澪「とはいっても、問題はなにも解決できてないぞ」
紬「……これはあくまで仮説なんだけど、もしかしたら……ここはゲームの中じゃないかもしれないわ」
梓「現実だってことですか?」
重苦しい沈黙が漂う
薄々みんなが感づいていたことだ
だが、誰も口に出さなかった事でもある
澪「で、でも、現実だとしたら、私やムギが魔法が使えるのをどう説明するんだ?」
紬「そうなのよ、ゲームにしてはリアルすぎるし、現実にしては非現実的過ぎるのよ」
律「でも、あの傷は間違いなく本物だったぜ」
突然の声に驚く一同
澪「律!起きてたのか!」
律「あれだけでかい声で話してたら、誰でも目が覚めるよ」
唯「りっちゃん!もう大丈夫なの?」
律「ああ、もうすっかり治ったぜ!」
そう言って力こぶを作って見せる律
その言葉通り元気になったようだ
律「それで、結局ここから脱出する方法はあるのか?」
紬「本来ならログアウト用のシステムが起動するはずなんだけど、動かないし、斉藤達への連絡手段もないから、お手上げよ」
律「そうか、それじゃあ、とr
その時、通信機が突然反応しだした
通信機「ピガ…ピー…ザザ…お……ザザ…ま」
澪「ムギ!通信機が!」
紬「ええ、斉藤!斉藤なの!?」
通信機「お…ザザ…じょ…、いま…から…ザ…ちらに、ガガ…わこさまが…むかいます……ザザ」
律「聞き取り辛いな」
梓「なにかが来るって言ってるみたいです!」
通信機「ザザ…危険です…ザザ…います…ザザはな…てください!いま…ぐザザ…離れてください!」
紬「離れろってどういう事なの!?斉藤!斉藤!」
唯「ムギちゃん!なんか光ってるよ!」
唯の指差すほうには、光の渦の様なものがみえる
シュイイイイン
みるみる渦が広がっていく
律「まずい!みんな伏せろ!」
律がそう言い終わるか終わらないかのうちに、光が唯たちを飲み込んだ
シュイイイイン
澪「うわああああ!」
梓「きゃあああああ!」
ドゴォン!
シーン
唯「あれ?何ともない?」ペタペタ
律「みんな、大丈夫か!?」
澪「ああ」
梓「大丈夫です」
紬「一体何だったの?」
???「あ痛った~、腰打ったわ……ん ?」
驚きで声も出せない一同
律「さ、ささっ、さ!」
唯の顔に笑顔が広がる
唯「さわちゃん!!」
ダキッ
さわこ「きゃあっ!」
ドタッ
唯「さわちゃ~ん!会いたかったよ~!」グリグリ
さわこ「ゆ、唯ちゃん!?と、とりあえず落ち着いてちょうだい!」ジタバタ
律「唯!一回離れろ!」
唯達が揉み合っていると大きな足音が聞こえてきた
ドタドタドタドタ
ドア「バンッ!」
宿屋の主人「おい!今の音は一体なんだ!?何かあったのか!」
梓「い、いえ!何でもないです!異常ありません!!」
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宿屋の主人「まったく、物を壊さなきゃ何してもいいが、他の客もいるんだ、あんまり迷惑になる様な事は控えてくれよ!」
澪「すいません!すいません!」ペコペコ
ドア「ガチャバタン」
一同「……」フゥー
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澪「それで、どうしてさわこ先生がここに?」
さわこ「ムギちゃんちの執事さん?の斉藤さんって人に頼まれたのよ、
『さわこ様、一生のお願いでございます!お嬢様たちを助けてください!』
ってね、こうまで言われたら、黙ってられないでしょ?」
さわこ「それにあんた達、元の世界では行方不明よ?教師として見て見ぬ振りはできないわ」
律「さ、さわちゃん!」ウルウル
さわこ「それにこの世界なんだか面白そうじゃない!」キラキラ
梓「そっちが本音ですね……」
律「感動して損した」
澪「そ、それより行方不明って!」
紬「先生!今、元の世界って言いましたよね?てことはやっぱりここは……」
さわこ「そうよ、ここは私達の世界とは別世界、あなた達は体ごと飛ばされたのよ、だから、あなた達は行方不明、わかった?澪ちゃん?」
澪「ゆ、行方不明……」ガーン
梓「一体、だれがそんな事を!?だいたいどうやればそんな事ができるんですか!」
さわこ「それが解れば苦労はないのよ、梓ちゃん?」
さわこはベッドに腰を降ろす
さわこ「そう、それで私はあなた達に2つ伝えなきゃいけない事があるの、多分どっちも悪い知らせよ」
さわこは全員の顔を見回して続ける
さわこ「1つ目はさっきも言った通り、ここは私達のいた世界とは別世界、年代、場所、時代、詳しい事はなにもわかってないけれど、地球ですら無い可能性が高いわ」
紬「地球じゃ…ない…」
澪「」
さわこ「もう1つ、今のところ元の世界に帰る方法は無いわ」
紬「でも、それじゃあ先生はどうやってここへ?」
さわこ「それよ」
そういって、さわこは紬の傍らの通信機を指差す
さわこ「それから送られてくる微弱な電波を探知して、斉藤さんたちに転送して貰ったの」
梓「じゃあ、斉藤さんたちに頼んで助けてもらえば……」
さわこ「無理よ、見てわかるでしょ?その通信機はもう壊れてる、それに、琴吹グループの人達が一ヶ月かけてやっと完成させた転送システムでこの程度、莫大な電力も必要だし、向こうからではこの世界の座標すら特定できないわ」
律「い、一ヶ月って……ウソだろ、さわちゃん?私達、ここにきてからまだ二日目だぞ?」
さわこ「あら、そうなの?じゃあますます異世界確定ね、時間の流れまで違うなんて」
澪「行方不明……別世界……帰れない……」ブクブク
梓「先生!澪先輩が息してません!」
さわこ「ほっときなさい、ちょっとショックをうけてるだけよ」
ちょっとどころのショックではない
今聞かされた話は、あまりにも現実離れしすぎていて、理解が追いつかない
今時3流ファンタジーだってこんな展開はないだろう
しかし、未知の世界に放り出された事実はかわることはない
紬「なんで……私達だったんでしょうか……」
さわこ「これは推論…いいえ、ここにきて確信に変わったわ、あなた達が飛ばされたのは、恐らく似すぎていたせいよ」
さわこの言葉に律は首をかしげる
律「似すぎていた?つまりどうゆうことなんだ?」
さわこ「琴吹グループのつくったゲームはリアルさを追求するあまり、1つの世界とも呼べる電脳空間創り出してしまったのよ、
その電脳空間はこの世界と偶然にも酷似したもので、恐らくそのせいでお互いの世界を引っ張り合うことになってしまった、
この世界がどこに存在するものなのかは知らないけど、ここには今二つの世界が重なりあっている……こんなところかしらね」
紬「だから、私達は魔法が使えるのね……ゲームの中の設定を現実に引っ張ってこれるから……」
律「でも、ムギの知ってるゲームとは違う部分も多いんだろ?」
さわこ「そりゃそうよ、創られた電脳空間よりも現実世界の比重が重いのは当たり前じゃない、あくまでベースはこちらの世界よ、ゲームの世界はあなた達みたいに一部分だけにしか現れないでしょうね」
さわこ「でも、その力があって良かったわね、あなた達は帰る方法がわかるまでここで暮らさなくちゃならないんだから、まあ、私もだけど」
重苦しい沈黙が漂う
この世界で暮らす
そう、なにも知らない世界で暮らすのだ
帰るあてもないまま
第二章 完
さわこ「そういえば、こちらに来たのは7人って聞いてたんだけど、憂ちゃんと和ちゃんはどこにいるの?」
律「和と憂ちゃんとはここに来た時から、会ってない」
紬「はぐれちゃったみたいで……」
さわこ「そう……」
全員の視線はそれとなく唯に向いている
今この状態で精神的に1番きついのは唯に違いない、誰もがそう思ってるからだ
しばらくは誰も喋らなかった
元の世界に帰る術も無ければ、これから生活する術もない
おまけに、仲間のうち2人はこちらの世界でも行方がわからないのだ
ガバッ
唯が突然顔を上げた
唯「ねえ!私決めたよ!」
全員が唯に注目する
唯「私、やるよ!
この世界で生き抜いてみせる!
それで絶対に憂と和ちゃんも見つける!
そしたら、みんなで絶対に元の世界に戻るんだ!」
唯の眼差しは強い決意で輝いている
紬「唯ちゃん……」
澪「唯……」
梓「唯先輩……」
律「そうだな……唯の言う通りだ!
絶対みんなで元の世界に戻ってみせる!
私たちにやってやれないことはないぜ!」
唯「そうだよりっちゃん!」
律「よし!唯!絶対に元の世界に帰るぞ!」
律&唯「おー!!」シャキーン
グゥゥゥ~
唯「あっ///」
律「よ、よ~し!そうと決まれば、早速腹ごしらえだな!」アセアセ
澪「締まらないな~」クスクス
梓「あはは、まったくです」ニコニコ
紬「そうね、起きてからまだ何も食べてないものね」ウフフ
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律「それじゃ行くぜー」
一同が廊下にでて、階段を降りるとそこは円形のテーブルが並ぶ部屋だった
テーブルのところどころには、談笑する人や、朝食をとっている人が見受けられる
部屋の隅にはカウンターがあり、先ほどの宿屋の主人とその奥さんと思しき人が忙しそうに働いている
どうやらカウンターの後ろは厨房になっている様だ
律達は、カウンターに近づいて行った
律「すいませ~ん、あの~朝食をもらいたいんですけど」
宿屋の主人「おっ、お嬢ちゃん達か!いいぜ!ちょっと待ちな、今持って来るからな!」
そう言うと威勢のいい主人は奥の厨房へと消えて行った
唯「どんなものが出るんだろうね!楽しみだね!あずにゃん!」
梓「少し怖い気もしますが……」
主人はものの1分程度で戻って来た
宿屋の主人「待たせたな!これが今日の朝食6人分だ、飯のおかわりは自由だから、たんと食べてくれよ!うちの飯はここらじゃ1番って評判だからな!」
紬「あ、それじゃお代を……」
宿屋の主人「いやいや!お代をいらねえぜ、宿泊代にはいってるからな!夕食もつくから安心しとけよ!」
唯「夕食も!?嬉しいなぁ~」ニコニコ
6人は食事を受け取り適当なテーブルに着いた
唯「おいしそ~!」キラキラ
律「確かに美味そうだな!」
~今日の朝食~
鳥の味噌香味焼き
白身魚の干物
生野菜サラダ
瓜の漬物
白飯
ハーブ茶
さわこ「ずいぶんと豪勢ね」
律「食うぜー!」
一同「いただきま~す」
パクパクムシャムシャ
梓「!!この鳥凄く美味しいですよ!」
唯「どれどれ…パク……本当だ~!すっごくご飯に合うよ!」キラキラ
澪「異世界っていうから、パンとワインみたいなのを、想像してたんだけど、ずいぶんと日本人好みのメニューだな」
紬「そうね、想像してたのとちょっと違うわね、私達、いろいろと知らない事だらけみたい」
さわこ「あ、このお茶おいしっ」
律「ふっふっふ」キラン
律「隙ありっ!」ササッ
パクッ
唯「あー!りっちゃんが私の鳥とったー!」ウワァァァ
律「はっはっはっ!食事は戦場なのだよ、弱肉強食の厳しい世界なのさ」フッ
唯「もう~!おかえしっ」パパッ
律「あ~!私の魚~!」
唯「へへ~ん!弱肉強食だよ~!」
律「この~!」
ワイワイキャッキャ
澪「お前ら……」ワナワナ
澪「お前ら小学生かー!!」
ゴンッ☆
澪「おとなしく食べろー!」
律「痛い~」メソメソ
唯「ごめんなさい~」シクシク
梓「先輩……嘘泣きしてもダメですよ」
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梓「それにしても良かったですよね」
唯「何が~?」パクパク
梓「この宿です、ずいぶん綺麗だし、ご主人も良い人そうですし」
澪「そうだな、みたところ科学技術はあんまり発達してないみたいだけど」
紬「そうね、中世の世界みたい」
律「中世か……ふーむ、全然わからん!」
澪「なんだそりゃ」
タベオワリ
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律「ふぅ、くったくった♪」
唯「おいしかったねぇ」フゥー
全員食べ終わり一息ついていると澪が口を開く
澪「よし、早速だけど、この後どうしようか?」
紬「私達、この世界の事を知らなすぎるからやっぱり、情報収集したほうがいいと思うの」
律「そうだな、せめてこの街の場所くらい知らないとな」
さわこ「そういえば言い忘れてたけど、あんた達この世界で暮らすんだから、仕事見つけないとだめよ、仕事」
一同は、思いがけない話に驚くが、考えてみれば当然、手持ちの金だけではいつかは底をついてしまう
梓「仕事ですか……」
唯「私たちにできる仕事あるかな…」
先行きは不安だらけである
最終更新:2011年03月17日 02:21