二人が謝ったのと同時に、紬がお茶と茶菓子を運んできた。
唯の目が輝いている。
紬「今日は緑茶だから、おはぎで~す。」
唯「おはぎ!おはぎ!」
唯のテンションは上がりきっている。ほかの三人の目も輝いている。
紬を除く全員が、目の前のおはぎをほおばると、より一層目の輝きを増した。
律・澪「うまい!」
唯「おいしい!」
紬「よかったわ~。・・・爽子ちゃんはどお?」ニコニコ
爽子は、また突然自分に振られたので、何か良いことを言おうと、唸っている。
紬「おいしい?」
紬に促されて、すごい勢いでうなずく。
慌てて話しだそうとしたので、おはぎをのどに詰まらせたらしい。
焦ってお茶で飲み下すと、爽子は堰を切って、話出した。
爽子「ひ、非常に上品なお味でなんというか、気品にあふれているというか・・・。」
紬「おいしいってこと?」
爽子「とってもおいしいです・・・!」
紬「よかった~。」ニコニコ
爽子は、笑顔を見て、心が救われるような気がした。
なんて素敵な笑顔を見せるんだろう・・・。
爽子(私もこんな笑顔をしてみたいな・・・。)
爽子はいつの間にか、紬に見とれていたらしい。
それに気付いた紬が、少し顔を赤らめて言う。
紬「やだ!何か顔についてる?」
爽子は、はっと我に返って、顔を横にブンブンと振った。
紬「どうしたの?爽子ちゃん?」
爽子「なんでもないの・・・!」
二人の会話が途絶えたと同時に、他の三人がおはぎを食べ終えた。
律「爽子には、何かしらしてほしいことをしてもらうことにした!」
澪「漠然としててごめんな?でも、音楽に関することを無理やりやってもらうことはしないよ。」
唯「皆とお茶飲んで、おしゃべりするだけでも、楽しいもんね!」
澪「唯・・・私たちは軽音楽部だぞ?」
唯の天然のボケに澪からするどい突っ込みが飛ぶ。
唯「あ・・・あははは・・・。」
律「唯は、ギターを準備しないと、どうしようもないな~。」
紬「もってないのよね?ギター。」
唯は申し訳なさそうに頭をかいて言う。
唯「うん・・・。だから、今日はお茶を飲むだけで―。」
唯が言い終わるや否や、澪が突然立ち上がり、唯を指差して言った。
澪「ギターを見に行こう!」ビシッ
唯「えぇ~?!」
律「また突然だな~。」
澪「これじゃあ、練習もできないしな。値段とかも唯には見てほしいし・・・。」
唯「ま、また今度にしない?休みの日でも・・・。」
爽子は和から言われたことを思い出していた。
唯が席を外したお昼休みの時のことである。
和『唯を甘やかしちゃだめよ?』
爽子『・・・え?』
唯がいなくなると、和が突然眉をひそめて話しだしたので、爽子は驚いた。
和『甘やかすと、だらしないのよ、唯は。だから、一番近くにいる爽子が叱ってあげて?』
爽子『し、しかるの?』
和『そう。親心よ。』
爽子『お、親心・・・。』
和『唯って、どこか抜けてるし、にくめないけど・・・。』
和の言葉に、爽子は深くうなずく。
和『たまにはびしっと言ってあげないと。けいおん部の皆には迷惑かけると思うわ。』
和は爽子に向き直り、目を見つめて言った。
和『唯をお願いね?』
爽子は唯に対する心のこもった思いを受け取って、しっかりとうなずいた。
唯『あ~!何の話~?』
唯が戻ってきた。二人は同時に唯の方へ向いて言った。
爽子『なんでもないの!』和『なんでもないわ。』
唯『おおぅ・・・二人ともいつの間にかすごく仲好くなったね・・・。』
場面は戻って、放課後の軽音楽部、部室。
唯が、澪のギターを見に行こうという提案を受け流したところだ。
唯「さ、さわちゃんもお茶もっと飲みたいよねぇ?」
唯は、援軍を呼ぶべく爽子へ声をかけた。しかし、爽子は援軍にはならなかった。
爽子(いまこそ、和ちゃんとの約束を果たすべき時・・・!)
爽子は、大きくうなずくと、唯へ向きなおり、言った。
唯「ほら!さわちゃんも、お茶を飲みt―。」
唯が勘違いで言うのをさえぎって、爽子が言う。
爽子「唯ちゃん!ギターを見に行こう!」
思わぬ提案に、シーンとなるほか四人。
爽子(・・・え?)
予想だにしない他四人の反応に、戸惑ってしまった爽子は、さっと青ざめた。
爽子(い、今のは、唯ちゃんに乗るのが正解だったの・・・?!)
爽子が、謝ろうと、席を立ち、頭を下げようとしたその時、澪が言った。
澪「ほら!爽子の方がわかってくれてるみたいだぞ?」
律「お!爽子は行く気満々みたいだな!」
爽子が急に立ち上がったのを、ギターを見に行くことへのやる気の表れだと勘違いした律は、それを見て立ち上がった。
紬「善は急げね!」
そう言って、紬も立ち上がる。
唯「さわちゃんまで、そういうなら・・・。」
と、唯も渋々立ち上がった。
律「よーし!じゃあ、楽器店まで皆で行くぞ!おー!」
律が拳を上げて掛け声を出すと、全員がそれに倣って、おー!と言った。
爽子も遅れて小さく手を挙げ、小さくおーと言った。
律「爽子!声が小さい!」
律に指摘され、びくっとすると、爽子が大きく、おー!と、言いなおした。
爽子(これは・・・友達とショッピングをするのと同じ・・・!)
爽子は思わぬ夢の実現に、内心飛び上るほど喜んでいたのである。
しかし、楽器店に着いた唯と紬と爽子の三人は、ギターの思った以上の高額に、驚くのであった。
~夜、爽子家~
爽子「はぁ~・・・・・・・・。」
爽子は、食卓について、少し食を進めた後、大きなため息をついた。
今まで以上に大きなため息に、爽子の両親は顔を見合わせた。
爽子父「ど、どうした?爽子。」
心配して父が声をかける。
その声にハッとした爽子は、顔をあげて平静を装う。
爽子「なんでもないの・・・!」
爽子父「家族に隠し事をしちゃだめだ!言いなさい。」
爽子は、うつむいて、言うか言うまいか考えているようだ。
爽子母「お父さん!無理に言わせることはないわよ。」
爽子父「しかし・・・家族で解決できるなら、それに越したことはないだろう?」
爽子母「そうだけど・・・。」
二人の会話が途切れたところを見計らってか、爽子が顔を上げた。
どうやら、言うことを決意したらしい。
爽子「実は・・・。」
爽子は、友達がギターを欲しがっていること。
しかし、そのギターが高く、手が出ない価格であること。
爽子母「ギターってそんな値段するのね!」
爽子「うん・・・。」
爽子母「アルバイトしたらどうかしら?」
爽子「そうなんだけど・・・。」
律が「バイトをして、稼ごう!」と、提案したのだが、唯はその提案を断った。
そして、「おこずかいを前借して、こっちの安い方を買うよ~。」と、唯は言った。
爽子母「安いのもあるのね。その子はかわいそうだけど、その値段は学生には手が出ないわ~。」
爽子「うん・・・。」
爽子(唯ちゃんは最後の最後まで、高い方のギターを気に入ってた・・・。)
爽子父は、いつの間にか、食事を終えて、箸をテーブルへ置いていた。
爽子をじっと見つめて言った。
爽子父「そのギター、どんなギターだった?」
爽子「えっと・・・赤い色が基調だったような・・・。」
それを聞いた父は、席を外して、リビングを出て行った。
爽子と、爽子母は突然の行動に、顔を見合わせてしまう。
爽子母「どうしたのかしら・・・突然・・・。」
爽子母がそうつぶやくと、父が部屋へ戻ってきた。
黒い革製のギターケースを手に抱えていた。
爽子母「あら?それって・・・。」
父は、そのギターケースからギターを取り出しながら言った。
爽子父「実は僕も昔、バンドをやろうとしててね。このギターを知り合いからゆずってもらっていたんだ。」
爽子母「・・・・・・。」ニコニコ
母は、微笑んだまま父を見ている。
父はギターを持ち上げて、爽子に見えるようにすると、言った。
爽子父「こんなギターじゃなかったかい?」
爽子は、そのギターを見た瞬間、目を輝かせて、立ち上がったのだった。
~翌日、朝・通学路~
唯「ほ、本当にもらって良いの?!」
唯は眼を輝かせて、爽子の両手をぶんぶんと上下させながら言った。
爽子「うん・・・。お父さんも使わないからって。」
そう。爽子の父が持っていたのは、唯が最初にほしいと言ったギターだった。
唯は、受け取ったケースを大事そうに抱え、満面の笑みを見せている。
唯「早く触ってあげたいよ~」
爽子「良かった・・・。喜んでもらえたみたいで・・・。」
唯「すっごく嬉しいよ!ありがとうね、さわちゃん!」ニコ
唯の思った以上の喜んだ顔に、爽子の顔が自然に和らいだ。
和「唯・・・その大きなケースは何?」
和が唯の自宅前にやってきて、唯の持っている黒いケースに興味を示した。
唯「ふっふっふ・・・。」ニヤ
唯はほほを釣り上げるような笑みを見せて言う。
唯「ひ・み・つ」ウフッ
唯がウィンクしながら言うと、和はため息をつくと、首を振って言う。
和「別に、教えてくれないならいいわ。爽子、いきましょう。」スタスタ
和は唯のボケにも動じず、先に歩きだしてしまう。
唯「の、和ちゃんひどい!」グスッ
唯は涙目になりながら、和の後を追った。
爽子は、ノリが分からず、おろおろしていまう。
和「ほら。唯が余計なことするから、爽子が困ってるわ。」
唯「え、えぇ~?!わたしのせい?!」
爽子は、猛スピードで首を左右に振る。
爽子「ち、ちがうの!」
唯「そうだよ~!悪いのは和ちゃんだよ~」ブーブー
唯が爽子の解釈を都合よくとって、和へ反論する。
爽子「え?!いや、あの・・・。」
爽子はさらにおろおろする。
和「こーら!唯、悪乗りしすぎよ。」
唯「えへへ。ごめんごめん。」
爽子は結局、ノリをとらえきれぬまま、二人の調子はいつもどおりに戻った。
和「今のは唯にボケを『無視する』っていうことでね・・・。」
和がまじめに解説をし始めようとすると、唯が戒めた。
唯「それは解説することじゃないよ~。」
しかし、爽子は真剣そのもので、まじめにこう切り返した。
爽子「つ、続きをお願いします!」
~放課後、軽音楽部・部室~
律「唯~、よかったなぁ!」
ギターを大事そうに抱えている唯に向かって、律が言った。
放課後。例のごとく集まった五人は、お茶会を始めようとしていた。
唯は皆が集まると同時に、早速ギターを取り出して、ギターを愛でていた。
唯「うん!ギ―太ぁ」ナデナデ
澪「ギターに名前を付けたのか・・・?」
唯「そうだよぉ。」エヘヘ
律「澪はベースにつけてないのか?」
澪「つ、つける必要ないだろ!」
その頃。爽子と紬はお茶を淹れる準備を二人でしていた。
紬「こうやって少し蒸らすことが重要なの!」
爽子「なるほど・・・。」
紬は爽子に紅茶の淹れ方をレクチャーしている。
紬が優雅にカップへお茶を注ぐ。
爽子は、その姿に見とれていると、紬がそれに気付いて言う。
紬「そんな見つめられたら、はずかしいわ。」カァァ
爽子「ご、ごめんなさい!」ハッ
爽子は慌てて顔をそむけて言う。
爽子「あまりにも、様になってたから、つい・・・。」
紬「本当?うれしいわ~。」
律「はぁ~・・・。やっぱり、ムギが入れるお茶はうまいなぁ・・・。」
律は紅茶をいっぱい口入れ、飲み下してからつぶやいた。
紬「ありがとう、りっちゃん。」
唯「そういえば、今日お菓子は・・・。」
唯が、現金なことを言ったと同時に、紬が頭を下げた。
紬「ごめんね!今日はおいしそうなものが手に入らなかったの!」
唯「あ!き、気にしなくて良いよ!」アセアセ
澪「唯~。ここはお菓子を食べるところじゃないんだからな~。」
唯「えへへ・・・。つい・・・。」
爽子(お菓子か・・・クッキーとかなら、前日に作っておけるかも・・・。)
唯「は~・・・。やっぱり、お茶ができるって良いねぇ・・・。」
律「このために学校来てる感じだよな・・・。」
律と唯の二人が、シンクロしてため息をついて、テーブルへ突っ伏した。
澪「さ!お茶の時間も終わったし、練習だな!」
唯・律「えぇ~!?」
二人は声も体を起こす動作もシンクロさせていた。
爽子(すごい・・・この二人・・・。)
澪「とくに唯!ギターの練習は積み重ねが大事なんだぞ!」
唯「は~い・・・。」
澪「さ!練習しよう!」
唯「澪ちゃんって結構熱い人だったんだね・・・。」
唯たちがそれぞれの練習をしている間、爽子はクッキーを作る計画を立てたり、授業の予習を片づけていた。
唯は、指がつるっと悲鳴を上げたり、指が痛いと言ったり、騒がしく時間が過ぎて行った。
爽子は、その姿を遠目に見守りながら、微笑んでいた。
日が暮れ、すっかり夕焼けに包まれた頃、下校時間のチャイムが鳴る。
律「おっと・・・。今日はここまでだな!」
唯「ううう・・・。もうめちゃくちゃ指を動かしたよ・・・。」
澪「ちゃんと、家で復讐して、覚えてくれないとな。」
唯「がんばります!」フンス
紬「唯ちゃん!頑張って!」
唯「さわちゃん、おまたせ~!」
律「ごめんな~。毎回こんな感じになっちゃうけど・・・。」
爽子「ううん。大丈夫。私、皆の練習を見てるだけでも楽しいから・・・!」
律「そっか。なら良いんだどな~。退屈してたら、どうしようかと思ってさ。」
それぞれが鞄を持つと、全員は校門へと向かった。
唯「ぎ、ギ―太重い・・・。」
澪「そのケースだと、持ちづらいだろ?」
唯「う、うん・・・。」
律「じゃあ、澪と同じようなケースがあるか、今日は見に行ってみるか!」
紬「行こう行こう!」
この後、一行は楽器屋に向った。
しかし、目当てのケースは見つけたのだが、唯の所持金では足りず、結局唯は皆から借りて、ケースを手に入れたのだった。
最終更新:2011年03月09日 22:40