――――――――――――――――――――――――――――
澪「今日のところは一旦解散しないか?」

律「そうだな……」


ウルトラ キョウダイ ナーンバーワーン♪


律「おっ」

唯「また電話?」

梓「こんな夜中に、人気者ですね」

律「こんな時だけ人気者になっても嬉しくないし」

ピッ

律「もしもし」

和『律? 今すぐテレビをつけて!』

和『例のチャンネルにあの電波が送信されているわ!』

律「……なんだって!」

律「澪、すぐにテレビを!」

澪「わかった」

ポチッ

……ザー ザー ザー ザー ザー――――――


梓「……サンドノイズですね」

律「そ、そんな馬鹿な……」

紬「電波は本当に送信されてるの?」

律「和が嘘ついたりミスしたりするとは思えないよ」

澪「でもサンドノイズでどうやって人々を誘き出すんだ?」

唯「……」

唯(……誘き出したんじゃない。少なくとも姫子ちゃんはそう思ってる)

唯「……」

唯「……」


姫子『心の底では"船"に乗りたいと思ってるのかもしれないよ?』


唯(心の底 ……!)

唯「……サブリミナル」

律「えっ?」

唯「サブリミナルだよ、りっちゃん!」

律「サブリミナル?」

唯「そうだよ!」

唯「サブリミナルは心の底、潜在意識に直接働きかける……」

唯「このチャンネルでエイリアンからのメッセージを受け取って、"船"に乗って行く人々は」

唯「潜在的にこの世界から抜け出したいと強く願ってた人々だけなんだよ!」

紬「なるほど!」

梓「"船"を望む人のために、"船"は来る。嘘じゃなかったってことですか……」


澪「ちょっと待って」

澪「これが本当にサブリミナルだとしたら」

澪「このメッセージを解読するには、電波の発信源を特定しなくちゃいけないぞ」

律「それなら大丈夫」

澪「え?」

律「今、和から追加の連絡が入ったよ」

律「発信源はA地区第4ブロックD51ポイント、だそうだ」

澪「この近くじゃないか」

梓「すぐ行きましょう!」

律「当然!」

唯(そこに姫子ちゃんも……)

紬「唯ちゃん、行くよ?」

唯「……うん」

律「よし。この倉庫だな」

律「全員、ディバイトランチャーは持ったか?」

澪「ああ、大丈夫」

律「よーし……。突入――!」

ドタバタドタバタ――――


シーン


律「……またかよ!」

梓「またですね」

唯「姫子ちゃん、逃げ足早い……」

澪「……ん?」

紬「どうかした?」

澪「なあムギ、あのパソコンみたいなやつって……」

紬「……!」

澪「…………」ヒソヒソ

紬「…………!」ボソボソ


律「ん?」

律「おふたりさーん。なにこそこそやってんのー?」

澪「……うん」

澪「みんな、聞いてくれ」

紬「このパソコン地球のものじゃないわ!」

律「へっ?」

唯「……じゃ、じゃあ!」

梓「この機械からメッセージが送信されてるんですね」

澪「そうだ」

律「!」

律「じゃあ、今んとこ悪いのはこの機械か」

澪「ああ」

律「こいつのせいでみんなさらわれるのか……!」


ガシャッ


律「このっ! ぶっ壊してやる!!」

唯「ええっ!?」

澪「ちょ、ちょっと待て、律! 銃を下ろせ!」

律「何で止める!」

律「今この瞬間もこの機械から不特定多数に向けてメッセージが発信されてるんだ」

律「またたくさんの人がエイリアンに連れて行かれようとしてるんだぞ!」

律「私には、許せない!!」

澪「そんなのはわかってる!!」

澪「でも、今この機械を破壊すれば送られているメッセージがわからなくなるんだ!」

澪「送信されてるサブリミナルのパルスを解析しないと!」

澪「いつどこに"船"が来るのかがわからないんだよ!!」

律「……」

澪「気持ちはわかるけど今は我慢してくれ」

律「ちくしょう……」

律「……ちっくしょお!!」ガシャン


唯「……あ」

唯(パソコンの手元にコーヒー……)

唯(コーヒーがないと夜更かしできないなんて姫子ちゃんもまだまだ子どm……あれ?」

唯「このコーヒー、まだ温かい……」

唯「……」

唯「……姫子ちゃんはまだこの近くにいるんだ!」

梓「ホントですか!?」

唯「りっちゃん!」

律「……わかった」

律「私と澪、ムギはここに残ってサブリミナルのパルスを解析する」

律「唯と梓は二手に別れて立花さんを探してくれ!」

唯「うん!」

梓「了解です」


―――――――――――――――――――――
――――――――――――――


唯「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッタッ

唯「姫子ちゃん……」タッタッタッタッ
唯「…………はぁっ……」タッタッタッタッ

唯「きっとまた、あの交差点に……」タッタッタッタッ

唯「……」タッタッタッタッ

唯「……はぁっ……」タッタッタッタッ

唯「……」タッタッタッタッ

唯「……!」タッタ…



姫子「やっほー。また会ったね、平沢さん」



唯「……姫子、ちゃん」

澪「……」カタカタ

紬「……」カタカタ

律「どう? 解析できそう?」

紬「ええ。それほど難しいパルスじゃないみたい」カタカタ

澪「そうだな」カタカタ

律「……」

律「……私、何すればいい?」

澪「黙っててくれればそれでいいよ」カタカタ

律「あ、うん」

紬「……」カタカタ

澪「……」カタカタ

律「……」

紬「……よしっ!」ターンッ!

澪「"船"の来る場所、時間がわかったぞ!」

律「ホントか!」

紬「A地区第4ブロックR2ポイントの河川敷ね」

澪「時間は午前3時だ」

律「わかった。すぐさわちゃんたちに連絡する!」


……

唯「姫子ちゃん、もう終わりにしようよ」

姫子「……うーん。その感じからすると平沢さんはまだ誤解してるよね」

姫子「私は、人々を無理やり連れ去ってるワケじゃない」

姫子「"船"からのメッセージを伝えてるだけだよ」

姫子「それを本当に必要とする人にだけ届くように」

唯「……」

唯「……なら」

唯「1個だけ教えて」

姫子「なに?」

唯「"船"に乗った人たちはどうしてこの世界を捨てていくの?」

唯「あの人たちにとって、この世界はそんなにも価値のないものだったの?」

姫子「……」

姫子「……その逆だよ、平沢さん」

唯「逆?」

姫子「彼らは、誰よりもこの世界を信じたんだよ」


姫子「彼らは信じた。この世界の提示する幸福を」

姫子「少しでもそれに近づこうと精一杯努力してきた」

唯「……」

姫子「本当は自分がどんなものが好きで何がしたいのか……、一度も考えるいとまもないほど懸命にね」

姫子「けれど、努力すればするほど自分が希薄になって自分自身が見えなくなっていく」

姫子「そしてあるときこう思うの。『ここにいるのは、本当の私なのか』……」

唯「……」

姫子「だけど、世界は彼らの問いに答えてはくれない」

姫子「……船は彼らに呼びかけるだけだよ――――


紬「……このパルス、"船"が来る時間や場所を伝えてるだけじゃないわね」

澪「ああ。何か別のメッセージも送信されてる」

律「それの解析はできるのか?」

澪「やってるみる」カタカタ



―――――――――――――――――――――
――――――――――――――

澪「できた!」

律「おお!」

紬「今、画面に表示するわ」



『帰ろう、まだ見ぬ故郷へ』



『そこで待っているのは本当の私』




……

姫子「ねえ、平沢さん」

姫子「あなたは本当に平沢さんなの?」

唯「……そ、そうだよ、当たり前じゃん」

姫子「本当に? 本当にそう言い切れるの?」

姫子「自分は"平沢唯"を演じてるだけじゃない、そう言い切れる?」

唯「……!」

姫子「ねえ平沢さん。あなたも、"船"に乗ろうよ」

唯「えっ……」

姫子「誰にも縛られない、あなた自身が思う通りに生きていける」

唯「……」

姫子「本当の自分に会うために」

唯「……」

姫子「"船"に、乗ろうよ」

唯「わ、私は……」

姫子「……」

唯「……あ!」

姫子「あ?」



梓「唯先輩! 大丈夫ですか!」タッタッタッ



唯「あずにゃん!」

姫子「…………チッ」

ドンッ

唯「うわっ!!」

姫子「……バイバイ、平沢さん!」タッタッタッ

唯「ま、待って!」

梓「大丈夫ですか、唯先輩!」

唯「うん。突き飛ばされただけだから」

唯「それより……」

梓「それより?」

唯「……レオリングが盗られた」

梓「ええっ!?」

唯「後を、追わなきゃ……!」タッタッタッ

梓「ゆ、唯先輩!」

唯「……」タッタッタッタッ

唯(……)

唯(……そっか)

唯(最初からこれが目的だったんだ)

唯(レオリングを、ウルトラマンを"船"に載せること)

唯(これが、エイリアンから姫子ちゃんに与えられた本当の使命だったんだ)

唯「……」タッタッタッタッ

唯(……)

唯(……でも、それって)

唯「!」

唯「姫子ちゃ――ん!」タッタッタッタッ


姫子「……は、速っ!」タッタッタッタッ


唯「姫子ちゃん、待って!」タッタッタッ

姫子「……」タッタッタッタッ

姫子「……行こう、平沢さん!」タッタッタッタッ

姫子「一緒に、一緒に"船"に乗ろうよ!」タッタッタッ…

姫子「あなたがあなたでいるために!」

唯「……」タッタッタッ…

唯「……姫子ちゃん」

唯「この"船"が本当に姫子ちゃんの言う通りのものだったら」

唯「……どうしてレオリングなんて必要なの?」

姫子「……えっ」

唯「この"船"が本当の姫子ちゃんに会わせてくれるだけのものなら」

唯「……何も持たずに行けるはずだよ!」

姫子「……!」

唯「……」

姫子「……」

唯「……姫子ちゃん」


唯「あなたは、本当にこの"船"を信じているの?」


姫子「……」

唯「……」

姫子「……」

唯「……」

姫子「…………私は」

唯「……」



姫子「……私は、この"船"を信じたい!!」

姫子「私は会いたいんだ、本当の私に!!」



唯「……」

姫子「……」ニコッ

唯「……?」

姫子「……こんなものはいらないね」ポイッ

唯「あっ、と」キャッチ!

姫子「……時間だよ」


ゴオオオオオオオオオオオオオオオ


姫子「"船"が、来た」

唯「これが、……"船"」

空には白い光をまとった美しい円盤が浮かんでいた


姫子「今度こそ」

姫子「バイバイ、平沢さん」

唯「……」


円盤から降りてきた金色の柔らかい光が、その光は立花姫子を包み込んだ
彼女は静かにまぶたを閉じて、金色の光が自分を"船"に乗せてくれる、その時を待った
その顔に微笑みをたずさえて



が、しかし


12
最終更新:2011年03月13日 00:21