-昼休み-

爽子たちは、爽子の希望でまた校庭の花壇に腰掛け、昼食を食べていた。

唯「お弁当を持ってるなら、教室で食べれば良いのに~。」

爽子「・・・いいの、外で食べるのが好きだし・・・それに・・・。」

和「それに?」

爽子「・・・教室に私がいたら、みんなが楽しく食べられないでしょう・・・?」

爽子は、暗い雰囲気を全開に出して、ため息交じりに言った。

唯「気にすることないよ!」

唯は、花壇から突然立ち上がって言った。

和「唯・・・。」

爽子「唯・・・ちゃん?」

二人の驚きの反応に、気を揉んだ唯は、あたふたしながら言った。

唯「さ、さわちゃんは・・・気にし過ぎだよ!もっと明るく元気にいこうよ!」バチーンッ

唯は大げさなふりで、大げさなウィンクをして見せた。

和「・・・っぷ・・・唯・・・。あはははは!」

和は大声で笑う一方、爽子は笑うまいと、プルプルと身を震わせながら耐えていた。



-昼休み・校舎-

澪「律のせいで、ひどい目にあったんだからな!」

律「なんだよ~!最後まで人の話を聞かないからいけないんだろ~!」

購買からの帰り道、完全に復活した澪に、律は本当のことを話した。

澪「あの子に悪いことしちゃったな・・・。」

律「いや~、嘘のようなグッドタイミングってやつ~?」ニヤニヤ

いたずらな笑みを浮かべた律を横目で見た澪は、げんこつを作って、律の頭へお見舞いした。

澪「馬鹿律!」

律「いってぇ~!」

その律の頭には、特大のたんこぶができたのだった。



-放課後-

和「そういえば、唯。部活は決めたの?」

唯「まだだよ~!良いのがなくて~・・・。」

和「だから!選り好みしてたら、決まらないって言ったでしょ?!今月中は、体験入部できるんだから、いろいろな部にしてみなさいよ!」

唯「だから、やっぱりびびっとくるやつがないとさ~。」

そんな話をしていると、爽子が帰り支度を終え、さっさと教室を出てしまう。

唯「あ!待って~さわちゃーん!」

唯が慌てて教室を飛び出そうとすると、先ほど心ないささやきをしていたグループに行く手を阻まれた。

「一緒にいるのやめた方がよいよ?」

「そうそう。平沢さん、とり殺されちゃうよ~。」

唯は、なんとかやり過ごそうと思案するが、思いつかずにたじろいでしまう。

「平沢さんもわかってるでしょ?あの子が浮いてるの。」

「あんな子といても楽しくないでしょ?だから―」

和「私は楽しいわ。」

グループの一人が何かを言い終わるのを待たずに、和が口をはさんだ。

唯「和ちゃん・・・。」

和「あなたたちこそ、爽子のことを知りもしないで、よくそんなことができるわね。」

グループは和の威圧にたじろぐと、目をそらしてしまう。

和「爽子はあなたたちとは違うわ。一生懸命、みんなのことを考えてる。」

和は、そのグループの前に凛として立つ。

和「あれが爽子の個性なの。少し目立つからって、逆に孤立させたら、もっと目立つじゃない。」

「ゆ、幽霊が見えるって噂は本当よ!貞子ってあだ名がある―」

和「それがどうかしたの?」

和はグループの一人の発言を切り捨てると、続けて言う。

和「噂は噂じゃない。見えるから何なの?爽子は私の友達よ。ほら、唯。行くわよ。」

和は、唯の方を確認すると、教室を出て行った。

唯は、和の威圧に自らもたじろいでいることに気付き、体制を立て直す。

唯「ごめんね!私もさわちゃんの友達だから!」

唯にはにっこり笑うと、その場から駆けだした。

教室内は少しどよめいた後、爽子のことを擁護する雰囲気が生まれた。

「そうだよね・・・。私もなんかかってに怖がってた。」

「そういえば、この前朝一番に来て、窓ガラスをふいてたのを見たなぁ・・・。」

「ほんとに?!黒沼さんって、えらいね~。」

爽子を嘲笑していたグループは居心地悪くなったのか、そそくさと教室を出て行った。

校舎を出たところで、校門あたりに爽子がいるのを確認すると、唯と和は歩をさらに速めた。

唯「和ちゃんかっこよかった~!」キラキラ

唯が羨望のまなざしで和を見る。

和「やめてよ!私たちは爽子の友達なんだから。当然でしょ。」

唯「えへへ・・・。そうだよね。」

唯と和は顔を合せて笑った。

唯「さわちゃん!」

爽子「・・・・・・・・・はい。」


第一章 完




唯「む~…」

現在は、授業の間の休み時間中。
唯は、シャーペンを頭に当てながら、悩ましげに唸った。

和「唯。どうしたのよ、そんなに唸って…。」

唯「部活、どこにしようかと悩んでて…」

と、唯が言うか言わないかで、和が迫って来た。

和「まだ提出してなかったの?!提出期限まで、後一週間よ?!」

唯「だ、だって~…」

和「そんなこと言って、選り好みしてたら、ニートまっしぐらよ?!」

爽子「どうしたの…?」

騒ぎを聞きつけてか、爽子が心配そうに駆けつけた。

和「それがね…唯が…」

唯「さわちゃんは、部活入るの⁈」

爽子「私は、お家の手伝いとかあるので…」

唯「えー⁈やろうよ!部活~!」

爽子「で、でも、私なんかがはいれる部活は…」

と、爽子は俯いてしまう。

唯が「そんなことないよ~。一緒に探そうよ!」

唯は席から立ち上がり、爽子の両手を握った。

和「もう!他人を巻き込まないで!爽子も迷惑でしょう?」

爽子は、首を物凄い速さで座右に振ると、ほほを染めた。

爽子「わ、私が唯ちゃんの役に立つなら…!」

唯「じゃあ、一緒に探そう!」

唯が「おー」と、拳を上げると、爽子もおずおずとそれに倣った。
和が、その様子にため息をついたとき、授業開始のチャイムが鳴った。



~放課後~
唯「これは…!」

唯が一つのポスターの前で立ち止まった。
それは、ギターの絵がかかれた可愛らしいポスターだ。

唯「さわちゃん!さわちゃん!これ、どうかなぁ?」

唯は他のポスターを見ていた爽子を呼ぶと、件のポスターを指差した。

爽子「…良いとおもう!」

爽子は、唯の言うことに従おうと思っていたので、なんの反対もなく、OKを出した。

唯「よーし!じゃあ、ここに決定だね!」

あれだけ悩んでいた唯だったが、爽子のOKもあってか、躊躇も自分の考えもなく、ペンを取り出した。
そして、ボスターの張り出されている掲示板を使って、提出用紙に書き始めた。

爽子も慌てて、唯に続いて書き始めたが、そのポスターに書いてある募集事項に気づいた。

爽子「ギタリスト…?」

そこには、ギタリスト募集‼と、小さく書かれていたのである。

唯はそれに気づいているのか知らないが、せっせと記入しているようだ。

爽子(唯ちゃん…ギターを弾けるのかな…?)

ふと、湧いた疑問を唯に尋ねようとする。
と、唯は記入し終えたらしく、唯の方から話しかけて来た。

唯「書き終わった⁈」

唯に突然声をかけられ、話しかけようとしたことより、記入に意識がいき、続きを書いた。

爽子「書けたよ…。」

唯「私が出してきてあげる!」

唯は爽子の用紙をひったくるように、取るとひったくるように、走って校舎へ入って行った。

爽子「…ゆい…ちゃん…」

爽子は、嫌な予感を覚えながら、唯の名前を呟いた。



―翌日―

放課後、唯と爽子は音楽準備室の前に佇んでいた。

唯「どうしよう~・・・。」

唯がため息交じりに言う。

爽子「ちゃんと言えば・・・わかってくれるよ・・・。」

爽子は、多分と言いかけてやめた。悩んでいる唯をこれ以上悩ませてはいけない。

唯・爽子「はぁ~~~~~~。」

二人が大きなため息をついた時、ちょうど律が階段を上がってくるところだった。
新入部員が入ると、先生から聞き、上機嫌で鼻歌を歌っている。

律「~♪お!音楽室前に人か・・・げ?!」

律はマイナスオーラを放つ二人、いや、正確には強烈なマイナスオーラを放つ、片方の長い黒髪の生徒に驚いた。

律(あ、あれって・・・。噂の・・・!)

律は、思わず階段を上る歩を止めた。すると、それに気付いた爽子が、ゆっくりとこちらを向く。

律(ひ、ひえ=!こないだの雰囲気が全くないな・・・。)

あからさまにひきつった顔をした律を見た爽子は、驚愕の表情を律に見せた。

律「っひ!」

その表情に恐怖した律は、思わず声をあげてしまった。その声で隣にいた唯も振り向く。
爽子ほどではないが、唯もものすごい驚愕の表情で律を見る。
数秒間、その状態が続いた後、律が我に返り、二人に質問を投げかけた。

律「し、新入部員になってくれる・・・お二人?」

音楽室内には、異様な空気が漂っていた。

必要以上に緊張、そしてマイナスオーラを放つ唯と爽子。
爽子の圧倒的なマイナスオーラに驚く紬、怯える澪。
そして、律は、この空気をどうしたものかと腕を組んで考えにふけっていた。

紬「と、とりあえず、お茶を出しますね。」

紬はこの空気から逃げ出したいとばかり、そう言うとお茶を淹れるために立ち上がった。

澪は爽子のマイナスの妖気にあてられて、ガタガタ震え始めた。
そんな空気の中、爽子が口を開く。

爽子「あ、あの~・・・。ん゛っ!」

緊張する中、突然話し始めたので、喉が絡んだ爽子は、一度咳払いをする。
その行動に、さらに怯える澪。ついに、椅子から滑り降り、縮こまってしまった。

律「ど、どうしたの・・・えっと・・・黒沼さん?」

爽子「どうして私の名前を・・・?」

律「え?あー!えーと・・・せ、先生に名前を聞いてたからさ!」アセアセ

本当のことを言えない・・・。律は、機転を利かせて、しゃべったが、焦りと動揺で冷や汗が出た。

律(なんでこんなことになってるんだ・・・?新入部員が来るって聞いて、うきうきしてたのに・・・。)ハァー

律は、横目で澪を見ながらため息をつきながら思った。

爽子が、改めて話そうと口を開いたとき、紬が戻ってきて、二人に紅茶を振る舞う。

紬「ど、どうぞ~。」

話そうとしていた爽子は、突然の紅茶の振る舞いに、話すことをやめてしまった。
律は、紬を引っ張り、二人に背を向け、こそこそと紬を咎めた。

律「こ、こら~!」コソコソ

紬「え?だ、だめだった?」ヒソヒソ

律「今、黒沼さんが、話そうとしてたんだよ!」コソコソ

紬「そ、そうだったの?」ヒソヒソ


爽子「す、すいません~・・・。」

ようやく爽子が、話そうとしたその時―。

唯「ごめんなさい!」

唯が突然、目に涙をためながら立ちあがって、頭を下げた。

律・紬「え・・・?」

突然の唯の行動に、目を点にする律と紬。ぽかーんとしていると、衝撃的な言葉が二人をさらに、驚かせた。

唯「わ、私たち、入部をやめに来たんです~!」グスッ

律・紬・澪「えぇ~?!」ガタッ

予想だにしない言葉に、怯えていた澪でさえも、立ち上がって驚いた。

律「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

律は机を乗り出して、言う。

律「まだ、体験もしてないのに、辞めるなんて!」

紬「そ、そうですよ!まだ、お茶の一杯も飲んでないでしょう?!」

紬は、紅茶をさらに二人の前に押して、薦める。

澪「わ、私がひ、必要以上に怖がったから?!」

律「それは関係ない・・・多分」

唯と爽子は、三人の剣幕に押され、薦められたお茶を一口すする。

と、二人のマイナスオーラは途端に消え、きらきらとしたオーラが二人を包んだ。

唯・爽子「・・・お、おいし~・・・!」

二人は、残りの紅茶を飲み干すと、満足した表情で、感想をそれぞれ口にした。

唯「こんなおいしい紅茶、はじめて!」

爽子「本当・・・!おいしい・・・。」

紬は、いつの間にかケーキを乗せた皿を運んできて、二人の前へ置いた。

紬「ケーキもあるの!こちらもおいしいから、召し上がって!」

唯と爽子の二人は、顔を見合わせると、二人同時にフォークを持って、ケーキを口運んだ。
二人の表情は、先ほどよりもほころんで、至福のオーラが二人を包む。

唯・爽子「お、おいひー!」ガタッ

二人は、あまりのおいしさからか、席を立ちあがった。
二人の反応を確認して、律・紬・澪の三人は、顔を見合わせると、大きくうなずいた。

律・紬・澪(これでいける・・・!)

三人の意見は、このケーキ作戦で二人を釣るという考えで一致していたが、唯と爽子の話す理由に、また驚くことになるのだった・・・。

律「ひ、弾けないの?!」

律が二人の入部辞退の理由を聞いて驚きの声を上げた。
唯と爽子の二人のマイナスオーラは戻ってしまっていた。

澪「お、音楽経験は・・・?」

その問いに、唯と爽子は、首を振った。
律・紬・澪の三人は言葉を失ったが、部の存続には四人以上が必要であるという条件があることを忘れたわけではなかった。

律「で、でも、入部はしてほしいんだよ!」

澪「四人以上そろわなきゃ、部活活動を認めてもらえないんだ!」

いつの間にか、澪は爽子に気にせず、話しかけていた。

唯「で、でも・・・ギターって難しくないですか?」

爽子「・・・わ、私に至っては音楽が苦手で・・・。」

二人とも、難色を示している。唯はいくらかましになった。
が、爽子のオーラは氷点下を超えそうだ。

澪「大丈夫だよ!たいへんなところもあるけど・・・。」

紬「そうだ!」

紬が突然立ち上がり、明るい顔を見せると、律と澪に提案した。

紬「私たちの演奏を聴いてもらいましょう!そうしたら、軽音楽雰囲気とかわかってもらえるんじゃないかしら?」

澪「それ良いな!」

律「そうしよう!」

唯と爽子を残して、三人は立ち上がると、入口付近の黒板前へ向かった。
そこには、ドラムセットとキーボードにベースが用意されている。

律「二人とも、そこのベンチへどうぞ!」

三者三様に準備を終えたことを見計らって、律が二人へ呼びかけた。
五人が話をしていた机と椅子の手前、部屋のちょうど中間地点に木製のベンチが据えられている。
律の呼びかけに答え、唯と爽子は、そこに腰掛ける。

律「準備おっけー?」

腕まくりをした律は二人に問いかける。
紬と澪は、それに答えてうなずいた。

律「ワン、ツー!」

律の掛け声とともに、演奏が始まる。


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