純「ふー、あったかー。ペットのためにわざわざ暖房つけていくなんてすごいなー」

梓「……ご主人様は優しいもん」

純「普通ありえないって」

梓「……」

純「そう睨まないでよ」

梓「話、早く」

純「まいったなー。お客さんにお茶菓子の一つもだせないなんて、困ったペットだよ」

梓「純はお客さんじゃない」

純「……ふぅ。じゃ、まぁ手短に話すけどさ」

梓「うん」

純「野良と未申請ヒューマニマルの一斉駆除が決まったんだってさ」

梓「……え?」

純「てかもう一部でははじまってるのかな? よくしらないけど」

梓「く、くじょ!? ってどういうこと?」

純「殺処分かな? こわいねー」

梓「じゃ、じゃあ純は……」

純「あたしはうまく逃げるよ。野を越え山を越え」

梓「で、でも……」

純「あーそっか……この季節に人里を離れたらもう食べ物なんてないね」

梓「ど、どうするの……?」

純「なにあんたが私の心配してんのさ。こっちは空き巣のプロだよ? 大丈夫大丈夫」

純「のらりくらりと逃げてみせるよ」

梓「純……」

純「それよりあんたよ」

梓「私?」

純「ご主人様に早く申請登録してもらわないと、野良と扱いは一緒だよ?」

梓「わ、わかった……そうする」

純「以上!」

梓「わざわざそれを伝えにきてくれたの?」

純「そりゃああんたは私の未来の部下ですから」

梓「純……」

梓「……これ……持って行って。少しだけど」

純「お、そりゃありがたい。いまは少しでも食料をたくわえないとね」

梓「ご主人様……ごめんなさい。勝手に食料を渡して……私は悪い子です」

純「……んじゃ、またどこかで会おう」

梓「じゅ、純もこの家に住んだら! 私が話をしてみるから!」

梓「ご主人様は優しいしきっと!」

純「もてるヒューマニマルは一人だけだよ」

梓「……う、そうなの?」

純「それにこの家だってそこまで裕福じゃないでしょうに」

純「あんたは、とにかく今は野良にならないように気をつけるだけ」

純「一人でふらふら外歩いてたらあっという間に連れてかれちゃうよ」

梓「う、うん。気をつける」

純「よし、ということで莫大な恩も売りつけたし! 春がきたら一緒に空き巣しようね!」

梓「か、考えとく……」

純「そんじゃま! バイビーバカ猫」



梓「あ……いっちゃった」

梓「大丈夫かな……また、春には会えるよね?」

梓「……頑張って」

梓「とりあえずご主人様が帰ってくるまで勉強してよう」



……




唯「ふーん、そうだったんだ大変なんだね」

梓「だから、早めに申請を……」

唯「うん! 申請書はもらってきたよ!」

梓「あ、そうなんですか!」

唯「その純犬って子も一緒に暮らせたら良かったのにね……」

梓「あ、純に勝手にご飯あげてすいませんでした……」

唯「……うふふ、いいよ。あずにゃんの友達なんでしょ?」

梓「と、ともだちってほどでは……まだ出会って二日ですし」

唯「私たちだって出会って二日程だけどもう友達以上の関係でしょ?」

梓「あ……まぁ、主従関係ですし」

唯「のんのん」

梓「え?」

唯「ほら、見てご覧この申請書」

梓「はい……」

唯「ヒューマニマルの利用目的、利用者との関係にあてはまるものの前に◯をつけてください」

梓「いっぱいありますね……【愛玩動物】【奴隷】【献体】【使用人】ってひいいいぃぃっ」

唯「どれがいいかなー」

梓「あう……」

唯「ふふ。ま、当然これだよね」キュッ

 ◯【家族】

梓「家族……え?」

唯「あずにゃん……ペットなんかじゃないよ」

唯「私の大事な家族だよ」

梓「ど、どうして……私みたいな血統書もなにもない捨て猫を……」

唯「好きになるのに理由なんてないよ」

梓「すき……」

唯「大切にしたい、一緒にいたいっていう感情のことだよ」

梓「じゃあ……私も……ご主人様のことが好き……」

唯「もうご主人様って呼ばなくていいよ。今朝の分だけで満足したから」

唯「あずにゃんには唯って呼んでほしいよ。家族なんだから!」

梓「う……唯……変な感じです。学習装置のすりこみのせいでしっくりこないというか……」

唯「そっか、早速別バージョンに買い替えなきゃね。あ、ほらあずにゃんも申請書かかなきゃ」

梓「わかりました……」

唯「ちゃんと家族に◯してよ?」

梓「はい……わかってますよぉ」


梓「……えいっ」キュッ

 ◯【家族】

唯「……むふ。もうこれで破棄はできないよ」

梓「い、いいですよ!」

唯「……家族だよ?」

梓「家族です。もうご主人様じゃないです」

唯「……あ、しまったなぁー」

梓「え?」

唯「お嫁さんにしとけばよかったよ」

梓「およめ?」

唯「家族だとあんなことやそんなことがしづらいかなと」

梓「あんなこと? そんなこと?」

唯「あれ? それだと愛玩かな? えへ……わかんないや」

梓「……なにかするんですか?」

唯「そりゃー好きな人相手にはすることがたくさんあるよ」

梓「たくさんあるんですか」

唯「おしえてほしい? 学習しちゃう?」

梓「は、はい!」

唯「じゃあ目つぶってちょっとだけ上向いてくれる?」

梓「はい……」

梓「……」

梓「一体なにを教えてくれるんです?」

唯「……ふふ」

梓「ゆいー?」

唯「あ、ほんとかわい……」

チュ

梓「んむっ!?」

唯「んー……ちゅ、ちゅう」

梓「ふにゃあっ! にゃに!?」

唯「……えへへ」

梓「なんなんですか?」

唯「ちゅーって言うんだよ」

梓「ちゅー?」

唯「もっと教えてほしい?」

梓「な、なんか恥ずかしいですこれは」

唯「恥ずかしいかもねー。でも好きな人からしか教えてもらえないよ?」

梓「え? じゃ、じゃあ今晩中にマスターします!」

唯「お、それはいいね!」

梓「ちゅーしましょう! ちゅー!」

唯「はーい♪」

チュー

梓「ふにゅ……」

唯「んむんむ、ちゅ」

梓「にゃあ……」

唯「えへっ、ちゅー以外にもまだまだいっぱいあるけど、しばらくはこれだけで良さそうだね。幸せ」

梓「それらも学習したいのでちゅーを早く覚えちゃいます」

唯「いやんっ、あずにゃんのえっち!」

梓「えっちって何ですか?」

唯「それは明日教えてあげよう」

梓「そうですか、楽しみです。さぁもっとちゅーしましょう!」

唯「っと、ちゅーの前にさ、ちょっといいかな」

梓「?」

唯「電話電話」ピピピピ


唯「あ、もしもしういー?」

唯「うん、突然だけどさー、憂ってまだヒューマニマルもってないよね?」

唯「すっごくいい子がいるから紹介したいんだけど」

唯「犬は好きだっけ? あ、そう良かった」

唯「じゃあねーまた連絡するねー」

梓「ゆ、ゆい……? 犬?」

唯「これで安心だよ……」

梓「もしかして……純のこと……」

唯「あずにゃんのお友達だもん」

唯「憂は私よりもっともっと優しいしお料理上手だし色々できるからきっと大丈夫!」

梓「あ、ありがとうございます!! 純も喜びます!」

唯「いいのいいの。あずにゃんが喜ぶならそれが私の幸せ」

唯「さぁあずにゃん。もっかいちゅーだよ」

梓「はい……んちゅ、ちゅ」

唯「ちゅむ……チュ」

梓「ふにゃ……」

唯「……あぁ! どうしよう、あずにゃんとちゅーしてたら収まりつかないよ!」

唯「明日のお勉強の予習する!? しちゃう!? しちゃうよね!?」

梓「ど、どうしたんですか……」

唯「だってぇ~あずにゃん可愛いもん~ずるいよー」

梓「……むぅ」


深夜

梓「んにゃ……」

唯「ちゅ、かわい……えへ」

梓「ふぁ……ふにゃあ」

唯「えへへ……ちゅ、ちゅ」

梓「そんなの……んぅ……だめですよぉ」

唯「んーん、だめじゃないよ」

唯「だって『拾って可愛がってください』って書いてたもん」

唯「めいっぱい可愛がるのは私の義務だよね」

梓「うにゃ……ふぁ……」

唯「ここ、きもちいよね? すごくあったかくなってるよ」

梓「だめです……だめです……にゃあっ」

唯「大好き……可愛い……」

梓「ゆい……私も……すき……すき」

唯「あずにゃん……ちゅ、ちゅ……」



……




梓「ほら! 唯、はやく起きてください!」

唯「うえー……あと五分~」

梓「もう! もたもたしてると憂と純がきちゃいますよ!」

唯「う~ん……しってるー」

梓「まったく。起きられないなら夜更かししないでっていつも言ってるでしょ!」

唯「ひどいー、昨日はあずにゃんが寝かせてくれなかったのにー」

梓「う……ち、ちがうもん! 唯がいつまでもいつまでも……うぅうう」

唯「朝御飯は?」

梓「あ、目玉焼きとウインナーでいいですか?」

唯「あとパンー」

梓「用意してますからちゃんと着替えて来てくださいね」

唯「……あらら、あずにゃんったら張り切っちゃって」

唯「この数ヶ月ですっかり尻に敷かれちゃったや」

唯「やっぱり申請はお嫁さんがふさわしかったのかな」

唯「ま、いっか……幸せなのはなにも変わらないよ」

唯「これからもずっとあずにゃんと一緒……ずっとね……家族だもん」


 「ゆいー! 早くしてくださいってばー! このあとお昼ご飯の材料も買いに行きますからー!」


唯「ふふ、はぁーい! いまいきまーす!」




おしまい



最終更新:2011年03月09日 20:49