澪「あっ! 思いだした!」

律「ど、どうしたんだ澪」

澪「山中さわ子だよ! あの人!」

律「山中さわ子って、美アズ倶楽部主宰のあの山中さわ子か!?」

紬「どなた?」

澪「今でこそあずにゃんに猫耳は一般常識になってるけど、それを最初に提言して世間に広めた人なんだよ」

律「あずにゃんを愛でる者の第一人者なんだ」

紬「へぇ~、すごい方なのね」

「し、しかしあずにゃんが以前と比ベテ減ッテいることも事実デ~ス」

さわ子「だからちゃんと竹達では保護もしてるんじゃない」

憂「そうです。近年の調査では数年前よりも数は増えているんですよ」

「だ、ダメデ~ス! 冷やしあずにゃんガある限り、マタいつか絶滅ノ危機ニ瀕スル恐れがありマ~ス」

「だから、そんな諸悪ノ根源であるこのshopを叩キ壊スんデ~ス」

さわ子「あなた達、こうやって過激なパフォーマンスをすることで資金を集めているだけでしょ」

さわ子「本当はあずにゃんの保護なんてどうでもいい」

「そ、そんなコトはありまセ~ン!」

「我々ハ あずにゃんの事ヲ一番に考えていマ~ス」

さわ子「そう……。だったらこの店を潰すのはその意に反することとなるわよ」

「ど、どういう事デス……」

さわ子「店主」

唯「はい」

さわ子「このあずにゃん、他の店で出しているあずにゃんとは決定的に違う」

唯「……はい」

律「そ、そりゃなんせ竹達産の本あずにゃんだから」

澪「他の店は今じゃ輸入物が増えてるってことだもんな」

さわ子「そうじゃないの」

紬「いったいどういう……」

さわ子「私が見てもこれは立派な本あずにゃんであることは違いない」

さわ子「しかし、こんな本あずにゃんはどこでみたこともない」

「な、なに訳ノわからない事ヲ言ッテいるのデスカ!」

さわ子「店主、この山中さわ子の目は確かだ」

唯「はい。その通りです」

さわ子「では、これは竹達産の本あずにゃんではない、と」

唯「はい」

律「お、おいおい。本あずにゃんって今では竹達でしか捕れないんだろ」

紬「竹達産じゃない本あずにゃんって……」

唯「このあずにゃんは……」

憂「お姉ちゃん……」

唯「この本あずにゃんは養殖です」

さわ子「やはり……」

「う、嘘デ~ス! いまだあずにゃんの養殖に成功シタなんて話は聞いた事ガありまセ~ン!」

さわ子「真鍋和ね」

唯「……はい」

さわ子「何年か前に彼女のあずにゃん養殖に関する論文を読んだことがあるわ」

さわ子「当時はこんなもの出来っこないって学会でも相手にされなかった」

さわ子「最近はめっきり名前を聞かなくなってたけど、まさかここで細々と養殖の研究をしていたなんてね」

律「じゃあ、私たちが初めてこの店に来たときに罵声を浴びせられたあずにゃんは……」

唯「そう、それも養殖のあずにゃん」

澪「そうだったんですか……」

唯「和ちゃんはね、なんとか以前の生態系に戻そうって努力をして、あずにゃんの養殖にやっとの思いで成功したの」

唯「だけど、和ちゃんは悩んでいた。こんな自然で育っていないあずにゃんだなんて偽物のあずにゃんじゃないかって」

唯「だから私は和ちゃんの養殖あずにゃんは天然の本あずにゃんと遜色ないって世間に広めようとしてこの店を始めた」

唯「私は、この養殖あずにゃんは決して天然の本あずにゃんに劣らないって確信してる」

唯「和ちゃんがやってきたことは間違いなんかじゃないって」

唯「初めて来店してくれたりっちゃん澪ちゃんムギちゃんは
  和ちゃんの養殖あずにゃんに満足してくれたみたいだった」

唯「でも、騙すみたいなことして、ごめんね」

澪「いえ、別に私はそんなにあずにゃんに関して詳しくはないですけど
  出された冷やしあずにゃんは間違いなく本あずにゃんだったって思ってます」

律「私も同じ気持です」

紬「私は初あずにゃんだったからなんとも言えないけど。
  でも、あのあずにゃんが素晴らしいものだって思いは違いないと思います」

唯「ありがとね」

唯「だけど……やっぱりあずにゃん界の第一人者にはバレバレだったみたいだね」

唯「悔しいけど、天然物には敵わないんだね……」

唯「私……和ちゃんになんて言えば……」

憂「お姉ちゃん……」

さわ子「それは違うわ」

唯「えっ?」

さわ子「私は竹達産の物とは違うって言っただけで、誰も劣っているなんて言ってないわよ」

唯「そ、それって……」

さわ子「確かに、天然物は自然で育まれた力強さを感じる
     でも、養殖物は養殖物で、その育成者の優しさがひしひしと伝わってくる」

さわ子「あなたも、その真鍋博士もあずにゃんを愛する気持ちは誰にも負けない」

さわ子「そんな想いがこの養殖あずにゃんを繊細で、そしてここまで美しく育て上げることが出来たのよ」

さわ子「この美アズ倶楽部の主宰である山中さわ子が、その本あずにゃん養殖を全面的に支援させていただくわっ!」

唯「ほ、本当ですか!?」

さわ子「ええ、自分で言うのもなんだけど、私がそう言ったからには他のあずにゃん界の人間も賛同してくれるはずよ」

唯「あ、ありがとうございます!」

憂「わ、私、和ちゃんに知らせてくるね!」

律「良かったですね! 唯さん!」

さわ子「さぁ、わかったでしょ。この店は元のあずにゃん溢れる日本に戻そうと
     がんばっているんだって。だからもうあなた達の出る幕は無いのよ」

「Oh……そうですか……」

「それハ困った話デスネ~」

「あずにゃんにハ ずっと絶滅寸前デいてモラワナイト」

「我々ノお仕事無くなっちゃいマ~ス」

澪「な、何を言って……」

「そういう意味デモ このshopとあずにゃん養殖の設備は壊しておかないとデスネ~」

さわ子「やっぱり、あなた達……!」

「環境保護ビジネスはちょろいモンデスからネ~」

律「こ、このひとでなし!!」

「あなた達ガ何と言オウと世界でハ我々が支持サレテいるのデ~ス!」

「ここで養殖サレているあずにゃんは天然ノあずにゃんとシテ我々が保護シタと
 世界ニ公表スレバ何も問題ありまセ~ン」

紬「ひ、酷い……」

「ソンナ我々ノ本性を知ッテしまったあなた達ニモ ここで消えてもらいマ~ス」

律「なっ!? あいつら拳銃持ってやがる!!」

「手始めに、ソコの眉毛のladyヲ血祭りデ~ス」

紬「!?」

澪「ムギッ!!」

「死ヌdeath!」ズッキューン!!

アメ梓「ムギチャン! アブナイデス!」ダダッ!!

紬「……!!」

アメ梓「ウグゥ!?」

「き、急ニ 何かガ飛び出シテ来たデス!」

澪「あ、あのとき捕まえたアメリカあずにゃん、もとい中野がムギの盾にっ!?」

紬「ろ、ロッキー!!」

律「ロッキーって……ムギ飼ってたのか!?」

アメ梓「ムギチャン……ブジデスカ……?」

紬「ええ、私は大丈夫よ! だけどロッキー……あなたが……」

「なっ!? ナゼここにアメリカあずにゃんガッ!?」

アメ梓「ムギチャンハ……コンナワタシヲカワイガッテクレタデス」

アメ梓「三日三晩ムギチャンのオウチの玄関前で絶エ間ナク呻き声を上げてたワタシを
     フカフカ絨毯ノお部屋デ飼ッテクレタデス!」

紬(それは仕方なくよっ!)

澪「そんなことされちゃ飼わざる得ないだろ……」

アメ梓「ニポンジンはトテモ優シイ」

アメ梓「ケド ソンナ優シサにツケコンデ 文化マデめちゃくちゃニシヨウトシテイル
     ソンナアナタ達コソガ環境ヲ喰い物にしている最低野郎デス!」

「減らず口ヲ……外来種ノくせに……」

アメ梓「ワタシはアメリカあずにゃんダケド ニポン産まれヨ!
     コノ国ハ あずにゃんと共にイキテル!」

和「唯っ! さっき銃声が聞こえたわよ!」

憂「お姉ちゃん! 無事!?」

和「お巡りさん! こっちです!」

「や、ヤバイデス! ココハ一旦ずらかるデス!」

唯「和ちゃん!」

和「よかったわ、憂からアズ・シェパードって聞いて一応警察を呼んどいたのよ」

憂「お姉ちゃん! 怪我はない!?」

唯「私たちは大丈夫だけど……」

紬「ロッキーが、ロッキーがっ!」

和「大丈夫よ。中野にもなったアメリカあずにゃんはその鋼鉄のボディで弾丸なんて屁でもないわ」

アメ梓「フンッ!」ポロッ

澪「ほ、本当だ……。体にめり込んでいた銃の弾を弾きだしたぞ……」

アメ梓「アンナノハ 蚊ニ刺サレタ程度デス」

紬(やっぱり恐い……)

さわ子「あなたが真鍋博士ね」

和「初めまして」

さわ子「養殖あずにゃん技術の確立……見事だわ」

和「ありがとうございます。でも、私一人ではどうすることも出来ませんでした」

和「唯と憂の協力があってこそです」

憂「和ちゃん……」

唯「よかったね、よかったね和ちゃん!」

さわ子「それで、これからどうするつもりなの?」

さわ子「あずにゃんを養殖していたからにはここで終わりなわけないわよね?」

和「もちろんです。養殖あずにゃんの第一世代を野生に放す目処は立ちました」

和「今ここで育てているあずにゃんなら、きっと野生の環境でもやっていけるはずです」

唯「じ、じゃあついに……」

和「だけど、さっきその許可を竹達保護区に申請に行ったんだけど、追い返されちゃったの」

和「そんな訳のわからないものと貴重なヤマトあずにゃんとを一緒にするわけにはいかないって」

和「私の計画はまず養殖あずにゃんを自然に還すこと」

和「だけど、それを認めてもらえない限りはスタートラインにも立てないわ」

さわ子「それは私に任せてもらえないかしら?」

さわ子「権力っていうのはこういう時に行使するものよね」

和「ご迷惑じゃありませんか?」

さわ子「いいえ、こんな素晴らしいあずにゃんですもの
     こんな時に、この美アズ倶楽部が動かないとあっちゃ名が廃るわ!」

和「あ、ありがとうございます!」

澪「一件落着……だな」

律「ああ……」

アメ梓「ムギチャン お腹空イタデス」

紬「え、ええ……後でね……」

律(空気読めよ……)



 そして数日後… 竹達あずにゃん特別保護区

和「何から何まで、本当にありがとうございます」

さわ子「いいのよ。でも天然あずにゃんと養殖あずにゃん、上手くやっていけるかしら?」

律「転校初日って感じですもんね」

澪「なんとか仲良くやってほしいよな」

唯「それはあずにゃん次第だよ」

憂「ほら、あずにゃん。あっちに仲間が沢山いるよ」

養殖梓「は、はい」

アメ梓「ウガー!」

養殖梓「!?」ビクッ!!

紬「こら! ロッキー! 脅かしちゃ駄目じゃない!」

アメ梓「ジョウダンデスヨ ムギチャン」

律「なぜ連れてきた」

天然梓「?」チラッ

和「不思議がってこっち見てるわね」

養殖梓「ううっ……」ビクビク

唯「あらあら? 恥ずかしがりやさんだなぁ。私たちの陰に隠れてちゃだめだよ」

和「あなたは帰るべき場所に帰るのよ」

天然梓 トテトテ

憂「あ、こっちに来た」

天然梓「行こ」

養殖梓「で、でも……」

憂「いいんだよ」

唯「行っておいで。あずにゃん」

養殖梓「……」

養殖梓「……はい!」

さわ子「例え人間の手が加えられたものであっても、それが自然に受け入れられれば
     立派な自然の一部になるのよね」

和「人間だって、自然の一部なんですから」

唯「ううっ……元気でね……あずにゃん……」

憂「お姉ちゃん泣かないで……お姉ちゃんが泣いちゃったら……私も……」

澪「皆さん……」

紬「家族みたいなものだったんですものね……」

アメ梓「イイハナシデスネー」

律「お前もう黙ってろよ」


養殖梓 クルッ

さわ子「あ、ちょっと、こっち振り向いたわよ」

養殖梓「今まで育ててくれて、ありがとうございましたー」

養殖梓「私はここのあずにゃん達と生活していつか子を産み育てます」

養殖梓「その時は、きっとまた皆さんのところに挨拶へいきます」

養殖梓「だから、その時までお父さんお母さん、そして叔母さんも元気でいてください」

唯「あずにゃんも、あずにゃんも元気でねー!」

和「皆、この子を頼んだわよ!」

憂「必ずまた会おうねー!」

養殖梓 ペコリ タタタ…

澪「行ったな」

律「あいつなら立派にやっていけるさ」

アメ梓「デハ ワタシモ」

紬「戻ってらっしゃい」


さわ子「春はあずにゃんと一緒に寝坊して
     夏は冷やしあずにゃんで涼を取り
     あまり上手くはないあずにゃんの合唱で秋の夜長を過ごし
     冬はこたつで一緒にあったかにゃん」

さわ子「そんな古くからの日本の四季の風景が蘇る第一歩に、私は今立ち会っているのね……」

和「ほんのまだ最初の一歩ですけどね」

律「あのー、ところで、さっき別れ際にあのあずにゃんが言ったことですけど」

澪「お父さんとお母さんと」

紬「そして叔母さんって」

律「あれって唯さん憂さん和さんのことを言ったわけですよね?」

アメ梓「イッタイ誰ガ ドレニ当てハマルンデショウネ」

和「……」

憂「……」

唯「さぁ……」

 叔母さんだったら嫌だなぁ……と思う3人だった



  おしまい



最終更新:2011年03月09日 03:47