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チャプ……

澪「冷たい……」

澪は川の水に身を浸し仰向けになって空を見上げている

先ほどまで遊んでいた唯と梓も今は自分の防具と自身を洗っている

川の流れに浸っていると体についた汗や血が洗い流されていくのがわかるようだった

サラサラサラサラ……

澪(空、綺麗だな……)

澪がぼんやりしていると水音に混じって聞きなれた声が聞こえてきた

律「おーい、澪ー」

澪「律!」バシャン!

澪は急いで川からあがり、律のもとへと駆けより抱きついた

ダキッ!

澪「律ぅぅぅぅ!よかった!目がさめて!」ギュウゥゥゥゥ

律「ちょ!澪、苦しいって」

紬「あらあら、うふふ」フヒヒ

律の姿をみて唯と梓もやってきた

唯「りっちゃん、目がさめたんだね!」

梓「よかったです!もう体は大丈夫なんですか?」

律「ああ、もう大丈夫だぜ!」

澪「まったく、心配したんだぞ!」

律が澪の頬に手を触れる

ソッ

律「澪、ありがとな……ムギからきいたよ、澪が私を助けてくれたんだろ?」

その言葉を聞くと澪は律から身を離す

紬「どうしたの?」

紬の問いかけに澪は答えない

澪「私は……助けてなんかない……!」

澪は俯いて声を震わせている

澪「律が怪我したのは私のせいなんだ……!」

梓「そ、そんな事……!」

澪「私は戦おうとしないでただ怖がってただけだ!皆に任せて自分一人、戦いから逃げ出して……!」

唯「澪ちゃん……」

律「澪は悪くない!私は澪が怖がりで戦いなんてできないって知ってる、だから澪のことを守れなかった私が悪いんだ!」

澪は唐突に顔をあげる

澪「ううん、違うんだ……それじゃ駄目なんだ」

澪が律の目を見つめて話す

澪「律が私を守ってくれるのは嬉しいよ……でもそれだけじゃ、守られてるだけじゃ駄目だってわかったんだ」

意を決したように澪はいう

澪「私も律の傷つく姿なんてみたくないんだ!私も強くなって、私も律を守りたい!」

律「澪……」

二人の距離が縮まっていく

律「ありがとう」

澪「ううん、これからは私のことももっと頼ってくれよ?」

紬「」ムギュゥゥゥゥゥ!

梓「ムギ先輩……」

唯「これで仲直りだね!……それじゃあ、そろそろお弁当にしようよ!私、お腹空いて死にそうだよ!」グー

澪「ぷっ、あははははは」

律「まったく、唯らしいな」クスクス

気がつけば太陽はてっぺんより少し西に傾いている

梓「まあ、時間もちょうど良いですしね」

紬「じゃあ、私とりっちゃんはまだ水浴びしてないから、済ませてからにするわ」

澪「それじゃあ、私達は木陰で待ってるから」


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サワサワサワ……

木漏れ日が降る木陰で五人は昼食をとっている

唯「おいしーね!」ガツガツ

梓「唯先輩、もっと落ち着いてくださいよ」

一同はしばし無言で箸を進め、一息ついたところで澪が口を開いた

澪「なあ律、これでクエストは終わりなんだよな」

律「そうだな、後はギルドで完了報告して、調査書を提出すればいいはずだ」

澪「……そういえば、誰か調査書なんて書いてたっけ?」

唯「……」

紬「……」

律「……あれ?」

梓「はぁー、やれやれです……」ヤレヤレ

律「!なんだよ、梓、お前も忘れてたんだろ!」

梓「ふっふっふ、私を甘くみてもらってはこまります」

梓はわざとらしく声を作り、もったいつけた動作でバックから紙の巻物を取り出した

澪「梓、もしかしてそれって……」

梓「そうです!今回の遺跡の調査書です!」フフン!

紬「すごいわ、梓ちゃん!いつ書き上げたの?」

梓「皆で探索してる時です、先行して内部の構造まで書き写しました!」

律「それであんなにそわそわしてたのか、てっきりお宝目当てなんだとばっかり思ってたぜ」

唯「凄いね~あずにゃん、偉いよ~」ナデナデ

梓「ふにゃ~、もっと褒めてください……」フヘヘ

澪「ともかくこれで一安心だな」

律「よし、それじゃあさっさと街まで戻ろうぜ!」

紬「そうね、今から戻れば日暮れまでには余裕で間に合うわ」

一行は荷物を片付け帰路を急ぐことにした


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太陽がオレンジの光を帯び始める頃、一行は街の入口に到着した

澪「律、このままギルドに向かうのか?」

律「う~ん、期限もまだあるし、明日にしようぜ?」

唯「そうだね、今日はなんだか疲れちゃった……」

紬「初めてクエストだったものね」

澪「それにしても、今日は梓が大活躍だったな」

梓「探索クエストなら任せてください!トラップ解除だってやってやるです!」

律「おー、頼もしいな!」

一行はそんな会話をしながら宿に戻り夜を明かした


……

一行は夜が開けるとすぐにギルドへ向かった

ガチャ……キィ

律「おはようございま~す」

律達が扉を開け中へ入る

ギルドは早朝ということもあり、まだ人もまばらでいつもの騒がしさは感じられなかった

受付嬢1「あら、おはよう、早いわね」

唯「クエスト完了したんだよ!」

受付嬢1「報告ね、それならこっちよ」

一行はカウンター付近まで移動する

受付嬢1「それじゃあ、調査書をだしてちょうだい?」

梓「はい、これです」

受付嬢は梓が取り出した調査書を広げ、目を通す

受付嬢1「……」

ペラッ……

受付嬢1「!この四足歩行のモンスターって……」

紬「遺跡の二階層に群れで生息してたんです」

唯「そうだよ、たくさんいてたいへんだったんだから!」

律「でも全部やっつけたぜ!」フンス

受付嬢1「ねえ、このモンスター……犬型だったでしょ?体色は?」

澪「はい、そうです、体色は茶色でしたけど?それがなにか……?」

受付嬢1(間違いないわ、コボルトね……な
んでこんなところに?最近の魔物の狂暴化に関係してるのかしら……?)

受付嬢1「……」

梓「どうしたんですか?」

受付嬢1「あ、いいえなんでもないわ、そうそう、このモンスターはコボルトっていうのよ」

澪「コボルト……」

受付嬢1「それにしてもあなた達なかなかやるわね」

唯「?なんで?」

受付嬢1「コボルトは一体だと大したこと無いんだけど、群れだとけっこう強敵なのよ、それを全部討伐するなんて……」

律「さすが、私達!」フンス

受付嬢1「そうね、あなた達、新人にしてはかなりいい線いってるわ」

唯「褒められた~」ニヘラ

ペラペラ……

受付嬢1「よし、問題ないわ、完璧よ」

律「やった!」

澪「梓のおかげだな」

梓「えへへ、もっと褒めてください~」ニヘラ

受付嬢1「それじゃあ、あとは報酬を……」

ダンッ!

一同「!?」ビクッ

突然の物音に驚く一同

???「一体どうなっているんだ!!もう依頼をだしてから二日もたってるんだぞ!!」

受付嬢2「そう言われましても、最近の魔物の狂暴化で有能なクランはほとんど出払っていますので……」

律達がいるのとは別のカウンターから男の怒号が聞こえてきた
男は受付嬢と言い争っているようだ

律「なんだなんだ?」

その騒ぎに一行も思わず注目する

澪「……なあ、あれ、楽器屋のおじさんじゃないか?」

唯「あ、本当だ!」

紬「どうしたのかしら?」

梓「ちょっと話をきいてみましょうよ」

律「そうだな、困ってるみたいだし」

楽器屋「はあ、困った……あれが無いと、あああ……」

楽器屋は怒る気力もなくしたのかカウンターでうなだれている

律達は近づいて話を聞いてみることにした

紬「あの~、どうかされたんですか?」

楽器屋は問いかけられると驚いたように顔をあげた

楽器屋「えっ?……ああ、君たちか」

澪「なにかあったんですか、こんなところに朝から?」

楽器屋「ああ、まあね……でも君たちこそなんでこんな所に?ここは女の子のくる所じゃ無いぞ」

梓「私達、実は冒険者やってるんです」

楽器屋「ええ!?君たち冒険者だったのか!」

澪「まあ、成りたてですけど」

楽器屋「……」

楽器屋は黙ってなにか考え込んでいる

楽器屋「ねえ、君たち、僕の依頼を受けてくれないかな?」

紬「依頼、ですか?」

楽器屋「ああ、ギルドにクエストを依頼してたんだけどね、受け手がいなくてさ……」

梓「それでここに……」

楽器屋「ああ、急ぎのクエストなんだ、受けてもらえないかい?」

律「よし!引き受けた!困っている人は見捨てられないぜ!」ドン!

律が胸をはって答える

澪「おい律!内容も聞かずに……」

受付嬢2「その方のクエストを受けるのは推奨できません」

一同「えっ!?」

今まで黙って話を聞いていた受付嬢が突然声をあげた

唯「な、なんで?」

受付嬢2「その方の依頼したクエストの内容は、最近この辺りを荒らし回っている盗賊団から盗まれた品物を取り返して欲しいと言うものです」

律「なんだよ、盗賊団くらい楽にやっつけてやるぜ!」

受付嬢2「……この盗賊団は数は少ないですが、かなりの手練で構成されています、情報では魔術師も一人含まれているようです」

澪「魔術師……って、もしかして!」

梓「盗まれたんですね……あの横笛」

楽器屋「いやはや、お恥ずかしい……」タハハ

律「タハハじゃねー!」

紬「魔術師って手強そうね」

受付嬢2「それに加えて、この街の警察機構とギルドが完全に独立していることがこのクエストの危険度をさらにあげています」

唯「独立?なにそれ?さっぱりピーマンだよ」

受付嬢2「わかりやすく言うと、ギルドのクエスト中であってもこの街の法を守らなくてはならないと言うことです」

唯「えっ!わけわかめ!」

澪「つまり、いくら盗まれた物を取り返すためで相手が盗賊でも、家捜ししたら不法侵入、殴ったら暴行ってことだろ」

受付嬢2「さらに問題なのはこの方の用意したクエスト報酬が少なすぎることです」

梓「いくら用意したんですか?」

楽器屋「金貨5枚だけど……」

受付嬢2「このクエストの危険度から考えて、妥当な金額は金貨10枚です」

楽器屋「はあ、さすがにそんなには用意できないよ」

受付嬢2「この盗賊団にはギルドも警察も前々から手を焼いています、新米のあなた方には荷が重すぎます」

楽器屋「頼む!あの笛を取り返してくれ!もう時間がないんだ!」ガバッ

一同「……」

楽器屋は平伏して頼みこんでいる

律「なあ、みんな、やっぱりこのクエスト受けようぜ」

楽器屋「ほ、本当に!?」ガバッ

澪「……そうだな、こんなに頼まれたんじゃ断れないよ」

唯「困ってる人を見捨てるなんてできないよね!」

受付嬢2「本気なんですか!?無謀すぎます!第一……」

ポン

受付嬢2の肩に手がおかれる

受付嬢1「まあまあ、いいじゃない、やらせてあげなさいよ」

受付嬢2「で、でも……」

受付嬢1は一行に視線を合わせる

受付嬢1「でもあなた達、心してかかりなさいよ!」

梓「は、はい!」

受付嬢1「笛を取り返せばいいんだから、全員と戦う必要はないの、無理だと思ったら迷わず逃げなさい!」

律「ああ、わかってるぜ!」

唯「私達、絶対に笛を取り返してくるよ!」

楽器屋「君たち、本当にありがとう……!」

紬「ふふ、お礼は取り返してからにしてくださいよ」

楽器屋「そ、そうだ!君たち楽器、欲しがってたよね!?」

梓「ええまあ、欲しいですけど」

楽器屋「報酬に上乗せして一人ずつ楽器をつけよう!これで妥当な金額だろ?」

梓「ほんとですか!?」フンフン!

律「こりゃー、ますます成功させなきゃな!」

唯「よーし!ぜったい成功させるぞー!」

紬「おー♪」

受付嬢1「あ、そうそう、こないだ警察機構が大規模な摘発やって盗賊団のアジトは壊滅させたらしいわ」

澪「え、じゃあ、一体どこにいるんですか?」

受付嬢2「おそらく、盗賊ギルド直営の宿舎に潜伏していると思われます」

律「そんなもんまであるのかよ、ていうかそれ、ただの犯罪組織だろ?」

受付嬢2「はい、もちろん国に認められていない非公式ギルドです」

受付嬢1「彼ら、捕まらないように場所を不定期に変えて特定し辛いから盗賊ギルドは自分たちで探してちょうだいね」

律「うわ、めんどくさ」エー

澪「おいおい、引き受けるって言ったそばからそれか」

律「冗談だよ、まあ、地道に探すか!」

紬「それしかないわね」

唯「それじゃ早速捜査開始だよ!」

一同「おー!」

ドア「ガチャバタン!」


受付嬢2「……本当に大丈夫なんでしょうか」

受付嬢1「ふふ、きっとうまくいくわ」

受付嬢2「なにを根拠に……」

受付嬢1「カンよ!カン!」


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一行がギルドからでるとすっかり街は活気づいており、騒がしい

ガヤガヤ

唯「よーし!情報収集だよ!」

律「とは言ったものの、一体なにから探していいんだか……」

紬「まさか、堂々と聞いて回る訳にもいかないし」

澪「周りに人の会話をそれとなく盗み聞きするっていうのはどうだ?」

梓「それも難しそうですが……」

紬「でもそれならできそうかも……」

律「まあ、やってみようぜ!」

唯「じゃあ、まずそこの露店でやってみようよ!」


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最終更新:2011年03月17日 02:54