真鍋家

  ピンポーン

唯「の~ど~か~ちゃん」

和「どうしたのよ? こんな時間に」

唯「えへへ~」

和「もしかして、今回の事で文句言いに来たとか?」

唯「違うよ~。はいコレ!」

和「?」

唯「いつも頑張ってる和ちゃんにプレゼント!」

和「何かしら?」ガサゴソ

和「……鼻メガネ?」

唯「うん。心に余裕を、花瓶に水を、メガネっ娘には鼻メガネを」

和「何それ……?」

唯「和ちゃん昔っから頑張りすぎて、へばっちゃうことあったから……」

唯「たまには羽目を外すことも必要かな~って」

和「唯……」

唯「いつも助けてもらってばかりだからね。たまには私も和ちゃんのお役立ちになりたいんだよ」

和「ふふっ。だからって鼻メガネはないでしょ」

唯「でも、それ度入りだから普段も掛けられるんだよ」

和「どれどれ……。ホント、普段掛けてるやつと変わんないわ」

唯「似合ってるよ、和ちゃん♪」

和「それって、喜んで良いのかしら?」

唯「いいんだよ~」

和「ありがと、せっかくだから貰っとくわ」

唯「うん♪」

和「しかし、まさか、唯に心配されるなんてね~」

唯「私だけじゃなくて、軽音部のみんなも和ちゃんのこと心配してたよ」

和「えっ?」

唯「生徒会大変そうだって」

和「そうなの……、てっきり今日のことで嫌われちゃったんじゃないかと思ってたわ」

唯「そんなことないよ。みんな和ちゃんの立場はわかってるから」

和「そう……。私は良い友達を持ったわ」

唯「元気になった?」

和「ええ。ありがとう唯」

唯「えへへ。どういたしまして」

和「でも、ちゃんと苦情の対策案は期限までに提出してね」

唯「もう! 褒めてくれたと思ったのに~」

和「ふふっ。それとこれとは話は別よ」

唯「あははっ。鼻メガネ掛けて笑ってる和ちゃん面白い~」

和「よけいなお世話よ」

唯「じゃあね、和ちゃん。また明日学校で」

和「ええ、ありがとう唯」


和自室

和「鼻メガネか……」

和「うふふ。唯が考えそうなことね」

和「まさか唯に心配されていたなんて。考えもしなかったわ」

和「……」

和「羽目を外す……ね」

和「どんな顔になってるのかしら……」

和「鏡、鏡っと……」

和「ぶっ!?」

和「あはははは!」

和「これは無いわ!」

和「ふふふっ。でも確かに結構似合ってるかもね」

和「これ学校に掛けて行ったらどうなるかしら……」

和「……」

和「ありえないわ」


翌朝

和「う~ん……」

和「なんだかすごく良く寝たわ~」

和「しかも、目覚ましが鳴る前に起きたし」

和「今何時かしら? メガネ、メガネっと……」

和「おかしい……まだ、四時前?」

和「もしかして……!?」

和「やっぱり! 携帯の時計だったらもう八時前じゃない!」

和「この目覚まし電池切れちゃってる!」

和「とにかく急いで用意しなきゃ!!」アタフタ

────────

和「学校行く準備はできたけど……」

和「……」

和「どうしよう……、これ付けていこうかな……」

和「でもそんな唯みたいなこと……」

和「……」

和「クレオパトラの鼻が少し低ければ世界は変わっていたかもしれない……」

和「自分で言うのもなんだけど、今まで真面目に生きてきて、それはそれで満足だった……でも」

和「私も少し変わるだけで世界が違って見えてくるかも……」

和「たまには羽目を外す……か」

和「……」

「和~! 早くしないと遅刻よ~」

和「悩んでいる時間なんかないわ!」

和「ええい!!」



学校 二年一組

澪「和はまだなんだ。私より遅いなんて珍しいな」

澪「……」

澪「和が来ないと話す人いないや……」

澪「……」

澪「早く来ないかな~、和」

澪「……」

  ガチャ

「あ、真鍋さんおはよ……!?」

和「ええ、おはよう」

「あれ誰!?」「真鍋さんだよね?」
    ざわ… ざわ…

和「澪、おはよう」

澪「ああ、おはよう、のど……!?」

澪(和が……鼻メガネだと……!?)

和「どうしたのよ澪? そんなに固まっちゃって」

澪「え? いや……、その……」

和「変な子ね」

澪「変なのは和の方だろ。なんでそんなに普通に……」

澪(はっ!? 待てよ。もしかしたら……。
  今日はいつものメガネが何らかの原因で使えなくなって
  仕方なくその鼻メガネを代用してるとか……)

澪(律や唯が鼻メガネ着用なら『なに馬鹿やってんだ』って普通に突っ込んで終りだけど)

澪(和のことだ、きっと何か深い理由があるに違いない……!!)

和「どうしたのよ?」

澪(今、私が和にしてやれることは……)

澪「いや、何でもないよ。おはよう和」

和「そう? ならいいんだけど……」

澪(例え鼻メガネでも、いつも通り普通に接してやる事だ!)

「秋山さんがスルーしたわ……」「きっと何か深い理由があるのよ……」ヒソヒソ
「私たちは見守っていきましょう」「ええ、そうね」

和(澪、気付いてくれたかな……?)



授業中

「じゃあ、ここ。真鍋答えてみろ」

和「はい。その答えは『びっくりするほどユートピア』です」

「うん。正解……!?」

和「先生? どうかなさいましたか?」

「い、いや……」

(あの真面目な真鍋がふざけてるとは思えん。きっと何か深い理由が……)

「正解だ真鍋。よく勉強してきたな」

和「……はい、ありがとうございます」

澪(あれ? 和、なんか落ち込んでる?)

和(なんでみんな私の変化に気付いてくれないんだろう……)

和(そりゃあ、確かに少しのことだし気付き難いかもしれないけど……)

和「……」

和(でも、澪には気付いてもらって、それを言って欲しかった……)

和(澪は友達だって思ってたから……)

和「……」

和(やっぱり、生徒会で真面目なイメージに合わないのかな……)

和(たまには羽目を外して可愛くしてみようかなって思ってたけど……)

和「……」

和(私にとっては劇的な変化なのよ、これでも……)

和(唯みたいに……)

和(唯みたいに可愛くヘアピン付けてる私っ!!)

※和ちゃんは自分が今鼻メガネだということには気付いていません



昼休み

和(本当に誰も何も言ってくれない……。なんだか悲しくなってきちゃったわ……)

和(せっかく、このヘアピンで可愛さを演出してるのに……)

和(どうせなら、思い切って聞いてみようかな)

澪「さぁ、和。お弁当食べよ」

澪(なんだか慣れてきたな~。意外と鼻メガネ似合ってるぞ、和!)

和「ね、ねぇ澪。今日の私、何か変わったところない?」

澪「!?」

澪(えっ!? えっ!? ここにきて!?)

澪(まさか本当に、朝からボケっぱなしだったのか、和!!)

澪「いや~、実は朝から気付いていたんだけどさ~」

和「ほ、本当!?」

澪「うん」

和「もう。じゃあ言ってよ。せっかく私も思い切ってイメチェンしたんだから」

澪「そ、そっか。ごめんごめん(思い切り良過ぎだろ……)」

和「ねぇ、澪はこんな私どう思う?」

澪「えっと……」

澪(これが律だったら、おでこにペシン! で済むけど)

澪(私、和に突っ込んだことないからな~……)

澪「か、可愛いとこあるな~って思うよ」

和「そう? 良かった♪」

澪(喜んでる? どうやらこの返答の仕方は正解だったようだな)

澪「しかし、まさか和がそんなメガネ掛けてくるとは思わなかったよ~」

和(えっ? メガネはいつもと同じだけど……)

和(なんだ……。私が聞いたからとりあえず適当に答えただけなんだ……)

和(もう、こんなヘアピンなんて外してこよう……)

和「ごめん、お手洗いに行ってくるわ。先食べてて……」

澪「の、和……? あれ? なんでそんなに落ち込んで……?」

澪(まさか!? 和、本当は……)

澪(本当は思いっきり笑ってほしかったのか!?)



トイレ

和「はぁ……。やっぱりこんなことやってくるんじゃなかったわ……」

和「唯みたくヘアピン付けたら可愛くなるって思ったけど……」

和「私には無理があったみたいね」

和「さっさと外して、お弁当食べ……!?」

和「!?!?!?!?!?」

和「な、なんで私鼻メガネ掛けてるのっ!!」

和「……」

和「朝慌て過ぎて間違えて掛けてきちゃったんだ……」

和「それにあまりのフィット感に気付きもしなかった……」

和「だから朝から教室の空気がどことなくおかしかったんだわ」

和「私、メガネしてないと全然見えないのに……」

和「ど、どうしよう……」



教室

澪「和、なんだか悲しそうだった……」

澪「やっぱり、ボケにはツッコミで返すのが礼儀だよな……」

澪「それに、もしかしたらみんなを楽しませようと思ってたのかもしれない……」

澪「そんな和の真意を受け止めきれなかったなんて……私は和の友達失格だ」

澪「……」

澪「でも、まだ間に合う!」

澪「みんなの前で発言するのは恥ずかしいけど……」

澪「いつも軽音部は和にお世話になってる!」

澪「これは、普段の和へのお返しなんだっ!」

澪「みんなっ! 聞いて!!」

クラス一同「!?」

澪「今、和がお手洗いに行ってるんだ。だからもし帰ってきたら……」

澪「帰ってきたらみんなで大笑いしてほしい!!」

「でも、秋山さん朝からそこには触れないように接していたじゃない?」

澪「そうなんだけど、それは間違いだったんだ」

澪「和は、その身を犠牲にしてみんなに笑顔を届けたかったんだ!」

「そっか……。私たち真面目な真鍋さんに対して遠慮してたのよね……」

「そうそう。きっとこれは何かの間違いだって」

澪「でも、間違っていたのは私たちの方なんだ!」

澪「だから是非戻ってきたら爆笑の渦で和を出迎えてやってほしい!!」

「わかったわ!」「真鍋さんも可愛いとこあるよね」
「今まで我慢してきたぶん大笑いするわ!」

澪「みんな……。ありがとうっ!!」











和「……なんて話してるのよ……。一気に入りづらくなっちゃったわ……」


和「でも、ここは覚悟を決めて……!!」

  ガチャ

澪「きたっ!!」

  カタン コロコロ……

澪「ん? 鼻メガネだけが先に教室へ転がってきた……?」

和(3_3)「メガネ、メガネ……」

クラス一同「!?」

和(3_3)「私のメガネはいったいどこに……?」ウロウロ

   \ どっ!!  /   \ ワハハ! /

和(3_3)「ついでに鼻も一緒に取れちゃったわ」

澪「あははははは!! 和!! 最高だ!!」

和(これで良かったのよね……私……)

 二年一組の結束がさらに深まった瞬間であり
 真鍋和の隠れた才能が開花した瞬間でもあった

 おしまい