楽器屋店員「セレブの振りをする芝居だったんですね……」

楽器屋店員「しかし、25万のギターを5万です……差額を準備するのは大変だったでしょう?」

紬「……ええ。正直、自腹で20万円はキツかったわ……」

唯(ごめんなさい!!)ズキッ!

紬「でも、あの出来事が私の考えを確信に変えたの……」

紬「唯ちゃんのためにも、軽音部のためにも……お嬢様キャラが必要だ、って」

梓「私も偉そうな事言えませんが……何か唯先輩が原因の一端みたいですよ……」ヒソヒソ

唯(ぐはぁーー!!)ズキッズキッ!

紬「お菓子やお茶を用意するために、皆に内緒でいろんなアルバイトをしたわ」

梓「バイトって……MAXバーガーは、結構ガチのバイトだったんですね……」ヒソヒソ

唯「自前で用意してたなんて……」ヒソヒソ

紬「夏には別荘管理のアルバイトをして合宿地を用意したわ……」

梓「人の別荘だったんですね……」ヒソヒソ

唯「勝手に使って大丈夫だったのかな……?」ヒソヒソ

紬「後で怒られちゃったけど……持ち主さんがラーメン好きで助かったわ……」

唯(ラーメンで何とかしたんだ……)

斉藤「紬ちゃん……そこまでしなくても……」

紬「いいえ、斉藤さん。大変だけど……後悔はしてないの!」

紬「合宿は私にとって……たぶん皆にとっても良い思い出になったと思う!」

紬「それに、お茶の時間があったから、今の軽音部があるんだと思うの!」

紬「今なら……お父さんの気持ち、わかる気がする。大切な物のために無我夢中になってたんだと思う……」

紬「お父さんの大切な物は、豚骨ラーメン……そして、私にとって大切な物は、軽音部なの!!」

唯(ムギちゃん……)

梓(ムギ先輩……)

斉藤「でもね、紬ちゃん。私は君の事が心配なんだよ」

斉藤「今からでも皆さんに打ち明けることはできないのかい?」

紬「駄目よ! 言えないわ!」

紬「私がお嬢様じゃないって知ったら、皆がっかりしちゃうじゃない!」

唯(ムギちゃん……そんな事ないよ……)

紬「おやつだって……毎日、豚骨ラーメンを出す事になるのよ!?」

紬「そんな事できないわ! 女子高生なのよ!? 体重とか気になるじゃない!」

唯(確かに毎日は……って、別に出さなくていいんじゃないの……!?)

紬「バンド名だって変わっちゃうわ……放課後ラーメンズになっちゃうじゃない!」

唯(そこも変わるの!?)

紬「そうなったら歌詞も変えないと……」

紬「♪君を見てると~いつもハートが千葉!滋賀!佐賀!♪って、どういうことなの!?」

唯(さっきからムギちゃん何言ってるの!?)

紬「私は……お嬢様じゃないといけないの!!」

斉藤「紬ちゃん……」

唯(……)

梓「そんな事ないっス!!」ガタタッ

唯(!)

唯「ちょっ!? 会話に参加しちゃ駄目だよ……!」ヒソヒソ

梓「たぶん大丈夫ですよ! 変装もしてますし、低い声で喋ればバレませんよ!」ヒソヒソ

紬「お、お客さん……? 何ですか、いきなり……」

唯(大丈夫だった……! ムギちゃんも相当だよ……)

梓「そんな事ないって、言ったんス!」

梓「バーメン(※)信じて、本当のリアルを打ち明けるべきっス!」

 ※メンバーとほぼ同意の業界用語

紬「……お客さんに何がわかるんですか? ていうか誰なんですか?」

梓「自分もダレス(※)やってるんス。だから姐さんのソウル、わかりますっス」

 ※「音楽」のかっこいい言い方。音楽に国境は無い→ボーダレス→ダレス

紬「え……」

梓「自分……昔、結構ツッパってて、今のバンドやめかけた事があるんス」

梓「でも、こんな勝手な自分を、バーメン……ていうか先輩方は受け入れてくれたんス!」

梓「そんとき自分、思ったんス! このバーメンは最高のバーメンだって」

紬「……」

唯(あずにゃん……)

紬「でも……偶然うまくいったのかも……」

梓「……姐さんも感じた事あると思いまス」

紬「え?」

梓「演奏するとバーメンが一つになった様な、あの感覚を……」

紬「た、確かに……」

梓「普段、バラバラに見えても、どんなに距離を感じても、演奏すると一つになる……」

梓「それは、バーメンが最高だからなんス!!」

紬「!」

梓「バーメンも、きっとわかってくれるっス!」

梓「姐さんがラーメン屋の娘でも、バンドが変わる事は無いっス!」

紬「でも! 毎日のおやつが豚骨ラーメンになるんですよ!? 苦痛に感じちゃうかも……」

梓「姐さん……それはちょっと違うっス」

唯(お?)

梓「姐さんは豚骨ラーメンにこだわり過ぎて、周りが見えなくなってるんス」

唯(おお?)

梓「別に毎日豚骨ラーメン出す必要は無いんス」

唯(おおお?)

梓「曜日交代でラーメンをチェンジすればいいんス!」

唯(違う!)

梓「醤油や味噌ラーメンを忘れちゃってまス!」

紬「な、なるほど……!」

唯(そういう事じゃないよぉ……)

梓「醤油、味噌、塩、豚骨、付け麺のローテーションっス!」

唯(いや知らないよ……)

紬「お客さん……わかった! 私……皆に打ち明けてみる!!」

唯(わかっちゃった……)

梓「姐さん……! その意気っス! ファイトっス!」

紬「お客さん、ありがとう。なんだか勇気出てきたわ♪」

梓「恐縮っス!」

唯(でも、まあ)

唯(ムギちゃんの口から打ち明けてくれるみたいだから、万事OKかな)

紬「よぉし……じゃあ感謝の意味を込めて」

紬「今日は、お客さんのために歌おうかしら」

唯(うたう……?)

紬「お父さんが……いつも言ってたわ」

 ガララッ カシャン!

唯(!? 厨房の中からキーボードが……!!)

紬「ラーメンとピアノは似ているって」

唯(?)

紬「(出汁を)出して駄目なら(ピアノを)弾いてみろって」

唯(??)

紬「聴いて下さい! ハニースイートティータイム!!」

唯(ええぇ~~……)

 ♪はーちみーつ いーろのー
 ポロロン ポロロロン

唯(歌いだした……)

 ♪ごーごがー すぎーてくー
 ♪ハニー スイート ティータイム

唯(ていうか、さっきからあずにゃんの姿が見えない……まさかね)

 ♪はーちみーつ いーろのー 
 ポロロン ポロロロン
 ジャカジャカ ジャカジャカ 

唯(……ん?)

 ♪ごーごがー すぎーてくー

梓「♪ハニー スイート ティータイム!」

唯(参加しちゃってる……ちょっと予想してたよ……)ガーン

紬「♪マカロン 飛行船」

 ジャンジャカ ジャンジャカ

唯(ストーキングが大胆過ぎるよぉ……どこからギター出したの……)

梓「♪時計は ラング・ド・シャ!」

唯(地声で歌っちゃ駄目でしょお……!)

紬「♪胸がキュンとなるほうへ~~ 出かけよう!」

唯(……疲れた、しばらく見てよう)

紬梓「♪笑顔の花咲く空の下 あふれてしまうの こーきしん! マキシ!」

楽器屋店員「グスッ……へへっ、今日のラーメンは塩味が効いてるぜ……」ボソッ

紬梓「♪赤道色の リボンかけた 地球はお菓子箱 夢つまってる!」

 ワー!ワー!
 キャー!キャー!

梓「みんなー! ライブ来てくれてありがとー!!」

 ジャンジャカ ジャンジャカ

紬「♪はーちみーつ いーろのー ごーごはー なにーあじー?」

梓「♪ハニー スイート ティータイム!」

唯(2番突入……!)

紬「♪はーちみーつ いーろのー ごーごはー なにーあじー?」

梓「♪ベリー キュート アズニャン!」

唯(歌詞変えちゃったよ……)

紬「♪ガレット 駐車場」

梓「♪にゃあ!」

紬「♪野良猫 ザッハトルテ」

梓「♪にゃあ!」

唯(にゃあ! じゃないよ……)

紬「♪今日こそやりたかったこと~~ 始めよう!」

 ワー!キャー!

紬梓「♪光の絵の具 こぼした街 瞳に映る全部が 未来! レシピ!」

唯(そして完璧なコンビネーション……)

紬梓「♪青空色で ラッピングされた 世界は贈り物 開けていいかな?」

唯(何でバレないの……ムギちゃんもかなり図太いよぉ……)

梓「♪道に迷ったら お茶にしましょう」

唯(あ、図太いって言っても眉毛じゃなくて)

梓「♪願いはキャンディースプーンに 切なさはティーポットに」

唯(神経が骨太って事を言ったわけで)

梓「♪気持ち クルクル ユラユラ まぜて」

唯(骨太……豚骨なだけにね!)

梓「♪悩みも……フフフフン フフン」 

唯(うまいこと言っちゃったなぁ~テヘ!)

梓「♪きっと~~ 明日も 晴れますように!」

唯(……)

 ワー!キャー!

梓「♪笑顔の花咲く空の下 あふれてしまうの こーきしん! マキシ!」

唯(ていうか、さっきから出しゃばり過ぎだよ……あずにゃんしか歌ってないよ……)

梓「♪赤道色の リボンかけた なーんとかかんとか! 食べちゃお!」

梓「♪青空色で ラッピングされた 世界は贈り物 開けていいよね!」

 ジャンジャカ ジャンジャカ ジャーンジャーンジャーーン……

梓「はあ……はあ、みんな! 一緒に歌ってくれてありがとー!」

 ワー!ワー!
 キャー!キャー!

唯(……)

梓「ふう……じゃあ! 次の曲っ!!」

唯「もういいよーーー!!」ズバッシコーン!

その後もライブは続きましたが、どうにかムギちゃんに気付かれる事なく

あずにゃんを連れ出し、お店を出ることができました

あと、私達が注文したラーメンは出てきませんでした


帰り道!

唯「まったく……バレなかったのが不思議だよ!」プンプン

梓「目立っちゃ駄目でしたよね……ド忘れしてました……」

唯「よりによって、そこをド忘れしたんだ……」

梓「すみません、ムギ先輩の話を聞いてたら……気が動転しちゃって」

唯「……そうだね。私もビックリしたよ」

梓「ムギ先輩のセレブは、キャラだったんですね……」

唯「うん。今まで気付かなかったよ……」

梓「ずっと内緒でバイトして、お茶とか用意してくれてたんですね……」

唯「そうだね……」

梓「ムギ先輩は影から軽音部を支えてくれてたんですね……」

梓「そう考えるとムギ先輩も、ある意味PSPと言えますね……」

唯「うん……? それは、ちょっとわかんないかな……」

梓「でもまあ、ムギ先輩も打ち明ける気になってくれたみたいなので」

梓「私達は、こっそりと全力でサポートしていきましょう!」

唯「もちろんだよ!」

梓「たとえ……ラーメンをかけられる事になったとしても!」

唯「もう~! ムギちゃんそんな事しないでしょ!」

梓「えっ? あ~……ああ! そうか、そうでした!」

唯「もう~! あずにゃんったら!」

 ウフフ アハハ エヘヘ

梓「じゃあ……今日はこの辺で。唯先輩、お疲れ様でした」

唯「うん。じゃあね~、あずにゃん!」

梓「はい、ではまた学校で。失礼します」



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最終更新:2011年03月12日 04:16