あずにゃんは一呼吸置くと、悲しげな表情で自分の身の上話を始めた。

 梓「今の私は……実質、霊界から追放されている状態なんです」

 唯「追放……!? 一体どうして?」

 梓「私たちが住む霊界の頂点には、魔神と呼ばれる絶対的な存在が君臨しています」

 唯「なんかすごく強そうだね」

 梓「実際、魔神は独裁的とも言える強大な権力を持っていて、霊界中を常に監視し続けているんです」

 梓「不祥事や揉め事があった際、すぐにそれを発見して罰することができるように」

 唯「じゃあ、あずにゃんは何か不祥事を起こして、罰として霊界を追放されたってこと?」

 梓「私が直接騒ぎを起こしたわけではありません……でも、原因は私にあるんです」

 唯「……どういうこと?」

 梓「私たちが住む霊界にも、人間界と同じように家族単位のコミュニティーが存在します」

 唯「幽霊さんにも家族?」

 梓「はい。私の家は、父と母の三人暮らしでした」

 梓「私たちは……本当に幸せに暮らしていました」

 梓「父も母も私を愛していたし……私も両親を愛していた」

 梓「でも、父が職を失ってから私たちの関係は変わってしまったんです」

 唯「え……リストラされたの?」

 梓「そのようなものです。安定した収入を失ったことで、私たち家族はどんどん貧乏になっていきました」

 梓「父は霊酒に明け暮れて、新しい職も探さずだらだらと過ごしていました」

 梓「母は最初は我慢していましたが、次第に働きもせず金を浪費する父に文句を言うようになって……」

 梓「それからはもう、両親はただただ喧嘩に明け暮れていました」

 唯「あずにゃん……」

 梓「それで私は、何とか両親を仲直りさせて元の幸せな生活に戻る方法を考えました」

 梓「喧嘩の直接的な原因は……安定した収入がなくて生活が破綻していたから」

 梓「結論はすぐに出ました。お金を稼いでこの家に入れてやればいいんだって」

 梓「でも、霊界で200歳って子どもみたいなもんなので、ろくに働けるような仕事なんてありませんでした」

 梓「途方に困っていたのですが、ある日通りかかった霊街道で、たまたま良いものを見つけたのです」

 唯「良いものって?」

 梓「宝くじ屋です」

 唯「霊界にも宝くじってあるの!?」

 梓「はい。乾坤一擲、これしかないと思いました」

 唯「それで、当たったの?」

 梓「はい……その宝くじで私、一等を当ててしまったんです」

 唯「ええっ! あずにゃん、すごいじゃん!」

 梓「あの時は本当にびっくりしました。念願のお金がやっと手に入って嬉しくなって……」

 梓「家に帰ってさっそく、お金を両親に渡しました」

 梓「これでようやく両親を仲直りさせられる……昔の幸せな日々に戻れる……そう思ったんです」

 梓「ところが……両親の喧嘩はますます悪化するだけでした」 

 唯「え……なんで、お金が手に入ったのに?」

 梓「人間界でも、大金は人を狂わせると言いますよね。それと同じです」

 梓「父と母は、大金を争ってますます激しい喧嘩を始めました。貧乏な頃の比じゃないくらいに」

 梓「あまりにも酷い喧嘩だったので、ついにそれが魔神の目に止まってしまったんです」

 梓「喧嘩の当事者である両親は、離婚を強いられ、霊界の最果ての地に飛ばされました」

 梓「普通、そこから自力で脱出することはできません。人間界における終身刑のようなものです」

 梓「そして、魔神は宝くじによって両親の喧嘩を悪化させた私にも非があるとして、私にも罰を与えました」

 唯「あずにゃんは人間界にいるから終身刑じゃないよね? 一体どんな罰を……?」

 梓「人間界で、修行を積むことです」

 唯「しゅ、修行?」 

 梓「はい。霊界では、人間は霊より卑しい存在として定義されています」

 梓「人間は、霊の存在を恐れたり、怖がったりしますよね」

 唯「いないって信じてる人もいるけどね」

 梓「そういう人もいますね。いずれにせよ、霊は人間にとって畏怖の対象としてあるべきなんです」

 梓「だから、霊が人間を脅かすことは一種のステータスになります」

 梓「より多くの人間に恐れられる霊ほど、霊界では偉大な存在と言えるのです」

 梓「私はまだ子どもなので、人間を十分に怖がらせるほどの力を持っていません」

 梓「それで魔神は、反省もかねて人間界で修行をしろと私に命じました」

 唯「でも……人間を怖がらせる修行って面白そうじゃない?」

 梓「面白くなんかないです!」

 唯「あ……ごめん」

 梓「息も詰まるような人間界で、こんな狭い空間に住まわされて……」

 梓「家族や霊界の友達はおろか、霊一体すらここにはいないんですよ」

 梓「その上、こんな辺ぴな場所じゃ人間すら来やしない」

 唯「じゃあ、あずにゃんは三十年もここで……」

 梓「そうですよ……ずっとここで人間が来るのを待っていたんです」

 梓「それで今日、ようやく人間が来たと思って……息を潜めて待っていたのに……」

 梓「何で怖がらないんですか! これじゃあ、修行の経験値が上がらないじゃないですか!」

 唯「ごめんね……あずにゃん」

 梓「人間のバカ! 唯のバカ! もうっ……どっか行って下さいよ!」

 ぎゅっ

 梓「ちょ、何するんですか……離れて下さい!」

 唯「……やだもん」

 梓「ふざけないで! 早くこの手を離して!」

 唯「ねぇあずにゃん。私と友達にならない?」

 梓「え……?」

 唯「せっかく出会えたんだからさ、友達になろうよ!」

 梓「……んなっ……卑しい人間なんかと、友達になるわけないじゃないですか!」

 唯「でもあずにゃん、三十年も一人ぼっちで寂しかったでしょ?」

 梓「そ、それは……」

 唯「辛かったよね……一人ぼっちでいることなんて、私には三日も耐えられないと思う」

 梓「……に、人間と一緒にしないで下さい!」

 唯「あずにゃんが友達になってくれたら、私毎日ここに来るよ」

 梓「……!」

 唯「あずにゃんに会いに、あずにゃんとお話しに……なんなら私の友達を連れてきたっていいよ!」

 梓「……っ……余計なお世話です!」

 梓「私がここにいる目的ちゃんと聞いてました?」

 梓「たくさん人間を脅かすための修行なんですよ!?」

 梓「人間の友達をたくさん作りに来たわけじゃないんです!」

 唯「でも、こんな場所に住んだままじゃこれから先誰も来ないと思うよ」

 梓「それは……」

 唯「大丈夫、ほとんどの人はトイレのあずにゃんさんの噂を怖がっているし」

 梓「……ほ、ほんとですか?」

 唯「うん。私は怖いもの慣れしてるから、あんまり怖がらなかったけどね」

 梓「唯は……怖がらなさすぎです。勝手に抱きついてくるし……」

 唯「あ、ちょっと笑顔になったね」

 梓「な……笑顔になんてなりません! 馬鹿言わないで下さい!」

 唯「おお……今あずにゃんが怖く見えたかも」

 唯「あずにゃんは不気味な雰囲気を出そうとするよりも、大声出して怒ってる方が怖いかもしれないね」

 梓「こんなに大声を出したのは三十年ぶりですよ……はぁ」

 唯「私は怒っているあずにゃんも可愛くて好きだけどね!」

 梓「にゃっ……だから、急に抱きつかないで下さいよ……」

 唯「えへへ……」

 梓「もう……」

 唯「それであずにゃん、私と友達になってくれる?」

 梓「……そこまで言うなら、仕方ないですね」

 唯「ほ、ほんと!?」

 梓「勘違いしないで下さい。私は唯の友達を脅かすために、ただ唯を利用するだけであって……」

 唯「わーい、あっずにゃーん!」

 梓「んにゃあっ……頬ずりしないでくだひゃいい!」

 唯「これからよろしくね、あずにゃん!」


 おしまい