-教室-
唯「そっか~。びっくりしちゃったよ~!」
唯は爽子が泣いた理由を聞いて、言った。
爽子「ご、ごめんなさい・・・。」
唯「とんでもないよ!これからは、毎日一緒に登校しようよ!」
和「唯と一緒に登校したら、毎日遅刻と戦わなきゃいけないじゃない。」
唯「ひ、ひどいよ!和ちゃん!」
爽子(ま、毎日・・・?!)
爽子が、驚いた表情をしていると、唯が悲しそうに言った。
唯「そ、そんなにいや・・・?」ウルウル
爽子「っち、ちがうの!むしろ迷惑じゃないかなって・・・。」
唯「迷惑なわけないよぉ~。」
和「黒沼さんが良いなら良いと思うわ。けど、大変よ?」クスッ
爽子(平沢さんを遅刻させないようにする・・・!)
爽子は、まるで使命かのように燃えていた。
唯「でも、覚えてないとは思わなかったなぁ~。」
唯は、道を教えてもらったことを話題に切り出した。
爽子「か、重ねがさねごめんなさい・・・。」
爽子は、深々と頭を下げた。
唯「そ、そんなに頭を下げないでよ~。全然気にしてないから!」
和「唯の方こそ、記憶力ないしね。」
唯「あ、また和ちゃんたら~!」
あははと、二人の笑い声が重なる。その時、爽子から自然に笑みがこぼれた。
唯「あ!その笑顔!」
唯は爽子の顔を指差して、声を上げた。と、同時に爽子はいつもの表情へと戻ってしまった。
唯「私が見た、笑顔だよ~!」
和「うそ!見逃しちゃった。」
爽子「・・・え?・・・え?」
爽子が困惑していると、唯がにっこりと笑って言った。
唯「あの笑顔のさわちゃんは、すごいかわいいよ~。」
爽子(か、かわいい??)
爽子は、言われた意味がわからないといった表情になる。
唯「あ~!和ちゃんにも見せてあげたいのに~。」
和「これから、また見せてもらうわよ。」
爽子「ひ、平沢さん?あの~?」
話の意図が分かっておらず、爽子は混乱している様子だ。
唯「あ、私は唯で良いよ!さわちゃん!」フンスッ
和「私も。和で良いわ。爽子。」
爽子(な、名前で呼び合う・・・夢が叶い過ぎちゃうよ~・・・!)
爽子「・・・うん!」
-昼休み-
唯「おひるだよー!」
唯は、大きく伸びをして言った。
和「爽子を誘うの?」
唯「お!和ちゃん、名案ですな!」
唯は立ち上がって、爽子の席を確認すると、爽子はすでに席をはずしていた。
唯「い、いない!」
和「え?!どこに行ったのかしら・・・。」
唯は反射的に窓の外を眺めた。すると、窓の下。花壇に腰掛けて、弁当を広げている爽子を発見した。
唯「いたよ!和ちゃん!」
和「本当!行動が早いのね・・・。」
唯と和は、急いで教室を出ると、爽子の場所へ向かった。
-爽子自宅-
爽子(夢が一気に叶い過ぎるよ・・・!)
爽子は、食事中に、今日起きた出来事を頭で再生していた。
爽子父「どうした、爽子。箸が止まってるぞ!」
父にそう言われて、我に返ると、爽子は箸を素早く動かし、残っていたご飯を食べ終えた。
爽子「ごちそうさま。食器は私が洗うから、そのままで良いからね?」
爽子は、顔をほころばせたまま言った。
爽子母「学校で良いことあったわね?」
爽子「・・・うん!」
爽子はうなずくと、自分の部屋へと向かった。
爽子父「あんなに生き生きしている爽子を見るなんて・・・。」
爽子母「うふふ・・・。よかったですね、お父さん。」
爽子は、ベッドに入って、明日のことを考えていた。
爽子(明日は唯ちゃんを迎えに行かなきゃ・・・。)
爽子(どうしたら良いかな・・・。唯ちゃんはいつも何時に登校するんだろう・・・。私と同じ時間かな・・・。)
爽子(も、もし違ってたらどうしよう・・・。早すぎても迷惑だし・・・。遅すぎたら、先に行っちゃうかも・・・。)
爽子(お弁当どうしよう・・・!あんまり時間をかけてたら、遅くなっちゃうし・・・。)
時間は刻一刻と過ぎて行った。爽子は、いつの間にか眠りに就いていた。
深い眠りに就いた爽子は、夢を見た。
唯と自分のほかに三人いて、海辺で楽しく遊んでいる夢・・・。
爽子「唯・・・ちゃん。」
爽子は、今まで感じ、見たことのない幸せな夢に包まれていた。
-翌日-
爽子は前日教えてもらっていた平沢家の門の前で佇んでいた。
爽子(・・・勝手に入って良いかな・・・)
門の留め具に手をつけようかつけまいか、爽子が迷っている時、憂は一階の居間のカーテンを開け、愕然とした
憂(も、門の前に・・・!)
見てはいけないものを見てしまった・・・憂はそんな恐怖からか、その場からかけだし、姉のもとへ向かう。
憂「お、お姉ちゃん!」
唯「ほぇ?ど、どうしたの?憂・・・。」
憂の剣幕に驚いた唯は、寝起きにもかかわらず、瞬時に目が覚めた。
憂「わ、私・・・見ちゃった・・・。」ガクブル
唯「み、見たって何を?!」
憂は何も言わずに、窓を指差した。唯はそれに従って、その窓から外を見降ろすと、門の外でそわそわしている爽子を確認した。
唯「さわちゃん!」
憂「・・・え?」
唯「さわちゃんだよ~!学校でお友達になったんだぁ~。」
憂「ゆ、幽霊じゃないの?!」
唯「違うよぉ~!」
唯は怒った表情で、憂を見た途端、はっとして急いでベッドを飛び降りた。
唯「約束してたんだった!早く着替えなきゃ~!」アセアセ
憂「ごめんね!お姉ちゃん!」
憂は着替えを終えた唯に対して頭を下げた。
唯「も~!今度間違えたら、もっと怒るよ!」フンスッ
憂(怒ったお姉ちゃんもかわいい!!)
唯は憂の作ってくれた弁当を受け取ると、元気よく玄関を飛び出していった。
唯「おはよう!さわちゃん!」
爽子「あっ・・・お、おはよ~・・・ゆ、唯・・・ちゃん。」
唯「えへへ・・・ごめんね!待たせちゃったかな?」
爽子「・・・ううん!い、今来たところだから!」(ゆ、夢のセリフが言えた~!)
爽子が感動に浸っていると、先に進んでいた唯が心配そうにこちらを振り返った。
唯「大丈夫?さわちゃん・・・?」
爽子「・・・あっ、ごめんなさい!大丈夫です!」
唯「さわちゃん!敬語は使わなくて良いよ~。」
爽子「・・・ご、ごめんなさい・・・こういうのになれなk・・・。」ッハ
爽子は引きつった表情になると、言葉を詰まらせた。
爽子(こ、こんなこと言ったらただでさえ暗いのに、もっと暗く思われちゃう・・・!)
唯「?どうしたの?」
爽子「な、なんでもないでs・・・ないの!」アセアセ
唯「?」
唯が首をかしげていると、和がやってきた。
和「あら?唯がもういるなんて、めずらしい。」クスッ
唯「また和ちゃんたら!めっ!」プンプン
爽子「・・・お、おはよ~、の、和ちゃん・・・。」
和「おはよう、爽子。」ニコ
爽子(・・・あ~良いなぁ・・・私も和ちゃんみたいに微笑みたい・・・!)
和「ど、どうしたの?爽子?」
また立ち止まってしまった爽子に、今度は和が心配して声をかける。
爽子「な、なんでもないでs・・・なんでもないの!」アセアセ
和「そう。じゃあ、行きましょう?」
爽子「・・・うん!」
爽子(・・・ちゃんと二人の輪の中に入れてるかな・・・。)
登校途中に爽子はふと、思った。
爽子(・・・今の私なら、みんなに声をかけても大丈夫かな・・・。)
隣にいる二人は、他愛のない話で盛り上がっている。
爽子(・・・わ、私も加わりたい・・・!)
爽子は、意を決して、二人の会話に加わろうと、話しかけた。
爽子「あ、あの~・・・。」ボソッ
唯「でね~、そこでさぁ!」
和「ちょっと待って、唯。爽子、どうしたの?」
爽子(・・・ふ、二人の会話を邪魔しちゃった・・・!)
唯「さわちゃん?」
爽子は唯に声を掛けられ、びくっと体を震わすと、顔をうつむかせてしまった。
爽子「・・・ご、ごめんなさい!」
爽子は突然頭を下げると、こう続けた。
爽子「ふ、二人の会話を邪魔しようとしたわけじゃないの!そ、その・・・。」
和「さ、爽子!落ち着いて!大丈夫よ。」
和が、頭を下げたままの爽子の肩を持って、起こしてあげた。
唯「私たち、邪魔されたなんて思ってないよ~。むしろ、爽子ちゃんを無視して二人で会話しちゃってたよ!ごめんね。」
唯が頭を下げる。と、和も続いて頭を下げた。
和「そうね。私がもっと気遣うべきだったわ。ごめんなさい。」
そう言われた爽子は、驚いた表情を見せた後、二人の優しさにまた涙を流してしまったのだった・・・。
-校舎前の広場-
律「これでよしっと・・・。」
澪「勝手に貼って良いのか?ばれたら部活動を認めてもらえないかも・・・。」
律「だ~いじょうぶだって!これだけ貼ってあるんだから、ばれやしないよ!」フンスッ
紬「いっぱい来てくれるといいわね~。」
律「そうだな~。」
澪「何とかあと一人そろえば、部として認められるからな。」
校舎前の掲示板に、ポスターを貼りに来た三人は軽音楽部の面々である。
紬「オカルト研究会・・・こんなのもあるのね。」
宇宙人やUFOといった独特の絵が描かれたポスターを見つけた紬がつぶやいた。
それを聞いた律は、いたずらな顔をして澪に話しかけた。
律「澪~・・・こんな話知ってるか・・・?」
澪「な、なんだよ律・・・突然・・・。」
澪は声のトーンの変わった律に身じろぎながら言った。
律「実はさ~・・・うちの学年にゆうr―」
律が「うちの学年に幽霊がいる」と言い終わらないうちに澪は耳をふさぎ、縮こまってしまった。
澪「ミエナイキコエナイ、ミエナイキコエナイ・・・。」
律「ほら・・・。あそこ・・・。眼鏡の女の子と茶髪の女の子の二人の間にいる・・・。」
律は、校門あたりにいる三人組を指差すと、おどろおどろしく澪に話しかけた。
澪「いや~!!」ダッ
澪は律を突き飛ばすと、校舎の中へと猛ダッシュで駆けて行った。
紬「もう!」
律「へへへ・・・。」
諭す紬に対して、律がいたずらな笑みを返した時、ちょうど三人組が横を歩いて行った。
律「今の真ん中にいた子・・・。」
紬「知ってる子なの?」
律「うん。幽霊みたいって怖がられて噂されてた子・・・。」
紬「今の子が?偶然ね。」
律「そう。・・・なぁ~んだ、全然幽霊みたくないじゃんか。」
紬「うん。生き生きしてたわ~。」
二人はその三人組が校舎の中へと入って行くのを見届けると、自分たちも校舎へと向かったのである。
-下駄箱-
爽子は、上履きに履き替えると、階段のすぐ脇に縮こまっている黒髪の女の子を見つけた。
爽子(・・・ど、どうしたんだろう・・・?)
動かない爽子に気付いた唯が声をかける。
唯「さわちゃん、どうしたの?」
爽子「あ、あの子・・・。」
爽子が指差す先には先ほどの女の子がいる。
唯「どうしたんだろう?もしかしたら、具合が悪いのかも!」
その言葉にいち早く反応した爽子は、彼女そばへ駆け寄った。唯と和もそれに続く。
爽子「あ、あの~・・・・・・。」
爽子に声をかけられた女の子は、ゆっくりと振り返ると、この世のものではないものを見たような愕然とした顔をした次の瞬間―。
澪「ぎゃあ~!!!!!!!!!!!」
校舎全体が飛び上がるような叫び声をあげたかと思うと、目にも止まらぬスピードで階段を駆け上がっていってしまった。
爽子(・・・ひどいよ~・・・。)
過去にもこんなことのあった爽子だが、あんなにも全速力で逃げられたことはなかったので、肩を落とし、落ち込んでしまう。
唯「い、今の子、なんだったんだろう・・・すごい元気だよ~!」
唯はそんなことは気付かずに階段の上を見上げた。
和「唯・・・。爽子と会話するには、耐性が必要みたいね・・・。」
爽子(・・・ショックだな~・・・。)
爽子は肩を落としたまま、二人に構わず、階段をのぼりはじめてしまった。
-教室-
相変わらず、爽子の周りには、何か得体の知れないものでもいるかのような空間が、クラスメイトによって作られていた。
爽子にあいさつされるが、青ざめてしまう子。近寄らないように避ける子など、様々居た。
これくらいのことには爽子は慣れてしまっていた。
すべては自分の責任。明るく振る舞えない、微笑むことができない・・・。
爽子(でも、こんな私を友達にしてくれた・・・!)
爽子は、机に着席すると、唯と和の方を見た。二人はなぜか輝いて見えた。
爽子(・・・私もあんな風に輝いて見えるようになるかな・・・。)
そうやって、ぼーっとしていると、どこからともなく心ないささやきが聞こえてくる。
「あっちに何かいるのかな・・・。」
「平沢さんの席の方を見てる!」
「平沢さんに何か憑いてるんじゃない?!」
ささやき合いの中には、笑い声がこだましている。
その心ないささやきに気付いたのは、唯だった。
唯(さわちゃんは、普通の女の子だよ・・・!どうしてあんなこと言うんだろう・・・。)
唯(勘違いなんだよ・・・。さわちゃんだって、みんなと仲良くしたいんだ・・・!)
しかし、唯はあと一歩が踏み出せないまま、担任の先生がやってきて、ホームルームが始まってしまった。
最終更新:2011年03月09日 22:32