兄ちゃん「おい、お前ら……俺がギルドに推薦してやってもいいぜ?」

思わぬ言葉に律は耳を疑う

律「えっ?本当か?」

兄ちゃん「ああ、本当だ」

子分1「あ、兄貴!な、なにいってるんですか、こんな奴ら……」

梓(絶対条件付きだよ、これ……)

兄ちゃん「ただし!俺に決闘で勝てたらの話だ、負けたら……そうだな、俺の言う事になんでも従ってもらうぜ?」

子分2(兄貴、あんな奴ら、一体どうしようってんですか?)ヒソヒソ

兄ちゃん(ふん!あいつらまだガキだが上玉じゃねぇか、それにああいうガキが趣味のやつも世の中にはいるんだよ)

子分1(さすが兄貴!あいつらを売り飛ばすんですね!くぅぅ!最高にワルだぜ!そこにしびれる、あこがれるぅ!)

澪「律~やめようよ~怖いよ~」ガタガタ

律「……その勝負、受けた!」

澪「りーづーうわぁぁぁん」ガタガタ

兄ちゃん「ふん!それじゃあ、こっちにきな!」


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ザワザワガヤガヤ

ギルドの中心部の椅子とテーブルがどけられ、真ん中にひとくみの机と椅子が置かれている

律と兄ちゃんがその前に立ち、さらにその周りを大勢のやじ馬が取り囲んでいる

オイオイ ナンダナンダ ナニガハジマルンデス

ケットウラシイゼ オイオイコドモジャネエカ カワイソウニ

梓「なんだか大事になっちゃいましたね……」

澪「律ごめん律ごめん律ごめん」ガタガタ

律「それで決闘ってなにするんだ、殴り合うのか?」

兄ちゃん「ふん!なかなか腹のすわったガキだな」

ドッカ

兄ちゃんは机の前の椅子に腰をおろす

兄ちゃん「おい、お前も早く座れ!」

律「は?」

兄ちゃん「あのなぁ、いくら俺でも丸腰のガキに剣は振らねぇ、決闘の方法は"腕相撲"だ」

ガタ

律「わかったからさっさと始めようぜ」

兄ちゃん「ふん!一本勝負だ、用意はいいな?」

客1「おいおいさすがにあれは可哀想だぜ」

客2「あの男、なかなかの腕らしいぜ」

客3「あの女の子勝てっこねぇよ」


子分1「じゃあ、始めますぜ」

兄ちゃん「おう」


子分1「レディ……ゴー!」

兄ちゃん「ふん!!」グワッ

律「くっ」グググ

ギシギシ

客4「おい、動かねぇぞ!」

客5「あの子やるなぁ」

ザワザワ

律(こいつ、凄い力だ!でもまだまだ……)

律「だあああ!」グググ

唯「りっちゃん頑張れー!」

紬「ファイトファイト!」

兄ちゃん(くそっ、こいつ本当に女か!?凄い力だ)


律(!!)

律「お前」グググ

兄ちゃん(なん……だと……)

律「今」グググ

律「凄く失礼なこと考えてただろおおおおおおお!」グワッ

兄ちゃん「くっそおおお!」

バアン!

オォォォォォ!

アノコカッタゾ スゲー ヤルナァ オイオイ!カッチマッタヨ

ガヤガヤ

子分1「あ、兄貴が負けた……」

子分2「そんなバカな……」

梓「み、澪先輩!勝ちましたよ!」

澪「うぇぇぇん、りーづー」メソメソ

テクテク

律「おい、澪!」ハァハァ

澪「りつ?」グスグス

律「勝ったぜ!」グッ

澪「りづー!うわぁぁぁん」ガバッ

ダキッ

律「ほら、もう泣くなよ?勝ったんだから」ヨシヨシ

澪「だっで、りづの事、が、心配で!」ウワァァァァン

律「負けないよ、だって、私が澪を守るんだからな!」

澪「律!」ギュウゥゥゥ


唯「感動だねぇ」シミジミ

紬「そうね」ハァハァハァハァハァハァハァハァ

梓「ムギ先輩、落ち着いて下さい……というか律先輩、怖くなかったんですか?」

律「ああ、なんか最近勝負ごとになると不思議と冷静になるんだ、これもこの世界にきたせいかもな」

梓「?そういうもんなんですか」

兄ちゃん「……おい、お前ら」

澪「ひっ!」

梓「いたんですか」

律「お、約束どおり私たちを推薦してもらうぜ!」ビシッ

子分1「あ、兄貴!こいつ等との約束なんて守る必要ねぇですよ!」

子分2「そうですぜ、兄貴!」

兄ちゃん「ふん!俺も男だ、約束は守る、決闘で負けたんだしなぁ」

梓「意外と潔い……」

兄ちゃん「ふん!カウンター行くぞ」

スタスタ

律「行くぜーみんな!」

紬「行きましょう、澪ちゃん?」

澪「う、うん」


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受付嬢2「先ほどの決闘はみていました」

兄ちゃん「見てたんなら話が早えぇ、こいつらを新しくギルドに登録してやってくれ、推薦人は俺だ」

受付嬢2「わかりました、推薦を受理します、少しお待ち下さい」

スタスタ

受付嬢はカウンターの奥へと入っていった



兄ちゃん「……お前、よく見るとただ者じゃない身のこなしだな」

唯「え、そう?」フリフリ

兄ちゃん「お前じゃねぇ!さっき腕相撲したお前だ」

唯「」ガーン

律「そうか?」キョロキョロ

兄ちゃん「ふん!俺もドジを踏んだぜ、お前かなり腕も立つんだろ?」

律「そうかな?」ドウカナ?

兄ちゃん「……まあいい、お前、名前は?」

律「田井中律だ」フンス!

兄ちゃん「リツか、面白い名前だな……俺の名前はダスターだ」

律「ふーん」

梓(うわぁ、興味なさそう)

受付嬢2「お待たせしました、こちらにお名前を書いて下さい、あ、偽名でも構いませんよ」ピラッ

受付嬢は一枚の紙をみせる

律「よし!」カキカキ

カキカキカキカキ

受付嬢2「これで全員分ですね、それではクラン名を決めて下さい」

澪「クラン?」

ダスター「クランってぇのはな、一緒に組む奴との名前だよ」

紬「ああ、そういう事、パーティ名みたいなものね」

律「だったら、決まりだな!」

唯「"放課後ティータイム"で!」

受付嬢2「わかりました、"放課後ティータイム"ですね、クランリーダーは"タイナカ・リツ"様」カキカキ

受付嬢2「それではこちらを向いて下さい」

受付嬢は両手の人差し指と親指を組み合わせ四角形を作ると、律の顔に向ける

律「なんだ?」

パシャッ!ピカッ!

律「うわっ、眩しっ!」

梓「なんなんですか、これ……」

受付嬢2「全員やってもらいます」


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受付嬢2「これで手続きは全て終わりました」

唯「やったね!りっちゃん」

律「おう!」

受付嬢2「最後にこれをお渡しします」

ジャラジャラ

紬「メダルのついたキーチェーン?」

受付嬢2「これが、あなた方のギルド所属の証明証となりますので、なくさないでください」

律「ずいぶん頑丈に作ってあるな」ジャラ

唯「あ!見て見て!裏側に私たちの顔がほってあるよ!」

澪「本当だ!あっ!さっきのはそれで!」

受付嬢2「ええ、念写させてもらいました、偽造防止です」

梓「すごいもんですね」

受付嬢2「本日はクエストをうけていかれますか?」

唯「クエスト?」

ダスター「いろんな奴からの依頼の事だ、クエストをこなして報酬を貰うのが俺たちの仕事だ」

紬「どうするの?」

律「うーん……今日はやめておこうぜ」

澪「そうだな、いろいろあって疲れたし」

律「澪は泣いてただけだけどな!」ニヤニヤ

澪「う、うるさい!」///

受付嬢2「それでは、詳しい施設の紹介は次回行わせていただきます」

紬「それじゃあ、帰りましょうか?」

唯「おー!」


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一行は冒険者ギルドの扉へ向かう

ドア「ガチャ……キィ」


ダスター「おい、タイナカ・リツ!」

律「?」

ダスター「縁があったらまた会うかもな」

律「……どうだかね」


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外に出るとすでに日は傾き、街にもちらほらと明かりが灯り始めていた

テクテク

唯「ふぃー疲れたー」

梓「唯先輩はなにもしてないですよね」

澪「私たちずいぶん長い間あそこにいたみたいだ……」

紬「今日はしっかり休みましょう」

律「そうだな、無事に冒険者になれたことだし!」

夕日に照らされ、五本の長い影が石畳に張り付いている

穏やかな日常とは程遠い、そんな日常の幕は、とても暖かいオレンジ色の光で開かれたのだった


第三章 完




その後、宿に戻った一行は手早く夕食を済ませると早々に自室に戻り日が落ちきる前に眠りに落ちた

本人達は気づいていないが、見知らぬ世界での出来事は彼女達を予想以上に疲弊させていた

そんな真夜中

ガタッ

ギシ……ギシ……

梓は床の軋む音で目が覚めた

ゆっくりと目を開くと白い天井が目に入る

梓(まだ夜中……だよね)

室内に灯りはないが、夜目のきくようになった梓にとっては窓から射し込む月明かりだけでも視界を確保するに十分な照明だった

ギシ……ギシ……

先ほどからの物音に入口の扉に目を向けると、部屋をでて行く人物のうしろ姿が目に入る

ドア「ギィ……パタン」

梓(今のは……唯先輩?)

モゾモゾ

ギシ……ギシ……

梓(気になる!)

梓はベットから這い出ると、唯の後をおって部屋をでる

ギシ……ギシ……

唯は廊下に出ると、東の突き当たりの方へ歩き出した

梓(こんな夜中になにをするんだろう、トイレは反対だけど……)

梓は物陰に身を隠し唯の様子をうかがう

ガチャ……キィ

唯は突き当たりに来ると正面の大きなガラス戸をあけバルコニーにでてしまった

梓(夜風にでもあたりにきたのかな?)

梓が見ていると唯はバルコニーでしゃがみこんでしまった

唯「……~~~!」ブルブル

梓(震えてる?なにかいってるみたいだけど、ここからじゃ聞こえないや……もうちょっと近づいてみようかな)コソコソ

梓が近づいてゆくと戸の隙間から唯の声が漏れ聞こえてきた

唯「ふぐうぅぅぅぅ、和ちゃん…ヒグッ…憂ぃ…グスッ…ごめんね、わ、私が誘ったりしたから……!」ポロポロ

梓(唯先輩、泣いてる……)

唯「ぜ、全部、わ、わた、しが悪かったんだよぉ!」ウェェェン

唯は細い小さい体を丸めて声を殺して泣いている

梓(……ここに来て一番辛いのは唯先輩かもしれないな、当然だよね、幼馴染と妹が行方不明なんだから……)

梓(……私はバカだなぁ、唯先輩はここでもいつも通りだなんて思ってた、気丈に振舞ってただけなんだ……本当、私が一番お気楽だよ)

ガタッ

梓は近づこうとするあまり、バルコニーの段差につまずいてしまった

梓(やばっ!?)

突然の物音に立ち上がり振り向く唯

唯「だれ?……誰かいるの?」グスグス

梓(……しょうがない)

梓は隠れていた物陰から姿をみせる

梓「唯先輩……」

唯「あ、あずにゃん!」ゴシゴシ

唯は梓だとわかると涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を必死で拭おうとする

唯「あずにゃん、どうしたの?」ニコ

梓「~!」

ダキッ

唯「あ、あずにゃん!?」オロオロ

唯は突然梓に抱きつかれ狼狽する

梓「唯先輩!笑わなくてもいいんです!好きなだけ泣いてくださいよ!」

唯「あずにゃん、見てたんだね……」

梓「私は憂にはなれませんけど、唯先輩が泣きたい時は私が肩をかします!だから、もう無理して笑わないでください……そんなの辛すぎます!」

唯「あずにゃん……うぅぅぅぅ」ポロポロ

堪えきれなくなったのか、唯の目からは涙がこぼれ落ちる

唯「わ、わたしが悪かったんだよぉ!な、なんで憂と和ちゃんなの!私がいなくなればよかったんだ!」ポロポロ

唯「憂と和ちゃんを返してよ!憂に会いたい!和ちゃんに会いたいよぉ!」ポロポロ

ギュ

梓「唯先輩が悪いわけじゃありません!そんなに自分を責めないで下さい」ナデナデ

梓「私たちだってしっかりやれてるじゃないですか、この世界で、……憂と和さんはきっと大丈夫です、あの二人はしっかり者ですから」ナデナデ

唯「うぅぅぅぅ、帰りたいよぉ!怖いよぉ!」ポロポロ

ギュ

梓「大丈夫です、きっと、大丈夫ですよ」ナデナデ

梓(しばらくこのままでいよう、今くらい唯先輩に泣かせてあげたい)

月明かりの下で、梓は声を殺して泣き続ける唯の頭を撫で続けた


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どれだけ時間が経ったのだろうか

寄り添う二つの影は随分と短くなっている

唯は泣き止み、今は頭を撫で続ける梓に静かに身を任せている

唯「あずにゃん、ありがと」

唯がポツリとつぶやく

梓「ふふ、これも後輩のつとめです」ナデナデ

唯「ねぇ、あずにゃん……」

梓「なんですか?」

チュッ

梓「!!!」


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