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一方、澪は相変わらずだった
この店に入ってからレフティーコーナーの前から一歩も動いていない

澪「」キラキラ

律「おい!澪!」

澪「」キラキラ

律「澪ってば!」ガシッ

澪「はっ!律!」

律「やっと、気づいたか……」

澪「う、うん、ごめん……あれその人は?」

律「この店の店主さんだよ、澪の演奏が聴きたいらしい」

澪「ええ~!は、恥ずかしいよ!」///

律「なに言ってんだよ、私達みんなやったんだぞ?」

澪「で、でも私、そんなに上手じゃないし……」ボソボソ

唯「そんなことないよ~澪ちゃんは上手だよ~」

澪「そ、そうかな?」

店主「無理にとは言わないけど、ぜひ君の演奏を聴かせてもらいたいな」

澪「えっと、じゃあ、ちょっとだけなら」///


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店主「君はどの楽器を弾くんだい?」

澪「えっと、ベースなんですけど……」

店主「ベース?うーん?」

澪「あ、あの、低い音の出るやつ……」

店主「ああ!バスね!オーケー、あるよ」

ガサゴソ

店主「これこれ!」

店主が持ってきたのは肩くらいまである長い板に弦が四本張ってあるものだ

梓「これがベース?」

店主「ここをこうして……」

ブィィィィン

店主が板の下部のスイッチをいれると、板の周りに光の帯が形成される

店主は弓を取り出して弾き始めた

ブォォォォン

澪(アップライト……いや、コントラバスか?)

店主「これで弾けるようになった、はい、どうぞ」

澪「どうぞって言われても、このままじゃ弾きにくい……」

梓「澪先輩!念じるんですよ!そうすれば思った通りの形になってくれますから!」

澪「念じる……?」

澪はベースを手にして集中する

澪(エリザベスのあのくびれたセクシーなシェイプを思い出すんだ!)ムーン

シュイィィン

律「お!なんだか見なれた形になってきたな!」

店主(見たことない形だ、一体どんな音が)

店主「あ、弓は使わないのかい?」

澪「え、ええと、使いません」

形が変わるにつれて光の色もお馴染みのサンバーストカラーになっていく

澪(でも肩から掛けないと弾きにくいまま……ストラップも念じれば出るかな?)ムーン

澪が念じると、光の上部から細い紐上の帯が伸び、下部に接続される

梓「あ、なるほど、そうすればよかったんですね」

澪(よし、これで弾きやすくなった)

ベンベンベーンブンブンブンブン

バッキバキバキ!

律(スラップかよ)

澪「意外と弾きやすいですね、これ」

店主「き、君は指で弾くのかい!?」

澪「えっ?普通そうじゃないんですか?」

律「澪、いろいろ違うんだよ」


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紬は一人離れて店内を物色していた

ブラブラ

紬(やっぱり鍵盤楽器はないわ……これくらいの文化圏だとしょうがないのかしら)

唯「あ、ムギちゃーん!」

向こうから唯がかけよってくる

紬「あら、唯ちゃん、どうしたの?あ、みんなも……」

唯「えっと、店主さんがムギちゃんの演奏聴かせて欲しいんだって!」

紬はそこで初めて唯たちの後ろにいる人物に気づく

店主「すまないが、君の演奏をぜひ聴かせて欲しい!」

紬「ええと、あの……」

律「ムギ、きかせてあげなよ!」

律に促されるが紬は残念そうな顔で微笑むしかない

紬「……そうしたいのは山々なんだけど、ここにはキーボード置いてないみたいなの」

紬は店主に向き直り言う

紬「すいません、ここには私のできる楽器はないみたいなので、演奏はおみせできません」

その言葉に店主はつかの間考え込む

店主「ふーむ……」

店主「……君はキーボードとか言うのを弾くのだろう?それは、どんな楽器なんだい?話だけでもきかせてくれないか?」

紬「ええと、キーボードっていうのは、鍵盤がたくさんついてて……」

唯「音がいっぱい出るんだよ!」

紬「鍵盤を指で押して弾くんです」

店主「音がいっぱい出る……」

店主「ん!」ピーン!

店主「ちょ、ちょっと待っててくれ!確か倉庫のなかにそんな楽器があったような気が……探してくるから!」アタフタ!

店主は早口でまくしたてると店の奥へと飛んでいってしまった


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店主はすぐに戻ってきた

店主「これだよ、これ、君の言う"キーボード"ってやつに近いんじゃないか?」

店主がもってきたのは手のひらほど幅で片腕ほどの長さの板である

店主がそれを床に降ろすとそれがかぶっていたホコリが舞い上がる

律「うわっ!凄いホコリだな!」

店主「はは、すまんすまん、これはな、だいぶ前に鳴り物入りで開発された楽器なんだが、あまりの音の多さに使える者が少なすぎてすぐに販売中止になったんだ」

梓「これはどうするんですか?」

店主「まず足を出してたてる」

店主は板の裏面から細い足をだし固定する
板は腰の高さまで持ち上がった

店主「そしてこのボタンをおすと……」

フォン

音とともに板に垂直な短い光の帯が無数に現れる

紬「鍵盤……」

確かにそれは鍵盤楽器を彷彿とさせる見た目をしている

店主「たくさんの音を出せる楽器はうちにはこれしかないんだが……君、これが使えるかい?」

紬「……やってみます」

紬(まずはシンセサイザーの音……)ムーン

チュイーン フォーン ピコピコ

律「おお!シンセの音だ!」

紬(次はオルガン……)

パーパーパパー ティラリラリー

紬(ピアノ!)

ポーンポーン

唯「ムギちゃん凄い凄い!」

店主「いやー、本当に凄いな!こんな音聴いたこともないぞ!」

紬(綺麗なピアノの音ね)

♪~♪~~~

紬は自然と曲を弾き出した

澪「これは……バッハのメヌエット……」

梓「綺麗な音色です……」ホゥ

♪~~

澪「華麗なる大円舞曲……」

律「ムギのやつノリノリだな」


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♪~……ターン……

紬「ふぅ」

店主「……」プルプル

梓「ど、どうしたんですか?」

店主「感動した!!素晴らしい!心が洗われるようだ!!こんな所に大演奏家がいたなんて!」

紬「うふふ、持ち上げすぎですよ」///

店主「いや、本当に素晴らしい演奏だった」


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店主「いや~、いいものを聴かせてもらったよ」

唯「えへへ、それほどでも」///

梓「だから、唯先輩はなにもしてないでしょう!」

唯「あ、あずにゃん、あれ見て!」

梓「無視しないでください!」

唯「まあまあ、とにかくあれ見てよ」

唯の指差した方には謎の球体に包まれた横笛が飾られている

澪「これは……すごいな」

梓「フルート……ですか?」

全員が横笛に見とれていると店主が声をかけてきた

店主「おっと、悪いけどそれは売れないよ」

梓「売り物じゃないんですか?」

店主「それはね、王宮への献上品さ、三番目の王女様が横笛の名手なんだ」

紬「まあ、それで……凄い装飾ですね」

横笛には海を泳ぐ美しい人魚が彫刻されていて、素人が見てもその優美な装飾が、演奏を妨げないように計算されて彫られているのがよくわかる

店主「いや、照れるね、でも僕の自信作なんだ」

唯「ええ!これ、おじさんが作ったの!?」

店主「おいおい、僕はまだおじさんじゃないよ」タハハ

澪「凄い腕前ですね!」

店主「ありがとう、これは今度の王女様の誕生日に献上するんだが、その前に店に飾って置きたくてね」

律「でも、そんなもの店に置いといたら危ないんじゃねーの?ほら、こうやって……」ヒョイッ

律が横笛に手を伸ばす

店主「あ、危ない!」

バチッ!

律「うわっつ!」

澪「おい!律!」

店主「だ、大丈夫かい?」

律「つー……なんだ今の!バチっときた!」ヒリヒリ

店主「はは、大丈夫そうでよかった、これはバリアーになっててね、並の人間じゃ中の物に触れることはできないんだ、まあ、魔術師でもいればべつだけどね」

梓「確かにこれならそうそう盗まれませんね」


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ゴォーンゴォーン

律「あ!もうこんな時間か、みんな、そろそろ行かないか?」

紬「そうね、他の場所もみたいし」

店主「もう行くのかい?」

澪「すいません、いろいろ行く所があるので……」

店主「それじゃあ、楽器は買っていかないのかい?」

店主の言葉に顔を見合わせる一行

律「欲しいのは山々なんだけど、お金が、ね」

唯「ここにある楽器って、きっとお高いんでしょう?」

店主「そのギターは金貨二枚だ」

律「き、金貨二枚!?高すぎだろ!」

梓「ダメですダメです!金貨なんて使っちゃもったいないです!お金は貯めておかないと!」

紬「も、もうひとこえ~」

店主「う~ん、うちの楽器はどれもかなり手をかけて作ってるからかなり厳しいが……素晴らしい演奏も聴かせてもらったし、できるだけ安くするけど」

澪「でも私達、これから旅にでるんだぞ!お金は無駄にできないだろう!」

梓「そうです!そのとおりです!」

店主「うーん、旅か……そりゃあお金は無駄にはできないな」

律「しょうがないな、今回は諦めよう、またお金に余裕ができたら考えようぜ」

店主「うん、君たちなら何時でも大歓迎だから、またこの街によった時はいつでも遊びにきてくれ、そして旅に余裕ができたらでもいいからまた買いに来てくれよ」

唯「うん!絶対くるよ!」

一行は楽器屋を後にした


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澪「次はどこ行くんだ~?」

律「次はな~、お!あったあった」

律はある店の前で立ち止まる
その店のショーウィンドウには鎧や剣が飾られている

梓「ここって、もしかして……」


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店主「やあ、いらっしゃい、ここは武器と防具の店だ」

梓「やっぱり」

澪「おい!律!なんでこの店なんだ?」

律「いや、だって、私たち冒険者だぞ?モンスターと戦ったりするんだぞ?」

紬「そうね、装備はととのえないと、命に関わるし」

律「それでムギ、実は手甲と足甲が欲しいんだ、こないだのスライムに襲われた時みたいにならないように」

紬「うん、必要そうなものはこの機会にまとめて買っちゃいましょうか」

一行は商品を物色し始めた


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律「よし、私はこの手甲と足甲にしようっと」ガチャン

律がもっているのは、かなり広範囲を覆うことのできる武骨なものだ

律「これならそうそう壊れないだろ!」

唯「私はこれにしたよ!」

そういって唯がみせてきたのは標準的な大きさの盾だった

紬「唯ちゃんらしいわね」

律「じゃあ、お先に買ってくるぜ、唯、いくぞ」

唯「うん!」

律と唯は会計のためにカウンターに向かった

店主「これならあわせて銀貨三枚と銅貨四十枚だ」

律「はい、ちょうど」ジャラジャラ

店主「まいど!ここで装備していくかい?」

唯「してくしてく!」


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一方、律と唯が会計をしている頃

梓「あ、あのムギ先輩!私もこのガントレットが欲しいんですけど……」

梓がもっているのは、かなり華奢な作りのもので肘の内側に猫の彫り物がしてある

紬「もちろんいいわよ?でもこれ梓ちゃんには少し大きいんじゃないかしら?」

梓「あ、そうですね、他のサイズがないか店の人に聞いてきます!」

タタッ

梓「あのすみません!」

店主「なんだい?お嬢ちゃん」

梓「これって、もっと小さなサイズのありませんか?」

カチャン

梓はもっていたガントレットをカウンターに乗せる

店主「おお!これか、なかなかいい物を選んだな、しかし、これは工房の新作でな、悪いが他のはまだ置いてないんだ」

梓「そうですか……」ガックシ

店主「まあまあ、そうがっくりしなさんな、君はみた所まだ子供じゃないか、こんなものが必要なのかい?」

ムッ!

梓「これから旅に出るんです!ちっちゃいからってバカにしないでください!」

店主「おお、こりゃすまん!なにか理由がありそうだね、若いのに大変な事だ……」

店主は梓に目を向けたまま考え込んでいる

店主「そうだね……どうしてもそれが欲しいならちょくせつ工房に行ったらどうだい?」

梓「工房……ですか?」

店主「ああ、きっといま他のサイズを作っている最中だろう、普通は売ってくれないが、私が紹介状をかいてやろう」

梓「え、わざわざそこまで……」

店主「なあに、気にするな、儂が売らなかった所為で若い者が死ぬのは嫌なものでな、これぐらいで君の命が助かるなら軽いものだ」カキカキ

店主は素早く手紙を書き終えると梓に手渡した

店主「これでいい、工房の名前は"猫の目"工房だ、そのガントレットと同じマークの看板がでてるからすぐにわかる」

梓「あの、ありがとうございます」

店主「礼ならまたうちで何か買ってってくんな!はっはっは!」

一行は店をでて工房へと向かう


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最終更新:2011年03月17日 02:40