは今も私に背を向けてるから、絆を脆くしてしまったのは私だよね、本当にごめん」

梓「私がそちらを向けば決心できるんですか?」

唯「あずにゃん、私が付いてるって言ったのに期待を裏切ってごめんね」

梓「…」

唯「こっち向かなくていいから聞いてて」

唯「このまま卒業するまで5人でけいおんやりたいって言いだしたのは私なんだよ」

梓「知ってます、聞いてました」

唯「安易な考えだった、あずにゃんの事をこれっぽっちも考えてなかった」

唯「来年あずにゃんが大変な思いをすることすら気付いてなかった」

梓「なに言ってるんですか、唯先輩が5人でやりたいって言ったのを聞いて私凄く嬉しかったのに…、先輩方四人の目に見えない絆に私も入れたと思ったのに」

唯「本当にあずにゃんの事を思っているなら今でも部員勧誘を続けるべきなんだよ」

梓「私は5人でやりたかったんです、HTTに部外者を招きたくなかったんです」

唯「私も新入部員を入れたくなかった、…不純な理由で」

梓「不純な理由…?」

唯「あずにゃんに後輩ができたらきっとその後輩に付きっきりになるでしょ?私はそれを恐れたんだよ」

梓「…唯先輩らしい理由ですね」

唯「それと、いつも可愛いって言ってごめんね」

梓「…私が虐められた理由まで知ってたんですか」

唯「あずにゃんのクラスに行った瞬間わかったよ」

唯「可愛いって言われたくなかったよね」

梓「そんな訳ないです、女の子なら普通喜びます」

唯「じゃあ言っていいんだね?あずにゃんの背中、可愛いよ」

あずにゃんがこちらを向く。

唯「…抱き締めたくなる」

梓「そうですか」

唯「抱き締めるとあずにゃんは嫌がる」

梓「今日は嫌がりましたっけ?」

唯「嫌がって無いね」

梓「なんででしょう?」

唯「なんでだろうね」

梓「嫌がられない方法を考えたんじゃないんですか?」

唯「考えたよ、いきなり抱きつかないように、暑くないように、人に見られないようにすればいいのかなって」

梓「そうですね」

唯「じゃあ今抱き付いてもいいの?」

梓「試してみればいいじゃないですか」

唯「…」

私は、左腕を差し出す。

梓「…」

あずにゃんは頭を上げて私の左腕を枕にする。

唯「いいの?」

梓「喋らないで下さい」

体を寄せて右腕をあずにゃんの背中に回す。

唯「…」

なんだか緊張しすぎて悪いことしてる気分になってきた。

少しずつ慎重に…力を込める。

ギュー

あずにゃんは嫌がらない。

もっと強く抱き締める。

唯「苦しくない?」

梓「もっと強くても大丈夫です」

もっともっと強く、二人の間に空気すら割り込ませたくなくて必死にあずにゃんの細くて柔らかい身体を抱き締める。

唯「…!」

あずにゃんが足を絡ませてきた。

私も足を絡ませる。

お互いの足でお互いの足を挟むように。

すこし息が荒くなってきた。
深呼吸して呼吸を整える。

あずにゃんが私の腰に腕を回す。

もぞもぞと身体を動かし、もっと密着できる体位を探ってゆく。

あずにゃんの小さくてさらさらな手が私のシャツの中に侵入し私の素肌に触れる。

ほっぺた同士をぐりぐりと擦り付けさりげなく唇を押し付けた。

あずにゃんがこちらを向いておデコ同士がぶつかる。
少し眉毛がチクチクした。

あずにゃんも呼吸が荒い。

鼻の頭同士をくっつける。

お互いの熱い吐息が僅か数センチの隙間で混ざり合う。

あと数センチ。

あずにゃんは目を閉じて呼吸を整える。

この数センチが果てしなく遠い。

あずにゃんの手が私の背中を滑りブラジャーのベルトまで届いた。

梓「ゆい、せんぱい」

あずにゃんの手がブラのベルトと背中の隙間を撫でる。
さらにあずにゃんは右手で私の左手を握り、指を絡める。

…これって、恋人繋ぎだよね。


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最終更新:2011年05月01日 21:11