唯「澪ちゃん!!!」
紬「澪ちゃん!!」
梓「澪先輩!!!」

手術中と表示された扉の前のベンチで
澪ちゃんは力なく座っていた
澪ちゃんはYシャツにジーパンといった格好だった
なんか澪ちゃんらしくない服装だけど誰かに借りたのかな?
私にはよくわからなかったけど
澪ちゃんが握り締めているタオルは


濃い赤色だった

唯「り、りっちゃんが…轢かれたって本当…?」

澪ちゃんは首を縦にふった
なんでも猫をかばってトラックに轢かれたらしい
なんで…どうして…
お医者さんが来て私たちに何かを話しているけど
私には難しくて何を言ってるのかわからなかった
ただお医者さんも『難しい』って言ってた

なんで私は
律を困らせる事しかできないんだろう

なんで私じゃ
律を助ける事ができないんだろう

涙はとうの昔に涸れていた

けれど拳を硬く握り締めていたせいか

濃く赤色に染まったタオルは

私の手を赤く染めた

さっきから唯達が話しかけてきてくれたけど

会話の内容はまったく頭の中にはいってこなかった

ただ私は律と 話したかった

言葉で 伝えたかった

メールや受話器越しじゃ

嫌だったんだ

そんな私の我が儘が 律を殺したんだ

もう

約束どおりじゃなくたっていいんだ

隣にいなくたっていい

そばにいなくたっていい


律が生きていてほしいんだ

律がいなきゃ 

…生きてなきゃ、駄目なんだ

律が生きていないと、私の世界は動き出さないんだ

律が、私の世界を動かす波紋なんだ

ただ時間が過ぎるのがひどく遅く感じた

それは今、律は私の隣にいないからだ

どこにいるかって?

それは…

私にはわからなかった

私は律が姿を現さないと

動けない 弱虫だったんだ

今思えばいつだって


律は私をどこにいたって捕まえくれていた

律が私を捕まえることが

律にしかできないことだと 信じたい


そう、私は 信じることしかできないんだ

だから 律 私を捕まえにきてよ

白ウサギじゃなくて黒ウサギになるけど、

私は 律に捕まえてほしい


私は顔を上げた

手術中のランプが 消えた


……

夢を見た

すごく幸せな、夢


唯やむぎや梓がいて

アタシと澪が喧嘩してたり

さわちゃんに無理やり服を脱がされたりして

皆で騒いで、笑って、バンド組んで



アタシがドラムで
澪がベースで



律『あのときの約束は、嘘だったのかよ!?』

ああ、そんなこともいったっけな
約束…ね

うん
もちろん武道館も大切だよ

だけど今は

約束を 守りたい


澪の隣に いたい

澪『こんなとこで何やってるんだ?』

あ 澪だ

律『おお!野生の澪が現れた!』
澪『どこのポケモンだ私は!!』ゴチン!

その言葉とともに案の定、鉄拳が頭にふってくる

なんだろう

このやりとりも、会話も、痛みも

すごく幸せだと感じたんだ

律「…あれ?」

澪がぼやけて見える
周りの情景が白になった

澪『どうした?律』

見えないよ澪 どこにいるんだ?

澪『私はここにいるよ』

だけどその姿は段々と霞んで遠くへいった
どんどん澪との距離が広がって

律「待てよ!ま、待てってば!澪!!」

会いたいけど、見えなくなった
見えなくなった

アタシは白い世界に一人きり
取り残された



……

一緒に、いたかった

外は相変わらず蒸し暑かった

ただ時間が過ぎるのがひどく遅く感じた

あの事故が起こってから1ヶ月がたっていた

律はまだ 目を覚まさなかった

澪「今日も暑いな、気分はどうだ?律」

外は相変わらず暑いけど
窓から涼しい風が吹いてきていた



私は律に語りかける
もうこれが日課みたいなものになっていた

澪「聞いてくれ、私たちのCDが今度でるんだ」

澪「これはむぎとかの力でもなんでもないんだ」

澪「桜高の誰かが私たちのCDを買って、それでどこかの放送局に投稿したんだ」

澪「それから色々あったよ、録音とかインタビューとかさ」

窓からの風で髪の毛がはためく
律の長い前髪も はためいた

澪「それで武道館でライブしたいって駄目もといってみたんだ」
澪「そしたら、OKだってさ」
澪「笑えるだろ?こんな、実力であがったわけじゃないのに」
澪「最初はもちろん断ったさ、でも、」

武道館でライブするって伝えたら

律『実はドッキリでしたー!!!』

て、声がしそうな気がしたんだ

だから

澪「早く起きてよ 律」

病室の扉が開き唯と梓が入ってきた

唯「…りっちゃん、澪ちゃん、きたよ」

梓「…律先輩はどうですか?」

澪「この通り。ぐっすり眠ってるよ」

律の顔を見て私は言った

唯「そっか、あ、りっちゃんこれ差し入れだよ」

そういって唯は持ってきたスイカをベッド脇に置いた

律のいる病室の外では私とさわ子先生は
お互いに目線をあわさずに立っていた

さわ子「…」
さわ子「……りっちゃんは、もう駄目なの?」
紬「まだ…!…っまだ駄目じゃありませんよ」
紬「琴吹家が全力でりっちゃんのサポートをしています」
紬「それに、りっちゃんがそう簡単に死ぬはずありません!!!」

さわ子「それでも、目覚める確立は低いのよね…」
紬「…」

梓「律先輩、昨日夏祭りがあったから風鈴かってきましたよ」

梓は小さいからだを伸ばして窓脇に風鈴をかけた

病院のすぐそばにはススキ畑が生えつつあった

少し強い風が吹いた

ススキが喚き、風鈴はより一層強い音を出した


夏に会いに行く秋の音が聞こえた

なんだか急に 泣きたくなった

これから先 律はきっと眠り続けるだろう

最初は律が生きていればいいなんていっていた

けど 次々に欲望が溢れ出てくる

生きているだけで それだけでいいのに

律に会いたい

律に触れたい



律と…話したい

もう律がいないとだめなんだ

一緒にいなくちゃ 嫌なんだ


やっぱり 約束を 守ってよ


律に向かって波紋を広げるから

ひとつになんかならなくたっていいから

私に波紋を返してよ

ずっと手を握ってるから

澪「ぅ…りつぅ…」
唯「澪ちゃん…」
梓「澪先輩…」

涙は涸らしたと思っていたのに

また私の世界を濡らした

唯も、梓も泣き出した

私たちはまたすすり泣いた

私の涙は律の手の甲に涙がおちた



……

アタシは白い世界にいた

随分前に澪が私の前から消えてから

この世界では誰にも会っていない

それから私は澪を探すために歩き続けていた

当ても何もない

どこへ行き どこへ向かうのかもわからない

もしかしたら同じところをグルグル回っているだけかもしれない

だけどアタシは歩き続けた



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