そして翌日

憂「いいですか、こうやってたい焼きをこのロープに結んで……」

紬「ふむふむ」

憂「あとは、その辺に放置しておけば、そのうちあずにゃんが喰い付いてくるので
  そしたら、一気に引っ張っちゃって下さい」

紬「わ、わかりましたっ!」

澪「たい焼きを餌にするなんて初めて聞いた……」

律「私が子供の時はその日に家で出たおやつを餌にして使ってたよ。クッキーとか」

澪「私もそうだよ。それでも結構捕まえることできてた覚えがあるけど」

唯「たい焼きは喰い付きが違うからね~」

紬「あっ!? なんか引っ張られてる!」

唯「って言ってる間にさっそくだね!」

澪「こんなに早く!?」

律「たい焼きすげー!」

憂「紬さん、一気に手繰り寄せて下さい!」

紬「は、はいっ!」グググッ!!

澪「そんなに強く引っ張って大丈夫なんですか?」

憂「もうたい焼きしか目に入ってないので、どれだけ引きずられようが
  たい焼きを死守するために絶対に離さないんですよ」

律「逆に素早くしないと食い逃げされるってことですね」

憂「そういうことです」

紬「き、来た!」

憂「今です! 優しく抱きしめて『いい子いい子』をして下さい!」

紬「いい子いい子」ナデナデ

梓 ホワ~ッ

律「おみごとっ!」

澪「憂さんの教えも適格で、さすがだと思わされるな」

紬「わ、私捕まえちゃった! 初めてでこんな立派なあずにゃん捕まえちゃった!」

唯「おめでとう、ムギちゃん」

紬「はい! ありがとうございます唯さん」

憂「まぁ、厳密に言うとこれはあずにゃんじゃないんですけどね」

紬「えっ? どういうことなんですか?」

憂「一般的にあずにゃんと呼ばれるのは体長が150センチメートル前後のものを言うんです」

憂「小さい物から、ゴキ、コアズ、あずにゃん、アズ、中野と呼び方も変わるんですよ」

律「へぇ~、まるで出世魚みたいなんですね」

唯「きっとりっちゃんや澪ちゃんが子供の頃に捕まえていたっていうあずにゃんは、ゴキかコアズだったんじゃないかな」

紬「じゃあ、これは……」

憂「目測ですけどこれは余裕で190を超えているのでもう立派な中野ですね」

紬「なんだか残念……」

律「でも、よくこれだけの物をあれだけの速さで引っ張れたもんだな……」

唯「それに、ウチで出してるあずにゃんと、その中野にはもう一つ大きな違いがあるんだよ」

澪「唯さんの店で出してるあずにゃんとの大きな違いですか?」

律「う~ん……。そう言われればなんか違うような……」

紬「おさげが唯さんのお店で出されたあずにゃんよりも大きい気がする……」

憂「そうなんです、それは外来種のアメリカあずにゃんなんです」

唯「ウチで出してるのは在来種のヤマトあずにゃんなんだよ」

律「確かに、唯さんのお店のあずにゃんと比べるとこのあずにゃんは彫りが深くて
  体も異様に筋肉質ですね」

澪「どことなくアメコミっぽいよな」

紬「唯さんのお店のあずにゃんはもっと繊細な感じ」

唯「そう、私がヤマトあずにゃん。一般的に本あずにゃんと呼ばれるものにこだわる理由はそこなんだよ!」

唯「だけど、最近じゃ日本の固有種である本あずにゃんの数も減ってきててね……」

憂「あずにゃんって言えば世間ではアメリカあずにゃんを指す言葉になっちゃったもんね……」

律「なんでそんなに日本の固有種であるヤマトあずにゃんが減っちゃったんですか?」

澪「ああ、私も気になってたところなんだ。アメリカあずにゃんがこれだけ蔓延ってるのに
  なんでそのヤマトあずにゃんだけが減っちゃうようなことになったんです?」

唯「元々はねヤマトあずにゃんだって今のアメリカあずにゃん位の数がいたんだよ」

唯「だけど、世界にあずにゃんを冷やして罵られるっていう日本独特の文化が知れ渡ってね……」

憂「最初のうちはその国々で捕れるあずにゃんを冷やしていたんですけど」

憂「ここ数年日本の固有種であるヤマトあずにゃんの質が良いと知った世界各国の人が大挙して
  ヤマトあずにゃんの乱獲を始めちゃったんです」

唯「日本政府もまさかそこまで数が減るだなんて思いもしなかったんだろうね。
  それが商売になると気づくと国で積極的にヤマトあずにゃんを売り始めた」

唯「だけど、予想以上の乱獲とその代替え品として飼育しようとしていたアメリカあずにゃんが逃げ出して
  体格で劣るヤマトあずにゃんを駆逐し始めた。気づいたときにはヤマトあずにゃんの数は激減。
  今じゃ竹達市の一部の特別保護地域で許可のある者のみが決められた数を捕ることが許されるだけになった」

憂「その国からの捕獲許可を貰って本あずにゃん捕りを認めてもらっているのが私なんです」

律「そんなことが……」

澪「だからあずにゃんは竹達産の物に限るって言われているのか……」

紬「でも、その外国の人の気持ちもわかる気がする……」

唯「……」

紬「私も、初めて冷やしあずにゃんを体験した感動はたぶん一生忘れることが出来ないわ」

紬「だけど、もし私の冷やしあずにゃんデビューがこのアメリカあずにゃんだったら
  そこまで感動してなかったかもしれない……」

紬「だって、あまり可愛くないし……」

アメ梓「fuck」

紬「唯さんのお店で出された本あずにゃんだったからこそ、またあずにゃんに会いたいって思ったし」

澪「そうなんだよな、だから私も唯さんのお店のあずにゃんが忘れられなかったんだ」

律「けど、そんな本あずにゃんも数が少なくなってたんだな……」

澪「まさか、いつの日かこの日本から本あずにゃんの姿が消えるなんてことも……」

和「そんなことはさせないわっ!」

律澪紬「!?」

唯「あ、和ちゃん!」

和「まったく、今日はあなたの店がお休みだから例の件で顔を出すって言ってたでしょ」

和「それをこんなところでアメアズ捕りしてるだなんて……」

唯「あ! そうだった! ごめん和ちゃん、忘れてたよ。エヘヘ」

律「あ、あの~唯さん。こちらは……」

唯「紹介するね。私の幼馴染の真鍋和ちゃん」

和「よろしくね」

唯「こっちの三人は私の店の常連さんで……」

澪「まだ、2回しか来店してないですけどね……」

唯「まぁまぁ、どうせこれから常連さんになってくれるんでしょ?」

律「はぁ……まぁ……」

 ・ ・ ・ ・ ・

紬「へぇ~、和さんってあずにゃんを研究していらっしゃるんですか」

和「ええ、そうよ」

和「ツインテール目 後輩系科 歌はそれほど上手くない属 学名ヤッテ・ヤルデス」

和「これがあなた達があずにゃんと呼んでいるものの正式名称よ」

律「なんだか学者って感じだな」

澪「唯さんの周りにはあずにゃんに関するスペシャリストが憂さんだけじゃなくってもう一人いらっしゃったんですね」

唯「あずにゃん捕りに最適な餌はたい焼きだって発見したのも実はこの和ちゃんなんだよ」

和「捕まえてすぐに頭を撫でてやると大人しくなるのを発見したのは唯だけどね」

和「それに1万倍と言われるヤマトあずにゃん捕りの国家資格の試験を通った憂がいてこそ、それが生かされるってものよね」

憂「私は、お姉ちゃんがあずにゃん専門店をやりたいって思いを実現させてあげたい一心だったから」

紬「本あずにゃん捕りの国家試験ってそんなに狭き門なんだ……」

律「すげーな……」

唯「昔はここら辺でも本あずにゃんが捕れたんだけどね」

和「それこそ湯船を一杯にするほどね」

律「へ~」

澪「本当にここ何年かで本あずにゃんは激減しちゃたんですね」

和「今は情報化社会だから、本あずにゃんが良いっていう話はすぐ世界中に広まったわ」

憂「ほんの十数年前まではあまり上手くないけど癖になりそうな歌声の合唱が日本中で聞けたんだけど……」

和「今じゃ『~デス』って片言の鳴き声しか聞こえてこないわ」

紬「そう考えると人間って恐ろしいのね……」

澪「ああ、一つの種族を絶滅の危機に追い込むまでにそう時間を必要としないなんて……」

律「私たちも考えさせられるよな……」

唯「そうやって本あずにゃんを絶滅の危機から救おうとしてるのがこの和ちゃんなんだよ」

和「あ、そうそう忘れるところだったわ。私はそのことであなたの店に用事があったのよ」

和「ほら、もう遊びは終わりよ。帰って研究の続きを……」

唯「ああっ!? 待って和ちゃん! そんなに引っ張らないで!」

憂「ふふっ。和ちゃんったらあずにゃんのことになるともう夢中になっちゃうんだから」

律「あ、あの! 私たちはどうすれば……」

唯「ごめんね、今日はここまでってことで」

憂「また、店にいらして下さい」

紬「はい、必ず!」

澪「今日は色々とありがとうございました!」

唯「じゃあ、またね~」

和「唯走るわよ!」

唯「ええっ!? ま、待ってよ和ちゃん!」


律「なんか、私たちの知らないことばっかりだったな」

澪「こんなに身近なものなのに、まさかそんなことになってるなんてな……」

紬「だけど、知れて良かったわ」

律「だな」

紬「きっとこれは日本の誇るべき文化だと思うの。だからそれを守るのは私たち日本人の役目」

律「だけど私たちの周りの人もあずにゃんのことなんてそれほど気にしてないんだろうな」

澪「私、今日聞いた話ブログに書こうかな……」

紬「うん、それがいいと思う」

律「まず知ってもらうのが一番だよな」

紬「ところで……」

澪「ん? どうしたんだムギ」

紬「今日捕まえたアメリカあずにゃんどうしよう……」

アメ梓「飼ウガイイデス」

紬(恐い……)

律「さすがに190センチオーバーの生き物を飼うのは……な」

澪「憂さんも言ってたけどこれはあずにゃんじゃなくて中野だもんな」

アメ梓「ドウセナラ 金持チニ 飼ワレタイデス」

澪「可愛くないな……」

 ・ ・ ・ ・ ・

────とこのように、夏の到来を告げる冷やしあずにゃんは
今や輸入物のあずにゃんに頼っている現状があるのです。

皆さんはこのことをどうお考えでしょうか?

もしお近くにお住みなら、唯さんのお店で出されるあずにゃんをぜひ体験してもらって
本あずにゃんの素晴らしさを知ってもらうのが一番早いと思います。

最後に、今日捕まえたアメリカあずにゃんは結局リリースしました。
だけど、友人の家までこっそりと付いてきてたようです。
窓の外を見るとじっとこちらを見ていて恐いと友人は言っています。
この逞しさがこれだけ繁殖する力になったのかもしれません。


「ほほぅ……」

「いつも通りあずにゃんで検索を掛けてみたらこんなページが」

「本あずにゃんを出す店か」

「これは行ってみる必要がありそう……」



 数日後

  ガラガラ

唯「へいらっしゃ~い」

律「ちわ~っす」

唯「最近毎日来てくれてるね~」

紬「ここのあずにゃん知っちゃったら他のところではもう満足できないので」

唯「嬉しいね~」

律「隠れ家的であんまりお客さんがいないってのも魅力の一つだしな」

さわ子「……」

澪「お、おい、律。今日はお客さんいるからあんまり騒ぐなよ」

律「おおっと、あはは、まさか先客がいるなんて。すみません騒がしくしちゃって……」

さわ子「構わないわよ」

紬「珍しいですね、私たち以外にお客さんが入ってるなんて」

澪「ちょ!? ムギもその言い方は失礼だぞ」

紬「あ、ごめんなさい……」

唯「いいよいいよ、本当のことなんだから」

律「もしかして、澪がブログにこの店のこと載っけたからそれを見て来た人だったりして」

唯「それだったら澪ちゃんに宣伝料払わないとねぇ」

澪「うぅ~ん……」

紬「どうしたの? 澪ちゃん」

澪「あの人どこかで見たような……」

さわ子「店主、ちょっと聞きたいことが」

唯「あ、はい。なんですか?」

  ガラガラ

「ここで本あずにゃんを出シテいると聞いてきたのデスが~」

唯「へいらっしゃ~い。すみませんお客さん、ちょっと待って下さいね」

さわ子「ええ」

紬「なんだか繁盛し始めたわね」

澪「しかも外人だ」

律「ワールドワイドな店になってきたなぁ」

「本あずにゃんを出すというのはreallyのことデスか~?」

唯「オー、イエース」

「ほうほう、ナルホド~」

律「やっぱり外人も本あずにゃんには目がないんだな」

「残念デスガ、このshopには潰レテもらいマ~ス!」

唯「オーマイガッ!!」

「我々ハ あずにゃん保護団体のアズ・シェパードデ~ス!」

律「な、なんだ!?」

「個体数が著しく減ッテいるヤマトあずにゃんをこうやって商品にシテ
 money儲けをするなんて、ふてぇ野郎デ~ス!」

「こんなshopはメチャクチャにしてやるデ~ス!」

唯「ノォォォォォォォッ!!」

憂「オネーチャン! ワッツハプン!?」

澪「なぜ憂さんまで英語!?」

律「アズ・シェパードって奴らがいきなり」

憂「くっ! また厄介な」

紬「ご存知なんですか?」

憂「竹達保護区でもあずにゃん捕りを妨害する、私たちにとってはテロリストみたいな奴らです!」

「このshopのウラにあずにゃんが沢山居るはずデス!」

「ゼンブ逃がすデス!」

「逃ガス前に セッカクだからぺろぺろしておくデス!」

唯「や、やめて! そっちには入らないで!」

「問答無用デ~ス!」

さわ子「騒ぐな! 外人風情が!」

「!!?」

「な、なんデスか、アナタハ……」

さわ子「そもそもあずにゃんが減った原因はあなた達外人の乱獲も原因の一つでしょうが!」

さわ子「日本人は昔からあずにゃんと共に四季を過ごしてきた。言うなれば文化なのよ」

さわ子「それを後から土足で踏みにじって……恥ずかしいとは思わないの!?」

「グヌヌ……」

律「す、すごい……」

紬「一喝で黙らせた……」


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