爽子「・・・・っ。」フルフル

律「ゆ、唯・・・おまえ・・・。っく。」

澪「く、空気、読め!・・・ぷぷ!」

紬「え?え?なんで、皆笑いをこらえてるの?」

紬だけ、CMの元ネタが分からず、困惑している。

爽子「っくっふふふふふ・・・!」

爽子が、耐えきれなくなって、笑いだした。
唯が一目ぼれ(?)した、笑顔があふれる。

律「く、黒沼さん!」

澪「・・・・・・!」

紬「わぁ・・・!」

唯「さわちゃん!」

四人が、その笑顔に、気づき、驚いた。

律・紬・澪(こんな笑顔ができるんだ・・・!)

四人の反応に気付き、爽子は、笑いをとめてしまう。

爽子(ぜ、全員が私に注目している・・・。)

爽子が、全員を見渡す。

爽子(まさか、お昼に食べた海苔のお弁当の海苔が歯に?!)

爽子は、顔を下げて、耳まで真っ赤になってしまった。

唯「さわちゃん?」

律「どうした?黒沼さん。」

爽子は、真っ赤にした顔を上げると、突然ハーブティを口にした。

澪「ど、どうした?」

紬「良かった~。ハーブティ、嫌いじゃなかったのね?」ニコニコ

律「そこかよ・・・。」

律が、すかさず突っ込みを入れた。
爽子は、唯の肩をたたくと、他の三人に顔を見せないように後ろを向く。

爽子「唯ちゃん・・・。」コソコソ

唯「何、さわちゃん?」コソコソ

爽子「歯に何かついてる?」ニッ

爽子は、唯に歯を見せる。
他の三人は顔を見合わせた。

唯「なにも付いてないよ~。」

それを聞いた爽子は、姿勢を整えると、また頭を下げて、「ごめんなさい!」と言った。

律・澪「振り出しに戻るんかい!」

律と澪が幼馴染の息の良さを見せて、二人で突っ込みを入れる。

唯「おぉ~!息がぴったりですな!」

紬「ぴったりですな~。」

唯が、二人を茶化すと、紬も続いて、いつも以上にうれしそうに言った。

律「私たち、気にしてないよ。黒沼さん。」

澪「わ、私こそ、怖がってごめん・・・。」

紬「そうよ~。気にしてないわ。」

三人が、微笑む。

爽子「み、みなさん・・・!ありがとうございます!」

爽子は、また頭を下げた。
律はため息をついて言う。

律「その、敬語もやめ!私たち、同い年だろ?」

澪「うん。普通に話してほしいな。」

爽子が驚いた表情で、顔を上げる。

爽子「い、いいんですか・・・?」

紬「あ!敬語!」

紬が、得意げになって、爽子の敬語を指摘すると、また笑いの渦が生まれた。

律「あははは!何、得意げにしてんだよ~!」

紬「えへへ。」

澪「ふふ。」

唯「あはは。ムギちゃん、かわいい!」

和やかな雰囲気が、部室に生まれた。
その一員でいるということに、爽子は喜びを感じている。

爽子(いいなぁ・・・ここにいたいなぁ・・・。)

爽子が、そう思うと、律が腕を組んで、厳かな雰囲気を出して、口を開いた。

律「部長命令で、黒沼さんを我が部のマスコット、兼マネージャーにする!」

澪「え?」

紬「マスコット?」

唯「りっちゃん!」

爽子「・・・・・・え?」

律「楽器も無理、音楽的知識もないとしたら、このポジションしかないだろ!」

律は、腕を組んで、威張った態度のまま話す。

爽子「あ、あの・・・。」

律「敬語禁止!」ビシッ

律が、しゃべろうとした爽子を指差して、言う。

澪「マスコット、兼マネージャーって・・・。」

紬「運動部じゃないから、マネージャーはいらないんじゃないの?」

律「そ、そりゃ・・・これから考えるとしてだな・・・。皆。唯にお願いされただろ?」

唯は爽子に見られて、舌を出し、えへへと笑っている。

澪「そうだけど・・・黒沼さんの、意志もちゃんと聞け!」ゴチン

律「いたっ!殴ることないだろー!」

澪「しかも、してもらうことも何も考えずに!」

紬「黒沼さん・・・どうかな?」

また皆の視線が、爽子に集中する。
爽子は、全員の顔を見渡す。皆、笑顔で爽子の返事を待っている。

唯「さわちゃん。一緒に部活やろ?」

爽子(私は・・・この場にいたい・・・。でも・・・。)

迷惑がかかってしまうかも・・・。と、爽子が思うより先に、律が言う。

律「迷惑だーとか、考えんなよー?」

澪「そうだよ。そんなこと、全然ないからな?」

紬「一緒に、お茶しましょう?」

三者三様、爽子を引き入れるために爽子へ声をかける。
爽子の心は温かいものでいっぱいになった。

爽子「ありがとうございます・・・!私!」

唯・律・澪・紬「敬語禁止!!」

爽子を除いて、四人全員が同じことを言うと、また笑いが生まれる。
その笑いには、爽子も加わっていた。
純粋に楽しいという思いが、爽子を包み込んでいた。

爽子「こんな私でよければ・・・。よろしくお願いします・・・!」

爽子が、また頭を下げると、唯が手を握る。

唯「ほんと?!やったぁ!」

律「よーし!黒沼さん!下の名前は?」

爽子「さ、さわこ・・・です。」

律「よろしく!爽子!」

澪「よろしくな、爽子。」

紬「爽子ちゃん、よろしくね。」

皆が、爽子に笑いかける。その笑顔一つ一つが、爽子の宝物になっていた。

爽子「・・・・・・・・・はい!」

爽子は最高の笑顔で、受け返した。


第二章、完。




―番外編・tea time―

~軽音楽部、部室~

爽子「あの~・・・皆さんお名前は・・・?」

まだ敬語が抜けきれない爽子が、お茶会の最中、発言した。

律「あ、そういえば、自己紹介してなかったっけ?」モグモグ

澪「食べながらしゃべるな。」

律「細かいなー!澪は!」モゴモゴ

唯「今、物を口に入れながらしゃべってるのが、田井中律ちゃんで、叱ってるのがしっかり者の秋山澪ちゃん!」

唯が、二人に代わって、紹介を始めた。

律「唯・・・紹介に悪意が感じられるんだが・・・。」

お茶のお代わりを持ってきた紬が、爽子のカップへ、ハーブティを注ぐ。

唯「で、お茶を注いでくれたのが、琴吹紬ちゃん!・・・ありがとー。」

唯の分を注いでくれたので、お礼をしながら、紬の紹介をする。

爽子「田井中さんに、秋山さんに、琴吹さん・・・。」

自分の口で、復讐するように名字をつぶやく。
すると、それに気付いた唯が、言う。

唯「だめだめ!それじゃあ、敬語が抜けないよ~。」

律「そうだな~。下の名前でよいよ。私の苗字、長いしさ。と、いうか、唯と同じように呼んでくれ!」

紬「私は、皆からムギって呼ばれてるから、そう呼んでほしいわ!」

澪「そうそう。名前で呼んでほしいな。」

三人が、また爽子に注目する。名前を呼ばないと、注目を外してくれそうもない。
爽子は、また顔を真っ赤にさせてうつむいてしまったが、しっかりと聞こえるように声を出した。

爽子「り、りっちゃん・・・!」

律「おう!」

爽子「・・・ムギちゃん・・・!」

紬「はい!」

爽子「みおちゃん・・・!」

澪「うん。」

律「よし!乾杯だな!」カチャッ

律は、勢いよく椅子から立ちあがって言った。

澪「ティーカップでか?」

唯「やろうやろう!」カチャ

唯は、澪の疑問を気にせず、ティーカップを持ち上げて、立ち上がる。
紬も目を輝かせて、ティーカップを持って立ち上がった。
そして、澪より先に爽子が立ち上がる。

爽子(友達と乾杯・・・!!)

澪「爽子・・・。」

律「澪だけだぞ~?」ニヤニヤ

仲間はずれは嫌だと言わんばかりに、すぐに澪は立ち上がった。

律「よし!じゃあ、けいおん部、正式結成を記念して・・・!かんぱ~い!!」

唯・爽子・澪・紬「かんぱーい!」

お茶会は部活動の期限ぎりぎりまで続けられた。


~帰り道~

爽子「唯ちゃん、ありがとう。」

唯「どうしたの?さわちゃん。」

部活動後の帰り道、唯と二人きりになった爽子が、突然話し始めた。

爽子「唯ちゃんがいなかったら、こんな素敵な出会いはなかったと思う・・・。」

唯「良いよ~。私こそ、強引に誘ったのに、一緒に部活してくれてありがとうだよぉ。」

爽子「唯ちゃん・・・。」

どうして、こんなに優しいのだろう。本当に出会えてよかった・・・。
唯の家の前まで来ると、唯は爽子に向きあって言った。

唯「これからは、一緒に部活頑張ろうね!さわちゃん!」

唯が、手を差し伸べる。
その手を見て、爽子は、両手で唯の手を包み、にっこりほほ笑んで、うなずいたのだった。


~夜・爽子の家・爽子の部屋~

爽子「そういえば・・・結局仕事内容を教えてもらってない・・・。」

爽子は、自分の机で自習中にその事実に気付いた。

爽子(明日から何をすればよいのかな・・・。)

悩んでも仕方がないと、授業の予習を再開しようとした瞬間、ある考えが生まれる。

爽子(これは・・・私の自主性が試されているんじゃ・・・!)

結局、爽子は、その考えに支配され、予習もそこそこに、寝不足になってしまったのだった。

―番外編・tea time― 完





~翌日、放課後・軽音楽部、部室~

澪「結局、爽子には何をしてもらうんだ?」

部室に到着して、椅子に座ってすぐに、澪が律に問うた。

律「う~ん・・・。まぁ、いろいろ手伝いとか?」

澪「・・・何も考えてないんだな?」

律「・・・ってへ!」ペロ

澪「ってへ!・・・じゃない!」ゴチン

律「っいたー!そ、そういう澪は何か考えてきたのかよー!」サスサス

殴られた頭をさすりながら律が文句を言うと同時に、紬がお茶を運んできた。

紬「今日は、緑茶にしてみたの!」

律「ありがとう!・・・緑茶?」ゴク

澪「なんか、珍しいな。」ゴク

二人は出されたお茶を同時に口にした。

律・澪「うまい!!」

律「どう、うまいかは言えないけど・・・!」

澪「なんかうまいと言っておかなければいけない気がする・・・!」

紬「よかったわ~。」ニコニコ

律「で?澪は考えたのか~?」

澪「やっぱり、私的には、音楽をやってほしいんだ。」

紬「でも、爽子ちゃんは、音楽は無理って・・・。」

澪「でも、唯も初心者だろ?やってみなきゃわからないんじゃないか?」

律「う~ん・・・でも、演奏聴いて逃げ出したんだぜ?」

澪「そ、それは、私たちの雰囲気にのまれてだろ?」

爽子が逃げ出してしまった理由は、のちのお茶会で聞かされていた。
皆の音楽に対する思い。そして、音楽を楽しんでいる空気。
それに共感できない自分が嫌で、逃げ出してしまった。そういう理由だった。

律「現実的なこと考えたら、音楽ができないときの仕事を考えてあげた方が良いだろ?」

紬「はい!」ッサ

紬が、突然元気よく手を挙げた。

律「はい!琴吹紬さん!」ビシッ

授業中の先生のように、手を挙げた紬を律は指差した。

紬「爽子ちゃんには、私がお茶を運んだりすることを手伝ってほしいわ。」

律「お茶運びか・・・。」

澪「雑用をやってもらうってことか?」

紬「何かをしてもらうってことより、一緒にいることが良いんじゃないかしら?」

爽子が逃げ出してしまった後。律・澪・紬の三人は唯から爽子の事情を聴いた。
クラスで孤立してしまったこと。でも、悪い子じゃない。
爽子の友達になってほしい。一緒に部活をしたい。

律「そうだな・・・。無理に何かさせるより、一緒にいて、話したりの方が良いのかな。」

澪「うん。私も無理に音楽に関わらせようとしないよ。」

紬「爽子ちゃんにとっても、それが一番だと思うの!」

紬がそう言うと、全員顔を見合わせてうなずいた。
すると、部室のドアが開き、唯と爽子の二人が入ってきた。
噂をすれば、なんとやらだ。

唯「遅くなってごっめ~ん!」

爽子「ご、ごめんなさい・・・!」

律「何してたんだ?掃除当番か?」

唯「ぶっぶ~!違います!」エッヘン

なぜか唯が威張って言う。

澪「なんで威張ってるんだよ、唯」

唯「花壇の手入れです!」フンス

唯は鞄をベンチに置くと、それに爽子も倣った。

律「花壇の手入れ~?!」

紬「花壇なんてあったのね~。」

唯「うん!さわちゃんが使われてない花壇を見つけててさ~。」

唯と、爽子が着席すると、紬が席を立った。お茶の準備をしに行くためだ。

澪「何か育ててるのか?爽子。」

爽子は、突然話しかけられ、びくっと反応すると、うつむきがちに話しだした。

爽子「や、薬草を・・・。」

澪「へ、へぇぇぇぇ・・・。」

その雰囲気が、魔女のそれをだぶって、澪は少しおびえたように言う。

律「薬草って・・・。何か薬でも作る気かよ!魔女みたいだな!」

律が澪の思ったことを感じ取ったかのように、代弁する。

澪「こら!人が言いづらかったことを!」

爽子「ハーブも育ててるから、お茶もできるし・・・皆のお茶会に役立つかなって・・・。」

唯「りっちゃん!澪ちゃん!魔女はひどいよ!」プンプン

律・澪「ご、ごめんなさい・・・。」


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最終更新:2011年03月09日 22:38